事実と真実、それは似て非なるものである。
事実は起こった出来事、真実は見たままの出来事である。
記録を事実、記憶を真実とするならば、その両者には大きな差があるだろうか?
少なくとも認知の仕方次第では大きな違いが現れるだろう。
だが、真実と事実にも一つだけ共通点がある。
それは、どちらも人の手によって歪められる存在であるということだ。
そして歪められた物は”人の為”と書かれた”偽り”となり、人々の心のよりどころになるのだった。
結局の所、事実も真実も多くの人々にとって見たくはない物の一つ、なのかもしれない……。
事実は起こった出来事、真実は見たままの出来事である。
記録を事実、記憶を真実とするならば、その両者には大きな差があるだろうか?
少なくとも認知の仕方次第では大きな違いが現れるだろう。
だが、真実と事実にも一つだけ共通点がある。
それは、どちらも人の手によって歪められる存在であるということだ。
そして歪められた物は”人の為”と書かれた”偽り”となり、人々の心のよりどころになるのだった。
結局の所、事実も真実も多くの人々にとって見たくはない物の一つ、なのかもしれない……。
ケントはベットに入るとあっという間にまどろみの中へと飛び込んでいった。
彼は今、長い長い戦いをようやく終えたばかりなのであった。そう、新型開発という戦いを。
月面から帰還後、バイラムに対抗するために三日三晩、研究室に篭りきりで設計に没頭した。
機体バランス、武装の一新、新型エンジンの搭載。その全てに自分の頭を全て使った。
ナイツとは違った自分の最高傑作だと言っても過言ではない。
だが、練度を上げる為に明日から微調整を進めなくてはならない。
そう、明日から最も長い一日が始まろうとしているのだ。
「教授……」
眉間に皺を寄せながら寝言を呟く。
月での出来事はケントにショックを与えた。教授の死、月面の現状、そしてバイラムの正体。
驚きと戸惑いが常に付きまとうことに苛立ちを隠せなかったが、今はなさねばならぬことに没頭するしかなかった。
そう、教授の願いと自分の技術者としての誇りと人類の希望をかけて……。
彼は今、長い長い戦いをようやく終えたばかりなのであった。そう、新型開発という戦いを。
月面から帰還後、バイラムに対抗するために三日三晩、研究室に篭りきりで設計に没頭した。
機体バランス、武装の一新、新型エンジンの搭載。その全てに自分の頭を全て使った。
ナイツとは違った自分の最高傑作だと言っても過言ではない。
だが、練度を上げる為に明日から微調整を進めなくてはならない。
そう、明日から最も長い一日が始まろうとしているのだ。
「教授……」
眉間に皺を寄せながら寝言を呟く。
月での出来事はケントにショックを与えた。教授の死、月面の現状、そしてバイラムの正体。
驚きと戸惑いが常に付きまとうことに苛立ちを隠せなかったが、今はなさねばならぬことに没頭するしかなかった。
そう、教授の願いと自分の技術者としての誇りと人類の希望をかけて……。
一方、AUAの重慶基地、PM第3格納庫では新型機、黄龍のロールアウトが完了した。
「これが……黄龍!」
眩いばかりの黄金にリーシェンは高鳴りを隠せなかった。
太い腕、これで敵に殴りかかっても壊れないだろう。奥には牽制用のバルカンが付いていた。
バランスの良い足、脚部には姿勢制御用のバーニアのほかに強襲用のブースターがついている。
精悍な顔つきはあの悪魔に比べて、こちらのは神龍のような優美さを感じる。
胸についているエンジンは外宇宙用航行に使う物だ。
「プロジェクト・メキドに参加をしたおかげで予算が下りました。これで完成です」
ヨウシンは完成した黄龍を見ながら安堵のため息を付く。
「しかし、まさかこれほどとは……」
あまりの美しさにため息を付く。武装面も青龍と同じ、いや、それ以上の力を持っている。
だがこの黄龍は一体誰が乗るのだろうか?
思わすヨウシンの方をちらりと見る。
「搭乗員は既に決まっているのですか?」
顔を真っ赤にしながらそれとなくヨウシンに聞いてみる。決まってなければ自分が立候補をしたい。だが自
分よりも操縦が上手い者が何人もいる事を知っていた。
「ええ、もちろんです」
この言葉に落胆の色を見せた。
「誰なのですか?」
「あなたですよ、リーシェン少尉」
「そうですか、リーシェン少尉が……へ?」
すっ呆けた顔でヨウシンの方を向く。ヨウシンは笑みを浮かべながら正面に立った。
「本日付けでチャウ・リーシェン軍曹は少尉に昇進。そしてその初めの任務として試作型黄龍のパイロットを
務めてもらいます」
あまりの事に声が出なかった。これを乗るのはもっと実力が上の人物だと思っていたのだがここまで来ると
現実感が無さ過ぎてただ戸惑うばかりだ。
そんなリーシェンの気持ちを読みきったのか、ヨウシンは厳しめの声で叫んだ。
「リーシェン少尉、復唱を!」
「は、はい! チャウ・リーシェン! パイロット任務に着かせて頂きます!」
ヨウシンの声に背筋を伸ばし精一杯の真顔で答えた。
「では、テストをします。早速搭乗をしてください。」
「了解です!」
リーシェンはコックピットに座り、黄龍のエンジンを起動させた。モニターにシステムチェックの文字が表示さ
れるとゆっくりとした足取りで立ち上がった。
青龍や鳳凰とは違った重みが操縦桿から伝わってくる。気を抜けばすぐに転倒しそうだ。
目の前のシャッターが開くとゆっくりと前へと歩き出した。
「センサー、問題なし。バランサー、OK。各視界、どこも異常なし」
地響きを立てて黄金の龍は空へ羽ばたこうとしていた。背面のバーニアが輝き、姿勢を安定させる。
「黄龍、発進する!」
かけ声とともにペダルを思いっきり踏み込むと黄龍は蒼天を目指し、飛び上がった。
山を越え、雲を突き抜け、どんどん高度を上げていく。
そして高度は五千メートルまで来ると機体を水平にした、エンジンもバランサーも異常は見当たらない。
「こちら、リーシェン。今のところ問題なし、このまま基礎飛行に移る」
「了解」
司令室のオペレーターがそう言うとリーシェンは思いきりペダルを踏んだ。
背面のバーニアが光ると一気に前方へ飛び出していく。
「ぐぅぉ!」
まるで大きな金槌に全身を殴られたかのようなGがリーシェンの身体にのしかかってくる。
これが黄龍の速度か、なんて……速いんだ!
計器を見るとようやくメーターの半分を超えるか超えないかの部分を行ったり来たりしていた。
操縦桿を倒し、機体を上方向へ持っていくとわずか1秒で黄龍は直角に飛んでいった。
だが、これはいけなかった。
「な!」
ガクン、という振動とともに突然の失速を始めた。エンジンを何度も吹かすが高度が上がらない。
そしてバーニアの光が消えるとともに黄龍は落下をし始めた。
「くそ!」
すかさず足元にある緊急用の機動制御バーニアを吹かせ、機体を水平にし、安定を図った。
空気抵抗が安定化するとバーニアは光を取り戻した。
「………ふぅ」
黄龍は無事、安定した飛行へと戻っていった。リーシェンは高度を少し下げると軽くため息を付く。
この黄龍、意外とピーキーな機体なんじゃないか?
