創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第2話(後編表記すみません)

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匿名ユーザー

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原作 PBM!×廻るセカイ andmore…

         
                                  前篇のあらすじ

                           平々凡々な、穏やかなる日常を過ごしている少女、神守遥。
                           代わり映えの無い、淡々と進む毎日の生活に、遥は多少飽いていた。
                                                     何か、日々が変化する大きなきっかけが無いかと。 
                  そんなある日、友人から誘われて映画を見に行った際、遥は空から巨大な物体と……
                          それに乗る少女が落ちて来るのを目撃してしまう。       
              
            気のせいだと自らに言い聞かせ、その出来事を忘れようとする遥だったが自宅に帰る間際、まさかの再会を果たす。
                          
                さっき見かけて夢だと信じていた、目の前で落下してきた少女が自宅の玄関前に転がり込んできたのだ。   
                    
                   更に驚くべき事にその少女は、身長と胸以外、自分と全く同じ容姿をしていた。
                       少女は自らを一条遥と名乗り、遥の事を探していたと告げた。
                     そして続く様に、自分はこの世界の人間ではないと、一条は言い放った。
              全く状況が飲み込めないながらも、一条とその相棒であり、杖へと変身している巨大な物体、リヒタ―の存在を受け入れる遥。
                       
                  一方その頃、遥が知らない所で不気味な影がゆっくりと蠢いていた。その時を、待ちかねている様に。

  
                                   ××××××  

雨後の筍の様に、無駄に乱立されては大半が機能していない、大量のビル群の中の一角。

既に数年前から工事が中止しているのであろう、埃が充満しており、不快感を催す匂いに塗れた床のコンクリートや、茶色く錆びれて、今にも落ちてきそうなパイプが天井を血管の様に這っている。
本来は小会社や店舗が入り、賑わう筈であった各フロアはがらんどうで、凄ましい侘びしさを感じさせる。コンクリートといった工事されていない部分が露わになっている分余計に。
この建物は俗にいう廃墟、もとい、業者から完全に見放された、廃ビルと呼ばれる建物だ。
誰にも気に止めてもらえず、まるで時代から取り残されている様なその佇まいは、哀愁を覚える。

そんな廃ビルの六階のフロアで、真下で忙しなく、止まる事無く動き続ける人々の群れ、群れ、群れを冷やかな目で一人の男が見下している。
一見すると気障極まりない、しかしその男が着ていると不思議な事に絵になる、汚れの無い上下真っ白なスーツに、鮮血の様な真紅のジャケットが映える。
その服装も相まって、白スーツの男はとにかく浮いていた。上手く形容できないが、最も的確な表現があるとすれば浮世離れしている、だろうか。
この世の人間では無い様な、そんな不気味な威圧感と迫力に満ちている。

白スーツの両目は何もかも映している様に見えて、何も映ってはいない。

「待っているだけで良いのか? こちらから仕掛けなければ奴は出てこないんじゃ」

白スーツの近くで、丸太の様に太い、というより極太な両腕を組んだ大柄の男が、白スーツにそう聞いた。
その男が異様なのは両腕だけでは無い。腕から足、胴体まで全ての部分が筋肉によって盛り上がっており、筋肉の結晶体と例えても良い程に、筋肉しか無い。
どれほど鍛え抜かれているかは想像出来ないが、想像を絶する様なトレーニングを乗り越えた末の賜物であろう。
筋肉男の質問に、白スーツは無言のままだ。無言のまま、人々を見下し続ける。

「奴がこの世界にいるからと……私達に召集を掛けたのは君だぞ。まさか観光気分ではあるまい?」

筋肉男の反対側で、右目に装着されたスコープを、瞳孔の様に大きく収縮させながら男が、白スーツを見据えてそう呟いた。
男は、右目のスコープもさる事ながら、若者にも仙人にも見える年齢が計り知れない容姿と、口に出さずとも、百戦錬磨である事を表現する様に尖ったオーラが印象的で筋肉男と同じく、只者ではなさそうだ。      
スコープ男は中身は一体何なのか、自分の身の丈以上に大きなギターケースの様なケースを肩に掛けている。スコープ男の言葉に筋肉男がうむ、と頷いて同意する。

「あの男がこの世界に居るのは確定しているのだろう。ならば、こちらから先手を打っておいた方が」
「まだその時じゃない」

白スーツが筋肉男の提案を、即効で否定する。即座に一蹴されてヒクヒクと顔を引きつらせる筋肉男。
スコープ男が二人のやりとりを見て、笑っているのか、それとも呆れているのかよく分からないがニヤリと口元を吊り上げた。

その折、柱に寄りかかり、静かに話を聞いていた人物が白スーツの元へと歩いてくる。
その人物は、やけにスタイルが強調されている、というかピッチリと肌に密着しているライダースーツを着ており、毒々しいまでに紅い口紅を付けている。
筋肉男とスコープ男ほどのインパクトは無いが、纏っているオーラはやはり、普通の人間ではない。

その人物、否、その女性は、白スーツに声を掛けた。

「けどね、エビル。何が言いたいのかは分かるわ。だけどね」

白スーツが顔だけを僅かに、女性に向ける。女性は二言を発する。

「幾らここで待ってても、来ないモノは来ないわよ。あの子だって人間なんだから、私達から逃げも隠れもするんじゃない? だから私達から攻める他、無いと思うの」

女性の言葉に、筋肉男が力強く頷き、言う。

「ジャンヌの言う通りだ! やはりここは男らしく」

「却下だ。俺達からは動かない。絶対にな」

またしても、筋肉男の発言が一蹴される。
筋肉痛になるのではないかと思う位、顔を引き攣らせる筋肉男と、白スーツがそう返事する事を予想していた為か、氷の様に冷たい微笑を浮かべる女性。
そして無言のまま、事態を静観しているスコープ男。白スーツは前を向いて再び視線を人々に向ける。向けながらボソッと、しかし三人に聞こえる様に言った。

「……奴は、こちらから探っても現れはしないだろう」

そこで一息吐き、白スーツは言葉を続ける。

「奴が本当に姿を現す時は――――他人が、どうする事も出来ない窮地に陥った時、だけだ」

「……何故、そうだと分かる」

スコープ男の質問すると、白スーツはゆっくりと振り向きながらスコープ男、否、三人に返答する。

「何故かだと? 決まっているだろう」


「奴は、ヒーローだからな」

haru×HARU

                             
                                 the Strange dream

                                    後編


                                     上



                                   ××××××  



時刻を設定された目覚まし時計が、朝の静寂を蹴散らす、けたたましいベルの音を部屋中に響かせる。
遥は懸命に起こそうとする目覚まし時計から、朝の安眠を妨害されぬ様シーツに深く潜り込む事で、必死な抵抗を続ける。
今日は休日だという事を考慮していつもより寝ていたい、というか朝寝坊したいのだが、日々の規則正しいリズムで生活している為だろう。体の方が無意識に目覚めようとしている。
目覚まし時計による睡眠妨害と、目覚まし時計が鳴ったら起きろという体に刻み込まれた生活習慣。この二つが混ざり合った結果、遥は渋々ベッドから起き上がり目覚める。

