町の至る所から火の手が上がり、瞬く間に無数の炎で埋め尽くされた。
覚束無い足取りで逃げようとする者を押し退け、我先にと逃げ出す大人もいれば、親の亡骸に縋り泣いている子供もいる。
瓦礫に押し潰され息絶えようとする者、炎になめ尽くされ、もがきながら死に逝く者もいる。
覚束無い足取りで逃げようとする者を押し退け、我先にと逃げ出す大人もいれば、親の亡骸に縋り泣いている子供もいる。
瓦礫に押し潰され息絶えようとする者、炎になめ尽くされ、もがきながら死に逝く者もいる。
空は煉獄の炎に焦がされ、風は人々の断末魔を運び、この世の地獄を表していた。
怒号と悲鳴。絡みつく熱気で我に返ると身の丈、一丈程の巨躯を持つ人ならざる者と対峙していた。
口から伸びる二本の牙。丸太の様な巨大な腕と、鋭い爪。その身に纏ったボロ切れには鮮血が赤い斑点となってこべり付いている。
怒号と悲鳴。絡みつく熱気で我に返ると身の丈、一丈程の巨躯を持つ人ならざる者と対峙していた。
口から伸びる二本の牙。丸太の様な巨大な腕と、鋭い爪。その身に纏ったボロ切れには鮮血が赤い斑点となってこべり付いている。
この身を包むかの様に燃え盛る炎と、刺す様な殺気に汗が頬を伝い顎から滴り落ちる。
抗う術は無い。しかし、白銀の若武者の背後には幼子を抱えた山吹色の髪をした少女の姿がある。
少女は白銀の妻、幼子は白銀の子であり、白銀に後退は許されなかった。
抗う術は無い。しかし、白銀の若武者の背後には幼子を抱えた山吹色の髪をした少女の姿がある。
少女は白銀の妻、幼子は白銀の子であり、白銀に後退は許されなかった。
自慢だった白銀の頭髪が煤けていくのも構わず、腰に差した二振りの太刀を抜刀し、異形の元へと一歩、また一歩と踏み出し、やがて疾走する。
異形は牙から滴り落ちる鮮血を美味そうに啜り、此方に疾走する白銀の若武者に爪を振り落とす。彼我の距離は五丈程。
異形は牙から滴り落ちる鮮血を美味そうに啜り、此方に疾走する白銀の若武者に爪を振り落とす。彼我の距離は五丈程。
異形の爪先から真空の刃が四つ放たれ、地面を削り取りながら白銀へと迫る。
白銀は何事かを呟き、二本の太刀を交差するように振り抜き、異形が放った真空刃を掻き消し、咆哮と共に十丈程の高さまで跳躍。太刀を異形目掛けて投擲する。
二本の太刀は四本、六本と数を増し、終いには十本の太刀が異形の巨躯に降り注がれる。全身を貫かれた異形は断末魔の叫びと共に血溜まりの中に沈んだ。
白銀は何事かを呟き、二本の太刀を交差するように振り抜き、異形が放った真空刃を掻き消し、咆哮と共に十丈程の高さまで跳躍。太刀を異形目掛けて投擲する。
二本の太刀は四本、六本と数を増し、終いには十本の太刀が異形の巨躯に降り注がれる。全身を貫かれた異形は断末魔の叫びと共に血溜まりの中に沈んだ。
白銀は喉を鳴らし、獣の様な咆哮で天を震わせ、十本の指を鉤爪の様に開き、着地と共に二体目の異形に爪撃を浴びせる。
鋼鉄の様な皮膚は易々と斬り裂かれ、その肉体は弾けた風船の様に飛び散り、細切れとなった肉片や臓腑が白銀の顔を汚した。
口の中に入った肉片を吐き捨て、着物の袖から新たに二本の太刀を引き抜き、三体目の異形に襲い掛かろうとするが、両の足が動かない。
足首に重りでも縫い付けられたような感覚に陥り、視線を下げると血溜まりの中から新手の異形が両腕と顔を出し、白銀の両足を握り締めていた。
鋼鉄の様な皮膚は易々と斬り裂かれ、その肉体は弾けた風船の様に飛び散り、細切れとなった肉片や臓腑が白銀の顔を汚した。
口の中に入った肉片を吐き捨て、着物の袖から新たに二本の太刀を引き抜き、三体目の異形に襲い掛かろうとするが、両の足が動かない。
足首に重りでも縫い付けられたような感覚に陥り、視線を下げると血溜まりの中から新手の異形が両腕と顔を出し、白銀の両足を握り締めていた。
白銀は異形の両腕に太刀を振り落とし、懐から引き抜いた三本目の太刀で異形の額を貫き息の根を止める。
仲間の断末魔に異形の群れが大地を駆け、或いは地中から這い出、空から降り立ち、次々へと白銀の元へと殺到する。
白銀は十本の刀と十本の爪で以って果敢に戦うが所詮は人間と異形。肩を食い千切られ、耳を飛ばされ、足を切り落とされ、腹を貫かれ地に投げ捨てられる。
仲間の断末魔に異形の群れが大地を駆け、或いは地中から這い出、空から降り立ち、次々へと白銀の元へと殺到する。
白銀は十本の刀と十本の爪で以って果敢に戦うが所詮は人間と異形。肩を食い千切られ、耳を飛ばされ、足を切り落とされ、腹を貫かれ地に投げ捨てられる。
真っ赤に染まる視界の中で白銀の妻と、幼子に異形の爪と牙が伸び、その影に包み込まれていく姿が見えた。
己の無力さに涙を流す事も出来ず、燃え尽きる魂はただただ無意味な呪いの言葉を並び立てる事しか出来ずにいた。
己の無力さに涙を流す事も出来ず、燃え尽きる魂はただただ無意味な呪いの言葉を並び立てる事しか出来ずにいた。
統合歴330年3月12日
久々に最悪な夢を見たと思いながら守屋は身体を起こした。
幼い頃から幾度と無く見続けて来た悪夢。始めの頃は並び立てられた呪詛が自分に差し向けられているのではと錯覚し、恐怖に咽び泣いた。
いつしか、夢の中に出て来る白銀に感情移入してしまい、寝ぼけ眼で呪詛の言葉を並び立て、居もしない異形に対し、憎悪を差し向けるようになった。
そして、夢の中の風景。登場人物たちの台詞の一言一句や展開の全てを完全に記憶してしまい、見飽きた映画を無理矢理見せられている様にしか感じられなくなってしまった。
幼い頃から幾度と無く見続けて来た悪夢。始めの頃は並び立てられた呪詛が自分に差し向けられているのではと錯覚し、恐怖に咽び泣いた。
いつしか、夢の中に出て来る白銀に感情移入してしまい、寝ぼけ眼で呪詛の言葉を並び立て、居もしない異形に対し、憎悪を差し向けるようになった。
そして、夢の中の風景。登場人物たちの台詞の一言一句や展開の全てを完全に記憶してしまい、見飽きた映画を無理矢理見せられている様にしか感じられなくなってしまった。
とは言え、中学校を卒業した辺りで、この悪夢を見る事も無くなっていた事もあり、久々に見る悪夢が守屋に不快感を与えるには充分過ぎた。
何が不快かと言えば、町を焼く炎の熱気、異形から身体を裂かれる痛みがリアルに感じられ、口の中に入った異形の肉片の味と来たら最悪としか言い様が無い。
何より最悪なのは白銀の妻。山吹色の髪をした少女の死だ。今まで全く気付く事が無かったが、今なら間違える事は無い。白銀の妻の顔が――
何が不快かと言えば、町を焼く炎の熱気、異形から身体を裂かれる痛みがリアルに感じられ、口の中に入った異形の肉片の味と来たら最悪としか言い様が無い。
何より最悪なのは白銀の妻。山吹色の髪をした少女の死だ。今まで全く気付く事が無かったが、今なら間違える事は無い。白銀の妻の顔が――
(よりによって霧坂と瓜二つなんだよな……)