そう思うと機体に対し一種の不安感がでてきた。異常な最高速度、少し下げただけでできる急旋回。
どれを取ってもきちんとしたものとは言いがたく感じていた。
「さて、次は武装チェックだ」
今度は落ち着いてゆっくりと操縦桿を倒しながら基地の方へと機体を向けた。
基地の地面が見え始めた頃、通信が入ってきた。
「よし、最後のテストだ。私の玄武を倒して見せろ!」
基地の敷地内には玄武が棒を立てて仁王立ちをしていた。二本の線、間違いなくコウシュンのものだ。
「隊長!」
「いいか、少尉。私に勝てない者がバイラムに勝てると思うな!」
「はっ!」
大地に降り立つと黄龍の装備を確認する。
ミサイル、アサルトマシンガン、小型レールガン。AUAのPM標準装備品が表示された。
その中にリーシェンはリフレクトレーザーガンの項目を見つけた。
ふしぎそうな顔でパネルを見つめるがすぐ別の項目へと視線を移した。
近接兵器は日本刀と鳳凰と同じアタッチメント形式の槍、棍、棒。
そして、意外な武器を発見する。
「手裏剣?」
そう、接近戦兵器の中に何故か手裏剣が混じっていた。数は多くないものの装備の欄に入っていた。
「何故、こんな物が……」
リーシェンは首をかしげるがすぐに通信が入ってきた。
「リーシェン少尉、準備は終わったのか?」
「は、はい!」
「それならすぐに構えろ! 待ったは無しだ!」
「了解!」
黄龍はすぐさま槍を組み立てると玄武のほうへと向けた。がそれよりも早く玄武が踏み込んできた。
「速い!」
玄武の棒が黄龍の顔を潰そうと真っ直ぐ突いて来るが軽く動かしそれをかわした。
だがそのまま黄龍に密着すると今度は身体を掴み、足払いをかけてきた。
「くっ!」
バーニアを噴かせ飛んで避けたがこれは悪手だった
「なに!?」
玄武はそのまま掌打の形で黄龍の胸を叩くと激しい金属の音とともに黄龍はバランスを崩した。
だが黄龍の身体は地面に付くことなく体勢を立て直す。
「ふぅ……」
「なるほどな、それが黄龍か」
ため息を付くリーシェンに対し、コウシュンは目の前にいるPMをじっくりと眺めた。
意外にも黄龍の最大の特徴はその機体バランスの良さである。
従来のPMの戦いの中で最も撃破されやすいのはバランスを崩したときなのであった。
最もバイラムに関して言えば一撃で敵を葬るため、役に立つかどうかと言われると首を捻るが少なくとも倒
されることが無ければすぐに次の行動に移れるのだ。
「だが、それだけではバイラムには勝てん!」
そう言って再び黄龍に向かって進んで行く。
「来る!」
腹に力を入れて再び接近戦へと移ろうとする。今度は棍を手に取り自分の間合いに持ち込もうとする。
だが、またもコウシュンに煮え湯を飲まされる結果となった。
「同じ手を使う者などいない!」
玄武の棒が黄龍目掛けを飛んできた。だがそれを右に飛んで避けるが、それを読んでいたかのように玄武の
持つ大型マシンガンが火を吹いた。
いつの間に!?
飛んできた銃弾を前につい操縦桿を上に倒してしまう。黄龍は多き跳び上がり、銃弾は下を通り過ぎたものの――。
「飛ぶの悪手過ぎるぞ!」
今度は同じく飛んできた玄武が黄龍の腕を横から蹴り飛ばした。
「ぐぅ!」
凄まじい振動がコックピットを、リーシェンの身体を襲う。しかし、すんでで踏ん張り倒れはしなかった。
だが、意識をそちらに向けた瞬間。コウシュンは既に次の手を打っていた。
「なっ!?」
今度はスライディングの要領で黄龍の足を払った。
「しまった!?」
前に倒れようとする黄龍の手を掴み、腰を手を回すとそのまま大きく投げ飛ばされてしまった。
「うわぁぁぁ!」
土煙と轟音を響かせながら黄龍は大地に横たわった。
足を払われての間に起きたたった一瞬の出来事である。
「ぐぅぅぅ……はっ!」
振動が収まり、目を開くとそこにはコウシュンが乗る玄武の棒が突きつけられていた。
「軍曹……いや、少尉。修練が足りないぞ」
棒を地面に立てながらコウシュンは冗談めいた笑みを浮かべる。
「す、すみません」
謝ってはいるが口調から悔しさを滲ませていた。奥歯に力を入れて加味していることからよっぽど悔しかっ
たのだろう。こんなことではパーチャイ少尉に笑われてしまう。そう思い再び黄龍を立ち上がらせる。
「もう一度お願いします」
「良いだろう、来い!」
玄武が棒を構えなおすとリーシェンは深呼吸をしてペダルを踏み込んだ。
「これが……黄龍!」
眩いばかりの黄金にリーシェンは高鳴りを隠せなかった。
太い腕、これで敵に殴りかかっても壊れないだろう。奥には牽制用のバルカンが付いていた。
バランスの良い足、脚部には姿勢制御用のバーニアのほかに強襲用のブースターがついている。
精悍な顔つきはあの悪魔に比べて、こちらのは神龍のような優美さを感じる。
胸についているエンジンは外宇宙用航行に使う物だ。
「プロジェクト・メキドに参加をしたおかげで予算が下りました。これで完成です」
ヨウシンは完成した黄龍を見ながら安堵のため息を付く。
「しかし、まさかこれほどとは……」
あまりの美しさにため息を付く。武装面も青龍と同じ、いや、それ以上の力を持っている。
だがこの黄龍は一体誰が乗るのだろうか?
思わすヨウシンの方をちらりと見る。
「搭乗員は既に決まっているのですか?」
顔を真っ赤にしながらそれとなくヨウシンに聞いてみる。決まってなければ自分が立候補をしたい。だが自
分よりも操縦が上手い者が何人もいる事を知っていた。
「ええ、もちろんです」
この言葉に落胆の色を見せた。
「誰なのですか?」
「あなたですよ、リーシェン少尉」
「そうですか、リーシェン少尉が……へ?」
すっ呆けた顔でヨウシンの方を向く。ヨウシンは笑みを浮かべながら正面に立った。
「本日付けでチャウ・リーシェン軍曹は少尉に昇進。そしてその初めの任務として試作型黄龍のパイロットを
務めてもらいます」
あまりの事に声が出なかった。これを乗るのはもっと実力が上の人物だと思っていたのだがここまで来ると
現実感が無さ過ぎてただ戸惑うばかりだ。
そんなリーシェンの気持ちを読みきったのか、ヨウシンは厳しめの声で叫んだ。
「リーシェン少尉、復唱を!」
「は、はい! チャウ・リーシェン! パイロット任務に着かせて頂きます!」
ヨウシンの声に背筋を伸ばし精一杯の真顔で答えた。
「では、テストをします。早速搭乗をしてください。」
「了解です!」
リーシェンはコックピットに座り、黄龍のエンジンを起動させた。モニターにシステムチェックの文字が表示さ
れるとゆっくりとした足取りで立ち上がった。
青龍や鳳凰とは違った重みが操縦桿から伝わってくる。気を抜けばすぐに転倒しそうだ。
目の前のシャッターが開くとゆっくりと前へと歩き出した。
「センサー、問題なし。バランサー、OK。各視界、どこも異常なし」
地響きを立てて黄金の龍は空へ羽ばたこうとしていた。背面のバーニアが輝き、姿勢を安定させる。
「黄龍、発進する!」
かけ声とともにペダルを思いっきり踏み込むと黄龍は蒼天を目指し、飛び上がった。
山を越え、雲を突き抜け、どんどん高度を上げていく。
そして高度は五千メートルまで来ると機体を水平にした、エンジンもバランサーも異常は見当たらない。
「こちら、リーシェン。今のところ問題なし、このまま基礎飛行に移る」
「了解」
司令室のオペレーターがそう言うとリーシェンは思いきりペダルを踏んだ。
背面のバーニアが光ると一気に前方へ飛び出していく。
「ぐぅぉ!」
まるで大きな金槌に全身を殴られたかのようなGがリーシェンの身体にのしかかってくる。
これが黄龍の速度か、なんて……速いんだ!
計器を見るとようやくメーターの半分を超えるか超えないかの部分を行ったり来たりしていた。
操縦桿を倒し、機体を上方向へ持っていくとわずか1秒で黄龍は直角に飛んでいった。
だが、これはいけなかった。
「な!」
ガクン、という振動とともに突然の失速を始めた。エンジンを何度も吹かすが高度が上がらない。
そしてバーニアの光が消えるとともに黄龍は落下をし始めた。
「くそ!」
すかさず足元にある緊急用の機動制御バーニアを吹かせ、機体を水平にし、安定を図った。
空気抵抗が安定化するとバーニアは光を取り戻した。
「………ふぅ」
黄龍は無事、安定した飛行へと戻っていった。リーシェンは高度を少し下げると軽くため息を付く。
この黄龍、意外とピーキーな機体なんじゃないか?
