創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

Strangers 第四話

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irisjoker

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公爵家を一網打尽にした翌日。宗也はいつもの様に寝ぼけ眼で喫茶カナンを訪れていた。
莫大な報酬が手に入ったという事もあり、表情の緩さに拍車がかかっている。

「宗也さん、いらっしゃい」

客の訪れを知らせる鈴の音が鳴り響き、リリスは柔らかい表情を浮かべる。
近頃は客足が遠退く時間帯に宗也が訪れるようになった事もあり、リリスも来訪者を見ずに
悪態を吐く事も無くなり、相手を確認してから毒を吐くようになっていた。

「はい。昨日の埋め合わせにいらっしゃいましたよ」

「そうしてもらいたいのは山々なんだけどね」

淡々とした口調でリリスはエプロンドレスのポケットから便箋を取り出し、宗也に渡す。

「ラブレターですか?」

「無い無い」

宗也は受け取りながらニヤケ面を浮かべるが、リリスはいつも通りの無表情だ。
金の刻印で縁取られた血の様に紅い便箋はラブレターというには相応しくない趣味の悪さを
しており、リリスはからかわれていると分かっていても、こんな便箋をラブレターに選ぶ様
なセンスの持ち主と思われているのかと、少しばかり不機嫌になる。

「照れ隠しに怒鳴ったり、殴ったり、涙目で物を投げ付けたり、赤面とか無いんですか?」

「私のキャラじゃないし」

「それがギャップ萌えというものですよ」

「宗也さんを萌えさせても仕方無いし」

「実に残念ですねぇ……で、ユリウス・ガリアードさん、ですか」

宗也の様な手合いに反応しても無駄に喜ばせた挙句、調子に乗らせるだけなのは幼馴染の
林檎で経験済みなので、リリスは宗也の冗談を冷たく切り捨てる。
リリスの反応に宗也は面白くなさそうに呟き、便箋に記されている名前を読み上げた。

「何か仕事を頼みたいんだってさ」

「仲介屋みたいな事をさせてごめんなさい。次からは断って良いですよ」

「お節介だった?」

「そんな事はありませんよ。血生臭い仕事も少なくありませんので此方からのお節介です」

やや沈んだ様子のリリスを前に宗也は苦笑を浮かべて諸手をあげて口を開いた。
決してリリスは無感情、無表情な少女では無い。興味が無い事には徹底して無関心なだけ
で、それ以外に関しては非常に感情的で考えている事がすぐ表情に出るタイプの人間だ。
先程の態度にしても宗也に主導権を握られたくないという一心から出た反発に過ぎない。

「そういう事か。慣れてるから気にしないで。ちょっとした諍いとか、刀傷沙汰くらい珍
しくないし。宗也さんが心配だって言うなら、次からは本人に直接言えって断っておくよ」

宗也が便利屋と言う名のニートとは別に、ストレンジャーという顔を持ち、街のチンピラ
よりも性質の悪い敵を相手に切った張ったの世界に身を置いている事を思い出し、単純に
心配されているだけと気付き、リリスは沈んだ表情から一変して、いつもの無表情に戻す。

「と言うか、刀傷沙汰ってあるんですねぇ」

そして、今度は宗也が意外そうに目を見開き、いつもとは違った表情を浮かべる。
十六歳の少女が経営する店で刀傷沙汰の乱闘騒ぎを起こすなど、正気の沙汰では無いと。

尤も、それは子供としての期間が長い王都出身者特有の考えで、呉服港に限らず、子供と
しての期間が短い、海洋国家マスクアートでは、十六にもなれば成人として扱われる。
当然、降りかかる苦労やトラブルも大人と同等で、大人としての対応を求められる。
外国人の宗也が海洋国家マスクアートの社会に慣れるのは、当分先の事になりそうである。

「店の中でやられるのは勘弁なんだけど……そんなにあるわけじゃないよ?」

「大きな仕事も終わりましたし、用心棒でもやりましょうか?」

「宗也さんって実は心配性?」

「いえいえ、大きな仕事どころか、小さな仕事さえも無いというだけです」

コアクリスタル連続暴走事件に関しては、バルヴィン公の逮捕を以って決着が付いている。
今頃は親子で仲良く、フェルニアと、その部下から尋問と言う名の拷問を受けている筈だ。

『貴様等の様な無能な屑共が二人も生きて帰れると思うな。貴様達の態度や情報の質次第
では、どちらか片方は生きて戻れるかも知れんがな。精々、国の役に立ってみせるのだな』
等と言っておきながら、自身の部下には『用が済んだら二人とも始末しておけ』と命を下
しているかも知れない。

