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第四話 「休日 メリッサ編」

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sousakurobo

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 「休日 メリッサ編」

 ジーンズに白シャツというラフな格好に着替えたメリッサは、頭の上部のみのヘルメットをしっかりと被って、自分の部屋の隅にかけておいたウェストポーチをかちりと言わせて装備する。
 自分の姿をぱっと確認して「よし」と頷くと、部屋の窓際にある机の上から小さい鍵を取って宙に放り投げると、腕を横から出してキャッチ。
 メリッサは窓の鍵を閉めると、部屋から出て屋上へ続く階段を上がっていった。
 ユトが行ってもいいと言っていたのだから甘えてもいいだろう。一日ぶらぶらするのもいい。頭に残留する情報の残滓を振り払うかのように頭を振れば、屋上への扉のドアノブに手をかけて一気に開ける。

 「いい風―――」

 扉を開けると、どっと潮の香りを含んだ風が飛び込んできて、ヘルメットの端っこからはみ出る髪の毛を揺らす。メリッサは暫し立ち止まってその風を受けていた。
 眼を細めつつ屋上の端っこまで歩いていって、小さな車庫の前で立ち止まると、取り付けられているパスワード式の鍵を開けてシャッターを上げる。その中には、バイクのようで違う乗り物が置かれている。
 何が違うのかと言えば、まず車輪がついていない。本来車輪があるべき場所は大きく膨らんでいて、その下を覗き込むことが出来たなら、複数空けられた穴を見つけることが出来るだろうか。座席には大きな風防があり、ぱっと見は流線型のそれ。
 第二地球で広く浸透しているエア・バイクという、名前そのままの空飛ぶバイクが車庫の中央にちんまりと腰を降ろして待っていた。
 メリッサは風防を跳ね上げて、座席に腰を降ろすと、鍵を挿し込んで回した。

 「んー………問題ないかな」

 どるんッ。
 元気良く主機関が運動し始めて、きーん、という独特な高い音を発し、車体を数cm上に浮かせる。
 メリッサが地面を蹴っ飛ばすと、氷の上に置かれているかのようにするすると抵抗無く前に進んでいく。完全にメリッサが外に出ると、シャッターが自動で降りて鍵をした。
 空を見上げつつ、ヘルメットを押し上げて位置を直す。
 操縦席のパネルに触れて各部の確認をする。そして、「飛行」と表示されている箇所に触れると、パネルを閉じてハンドルを握って、屋上の中央へとバイクに乗ったまま進んでいく。
 電子音がして、作られた声の女性が言葉を発する。

 『ユーザーを認識しました。』

 バイクから流れてきた言葉に頷き、朝とも昼とも言えない時間帯の空を見つめる。
 雲が一つあった。
 メリッサは、アクセルをぐっと踏み込むと、大空高く飛んでいった。
 「島」には土地が無い。
 旧都市区には言うまでも無くハガキ大ほどの余分な土地は存在していない。新都市区のほうも余分な土地は無い。建物を無尽蔵に節操無く建築して行った結果、「道路の幅が確保できない」という事態が発生してしまい、このエア・バイクが普及することになった。
 計画を立てたつもりになった政府に批判が集中したそうだが、エア・バイクなどの乗り物が全てを解決してくれた。
 自分で改造して自分で整備している愛車に跨ったメリッサは、徐々に高度を上げるようにして街の上へと向かっていく。
 ビル群を追い抜いて、何も無い空間を飛ぶ。風防に守られているので良く分からないが、全身が風を感じて高揚していくのが分かった。
 跨っている座席の下から響くエンジン音がリズムを刻んでいるようにも思えた。
 エアバイクを傾かせ、徐々に高度を落としていくと、街に突き刺さるように建築されているビルの窓ガラスの一つ一つまで見えてくる。同じようなエアバイクに乗った人たちとすれ違う。
 更に高度を落としつつ建物と建物の間にエアバイクをねじ込ませるように進む。旧都市区は複雑かつ乱雑に建物や看板などが絡み合っているため、エアバイクで飛行するのにはある程度の腕が必要とされるが、メリッサはなんなく飛んでいく。
 周囲をキョロキョロと見つつ、速度を落とすと、とある雑居ビルの屋上の上空10m付近で静止した。