そう思うと機体に対し一種の不安感がでてきた。異常な最高速度、少し下げただけでできる急旋回。
どれを取ってもきちんとしたものとは言いがたく感じていた。
「さて、次は武装チェックだ」
今度は落ち着いてゆっくりと操縦桿を倒しながら基地の方へと機体を向けた。
基地の地面が見え始めた頃、通信が入ってきた。
「よし、最後のテストだ。私の玄武を倒して見せろ!」
基地の敷地内には玄武が棒を立てて仁王立ちをしていた。二本の線、間違いなくコウシュンのものだ。
「隊長!」
「いいか、少尉。私に勝てない者がバイラムに勝てると思うな!」
「はっ!」
大地に降り立つと黄龍の装備を確認する。
ミサイル、アサルトマシンガン、小型レールガン。AUAのPM標準装備品が表示された。
その中にリーシェンはリフレクトレーザーガンの項目を見つけた。
ふしぎそうな顔でパネルを見つめるがすぐ別の項目へと視線を移した。
近接兵器は日本刀と鳳凰と同じアタッチメント形式の槍、棍、棒。
そして、意外な武器を発見する。
「手裏剣?」
そう、接近戦兵器の中に何故か手裏剣が混じっていた。数は多くないものの装備の欄に入っていた。
「何故、こんな物が……」
リーシェンは首をかしげるがすぐに通信が入ってきた。
「リーシェン少尉、準備は終わったのか?」
「は、はい!」
「それならすぐに構えろ! 待ったは無しだ!」
「了解!」
黄龍はすぐさま槍を組み立てると玄武のほうへと向けた。がそれよりも早く玄武が踏み込んできた。
「速い!」
玄武の棒が黄龍の顔を潰そうと真っ直ぐ突いて来るが軽く動かしそれをかわした。
だがそのまま黄龍に密着すると今度は身体を掴み、足払いをかけてきた。
「くっ!」
バーニアを噴かせ飛んで避けたがこれは悪手だった
「なに!?」
玄武はそのまま掌打の形で黄龍の胸を叩くと激しい金属の音とともに黄龍はバランスを崩した。
だが黄龍の身体は地面に付くことなく体勢を立て直す。
「ふぅ……」
「なるほどな、それが黄龍か」
ため息を付くリーシェンに対し、コウシュンは目の前にいるPMをじっくりと眺めた。
意外にも黄龍の最大の特徴はその機体バランスの良さである。
従来のPMの戦いの中で最も撃破されやすいのはバランスを崩したときなのであった。
最もバイラムに関して言えば一撃で敵を葬るため、役に立つかどうかと言われると首を捻るが少なくとも倒
されることが無ければすぐに次の行動に移れるのだ。
「だが、それだけではバイラムには勝てん!」
そう言って再び黄龍に向かって進んで行く。
「来る!」
腹に力を入れて再び接近戦へと移ろうとする。今度は棍を手に取り自分の間合いに持ち込もうとする。
だが、またもコウシュンに煮え湯を飲まされる結果となった。
「同じ手を使う者などいない!」
玄武の棒が黄龍目掛けを飛んできた。だがそれを右に飛んで避けるが、それを読んでいたかのように玄武の
持つ大型マシンガンが火を吹いた。
いつの間に!?
飛んできた銃弾を前につい操縦桿を上に倒してしまう。黄龍は多き跳び上がり、銃弾は下を通り過ぎたものの――。
「飛ぶの悪手過ぎるぞ!」
今度は同じく飛んできた玄武が黄龍の腕を横から蹴り飛ばした。
「ぐぅ!」
凄まじい振動がコックピットを、リーシェンの身体を襲う。しかし、すんでで踏ん張り倒れはしなかった。
だが、意識をそちらに向けた瞬間。コウシュンは既に次の手を打っていた。
「なっ!?」
今度はスライディングの要領で黄龍の足を払った。
「しまった!?」
前に倒れようとする黄龍の手を掴み、腰を手を回すとそのまま大きく投げ飛ばされてしまった。
「うわぁぁぁ!」
土煙と轟音を響かせながら黄龍は大地に横たわった。
足を払われての間に起きたたった一瞬の出来事である。
「ぐぅぅぅ……はっ!」
振動が収まり、目を開くとそこにはコウシュンが乗る玄武の棒が突きつけられていた。
「軍曹……いや、少尉。修練が足りないぞ」
棒を地面に立てながらコウシュンは冗談めいた笑みを浮かべる。
「す、すみません」
謝ってはいるが口調から悔しさを滲ませていた。奥歯に力を入れて加味していることからよっぽど悔しかっ
たのだろう。こんなことではパーチャイ少尉に笑われてしまう。そう思い再び黄龍を立ち上がらせる。
「もう一度お願いします」
「良いだろう、来い!」
玄武が棒を構えなおすとリーシェンは深呼吸をしてペダルを踏み込んだ。
リーシェンとコウシュンの訓練が開始されて十分くらい立った頃、司令室ではヨウシンがお茶を飲んでいた。
先日の訓練の結果だ。一人か二人残れば良いと思っていたがまさか三十人以上も残っていた。
「素晴らしい……」
思わず呟いてしまう。かなり強硬的なスケジュールにもかかわらずここまでいると頼もしく感じる。
甘めにつけたつもりはないのですがね……
そう思った矢先、司令室の扉が開いた。ナタリア大尉だった。
大尉はヨウシンの前に立つとすぐさま敬礼をする。
「失礼します、水原奈央伍長を先ほど拘束しました」
ナタリア大尉の後ろには両脇を抱えられた奈央が居た。
「ご苦労様です」
彼女は引きづったまま司令室に入って来た。
痩せましたね……
以前の彼女とは到底思えなかった。服は破れ汚れており、顔は完全に憔悴し切っていた。足に力が入らない
らしく両の腕にいる軍人達にもたれかかっていた。覚悟は出来ていた、と言っていた彼女がこうもボロボロに
なるとは……。
「水原伍長、大丈夫ですか?」
社交辞令気味にヨウシンが言葉をかけるが奈央は俯いたまま黙ったままだ。
魂がありませんね……。仕方ありません、少し刺激を与えてみましょう。
「森――」
「!?」
最初の一文字を言っただけで彼女の顔がさらに蒼白になる。唇は震え、瞳が落ち着きなく動き出した。足を
バタバタと動かし出し、この部屋から逃げようとし始めた。
「こら! 落ち着くんだ!」
ナタリアが静止を促すが奈央の耳には入っていないのか決して止まろうとはしなかった。
そんな奈央を見ながらヨウシンは引き出しにある書類を取り出すと、それに目を通し始めた。
書類は森宮一明に関するデータであった。
西暦2461年生まれ、国籍は旧日本の鳥取市。十二歳、同市立小学校卒。十五歳、同市立中学卒。十八歳
鳥取で最高ランクの高校、二十世紀高校卒。二十三歳、東京特工大学工学部、機械学科卒。二十五歳、種子島
宇宙開発センターに就職、スペースシャトルの点検を仕事とする。二十八歳、スペースシャトル”大雉”の搭
乗者となる。二十九歳、第一子、祐一誕生。三十二歳、NASAに転職。三十五歳、宇宙ステーション『スター
ゲイザー』のオペレーターに就任。四十歳、ADAM乗組員に抜擢される。四十三歳、ADAMが消息を絶っ
たために彼も行方不明となる。その後、一年を経過したので死亡となる。
なるほど、かなり順風満帆な人生を送ってきたようですね。
ヨウシンは笑みを浮かべながらページをめくる。
性格はいたって温厚かつユーモアがある人物。ただし、顔に似合わずかなり頑固な部分あり。家族思いな人
物で毎月必ず通信を送り、八月には休暇を取り、家族の元に帰ったりする。杓子定規気味に決まった時間、日
付に連絡をするため定期報告とあだ名をされたこともあり。また、武術経験がかなり豊富であり、空手、剣道、
柔道などの段位者であった。さらに私学ではあるが棒術や射撃訓練も経験をしたことがあると本人の証言がある。
素質は十分にある、と言うことですか……。
「し、司令。水原伍長をいかがなさいますか?」
少々もてあまし気味になってきたのか困り顔でヨウシンに指示を仰ぐ。
「医務室に連れて行き、カウンセリングを受けさせなさい。くれぐれも手荒な扱いはしないように…」
「了解しました、おい!」
ナタリアは二人に声をかけると司令室を去っていった。
ヨウシンはその後姿を見て、小さく呟いた。
「さて、バイラムの目的を整理してみましょう」
バイラムの目的、それを考える上で重要になってくるのがこれまでのバイラムの行動である。
一つ、ユニオンの新型機を破壊した。 二つ、AUAの偵察機を破壊した。 三つ、ステイツでの一方的な
PM破壊。 四つ、オーストラリアの軍事施設攻撃。五つ、インド沖の海軍軍事勢力の壊滅。六つ、南アフリ
カの武装部族民の殲滅。七つ、中東テロリストの戦闘に介入。そして八つ、国連合同演習時に核兵器を使用する。
最初は軽度とも見えるが徐々にだが手段を強硬化していってる。その最も足る例が八つめの核兵器の使用だ。
バイラムはどこで核を手に入れたか、よりも、何故、核を使用したのか? と言う問いが重要視してみる。
核を行使すればバイラムはかなり厳しいマークを受けることになるだろう。それだけではない、人類に対し
宣戦布告したも同然だ。しかもバイラムの存在はどの国の物でもないという事は三強だけでなく国連や他の国
にとっても大きなメリットだ。正義や大義が立て易く、すぐさま戦争に持っていける。無論、そうなれば自分
達は線上に借り出されるが今のところ思ったほど来ていない。国連も各国家もバイラムを匿っているという情
報があればすぐさま戦争になる事は確実だが、もし見つかったとしてもバイラムに対して対抗手段が見当たら
ない以上。手出しはできないだろう。共有結合による装甲は理解出来たがそれが有効であるという確証は今の
ところ無い。
そして気になることがある。一体誰がバイラムを作ったのか? という問いだ。
バイラムを作ったのは少なくとも三強ではない。あそこまでデタラメなPMはいくらなんでも作れはしない。
軍需産業はどうだろうか? いや、軍需産業は基本的にPMや戦車といったあからさまな軍事兵器を作るこ
とは法律で禁止されている。もし仮に自作できたとしても癖や仕様といったものが必ず現れるはずだ。残念だ
がバイラムにはそういったものが一切確認されていない。
ヨウシンは引き出しからバイラムの資料を取り出す。
最初の疑問、なぜ軍事基地を襲ったのだろうか? あそこではユニオンの新型が発表されていた。
ここ数年の間、新しいPMは一切開発されていない。麒麟や鳳凰といったものはバイラムが出なければ開発
はされなかっただろう。そう考えるとバイラムの目的は我々に新型機を開発させようというのだろうか?
