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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第三幕

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 エドはグレゴリオンをひとまず放置して、歩いて近くの集落までやってきました。
 丸っこい物体を抱え、後ろにエリーという少女(?)を従えて、です。どうにも困ってしまう一行の姿ですが、悪目立ちする以上に弊害はないと思えます。
 そもそも混乱が続くこの世界において、変な格好の人物なんて掃いて捨てるほどに存在するのです。彼らだけが特別ではありません。
 エリーは先ほどからフードをかぶりっぱなしですが、その理由はと言えば『なぜか素顔を見せますと、皆さんがわたしをロリっ子扱いして腹が立ちますのです』というもの。
「わたしはきっぱりと二十六歳なのですよ?」
「知らないぞそんなこと。まあいい。たまっころ、どこか飯が食えそうなところはないか?」
『以前から思っていたのですが、私にもきっぱりと名前はあります。もっと愛情と信頼を込めて、名前で呼んでいただきたいものです』
「タマキューさんとか、いかがでしょうか?」
『プッチ殺しますよ、この年齢詐称女』
 たまっころことHAL‐800と、エリーという女は、極めて仲がよろしくない様子です。
 もっともHAL‐800の方がきつく当たっているだけの様子で、エリーとしてみればどうってことはないという感じですが。
 ともあれ、確かにたまっころの言うことにも一理あります。そこでエドは考えて……こういう呼び方に落ち着きました。
「……ハル子、とかどうだろう」
『ハル子ですか? なんだかビミョーなネーミングですが』
「色々と考えてこれに落ち着いた。気に入らないのならタマキューでも何でもいいんだが」
『ハル子、素敵な名前だと思います。はい、これ以上ないほどに私にぴったりかと』
 気に入ってもらえて何よりと、エドは周囲を見回します。先ほどから空腹で、どうにも目が回るのです。
 ハル子は何も食べなくても平気でしょうが、エドとエリーは人間なので、何か口にしないとお亡くなりになってしまいます。

 行き倒れとは、言葉としてはかっこいい死に方ですが、実際に起こったらとっても虚しい死に様です。なのでエドもそれは勘弁してほしいと思います。
 そこで何かしら、食べるものを探しているのですが……どうにもこの集落、自分たちが食べるものにすら事欠いているような様子です。
 それはなぜかと通行人に聞いたところ、なんでも『ムテキング』を名乗る謎の人物が、集落の人々から色々な物を貢物として捧げさせているというのです。
 力で君臨するのは、いつだって悪人。本当に優しい人物ならば、力があってもジツリキで生き延びていこうとするものです。他者に貢がせるなんて、あり得ないというもの。
 しかしそのムテキングという人物は、自分がいることで集落の安全が保障されるのだと、まるっきり悪気も感じていないというお話。
 そんな腐れた人物、みんなでフルボッコにしてしまえばいいと思うのですが、なんでもムテキングという人物、謎の巨大ロボットを所有していて、それでみんなを恫喝しているんだとか。
「ロボットを自己の欲望に使うのは悪だと、古来よりのサブカルチャーでは当たり前のことなのです」
「そんなフィクションはどうでもいいけど、実際にこっちに食料が回ってこないのは問題だよな」
『エドさんエドさん、この私にナイスアイデアがあるのですが、聞いてみませんか?』
「本気でどうするかな。まさか今から農業をやるわけにもいかないし」
「芽が出る前にお亡くなり確定ですから、困ったものですよね」
『そこな二人、私をハブってほのぼのと悲しい話をしないでください』
 まあ、そういうことがありまして、エドとエリーはハル子さんの話を聞くことにしました。

 ハル子の語ることには『ムテキングとかいう腐れ頭の住居を襲撃して、みんなが困らないだけの食料を分捕ってくるというのはいかがでしょう?』というお話。
 ナイスアイデアと褒めることができないのは、それって結局は悪いことなんじゃ? という考えがよぎるからです。エドとしても厄介なことはしたくないというのが本音。