(確実に下しているでしょうねぇ)

どちらにせよ、便利屋に出来る事など何も無く、莫大な報酬を受取り、依頼は無事完了。
その為、今の宗也は手持ち無沙汰だった。リリスが指摘した心配性というのも正解だが。

「その手紙は?」

「あー、宛名だけ見て、肝心な中身を見ていませんでした」

「駄目な大人だね」

「返す言葉もありませんねぇ……あらあら、まあまあ、これはこれはこれは……」

「ど、どうしたの?」

宗也が作り笑顔を浮かべようと表情筋を動かすが、宗也の感情がそれを妨害する。
負の感情が顔に現れようとするのに気付いて、いつもの様に作り笑顔を浮かべようとするが、
いつもやっていることが上手く出来ない。それを繰り返す様は傍目から見たら唯の変な奴だ。
いつもとは違った方向性の変さに直走る宗也の姿にリリスが珍しくうろたえる。

「あー、いえいえ、残業が発生したようです」

「ふーん?」

表情が定まらないのも極僅か。リリスの声を聞くなり、いつもの気の抜けた笑顔を作る。

「まあ、用心棒の話はまたいずれ」

そう言って、宗也は足早に喫茶カナンを後にする。

「何故、リリスさんの声を聞いたら平静に戻ったんでしょうねぇ……
ま、良いでしょう。サービス残業、サービス残業っと」

呼び出しを受けたのはバルヴィン元公爵家の元屋敷。無人と化した要塞染みた屋敷も今では
呉服港の管理下に置かれており、後日、オークションにかけられる予定となっている。

宗也達、ストレンジャーが暴れた痕が生々しく、扉を軽く足蹴にするだけで蝶番が弾け飛び、
支えを失って倒れた扉はけたたましい音を屋敷の中に響かせて埃を巻き上げた。

「どうもどうも、突然のお呼び出しにも関わらずご足労頂き、誠にありがとうございます」

倒れた扉を踏み付け、中へ進むとホールに積み上げられた瓦礫の天辺に座り込んでいた男が
床に飛び降り、恭しく頭を垂れた。
そして、腰を折ったまま首だけを持ち上げる。黒髪に細い黒眼の男、更に華美な装飾の黒衣。
宗也はユリウスと名乗る男の姿を見て、ほんの一瞬ばかり素の表情を浮かべた。

「いーえ、問題ありませんとも。事件の首謀者格、直々のお呼び出しですからねぇ」

いつもの愛想笑いを浮かべて、軽い調子で返事をするが、目の前にいる男の服装と同じ色の
感情が大蛇の様に心の内を這いずり回り、うねりを上げる。

「そんなに警戒しないで貰えませんかねぇ……今日はご挨拶とお詫びに来ただけですから」

ユリウスは宗也の心の内を見透かしたかの様に笑みを浮かべる。
その態度が更に宗也の心を波立たせ、苛立ちを煽る。恐らくはユリウスもそれを察している。

「悪さをして詫びを入れるくらいなら最初からやるなって先生から言われませんでした?
まあ、此方は子供の時分にそんな事を教えてくれるような親切な大人はいませんでしたが」

宗也は軽口を叩きながら、わざとらしく足音を響かせながら間合いを測る。
右手は袖口に仕込んだ短刀の柄に、左手は腰に差した刀の柄に、其々撫でる様な手付きで、
それはこれ以上癪に障る振る舞いをしたら殺すと言外に警告しているようなものだった。

「それは奇遇ですねぇ……いやー、彼は先天派に参加したばかりの新参者なのでしてねぇ。
ホラ、分家とは言え公爵家の出でしょう? それに若い。抑圧していた選民思想が暴走した
と言いますか、私としては、ああするつもりも、させるつもりも無かったんですがねぇ?」

宗也の脅迫じみた行動を前にしても嘲笑じみた笑みを浮かべるだけで付かず離れず、宗也の
間合いから一歩離れた位置を、ふらふらとした足取りで維持する。

「先天派……ですか。コアクリスタルを先天的に制御出来る人間は神の子で、普通の人間を
管理するだとか、何だとか、世間知らずを誑かして世界征服でも企んでいるんですか?」

「ストレンジャーに限らず、コアクリスタルは現代社会に於いて重要な役割を持っています。
それこそ、コアクリスタルが無ければ文明が崩壊する程に。創世記では破壊の因子でしたが、
現代では重要なライフラインです。そして、これを安全に制御出来るのは我々だけです」