だが、それなら影で暗躍をし、戦争を引き起こさせたほうがいい。戦争ならば新型PMを開発してもおかし
くはない。それをしないのは一体……。
ふと、ヨウシンの頭に昔のことが思い出される。『新型開発費だけでは物足りず追加予算だぞ!』
そうだ、AUAでは軍事費がやたらと問題視されていた。国家予算の三割が軍事費であり、福祉や交通費に
お金が全く回らない。現在、この不景気で給料が減ってないのは軍人か、公務員だけだ。もしも、その軍人を
減らせるのだとしたら……
「実にうってつけですね、バイラムは」
ステイツでは退役軍人の年金が馬鹿にならない。その管理をしているのは軍事省だ。
そしてユニオンでは長者番付で上位に入っているのは軍需産業者たちだ。
バイラムが軍を潰すのは軍の不要を訴えるため。そう考えるとつじつまが合う。その証拠にバイラムは一度
も都市攻撃を行っていなかった。
「調べてみる価値はありますね」
ヨウシンは机の上に乗っている受話器に手を伸ばした。
先日の訓練の結果だ。一人か二人残れば良いと思っていたがまさか三十人以上も残っていた。
「素晴らしい……」
思わず呟いてしまう。かなり強硬的なスケジュールにもかかわらずここまでいると頼もしく感じる。
甘めにつけたつもりはないのですがね……
そう思った矢先、司令室の扉が開いた。ナタリア大尉だった。
大尉はヨウシンの前に立つとすぐさま敬礼をする。
「失礼します、水原奈央伍長を先ほど拘束しました」
ナタリア大尉の後ろには両脇を抱えられた奈央が居た。
「ご苦労様です」
彼女は引きづったまま司令室に入って来た。
痩せましたね……
以前の彼女とは到底思えなかった。服は破れ汚れており、顔は完全に憔悴し切っていた。足に力が入らない
らしく両の腕にいる軍人達にもたれかかっていた。覚悟は出来ていた、と言っていた彼女がこうもボロボロに
なるとは……。
「水原伍長、大丈夫ですか?」
社交辞令気味にヨウシンが言葉をかけるが奈央は俯いたまま黙ったままだ。
魂がありませんね……。仕方ありません、少し刺激を与えてみましょう。
「森――」
「!?」
最初の一文字を言っただけで彼女の顔がさらに蒼白になる。唇は震え、瞳が落ち着きなく動き出した。足を
バタバタと動かし出し、この部屋から逃げようとし始めた。
「こら! 落ち着くんだ!」
ナタリアが静止を促すが奈央の耳には入っていないのか決して止まろうとはしなかった。
そんな奈央を見ながらヨウシンは引き出しにある書類を取り出すと、それに目を通し始めた。
書類は森宮一明に関するデータであった。
西暦2461年生まれ、国籍は旧日本の鳥取市。十二歳、同市立小学校卒。十五歳、同市立中学卒。十八歳
鳥取で最高ランクの高校、二十世紀高校卒。二十三歳、東京特工大学工学部、機械学科卒。二十五歳、種子島
宇宙開発センターに就職、スペースシャトルの点検を仕事とする。二十八歳、スペースシャトル”大雉”の搭
乗者となる。二十九歳、第一子、祐一誕生。三十二歳、NASAに転職。三十五歳、宇宙ステーション『スター
ゲイザー』のオペレーターに就任。四十歳、ADAM乗組員に抜擢される。四十三歳、ADAMが消息を絶っ
たために彼も行方不明となる。その後、一年を経過したので死亡となる。
なるほど、かなり順風満帆な人生を送ってきたようですね。
ヨウシンは笑みを浮かべながらページをめくる。
性格はいたって温厚かつユーモアがある人物。ただし、顔に似合わずかなり頑固な部分あり。家族思いな人
物で毎月必ず通信を送り、八月には休暇を取り、家族の元に帰ったりする。杓子定規気味に決まった時間、日
付に連絡をするため定期報告とあだ名をされたこともあり。また、武術経験がかなり豊富であり、空手、剣道、
柔道などの段位者であった。さらに私学ではあるが棒術や射撃訓練も経験をしたことがあると本人の証言がある。
素質は十分にある、と言うことですか……。
「し、司令。水原伍長をいかがなさいますか?」
少々もてあまし気味になってきたのか困り顔でヨウシンに指示を仰ぐ。
「医務室に連れて行き、カウンセリングを受けさせなさい。くれぐれも手荒な扱いはしないように…」
「了解しました、おい!」
ナタリアは二人に声をかけると司令室を去っていった。
ヨウシンはその後姿を見て、小さく呟いた。
「さて、バイラムの目的を整理してみましょう」
バイラムの目的、それを考える上で重要になってくるのがこれまでのバイラムの行動である。
一つ、ユニオンの新型機を破壊した。 二つ、AUAの偵察機を破壊した。 三つ、ステイツでの一方的な
PM破壊。 四つ、オーストラリアの軍事施設攻撃。五つ、インド沖の海軍軍事勢力の壊滅。六つ、南アフリ
カの武装部族民の殲滅。七つ、中東テロリストの戦闘に介入。そして八つ、国連合同演習時に核兵器を使用する。
最初は軽度とも見えるが徐々にだが手段を強硬化していってる。その最も足る例が八つめの核兵器の使用だ。
バイラムはどこで核を手に入れたか、よりも、何故、核を使用したのか? と言う問いが重要視してみる。
核を行使すればバイラムはかなり厳しいマークを受けることになるだろう。それだけではない、人類に対し
宣戦布告したも同然だ。しかもバイラムの存在はどの国の物でもないという事は三強だけでなく国連や他の国
にとっても大きなメリットだ。正義や大義が立て易く、すぐさま戦争に持っていける。無論、そうなれば自分
達は線上に借り出されるが今のところ思ったほど来ていない。国連も各国家もバイラムを匿っているという情
報があればすぐさま戦争になる事は確実だが、もし見つかったとしてもバイラムに対して対抗手段が見当たら
ない以上。手出しはできないだろう。共有結合による装甲は理解出来たがそれが有効であるという確証は今の
ところ無い。
そして気になることがある。一体誰がバイラムを作ったのか? という問いだ。
バイラムを作ったのは少なくとも三強ではない。あそこまでデタラメなPMはいくらなんでも作れはしない。
軍需産業はどうだろうか? いや、軍需産業は基本的にPMや戦車といったあからさまな軍事兵器を作るこ
とは法律で禁止されている。もし仮に自作できたとしても癖や仕様といったものが必ず現れるはずだ。残念だ
がバイラムにはそういったものが一切確認されていない。
ヨウシンは引き出しからバイラムの資料を取り出す。
最初の疑問、なぜ軍事基地を襲ったのだろうか? あそこではユニオンの新型が発表されていた。
ここ数年の間、新しいPMは一切開発されていない。麒麟や鳳凰といったものはバイラムが出なければ開発
はされなかっただろう。そう考えるとバイラムの目的は我々に新型機を開発させようというのだろうか?