正直に言えばまだまだ寝ていたい、が、どうしても日々のキチンとした生活習慣のせいで早起きしてしまう。
一回くらい、昼頃までぐーたらと眠っていたい。だが、母親からしっかりと躾けられた結果、どれだけ遅く起きようとしても、八時には必ず起きる体になってしまった。
まぁ、体に良いというか、早起きは三文の徳という諺がある様に、生活リズムが保たれているから生まれてこの方病気になった事が無いのだが。
寝ぼけ眼を擦りながら、遥はベッドから亀みたいに鈍くのっそりのっそりとした動きで降りる。

「おはよう。神守さん」

ちらりとへそを見せながら、元気良くキビキビとラジオ体操をしている少女が、ベッドから降りてきた遥に朝の挨拶を交わした。
遥の視界は寝ぼけている為だろう、ぼんやりとしていて少女の顔が見れない。目を何度か擦り、次第に視界がクリアになってきた。

次の瞬間、遥は目ざまし時計に負けない位、けたたましく素っ頓狂な大声を出して驚く。ついでに盛大にずっこける。

「神守さん!?」

「わ、私が……私がもう一人……」

起床して早々、遥は驚きのあまりに失神して、再び眠りにつき、かける。と、そうなる直前。

そういえば……と、昨日の記憶が一瞬でフラッシュバックする。
昨日、まるで夢の様な出来事に立て続けに遭遇、もとい襲われたのだ。
友人と映画を見ていた途中に入ったトイレで見た、空から落ちてくる謎の物体。その物体に乗っていた、自分と身長と胸以外、何から何までそっくりな少女。
その少女が自らを一条遥と名乗った事。パートナーにロボットに変身する喋る杖、リヒタ―・ペネトレイタ―を連れている事。
そして、一条遥……一条さんとリヒタ―が、別の世界から来た、という事。

何もかもを思い出して、遥はずっこけた時にぶつけたお尻を擦りながら立ち上がった。
そうだった。今目の前にいる自分にそっくりな少女は一条遥といい、全く別の世界から来た私という事を忘れていた。
色んな並行世界……とやらを旅しているらしく、そのせいで凄くお腹が空いていた様なので家に引き入れ、ご飯を作ってあげて泊めてあげたんだ。それで……。
眠気が覚めていき、遥はいつもの冷静さを取り戻す。と共に、今、自分がどれだけ不可思議な状況に置かれているのかを理解し始める。

「何か驚かしちゃったみたいだけど……お尻、大丈夫?」

心配そうに遥を見下ろしながら、一条がそう言った。
遥は大丈夫だという事を示す様に、オーバーアクション気味に首を大きく縦に振って返す。

「ごめん、大丈夫。朝だからちょっと寝ぼけちゃってて……」
「いきなり凄い顔して驚く物だからびっくりしちゃったよ。何ともないんだね?」
「うん。心配させてごめんね」
「良かった……」

一条が遥の返事に安堵したのか、柔らかい笑みを浮かべる。こうして見ると、本当に私みたいだ、と遥はしみじみと思う。
並行世界の私なのだから当たり前なのだが。あれ……何か混乱する。

<大丈夫ですか? マスター、神守さん>

一条が寝てる時にどこに居たのか、リヒタ―が二人の元へとフワフワと降りてくる。
そういえばこのリヒタ―という存在も、遥にとってはこの不可思議な状況を嫌でも肯定させてしまう一因でもある。

「大丈夫だよ、リヒタ―。ありがとう」

そう言いつつ、遥は立ち上がる。

誰かの腹の虫が、よほどお腹が空いているのか、豪快に鳴いた。遥と一条の間に、言い知れない妙な沈黙が流れる。
数秒ほど沈黙していると、その腹の虫の飼い主である遥が、両頬をほんのりと紅く染めながら、コホンと咳払いをした。
そして一条に、少し恥ずかしそうに言った。

「……朝ご飯にしよっか。一条さん」

その言葉に、一条は遥を見上げて、大きく頷き答える。

「はい!」



                                   ××××××  


遥が普段通い、勉強し、部活を嗜み、級友たちと時間を共有している高校、揺籃二高。
普段は生徒達によって煩い位賑わっているのだが今日は休日でかつ、ようやく夜が明けた朝六時だ。校内は鳥のさえずりが響くほどに、静寂に満ちている。
まだ朝の部活が開始されず校門が解放されない為、生徒達が入れない事もその静けさの一因だろう。
今、学校に居るのは寝泊まりしている用務員以外……と、影が一つ、学校に向かって走っている。

その影は立ち止まり、拳銃の様な物体、というより拳銃その物を掲げると、その拳銃の引き金を引いた。
すると拳銃の銃口からクサビがロープと共に射出され、学校の周辺を囲っているフェンスに引っ掛かる。
影は非常に手慣れた感じでロープを掴むと、フェンス下の壁面へと飛び移る。そしてロープを伝いながら登っていき、フェンスを蹴り上げて軽々と飛び越えると、校内に侵入する。

拳銃を腰元にしまい、音も出さず迅速に、影はある場所へと向かう。今影が向かっている方向には、弓道部が部活で使っている、校舎から大分離れた場所に位置する弓道場がある。
数十年も前に建設され、屋根や壁面が年月を経ている故に古ぼけてはいる、がまだまだ現役な弓道場の入口には、如何にもなデザインの南京錠がチェーンと共に掛けられている
影は一応、自分以外の人間が居ないかを用心深く注意しながら、入口へと一歩、一歩、近づく。

近づきながら影は、羽織っているロングコートのポケットから針金の様に細く小さい鉄で出来た棒を取り出した。しかし只の鉄の棒では無く、先端に何かしら細工が見える。
影はその鉄の棒を南京錠に差しこんだ。すると数秒も経たずに、南京錠はチェーンと共にその場にガラガラと落ちた。
どんな手品を使ったのか、影はいとも簡単に厳重である筈の南京錠を解錠してしまった。

抜き足差し足忍び足で素早くその影――――鮮明な、紅い髪の毛が印象的なその男は、弓道部員達が使用している更衣室へとそそくさと入っていく。
しばらくロッカー間をウロウロしているとふっと、ある部員が使っているロッカーの前に立ち止まった。そして南京錠を解錠した時と同じく、鉄の棒を差し込み、解除。

