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第二話「その女、人外につき」

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第二話「その女、人外につき」

第二話「その女、人外につき」

ウサギ様に命令され、永久に追い求める我がオアシスが枯渇してから早二週間。
その二週間のリッケルハイム家の来客内訳、暴漢五件政府七件、その他六件。
……ぶっちゃけよう。襲撃八件、脅迫十件だ。
「恨み買い過ぎでしょ」
「そうなのか?」
「なんでそんな呑気なのさ」
「ウサギ様ガ回答シテヤル。ウサギ様ノ友人ダカラダ」
「…………」
納得するなよ、僕。これは罠だ。
それにしても。
「このロボ、装備は対人仕様?僕より働いてくれて助かるけど」
ずっと気になっていた。
サイズは160センチ程度なんだから、人間サイズの機動しか期待できない。
しかし、対人仕様にしては異常だ。
魔力放出装置が、手と腕に一個、脚に三個、胴体に六個。
計十六個もの魔力放出装置がロボの体内に痣のように仕込まれているのだが、追加装備ナシで数分の飛行が可能なのは妙だ。
いくら魔力と言っても質量をなくしてくれるわけじゃない。
「何でもできる」と言っても相応の労力は使う。
準備なしでは、斥力や引力の力場を生み出したり、一時的に具現化したりがせいぜいだ。
人体サイズを浮かすには鍛練と経験が必要で、それは数年頑張ったくらいじゃできない。実際僕には飛行なんてできない。
更に、対人でないことを裏付けるような事例がもう一つ。
襲撃のなかに一度だけスナイパーが紛れ込んでいたのだが、ロビメカは補助なしで見事しとめた。数百メートル離れた状態で狙撃しかえしたのだ。
出力が大きければ当然扱いは難しくなる。蛇口を開いただけホースが面白おかしく暴れまわるように。
つまり、コンパクトでパワフルで精密動作も可能。
僕のように、永久に魔力を生み出し続ける魔力発生炉は搭載していないらしいから、エンジンかタンクかどちらかが異常なんだろう。
多分、対人ではなく対戦車がコンセプトになっている。
「いや、対人ではない」
やっぱり。
「対悪魔だ」
「……はい?」

僕が見た街並みの反対側の森は正確には「北ドイツ隔離地区」という名前がついているらしい。
僕の世界の地名ではないので惑星のどの辺りなのかは知らない。通称は霧の森と、悪魔の里。
悪魔とは何も、我らがお髭の創造主様の敵のことではない。
「何か」が人間に憑依することで、人間とはかけ離れた生物になっちゃった人のことだ。
軽い憑依は腕や脚ごと切り離すしかない。このことも義体化に拍車をかけているのだそうだ。襲ったり取りついたり、便利な「何か」もあったものだ。
「暴れることがあるのは事実だし、憑依の部位や信仰ではドラゴンやら巨人やらにもなるからな」
「機械の時代にファンタジー……」
「魔力の存在が認められた世界に今さら何を言うか、金髪」
言いたくなったんだから言わせてほしいものだ。
「コホン。それはそうと、ここに来てからずっとウサギ様は何やってるの?」
今日もここにいない。というか食事時間以外、ここ二三日姿を見かけない。
「なんだ、聞いてないのか。魔術式通信網の探索だよ」
「そんなの、この時代のなら掃いて捨てるほどないの?」
ロビメカみたいな物ができている時代だ。魔術による個人間通信網なんて発達してるに決まってる。惑星状の魔力を使う回路ならタダだし。
「だからだ、金髪。百万の外れがあるんじゃ、何が使えて何が使えないのか分からないだろ?」
公園の砂場の中に、数粒だけ隠れた砂金を探すようなわけね。
「なるほど。それは失礼しました」
仰々しく礼を言っておく。小言防止。