「って、寝てる場合じゃねぇだろ!!」
守屋は意識を失う前の出来事を思い出し、叫びながら弾かれた様にベッドから飛び出した。大袈裟に巻かれた包帯を無理矢理、引き千切り床に投げ捨てた。
丁寧に手当てを施され、設備の整った綺麗な病室に寝かされていた事に気付いた守屋は、自分が敗北した直後に警察から救出されたのだろうと考えた。
そして、守屋が試合をしていたスタジアムの中で他の誰よりも一番死の危機に瀕していた自分が助かったのであれば、他の観客。霧坂も無事に違い無いと。
だが、久々に見た悪夢のせいで取り越し苦労であると分かっていても、顔を見るなり声を聞くなりしなければ落ち着けそうにも無い。
丁寧に手当てを施され、設備の整った綺麗な病室に寝かされていた事に気付いた守屋は、自分が敗北した直後に警察から救出されたのだろうと考えた。
そして、守屋が試合をしていたスタジアムの中で他の誰よりも一番死の危機に瀕していた自分が助かったのであれば、他の観客。霧坂も無事に違い無いと。
だが、久々に見た悪夢のせいで取り越し苦労であると分かっていても、顔を見るなり声を聞くなりしなければ落ち着けそうにも無い。
「調子は悪く無さそうだな」
「父さん!?」
背中に投げかけられた声に反応して振り向くと、小さな病室の片隅に彼の父親が腕を組んで佇んでおり、守屋は驚きの声を上げた。
病院に担ぎ込まれた程度で態々、心配して駆け付けて来るような父親では無い。彼の職業や役割を考えると駆け付けて来る暇などある筈も無いからだ。
病院に担ぎ込まれた程度で態々、心配して駆け付けて来るような父親では無い。彼の職業や役割を考えると駆け付けて来る暇などある筈も無いからだ。
「いや、それよりもスタジアム襲撃はどうなった!? 俺が助かってるくらいなんだ、死んだ奴なんていないよな!?」
だが、今の守屋にとって自分が病院へ運び込まれた事や、自身の父親が見舞いに来ている事など取るに足らない事でしかない。
何も大きな事件にはならなかった。そう言って欲しいというような我が子の剣幕に剣は深く溜息を吐いた。
何も大きな事件にはならなかった。そう言って欲しいというような我が子の剣幕に剣は深く溜息を吐いた。
「重軽傷者は二十万を越すが、今の所は奇跡的に一人も死者は出ていない。だが……」
「だが……? 何か拙い事でも起こったのか?」
剣が片手に提げたクリップボードからページを捲り、一枚の書類を差し出した。
「おいおい。今更だけどさ、息子だからって部外者に機密情報を簡単に……」
死者は一人も出ていない。その言葉に安堵した守屋は呆れた調子で書類を受け取り、それを一目見ただけで押し黙った。
その書類にはスタジアムに訪れていた七人の【拉致被害者】の顔写真が貼り付けられ、その横には市民IDを始めとする個人情報が事細かに記載されていた。
七人の拉致被害者は八坂州から訪れた観客で、いずれも守屋一刀と関わりの深い者達だった。
その書類にはスタジアムに訪れていた七人の【拉致被害者】の顔写真が貼り付けられ、その横には市民IDを始めとする個人情報が事細かに記載されていた。
七人の拉致被害者は八坂州から訪れた観客で、いずれも守屋一刀と関わりの深い者達だった。
三笠慶。内田燐。歳方アリア。阿部辰巳。西行幸仁。夕凪太郎。そして――
「霧……坂……な、なんだよ。これ……何の冗談だよ……何で……ッ!?」
他の奴が無事で俺の仲間が攫われているんだ――失意のあまり、絶対に口にしてはならない事を口にしようとして、守屋は慌てて押し黙った。
「現在、中央議会主導で救出作戦の準備中だ。作戦開始は今から5時間後――」
「俺も連れて行ってくれ! 頼む! 父さんの権力なら部隊に一人、学生訓練兵を参加させる事くらい簡単だろ!?」
守屋は落ち着かない様子で父の肩を掴み、必死に懇願した。確かに守屋剣の権力や影響力、発言力であれば大抵の無理を押し通す事が出来る。
普段の守屋一刀ならば家の名を使い、物事の道理を捻じ曲げる事を厭う。その行いが守屋の名を貶めると思っているからだ。
だから、剣は我が子の要望に些かばかりの驚きを覚え、軽く目を見開いた。
普段の守屋一刀ならば家の名を使い、物事の道理を捻じ曲げる事を厭う。その行いが守屋の名を貶めると思っているからだ。
だから、剣は我が子の要望に些かばかりの驚きを覚え、軽く目を見開いた。
「それで答えは出せる様になったのか? 守るべき人間のために他人を殺す覚悟は出来たのか?」
「霧坂を守るために、顔も名前も知らない他人を殺す事になっても後悔はしない」
即答――焦点を失い、今にも死にそうな表情をしていた我が子の表情が一変し、戦う者の顔付きになった事で剣は含み笑い混じりの声を上げた。
「短絡的だろ? ガキだと思うだろ? 俺だって自覚しているさ。だがな、命ってのは平等じゃない。
少なくとも、今の俺には他の何かを犠牲にしてでも守りたい命がある。惚れた女が相手なら尚更な」
少なくとも、今の俺には他の何かを犠牲にしてでも守りたい命がある。惚れた女が相手なら尚更な」
守屋は我ながら、愚かな弁論を振るってしまったと軽い自己嫌悪に陥りかける。だが、口に出した事が全てで、それ以上でも無ければ、それ以下でも無い。
それどころか、内に秘めた想いを口に出してみたら、自分が思っていた以上に非論理的な暴論である事を痛感し、内心で自己弁護する気すら失せた。
それどころか、内に秘めた想いを口に出してみたら、自分が思っていた以上に非論理的な暴論である事を痛感し、内心で自己弁護する気すら失せた。
「今は合格という事にしておいてやる」
剣は我が子の戦う理由に対して肯定も否定もしていない。精々、あまりにも非現実的かつ途方も無い夢想を熱弁されなくて良かった程度にしか思っていない。
寧ろ、清々しい程、馬鹿らしくて分かり易い理由であった事に内心で安堵の表情を浮かべた。彼は最初から戦う理由に大袈裟な理想や大義名分を求めていない。
守屋剣は他者を守るという行いを、自らの生命を賭けた究極の独善と考えている。
自らの知性と理性で雁字搦めにされ、非論理的で一貫性の無い生き物こそが人間であり、他を省みず感情任せの意志を貫く姿こそが人間のあるべき姿だと思っている。
だから、我が子の思想や意思には肯定も否定しないが、その心の持ち様だけは戦うに値すると感じていた。
寧ろ、清々しい程、馬鹿らしくて分かり易い理由であった事に内心で安堵の表情を浮かべた。彼は最初から戦う理由に大袈裟な理想や大義名分を求めていない。
守屋剣は他者を守るという行いを、自らの生命を賭けた究極の独善と考えている。
自らの知性と理性で雁字搦めにされ、非論理的で一貫性の無い生き物こそが人間であり、他を省みず感情任せの意志を貫く姿こそが人間のあるべき姿だと思っている。
だから、我が子の思想や意思には肯定も否定しないが、その心の持ち様だけは戦うに値すると感じていた。