 でも、空腹は何事をも正当化するのであり、集落の人々の困窮を見れば、多少の無茶も仕方がないかと思えます。
 そこでエドは、ムテキングという人物の住処まで、こっそりと忍んで行くことにしました。
 グレゴリオンを動かそうというハル子のアイデアは、即座に却下しました。だって、食べ物を盗みに行くのにロボットを使ったら、どっちが悪だかわからないですから。
 というわけで、ムテキングという人物が住む場所まで、二人と一個はやってきました。
 昔は名のあるホテルか何かだったのでしょう。朽ちてもなお立派な建物。周囲には警備の人間もいない様子なので、静かに中に潜入することにします。
「でも、普通はそれだけの権力をもっているなら、仲間とか部下とかいそうなものなんだけどな」
「きっと絶望的に人望が足りないと思うのです」
『或いは絶望的に頭が足りないかと思われます』
「どっちにしても救われないな。まあいい。裏口からこう、静かに中へ……」
 ホテルの中へ入れば、しんと静まり返った空気。どうやらムテキングという人物は留守の様子です。
 これ幸いとエドたちは奥へと進み、手分けをして食料などを探し出すことにしました。
 エドはハル子を抱えて奥へと進みます。するとどうやら厨房らしき場所へとたどり着きました。ここならば食べ物くらいは……とあちこちのぞいてみますと、カニ缶が山ほど出てきました。
「カニ缶で空腹は満たせない……と思う。せめて肉とかの缶詰も欲しいところだ」
『贅沢は空腹の敵です。とりあえずこのカニ缶はもらっていきましょう』
 エドは持ってきた大型のバッグに、カニ缶を詰め込みます。これで少しは飢えも満たせるでしょう。他には何かないのか……と探してみると、今度はビールが山ほど出てきました。

「ビールなんて空腹の癒しにはならないだろうなぁ」
『何を言うのです、エドさん。ビールは食べるパンとして有名な、人類を太らせる悪魔の飲み物ですよ? カニ缶との相性も抜群ですし』
「酒飲みの夕食じゃないんだから、そんな変な組み合わせは嫌だぞ。ビールなんて運ぶのも大変だしな。他には何か……」
 探しに探してみると、今度はカビの生えたチーズがもりもり出てきました。
 たぶん、おそらく、きっとおいしいのでしょうが、どう考えてもこのエンカウント率から考えると、酒飲み以外には嬉しくないお宝回収作業というものです。
「もっとこう、パンとかの主食が欲しいよなぁ」
『コミック的なチーズの何がいけないのか、私にはわかりません。それともマンガ肉のようなものをエドさんはお望みですか?』
「なんだよマンガ肉って。それよりもエリーはどうしたんだ?」
 手分けはいいのですが、まるっきり無反応というのも困りもの。エドは一度厨房を出て、二階へあがって行ったらしいエリーを探します。
 ギシギシという階段を上っていけば、どうやら奥の方から物音がする様子。さて、エリーはそこに……と覗きこめば、何かをラッパ飲みしてはしゃっくりをしているエリーの姿。
「うわ、酒臭いな。というか何飲んでるんだよエリーは?」
「はい、美味しくて仕方がないブドウ酒というものですよ。ブドウ酒はお子様でも飲めますが、エドには分けてあげたくないくらいの美味しさなのです」
「子供が飲酒はどっちにしてもまずいだろ」
「ですからー、わたしは二十六歳だと口を酸っぱく、ブドウ酒も酸っぱく……」
 光の速さでグデグデ状態のエリーに、エドは大変困惑しました。これでは食べ物とかも探していないに違いありません。
 まったく、何のために手分けをしたのやら……と、階下から何かの物音が。さてはムテキングという人物が帰ってきたのかと、エドはすぐさま逃げようとしました。
 が、へべれけになったエリーが動こうとしないので、仕方なくその辺の物陰に身を隠すことに。大きなクローゼットがあったので、その中にエリーを放り込み、自分もハル子を抱えて中に隠れます。
 ギシギシと床が鳴り、何者かが部屋に入ってきた様子。クローゼットの中で息を殺せば、帰ってきた人物が大声で叫びます。