ロッカーを開くと、その部員が使っているのだろう、愛用の弓が収納されていた。赤毛の男は背負っている、中身が入っていない為ぺったんこな、皮で出来たケースを床に置いた。
そしてその弓と、ロッカー近くに置かれている、矢が大量に入っている筒から数本矢を取り出し、ケースの中へと入れる。ファスナーをしっかりと上まで締めて、背負い直す。
どうやら用は済んだ様だ。赤毛の男は近くの窓ガラスのドアを開き、弓道場を後にしようとした。その時だ。

「……あんた、泥棒か?」

背後から声が聞こえ、赤毛の男は顔だけ振り向く。

頬のたるみや目尻の多さ、しょぼくれた雰囲気から察するに、かなりの年配であろう用務員が、窓から逃げようとしている赤毛の男に対してそう言った。
赤毛の男は用務員の方をじっと見て動かない。用務員もこういった事態は初めてなのか、呆然とつっ立っていて、赤毛の男を眺めているだけだ。
すると、赤毛の男は溜息を吐き、用務員に親指と人さし指を合わせた右手を、向ける。

「盗むんじゃない、ちょっと借りるだけだ」
「……何?」
「眠れ」

赤毛の男は間髪入れず、パチン、と指を鳴らした。
男が指を鳴らした瞬間、用務員はその場にバタン、と倒れると心地良さそうにすーすーと寝息を立て始めた。
この弓道場に入る際に手際の良さといい、用務員を眠らせた指パッチンといい、この赤毛の男、少なくともカタギではなさそうだ。

校内に侵入した時と同じく、拳銃を掲げ、赤毛の男はポツリと、独り事を呟いた。


「俺にこういう事やらせんなら、きっちり報酬払えよ、リヒト」


                                   ××××××  


「本当に任せていいの? 一条さん」

意気揚々と、パジャマの袖を捲り、普段は遥が着用しているエプロンを着た一条に、遥は不安げにそう聞いた。
一条は振り返ると同時に遥にサムズアップをして、自信満々に答える。

「任して! 私、料理はすっごい得意だから!」


数分前。朝食を作る為に台所に来た瞬間、一条は遥に、昨日の御礼として朝ご飯を作らせてほしいと頼んできた。
昨日、腹一杯にご飯を食べさせてくれた事へのお礼で、美味しい朝食を遥に作ってあげたいのだとか。
遥自身、一条のお願いを断る気は無く、むしろどんな料理を作ってくれるなと楽しみに思う。
思う、が、冷蔵庫の中に料理を作れるような素材があったかな……と、いう一抹の不安を覚える。確か冷蔵庫にあったのは、昨日一条に食べさせたスパゲティと、サラダに使った野菜くらいだった様な。
というか、今日はその冷蔵庫に入れる食材を買いに行くのだ。だから……と。

一条が遥の元へと戻ってきた。まだ五分はおろか三分も経っていないのだが。
一条は何とも言えない苦笑いを浮かべている。遥の両手には何かが握られており、右手には二人分の食器が重ねられており、スプーンが二つ、入っている。
そして左手に牛乳1パック。脇にはコーンフレークの箱を挟んでいる。

遥は思った。先に私が見てくれば良かったと。しかし今更どうも言えず、遥も一条に合わせる様に、苦笑いを浮かべた。

「……一条さん」
「ごめん、神守さん。その……これしか、台所無かったんだよね。……あとフルーツとか。……あ、じゃあフルーツ持ってこようか」
「フルーツは私が持ってくるね」
「ありがと」


テーブルで二人、向かい合いながら、食器に入れて牛乳を注いだコーンフレークをしゃくしゃく黙々と食べる。
フルーツもあまり多いとは言えず、バナナとブドウとリンゴが少しだけ。ただ、女の子二人には十分な量ではある。
何だか会話の糸口が掴めず、遥も一条も黙々とコーンフレークを食べ続ける。……何か、何か話さなきゃ。
と、遥が口火を切ろうとした手前、一条の方から遥に話しかけてきた。

「何だかんだで美味しいね、フレ―ク」
「……そうだね。何だかんだで美味しいね」

遥は今更かもしれないが、奇妙な気分に囚われる。まるで鏡の中に話しかけているみたいだ。というか、自分が自分に話しかけるってどんな状況だろう。
けれど目の前に居るのは、非常に自分に似てるけど他人、と言うかもっと壮大というか、正直イメージできないが、別の世界から来たという自分自身だ。
最早途方も無さすぎて、遥自身は未だに状況を理解しきれていない。まだ私はベッドの中で夢を見ているのではないか? とさえ思う。
しかし実際に目の前で、その別の世界の私は、私とご飯を食べて私と話しているのだ。軽く頬をつねってみるが、痛い。夢じゃない。

「ねぇ、神守さん」

一条の言葉に、遥はスパイラル化しそうだった思考を一旦打ち切る。考え始めたら頭痛が止まらなそうだし。

「神守さんって学生……だよね? 普段、どんな感じで過ごしてるの?」

興味深々と言った口調で、一条が遥にそう質問する。遥はどんな感じ……? と少しだけ悩むと、答える。

「普通……かなぁ。友達と話したり、勉強したり。そんな感じだよ」
「へぇ~、こう、恋愛だとかそういう事も友達と語っちゃったり?」

並行世界の自分が恋をしているのかと、目を輝かして凄い興味深々に答えを待つ一条に、遥に惑った様子の微笑を浮かべる。
浮かべながら、ちょっと申し訳無いと思いながら正直に答える。

「れ、恋愛? 恋愛はその……ううん、そういう事はあんまり……」
「……そっか」

ガッカリしているのか、一条のテンションがかなり下がる。遥は一条の反応に妙な罪悪感を抱く。
しかし……恋愛の事なんて、今まで生きていて考えた事……一度や二度はあるけど、そこまで深く考えた事は無い。
今まで目の前に素敵な人が現われなかったって事もあるし、それに恋愛だとかの前にやらなきゃいけない事が沢山あるしで。

「じゃあさ、どんな事話すの? やっぱり勉強とか?」
「そんな感じかな。何と言うか、他愛の無い話ばっかりだよ」
「でも楽しそうで良いな。見てると分かるもん。神守さん、きっと毎日楽しいんだろうなって」
「そうでも……そうでも無いよ。ホントに普通」

ふと、遥は思う。
昨日少し触れたけど、一条が……並行世界の私が、あっちの世界でどんな生活を送ってきたんだろうなと。
一条さんの質問に答えたから、私から質問しても良いよね……と遥は思い、一条に聞く。