そして、惚れた女のために戦うと言うのであれば、意思を貫くには十分過ぎる。
飢えを満たせる程度の飯、それなりの金。惚れた女が抱ければ大抵の男は生きていける。それを守るためなら躊躇う事無く、全力で戦えるというのが剣の持論だった。
飢えを満たせる程度の飯、それなりの金。惚れた女が抱ければ大抵の男は生きていける。それを守るためなら躊躇う事無く、全力で戦えるというのが剣の持論だった。
何より――
「何故、お前に機密事項を見せたと思う? 一両日中に済むような救出作戦なら、お前に知らせる必要は無い」
「じ、じゃあ……!」
「あるお方から、お前を救出部隊に参加させるようにと頼まれてな」
「俺を……?」
父が自分の意思を汲み、部隊に加えるために迎えに来てくれたのだと思いきや、全く別の人間の意志によるものと知り、守屋は警戒心を露にした。
だが、相手の意図以前に自分一人では霧坂を救い出す手段も無く、そもそも、何処に捕らえられているかさえも分からない。守屋一刀は何処にでも居る、無力で無知な一介の高校生でしかないのだから。
一体、何処でどのような利害が一致したかは分からないが、向こうから救出作戦に参加しろと言ってきているのであれば、却って、好都合だと考え直した。
だが、相手の意図以前に自分一人では霧坂を救い出す手段も無く、そもそも、何処に捕らえられているかさえも分からない。守屋一刀は何処にでも居る、無力で無知な一介の高校生でしかないのだから。
一体、何処でどのような利害が一致したかは分からないが、向こうから救出作戦に参加しろと言ってきているのであれば、却って、好都合だと考え直した。
「まあ、何だって良いさ……霧坂を助け出す事が出来れば、何だって良い」
剣は我が子ながら愚直に育ったものだと苦笑しながら、病室から出て行った。
守屋はベッドの脇で丁寧に畳まれた八坂高校の制服に着替え、父の後を追うため病室を出ようとして踏みとどまった。
上着のポケットの中に入っていたモバイルシステムを起動し、霧坂と二人で撮った写真を表示した。仏頂面の守屋と、あどけない笑顔を浮かべる霧坂。特に何も珍しくも無い二人の日常。
守屋一刀という人間を形成する平和な日常。その象徴たる少女、霧坂茜華は無法者どもに奪われてしまった。守屋は心の中に湧き上がる怒りの炎を絶やさぬ様、静かに火をくべ、必ず助け出すと決意を固め、病院の暗い廊下を駆け出した。
上着のポケットの中に入っていたモバイルシステムを起動し、霧坂と二人で撮った写真を表示した。仏頂面の守屋と、あどけない笑顔を浮かべる霧坂。特に何も珍しくも無い二人の日常。
守屋一刀という人間を形成する平和な日常。その象徴たる少女、霧坂茜華は無法者どもに奪われてしまった。守屋は心の中に湧き上がる怒りの炎を絶やさぬ様、静かに火をくべ、必ず助け出すと決意を固め、病院の暗い廊下を駆け出した。
統合歴330年3月13日
砕牙州立救急医療センターから法定速度を完全に無視して車を走らせる事、約一時間。守屋親子は砕牙の州外れにある市街地へと訪れていた。
砕牙州政府から完全に独立し、地球の全州政府を統括する中央議会の管理下に置かれた特別区域で、此処で行われる事は善悪等しく、表沙汰になる事は無い。
例えば、市街地の地下に中央議会の懐刀たる独立戦隊GEARSの基地施設がある事など州政府であっても知り得る事はない。
砕牙州政府から完全に独立し、地球の全州政府を統括する中央議会の管理下に置かれた特別区域で、此処で行われる事は善悪等しく、表沙汰になる事は無い。
例えば、市街地の地下に中央議会の懐刀たる独立戦隊GEARSの基地施設がある事など州政府であっても知り得る事はない。
「一刀、これがお前のアームドギアだ」
「俺の……アームドギア?」
地下の基地施設の中に併設された格納庫の中には二機のギアが収容されている。そのどちらもが歴史の表舞台には登場しない秘匿されたギアで、アームドギアに精通している守屋ですら見た事の無い機種だった。
剣が指差したギアは、黒みがかった紫の装甲に黄色の模様が刻まれた全長12m程の大型ギア。背中には巨大な武装を背負っており、腰部と脛に可変ブースターが装着されている。
旧式では無く、明らかに新型機の類である事は間違えようも無い。だが、ストライカーとて超高性能機だ。精々、廃棄寸前の先行量産型が回ってくれば御の字くらいに考えていただけに守屋は唖然とした。
剣が指差したギアは、黒みがかった紫の装甲に黄色の模様が刻まれた全長12m程の大型ギア。背中には巨大な武装を背負っており、腰部と脛に可変ブースターが装着されている。
旧式では無く、明らかに新型機の類である事は間違えようも無い。だが、ストライカーとて超高性能機だ。精々、廃棄寸前の先行量産型が回ってくれば御の字くらいに考えていただけに守屋は唖然とした。
「お前の士官学校卒業祝いにと思って三年前、俺が設計し、今日までチマチマと建造させていたのさ」
剣はそんな我が子の態度に気を良くしたのか、新しい玩具を自慢する子供の様な態度で得意気な表情をしながら説明を始めた。
「士官学校卒業に間に合うように建造していたのでな。完成には至っていないが、両腕のビームコートナックル、左腕のドレインシェード、右腕のバリアフィールド、背中のビームキャノン二門、肩のビームクレイモア二基。
スペースシャトル用の高出力プラズマジェネレーター二基。ブースター七基。ワンオフのアームドギアの中でもコイツより優れたギアは殆ど無いぞ」
スペースシャトル用の高出力プラズマジェネレーター二基。ブースター七基。ワンオフのアームドギアの中でもコイツより優れたギアは殆ど無いぞ」
「ワンオフの特別機……まるで動く要塞じゃないか! これ以上、何をするつもりなんだ?」
「コイツに搭載予定の新型インターフェースの開発が難航中でな。それに単独での大気圏の離脱と突入能力も無ければ、拠点殲滅用の武装も完成していない。完成はまだまだ先だ」
「父さんはコイツで俺に何をさせたいんだ?」
「いやな。折角、好き勝手出来る立場にあるんだ。ちょっと天下無敵のスーパーロボットでも作ってみようと思っただけだ」
守屋は年甲斐も無く悪戯小僧のような顔でゲラゲラと笑う父親の姿を横目に新たな力を眼窩に収めた。
本来一基しか搭載されない筈のプラズマジェネレーターを二基搭載し、過度な攻撃力と防御力を持つ、悪ふざけを極めた様な大型ギア。
本来一基しか搭載されない筈のプラズマジェネレーターを二基搭載し、過度な攻撃力と防御力を持つ、悪ふざけを極めた様な大型ギア。
此処までする必要があるのかと守屋は父に視線を向けるが、その表情からはふざけて作ったのか、必要だから作ったのかを伺い知る事は出来ない。
「ま、何だって良いさ。で、コイツの名前は?」
「そうだな。最強の鬼、童子から名を借りて倭国童子ってのはどうだ?」
普段の守屋ならば名前など何でも良いと言うところなのだが、夢に出てきた異形の事を思い出して顔をしかめた。
