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Diver's shell another 『primal Diver's』 第十一話

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 Diver's shell another 『Primal Diver's』
 第十一回:【武器】




 突如立ち止まったガイドロボは、くるりとフランとマーレの方を向いて、また小刻みに左右へ揺れていた。ストロボのように、透明な頭部の中を光らせて、まるで二人を急かすように。
 その目の前には、一見すれば単なる地味な壁。

「これは……何?」

 フランは壁を見てそう漏らした。
 その壁に刻まれたそれは、単なる壁の模様や繋ぎ目のように見えるだけの切れ込みが入っていたのだ。
 しかし、その壁には何かしらのモチーフを描いたマークが付けられていた。それは槍のような物が二本、交差して掲げられている物だ。

「なんだろう?」
「このマーク……。地球でもたくさんあるわ。明らかに武器を掲げてる印ね。地球なら、海賊とか、軍隊とか。あとは、武道の一派なんかもこういう印を好んだ。ほら、こんな感じで」

 そう言って、持ち込んだライフルを掲げる。フランに渡した物とクロスさせ、実際にそのマークを再現した。

「……攻撃的な意味があるって事?」
「本能的にそう思うんでしょうね。武器を交わらせる。て事は、『戦うならやるぞ』っていう意志表示なのかも。
 私達も海賊だけど、ぶっちゃけ仲良し集団みたいなモンだから旗なんて洗濯物で代用だけど、おっきい海賊船ならこんなマークを描いてたりする。ライフルとか、剣とか。ドクロに骨っていう昔気質な奴もいる」

 マーレはそのマークをそう評して、ふむ、と腕を組んで右手で顎を弄る。どうやら思う所があるようだ。
 そして、フランはそこを触ってみたり、叩いてみたりしたが、うんともすんとも言わない壁にイラついて、ちょっと強く殴ってみたりもした。
 ガン! と大きな音を立てて、通路に響いて行く。
 後に訪れたのは虚しい静寂のみ。
 フランは手首をぶんぶん振りながら、またそのマークを見上げる。強く叩いた為に手が痛かったらしい。それほど強く叩いても、その箇所の埃や塵が剥がれた程度だった。

「いたた……。ただの壁じゃない」
「でも行き止まりだしねぇ?」

 二人が困った様子でその壁を眺めていると、二人をそこへ導いた張本人が遂に動き出す。じーっと様子を見ていたガイドロボは、何を思ったかさりげなく距離を取り、じわじわ加速しながらまた接近してくる。
 二人は気付かず、あれやこれやと言葉を交わしていた。
 そして、音も無く加速したガイドロボは、何を思ったかフランの臀部に体当たりをぶちかましたのだ。
 気付く事なく加速されたそれはそこそこの衝撃力を持って派手に激突。激突されたフランはと言うと。

「ぐぼはぁ……ッ!!」
「フラン!?」
『ビーッ! ビーッ!』

 叫ぶフラン。それを聞いて驚くマーレ。信号音らしき物を発するロボット。
 臀部を押さえ壁に寄り掛かり痛みに耐えるフランに心配そうな様子でマーレは大丈夫か? と問い掛けるが、割と大丈夫では無いようで。
 声すら出さずプルプル。よっぽど威力ある一発らしい。

「……この子私に何の怨みが……」
「また派手にやられたわね。大丈夫?」
「目玉飛び出るかと思った……。もうちょっと優しくやる方法もあるじゃん。でも……」

 フランは軽く涙目で、くるりと振り返る。
 ガイドロボはまだ信号音を発して、左右へ揺れている。急かすように。
 そして、フランは右手をその頭部の上へ置いたのだ。

「……ったく。触るだけでいいのにわざわざぶちかまし仕掛けて来るなんて……」
「どうしたの?」
「触るだけでいいのよ。それだけで、その時必要な事はこの子が教えてくれる。さっきは私達が無視してたから、早く気付けって意味でのぶちかまし。そう言ってた」

 フランの脳細胞に、また直接情報が流れ込む。触れた右手から、『感覚』でそれは入ってくる。

「奇妙な感覚……。全然知らなかった事が、ずっと忘れてて突然思い出した時みたいに感じる……」
「で、そのガイドロボはなんて?」
「待って……。今シャッターを開ける」
「シャッター?」