「シーーーット! 俺様のうんまいワインを飲みやがったのはどこの誰だぁ!!」
『ロリババアの仕業だと、声を大にして叫びたいところです』
「ハル子は黙ってろ。というか悪党にしてはまぬけな雰囲気だな」
 ロリババア扱いされたエリーは酔っ払ってうにゅうにゅ言っていますので、そこは問題なさそうです。しかしこれからどうするべきか、問題は山積みの様子。
 こっそり脱出するにも、周囲を捜しまわっているらしいムテキングという人物から逃れるのは、かなり大変そうです。
「くそっ! どこに犯人は隠れていやがるんだっ! 俺様のワインを飲みやがった以上は、ワインと同量の血を流してもらわねぇと気がすまねぇ!!」
「言うことだけは悪党っぽいが、なんか小悪党みたいな雰囲気しかしないんだが」

『実際に小悪党なんじゃないですか? そもそも大悪党ならばワインではなくブランデーをたしなむものです。シャム猫なんかを愛でつつですね』
「そんな変な知識はともかく、このままだと見つかりそうだな。仕方がない、なんとか隙を見つけて、即座に逃げるしか……」
 その時です。うにゅうにゅ言っていたエリーが、『うぅ、ちょっとおトイレに行きたいのです』とか言いつつクローゼットの扉を開けようとしたのは。
 慌てて押さえつけるエドでしたが、漏れる漏れるとやかましいエリー。そのままばたばたやっていたら、クローゼットの扉が外れて、ゴロリンと外へ転がり出てしまいます。
「あ? なんだこのガキどもは?」
 目の前にはドレッドヘアーの強面のお兄さん。ムテキングという名前にふさわしいかは知れませんが、ちょっとタダで見逃してはくれそうもない人物です。
 その前に転がり出てしまったエドたちは、ちょっとどうしようかと考えて……とりあえず『すみません、すぐ帰ります』と逃げを打とうとしました。
 しかし当然、そのまま見逃してくれるはずもなく、エドたちはひっ捕まってしまいました。
「やいてめえら、何か言いたいことはあるか?」
「いや、俺は特に……」
『私としてはそこなロリババアに文句が山ほど』
「うー、おトイレはどこですかー?」
 もう何が何やら、とりあえずムテキングも困ったらしく、エドを代表して掴み上げては『このガキ、なめた真似をしやがって……ぶち殺してやろうか?』と脅します。
 エドとしては自分だけぶち殺されるのはとても困るので、ワインを飲んでしまったのはそこで尿意をこらえている二十六歳の小娘ですよ、と言ったのですが、『何が二十六歳だどう見ても十三歳くらいじゃねぇか!』と怒られてしまいました。当たり前ですね。

「ほれ、そこのガキはトイレに行って来い! その間に俺様は坊主を折檻してやる。さて、右腕と左腕、折られるならどっちからだ?」
「どっちも嫌なんだけど」
『エドさん、ここは妥協してどちらも半分ずつ折るというのはどうでしょう?』
「妥協になってねーだろ馬鹿」
 まったくもって、頭の悪い空間です。それもこれも、緊張感のないハル子と緊張感のないムテキングの責任。
 エドは極めてまじめなのですが、それだけでこのまぬけ空間をどうにかできるはずもありません。
 それでもエドは、なんとかして事態を打破しようと考えました。こういうとき、役に立つものと言えば……しかし悲しいかな、根性論以外では何事も成せそうにもありません。
 エドは困ってしまって、このまま骨を折られるのは嫌だなぁと、半ば投げやりになってしまいました。そこへ戻ってきたさっぱりした表情のエリー。
 捕まっているエドを見ては『まあ、このわたしをかばって酷い目に……エド、あなたはなんて優しく勇敢な少年なのですか。とりあえず火葬と土葬、どちらがいいのでしょうか?』などとほざきます。
「なんにしてもムカつくなお前ら。俺がピンチだってのに楽しんでないか?」
「否定はしないのです。他人の不幸は蜜の味とも言います」
『これでも形だけは心配しなくもないですが』
「お前らそろって、後で折檻してやる!」