 「え~っと」

 携帯電話を取り出すと空間投影モニターを出す。乗ったままでの操作は違法なので素早くタッチして地図を表示させると、素早くポケットにねじ込む。
 アクセルをゆっくりと踏んで、雑居ビルから離れる。丁度その時出てきた子供数人がメリッサを見上げた。
 もちろん気がつかず、悠々と飛んでいく。
 特に行きたい場所があるわけではない。ぶらぶらとバイクで街を飛び回ってみるのも悪くは無いかなと思ったのだ。
 時間は12時になっていない。先ほど朝食を食べたため、お腹はすいていない。買いたいものも余り無いのが悲しいこと。
 そこでふと思いついた。エアバイクを止めたメリッサは、再度携帯電話を取り出すと、なにやら入力し始めて、一つの情報を空中に映し出す。そこにはこう表示されている。「ダイブスーツ屋」と。休みにしたのに仕事優先なのが悲しい。
 一番近くのお店は、今現在居る旧都市区の中心にあるらしい。本当にあるかは定かではない。何しろ屋台でも売っていることがあるのだから。
 空中で向きを変えると、突き出たアンテナを手でどけるようにして横を通過した。
 どのくらい飛んだのだろうか。
 旧都市区の一角。比較的新しい鋭利な外見のビルの屋上にある駐車スペースまで飛んでくると、旋回しつつ高度を下げていき、両足を地面に向けて突き出すと、慎重に慎重に着陸する。
 ヘルメットを取ると、疲れたポニーテールを頭を振ることで解す。
 メリッサは、ヘルメットをエアバイクの座席の中に押し込み、鍵をかけると店の中に入っていった。
 清潔な自動ドアをくぐると、ダイブスーツを模した服を着た女性店員がにこやかな笑顔で迎え入れてくれる。
 この店は主にダイブスーツやダイブに必要な用品を販売していて、その可愛らしいデザインと機能性から女性ダイバーに高い人気を誇っている。メリッサもここのファンで、今使っているのもここの商品である。
 店の奥に進むと、暖房か冷房が空気を吐き出している音が聞こえてくる。こじんまりとしていながら近代的な香り漂う店内を見回すと、ダイブスーツを品定めしている女性客の後ろを通り過ぎて、自分の身長辺りの陳列台で足を止める。ピンクから黒まで様々な種類がある。

 「…………やっぱ高いか……」

 ダイブスーツとは、居住性を確保できない潜水機の中でも快適に過ごせるようにと開発された服の事で、体温を一定に保ち、血の流れが悪くならないようにしてあったり、バイタルデータを計測して表示したり出来る高機能スーツのこと。
 機能性能着心地こそいいのだが、値段が高い。
 普通の服の様にホイホイ買えないのが弱点である。
 メリッサは一着のダイブスーツに眼をつける。黒に近い紺色のそれの布地を摘む。水着に近い生地を使用しているので、引っ張ると伸びる。
 続いてかつての地球で使用していたような学校指定の水着そっくりのダイブスーツを品定めする。


 「…………趣味悪」

 一言で切り捨てて次に行く。
 次においてあったのは、やたらとピチピチで体型を強調するダイブスーツだった。各部の飾りが飾りでないと分かっているのだが、付けかたがどう考えても卑猥で――。
 ぶっちゃけた話SMプレイの服そっくり。
 なんでこんなのを置いているのか分からない。ぷいと顔をそむけ、次の服を見てみる。今度はマトモだった。
 引きつった顔を軽く揉んで、そのダイブスーツを見遣る。白と黒で統一された落ち着きのある雰囲気を持っていて、洗練された機能美を一目で全てを主張しているかのよう。
 気に入ったのか、値段を見ると、続いて各部のサイズ限界を見る。最近胸がどうのこうのだからだというのはトップシークレットである。
 今の手持ちではどうにもなりそうにない。メリッサは肩をすくめて見せると、店を出て行く。会釈する店員に片手を上げて応じて、元来た自動ドアをくぐって自分のエアバイクの前々で歩いていく。
 鍵で座席の収納スペースからヘルメットを取り出して被り、そのままエンジンをかける。そして座席に跨ると、エンジンをかけた。
 その時、新たにエアバイクが滑り込んできたかと思うと、優雅かつ正確な着陸を決めて停車する。運転手がヘルメットを取ると銀色の長髪が零れ落ちた。車体が大型だったのは今はどうでもいいこと。
 メリッサはエンジンを全開にすると、乱暴に車体を持ち上げて、ビルから飛び降りる勢いで街の上空に逃げ出した。

