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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第一幕

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匿名ユーザー

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 いつかどこかの空の下。一人の少年が歩いていました。
 ポケットに手を突っ込み、ぶらぶらと。まるっきりやる気のかけらもないのは、まったくもって問題だと思われるほど。
 が、それが本筋ではないのです。少年にも事情はあり、ましてやこの状況では……。
「……腹減った。金もねーしツテもねー。今夜はどこで寝りゃいいんだ?」
 そう、少年は貧乏であった。すかんぴんであった。金がなければ何もできない世の中で、何もできないほどには金欠であった。
「五百ぽっちじゃ温かいものも食えないしなぁ……」
 しょぼい小銭を握りしめ、ふぅとため息をつくのです。そんな少年がその店の前を通りがかったのは、運命だったのか、それともなんだったのか。

 出店であります。今時は珍しくもない商売形式です。そもそもバラックばかりのこの地域において、正式な店を出しているのは大体アレでソレな横の繋がりがあるものばかりであり、そうでなければ出店だろうが屋台だろうが、贅沢は言っていられないのです。
 しかしながら、そういう問題ではなかった。少年は別に何も買う気はなかったし、そのまま通り過ぎようとしたのですが、そこにかかった声がありました。
『もしもし、そこの身なりのいいお坊ちゃん!』
 少年が振り向けば、店の主らしき老人は寝こけていた。
 気のせいかと思い、さらに歩きだそうとすれば、もう一度『もしもし、そこの素敵な少年!』とかなんとか。あからさまに馬鹿にされていると思った少年は、声の主を探そうとしました。
 が、どうもそれが寝こけている老人のものでもなく、ましてやそこの出店のガラクタの中から聞こえているとなれば、興味深いよりも先に空恐ろしくなるのです。
 なので少年、逃げることにしました。が、その背中に『逃げるなー! 卑怯者ー!』とか声がかかるので、さすがにカチンと来た少年、引き返してはガラクタの山をにらみつけ……。
「……玉?」
 玉でした。むしろ球と言うべき代物かもしれません。しかしどうでもいいことでした。
 問題はその球だか何だかがカタコト揺れては『そーこのあなた! ヘイ、ユー!』とか喋っていることであったので。
「スイカが喋るってのは、世も末だなぁ……」
『スイカ違います! 私は……』

「スイカなんて久しく食ってねぇなぁ……」
『だーからスイカ違う言ってるでしょうがスカタン!』
「割ると中から赤い果肉が……滴る甘い果汁……」
『ちょ、その棒下ろして! ユーはこの私をなんだと心得ていやがりますか!?』
 冗談はともかくとして、少年はその黒っぽくて真ん丸な、謎の球体の前にかがみこんだ。
 そして仔細に様子を観察すれば、どうにもその球体が喋くっているのは間違いがない様子。
「……なんだ、お前?」
 至極まっとうな質問でした。そして至極真面目に返答をする球体でした。
『私はHAL‐800という制御プログラムです。あなたのそのスカポンタンな頭の何万倍も賢いと評判の優れものですよ?』
「そうか、じゃあな」
『あ、待って待って! 何万倍というのは言いすぎました。せいぜい何千倍……いや、そこまでへりくだる必要も……いやちょっと待って待って!』
 いい加減に少年には、この謎のたまっころがウザったくなってきました。
 どこの世界に不遜極まりないことをぬかした揚句に、他人を呼び止めておいて用事も抜かさないたまっころがいるのでしょう。いや、ここにいるのですが。
 とにかく厄介事なんだなぁと感じた少年は、そのまま立ち去ろうとしました。が、それを必死になって引きとめようとするたまっころです。
『ここで知り合ったのも何かの縁、どうか私をここから引き取っていってください!』
「いやだよ気持悪い。なんでお前みたいな変なのを引き取っていかなきゃいけないんだ」
『気持ち悪いだなんて、あなたには美的センスが欠如しているとしか言えません! この愛らしい私のどこが気持ち悪いのか、三文字以内で表現しなさいさぁさぁさぁ!』
「ぜんぶ」
『酷すぎるっ!?』
 なにはともあれ、謎の球体ことHAL‐800とやらは、どうしても少年についていきたい様子でした。というか、現状を打破できれば、相手は誰でもよかったのかもしれません。