『こちら、式十字協会所属アイリス・レインヒルの補佐、シルヴィアです。管理局もしくは協会支部長であれば応答願います』
応答なし。この回線も無理だとすると残りが少ない。
『あれ?シル?どしたのこんなとこで』
聞きなれた声。
『いえ、少し事情がありまして……。アイリス様こそ本来の世界ではないところで何をしてらっしゃるのですか?』
『おねーちゃ、じゃない。アリシア・リッケルハイムからロビンって名前の同じ姓の子の行く末を見てこいって言われちゃってね』
『奇遇ですね、私も同じ目的です』
『それで霧の森に今いるんだけど、どうも一人そっちに行っちゃったから気をつけてね~』
『えっと、危険度は?』
『特になし。麻酔で元に戻るよ』
『ありがとうございます。では、解決次第お土産持ってお伺いします』
『うん。働かなくちゃいけないのかと思ってヒヤヒヤしたよ~。シルがいて良かった。じゃーねー』
さて。回線による会話では時間を割かれないが、そろそろ襲撃を受けるころだろう。そんな気がする。
――衝撃。
この家は五階建ての塔に近い構造で、この五階が二階辺りを狙った魔術で揺れるのだから、多分遠距離から射線上のものを片づけるタイプだろう。
「オイ!状況ヲ説明シロ!」
ここに来てから、アイリス様と話せてやっと安心できた。絶対に早く片付けてやる。

習慣で、隠れるように襲撃の主を窓から確認した僕は衝撃を受けた。
「おっぱい……!」
完全無欠におっぱい。ここに来てから初めてのマトモなおっぱい。だいぶ遠いが偽物には見えない。
そう、狙撃銃を持つような恰好で武骨な鉄パイプを構えた女の子が立っていた。
節が二つ。均等な長さの鉄パイプを三つ繋げているようだ。
「なんで泣いている、金髪」
「ああ、もう僕死んでも良いや……」
「ウサギ様ガ催促シテヤル!速ヤカニ説明シロ!」
「悪魔と思しき人影がこちらを狙撃してきました。方向修正用の補助器具を使用している模様」
二人の忙しない声も窓から身を乗り出している僕に乗るロビンの重みも知ったことか。僕は感動している。
「……ん?」
鉄パイプを三つに折り、揃えて持つ彼女。しかもまるでガトリングガンのような持ち方。
「伏せろビルっ!」
「うわっ」
ロビンに無理やり部屋の中に引きこまれて尻もちをついた。ついでに、おっぱいちゃんの魔力で窓と二階の壁が吹っ飛んだ。
「ウサギ様ガ命令スルッ!変身シロ馬鹿ッ!」
「その、相手は人間っぽいんですが」
「良イカラ変身シテ麻酔ヲ撃テ!」
早いとこ化けろですかそうですか。
殺すようなことにならないことを喜ぶだけにしておこう。殺すのは本当に嫌だ。
だが、生憎僕は死ぬのが惜しい。まだ見ぬおっぱいを求めなければいけない。
それでも、今から唱えるのは最悪の呪文。自分で常々思っていながら、決して言うことのない言葉。

「貧乳だって、おっぱいだ」


どうせなら変身ヒーローが良かった。
だからと言ってバッタやマントの変質者というのも嫌だが、この仮面の騎士っぽいのも好きになれない。
兜に甲冑、ふくらはぎは巨大でバーニア付き。
正直、仮想大会である。身長変わんないし。フィギュアじゃないんだ僕は。
まあ、不満を述べても仕方ない。まずは飛び降りて、狙いを僕に。
……よし、僕を狙ってくれた。そのまま右へ走っていく。
「ウァァァァァア!!」
あ、叫ぶんだこいつ。「何か」とやらは動物らしさぐらいは残してくれるらしい。
拷問よりも親切で泣けてくる。凌辱よりも紳士的でもある。
「ブレット・ショック」
さっきから鉄パイプから発射される魔力弾が当たるが、この程度の火力なら痛くない。麻酔弾を撃ち返す。
「ギャアアアアアアアア――ッ!」
倒れた。よし、終わり。
解除呪文を唱える。