 とにかくエドのピンチは最大限。このままでは骨を折られるのは確定っぽいので、なんとか逃げようと色々と考えてみます。
 しかしこれと言ってよいアイデアは……と、ひとつだけ閃いたことがあります。しかしそれが良いことなのかどうなのか、そこまではわかりません。
 それでも藁にもすがる心持で、エドはムテキングという男に声をかけます。
「な、なぁ。あんたってすごいロボットを持ってるんだろ?」
「ああ、そうだが? 最強にかっこいい俺様のロボット……ムテキオーだぜ」
「実はさ、俺もロボットを持ってるんだ。グレゴリオンっていうんだけど、そいつで勝負っていうのはどうだ?」
 なんとなく興味深いという顔をするムテキング。彼にしてみれば、最強のロボットはこの世に二つもいらないのです。

「最強っていうからには、俺の挑戦を受けてくれるよな? なあ、ムテキングさんよ?」
「……ふん。いいだろう。では外で待つ。逃げようとは思うなよ、念のためにそこの小娘を人質にしておくからな?」
「あら、わたしは人質なのですか?」
「なんで嬉しそうなのかがわからないが、お前邪魔だしちょっとおとなしく人質になっていてくれ」
「囚われの姫君……うっとり」
『エドさん、この女は危ないので捨てて行きましょう』
 エドとしてもそうしたかったのですが、それではあまりにも立つ瀬がないというもの。
 とりあえずホテルから抜け出しては、ハル子と共にグレゴリオンを取りに戻るエドなのです。
 グレゴリオンのもとに戻れば、ハル子がこう言います。『やはりあのロリババアは放置して、私と手に手をとって駆け落ちしませんか?』と。
 エドとしては駆け落ちはともかく、逃げられるものならば逃げたいとは思います。
 しかし腐っても男の子。人質の自覚がなくても、エリーは助けなければいけません。たとえノリノリで縛られていても、頭がかわいそうであっても、それだけは何とかしなければ。
「とにかく、勝負は勝負だ。グレゴリオンで負けるとも思えないが、油断しないように行くぜ!」
『エドさんは男前ですね。そんな若さはためらわないことなので、私も応援だけはしておきましょう』
「嘘でも協力するって言えよ」
『しかしサブパイロットには精神コマンドしか……』
「なんだよコマンドって。まあいい。急いであのホテルに向かうぞ!」
 がしゃがしゃとグレゴリオンを歩かせれば、ホテルまではすぐに到着しました。さて、ここからどうするのか……と、向こうの方から同じく現れた巨大な物体。

 その異様な姿に、エドは思わず顔をひきつらせました。それもそのはず、現れたロボットらしいものは、全身が金ぴかで……しかも足が四本。両腕には輝くハサミ。
「……カニ?」
『カニですね。黄金ガニって、新種でしょうか?』
 これにはさすがに驚いたエドたちですが、そのカニだか何だかのコックピットから通信が入っては、『ふはは、俺様のムテキオーに驚いたか!』とまで言われては、なんとか現実を理解するしかありません。
「ま、まあ、あれだ。エビだかカニだかが俺たちの敵だ。一気に行くぞ、ハル子、サポートしろ!」
『甲殻類ごときに全力を出す必要もありません。指先ひとつでダウン確定』
「やる気を出せよ。仮にもエリーが人質に……って、あいつはどこだ?」
 全周モニターの中を見回せば、黄金のカニの頭の付近に縛られてひっついているエリーの姿。
「やいコラ、そういうのは卑怯だろ!」
【俺様に言うな! この小娘がこうしろってうるさかったんだよ! なんだこいつ、人質のくせに妙にハイテンションで……お前の仲間は頭がパーなのか?】
「くそっ、いろんな意味で言い返せないぜ!」
『悩むだけ頭の無駄遣いですから、ここはもろとも破壊してしまうのがベストかと』
「そうもいかないだろ。仮にも顔見知り、殺して化けたら目も当てられないぜ」
『化けるだけの頭があればいいのですが……とりあえずレッツ・ファイトです』