守屋は鬼と言うものを見た事が無いが、鋼の様に硬質化した鉛色の皮膚に3m程の巨躯。むき出しになった牙と鋭い爪。
この世に鬼が存在するとすれば、夢の中に現れた異形こそが鬼なのではと思った。
守屋は鬼と言うものを見た事が無いが、鋼の様に硬質化した鉛色の皮膚に3m程の巨躯。むき出しになった牙と鋭い爪。
この世に鬼が存在するとすれば、夢の中に現れた異形こそが鬼なのではと思った。
「縁起が悪いな。それにコイツの見た目は鬼って言うよりも蜘蛛だな」
紫色の流線型に黄色の模様。確かに見ようによっては蜘蛛の腹にも見えなくはない。
「蜘蛛か……八握脛は?」
「呼び難い」
鬼や土蜘蛛が実在していたのかは守屋の知り及ぶところでは無いが、今から遥か遠い昔、倭国が日本と呼ばれていた時代に人民の生活を脅かしていた存在。
守屋家の敵の名を冠するギアを愛機にするなどと、以ての外だと守屋は、はっきりと拒絶の意を示した。
そして、守屋は童子や、土蜘蛛に関連する縁起の良い存在を思い出し、はっとした様な表情で専用ギアを見上げた。
守屋家の敵の名を冠するギアを愛機にするなどと、以ての外だと守屋は、はっきりと拒絶の意を示した。
そして、守屋は童子や、土蜘蛛に関連する縁起の良い存在を思い出し、はっとした様な表情で専用ギアを見上げた。
「安綱……そうだ。コイツの名前は安綱だ」
その昔、童子や土蜘蛛を退治したとされる遥か太古から伝わる伝説の聖剣。童子切安綱から、その名を頂戴する事にした守屋は満足気な微笑を浮かべている。
「まあ、お前のギアだ。好きにしろ。では、状況を説明するぞ」
思いの外、普段と変わらぬ我が子の様子に、剣は内心で胸を撫で下ろしながら事件の概要を語り始めた。
地球統合軍、現行主力量産型アームドギア、ストライカー四十機を装備した武装組織が高校スポーツギア全国大会を襲撃し観客七名を拉致した。
その際、警備任務に着任していたパトロールギア、エイテン三十九機が撃破され、拉致被害者七名の他、二十万人に渡る負傷者が出るという戦後最大級のテロ事件。
武装組織の規模や、その後の動向、ストライカーの入手元など肝心な情報の全てが不自然なまでに不明扱いとされている。
その際、警備任務に着任していたパトロールギア、エイテン三十九機が撃破され、拉致被害者七名の他、二十万人に渡る負傷者が出るという戦後最大級のテロ事件。
武装組織の規模や、その後の動向、ストライカーの入手元など肝心な情報の全てが不自然なまでに不明扱いとされている。
地球統合政府の統治下にある全ての人間は、モバイルシステムの所持を義務付けられており、利便性向上の名目により、厳重な監視の目に晒されている。
事件を未然に防ぐ事が出来なかったとしても、人の手によって引き起こされた事ならば、不明とされる項目が存在するのは余りにも不自然。寧ろ、絶対に有り得ない事だった。
事件を未然に防ぐ事が出来なかったとしても、人の手によって引き起こされた事ならば、不明とされる項目が存在するのは余りにも不自然。寧ろ、絶対に有り得ない事だった。
「俺は此処一年、中央議会の命令で八坂州を中心に発生したギア犯罪を追っていた。そして、これまでの調査で妙な共通点が浮かび上がった。
お前が巻き込まれたギア犯罪の主犯格は、違法行為を行う前に砕牙州へ渡っている事。そして、砕牙州内での行動記録は全て抹消されている事だ」
お前が巻き込まれたギア犯罪の主犯格は、違法行為を行う前に砕牙州へ渡っている事。そして、砕牙州内での行動記録は全て抹消されている事だ」
民間人の行動記録情報。それは全てモバイルシステムの監視プログラムによって構築されたもので、閲覧出来るのは各州政府の一部の権力者と中央議会に関わる人間だけだ。
ましてや情報の書き換えとなると僅か一握りの権力者に限られ、内部の犯行となれば余程の大物が敵で、外部ならば高度な技術を持つ反政府組織が敵という事になる。どちらにしても、ろくでも無い話だ。
ましてや情報の書き換えとなると僅か一握りの権力者に限られ、内部の犯行となれば余程の大物が敵で、外部ならば高度な技術を持つ反政府組織が敵という事になる。どちらにしても、ろくでも無い話だ。
「……改竄された情報を復元した結果、記録情報の改竄、違法組織への兵器、資金提供や違法行為の扇動。その他の全てが砕牙州政府自身の手によって行われていた事が発覚した」
父の口から語られる事実に守屋は絶句した。八坂州で守屋が関わった事件と、今回の襲撃事件の首謀者が法と秩序の番人である筈の州政府だった事に。
しかも、自分が生まれ育った砕牙州が元凶であるという事に頭を鈍器で殴りつけられたような激しい眩暈に襲われた。これでは故郷に裏切りを受けたも同然だ。
しかも、自分が生まれ育った砕牙州が元凶であるという事に頭を鈍器で殴りつけられたような激しい眩暈に襲われた。これでは故郷に裏切りを受けたも同然だ。
「様々な違法組織に兵器や物資、金を渡して八坂州で稚拙な違法行為を繰り返させたかと思えば、砕牙州に内紛を起こさせ、その対応や情報操作に右往左往。
今回の大会襲撃も砕牙州政府の官僚が違法組織に化け、武装や金を渡し、大会への襲撃を依頼している。何を企んでいるかは捕らえてみなければ分からんと言いたいところだが……」
今回の大会襲撃も砕牙州政府の官僚が違法組織に化け、武装や金を渡し、大会への襲撃を依頼している。何を企んでいるかは捕らえてみなければ分からんと言いたいところだが……」
自らの懐を痛めてまで、自分の喉下に刃をちらつかせ、その対応に奔走する。傍目から見れば権力を最大限に生かした盛大な自傷行為だが、守屋親子にとって見過ごす事の出来ない懸念事項が一つ。
「砕牙州政府は違法組織を使って俺を狙っている……?」
「これまでの経緯や拉致された被害者の顔ぶれを見る限りでは、そう考えるのが妥当だ。そこで敢えて誘いに乗り、お前を餌に砕牙州政府の癌細胞を表舞台に引きずり出す。そのためにもまずは人質の救出からだ」
そう言って、剣は壁際のスクリーンを起動し、砕牙北方の山岳地帯ホルン山脈のマップデータを表示した。
今から半世紀以上前、地球統合軍が基地施設をカムフラージュするために作った人工山岳地帯で砕牙州政府の管理地区ではあるものの、施設自体は既に放棄されている。
今から半世紀以上前、地球統合軍が基地施設をカムフラージュするために作った人工山岳地帯で砕牙州政府の管理地区ではあるものの、施設自体は既に放棄されている。
「大会を襲撃した武装組織は放棄されたホルン山脈内部の基地施設に潜伏。人質グループも其処に監禁されている。
お前は安綱でホルン山脈基地施設を単機で襲撃。施設内に収容された三十七機のストライカーを引きずり出し、人質から切り離せ。
その後、阿修羅、不知火を投下し敵戦力を殲滅を開始。お前は戦闘の騒動に乗じて人質グループの元へ先行しろ」
お前は安綱でホルン山脈基地施設を単機で襲撃。施設内に収容された三十七機のストライカーを引きずり出し、人質から切り離せ。