 そういうわけで、たまっころの分際でしつこすぎるほどに、少年に語り聞かせては辟易させるのです。
『私を拾うとお得ですよ? 肩こりや頭痛はみるまに失せて消えるし、お金はざくざく、女の子にもモテモテ。しかも謎のパワーが身長をみるみる伸ばし……』
「謎のパワーってなんだ」
『そこはそれ、謎に理屈を求める方がおかしい理屈』
「理屈っぽいのはお前じゃないか。ああもう、お前うるさいからそこで転がってろ。人様に迷惑をかけないようにな」
『あ、待って待って! ちょっと本気でそれは酷い……待って待って!』
 なんだかこの調子だと、いつまでたってもねぐらを探すこともできない。そう考えた少年は、仕方なく、本当に仕方なく、そのたまっころを拾っていくことにしました。
 よっこらせと抱え上げれば、意外とずっしりとしたその重さ。これなら蹴飛ばしていった方が早いかもしれない、なんて思う少年でしたが、たまっころ、もといHAL‐800がぶーぶーと文句を言うので、そのまま抱えていくことにしました。
 が、その場を立ち去ろうとしたところ、寝ていたはずの老人が目を覚まし、『五百になるので払え』ときっちり代金をせしめていったのには、心底うんざりとした少年でした。
 ……さて、少年は玉を抱えて歩きます。むしろ球なのかもしれませんが、その辺は心底どうでもいいと思う少年です。
 しかし抱えられている球の方としては、いろいろと語りたいこともあるらしく、なんだかんだとぴーちゃか喋くりまわすのです。
『それで少年、あなたはなんという名前なのですか?』

「いいだろ別に。なんでたまっころに自己紹介しなきゃいけないんだ」
『よくありません。親しき仲にも礼儀あり。私はきっちり自己紹介をしました。よってあなたにもその義務があります』
 納得できるような、できないような、へんてこな理屈です。そもそも親しくなった覚えはこれっぽっちもない少年でしたが、まあ球の言うことにも一理くらいはあると思い……。
「……エド」
『江戸? それはまたえらくジャポネスな名前ですねぇ』
「なんだよ江戸って。エドだよエド。ジャポネスってのがまた意味がわからないし」
『まあ、ボケに対してそのネタを語らせるなんて、なんて無粋な少年でしょう。江戸というのは大昔にこの地球上に存在した都市の名前で、それはもうサムラーイが人斬りをしては群雄闊歩な……』
 付き合っていたら日が暮れそうなので、エドはそのまま無視して歩き続けました。
 しかし球にはそれが気に入らないらしく、『エドというのは本名なのですか? まさかエドワード・フォン・なんとかという高貴な名前で……うわ、ちょー似合わない!』とか本気だかふざけているんだか。
 とにかく馬鹿にされているのは間違いがなさそうなので、エドは球を大地に叩きつけようとしました。
『じょ、冗談ですよエドさん。私にもジョークは人間関係の潤滑油ということはわかっているつもりです』
「潤滑油以前に火がついて燃え盛りそうだ。なんだそのガソリンだか何だか」

『最近はめっきりガソリン車も見なくなりましたねぇ』
「木炭車の方が便利だしな。っていうかお前は一体何者なんだ?」
 そんなことを聞けば、球はえへんと胸を張り(胸はありませんが)、『制御プログラムHAL‐800といえば、世界に私しか存在しません』とか抜かすので、エド少年はそこのところがわからんとぶっちゃけます。
 そもそも制御プログラムと言うからには、何かを制御するもののはずです。しかしその制御するものは、一体どこにあるのでしょう?
「車とか機関車とか?」
『そんな低俗なものに、興味はありませんな』
「車も機関車もお前よりは役に立つだろ。少なくとも転がるしか能がないくせに」
『酷い言い方ですね、さすがの私も傷つきますよ?』
「ツルツルのピカピカなのが気に入らない。傷つけてもいいんじゃないかめんどくさい」
『投げやりは会話のキャッチボールの終着駅ですよ、エド?』
 エドとしては、この正体不明のたまっころとの会話にも、いい加減に疲れてきたところでした。なのでちょうどよさげな廃屋がそこにあったので、今夜はそこにて眠ることにしました。