「世の為、人の為に立ち上がり世界を管理するとでも?」

「ええ。王族も貴族も関係ありません。コアクリスタルを制御出来る者だけが世界を制御す
る権利を持つのです。だからと言って、制御出来ない人間を殺しても良いという彼の発想は
いき過ぎでしたがねぇ。我々も徒に社会を混乱させる気はありません。平和的に、ですよ」

「成る程。胡散臭い組織ですねぇ」

「おやおや……胡散臭い、ですか?」

宗也の表情から笑みが消えた。最早、腹の探り合いの必要は無いと、廃墟に居るのは殺す者、
殺される者が一人ずつ。それならば、眠たげな表情で笑みを浮かべ、人畜無害な変人を装う
必要も無くなったと本性をむき出しにしていく。

「ええ。そんな与太話を聞かされて誰が信じるのやら……第一、血と火薬、死の残り香を巻
き散らかし、隠そうともしない。詫びに来たのですか? それとも、脅しに来たのですか?」

「ぶっちゃけますと、交渉ですよ」

「先天派に与する気はありません。さようなら」

宗也はユリウスに背を向け、出口に向かって一歩踏み出す。殺意はユリウスに向けたままだ。
ユリウスは口の端を大きく吊り上げ、獲物を前にした獣の様な笑みを浮かべ、溜息を吐く。

「ええ、さようならです。この世から」

言い終わるか終わらないかの刹那に轟く銃声と、鉄が弾ける高音。宗也は首だけをユリウス
の方へとゆっくり向ける。瞬時に抜刀した刀の腹からは煙が立ち昇っている。足元に転がる
潰れた銃弾を蹴り飛ばし、底冷えする様な低い声を絞り出す。

「結局、こうなるわけですか。ちょっと血の気が多過ぎるんじゃござんせん?」

「ええ。血と火薬、死の残り香を巻き散らかして、それを隠そうともしない。
一目見た瞬間に確信しましたよ。貴方は敵だ。それも非常に厄介な敵になると」

「当然でしょう? 何故、此処に来たと? 貴方を殺しに来たんですよ」

意趣返しのつもりかユリウスは宗也と似た様な台詞を語り、宗也と同様に愛想笑いを消す。

だが、それ以上に宗也はユリウスという男に対し、自身でも理解出来ぬ不快感を感じていた。
リリスから渡された手紙にはユリウスの名前、先天派である事、待ち合わせの場所と時間が
簡潔に書かれているだけのものであった。それにも関わらず、筆跡が文体が、そして、声が
顔が立ち振る舞いが、ユリウスを構成する要素が、言い掛かり染みた不快感、嫌悪感、敵意。

理由などある筈も無い。それなのに自身では抑えきれない程の勢いで浮かび上がる負の感情。
眩暈がするほどの強烈な感情の昂ぶりに違和感や戸惑いを感じ、湧き上がる殺戮衝動は宗也
自身を驚かせる。どちらにせよ殺す事には変わらないが。

「無益な殺生は好みませんが」

「脅威になると分かっているのであれば」

「今、この時」

「この場所で」

――殺すッ!!

まるで演劇の様に、ある意味で阿吽の呼吸の様に互いに呪いの言葉を吐き捨て、ほぼ同時に
ストレンジギアの展開を開始する。ユリウスの黒衣が翻り、裾から三体のタイラントハウン
ドが飛び出し、宗也の背中からガルドが跳躍し、タイラントハウンドの進撃を食い止める。

「キメリウスッ!」

タイラントハウンドの背後に伸びた宗也の影からキメリウスが飛び出し、剣閃を迸らせるが、
ガルドのパワーでは三体のタイラントハウンドを抑え込むには足りず、刃が走り抜ける前に
拮抗が崩れ、ガルドは両腕と頭部を食い千切られ倒れ伏す。

キメリウスの斬撃は宗也の三体同時に切断するという目論見から大きく外れて、装甲を浅く
削り取る程度に留まり、タイラントハウンドは宗也への進撃が再開する。

「悪手ですねぇ」

「まだですよ、ライトニングモナークッ!」

せせら笑うユリウスに苛立ちながら、ライトニングモナークを正面に展開。更に砲弾を放つ。
展開から瞬時に吐き出された砲弾は中央の一体を捉え、続く爆炎にて飲み込み、破壊する。

「一匹撃ち落したくらいでいい気にならないことですねぇ」

「其方こそ、ストレンジギアの同時制御如きで優位に立ったつもりですか?」

「では、これはどうでしょ? カオス!」

ユリウスの左半身に浮かび上がった鈍色の鱗が肥大化し、右半身からは鉛色の触手が生える。
ストレンジギアには、タイラントハウンドやキメリウスの様なストレンジャーの思考制御に
よって自律稼動する使役型の他に装着型と呼ばれる機種が存在する。