その後、阿修羅、不知火を投下し敵戦力を殲滅を開始。お前は戦闘の騒動に乗じて人質グループの元へ先行しろ」
尚、阿修羅とは安綱の隣に格納されている守屋剣専用のワンオフ機で、不知火は中央議会所属の独立戦隊員に配給されるアームドギアである。
いずれも設計と開発には守屋剣が深く関わっており、その性能はストライカーを遥かに凌駕している。その性質上、表舞台に現れる事は滅多に無い。
いずれも設計と開発には守屋剣が深く関わっており、その性能はストライカーを遥かに凌駕している。その性質上、表舞台に現れる事は滅多に無い。
「霧坂さえ無事なら、それで良いって言った俺が言うのも変な話だけど、砕牙州政府は如何するんだ?」
「恐らく、戦闘が始まれば黒幕が動き出す筈……俺にお前の出撃を依頼したお方が責任を持って浄化してくるとの事だ。まあ、問題は起きまい」
「お方……か。父さんが他人に対して、そういう言い方するの珍しいな? 何者なんだ?」
「古い友人みたいなものだ。いずれ、顔を合わせる機会が来るだろう……さあ、出撃するぞ」
剣は言葉を濁して阿修羅の搭乗を始めたのを皮切りに守屋も安綱の搭乗を開始する。コクピットはアイリス・ジョーカーと同様、シートの無い直立型コクピットになっており、ヘッドセットを被ると背後からアームが伸び、守屋の腰が固定される。
そして、グローブ型の火器管制用コントロールレバーを腕にはめ、球形のコクピット内壁に垂直水平360度を網羅した全周囲モニターが光を宿し、安綱のAIが無機質な声をあげる。
そして、グローブ型の火器管制用コントロールレバーを腕にはめ、球形のコクピット内壁に垂直水平360度を網羅した全周囲モニターが光を宿し、安綱のAIが無機質な声をあげる。
≪起動を確認。認証を開始します。所属、姓名、コールサインをお答え下さい≫
「中央議会独立戦隊GEARS所属、守屋一刀。コールサインGEARS0」
≪所属、姓名、コールサインを確認。搭乗者の生体情報による認証を完了。アイリス・ジョーカー登録戦闘情報をロード。最適化を開始……完了。出撃体制に移行≫
安綱のAIが最適化のため、地球上のネットワークから守屋一刀の戦闘データを収拾した際、アイリス・ジョーカーに保存されていたデータを流用するのが最善であると判断を下した。
「安綱! 発……進ッ!!」
アイリス・ジョーカーの魂が宿ったような心強さや頼もしさを感じる反面、己の無力さが愛機を死なせてしまった事に強い憤りを覚え、苛立ち紛れに守屋は叫んだ。
固定具から解き放たれ、宙に浮いた黒紅梅の装甲に刈安の模様を持つ機械の武士が甲板の上に降り立ち、カタパルトデッキへ進み、七つのブースターが近付く者全てを焦がす守屋の猛りと共に紅蓮の猛火を吹き上げ、宵闇の空を切り裂いた。
固定具から解き放たれ、宙に浮いた黒紅梅の装甲に刈安の模様を持つ機械の武士が甲板の上に降り立ち、カタパルトデッキへ進み、七つのブースターが近付く者全てを焦がす守屋の猛りと共に紅蓮の猛火を吹き上げ、宵闇の空を切り裂いた。
ホルン山を視界に収めた守屋は機体の高度を下げ、地面をかすめる様に山道を飛翔する。レーダーに表示された目標地点まで残り5km。安綱は身体を起こして、音を立てず地面に着地する。
安綱のゴーグルアイが蒼い光を放ち、ホルン山の内部の解析を始める。事前にGEARSの隊員が調査した通りに三十七機のストライカーが収容されている格納庫と、人質が監禁されている区画がモニターに表示された。
守屋は火器管制コントロールレバーを操り、ビームキャノンの砲身を展開する。背中に背負われた二枚一対となった楕円形の砲身が安綱の脇口から飛び出し、鋭角な先端部分が折れ曲がり、砲門が黒光を放つ。
砲身部分中腹のカバーがスライドし、中からトリガーが持ち上がり、安綱が物干し竿と名付けられた長い砲身を持つビームキャノンを構えると、守屋は躊躇う素振一つ見せずトリガーを引いた。
安綱のゴーグルアイが蒼い光を放ち、ホルン山の内部の解析を始める。事前にGEARSの隊員が調査した通りに三十七機のストライカーが収容されている格納庫と、人質が監禁されている区画がモニターに表示された。
守屋は火器管制コントロールレバーを操り、ビームキャノンの砲身を展開する。背中に背負われた二枚一対となった楕円形の砲身が安綱の脇口から飛び出し、鋭角な先端部分が折れ曲がり、砲門が黒光を放つ。
砲身部分中腹のカバーがスライドし、中からトリガーが持ち上がり、安綱が物干し竿と名付けられた長い砲身を持つビームキャノンを構えると、守屋は躊躇う素振一つ見せずトリガーを引いた。
砲身が紫電を放ち、仄かな発光を始め、砲門にビーム粒子が集束され、地獄の業火さえも焼き尽くす程の高熱を伴う二つの巨大な光芒となって空間を燃やし、山肌を砕き消滅させていく。
怒涛のように押し寄せるビーム粒子の濁流がホルン山脈内部に埋まるように建設された基地施設の一部が、半世紀以上の時を経て外部に露出した。
怒涛のように押し寄せるビーム粒子の濁流がホルン山脈内部に埋まるように建設された基地施設の一部が、半世紀以上の時を経て外部に露出した。
≪敵機接近≫
AIの警告と時同じくして基地施設から、三機のストライカーが龍尾のようなブースターの残光を描きながら、安綱へと迫った。
「思ったよりも対応が早いな……」
襲撃を警戒していたわけでは無い。歴史に残る程の大犯罪を成し遂げた興奮のあまり、ストライカーのコクピットの中に引き篭り、奇声を発したりと内心に湧き上がる全能感を持て余していた所だったのだ。
戦力、物資、資金の提供を受け、依頼通りに七人の人質を取ると追加報酬として多額の金と、基地施設まで引き渡された。後は砕牙州政府に対し、人質解放交渉を行えば依頼は達成。交渉の成否は依頼内容に含まれていない。
州政府が交渉に応じれば多額の身代金を手にする事が出来る。応じずとも既に裏社会を牛耳るには十分過ぎる程の戦力と資金力がある。順風満帆。彼等にとっては笑いが止まらない程の状況だった。
戦力、物資、資金の提供を受け、依頼通りに七人の人質を取ると追加報酬として多額の金と、基地施設まで引き渡された。後は砕牙州政府に対し、人質解放交渉を行えば依頼は達成。交渉の成否は依頼内容に含まれていない。
州政府が交渉に応じれば多額の身代金を手にする事が出来る。応じずとも既に裏社会を牛耳るには十分過ぎる程の戦力と資金力がある。順風満帆。彼等にとっては笑いが止まらない程の状況だった。
尤も、その依頼主が脅迫相手の砕牙州である事や、それが何を意味しているかなど彼等が知る由も無い。
安綱が攻撃目標に設定した三機のストライカーが急激な温度上昇を始め、AIがロックオン警報を出し、守屋は歯を食いしばりながら距離を詰める。
薄暗がりの闇の中、三条の閃光が殺意となって安綱に襲いかかる。守屋は震える手を抑える様にコントロールレバーを握り締め、右の掌を突き出しながら殺意の濁流の中に身を躍らせた。