 「あら」

 銀髪の人物は気がついたらしく、ヘルメットを被りなおすと、怒涛の勢いで追跡を開始する。
 大型バイクらしからぬ機敏さで空に駆ける。

 「メリッサ~!」
 「くんなーッ!!」

 ウィスティリアだった。何故か逃げるメリッサを、ニコニコと微笑みながら追いかける。
 メリッサのエアバイクの方が性能が悪いためにウィスティリアが追いつく。飛行中に肩をポンと叩くメリッサはぎょっとした表情を浮かべると、逆落としに街のビルや建物にアンテナの森の中に侵入する。
 危険極まりない行為なのは言うまでも無い。が、肉食獣から逃げる草食動物はこうでもしないと逃げられないのもまた事実。
 ぎゅぃぃーん。ぶぃーーーん。ぎゅぁぁーーーン。きゅぉーーーん。
 やかましい音を地上にばら撒きながらの逃走劇。
 車体を捻り、時に自分の体の位置をずらして、更に速度を上げながら街の中を逃げるメリッサ。速度に余裕のあるウィスティリアは、街の上から追いかけてくる。
 上空を睨みつけたメリッサは、速度を落とすと、一部の人間しか知らないであろう場所へ車体を向かわせる。
 ついたのは古びたパイプ。車が走行できそうなほどの大きさのソレの半ばが壊れて内部がむき出しになっている。エアバイクを中に入れ、やや頭を下げるようにして飛び始めた。
 危険なのは百も承知。
 追いつけはしまい。今回ばかりは勝った。にやりと口元を上げる。
 パイプの中でエンジンをふかすために唸り声に近い音が反響して前と後ろに散布されている。
 どんどんとパイプを進んでいき、その終点を見ることに成功した。目の前に光が広がっている。
 メリッサはアクセルを踏んで速度を上げてパイプの終わりに突っ込んでいった。

 「ハァーイ」
 「…………」

 そこは、ある意味での終点だった。
 海へと続く棄てられたパイプを通ったというのに、出口には手で髪の毛を整えつつ待っていたウィスティリアがいて、暫し呆然としてしまう。
 白い砂浜の一角から無造作に突き出したパイプの先端で両足を地面につけて硬直する。エアバイクに体重を預けた美しき銀髪の持ち主は、絵に飾りたくなる微笑を浮かべて見つめてくる。
 ゴット、私なにかしましたか?
 科学という宗教を信仰しているメリッサはこの時ばかりは祈りを捧げたくなった。
 いつの間にか側に寄っていたウィスティリアの手によって武装(ヘルメット)解除させられて、ついでにエンジンを止めさせられて、砂浜に駐車させられた。
 無力感というか絶望感がひしひしと浮かんでくる。共に銭湯に行ったときの悪夢がむくむくと鎌首をもたげでキシシと怪しげな声で笑った。
 暑くもないのに冷や汗を流し始めたメリッサを見て、ウィスティリアは快活に笑った。

 「何にもしないから安心なさい。声かけただけで逃げるから追いかけただけよ?」
 「アンタみたいな変態が言っても説得力ないわよ」
 「変態って失礼ねぇ。私は男女幅広く受け入れられる女ってだけなのに」
 「私からしたら限界突破変態最凶レベルなの」

 やれやれ。そんな演技調のセリフを呟きながら肩をすくめて見せるウィスティリア。
 海から波が押し寄せる時の囁きにも似た音が海岸を包み込んでいる。まだ海に入るには早すぎるが、水が透き通っていることは良く分かった。都市の汚さとは正反対なのが不思議なくらいでもあり。


 「それで?」
 「え?」
 「何か悩み事でもあるんでしょう、貴方」

 図星だった。
 出来る限り表情の動揺を消そうと努力するが、ポーカーフェイスという機能を持ち合わせていないメリッサには金魚が山に登る並に困難なことでしかない。
 分かり易すぎる反応に、ウィスティリアは楽しげに笑い。下に落ちていた砂塗れの小石を拾うと、指先で支えて持って見せた。