周囲に展開した装甲を装着し、ストレンジャー自身をギア化する性質を持つ機種である。
更に使役型の能力がストレンジャーよりもストレンジギアの基本性能に影響するのに対し、
装着型の能力はストレンジャー自身の能力に大きな影響を受ける。

ストレンジャーが使役型を展開した際、能力を計る一つの指標として機体サイズがある。
一般的な使役型のストレンジギアの全長は約四メートル。このサイズより下回る様であれば、
装着型のギアを扱うメリットは無いどころか、維持費が高く付くだけでデメリットしかない。

ユリウスが展開した装着型ストレンジギア・カオスはユリウスの身体を鱗と触手で包み込み
脈動しながら肥大化していく。鳥類の様な頭部を持ち、左半身はささくれ立った鱗に覆われ、
触手が結びついて人型を模る右半身を持つ、左右非対称の化け物染みた体躯は約七メートル。

(使役型の三体同時制御に巨大な装着型の展開能力……超一流という奴ですか)

ここまでの能力を兼ね備えたストレンジャーなど、そうはいない。
だが、そんな事は宗也にとって些細な問題でしかない。確かにユリウスの制御・展開能力は
超一流の呼び名に相応しい実力だが、それは宗也にも出来る事であり、警戒に値しない。

(あのカオスという機体……まさか、オリジナルギアだなんて言わないでしょうねぇ……)

人工的に生み出されたストレンジギア、所謂、人造ギアにワンオフ機は存在しない。
宗也の扱う機体にしても珍しい物では無く、ライトニングモナークに到っては宗也の傭兵時
代からロングセラー機で、これまでに何体撃墜したか覚えていない程の普及台数を誇る。
その結果として宗也自身も愛用する様になったわけだが。

話が逸れたが、宗也には人造ギアで知らない機体は無いと言って良いほどの戦闘経験と知識
を持っている。例え、新型であっても、メーカー特有のデザインや設計思想が存在する。
しかし、カオスにはそれが無い。それ以前に生体パーツを採用している機体は存在しない。

其処で宗也が思い浮かんだのが、オリジナルギアの存在だった。
人造ギアが量産型しか存在しないのに対し、オリジナルギアは自然発生したワンオフ機しか
存在しないストレンジギアで、人造ギアの雛形となったとも言われている。

稼動年数が百年を越える機体も珍しくは無いが、その性能は現行の人造ギアの比では無く、
自意識を持つ機体や、ギアの代理制御が可能な機体等、戦闘能力以外の部分でも人造ギアと
は一線を画す存在である。

オリジナルギアなのではという宗也の疑念を証明するかの様にカオスが猛威を振るう。

カオスと化したユリウスが繰り出した無造作な斬撃は、間合いの外にいた筈のガルドを剣圧
のみで一刀両断に叩き伏せ、返す刀でキメリウスに向けて放たれた一撃は、受け流したにも
関わらず、剣戟の影響を受けていない筈の背部を中心に亀裂が走り、微塵に粉砕される。

僅かな硬直の隙を突いて、ライトニングモナークの全砲門から砲弾を放つが、カオスの左半
身を形成する触手が形状を変え、直槍の様な細く鋭い穂先を持つ鏃の様な物体となって、弾
幕の隙間を掻い潜り、ライトニングモナークを串刺しにする。

カオスを飲み込む寸前まで迫っていた弾幕はライトニングモナークの沈黙と共に消滅する。
タイラントハウンド、ガルバトス、クレイク、グルータルを赤子の様に蹴散らした宗也の
ストレンジギアがそれ程多くない攻防の中で全て、それも容易く撃破される。
それにも関わらず、未だカオスは無傷。

「まだ、この程度では終わらんでしょ、長谷道宗也君?」

「仕方が無いですねぇ……」

状況は圧倒的に不利。それにも関わらず、宗也はいつもと変わらぬ様子で肩を竦める。
まるでこの程度の不利など不利の内に入らないと言わんばかりに。
状況は圧倒的に有利。それにも関わらず、ユリウスに勝ち誇った様子は無い。
まるでこの程度の実力では無いことくらい分かっていると言わんばかりに。

「来いッ! ナイトレグルス!」

実際のところ、宗也の手札は尽きていない。そもそも、装着型の能力がストレンジャー自身
の能力に大きく依存するなら、四方一天流を受け継ぐ超一流の殺戮者、長谷堂宗也が装着型
という手札を持っていても何ら不思議では無い。寧ろ、手札に加えていない方が不自然だ。