掌から勾玉と名付けられた不可視の力場が、ビームキャノンを受け止め、安綱のエネルギーへと変換し、吸収する。
薄暗がりの闇の中、三条の閃光が殺意となって安綱に襲いかかる。守屋は震える手を抑える様にコントロールレバーを握り締め、右の掌を突き出しながら殺意の濁流の中に身を躍らせた。
掌から勾玉と名付けられた不可視の力場が、ビームキャノンを受け止め、安綱のエネルギーへと変換し、吸収する。
だが、吸収出来るエネルギーも無尽蔵では無い。戦闘が始まって間もないという事もあり物干し竿による砲撃と、移動に使用して失われたエネルギーを回復して、その機能が自動的に停止される。
ビーム粒子の奔流は未だに勢い衰えず、安綱の周囲を渦巻いている。守屋は荒く呼吸しながら、左の掌を突き出し円形のバリアフィールドを展開した。
八咫鏡の名が示す通り、不浄の閃光を弾き返し、塵へと帰す。
ビーム粒子の奔流は未だに勢い衰えず、安綱の周囲を渦巻いている。守屋は荒く呼吸しながら、左の掌を突き出し円形のバリアフィールドを展開した。
八咫鏡の名が示す通り、不浄の閃光を弾き返し、塵へと帰す。
「分かっているつもりでも怖い物は怖いな……」
安綱のステータスパネルは機体各所、システムの正常を示している。ストライカーの搭乗者達はビーム兵器による攻撃は無意味と悟り、背中に背負っていたロケットランチャー、バズーカ砲、ミサイルポッド等の質量兵器による弾幕を展開した。
高密度の弾幕。直撃を受け続ければ、流石の安綱でも、ただでは済まされない。守屋は肩のクレイモアポッドを前面に展開し、観音開きのハッチから、左右合わせて三百門の銃口が一斉にエネルギーチャージを開始する。
守屋が被っているヘッドセットは守屋の視点が赤い光点となり無数のターゲットを次から次へと捕捉し、ヘッドセットモニタが一瞬にして真っ赤な光点で埋め尽くされる。
高密度の弾幕。直撃を受け続ければ、流石の安綱でも、ただでは済まされない。守屋は肩のクレイモアポッドを前面に展開し、観音開きのハッチから、左右合わせて三百門の銃口が一斉にエネルギーチャージを開始する。
守屋が被っているヘッドセットは守屋の視点が赤い光点となり無数のターゲットを次から次へと捕捉し、ヘッドセットモニタが一瞬にして真っ赤な光点で埋め尽くされる。
「攻撃目標……正面ッ!!」
ジェネレーター直結型のクレイモアポッドから、高密度のビーム弾が秒間900発。狂った様に吐き出され、安綱に襲い掛かる質量兵器の弾幕をビームの弾幕……いや、ビームの巨壁で押し潰す。
一度開かれれば対象が消滅するまで吹き荒れる光の大瀑布。それが呪いの箱――玉手箱だ。ストライカーが放った、ありったけの弾幕は万物にとっての遥か永劫の未来。すなわち崩壊へと誘われた。
ビームと弾幕の衝突は激しい轟音と爆炎で周囲を焼き尽くし、たち込める黒煙は深い霧の様に基地施設周辺を覆い尽くし、三機のストライカーは身を寄せ合い、安綱の動きを警戒しながらビームセイバーを構えた。
必死に目を凝らし安綱の奇襲に備えるが、待てども待てども安綱は姿を見せない。
一度開かれれば対象が消滅するまで吹き荒れる光の大瀑布。それが呪いの箱――玉手箱だ。ストライカーが放った、ありったけの弾幕は万物にとっての遥か永劫の未来。すなわち崩壊へと誘われた。
ビームと弾幕の衝突は激しい轟音と爆炎で周囲を焼き尽くし、たち込める黒煙は深い霧の様に基地施設周辺を覆い尽くし、三機のストライカーは身を寄せ合い、安綱の動きを警戒しながらビームセイバーを構えた。
必死に目を凝らし安綱の奇襲に備えるが、待てども待てども安綱は姿を見せない。
「やった……のか……?」
気を抜いた一瞬の出来事だった。コクピットの中にギイギイと装甲が軋む音が響き渡り、視線がゆっくりと上に持ち上げられていく。
何事かと思って構え直そうとするが、肝心な両腕が微動だにしない。何も無い空間に爛々と輝く蒼い閃光が放たれ、黒紅梅の鋼が広がり、光学迷彩を解除した安綱が突如として姿を出現させた。
安綱に搭載されたプラズマジェネレーターは、シャトルに搭載される大出力・大容量の物をアームドギアサイズにダウンサイジングした上に二基搭載しており、そのパワーは通常のアームドギアの倍程度では済まされない。
態々、武装を用いずとも真正面からストライカーの両腕を掴み、他の二体のストライカーが振り向くまでの僅かな時間で、掴み上げたストライカーの上半身を圧壊し地面に投げ捨てるくらい容易い事だった。
何事かと思って構え直そうとするが、肝心な両腕が微動だにしない。何も無い空間に爛々と輝く蒼い閃光が放たれ、黒紅梅の鋼が広がり、光学迷彩を解除した安綱が突如として姿を出現させた。
安綱に搭載されたプラズマジェネレーターは、シャトルに搭載される大出力・大容量の物をアームドギアサイズにダウンサイジングした上に二基搭載しており、そのパワーは通常のアームドギアの倍程度では済まされない。
態々、武装を用いずとも真正面からストライカーの両腕を掴み、他の二体のストライカーが振り向くまでの僅かな時間で、掴み上げたストライカーの上半身を圧壊し地面に投げ捨てるくらい容易い事だった。
警察のエイテンですら軽く一蹴出来る程の能力を持ったストライカーが為す術も無く、一方的に破壊された事に恐れ戦き、狂乱気味に斬撃を浴びせようとするが、安綱が無造作に放った裏拳がストライカーの腕をビームセイバーごと消滅させた。
安綱の腕が肘から拳にかけて薄っすらと黄金色の輝きを放っている。守屋一刀の格闘戦能力を如何無く発揮した上で、ビーム兵器の圧倒的な破壊力を上乗せした多目的格闘専用マニピュレーター、仁王の剛拳。
安綱の腕が肘から拳にかけて薄っすらと黄金色の輝きを放っている。守屋一刀の格闘戦能力を如何無く発揮した上で、ビーム兵器の圧倒的な破壊力を上乗せした多目的格闘専用マニピュレーター、仁王の剛拳。
安綱は構えらしい構えを取らず、無防備な姿を晒しているがストライカー達は攻撃を仕掛ける事が出来ない。キャノンでは勾玉と八咫鏡に防がれる。質量兵器は玉手箱に潰された。下手に斬りかかろうものなら仁王の剛拳に消し飛ばされる。
ストライカーがまるで玩具の様に薙ぎ倒され、先ほどまで感じていた全能感とやらは何処かへと消え失せた。それどころか恐怖のあまり血の気を失い、顔色は蒼白に塗り潰されている。
ストライカーがまるで玩具の様に薙ぎ倒され、先ほどまで感じていた全能感とやらは何処かへと消え失せた。それどころか恐怖のあまり血の気を失い、顔色は蒼白に塗り潰されている。
「テ、テメェ!! 統合軍だな!? 人質がどうなっても……」
青褪めた表情のパイロットは歯をガチガチと鳴らし、声を上ずらせながら慟哭する。
守屋はストライカーのコクピットにビームを叩き込みたくなる衝動を必死に押し殺し、玉手箱、物干し竿の発射体制に入り、ストライカーの通信機にチャンネルを合わせた。