だが、それなら影で暗躍をし、戦争を引き起こさせたほうがいい。戦争ならば新型PMを開発してもおかし
くはない。それをしないのは一体……。
ふと、ヨウシンの頭に昔のことが思い出される。『新型開発費だけでは物足りず追加予算だぞ!』
そうだ、AUAでは軍事費がやたらと問題視されていた。国家予算の三割が軍事費であり、福祉や交通費に
お金が全く回らない。現在、この不景気で給料が減ってないのは軍人か、公務員だけだ。もしも、その軍人を
減らせるのだとしたら……
「実にうってつけですね、バイラムは」
ステイツでは退役軍人の年金が馬鹿にならない。その管理をしているのは軍事省だ。
そしてユニオンでは長者番付で上位に入っているのは軍需産業者たちだ。
バイラムが軍を潰すのは軍の不要を訴えるため。そう考えるとつじつまが合う。その証拠にバイラムは一度
も都市攻撃を行っていなかった。
「調べてみる価値はありますね」
ヨウシンは机の上に乗っている受話器に手を伸ばした。
そしてステイツではボルスとケントが新型の最終チェックを行っていた。
基地の格納庫にある手すりに手を置きながら目の前の愛機を見つめる。
「これが新型機か……」
白銀の騎士に銀の翼が追加されている。それだけではなく全体の見直しも行ったことにより今までのナイツとは
違い、シャープさが増した感じを受ける。
「名前はパラディン、僕が持てる全てを注ぎ込んだ最高傑作さ」
「馬力も武装も全てナイツよりも上だな」
ケントから渡された資料を見つつ目の前の騎士を見る。
「ああ、アルとレイには悪いけど二人にはこのロングランスを装備させる」
ナイツの方を見ると一本の槍を握っていた。長さはPMより大きく、振り回すのも大変そうだった。
「あれもバイラムと同じ金属なのか?」
「ああ、本来なら三期ともパラディンにしてあげたいたところなんだけど、流石にこれ以上やるとお金がかかるからね」
ケントは軽くため息を付いた。
共有結合金属による武器は思ったよりも金が掛かった。理論は完璧でもそれを実用化するとなるとそれなり
の資金が必要なり、それを貰おうとするステイツ軍事省から駄目出しを喰らい、やむなく国連からもたらされ
た資金を使ったが予算の七割を使うことになってしまった。
そのため、ボルスの機体はワンオフと特注品となった。無論、このパラディンを作るのにかかった費用もまた
とんでもないものであったが。
「だがパラディンはいただけないな、せめてキングと名づけたいのだが…」
ボルスがそう言うとケントは軽くため息を付いた。
「おいおい、忘れたのかい? うちのPMがチェスからとった理由」
「うん? なにか理由でもあったか?」
「ふぅ、軍事教則書ぐらい読んでおきなよ」
ケントはあきれ返りながらゆっくりと説明をし始めた。なぜステイツのPMがチェスから取ったのかを。
基地の格納庫にある手すりに手を置きながら目の前の愛機を見つめる。
「これが新型機か……」
白銀の騎士に銀の翼が追加されている。それだけではなく全体の見直しも行ったことにより今までのナイツとは
違い、シャープさが増した感じを受ける。
「名前はパラディン、僕が持てる全てを注ぎ込んだ最高傑作さ」
「馬力も武装も全てナイツよりも上だな」
ケントから渡された資料を見つつ目の前の騎士を見る。
「ああ、アルとレイには悪いけど二人にはこのロングランスを装備させる」
ナイツの方を見ると一本の槍を握っていた。長さはPMより大きく、振り回すのも大変そうだった。
「あれもバイラムと同じ金属なのか?」
「ああ、本来なら三期ともパラディンにしてあげたいたところなんだけど、流石にこれ以上やるとお金がかかるからね」
ケントは軽くため息を付いた。
共有結合金属による武器は思ったよりも金が掛かった。理論は完璧でもそれを実用化するとなるとそれなり
の資金が必要なり、それを貰おうとするステイツ軍事省から駄目出しを喰らい、やむなく国連からもたらされ
た資金を使ったが予算の七割を使うことになってしまった。
そのため、ボルスの機体はワンオフと特注品となった。無論、このパラディンを作るのにかかった費用もまた
とんでもないものであったが。
「だがパラディンはいただけないな、せめてキングと名づけたいのだが…」
ボルスがそう言うとケントは軽くため息を付いた。
「おいおい、忘れたのかい? うちのPMがチェスからとった理由」
「うん? なにか理由でもあったか?」
「ふぅ、軍事教則書ぐらい読んでおきなよ」
ケントはあきれ返りながらゆっくりと説明をし始めた。なぜステイツのPMがチェスから取ったのかを。
ステイツのPMが何故チェスから取ったのか。その理由を話すには少し時間を遡らなくてはいけない。
事の起こりはステイツ初のPMポーンが完成したことから始まる。
このPMには様々な名前が付けられた。ヘラクレス、オーディン、ワシントン。実に様々だった。
しかし、当時の責任者マクシミリアン・ボイド中将が選んだのは”ポーン”だった。
当然のように無数の反対が上がった。ステイツ初のPMにこんな貧弱な名前をつけるとは何事だ。将軍は開
発者たちの苦労を何も分かってはいない。中には中将の退役を仄めかす者も居た。
そして開発主任であるジャック・ゲルフは直接中将に問いただした。
簡単に言えば中将の部屋に単身殴りこみに行ったと言った方が正しい。
「何故ポーンなのですか? 折角のPMが泣いていますよ! 我々は名前の変更を要求します」
重苦しい空気の中、ジャックの言葉にボイド中将は厳かに口を開いた。
「では、聞こう。その武器は何のためだ? このパンツァーモービルという兵器は何のためにある?」
「この国の……国の為、そして国民の為です」
「それならいい」
ボイドは瞳を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。しかし一方のジャックはボイド中将の答えに顔を真っ赤にしている。
「答えになってません! 名前の訂正をお願いします」
ジャックの言葉にボイド中将は少し悲しそうな顔をした。
「そうか……仕方がない、名前を撤回しよう」
「本当ですか!?」
自分の意志が通じたのかとジャックは思った。中将の答えを聞いて満面の笑みが自然と浮んでしまう。
「ああ……」
「ようし早速――」
ジャックは部屋から出て行こうとする。
事の起こりはステイツ初のPMポーンが完成したことから始まる。
このPMには様々な名前が付けられた。ヘラクレス、オーディン、ワシントン。実に様々だった。
しかし、当時の責任者マクシミリアン・ボイド中将が選んだのは”ポーン”だった。
当然のように無数の反対が上がった。ステイツ初のPMにこんな貧弱な名前をつけるとは何事だ。将軍は開
発者たちの苦労を何も分かってはいない。中には中将の退役を仄めかす者も居た。
そして開発主任であるジャック・ゲルフは直接中将に問いただした。
簡単に言えば中将の部屋に単身殴りこみに行ったと言った方が正しい。
「何故ポーンなのですか? 折角のPMが泣いていますよ! 我々は名前の変更を要求します」
重苦しい空気の中、ジャックの言葉にボイド中将は厳かに口を開いた。
「では、聞こう。その武器は何のためだ? このパンツァーモービルという兵器は何のためにある?」
「この国の……国の為、そして国民の為です」
「それならいい」
ボイドは瞳を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。しかし一方のジャックはボイド中将の答えに顔を真っ赤にしている。
「答えになってません! 名前の訂正をお願いします」
ジャックの言葉にボイド中将は少し悲しそうな顔をした。
「そうか……仕方がない、名前を撤回しよう」
「本当ですか!?」
自分の意志が通じたのかとジャックは思った。中将の答えを聞いて満面の笑みが自然と浮んでしまう。
「ああ……」
「ようし早速――」
ジャックは部屋から出て行こうとする。
しかし中将の表情が少し気になった。まるで時代が変わったかのような顔で天井を見つめていた。
思わず足を止め中将に質問してしまう。
「……何故、ポーンなのですか?」
「王を守る兵士だからだ」
「王?」
「そうだ、この国は何だ?」
「民主主義です」
「そうだ、民主主義とはどういったものだ?」
「大小違いはありますけど……少なくとも国民を中心とした政治体型です」
「そうだな、では国民は王様と言うことになるな」