「……一条さん。私からも聞いていい?」
「何?」
「一条さんはあっちの世界で、どんな生活を送ってきたの? 出来れば詳しく教えて欲しいな」

遥の質問に、一条はうーむ……、と唸って返答に悩んでいるのだろうか、腕組みして目を閉じた。
そこまで難しい問題を振ってしまったのだろうか? と遥は一条の反応を不安に思う。
が、遥の心配は杞憂だった様だ。一条は腕組みを解くと目を開いてパッと明るい笑顔を振りまきながら、遥に答えた。

「もうすっごい谷あり山ありだったよ! 何から話していいか迷っちゃう位。ね、リヒタ―」

遥に話しかけられて、側を浮遊しているリヒタ―が答える。

<はい。様々な強敵との戦いや困難な旅路、そして非常に個性的な人々との出会いと、色々ありましたね>
「ホントに色々あったね―。特にやおよろずの人達に出会えたのが一番凄かった!」
「やおよろず……? やおよろずってどんな人達なの?」

遥がそう聞くと、一条はやおよろずなる面々について話しだす。その時の一条の顔は、凄く楽しそうだ。

「昨日話したっけ……。私の師匠と、その師匠のパートナーが所属してる何でも屋……みたいな人達でね。
 どんな家事もバッチコイなルガ―さんとか、ツンツンしてるけど、ホントは優しいたまちゃんとか、おっとりしてるけど結構アクティブなまどかちゃん。
 それと、小動物みたいに可愛いリタちゃんとか、ロリコンだけどカッコいい師匠とか素直になれなくて可愛いヘーちゃんとか、後……」

そこで何故か、一条が首を捻る。何か忘れているのだろうか、それが何なのか思い出せない様だ。

「後……何だっけ? リヒタ―」
<すみません、マスター。私もどうも……思い出せません>
「まぁそれはともかく……そういう人達と色んな冒険したの。ホント、どこから話そうか迷っちゃう位」

遥は心の底から、一条の体験談を聞いてみたいと思った。きっと、心躍る様な体験なんだろうな、と。
どんな事を遥に話そうか、リヒタ―と相談している一条の顔は、今までで見た中で一番楽しそうで、それでいて嬉しそうだ。
その中でどれだけ泣いたり、悲しんだり、苦しんだりしてきたんだろう。けど、一条の溢れる笑顔には、それらの辛い過去を思わせる影は全く無い。

……本当はこう見えて、凄く強い人なんだろうな、と遥は一条を眺めていて、しみじみと思う。
私もこんな……こんな気丈な人になりたい。どんな事があっても明るく笑って、軽く乗り越えられる……。そんな人に。
もし、もし一条さんと住む世界を交換したら、私は今より強くなれるかな? と遥は思ったが、一条さんでさえ苦労してるのに、私には無理だ、と考え直してちょっぴり落ち込む。

「っと、ごめん、神守さん。つい、リヒタ―と夢中になっちゃって……」
「ううん、良いの。一条さんとリヒタ―が話してるの、見てるだけで何となく楽しいし」

遥は食べ終わった食器を持って椅子から立ち上がると、一条に言う。

「これ、食べ終わったら買い物行こうよ。一条さん」
「買い物?」
「うん。ほら……」


遥は台所の方向を見つめながら、気まずそうに、言った。

「冷蔵庫の中……何にも無かったでしょ? だから……ね?」

遥の言葉とリアクションに、一条は遥が何を言いたいかを理解する。

「あっ、それで私があっちの世界で体験した諸々は」
「それなら町に向かうまでの電車に乗って話してくれれば良いよ。たっぷり聞かせてもらうからね」
「りょーかい」

あ、そうだ、と遥は食器を置いて両手をパンっと叩いて音を鳴らすと、明るい音色で一条に提案した。

「それと、一条さんが着る服も買わなきゃね。いっぱい」
「え? い、いいよそんな! 私、あの着てきた服で十分だし、それに神守さんの家計に」
「良いの良いの。一条さんも女の子なんだから、少しはオシャレなきゃ。ね、良いよね?」

どうやらこっちの世界の「遥」も、ある程度は強引というか、気が強いらしい。
一条は優しい笑みと裏腹に強いオーラで迫ってくる遥に、仕方なく首を縦に振った。

「……うん。分かった」



                                   ××××××  

都会。

とある八階建て程度の、ビルの一角。
そのビルの屋上には誰も見向きもしない、金融会社の宣伝を謳っている大型看板と、貯水タンクが寂しく存在している。
数年前に飛び降り自殺が起きて以来、社員が屋上に行く事を禁じている為、かつては憩いを演出したベンチも、既に朽ちている。

あらゆる意味で負に満ちているその屋上で、「何か」は静かに座している。

その「何か」とは昨日、酔っ払った青年の命を無慈悲に狩った、あの巨大な物体である。
鈍く光る黄金色には、その青年の血液が、茶色く滲んでいる。青年の数倍も巨大である「何か」が、どうやってビルまで昇ったのかは分からない。
しかし今、その「何か」はビルの屋上でじっと、制止している。空を覆っている灰色の雲から差し込む太陽を背に、日光浴をしているかのようだ。

と、「何か」の背部に位置する二枚の装甲が上昇して左右に分離し、展開する。展開している二枚の装甲は、見ようによっては「何か」から生えている羽の様だ。
その羽の隙間から覗くは、隙間無くビッシリと張り付けられている黒い装甲板。否、装甲板の様に見えるが、その黒い物は太陽からの光を反射している。
「何か」は太陽からエネルギーを得ている、言うなればその黒い物で太陽光を吸収しているの……だろうか。日光浴とは得てして妙である。

と、その「何か」が声を発する。その声は自らが機械である事を証明する様な、全く感情を感じさせない平坦な男の声。

『起動予定時間 30分前後 エネルギー充填率 49%』

『任務再度確認』

『任務 リヒタ―・ペネトレイタ―の』

『破壊』



                                   ×××××× 

「なぁ、シュタムファータァ」

テーブルに肘をついて、俊明は向かい側に座る、美味しそうにパフェを食べている少女に呆れ気味な口調で呼び掛けた。
シュタムファータァと名を呼ばれた少女は、パフェを掬っていた手を止め、俊明の方を見る。
そしてじっと、俊明を見つめたまま、彼の次の言葉を待つ。

「本当に……いるのか? お前が言うその……セカイのバランスを崩すかもしれない、っていう存在は」
「はい。まだ、はっきりとした確信は出来ませんが……」

揺籃市の中央にある都市部、様々なショップや娯楽施設が複合している、ここに来れば大概の暇つぶしは出来ると言われている某大型ショッピングセンター。
そのショッピングセンターにあるお店の一つ、ク―キャットカフェなる喫茶店で、その少年、安田俊明と少女、シュタムファータァは今を過ごしている。