守屋はストライカーのコクピットにビームを叩き込みたくなる衝動を必死に押し殺し、玉手箱、物干し竿の発射体制に入り、ストライカーの通信機にチャンネルを合わせた。
「人質か。砕牙州政府に対しては有効な交渉材料かも知れんが……中央議会に対しては無意味だ。貴様達も人質も全て、この場で抹消されるのだからな」
「そ、そんなハッタリが……」
人質の救出が目的では無く、関係者全ての口を封じる事が目的。謎の大型ギア――安綱から届けられた明確な答えにストライカーの搭乗者達は明らかな動揺を始める。
虚勢であって欲しいという悲痛な叫びを遮り、守屋は躊躇無くトリガーを引き、基地施設全体に無差別な砲撃を叩き込み、其処彼処を焼き尽くし、融解させていく。
五つあった発進口の内、三つが倒壊し、人質を収容している区画付近が物干し竿に貫かれ、予備の資材置き場は玉手箱によって塵へと消えた。
虚勢であって欲しいという悲痛な叫びを遮り、守屋は躊躇無くトリガーを引き、基地施設全体に無差別な砲撃を叩き込み、其処彼処を焼き尽くし、融解させていく。
五つあった発進口の内、三つが倒壊し、人質を収容している区画付近が物干し竿に貫かれ、予備の資材置き場は玉手箱によって塵へと消えた。
「虚勢かどうか試してみるか? 人質が何処に居るかは知らんが、この程度の人口山など五分で真っ平らに出来る。どちらが先でも労力は変わらん」
「ク、クソッタレ!! ストライカーを出せ! 全部だ! 人質を殺されたら計画が水の泡だ!!」
悲痛な叫びに対してか、隠れ家の攻撃に対する報復のためかストライカーが怒号と共に施設から飛び出し、安綱を包囲する。
「中央議会の狗が……たった一機で何が出来る!? 野郎ども! あのデカブツを叩き潰せ!!」
「三十一……三十二……三十三……三十四。敵ストライカー、全機出撃を確認」
都合三十六機のストライカーが重火器を構え、今正にトリガーを引こうとしているこの瞬間、遥か上空で待機していた阿修羅を筆頭に九機の不知火が降下を開始し、安綱を包囲する三十六機のストライカーをその上から包囲する。
「我々の役割は法と秩序を乱す不法者を世界の法にて裁く事。殺しはご法度だが、歯向かう奴にゃあ容赦はいらねぇ。全員、まとめて叩ッ斬れ!!」
九機の不知火は守屋剣の命に従い、申し合わせたかような寸分の狂いも無い動きでビームソードを抜刀し、ストライカー達はそれを迎撃せんと一斉に光芒を放つ。
しかし、不知火の搭乗者達は無数に打ち上げられるビームの弾幕に何の感情も抱かず、あくまで冷静に速度を上昇させながら弾幕の隙間を拭い、着実に間合いを詰めていく。
しかし、不知火の搭乗者達は無数に打ち上げられるビームの弾幕に何の感情も抱かず、あくまで冷静に速度を上昇させながら弾幕の隙間を拭い、着実に間合いを詰めていく。
「白いデカブツが隊長機だ! 野郎共、白を狙え!!」
真っ白な四肢に黒の胸部装甲、緑の光を放つ双眸を持つ剣の愛機、阿修羅にもビームの嵐が吹き荒れるが、剣は迫り来るビームの奔流の事など眼中にも無いと言わんばかりに、ただただ只管、真っ直ぐに急降下を続ける。
やがて、ビーム粒子の激流は阿修羅の全身を包み込む。剣は激流に真正面から飛び込み、阿修羅は刀身が六つに枝分かれした歪な形状のビームソードでビーム粒子の激流を切り裂く。
ビーム粒子同士の衝突で粒子の加速運動に対し、強制干渉を働きかけストライカーの砲身から放たれた柱の様な光線を硝子片の様に砕き、明星の空へと葬り去った。
やがて、ビーム粒子の激流は阿修羅の全身を包み込む。剣は激流に真正面から飛び込み、阿修羅は刀身が六つに枝分かれした歪な形状のビームソードでビーム粒子の激流を切り裂く。
ビーム粒子同士の衝突で粒子の加速運動に対し、強制干渉を働きかけストライカーの砲身から放たれた柱の様な光線を硝子片の様に砕き、明星の空へと葬り去った。
「法と秩序を刻む歯車の力、存分に思い知れ……貴様達に生を刻む資格は無い」
上空から急襲し、ストライカーに足裏を叩き込み、その背中を足場にして次の標的へと飛翔する。阿修羅に蹴り飛ばされ、うつ伏せになって倒れ伏したストライカーの背中から腹にかけて大きな穴が穿たれており、二度と立ち上がろうとはしなかった。
「クソッ! 数はこっちの方が上だ! 一体ずつかかるんじゃねぇッ!! 囲んで一気に叩き潰せッ!!」
リーダー格らしき男の叫びにストライカー達はビームセイバーを引き抜き、前後左右空中から包囲しながら斬りかかり、更に離れた位置から三機のストライカーがビームキャノンによる砲撃を開始する。
だが、GEARSのメンバーは誰一人として剣のフォローに回ろうともせず、黙々と手近な敵に攻撃を仕掛けている。
だが、GEARSのメンバーは誰一人として剣のフォローに回ろうともせず、黙々と手近な敵に攻撃を仕掛けている。
「態々、雁首揃えて斬られに来たか……ご苦労なことだ」
阿修羅の背中に接続された二基のウエポンラックが開き、中から本体同様、刀身が枝分かれしたビームソードを握った四本の伸腕が伸び、左右、上、背後から襲い掛かるストライカーの腹部をジェネレーターごと貫き、正面のストライカーには六本のビームソードで全身を焼き貫いた。
同時に五機のストライカーを行動不能に追い込み、大地へと投げ捨てると攻撃の機会を伺っていた三機のストライカーがビームキャノンを阿修羅へと放つ。
阿修羅はフェイスマスクのカバーを左右に開き、ショルダーアーマーをスライドさせ、中からガラスの様な透明の球体を展開し、極大のビームを吐き出した。
放たれた真紅の閃光は大地を抉り、周囲の木々を消滅させ、ストライカーから放たれたビームを侵食し、最後に三機のストライカーを飲み込んだ。
同時に五機のストライカーを行動不能に追い込み、大地へと投げ捨てると攻撃の機会を伺っていた三機のストライカーがビームキャノンを阿修羅へと放つ。
阿修羅はフェイスマスクのカバーを左右に開き、ショルダーアーマーをスライドさせ、中からガラスの様な透明の球体を展開し、極大のビームを吐き出した。
放たれた真紅の閃光は大地を抉り、周囲の木々を消滅させ、ストライカーから放たれたビームを侵食し、最後に三機のストライカーを飲み込んだ。
「安心しろ。みね打ちだ……運が良ければ死にはしない」
ストライカーが爆散し、阿修羅の両肩と口に埋め込まれた球状の発射機構から、プラズマの放出と共にビームの放出が止まり、爆炎の中から三基の球状コクピットが地面に投げ出される。
阿修羅のセンサーが脱出装置で逃げ延びたストライカーの搭乗者が半死半生の重体に陥っている事を確認し、剣は手近な敵にアンカーを打ち込み、手元に手繰り寄せながら、安綱に通信を入れた。
阿修羅のセンサーが脱出装置で逃げ延びたストライカーの搭乗者が半死半生の重体に陥っている事を確認し、剣は手近な敵にアンカーを打ち込み、手元に手繰り寄せながら、安綱に通信を入れた。