「国民が王様?」
「そうだ、一番偉いのは大統領でもなければ軍の総司令官でもない。国民なのだ。我々が軍務を行えるのも大
統領が高い権力を振るえるのもみんな国民がいるからだ。そしてその国民を守る物として私はポーンと名づけた」
あまりの事に言葉を失ってしまう。
「どんなに強い”兵士”がいても”王”が取られてしまえば兵士は無意味になってしまう。だが”兵士”が居な
くなっても”王”が居れば必ず勝機はあるのだ。ジャック、私は強い名前より意味がある名前の方が彼ら、人の
姿をした機械には相応しいと私は思っていた。しかしそれはどうやら間違いだったようだ」
それが中将の椅子で話した最後の言葉になった。
翌日、彼は退役をし、その一ヵ月後にあっけなく亡くなってしまったがジャックは中将の最後の言葉を仲間
に話し、もう一度名前を考え直したが。
「……何故、ポーンなのですか?」
「王を守る兵士だからだ」
「王?」
「そうだ、この国は何だ?」
「民主主義です」
「そうだ、民主主義とはどういったものだ?」
「大小違いはありますけど……少なくとも国民を中心とした政治体型です」
「そうだな、では国民は王様と言うことになるな」
「国民が王様?」
「そうだ、一番偉いのは大統領でもなければ軍の総司令官でもない。国民なのだ。我々が軍務を行えるのも大
統領が高い権力を振るえるのもみんな国民がいるからだ。そしてその国民を守る物として私はポーンと名づけた」
あまりの事に言葉を失ってしまう。
「どんなに強い”兵士”がいても”王”が取られてしまえば兵士は無意味になってしまう。だが”兵士”が居な
くなっても”王”が居れば必ず勝機はあるのだ。ジャック、私は強い名前より意味がある名前の方が彼ら、人の
姿をした機械には相応しいと私は思っていた。しかしそれはどうやら間違いだったようだ」
それが中将の椅子で話した最後の言葉になった。
翌日、彼は退役をし、その一ヵ月後にあっけなく亡くなってしまったがジャックは中将の最後の言葉を仲間
に話し、もう一度名前を考え直したが。
「王とは国民でありその国民を守る者に相応しい名前を付けること……か」
ボルスは感慨深そうに再び目の前の愛機を見上げた。ケントも同じように見上げて言葉を続けた。
「それ以降、キングって言う名前はPMに相応しくないってことになったんだ。それに”王”を守る騎士とし
て、いや地球を守るために生まれ変わったナイツには王様っていう名前より悪魔と戦う聖なる騎士の方がぴっ
たりだろ?」
「そうだな……」
ボルスは思わず微笑んでしまった。目の前にいる命無き友に相応しい名前であることを実感した。
「隊長!」
突然下のほうから声が聞こえてきた。視線をそちらに向けるとそこにはアルとレイがいた。
「そろそろ訓練飛行のお時間です!」
「そうか、それでは各員搭乗!」
「了解!」
二人はすぐさま敬礼をすると自分のナイツに向かって走っていった。
「ケント、最後に一つ聞きたい」
ボルスもコックピットに向かう階段を前に聞いた。
「うん?」
「これで、バイラムに勝てると思うか?」
「僕は軽率なことは言わない主義だよ」
「それでも構わない、答えてくれ」
「正直に言って、バイラムに勝てる確率はこれで五分と五分だ。後は……」
「腕と運か、フッ、それなら良い」
ボルスは階段を上がりコックピットに乗り込む。
「いくぞ、パラディン。奴との決着、つけて見せる!」
薄暗い格納庫から生まれ変わった聖騎士が今、飛び立った。
ボルスは感慨深そうに再び目の前の愛機を見上げた。ケントも同じように見上げて言葉を続けた。
「それ以降、キングって言う名前はPMに相応しくないってことになったんだ。それに”王”を守る騎士とし
て、いや地球を守るために生まれ変わったナイツには王様っていう名前より悪魔と戦う聖なる騎士の方がぴっ
たりだろ?」
「そうだな……」
ボルスは思わず微笑んでしまった。目の前にいる命無き友に相応しい名前であることを実感した。
「隊長!」
突然下のほうから声が聞こえてきた。視線をそちらに向けるとそこにはアルとレイがいた。
「そろそろ訓練飛行のお時間です!」
「そうか、それでは各員搭乗!」
「了解!」
二人はすぐさま敬礼をすると自分のナイツに向かって走っていった。
「ケント、最後に一つ聞きたい」
ボルスもコックピットに向かう階段を前に聞いた。
「うん?」
「これで、バイラムに勝てると思うか?」
「僕は軽率なことは言わない主義だよ」
「それでも構わない、答えてくれ」
「正直に言って、バイラムに勝てる確率はこれで五分と五分だ。後は……」
「腕と運か、フッ、それなら良い」
ボルスは階段を上がりコックピットに乗り込む。
「いくぞ、パラディン。奴との決着、つけて見せる!」
薄暗い格納庫から生まれ変わった聖騎士が今、飛び立った。
一方、ユニオンでは新型パーツ、『X』と『Z』の受注をようやく終えた所だった。
ブリテン島北部のグラスゴ基地の格納庫ではファルが壁に寄りかかりながら受注パーツのチェックを行っていた。
Xパーツは各パーツの装備を自由に選べるエクストラセレクトシステムを搭載している。言わば換装パーツ
の換装パーツという特殊な位置づけであった。
そしてZパーツ、通称ゼロパーツ。正式な名称はマルチウェポンシステムという名称なのだが今回は対バイ
ラム用装備の改修を受けかなり仕様が変わった。マルチウェポンというのは一つのパーツで様々な用途を行う
クリエイティブなパーツであり、中は無数の刃物やビームジェネレーター、円盤や棒といった物が入っていた。
これらを自由にくみ上げて個人にあった武器を作り出すのだ。ファルは一度。テストでこのゼロパーツを使用
したことがあるのだが工作が得意でない彼女はかなりおかしな武器を作り出すこととなった。
「XとZ……あれ? Yは?」
資料を眺めながら辺りを見渡すが、間にあるYがどこにも見えない。
「うちの技術屋たちはどこよ?」
辺りを見渡すが周りには整備班が行ったり来たりしているだけであり、技術班の証である白衣を着た人物は
目を凝らしても見つからなかった。
「ミスリーア少尉!」
横から声をかけられた。横を向くとそこには一人の女性がいた。
歳は二十二と言ったところだろうか? 綺麗な赤い髪を短くしており、綺麗な小麦色の肌を惜しみなく見せ
ていた。体つきは細いが線の太さがどこと無く見え隠れしている。胸はやはりファルよりも大きく、そのせい
かどこと無くアンバランスさが感じられた。
「えっとあなたは?」
「あっ、申し遅れました。私、アルテナ・マイルズ伍長と申します。この度、対バイラム迎撃部隊に選ばれま
して……。そのご挨拶にと……」
そう言ってファルに敬礼をする。見た感じどうも頼りなさそうな風貌だ。
「選ばれたって事は……あなたもPMに乗るの?」
「いえ、艦のオペレーターとして登場せよ、命令を受けました」
「そう……あっ、ところで技術部の人を知らない?」
「技術部の人、ですか?」
ファルの質問にアルテナは少し戸惑った顔をしたがすぐさま答えてくれた。
「先ほどブリーフィングルームで見かけましたよ。なんでも大佐と話をするために来たとか……」
「マールに話?」
ファルは思わず首をかしげた。少なくとも思い当たる節が全くないからだ。
「ありがとう、ブリーフィングルームに行ってみるわ。それじゃ!」
「はい!」
アルテナに手を振ると彼女はすぐさま敬礼を返してくれた。そんな彼女を尻目に目的地へと向かった。
ブリテン島北部のグラスゴ基地の格納庫ではファルが壁に寄りかかりながら受注パーツのチェックを行っていた。
Xパーツは各パーツの装備を自由に選べるエクストラセレクトシステムを搭載している。言わば換装パーツ
の換装パーツという特殊な位置づけであった。
そしてZパーツ、通称ゼロパーツ。正式な名称はマルチウェポンシステムという名称なのだが今回は対バイ
ラム用装備の改修を受けかなり仕様が変わった。マルチウェポンというのは一つのパーツで様々な用途を行う
クリエイティブなパーツであり、中は無数の刃物やビームジェネレーター、円盤や棒といった物が入っていた。
これらを自由にくみ上げて個人にあった武器を作り出すのだ。ファルは一度。テストでこのゼロパーツを使用
したことがあるのだが工作が得意でない彼女はかなりおかしな武器を作り出すこととなった。
「XとZ……あれ? Yは?」
資料を眺めながら辺りを見渡すが、間にあるYがどこにも見えない。