 こうして始まる頭の悪い戦い。黄金のカニを相手にするグレゴリオンは、なんだかとっても情けないヒーローです。でも考えてみれば、悪役の方がカッコよかったら問題ですが。
 とかそういうことを抜きにしても、黄金のカニは意外と手ごわい相手でした。エドがまだグレゴリオンに不慣れだというのもありますが、多脚式ロボットは運動性ではなかなかのもの。
 素早いフットワークで動いては、ハサミでガンガンと殴りつけてきます。揺れるコックピットの中、エドは目を回しそうでしたが、とりあえずは反撃を……と、カニのことを思いっきりぶん殴ります。
【っと、やるじゃねぇか! だがその程度でムテキオーは倒せねぇぜ!】
「調子に乗りやがって……でも、実際に堅いぜ、あいつ。カニの装甲は伊達じゃないのか?」

『エドさん、こうしてはどうでしょう。あの柔らかそうな頭から、一気に殴り潰してしまうというのは』
「頭にはエリーがくっついてるんだよ。殴ったらその、後味悪いじゃないか」
『ではこうしましょう。殴るには殴りますが、そのあとのことは見なかったことにすると』
 そんな会話がされているとも知らず、カニロボットにひっついているエリーは『がんばってくださいなのです! このわたしのヒロイン人生のステップアップのためにもです!』とか叫んでいます。
 手加減をしている余裕はないのですが、手加減をしないとスプラッターなことになるのは間違いなし。エドは大いに困りましたが、とりあえず正攻法でカニロボットのボディを殴り続けます。
 こうして始まる頭の悪い戦い。黄金のカニを相手にするグレゴリオンは、なんだかとっても情けないヒーローです。でも考えてみれば、悪役の方がカッコよかったら問題ですが。
 とかそういうことを抜きにしても、黄金のカニは意外と手ごわい相手でした。エドがまだグレゴリオンに不慣れだというのもありますが、多脚式ロボットは運動性ではなかなかのもの。
 素早いフットワークで動いては、ハサミでガンガンと殴りつけてきます。揺れるコックピットの中、エドは目を回しそうでしたが、とりあえずは反撃を……と、カニのことを思いっきりぶん殴ります。
【っと、やるじゃねぇか! だがその程度でムテキオーは倒せねぇぜ!】
「調子に乗りやがって……でも、実際に堅いぜ、あいつ。カニの装甲は伊達じゃないのか?」

『エドさん、こうしてはどうでしょう。あの柔らかそうな頭から、一気に殴り潰してしまうというのは』
「頭にはエリーがくっついてるんだよ。殴ったらその、後味悪いじゃないか」
『ではこうしましょう。殴るには殴りますが、そのあとのことは見なかったことにすると』
 そんな会話がされているとも知らず、カニロボットにひっついているエリーは『がんばってくださいなのです! このわたしのヒロイン人生のステップアップのためにもです!』とか叫んでいます。
 手加減をしている余裕はないのですが、手加減をしないとスプラッターなことになるのは間違いなし。エドは大いに困りましたが、とりあえず正攻法でカニロボットのボディを殴り続けます。
【ムハハ、ムダムダぁ! ムテキオーの装甲をパンチごときでぶち破ろうなんざなぁ!】
『制御プログラムとして、提案。今こそドリルを使うべきです』
「いや、それは俺も考えた。でもうっかり殺してしまう可能性がある武器じゃ……」
『大丈夫です。見たところあのムテキングという男も、頭が悪いロリババアも、存在自体がギャグ属性っぽいので、たぶん大爆発をしてもアフロで済みます』
「済まねぇよ馬鹿。くそ、何かいい方法は……」
 ムテキオーのハサミが、グレゴリオンの頭を捕まえます。そのままミシミシと挟み潰そうとする有様。このままではいくらグレゴリオンが強固でも、破損ぐらいはしてしまうかもしれません。
 もう手段は選んでいられない。たとえその先に、悲惨な運命が待ち受けていたとしても。
 最悪、見なかったことにしてしまえばいい。それがハル子ことHAL‐800の思惑通りであったとしても、エドには他に方法がありませんでした。だから、エドは叫ぶのです。