 今度はフランが情報を出力。先程得た情報を元に、道を開かせるのだ。
 それを読み取ったガイドロボはその意志を仲介し、遺跡へと伝える。直後、槍のマークが掲げられた壁が音を立てる。積み重なった埃と塵が振動で崩れ落ちて、ぼさぼさ床へ降り積もる。
 左右へ引き戸のように移動し、上部はそのまま上へ。そして、その先の部屋の入口が開いたのだ。

「……げ」
「あのマーク……。マーレが言ったようにやっぱり武器の事みたい」
「武器?」
「ええ。この先は、武器が必要になる」
「それもそのガイドロボが言ってたの?」
「うん。必要なら取れって言ってる。必要な道具は貸してくれるって……」
「必要な道具? 武器が必要になるって言ったよね? なら武器貸してくれるって事だけど……」
「そうみたい……」

 ぽっかり開いた入口の先、暗闇だった。
 フランは迷いなく、先んじてそこに入ろうとするが。

「ちょっと待ちなさいよ」
「え?」
「アンタねぇ。躊躇なさすぎるわ。武器貸してくれるって言ってるんだよね? 何の為に?」
「それは……」
「ちゃんとそこ聞かなきゃ。どー考えても何かと戦えって事じゃない」

 今度はマーレがガイドロボの頭部に手を乗せる。フランが聞きそびれた事を全て聞こうというのか、考え得る事全て、そのガイドロボに問うてみた。

「さーて、この先には何があるのかしら?」
『……』
「一体、私達に何させようって訳?」
『……』
「私達が持ち込んだ銃じゃダメなの?」
『……』
「……あれ? もしもーし?」
『……ビッ』
「……」

 マーレの問い掛けに、ガイドロボは返答無し。嘲笑うかのように一鳴きして、それだけだった。
 ただ金属的なひんやりした感触しかしない。何を思ったか、次の瞬間マーレはあろう事かガイドロボにげんこつを食らわした。ガツンと音が響いて、次いでそれぞれの喚き声。

『ビーッ!』
「ちょ……! やめなさいよ可哀相じゃん!」
「全ッッ然かわいくない! かわいくないコイツ!」
「だからってゲンコツくれてやる程の事!?」
「コイツなんて言ったと思う!? 『お前はすっこんでろ』的な事言ったのよ!? 屈辱よ! もっと私に注意を向けなさいよこのポンコツ!」
「そんな事どーでもいいじゃん!」
「よ……よく無いわよ! 何この疎外感!?」
『ビーッ! ビーッ!』

 喚くマーレをよそに、げんこつ食らったガイドロボは泣きつくようにフランに擦り寄り、マーレから隠れるように背後に回る。心なしか頭部のストロボ発光も弱めに見える。

「よしよし。怖かったんだね。え? 『第一印象からアイツ好きになれなかった』って? そういう事は思ってても口に出しちゃダメよ」
「アンタが言うな!」

 ふん、とマーレは腕を組み、珍しく機嫌が悪そうにしている。相手にされなかったのがよほど悔しかったのだろうか。
 一悶着はあったが、フランが代わりにマーレが聞きたかったであろう事柄を聞き出して、それを言葉で伝えた。




※ ※ ※




「で、結局はどういう事?」
「いや、必要になると思うから、無いなら武器貸してあげるよ……としか……」
「なにそれ。情報小出しって面倒なバカロボね。かわいくないし」
「んな事言ったって。でも、さっきマーレが言ったみたいに敵が出てくるかも……って事だよね?」
「たぶんね。そのかわいくないロボが情報小出しなのは、たぶんガチンコでそれを切り抜けろって事なのかしら」
「……試練」
「うん?」
「いや、前に言ってたじゃない。ガードロボは、彼らのメッセージであると同様に、ある種のフィルターだって。
 この程度の試練を超えられなければ、遺跡に触れる資格は無い……って」
「なるほどね。じゃ、仮にもそれを超えちゃった私達は、遺跡に触れる資格があるって事か」
「うん。で、さらに遺跡の奥にある物に触れる為には……」
「更なる試練を超えろ……。って事」
「たぶんね。……確証は無いけど」

 フランはガイドロボをじっと見て、次いで開いた入口をじっと見た。先にはぽっかり暗い空間が広がっている。
 通ってきた通路は最初から明かりが燈っていたが、そこはまだ暗闇だ。
 感覚的に、そこから先は違うステージであると思わせる。今までとは別の空間が広がっているのだ。