「うちの技術屋たちはどこよ?」
辺りを見渡すが周りには整備班が行ったり来たりしているだけであり、技術班の証である白衣を着た人物は
目を凝らしても見つからなかった。
「ミスリーア少尉!」
横から声をかけられた。横を向くとそこには一人の女性がいた。
歳は二十二と言ったところだろうか? 綺麗な赤い髪を短くしており、綺麗な小麦色の肌を惜しみなく見せ
ていた。体つきは細いが線の太さがどこと無く見え隠れしている。胸はやはりファルよりも大きく、そのせい
かどこと無くアンバランスさが感じられた。
「えっとあなたは?」
「あっ、申し遅れました。私、アルテナ・マイルズ伍長と申します。この度、対バイラム迎撃部隊に選ばれま
して……。そのご挨拶にと……」
そう言ってファルに敬礼をする。見た感じどうも頼りなさそうな風貌だ。
「選ばれたって事は……あなたもPMに乗るの?」
「いえ、艦のオペレーターとして登場せよ、命令を受けました」
「そう……あっ、ところで技術部の人を知らない?」
「技術部の人、ですか?」
ファルの質問にアルテナは少し戸惑った顔をしたがすぐさま答えてくれた。
「先ほどブリーフィングルームで見かけましたよ。なんでも大佐と話をするために来たとか……」
「マールに話?」
ファルは思わず首をかしげた。少なくとも思い当たる節が全くないからだ。
「ありがとう、ブリーフィングルームに行ってみるわ。それじゃ!」
「はい!」
アルテナに手を振ると彼女はすぐさま敬礼を返してくれた。そんな彼女を尻目に目的地へと向かった。
「使用中?」
ブリーフィングルームに来たファルは扉の横の電子パネルに書かれた文字を凝視した。
普通、ブリーフィングルームは用が無ければ誰でも使えるのだが今回に限って使用中の文字が大きくパネル
に描かれていた。
「おかしいわね」
「聞こえるわけが無いけど……やってみるか」
そっと扉に耳をつけてみると意外にも扉から声が聞こえてきた。
「しかし――」
声の主はマールだった。誰かに向かって叫んでいるようだが相手の声が小さくて全く聞こえなかった。
「一方的過ぎます! もう少し譲渡と言うものを――」
マールの言葉を全く無視しているようだ。そしてなにやら物音がすると足音こっちに向かってくるようだった。
「まずい……」
すぐさま近くの廊下の影に隠れた。悪い事をしているわけではないがやはり気分的な問題があるようだ。
そして自動ドアの音とともに高い靴音が響いた。
横からそっと覗くと足音の主はどこにも見えない事を確認するとすぐにブリーフィングルームを覗いた。
「……ううっ」
マールが膝を抱えて泣いていた。その姿はとても軍人には見えなかった。
「ちょっと、どうしたの!? 何かあったの?」
マールに駆け寄ると涙を拭きながらすぐにいつものあっけらかんとした声で話しかけてくる。
「ううん、何でもないよ。ところでファルちゃんは何し来たの?」
「私? あっ、技術部の人を探してるんだけど……」
「技術部? その人ならもう帰ったよ」
マールの帰ったという言葉にファルは開いた口が塞がらなかった。
「ええ!? 折角、Yパーツが来てないって言おうと思ったのに!」
「Yパーツ? アレはまだ出来てないって言ったよ」
「そっか、ならいいけど……」
そう言って立ち上がりブリーフィングルームから出ようとする。
「あの……さ」
突然後ろからマールが声をかけてきた。
「今夜、空いてる?」
「報告書を書かなきゃいけないから無理、って言いたいけどさっきの事、教えてくれるなら空けとくわ」
「ありがとう……」
マールはそう言いながら寂しげな笑みを浮かべた。
ブリーフィングルームに来たファルは扉の横の電子パネルに書かれた文字を凝視した。
普通、ブリーフィングルームは用が無ければ誰でも使えるのだが今回に限って使用中の文字が大きくパネル
に描かれていた。
「おかしいわね」
「聞こえるわけが無いけど……やってみるか」
そっと扉に耳をつけてみると意外にも扉から声が聞こえてきた。
「しかし――」
声の主はマールだった。誰かに向かって叫んでいるようだが相手の声が小さくて全く聞こえなかった。
「一方的過ぎます! もう少し譲渡と言うものを――」
マールの言葉を全く無視しているようだ。そしてなにやら物音がすると足音こっちに向かってくるようだった。
「まずい……」
すぐさま近くの廊下の影に隠れた。悪い事をしているわけではないがやはり気分的な問題があるようだ。
そして自動ドアの音とともに高い靴音が響いた。
横からそっと覗くと足音の主はどこにも見えない事を確認するとすぐにブリーフィングルームを覗いた。
「……ううっ」
マールが膝を抱えて泣いていた。その姿はとても軍人には見えなかった。
「ちょっと、どうしたの!? 何かあったの?」
マールに駆け寄ると涙を拭きながらすぐにいつものあっけらかんとした声で話しかけてくる。
「ううん、何でもないよ。ところでファルちゃんは何し来たの?」
「私? あっ、技術部の人を探してるんだけど……」
「技術部? その人ならもう帰ったよ」
マールの帰ったという言葉にファルは開いた口が塞がらなかった。
「ええ!? 折角、Yパーツが来てないって言おうと思ったのに!」
「Yパーツ? アレはまだ出来てないって言ったよ」
「そっか、ならいいけど……」
そう言って立ち上がりブリーフィングルームから出ようとする。
「あの……さ」
突然後ろからマールが声をかけてきた。
「今夜、空いてる?」
「報告書を書かなきゃいけないから無理、って言いたいけどさっきの事、教えてくれるなら空けとくわ」
「ありがとう……」
マールはそう言いながら寂しげな笑みを浮かべた。
「ジンをお願い」
「じゃあ私はブランデー」
思わず隣を見てしまった。ブランデーを頼むマールは初めて見るからだ。基本、彼女はこういう所に来ても
頼むのはせいぜいミルクかオレンジジュースである。それに二人で酒を飲むのは正直、二十歳を超えたときに
ビールを一緒に飲んだぐらいだ。その時、酔ったマールが服を脱ぎだしそのまま外へ飛び出すと言うハプニン
グがあったが今では良い思い出である。
目の前に茶色と透明の液体が注がれたグラスが置かれるとマールは手早に掴むと一気に飲み干した。
「ふぅ、美味しい……」
ブランデーを飲み干すとマスターに向けてずいっとグラスを突き出す。
「お代わり!」
「ちょっと、まだおつまみも来てないのに飲み干すなんて……アル中になるわよ」
ファルはジンを手に諭した。一気飲みをするなんて明らかにおかしい。まるでただ酔いたいといった感じだ。
「ええ? そんなことないよー」
そういって再び注がれたブランデーを手にぐいっと乱暴に飲みだす。
「ハァ……」
軽くため息を付くと自身のジンを口に含む。少し悪いジンだったのか味に切れがなかった。
普通の女性ならジンなんて飲まないだろう。しかしファルの回りは男所帯であった為、自然とこういう強
いお酒に傾向していった。関係のない話だがパイロットルームには気付け用のテキーラがあり、萎縮している
者に使うことが多かった。
「ねえ、ファルちゃん」
マールはいつもとは違った雰囲気でこちらを見てきた。また、あっという間に飲み干したらしく、グラスに
は三杯目のブランデーが中に入っていた。
「なによ」
ぶっきらぼうに答えるとマールはカウンターに付しながらブランデーのグラスを見つめた。
「私って必要とされてるのかな?」
「はぁ?」
突然の質問にファルはあきれ返るしかなかった。
「お父さんがね、帰って来いって」
マールの父親であるクリストファー・ラザフォード大将。その彼が娘に帰って来いと催促をしてきたらしい。
「それで好きでもない人と結婚して、好きでもない人の子供を生めってさ」
ふてくれるマールを見ながらファルは少し頭を抱えた。
別に言っている事が理解できないわけではない。しかし、彼女の口調や言葉は明らかに下品だった。
マールとラザフォード大将との関係を考えてみる。マールから父親の話を聞く事はほとんど無かった。
ファルのことは気にかけてはくれているが他の事、特にプライベートなことに関していえば基本はノータッチ
だ。幼なじみという割にはお互いドライすぎたのだろうか? いや、そんな事はない、と思いたいが自分の父
親のせいでお互いの家族の事に触れることがどことなくタブーになっていたのかもしれない。それだけじゃな
い、ファルとマールには数年の空白期間があるがその間に何があったのだろうか?