「一刀。此処はもう十分だ。予定通り、人質の救出へ向かえ」
「了解……安綱、ハッチを開け。自動戦闘モード起動。極力、殺さずに捕縛しろ」
≪了解――ハンドガンの携帯を推奨≫
「相手は素人だ。必要ない。それに銃は好かん」
守屋はAIの提案を無視して、迫り来るストライカーの剣閃を受け止め、上半身を消し飛ばし、炎上するストライカーを隠れ蓑にしてコクピットから飛び降り、人質が収容されている区画へと駆け出した。
一方、監禁されている八坂高校の面々は戦闘による轟音と激しい振動にさらされていた。
統合軍の救出部隊が来たのかと思えば、武装組織の構成員達は慌しく施設内を右往左往し、人質を殺されたら元も子もなくなると不吉な事を叫んで外へと飛び出していった。
そして、呆気に取られる間もなく、外から響く轟音が一際大きくなり、その不安感を大きく募らせていた。
統合軍の救出部隊が来たのかと思えば、武装組織の構成員達は慌しく施設内を右往左往し、人質を殺されたら元も子もなくなると不吉な事を叫んで外へと飛び出していった。
そして、呆気に取られる間もなく、外から響く轟音が一際大きくなり、その不安感を大きく募らせていた。
「守屋君、大丈夫かな……」
そんな中、霧坂は今現在、自分自身に降りかかっている危機に何の感慨も持たないまま、その意識は別の方向に向けていた。
今まで彼女を襲った度重なる危機。そのどれもが最悪の状況に陥る前に、守屋一刀の手によって救い出されてきた事が、良くも悪くも霧坂から危機感を奪い取っていた。
彼女の心配ごとと言えば、切り伏せられたアイリス・ジョーカーのコクピットから地面に投げ出され、頭から血を流す守屋の姿を見てしまった事だ。
アイリス・ジョーカーが大破するのはいつもの事だが、守屋自身が傷付く姿を見るのは初めてだっただけに、自分の置かれている立場を忘れて、守屋の安否を案じていた。
今まで彼女を襲った度重なる危機。そのどれもが最悪の状況に陥る前に、守屋一刀の手によって救い出されてきた事が、良くも悪くも霧坂から危機感を奪い取っていた。
彼女の心配ごとと言えば、切り伏せられたアイリス・ジョーカーのコクピットから地面に投げ出され、頭から血を流す守屋の姿を見てしまった事だ。
アイリス・ジョーカーが大破するのはいつもの事だが、守屋自身が傷付く姿を見るのは初めてだっただけに、自分の置かれている立場を忘れて、守屋の安否を案じていた。
霧坂がポツリと洩らした一言を皮切りに他の生徒達も口々に不安な思いを口に出し始めた。
小波に様に広がる話し声に監禁室を見張っていた男がハンドガンを天井に向けて発砲する。
小波に様に広がる話し声に監禁室を見張っていた男がハンドガンを天井に向けて発砲する。
「黙りやがれ!! 一人二人死ぬか!? ああっ!?」
監禁室が水を打った様な静寂に包まれ、見張りの男は満足気に鼻を鳴らすが、破砕音によって再び静寂が破られた。
見張りの男が苛立ちながら背後を振り返ると、蝶番が弾け飛び、吹き飛んだ真っ白なドアが視界一杯に広がっていた。
ドアの下敷きになった見張りの男は慌てて、ドアを跳ね除け、立ち上がろうとすると今度は開けた視界に靴裏が飛び込む。
見張りの男が苛立ちながら背後を振り返ると、蝶番が弾け飛び、吹き飛んだ真っ白なドアが視界一杯に広がっていた。
ドアの下敷きになった見張りの男は慌てて、ドアを跳ね除け、立ち上がろうとすると今度は開けた視界に靴裏が飛び込む。
「素人が蔵人の真似をするから怪我をする事になる」
鉄板で補強された靴裏と床に挟まれ、顔面を陥没させて意識を失った見張りの男に、その声は届いていない。
「も、守屋君!?」
そう。血溜りに沈めた男の声、守屋一刀の声は届いていない。
救援者の正体が守屋と分かるなり、八坂高校の生徒達は我先に檻の出口へ近付き、格子を掴み嬌声を上げた。
救援者の正体が守屋と分かるなり、八坂高校の生徒達は我先に檻の出口へ近付き、格子を掴み嬌声を上げた。
「って言うか、どうやってここまで来たの!?」
「話は後だ。今、そこを開けてやるから離れていろ」
矢継ぎ早に質問を浴びせかけようとする仲間達を制し、床に転がっていたハンドガンを手に取り、檻に向けてトリガーを5度引き、鍵を破壊して投げ捨てる。
仲間達は疲労と心労で表情がやつれている様子ではあったが、怪我をしている様子も無く、ただ監禁されていただけと分かって、守屋は表情を緩めた。
仲間達は疲労と心労で表情がやつれている様子ではあったが、怪我をしている様子も無く、ただ監禁されていただけと分かって、守屋は表情を緩めた。
「よし、こんな所からは……あ?」
守屋の顔から表情が消え失せ、間の抜けた声と共に血を吐き出し、横倒しになりながら崩れ落ちる。
「イヤアアアアアアアッ!?」
霧坂の悲鳴が木霊し、崩れ落ちた守屋の背後からバラクラバを被った男が姿を現した。その手に握られた拳銃の銃口からは硝煙が立ち上っている。
まだ気を抜いても良い場面では無いにも関わらず、霧坂と仲間の無事な顔を見て、警戒心を解いた守屋の背中に、別の見張りが拳銃を向けている事に気付けなかった。
まだ気を抜いても良い場面では無いにも関わらず、霧坂と仲間の無事な顔を見て、警戒心を解いた守屋の背中に、別の見張りが拳銃を向けている事に気付けなかった。
「やっぱり、ハッタリだったみてぇだな。残っていて正解だったぜ」
「全く……最後の最後で締まらないな……」
自嘲気味に笑いながら立ち上がる守屋の態度が癇に障ったのか、男は目尻を吊り上げ、守屋の腹と右膝に一発ずつ銃弾を撃ち込んだ。
守屋は腹を抑えながら、ゆっくりと片膝を付き、うつ伏せに倒れ込み、床に赤い染みをぶち撒いた。
守屋は腹を抑えながら、ゆっくりと片膝を付き、うつ伏せに倒れ込み、床に赤い染みをぶち撒いた。
「ガキが手間取らせやがって……くたばりやがれ!」
尚も立ち上がろうとする守屋の左肩に銃弾が突き刺さり、噴水の様に赤い血が噴出し、自身から吹き出る血に手を滑らせ顔面から地面に崩れ落ちる。
「いや!いやいやいやいやいや!! 守屋君! 守屋君!!」
大粒の涙を流しながら霧坂が扉を開き、守屋の元へ駆け寄ろうとするが、それを右腕で静止しながら三度、立ち上がる。
「霧坂。危ないからもう少し離れていろ。俺なら大丈夫だから……な?」
血反吐を吐き、顔と銀色の髪を赤に染めた守屋が霧坂の方へと振り返る。その表情はこれまでに霧坂が見た事の無い程、朗らかな歳相応の笑顔が浮かんでいた。
「もうやめて!! 守屋君が死んじゃうよ!!」
涙混じりの霧坂の絶叫が部屋に木霊する。神経質そうな男はそれが気に障ったらしく銃口を守屋から霧坂の額に向けた。
「ゴチャゴチャと騒いでんじゃねぇ!! 二人仲良く死ぬか!?」
怒声と共に木霊する銃声、霧坂の顔に真っ赤な華が咲いた。
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