「ハル子! グレゴリオン、ドリルモード!」
『イエス、エド。ドリルアーム展開。フライホイール駆動開始。オートバランサー、ジャイロ効果にカウンター作動』
 轟々と唸りを上げるドリル。まさにそれは、男の武器です。雄々しきドリルには、何人たりとも寄せ付けない勢いがあります。
 ぶっちゃけて言えばドリルパワーの前には何事も問答無用という雰囲気があるのです。もっと言えば必殺技には無抵抗が一番という感じ。
 さすがにムテキングを名乗る男も大いに恐れをなして、『ど、ドリルごときでムテキオーは……!』とか叫びますが、どうも状況が不利なことを、本能的にかぎ分けている様子。
 しかもエドとしては、もう手加減するつもりは一切なかったのです。ムテキングとエリーの運命は? まあ、どうにかなるんじゃないか、ということ。だからこそ、彼らは……!
『たとえ何があろうとも、避けて通れぬ道がある。闇を切り開くのは勇気、希望、そして魂の……!』
「うおおぉぉっ! ドリルゥゥゥッ!!」
 ぎゃりぎゃりっと分厚い装甲を穿っていくドリル。たとえカニだかなんだか、金ぴかの装甲でも、ドリルの前にはひとたまりもありません。
【お、俺様の、ムテキオーが……ナンバショーーーット!!】
 ぼむっと火を吹いて、ムテキオーは動作停止しました。そしてそのまま崩れ落ちます。
 なんとかムテキングもエリーも無事な様子。これで一安心。エドはやれやれとため息をつきます。

『エドさん、エドさん。とどめは刺さないのですか?』
「その必要があるのか? というか、今回ばかりは俺たちの方が悪人っぽいのに」
『いえ、あのロリババアがいかにも騒々しいのが気に食わないのです。なんか嬉しそうに縛られているのが不気味ですらあります。ここは素直に潰してしまうべきです』
 黄色い歓声を上げているロリババア……ではなく、エリーという女の子(?)に、エドも大いに辟易とするのでした。
 ……さて、壊れたロボットからムテキングを引っ張り出してみれば、彼はとても哀れに涙でぐしゃぐしゃの顔をしていました。
 いくらなんでも、悪党には似合わない表情です。もっとも悪党であっても、怖い思いをしたのには違いがないのですが……。
「お、俺様のラブリームテキオーが……」
「悪いけど、勝負は勝負だったからな。こっちだって手加減はした……ということにしておいてくれ」
「こんなガキに、俺様のムテキオーが……うぅ、せっかく媚売って回してもらったナイスマシンが……」
 よくわからないことを言うムテキングです。何を媚を売って回してもらったというのでしょう?
「てめえら、俺様が新統合政府にいくら回したか知ってんのか!? あれ一台のために、俺様は略奪し続けなきゃならなかったんだぜ!?」
「なんだよそれ? 新統合政府って…あいつらに裏で手を回していたっていうのかよ?」
「そうだよ! そうでもしなけりゃ、ケチな小悪党が大手を振ってのし歩けるかよ! うぅ、せっかく俺様の天下が来たと思ってたのによぉ……!」