 「ちょっと心理学を勉強していれば分かることよ。行動パターン、表情、声、眼の動き、その他の仕草……心拍数と手汗も測れれば完璧ね」
 「……ひょっとしてかわいい女の子を釣るために勉強したとか言わない?」
 「まさか、とんでもない。カワイイっていうなら貴方はトップクラスだと思ってるけど……あらどうしたの?」

 最後の言葉に数歩後ずさりすると、自分も小石を拾って拳になじむ様に握りこむ。
 海を見てみると海鳥が魚を取るために海面に首を突っ込んでいた。

 「アンタって悪夢は見たこと無い?」
 「勿論、……あるわ。逆に見たことが無い人間の方が多いと思うけど、ひょっとして悩み事ってそれかしら?」

 メリッサは海に向かって歩き始める。
 道中で落ちていた缶を蹴っ飛ばして海に飛ばし、自分は波打ち際で足を止めると、濡れないギリギリの線で大きく振りかぶって小石を放り投げた。遠くまで飛んだ小石は、ぽちゃんと音を立てて沈む。
 負けじとウィスティリアも石を投げる。が、メリッサほど飛ばずに沈んで消えた。

 「悩みってほどでもないからやっぱいい。良く覚えても居ない夢に悩んでても仕方ないし」
 「……覚えてなかった、ですって? 呆れた。なんとなく悪夢かもしれないで悩むなんて流石ねぇ」
 「あ・り・が・と・う!」

 皮肉には皮肉を返し、靴で波を跳ね飛ばしてウィスティリアにかける。
 驚いたウィスティリアは眼を閉じてしまう。その隙にメリッサは走って自分のエアバイクに跨った。逃げようとかそういう気は薄れていたが、したかったからである。
 復帰したウィスティリアは、眉を吊り上げながら自分のバイクに駆け寄って乗り、メリッサをじっとりと湿った眼で眺める。
 仕返し成功とばかりにブイサインを作ったメリッサは、ウィスティリアを連れ立って空へと舞い上がっていった。



 その後、二人は年頃の女性らしく遊んだ。
 食事をしたり、服屋を冷やかしたり、時にナンパを受けたり。
 ウィスティリアと分かれたメリッサは、ヘルメットを被って自宅へと帰還飛行していた。
 時間は夕方から夜になるあたり。既に7時を超えていて、太陽は地平線の奥に隠れて淡いながら朱色の光を天空に投射している。

 「電話? もう、こんなときに」

 バイブレーションが起動。振動に気がつくと、エアバイクを空中に停めて携帯電話を取った。
 運転中に電話は危険なのは知っている。が、別に問題は起こらないだろう、と判断した。
 通話ボタンを押して、ヘルメットと頭の間に割り込ませるように携帯電話を耳に当てる。
 声の主は自分の父親だった。
 上空を通り抜ける風が車体を微かに動揺させる。

 「あーはいお父さん? うん、うん……うん………またぁ?」

 相槌を打ちつつ、さっきよりも格段に遅くエアバイクで街の上空を飛ぶ。
 エンジン音で掻き消されないようにと声を大きめにした。

 「嫌。なんでやめないといけないの? 理由も無しに………はいはいそれが理由ね。お父さんだって明日事故死するかもしれないじゃん。ちょっと確率が高いだけじゃん」

 苛立った様子でそういうと、エアバイクのヘッドライトの光量を増した。
 電話を反対の耳に変えて宛がう。息を吸うと冷たい空気が肺に流れ込んでくる。風防は与圧室ではないのだから当然だ。
 のろのろと飛んでいたエアバイクが多少速度を増す。

 「……まーた結婚結婚結婚………はい、……うん、あのね、これは自分の問題でしょ? ………ふん。……そろそろ切るね。ちゃんと食べてね。………はいはい、また今度」

 通話終了。口やかましく説教をしてくる父親の声が断絶する。ツーツー音を発している携帯電話の電源を切ってポケットに放り込む。
 ヘルメットを上から押さえるようにしたメリッサは、ユトの待つ家へと一目散に空を飛んでいった。
 空に浮かぶ星座が煌く。



 家に帰ったら豪華な料理が並んでいたというのはまた別のお話。

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