『エドさんエドさん、こんなところで寝ては風邪をひいてしまいます』
「そんなもんひくか馬鹿。そもそも家なきっ子の俺に何を求めているんだ」
『温かいシャワーとふかふかのベッド。ワインと血の滴るようなステーキがあれば文句もなし』
「図々しさもここに極まったな。まあいい。さて、雨が吹き込まなければいいんだが……」
『エドさん、人の話は聞きなさい。こんなところで寝ては、あなたのためにもなりません』
 余計な御世話だと思うエド。そもそも金もないのに贅沢をしようとするのが無理な話。

 しかしたまっころが言うには『人間として、衣食足りて礼節を知る。エドさんが野蛮極まりないのは、たぶんその辺が欠如しているからかと思います』とのこと。
 もう話を聞く気も失せて、エドは廃屋のそのまた奥に無造作に積まれた藁の上に寝転びました。たまっころはまだ何か言いたそうでしたが、なんだかひどく疲れたエドにしてみれば、もう眠る以外には考えがなかったのです。
『エドさん、せめてあたたかーい布団を……』
「そんなもん、ここ数カ月お目にかかったこともない……ふわぁ」
『では妥協してあたたかーい食事を……』
「数週間は口にしてないよ……いいから寝かせてくれよ」
『あなた人間として、本気で終わってますね』
「やかましいたまっころ。俺は寝るんだ邪魔するな」
 ぶーぶーと文句を言うたまっころでしたが、そのままエドは夢の中へと落ちて行きました。
 夢の中では、いつかどこかで見た景色が広がっていました。
 幸せそうな家族。優しい父親。微笑む母親。そんな二人の間で、何一つ不安も感じずに笑っている少年。
 そんな光景を、夢見ていました。
 ……さて、エドがなんだか騒々しい物音に目を覚ますと、あのたまっころことHAL‐800が、
『新しい朝は希望の朝ですか? それはともかくおはようございます。よく眠れましたか? 私はさっぱりですが』とか文句をたらたら言うので、ゴチンと拳骨で殴りました。
『エドさんには愛が足りないと思います』
「足りない以前に無いんだよ。そもそもなんでたまっころに愛を向けなきゃいけないんだ」
『失敬な。これでも割と殿方の評判はいいのですよ?』
「その評判はどこから来たのか……まあいい。それよりも今朝の飯を見つけないとな」

 エドがのそのそと起き上がると、HAL‐800が自分もついていきたいと言います。
 しかし球を抱えて餌を探すのは、なんだかとても大変そうです。なのでエドはやんわりと『お前来るな邪魔だから』と拒否したのですが、HAL‐800は不満をぶぅぶぅと言います。
『私を連れていけば、それはもう美味しいご飯がもりもりと』
「嘘つけ」
『嘘ではありません。しかし現実が追いついてこない話かもしれないとは思います』
「そう言うのを嘘って言うんだよ。いいからお前は留守番だ。いいか、間違っても勝手に転がっていくんじゃないぞ。誰かを怪我させてからじゃ遅いんだから」
『エドさんは私に対しての信頼が足りないと思います』
「足りないんじゃなくてゼロなんだよ。さて、どこかの店の食い残しとか、あるかな……?」
 ぶらぶらと、エドは出かけて行きました。そして暫し……帰ってきたエドは、その手に缶詰を二つほど持っていました。
『エドさん、あなたは缶詰を二つ持っています』
「ああ、持っているな」
『つまりそれは缶詰ツーハンド、言い換えれば両手が缶詰でふさがっているので、私がひとつ引き受けてもいいのですよ?』
「嫌だよ、そもそもお前がどうやって缶詰を食うんだよ」
『そこまでは考えていませんでしたが、なぁにやってやれないことはないとか言いますし』
「無機物が根性論を語るなよ。さて、ひとつは今食べて、もう一つは昼に回すか」
『なんて貧しい人でしょう。神よ、この少年に幸がありますように。あと缶詰ください一個でいいから』