「……行きましょう。どっちにしろ、行かなきゃ始まらないし」

 マーレはうなづいて、そして二人は、そこへ歩を進めて行った。





※ ※ ※





 それは静かに、ただ佇むのみ。
 機能の殆どは休眠状態ではあったが、たまに流れ込む情報を得ては、それを蓄積していった。
 少し前に、自分と同じ能力を持つ『兄弟』が仕事をしたとの情報が入っていた。
 だが、残念な事に本来の任務とは少々掛け離れていたらしい。仕方なく、単なる兵士としての仕事だったという。

 その『兄弟』は仕事を終えた後に、また休眠状態に入ったらしい。侵入者を撃退してしまったからだ。
 そして、次は自分の番であろう事も知っていた。正規のルートで挑んで来た者達がいたのだ。それは静かに、その時を待つ。
 驚く事に、自身が居る場所のさらに奥では、彼らの中でも最大の力を持つ者の一つが活動する準備を始めている。となれば、それは闘いの準備であるのだ。

 今、同時に二つの事が起きている。
 戦争の準備と、もう一つ。力を求める者達のテストだ。
 それら二つの因果関係は不明であったし、それは興味も無かった。『大いなる存在』もまた、その事についての情報は流しては来ない。
 それよりも、注意すべき事がある。
 扉は開かれた。
 出番は近い。
 感じる。

 二人の挑戦者が侵入してきたのを感じていたのだ。





※ ※ ※




 ――ぽうっ……。

 明かりが点く。
 真っ暗な空間は一瞬で、やんわりとした照明に照らされる。
 明確にどこから光が放たれているかは解らなかった。まるで壁全体がうっすら光っているような感じだ。
 そこに立つと、潜ったシャッターは静かに閉じていった。
 後戻りは出来ない。しかし、彼女達二人はそこに興味は無い。元より退路は無く、進む以外に道は無かったのだから。

 シャッターの先の真っ暗闇な空間の先は、フランとマーレの期待を裏切り、ただの少し広めの部屋に過ぎなかった。
 今回は先へ進めそうな疑わしきシャッターもドアも見受けられない。

「これは……何?」
「さぁ? なんか……すごく重要そうではあるけど」

 見渡す限りでは、本当にただの広めの空間だった。ちょうど、学生が授業を受ける教室程度の広さ。それと違うのは、少々天井が高いくらいだ。
 本当に何も無い、ただの空間に過ぎない。部屋の中心にある物以外は。

 床から天井まで、まっすぐ貫く光の柱、とでも呼べばいいのだろうか。
 直径で一メートル程度の、光の柱だ。やんわり明るい空間でも、そこだけははっきりと輝いている。
 床と天井を見てみたが、やはり照明のような物は見受けられない。直接光が染み出しているように見えるのだ。
 そして、その光の柱の中に浮かぶ、数本の細長い物体。
 真っ白で、何の飾り気もない、白い棒だ。両端は尖っているが、鋭いわけでは無かった。競技で使う投擲用の槍にそっくりな、真っ白な棒。
 それが、光の柱の中で屹立して浮かび、くるくると回転していたのだ。

「なんだろ?」
「あれが例の武器なんじゃないの? ……にしてもシンプル過ぎるけど」

 フランは近いて、光の中に手を一瞬突っ込んでみる。温かくも、冷たくもない。何度か繰り返し、その光の内部は一応は安全だと確信したようだ。
 ちらりとマーレのほうを向く。すると、マーレもそれに近付いて、二人で目を見合わせる。

「取ってみる?」
「ええ。確かめてみようじゃない」

 フランはそれに手を突っ込んで、光の中で回転しているそれを一つ取る。ほとんど抵抗は無く、それは簡単に手に取れた。
 そして、それを光の柱の中から引き抜いた。

「軽い……」

 その棒は長さは一メートル五十センチ程度。そして、金属でもプラスチックでもない、不思議な手触りだ。
 もし金属であればそこそこの重さのはずだが、そうでは無い。仮にプラスチックやカーボンだとしても、不自然な程に軽かった。腕力は平均的はフランでさえ、簡単に振り回せる程だ。
 マーレも手を突っ込んでその棒を取り、床や壁にコンコンを打ち付けてみる。

「これなんだろ?」

 ぶんぶん振り回して、ちらりとガイドロボの方を見る。そうだ、分からないなら聞けばいい。そう思って、ガイドロボに近づこうとした時だ。
 ぐにっと、握っていた部分が曲がってしまった。それも、より前に向かって構え易いように、長距離射撃を行うボルトアクションライフルのように、なだらかに変形した。