この少年、安田俊明はほんの前まで、遥と同じく、平凡でありふれた、しかし充実している日常を謳歌していた。
だが、目の前に居る少女、シュタムファータァとの出会いで俊明は、危険と恐怖と死が常に付き纏う非日常へと連れ込まれてしまった。

それから幾度か命を危険に曝す出来事に巻き込まれていくのだが、それはまた別のお話。本来主役である俊明とシュタムファータァではあるが、今回限りは神守遥が主人公だ。
俊明は本当に何時死んでもおかしくない状況に居るが、シュタムファータァから離れる気は無い。むしろ、シュタムファータァを自分の力が及ぶ限り、守っていこうと思っている。
その理由としては、シュタムファータァと死線を潜り抜けてきた故の絆の強さの他に、シュタムファータァが持つ、ある秘密の為だが、その秘密の内容は後々。
また、シュタムファータァと呼ぶと一々まどろっこしい為、その後々の時が来るまで今後、彼女に名づけられたもう一つの名前である紫蘇と呼ぶ事にする。

「確信じゃないと困るぜ。……ホントはここのパフェが食べたいだけとかじゃないよな」
「それは違います」

と、俊明の推測を紫蘇は少しムッとして切り捨てる。そしてまた、パフェを一口、二口と食べ始める。

何故、俊明が紫蘇と行動を共にしているかというと。

昨日の夜、馴染みの神社である守屋神社に、俊明は夜遅く、紫蘇から呼び出されたのだ。
紫蘇は俊明に、何か異常を感じる、と伝えた。割かし、そういった感知能力が低い自分でさえ、今セカイに異常を感じるのだとか。
それが何かは分からないが、とにかく頭の中がその事でいっぱいだと。どうしても紫蘇は、その異常の原因を突き止めたいらしい。
そこまで紫蘇が不安に感じるのはどういう事なのかと、俊明は心配して紫蘇にどうしてセカイに異常を感じるんだ? と聞くと、紫蘇は答えた。

勘、と。ハッキリ確信は出来ないが、どうしても勘が告げている、らしい。

そして今日、そんな紫蘇の勘の元、俊明は紫蘇と共に、その異常の原因を探して町に繰り出しているという訳だ。
しかし、その紫蘇が語る異常とやらは全く見つかる気配が無い。セカイはいつも通り、平和だ。
正直俊明は、紫蘇は只単に、そのセカイの異常を口実に、町を廻りたいだけなんじゃないか? と、にわかに思い始めている。

「あっ」

ふと、紫蘇がまずい、ミスったと言いたげな表情を浮かべた。
その様子に俊明が嫌な予感を感じながらも、どうした? と問う。

「シュタムファータァ?」
「ヤスっちさん、ごめんなさい」

「財布、忘れちゃったみたいで」


                                   ×××××× 

視点をビルの屋上から、遥の自宅に戻そう。

居間から遥の部屋に移動した二人とリヒター、というより遥は、大きな鏡台の前で、代わる代わる一条の衣装を替えている。
何となく一条さんに合うかな? と、遥は一条に、昔着ていたが今はお古となった衣服を着させている。一条はと言えば、遥に言われるがまま、着せ替えられるままだ。
さっきまでどちらかといえば引っ張っていた一条だが、今は遥に引っ張られている。

カジュアルな服装から、フリフリとしたレースが付いている、正に少女趣味な物まで、遥は様々な服をまるで着せ替え人形の如く一条に着させる。
遥はどれが一条に似合うのかが迷う。どれもそれなりに一条に似合うが、完全に嵌っているモノが無いのだ。

「一条さん、気に入った服、ある?」
「私は~……正直どれでも良いかなって」
「どれでもじゃなくて、出来ればちゃんと決めて欲しいんだけど……」

そう言いながらも、遥自身、一条に何が似合うかが決めかねている。

どんな服装も似合うという事は、裏を返せばそれほど一条の容姿がそれほど優れている、というか可愛いという事なのだが、一条本人が気付いているかは定かでは無い。
散々一条は服を着替え、迷った結果、こういう服を着るのは久しぶりだという事で、非常にシンプルな、白いワンピースを着る事にした。
一条の三つ編みに良く似合う純白色に、向日葵をイメージした黄色い花の刺繍がアクセントとなり、清楚でかつ清潔な印象を抱く。

「似合う似合う! 何か凄い女の子って感じで可愛いよ、一条さん!」
「ホ、……ホント?」

遥の褒めっぷりに、一条は照れているのか、うっすらと頬を赤く染めて俯いている。
身長や幼い顔つき、それにワンピースのせいで、今の遥は実年齢よりもずっと若く、小学生くらいに見える。
というより、まるで自分が小学生だった頃と対面している様で、遥はまたも頭の中が混乱する。

「……ホントに? ホントに似合ってるかな、私」
「ホントだって! ね、リヒタ―」

遥が一条の隣である種、女子の着替えを待つ男子的な立場であるリヒタ―にそう聞くと、リヒタ―は同意のつもりか上下に動きながら答える。

<とても良く似合っています、マスター>

「……二人がそういうなら」

恥ずかしそうに、一条はボソリと言った。

一条の恥ずかしがる様子に、遥は失礼、失礼ながらも、あっちの世界じゃ一条さん、あんまり女の子として見てもらえないのかな……とも思ってしまう。
……と思っていたが遥は考えを改める。きっと普段、色々忙しくて大変な目に会ってるから、普通の女の子みたいにお洒落に気を使えないのかな。
だからこういう、女の子らしい服装を着ると恥ずかしく感じちゃうのかな、と。

なら、今日は目一杯、女の子らしい過ごし方をしよう。
もう明日にはお別れになってしまうから、一条さんが満足するまで、服を買ったり、小物を見たり、お洒落したリ……。
何故だか遥の中で、グッと気合いが入る。絶対に一条さんを楽しませよう。一度離れたらもう……もう、二度と会えない気がするから。

「じゃ、出かけようか。一条さん」

遥はそう言いながら、一条に手を差し伸ばした。
一条は顔を見上げて、遥の手を握りながら、返す。

「今日は宜しくね、神守さん」
「私こそ宜しく、一条さん」


                                   ×××××× 

身支度を整えた遥と一条が、自宅から出発する。

数分ほど歩いた先に、都市部に向かう為の駅がある。そこで電車を利用して、揺籃市の中央で構えるショッピングセンターへと向かう。
これから向かうショッピングセンターには、映画館やボウリング場、また食料品店や服屋といった諸々の施設が複合している為、大概の娯楽や買い物はそこで済む。
ちなみに遥の服装は、上にラフなジャケット、下はシックな趣きを感じさせる黒調のスカート。一条と言えば、先程説明したワンピースだ。
一条の手にはリヒタ―が握られているが、あくまで外から見ると、奇妙なデザインの杖にしか見えない。その為、変な物を持ってるなと思われても、不審だと思われる事は無いだろう。