 何ともくだらない一人と一個でした。ところが、彼と一個がこの先に大きな運命を迎えるとは、まだ誰も想像はしていなかったのです。
 そもそものきっかけというものは、突然にその地域に襲ってきました。
 貧しい人々が暮らすこの地域。金目のものなんて皆無に等しいのに、そういうのとは無関係に襲撃してくる者たちがいたのです。

 いわゆるモヒカンでヒャッハーな人たちです。ご丁寧に燃費の悪いバイクに乗って、爆音を立てては走り回ります。
 人々は皆、どこかに隠れ、災害が過ぎ去るのを息を殺して待ちました。エドも例外ではなく、関わり合いにならないように、廃屋の奥の奥でじっと身を潜めて嵐が過ぎ去るのを待ちます。
『まあ、なんてたちの悪い人たちでしょう。あんな連中はすぐさま死ねばいいのに』
「ああいうのが生き残るのが今の世界だろ。力がない連中は、どうやっても長生きできないんだ。世界大戦がどうのこうの、理由はあるんだろうけど……それは結果でしかないものな」
『でも、だからと言って下劣なモヒカンが蔓延る理由にはなりません。世界は秩序のもとに形作られるべきです。エドさん、私をこれから指定する場所まで運んでください』
 よくわかりませんが、HAL‐800はどこかへ移動したい様子です。
 エドとしてはじっと身を潜めていたいところだったのですが、あまりにもHAL‐800がうるさいので、仕方なく移動することにしました。
 指定された場所というのは、集落のはずれのはずれ、かつては立派なビルが建っていた場所でした。しかし今では、瓦礫の山になっています。
 そこへエドに運ばれてきたHAL‐800は、どこかその辺に地下に下りる階段があるはずだと言います。
「そんなものどこにもないぞ。そもそもそんなの、他の人間がもう見つけているはずじゃないのか?」
『私が認証を行わなければ、先へは進めませんし。ほら、その辺が怪しいですよ』
「力仕事は俺ばかりだ。まったく、なんでこんな……」

 文句を言いつつも、エドは瓦礫を掘り起こします。するとそこには、確かに地下へと延びる薄暗い道が続いているのです。
 今にも崩れそうなそこを、エドはゆっくりと降りて行きます。暗い道……途中からエドはジッポで道を照らします。
 しばらく進むと、大きな鉄の扉がありました。どうやって開けるのかと悩んでいると、HAL‐800が『音声認識開始。我が前に開け、希望と絶望の道よ』と言いました。
 すると大きな扉は静かに開き始め、その先には真っ暗な広い空間らしきものが続いているのです。さすがにエドもびっくりしましたが、たまっころが早く進めとうるさいので、恐る恐ると中へ入っていきます。
 そしてどれだけ進んだでしょうか。HAL‐800が『そこで止まってください。今、明かりをつけますので』と言うので、エドは立ち止ります。
 するとぱぱっと照明がついて、思わず目を細めたエド。そしてそこに存在するものに、あんぐりと口を開くのです。
 そう、それは……巨大なロボット。いかにも強そうな、鋼鉄の巨人。
 どういうことかとHAL‐800に問いただせば、『これが私の本体。いわゆるマイボディでサイキョーに無敵なみんなのヒーローなのですよ?』とのこと。
「いや、おかしいだろ。お前のボディだか何だか、ただのたまっころのくせに変なことを言うな」
『失敬な。言ったはずですよ。私は制御プログラムだと。そしてこの私が制御するのが、この鋼の救世主……グレゴリオンですよ?』
「グレゴリオンねぇ。で、こいつがお前の体だとして、やっぱりお前がこれを動かすのか?」
『何を言うやらウサギさん。私は制御はしますが、動かすのはエドさんではないですか』
 よくわからないので、エドはその言葉を無視しました。しかしHAL‐800が言うには
『パイロットと制御プログラムは別々の方が都合がよろしいのです。ヒーロー的に。見栄え的に。というわけでっささっと乗り込んでください』とのこと。
 さすがにエドもそんなのはお断りだったので、回れ右をして帰ろうとしました。しかしそのとき、HAL‐800はこんなことを言うのです。