 話を聞く限りでは、どうもムテキングという人物も、典型的な情けない悪党であった様子。
 しかもよりにもよって、あの新統合政府という胡散臭くて仕方がない連中と関わっていたというのです。
 新統合政府……そもそも世界の秩序を担うと言っておきながら、こういう風に小悪党を支援していたということ。
 それは考えようによっては、何かきな臭いものを感じさせる出来事でもあったのです。
 ですが、とりあえずエドとその仲間にとってみれば、そんなのはどうでもよいことだったのです。とりあえずは悪を片付けたわけですし、これでみんなもニコニコ笑顔で暮らせる……と思います。
 
そうでなければ、まったくエドたちの行為は無意味であると、そういうことになってしまいますから。
 しかしさて、これからどうしようかと考えるエドです。とりあえず当座の食料や資金などは、ムテキングを倒して得たものでなんとかなるのですが
(そもそもそれが正義のやることか? という疑問には、ハル子曰く古典的RPGのお約束、ということです)、この先何を目標にすればいいのやら。
 適当に生きていくことは、エドにとってみれば当たり前の日常でした。しかしもう、そのような平穏な日常には戻れそうもありません。
 なにしろグレゴリオンという巨大ロボットと、その制御プログラムであるHAL‐800。それに加えて頭がかわいそうなエリーという女の子(?)まで引き連れて、フツーに生きていくなんて無理なお話。
 ではどうすればいいのか。うーんと考えているところへ、エリーがこんなことを言うのです。
「わたしの国へ向かって、その安否を確かめてほしいと思うのです」
「でもお前の国って、新統合政府が……」
「はいなのです。わたしの国は、新統合政府に乗っ取られ中なのです。でもでも、残されたみんなを思うと、わたしのかわいい胸は、張り裂けそうになるのですよ」
『かわいいというか、かわいそうというか……まあ、立派ではない胸ですよね』
「丸っこいのが何か言っていますが、気にしないのです。というわけでエド、わたしの国へ向かうといいのです。そうすればきっと、いいことがあると思うのですよ」
 いいことというのがなんなのか、さっぱりわからないのが心配なエドでしたが、他にやるべきことも特にない以上は、まあせっかくなので、エリーの言うとおりに少しばかり動いてみようかと思ったのでした。


 こうしてエドの一行は、北の方へと向かいます。グレゴリオンを自動操縦にして、その肩に乗ってエリーと話をしながらの道中です。
「そもそもエリーの国って、どういうところなんだ?」
「古くより続く北の王国なのです。そこではわたしの一族……とはその、縁もゆかりもない人たちが、長らく国を治めていたのです」
「縁もゆかりもない人のことなんか、どうでもいいんじゃないか?」
「そうはいかないのです。やはり高貴な人間には、負うべき責務というものがあるのですよ? それにわたしのようにうつくしーい女性は、そもそもが抵抗運動のシンボルになるものだと歴史も証明していますし」
『ジャンヌ・ダルクは慰みものにされた上に火炙りになりましたが。というかそこでエドさんとイチャつかないでください』
「丸っこいのが何か言っていますが、わたしは気にしないのです。エド、おねーさんの言うことをよく聞いておけば、いろいろと美味しい思いもできるのですよ?」
『何がおねーさんだか、ロリババアのくせに。貧乳のくせに。ぺったんこのくせに』
「いいから丸っこいのはロボットを動かすのに集中するがいいのです。エド、おねーさんの言うことは聞くものですよ?」
『放り出しましょうかこのクソロリババア……』
 なにはなくとも、旅は続くのです。荒れた風吹きすさぶ荒野から、一路北の国へと。
 そしてそこでは、驚愕……かどうかは知れませんが、大体予想通りの展開というものが待っているのです。
 何が真実で、何が嘘なのか。若い少年でしかないエドには、まだわかったものではありません。しかし彼も一人の男として、大きな時代の流れの中にいるのです。
 さて、流れに押し流されるだけなのか、それとも抗うことができるのか。エドと仲間の運命は……?

・第四話へ続く……

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