その遥と一条のずっと後ろ、百メートルほど手前。

非常にエッジの利いた、近未来的なデザインのバイクに乗った一人のライダーが、遥と一条の行く末を眺めている。
そのライダーは静かにアクセルを踏んで、二人の後ろをゆっくりと尾行する。無論、距離が離れている為二人とリヒタ―が気付く様子は微塵もない。
それにしてもバイクの形状も妙だが、後ろにナンバープレートが付けられていない事も不思議だ。
改造車にしては均整が取れ過ぎているし、企業の試作車が住宅街を走るとは思えない。一体どこで作られたバイクなのか。

バイクをしばらく走らせると、ライダーが何処からかカードを取り出し、ヘルメットに近づけるとこう、唱えた。

「トランスインポート・インビジブル」

次の瞬間、ライダーと共にバイクがその姿を消す。
その驚くべき瞬間を、朝でかつ、休日である事もあり、残念ながら誰も目撃する事は無かった。

正確には姿を消した訳では無く、透明になった様に見える、と言った方が正しい。
どんな技術を使っているのか、ライダーとバイクはまるでカメレオンの様に、周囲の風景に完全に同化している。
ただ、動いている為だろう、物凄く目を細めればうっすらと輪郭は見える。しかしよほど目を凝らさなければいけない為、まず気付かれない。

と、ライダーが被っているヘルメット内に通信が入る。通信を入れてきた声の持ち主は、男だ。

≪俺だ。あいつから連絡が入ったよ。無事、弓を借りてきたみたいだ。流石おっさんってとこだな≫

陽気な声でそう語る男に、ライダーが自嘲気味に答える。

「本当に借りてきた、で良いんですか? 一応窃盗ですよ。やってる事は」
≪仕方ねえさ。もしもの時に備えて、な≫
「そのもしもの時、が来なければ良いんですがね」

そこで男は一旦咳払いをすると、一転、真面目な口調でライダーに語る。

≪まぁ……心配すんな。こっちの世界の遥に、過度な期待を寄せる気はねえさ。だが、予防線は張っておいて損は無い、だろ?≫

男のその言葉に、ライダーは溜息を吐く。そして同じく、真面目な口調で言った。

「……彼女達に何かあったら助けていいんですね。そのもしもの時が来てからじゃ遅いんで。俺は俺の判断で動きますよ」
≪あぁ。そっちは任せたぜ≫
「あぁ、それと」


「田所……カッコマンの行方は掴めましたか?」

                                   ×××××× 

結局、少し口論したものの、俊明は紫蘇が食したパフェの代金を代わりに払う事になった。
俊明は薄々、紫蘇がセカイの異変を探るというのを口実にして色々奢らせる気ではないのかと思っている。
皮肉ながら、今は俊明の懐は結構暖かい為、パフェ代くらいは余裕で払える。これから先、紫蘇にどんな物をおごらされるか……。
俊明はこれからどれだけ懐が寒くなるかで不安が止まらない。

「ヤスっちさん?」

ふと、不安のあまりに立ち止まって金の算段をしている俊明に、紫蘇が振りむいて声を掛けた。
俊明は俯いていた顔を上げると、聞いていいのかを少し悩みながら、しかし意を決して紫蘇に聞く。

「あのさ……シュタムファータァ」 

紫蘇は何も言わず、俊明の二言を待っている。俊明は何度も聞いて悪いと思いながら、どうしても聞きたくて仕方ない。

「お前が言う、セカイのバランスを崩すかもしれない存在とやらについてなんだが……」
「……はい?」
「……本当に、本当にいるんだな? それ」

俊明の疑問に、紫蘇の目が若干泳ぐ。戸惑っているのが表情からはっきりと読みとれる。
もしやというか、やはり俺に奢って貰いたいだけなのか……それとも本当の事だが、伝える言葉が見つからないのか。
数秒程嫌な沈黙が流れると、紫蘇は心細げに俊明を見上げながら、答える。

「……私自身、困っています。本当にいる、とはっきり断言できたなら、どれだけ気が楽かと」
「……どういう事だ?」

俊明がそう聞き直す。
紫蘇は深く俯いて、俊明から目を伏せる。どう話せばいいか迷っている様だ。が、紫蘇は黙る事無く、たどたどしいながらも、伝える。

「その……漠然とした何かが、このセカイに居る事自体は確か……なんです。何といえば良いのか、私自身分からないんですが……。
 本来、このセカイには居ない……いえ、居てはいけない存在がこう……」

嘘を吐いている訳じゃない。けど、本当の事とハッキリ言えない。
自分自身、どうして良いか分からない、けど、何かしないといけない。
口には出さないものの、紫蘇がそう思っている様に俊明には見える。
それから口をつぐみ、何か考え込んでいるのか、紫蘇は俊明から申し訳無さそうに俯いたまま、地面を見つめる。

……しょうがないな。俊明は一歩前に出て、紫蘇に近寄る。

「シュタムファータァ」

そう呼び掛けながら、紫蘇の頭に掌をのせる。
怒られると思っていたのか、体を縮こませていた紫蘇がゆっくりと俊明を見上げる。

「さっきはすまん。疑うような事言って」
「いえ、私こそヤスっちさんを連れ回す様な事を……」

紫蘇がそう言うと、俊明は首を横に振り、紫蘇に言う。

「とにかくだ、そのセカイの……なんつうのかな……お前を困らせてる違和感みたいな物が居る事は確かなんだな」
「はい。それだけは、間違いなく」
「なら良いさ。それがいるって事が分かってりゃ。ま、そういうのはすぐにホイホイ見つかるもんじゃねえからな」

そして俊明は気にするな、と紫蘇の頭をナデナデと撫でた。今の俊明と紫蘇はまるで、兄妹の様だ

「そう焦る事もねえさ。今日一日ゆっくり探してみようぜ。それで見つからなかったら見つからなかったでまぁ……日を改めりゃいいさ」

俊明が頭を撫でながらそう言って、紫蘇を元気づけた。

紫蘇はどこか気恥ずかしい気持ちになりながらも、安田俊明――――いや、ヤスッちさんが一緒に居てくれてよかった、と思う。
思えば過去を振り返ると、こうして俊明とは互いに協力しあい、時に反目しながら、様々な局面を乗り越えて絆を深めていったのだ。
それもこれも俊明が紫蘇を信頼してくれ、どんな危険な目に会っても、紫蘇を全力で守ってくれたからだ。紫蘇は思う。