「……えっ? 何が――」

 フランが言い切る前に、今度は長さが縮まって行く。代わりに太さが増して行き、尖端は注射針のように斜めにカットされたような構造になり、穴が覗いている。
 にぎりしめた部分の前部は膨らんで、傘のように展開していく。後部もまた、にぎりしめられるような細い柄のようになる。
 それは、変形した。明らかに攻撃的な方向に。

「なんだコレ……?」

 フランはそれを見てそう漏らす。それは銃のような、槍のような。しかし、そのどちらかは解らない。両方に似ているのだ。
 それの答えを出したのは、やはりマーレだった。

「パイルバンカーに似てるわね。空砲の力で貫徹を狙うような……」
「ぱいるばんかー? 聞いた事ないけど……」
「軍隊じゃまず使わない道具でしょうね。気になるなら試し撃ちしてみれば?」
「どうやって使うかも解らな……あ」
「どうしたの?」
「解らないって思ったら、使い方が入って来た……。ガイドロボの時みたいに……」

 それの使い方、それはフランの脳へ直接送り込まれる。
 指示されるままに、フランはそれを腰貯めに構える。脳に流入した説明書に則って、狙う場所を定め、そして、思い切り突き刺すような動作をする。
 直後、尖端から飛び出たのは、一閃の光の穂先。それは一瞬で離れた壁まで到達して、穴を穿った。
 爆発音と爆風と、閃光が走り、光の槍は放たれたのだ。フランによって。

「凄いんだけど……」
「やっぱり武器ね。しかも、私達のより遥かに強力」
「ビームの穂先の槍……か」
「……逆に言えば、こんなのを使わないと勝てないような敵が用意されてるって事かしら」
「多分……そうだと思う」

 穿った穴は、がらがらと音を立てる。その割には穴は小さいが、穴の表明は遠くからでも滑らかに見えるほどだ。つまり、それほど鋭く壁を貫いて行ったのだ。
 またマーレは腕を組んで、ふむ、と一声。

「やっぱりここは軍事施設?」
「え?」
「いや、なーんとなく何だけど。前々からおかしいとは思ってたのよね。遺跡の位置を特定した時からさ」
「それがどうしたのよ?」
「ま、その内話すわよ。まだ確信無いし。それによく考えたらここまで一直線じゃない。正直、私たちはまだ何にも知らないのよ。用意された物にそって来ただけ」

 ふむ、とさらに一声。
 そして、あの真っ青なネオアースの地球儀を思い出す。自身の手によって、真っ赤なラインが引かれた地球儀。
 それに印された遺跡の配置は、マーレの考えでいけばかなり大掛かりな仕掛けなのだ。もし正解ならば、かなりの大規模な戦闘を想定していた配置となる。
 確信は無いが、マーレはそう思っている

「こっから先も以外と一直線に行けるかも」
「なんでよ?」
「それが目的の施設なのよ。というより、後からそういう風に改装されたってのが正解だと思うけど」

 武器を手に、さらに進む先。何が隠されているのかを想像して、マーレは少しばかりニヤつく。好奇心の塊である故に。
 フランは光の槍を振り回して、取り扱いに馴れようとしている。使える武器は早々に扱いの習熟をせねばならない。そう判断したらしい。

 そして、それを手にしてから多少の時間はあったのものの、彼女達二人が立つ場所の床が、突如がらがらと崩落していく。二人は突然の異変に驚き。叫んだ。

「……!? 床が……きゃあ!?」
「なにこれ、あの槍を取ったから!? それがスイッチがわりって事!?」
「足場が無くなってく! どうすれば……」
「どうもこうも……。こりゃ落ちるしか無さそうな……」
「落ちるってちょっと、底見えないじゃん!」
「仕方ないでしょ! 他にいい考えある!?」
「そんな事言ったって……うわ!」
「フラ……! ……あ。こっちも余裕な……あああ!!」

 床が抜け、あっけなく二人は奈落へと飲み込まれて行く。その先に待つ者は、それの到着を待っている。
 ここまでは、マーレが予測したように遺跡が用意した一本道なのだ。すべて、予定通り。
 問題はこの後。遺跡が用意した一本道の行き止まり。フランとマーレは、力でその先の道をこじ開け無ければならない。

 ――決闘。



続く――


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