『ああ、エドさんがグレゴリオンに乗り込んでくれなければ、あのモヒカンヒャッハーたちが集落をめちゃくちゃにしてしまうでしょうねぇ。老人は殺され、若者は男女問わずレイプレイプ。それはもう阿鼻叫喚でしょうねぇ』
「嫌だよそんな暗い未来は。そもそも乗り込んでどうしようって言うんだよ。もしかしなくても俺に戦えって言うのか?」
『もしかしなくても戦ってください。そして数多を殺戮してはみんなに感謝されるがいいのです』
「殺戮して感謝されるっていうのはないと思うんだが……」
『言葉のアヤです。なんでしたらSATUGAIとでも言っておきましょう。さあさあ、グレゴリオンのコックピットへ』
 なんだかなし崩し的にではあったものの、エドはしぶしぶとグレゴリオンの中に乗り込みました。HAL‐800が言うにはコックピットの後ろに、自分を置くスペースがあるとのこと。
 なるほど、球体が収まるスペースがあったので、そこへHAL‐800を納めるエドです。
 するとたちまちあちこちの計器に火が灯り、モニターも点灯して周囲の様子が見えるようになりました。グレゴリオン、どうやら本当に動くようです。
『各種チェック、オールグリーン。グレゴリオンはいつでも動けます。さあ、エドさん。手始めに天井を吹っ飛ばして、ここから出ましょう。なぁにヒーローの登場はいつでも派手なものと相場は決まっています』
「吹っ飛ばすって、そりゃ確かに派手だが上に人がいた場合はどうするんだ?」
『大事の前の小事と言います。ここでお亡くなりになった人には、哀悼の意を表しつつささっと忘れるが吉かと』
 よく聞けばとんでもないことを抜かすHAL‐800です。さすがにエドもそんな真似はしたくなかったのですが、
 動かし方もよくわからないロボット……グレゴリオンのコントロールをHAL‐800が握ってしまい、いきなり『大発進、ゴー!』っと天井をぶっ壊したものですから、もう何が何やら。
 降り注ぐ瓦礫の向こうに薄暗い空が見えると、グレゴリオンは大きくジャンプをしました。
 そして気がつけば、巨大ロボットは地上に降り立っていたのです。

『対人・対物レーダー始動。周囲に熱源多数。対象をモヒカン・ザコラッタと命名。エドさん、攻撃してください』
「攻撃って、そもそも動かし方もわからないのに」
『動かし方なんて、体で覚えればいいんです。昔の人も言いました。習うより殴れと。そういうわけで、そこのレバーを引いてみてください』
 周囲に集まったモヒカンたちが、何かを怒鳴っているのを感じつつも、エドは思い切って手近なレバーを引いてみました。するとああなんてこと、グレゴリオンの腕がぶんと振られて、その辺にいたモヒカンたちをまとめてぶっ飛ばしてしまったのです。
 もちろん巨大ロボットに殴られれば、モヒカンなんてひとたまりもありません。皆さんそろってぐしゃぐしゃのメタメタになってしまいました。ミンチよりもひどい有様です。
「……これ、どう考えてもオーバーキルだよなぁ」
『悪党に情けは無用です。そしてまだ生き残りがいるので、全部まとめて挽肉にしてしまいましょう』
「いや、でもみんな逃げに入ってるし」
『あんな汚物は逃がしたら暗がりのじめじめした所からまた生えてきますよ? その前に汚物は消毒です! なぁに少しずつでも地球はさっぱりさせなければいけませんからね』
 エドはどうしようかと迷いましたが、またコントロールを奪われて変なことをしでかされるよりかは……と、できるだけ手加減をしてモヒカンを排除することにしました。