ヤスっちさんが私を信じてくれるなら――――私も、ヤスっちさんを信じよう。

「……そうですね。ゆっくり焦らず、探しましょう」
「おう。んじゃ、またここら辺を歩くか」

頭を掻きながら、俊明が歩き出す。その後ろをトコトコと続く、紫蘇。

――――その時、紫蘇の脳裏に一寸、何かが電流の様に奔った。それは紫蘇を散々苦しめている、違和感。
しかし、その違和感の正体がなんなのか、紫蘇には全く見当が付かない。
敵か味方か、そして人間かどうかすらも分からない。しかし一つだけ、分かっている事がある。

その違和感の正体は、この揺籃市に何らかの目的を持って存在している。恐らく――――危険な目的を持って。

                                   ××××××

ショッピングセンター、もとい、都市部へと電車で向かっている間、遥は一条から、朝聞けなかった体験談、もとい、冒険談を心ゆくまで聴く。
リヒタ―との最初の出会い、リヒトとの遭遇、やおよろずとの出会い、そしてリヒタ―と力を合わせて、たまちゃんとまどかのコンビと戦った事。
そして……と、一条の口から留まる事無く語られる冒険談を聞いていると、遥はワクワクして胸が躍る。

それに、とっても楽しそうに語る一条の明るい笑顔を見ていると、遥は自分の事の様に楽しい気分になるのだ。
何と言えば良いのか、別の世界の自分が、そんな大冒険を繰り広げていると思うと非常に愉快な気分になる。
その理由は自分が決して経験できない事を、もう一人の自分が経験している、という事なのだろうかと遥は一歩引いて、自分は客観視する。

……一条の冒険談を思えば、遥は思う。今の私は、一条さんの様に笑って人に語れる、そんな胸を張って誇れる人生を送っているのだろうか、と。

こうして自分の人生を省みるのは、一度や二度はした事があるけど、はっきりとした考えを打ち出すまでには至らなかった。
まだまだ人生経験が足りなかったし、それに夢だとかも、将来どうしたいだとか……そういう事も浮かばなかったし、正直に言えばまだ分からない。
子供の頃は色々、思い描いてた夢だとか、なってみたい職業だとかあった。けど、年を取って世の中の色んな事が分かるにつれて、そういう物がいつの間にか無くなってしまった。
今じゃぼんやりと、大学を出て、就職活動して、それで……それで、人並みの幸せな人生を送って、お父さんとお母さんに恩返ししたいな、と思う。
変化は無いけど、普通の、平凡で、安定した人生。多分がそれが、この世界での一番幸せな生き方。

――――だけど。
だけど、そんな人生で良いのかな、と遥は疑問に思う。
もしかしたらもっと、私が本当にやりたい事、実現したい事があるのかもしれない。今の自分じゃ分からないけど、きっとある気がする。
だけどそれを――――それを見つけるには、今歩いている人生のレールから外れなきゃいけない。もし外れた先が暗闇だったら……。
そう思うと、勇気が、出ない。やっぱり安定してて順風満帆な、安全な人生を送りたい、そう思ってる自分もいる。

一つ、分かっている事がある。それは、とても哀しい事。悲しい事だけど、事実。

今、一条さんが話してくれている、危険が伴う、けれど凄くワクワクして、愉しくて、夢みたいな冒険。
そんな一条さんの冒険、ううん、生き方を私は出来ない。外見こそそっくりだけど、能力も、性格も、それに見据えている方向も、一条さんに私は敵わない。
私は―――――憧れてる? 一条さんみたいな生き方に。だけど、一条さんにはなれない事も、これからそんな人生を送れない事も分かっている。分かってしまっている。

なら――――これからの私の人生は、平凡な――――つまらないままの人生なの? 変わりたい。今の自分を変えたい。けど――――。

「神守さん?」

思考がプツンと切れて、遥はハッと顔を上げた。
一条が心配そうに、遥の顔を覗きこんでいる、額を触ると、遥はじんわりと寒気を感じた。掌に汗が滲んでいる。
何時の間にか考え込んでしまった様だ。それも答えが出ない、出せない、途方もない事を。

「大丈夫? 気分が悪かったら途中で……」
「ううん、兵器、ごめんね、一条さん。心配させちゃって」

そう言って遥は一条に大丈夫だという様に、にこやかな笑顔を見せる。だが、一条にはその笑顔が無理している様に見えた。

しっかりしろ、遥。今日は別の世界からもう一人の自分を楽しませる日じゃないか。
気合いを入れる為、軽く両頬を叩く。と、電車がトンネルに入って、真っ暗になった周囲を映している窓ガラスに、一緒に座っている遥と一条が映る。

「何だか双子みたいだね、私達」
「声も同じだしね。身長がちょっと……だけど」
「けど他の人から見たら双子に間違えるんじゃないかな」
「姉妹に見えたりして」
「どっちが妹?」

そこまで会話して、遥と一条は互いの顔を見合わせた。

何故だか一条が、私の方がお姉ちゃんだと強く目力で諭している様に見えて、遥は妙に笑えてきた。
遥が笑うと、如何して笑っているのか分からないものの、一条も誘われるように笑いだす。
二人いるのに、まるで一人だけ。そんな風に感じるほど、遥と一条の笑い声はシンクロしている。

笑い疲れて、二人は前を向き直す。電車はまだ、トンネルの中を走っている。

「でも良かった。神守さんが幸せそうに暮らしてて」
「幸せって……凄く普通な生活してるだけだよ。退屈……と言ったらアレだけど」
「けど、毎日充実してるでしょ? それだけでも、私にとっては嬉しいよ」
「……そうかな」

「そうだよ。だって神守さんは、私だもん。違う世界の私が、幸せに生きてる。それは私にとって、凄く嬉しいんだよ」

一条は遥に顔を向ける。一条の横顔が、やけに大人びて、見える。

「だから神守さん。これからも、神守さんが思い描いた生き方を貫いてね。神守さん自身が思う、神守さん自身の幸せな人生を」

「……私に出来るかな」

一条が遥の方を向く。溢れんばかりの、向日葵みたいに明るい笑顔で。

「神守さんなら出来るよ。私が出来ない事、出来なかった事、そういう事を一生懸命、私の分まで――――」

その時、遥が何か言った気がするが、電車の音が掻き消して聞こえなかった。けどきっと――――。


ようやくトンネルから電車が出てくる。
視界が急に眩しくなって、遥は目を一度瞑った。目をゆっくりと開けて見上げると、澄み渡る真っ青な青空と、太陽が元気に輝いている。
アナウンスで都市部であり、目的地である駅に着いた事を知る。一条が元気良く、席から立ち上がった。
そして遥の方を向いて、笑みを浮かべながら言った。