「凡て、女性は美しい」

「おい、金髪。無事か?」
四輪の軍用車両で走り寄ってくるロビン。そんなものあったんだ。
「ウサギ様ガ同乗シテヤル。早ク行クゾ!」
キレ気味のウサギ様。
「ど、どこへ?」
「霧ノ森ダ」
「あ、はい。わかりました」
これ以上時間をかけるとかみつかれそうだ。
「……オイ、何デ乗ロウトシテイル?」
「?」
何をおっしゃるウサギさん。
「そこノ化ケ物ヲ載セテ行クノダ」
「……生殺し?」
気絶している女性なんて触っても、ロマンがない。
そして、ロマンが無い限りは触れてはいけない。
そうして自分を縛ることが、僕を僕として守ってくれていると言うのに。
「一回程度デ揺ラグノカ?」
決めた。日記を書こう。タイトルは「自由への軌跡」が良い。
ドラマ化間違いなし。


「霧の森」の入り口は文字通り霧に包まれている。
ごく普通の森の内部に存在するはずなのに、霧の向こうへ立ち入ることはできないのだ。
それはかつて人間を恨み、獣たちとの道を歩み、人間から獣たちを護り死んでいったとある女性の怨念と言われている。
獣と人間の中間に陥ってしまった「悪魔」が森に入ることができるのはそれが理由である。
かつて人に愛され、今は人に恨まれ、されど人を愛する。
彼ら「悪魔」たちに救いの手は差し伸べられるのであろうか。


「わたしは、アイリス・レインヒルと申します。ニーナを運んできてくれて、ありがとうございます」
ペコリとお辞儀したその少女は、ゴシックロリータの衣装をまとった金髪銀眼の三つ編み少女。まだ中学生くらいだが将来有望おっぱ。
「ふっ」
――目の前を横切った「それ」がなんであるか僕の目には分からなかった。
「はっ」
――どうも棒状のものであるらしいが、少女側三分の一ほどの位置にある立方体が目を引く。
「えいっ」
ちょうど剣を突き刺すような仕草をして、僕の左耳をかすって止まる。
「失礼しました。羽虫がいまして」
そういって、その棒を鞘に収める少女。やはり、剣であったらしい。
って、じゃああの立方体は鍔で持ち手が柄で、両刃なのに切っ先がほぼ平らで。
「これですか?わたし専用の武器です☆」
そりゃそうでしょうね。そんな手元付近に重心がありそうな刃物、扱いきれません。
普通の剣でも効果的にダメージ与えようと思ったら鍛練するしかないから、僕の「ブレイド」はパタをモデルにしてるのに。
パタっていうのは、メリケンの他人にあてる部分がそのまま剣になったジャマダハルという刃物に、更に籠手をくっつけたものだ。
じゃんけんの「ぐー」がにょきっと伸びてチョップしようが殴ろうがぐさっと刺さると想像してもらうと良いかもしれない。
これは怖い。通り魔さんが全員装備したら世紀末まっしぐらだ。
パンチと同じ速度でナイフがぐさっ。逃げようがガタガタ震えて命乞いしようが小便ちびっていようがぐさっ。
ナイフのように持ち替える必要もない。這いつくばっていても階段の上に逃げてもぐさっ。
しかも殴っても蹴っても向こうは金属の籠手。痛くないのでやっぱりぐさっ。
実際は手首が折れるだろうけど、なにせこちとらロボだ。頑丈さが違う。
くひひひひひひ。

「……っておいてかないで下さいよー」
僕を置いて「霧の森」の内部へ進んでいく僕以外。
「ウサギ様ガ忠告スル。あいりす様ニハ手ヲ出スナ」
あの剣であの速度で、しかも魔術こみで斬られたら多分ロボ化していても耐えられまい。
「なんとなく分かりました」
はてさて。ここから何が起こるのやら。
「早くしろ、金髪。目的は人の配達だけじゃないんだ」
嫌な予感しかしないけれど。
「はぁ、おっぱい揉めないのかなぁ……」
いつか叶え僕のドリーム。

続くのですよ。

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