 バイクをひっくり返し、モヒカンを弾き飛ばし、その辺の悪党どもを全滅させます。
 すると向こうから、何かガタガタという大きな音が響いてきました。そう、モヒカンたちの親玉が現れたのです。
 モヒカンたちの親玉は、前大戦で用いられた『大型戦車』というものをその武器としていました。だからこそ誰も反抗できなかったのです。
 しかし考えてみれば、こういう時に何を持ち出そうとも、結果は同じことだったのかもしれません。なにしろエドの乗り込んだロボットは強大で、しかもよりにもよって常識外れの制御プログラムが組み込まれていたのですから。
『戦車砲の発砲を確認。でも、避けるまでもありませんね。そのまま放置でいいです』
「戦車砲を放置って、どう考えてもおかしいよなぁ……どういう装甲をしているんだか」
『頭の悪いエドさんにもわかりやすく言いますと、グレゴリオンの装甲は五百二十ミリ砲のゼロ距離射撃にも耐えられるように設計されているのです。スペック上はもっと耐えられるのですが、それ以上のもので試射したことがないだけで……』

「あれだって前大戦で猛威をふるった戦車のはずなのに、まるで豆鉄砲みたいだ」
『そろそろうるさいので片付けてしまいましょう。グレゴリオンの必殺技のひとつ、グレゴリオンパンチでぺしゃんことかがいいと思いますが、いかが?』
 いくら悪党の親玉でも、鉄の棺桶と共にぺしゃんこではかわいそう。エドはそう思いましたが、では手加減して倒すにはどうやったらいいのか……とりあえず戦車に歩み寄らせて、慣れぬ動作でその車体をひっくり返してみました。
 さすがに戦車は転んでは起き上がれないので、それで万事解決、めでたしめでたし。
 と行けばよかったのですが、それで納得しないのがHAL‐800でした。
『エドさんは手ぬるくて貧弱貧弱ゥ! ですねぇ。仕方がありません。この私がお手本を見せてあげましょう』
「あ、馬鹿よせ! せっかく手加減して倒したのに……!」
『そーれ、グレゴリオン・ジャンプ&ストンピング!』
 ジャンプしての踏みつけ攻撃に、戦車はぺしゃんこに潰れて大爆発。勝利の余韻に浸っているのか、
 HAL‐800は極めて嬉しそうに『うーん、やはり正義は愉快痛快爽快ですねぇ……』とかほざきますが、エドにしてみれば何をしでかすのだこの大馬鹿もの、といったところです。
 なにはともあれ、こうして悪は滅びました。悪と言うにはやや小さすぎて、しかもしでかした悪事に対しての報いが大きすぎる気もしましたが、そんなことは関係なしに喜ぶ制御プログラム。

 一方のパイロットであるところのエドは、それはもう哀れな境遇の悪党たちに同情してしまい、おそらく今夜は食事も喉を通らないでしょう。
 そんな感じで、エドとHAL‐800の出会いがあり、そしてその出会いが、多くの出来事の中で意味を成してくるのです。
 もっとも本人たちにしてみれば、そんなことは関係ないと言ったところでしょう。
 なにしろエドはエドでただの貧乏な家なきっ子の少年でしかありませんし、HAL‐800は恐ろしく無邪気な……頭の悪い制御プログラムなのですから。
 さあ、これから彼らは、どういった運命を辿っていくのでしょう。強いて言うならば、その先の未来は、決して輝かしいものではないというところでしょうが、それはさておき。
「うぅ、潰れた戦車から赤いものが流れ出て……気持ち悪い」
『何を仰るのやら、エドさんは。あれはただの血液と脳漿とその他の水分が漏れ出ているだけですよ?』
「それが気持ち悪いっていうんだよ! ただの血液とか言うな、お前なんか血液もないくせに! この冷血漢が! お前なんか血の代わりに冷たい冷却液が……!」
『失敬な。私にだって心痛めるときはあります。大事に取っておいたお菓子にカビが生えてしまっていたときとか』
「黙れボケーーー!!」
 さあ、ここから冒険の日々は始まるのです。

・第二話へ続く……?

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