「行こ、神守さん」

その時の一条を見て遥は、あぁ、やっぱり一条さんの方がお姉ちゃんだ、と思った。


                                   ××××××

再び、ビルの一角の屋上。

そこに座していた「何か」は、静止した状態を解き、ゆっくりと立ち上がる。
頭部で紅く不気味な光を放っている、正に点、としか表現できない二つの目は、一体何を見据えているのか。


『確認 確認』

『充填完了 稼動時間予測 おおよそ30』

それの背部で展開している装甲が、大きく上昇して頭部の所で停止する。
先程露出していた黒い装甲板――――否、ソーラーパネルが、はっきりとその姿を現す。
隙間無くピッチリと、パネルが大量に嵌めこまれており「何か」の背部全体がパネルの様だ。太陽の光を受け、眩く反射する。
装甲といい、背部全体を真っ黒に染めるパネルといい、「何か」の姿は今正に飛び立たんとするカブトムシと重なる。

『戦闘モードへの自動切り替え』

同時に、脚部の装甲が左右に大きく割れて展開する。
すると黒々しく角ばった武骨なスラスタ―が現われ、そのスラスタ―から絶え間なく、黒い粒子が瞬きながら放出されていく。

『飛翔』

瞬間、凄ましい風圧でベンチをふっ飛ばし、看板をバリバリと剥がしながら「何か」が空中へと飛び立つ。
如何にも重鈍そうな外見に反して、それは軽々と空中を飛翔する。飛べる理由は恐らく、脚部より放出される粒子だろうか。
前傾姿勢を取り、暴風を巻き起こしながら「何か」はビルを後にした。それが飛んでいる事に、ビル内の人間はおろか、真下の交通人達でさえ気づかない。

屋上には、老朽化していた為にぶつかった衝撃で藻屑となっているベンチと、無残に剥がされた看板が残されている。まるで、「何か」が確かに存在していたと証明する様に。

                                   ××××××


地面に少しだけ中身の入った、透明なカップがボトッと、音を当てて落下する。
レンガで作られたタイル調の地面の溝に、そのカップに入っていた苺ジュースがどろりと零れて、血の様に見える。
その苺ジュースを先程まで持っていた紫蘇が、強烈な寒気を感じてきゅっと、両腕で震えている体を自ら抱きしめた。

「おい、シュタムファータァ?」

突然カップを落として、体を震わしてしゃがむ紫蘇に、俊明がどうしたことかと寄り添う。

さっきまで特に何事も無く、紫蘇は俊明が奢ってあげた、絞りたての苺ジュースを飲んでいた。
しかし突然、飲んでいた苺ジュースを地面に落とすと、体を震わしたまま、動けなくなってしまった。
俊明と一緒に居る為に安堵していた表情が、今は固く強張っていて、はっきりとした怯えが見て取れる。

「大丈夫か? 立てるか?」

俊明がそう聞くと、紫蘇はこくん、と頷いた。どうにか俊明は紫蘇を立たせて、周囲の目線から護る様に気遣う。
すぐに片づけに来た清掃員に頭を下げつつ、紫蘇を連れて俊明はその場から離れる。

人通りの少ない、階段の踊り場まで移動すると、俊明は紫蘇にどうしたのかと、改めて聞く。

「大丈夫か、シュタムファータァ。お前がもし……」
「大丈夫……大丈夫です。……少し、めまいがしただけで」

と紫蘇は言うが、体は正直だ。

紫蘇の体はまだ小さく震えており、よっぽど恐怖を感じているのか、顔が青ざめている。
どうする、どうするべきだと俊明は考える。普通に考えて、このまま紫蘇を連れ帰るべきだろう。
だが、もし連れ帰ったとしても紫蘇が元の状態に戻るとは限らない。というより、今紫蘇に起こっている事は恐らく……。

紫蘇が言っていた、セカイを乱す違和感が居るという事ではないのか? それも――――すぐ近くに。

「取りあえず、だ。ちょっと落ち着こうぜ。座れるか?」

俊明がそう聞くと、紫蘇は無言で小さく頷く。俊明は横に座り、自分が羽織っているジャンパーを紫蘇に掛けてあげる。
そして寒さを抑える為に、ぎゅっと肩を抱いて密接する。密接しているからか、紫蘇の体の震えは大分収まってきた。
しかし紫蘇の表情は暗く沈んだままだ。

これほどまで、紫蘇をこれほどまでに怯えさせる存在とはどんな存在なのか。
俊明は内心、その存在に憤りを感じる半面、若干ではあるが恐怖を抱いてたリもする。

だが、だからといってこの場から紫蘇を置いて逃げるなんて事、絶対にしない。
あの日、イェーガーという強大な存在に二人で挑んだ日から、俊明は自らに課している。
この先何があろうと、どんな敵が襲いかかろうと、絶対にシュタムファータァを護って見せる。俺自身の日常を、護る為にも。

と、紫蘇が何か言いたげに、俊明を見上げた。

「ヤスっちさん……」

「ん?」

「……もし」

俊明は耳を澄ませる。


「もし……この場で私が……シュタムファータァに変身するって言ったら……ヤスっちさん、怒りますか?」

予想も付かない紫蘇のその言葉に、ヤスっちは惑う。惑うが、問う。

「……何でそんな事を聞く」
「……もし変身、いえ……シュタムファータァにならないと……」


「沢山の人が……死んじゃう気が……するんです」



                                 下に続く
  


                                  次回予告

  買い物へと出発した遥と一条。その後ろを追う、正体不明な謎のライダー。
同じ頃、ショッピングセンターで世界を乱す存在を探している俊明と紫蘇。だが突如として、紫蘇の様子が急変する。  
                     その頃、不気味な存在が揺籃市の上空を飛ぶ。何処に向かっているかは、まだ分からない。
                   
                                 
                            「これが、私の生きる意味。私が、戦う理由なの」                                       
                          「今動けないなら……私は一生、変われない気がしたから」
                             
                                  神守遥と一条遥。

                          「動けないんです。私の体……おかしく、なっちゃったみたいで」
 
                          「すまん、シュタムファータァ。すまん……俺が、弱いせいで」

                                    紫蘇と俊明。
                                     
                          「俺は全てを捨てた。君は君の日常を護れ。俺の様になるな」
                                   
                              「おっさんじゃねえ、お兄さんだ。OK?」

                              「教えるべき事は全て教えたさ。後は遥次第だ」

                            「田所カッコマンの名において――――貴様を、断罪する」


                                 そして、上空を飛ぶ「何か」。

                                  『対象発見。排除開始』




                                       
                    各々の思惑と思考を巡らせながら、バラバラであった全ての点が、一つの線となる。


                                    the Strange dream

                                       後編


                                        下 

                                     


                              
       

                              さようなら、そしてありがとう。もうひとりの、わたし    

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