「ねえ、そんなに大将のこと嫌いなの?」
とりあえず真っ先に浮んだ疑問を彼女にぶつけてみた。嫌いという言葉には首を横に振る。
「そんなことないよ、でも……あんまり好きじゃないってだけ」
再びブランデーを一気に飲み干す。あまり好きではない、という言葉にファルは少し違和感を感じた。
「それを嫌いって言うんじゃないの?」
「違うよ、嫌いなら二度と会いたくないけど好きじゃないってだけだからあってもいいけど出来れば会いたく
ないって感じかな」
やっぱり嫌いなんじゃない、と言いたかったがそれはマールの中にある複雑な感情があることは察知できた。
家族を嫌いになれればどんなに良いか、今のマールの中にあるのがそれなのだろう。
「ところでさっきの質問、答えてよ」
不貞腐れたような声を上げてファルの方を観てきた。軽く溜息をつくとジンを一口飲むと口を開いた。
「なんて言って欲しい?」
「この隊に私は必要ですって言って欲しい」
そう言ってニコニコしながらこちらを見ている。出来る限り冷たい声で言ったがマールには全く通用しなかっ
たようだ。
「そんな評価はできないわ」
「どうして?」
「どうしてって……」
とっさに言葉にしたが何も出てこなかった。マールがいると困ることを考えてみる。
遅刻常習犯でもない、作戦立案や実行力に関しても問題は見えない。隊の管理、個人評価も問題はない。
マールの能力を考えてみるとデメリットが見つからなかった。意地の悪い人間ならば即座に欠点や揚げ足を
取ろうとするだろうが自分の名誉のためにそういった贔屓はどうしてもやりたくない。となるともっと別の面
で見るしかない。いや、そもそも何でマールに対して否定的な言葉を投げたのかすら自分で理解をしていない。
「ねえ、ファルちゃん」
言葉に詰まっているファルに突然話しかけてきた。いつもの明るい口調ではなく、暗くて重い声で。
「な、何よ」
「ファルちゃん個人としてはどうなの?」
まるで心を見透かそうとするかのように言葉を優しく投げかけてきた。もし男だったらホテルを予約してい
るに違いない。だが、こっちだって負けるつもりはない。
「どうって……もちろん――」
マールには居て欲しい? それとも居なくなって欲しい? 答えが出ないまま言葉を出そうとする。だが――。
「それ以上言わないで……」
そう言って指で唇をそっと塞ぐ。飲み過ぎたわけでもないのに頭がクラクラしてきた。独特のトリップ感に
ファルはただ戸惑うばかりであった。このままではまずいと思い、ちらりと時計を見る。まだそんなに時間は
経っていないが――。
「そ、そろそろ出ましょうか……」
「うん……あっ」
マールは小さく頷くと関から立ち上がろうとする。だがその際、少しよろめいた。
「あぶない!」
身体をそっと抱き抱えるとなにやらいい香りがしてきた。香水の香りか、それともブランデーの香りなのだろうか?
「ごめん」
口で謝るが身体は完全に自由が効かないらしくファルに身体を寄せながら歩いて行った。
「ああ、もう! 仕方ないわね……」
少し呆れた顔でマールの身体をそっと抱き抱えた。手から伝わる柔らかい感触からつくづく自分の体と違う
ことを認識させられた。パイロットとして鍛えたせいかどうもゴツゴツしていると周りから言われたがマール
の身体を触ってみて納得せざる得なかった。
「このままあたしの部屋に行くわよ」
「うん」
お酒のせいか雰囲気のせいかわからないがマールは完全に顔を赤くしてこちらを見つめていた。
そして二人はそのままバーを出て行った。
「じゃあ私はブランデー」
思わず隣を見てしまった。ブランデーを頼むマールは初めて見るからだ。基本、彼女はこういう所に来ても
頼むのはせいぜいミルクかオレンジジュースである。それに二人で酒を飲むのは正直、二十歳を超えたときに
ビールを一緒に飲んだぐらいだ。その時、酔ったマールが服を脱ぎだしそのまま外へ飛び出すと言うハプニン
グがあったが今では良い思い出である。
目の前に茶色と透明の液体が注がれたグラスが置かれるとマールは手早に掴むと一気に飲み干した。
「ふぅ、美味しい……」
ブランデーを飲み干すとマスターに向けてずいっとグラスを突き出す。
「お代わり!」
「ちょっと、まだおつまみも来てないのに飲み干すなんて……アル中になるわよ」
ファルはジンを手に諭した。一気飲みをするなんて明らかにおかしい。まるでただ酔いたいといった感じだ。
「ええ? そんなことないよー」
そういって再び注がれたブランデーを手にぐいっと乱暴に飲みだす。
「ハァ……」
軽くため息を付くと自身のジンを口に含む。少し悪いジンだったのか味に切れがなかった。
普通の女性ならジンなんて飲まないだろう。しかしファルの回りは男所帯であった為、自然とこういう強
いお酒に傾向していった。関係のない話だがパイロットルームには気付け用のテキーラがあり、萎縮している
者に使うことが多かった。
「ねえ、ファルちゃん」
マールはいつもとは違った雰囲気でこちらを見てきた。また、あっという間に飲み干したらしく、グラスに
は三杯目のブランデーが中に入っていた。
「なによ」
ぶっきらぼうに答えるとマールはカウンターに付しながらブランデーのグラスを見つめた。
「私って必要とされてるのかな?」
「はぁ?」
突然の質問にファルはあきれ返るしかなかった。
「お父さんがね、帰って来いって」
マールの父親であるクリストファー・ラザフォード大将。その彼が娘に帰って来いと催促をしてきたらしい。
「それで好きでもない人と結婚して、好きでもない人の子供を生めってさ」
ふてくれるマールを見ながらファルは少し頭を抱えた。
別に言っている事が理解できないわけではない。しかし、彼女の口調や言葉は明らかに下品だった。
マールとラザフォード大将との関係を考えてみる。マールから父親の話を聞く事はほとんど無かった。
ファルのことは気にかけてはくれているが他の事、特にプライベートなことに関していえば基本はノータッチ
だ。幼なじみという割にはお互いドライすぎたのだろうか? いや、そんな事はない、と思いたいが自分の父
親のせいでお互いの家族の事に触れることがどことなくタブーになっていたのかもしれない。それだけじゃな
い、ファルとマールには数年の空白期間があるがその間に何があったのだろうか?
「ねえ、そんなに大将のこと嫌いなの?」
とりあえず真っ先に浮んだ疑問を彼女にぶつけてみた。嫌いという言葉には首を横に振る。
「そんなことないよ、でも……あんまり好きじゃないってだけ」
再びブランデーを一気に飲み干す。あまり好きではない、という言葉にファルは少し違和感を感じた。
「それを嫌いって言うんじゃないの?」
「違うよ、嫌いなら二度と会いたくないけど好きじゃないってだけだからあってもいいけど出来れば会いたく
ないって感じかな」
やっぱり嫌いなんじゃない、と言いたかったがそれはマールの中にある複雑な感情があることは察知できた。
家族を嫌いになれればどんなに良いか、今のマールの中にあるのがそれなのだろう。
「ところでさっきの質問、答えてよ」
不貞腐れたような声を上げてファルの方を観てきた。軽く溜息をつくとジンを一口飲むと口を開いた。
「なんて言って欲しい?」
「この隊に私は必要ですって言って欲しい」
そう言ってニコニコしながらこちらを見ている。出来る限り冷たい声で言ったがマールには全く通用しなかっ
たようだ。
「そんな評価はできないわ」
「どうして?」
「どうしてって……」
とっさに言葉にしたが何も出てこなかった。マールがいると困ることを考えてみる。
遅刻常習犯でもない、作戦立案や実行力に関しても問題は見えない。隊の管理、個人評価も問題はない。
マールの能力を考えてみるとデメリットが見つからなかった。意地の悪い人間ならば即座に欠点や揚げ足を
取ろうとするだろうが自分の名誉のためにそういった贔屓はどうしてもやりたくない。となるともっと別の面
で見るしかない。いや、そもそも何でマールに対して否定的な言葉を投げたのかすら自分で理解をしていない。
「ねえ、ファルちゃん」
言葉に詰まっているファルに突然話しかけてきた。いつもの明るい口調ではなく、暗くて重い声で。
「な、何よ」
「ファルちゃん個人としてはどうなの?」
まるで心を見透かそうとするかのように言葉を優しく投げかけてきた。もし男だったらホテルを予約してい
るに違いない。だが、こっちだって負けるつもりはない。
「どうって……もちろん――」
マールには居て欲しい? それとも居なくなって欲しい? 答えが出ないまま言葉を出そうとする。だが――。
「それ以上言わないで……」
そう言って指で唇をそっと塞ぐ。飲み過ぎたわけでもないのに頭がクラクラしてきた。独特のトリップ感に
ファルはただ戸惑うばかりであった。このままではまずいと思い、ちらりと時計を見る。まだそんなに時間は
経っていないが――。
「そ、そろそろ出ましょうか……」
「うん……あっ」
マールは小さく頷くと関から立ち上がろうとする。だがその際、少しよろめいた。
「あぶない!」
身体をそっと抱き抱えるとなにやらいい香りがしてきた。香水の香りか、それともブランデーの香りなのだろうか?
「ごめん」
口で謝るが身体は完全に自由が効かないらしくファルに身体を寄せながら歩いて行った。
「ああ、もう! 仕方ないわね……」
少し呆れた顔でマールの身体をそっと抱き抱えた。手から伝わる柔らかい感触からつくづく自分の体と違う
ことを認識させられた。パイロットとして鍛えたせいかどうもゴツゴツしていると周りから言われたがマール
の身体を触ってみて納得せざる得なかった。
「このままあたしの部屋に行くわよ」
「うん」
お酒のせいか雰囲気のせいかわからないがマールは完全に顔を赤くしてこちらを見つめていた。
そして二人はそのままバーを出て行った。