宗也は四本腕を持つ金色のストレンジギア・ナイトレグルスを展開するが、その全長はカオ
スよりもやや小さい六メートル。オリジナルと人造の性能差か、それともストレンジャー自
身の能力差か、どちらにせよナイトレグルスでは、カオスの撃破には後一歩及ばない。

「来いッ! 方天剣!」

未だ条件は五分に到っていない。それは当の宗也が理解している筈だが、知った事では無い
と言わんばかりにカオスの前に躍り出る。必殺の間合いに入ると共に展開した四振りの長剣、
方天剣を携え、カオス目掛けて四条の剣閃を迸らせる。

「ようがしょ……ですが、全ッ然足りませんねぇッ!!」

「やせ我慢……では無さそうですねぇ」

ユリウスは両手を広げて無防備を晒し、宗也の斬撃を真正面から受ける。
ナイトレグルスの攻撃力は他のギアの追随を許さない。呉服港を訪れて以来、展開しなかっ
たのも、過剰な攻撃力でしかなかったからだ。

それにも関わらず、宗也の放った斬撃は無防備を晒したカオスに傷一つ負わせられずにいる。
斬撃が効かぬのならと刺突に切り替えても、矢張り結果は変わらず、装甲に阻まれる。

「足りない! そう言っているでしょう?」

「足りませんか……ははは、はははは、そうですか、しょうでしょうねぇ」

そして、宗也は抱いていた疑念を確信に変える。例え、七メートル級のギアであっても、
ユリウスが優れたストレンジャーであっても、宗也の斬撃が通用しないなどオリジナルギア
以外に考えられないことだからだ。

地を蹴り抜き、真正面からカオスの懐に飛び込み、四振りの切っ先を重ね合わせ一点破壊を
計るも、その巨躯を数メートル押し返し、エントランスホールの壁を破壊するだけでカオス
を貫くには遠く到っていない。

「どうしました? まだまだですよ?」

「無い物を足せる程の者じゃござんせん。だから、せめて鉄塊だけでも足しましょうか」

カオスの触手が龍の頭を形取り、巨大な顎門を開いて宗也に喰らい付こうとするも、ナイト
レグルスの足裏と背面のブースターから火を噴いて大きく跳躍し、猛威をやり過ごす。
天井を突き破って上昇するナイトレグルスを追い立てるかの様に龍の牙が伸び、背中を貫く。

小爆発を起こしながら落下していくが着地点はカオスの頭部。すかさず方天剣を重ね合わせ
カオスの頭蓋へと斬撃を叩き落す。一刀両断にしても足りぬ威力を持つ一撃を前にしても、
ユリウスは避ける素振りすら見せずに斬撃を頭部で受け止める。

「良いですねぇ。新たな境地が見えそうです。きっと見えませんよねぇ!」

「生憎と此方が見せてやれるのは黄泉の国くらいのものですがねぇ」

カオスの触手が龍の形を解き、無数の触手一本一本を刃の形状に変え、斬撃の嵐を縦横無尽
に走らせる。暴風の様に吹き荒れる刃を四振りの方天剣で受け流していくが、カオスの刃と
接触した箇所を中心に亀裂が走り、方天剣がガラスの様に砕け散る。

「出来ますか!? 貴方に!!」

「四方一天流の流儀は殺戮と殺人。その極意は一撃で破壊出来なければ、死ぬまで殺せ。
老いも、若いも、強者も、弱者も死ねば皆同じ。常闇の世界へと誘って差し上げましょう」

柄だけになった四振りの方天剣が融合し、紫電を放ちながら金色の刃、五獣剣を形成する。

「四方より三千世界を飲み下し――」

カオスの左半身から放たれる刃が踊り狂い、ナイトレグルスを包み込み、装甲を斬り飛ばし
ていくが、宗也は意にも介さず、一歩前に踏み込み――

「五獣剣にて天上天下を断つ――」

――何の工夫も無い、凡庸な斬撃を振り落とした。

ユリウスは何の意にも介さず、相変わらずの無防備を晒し宗也の一撃を真正面から受けた。

「これぞ名付けて黄龍剣」

四方一天流が脈々と受け継いできた殺戮概念。宗也が導き出した解答は到って単純明快。
ストレンジギアの動力源となるコアクリスタルはそれ単体が凄まじい力を持つエネルギーの
結晶体である。ユリウスが言うところの神の子はそのエネルギーを自在に操る力を持つ。

その制御能力で以って、コアクリスタルが内包する膨大なエネルギーを破壊の力に転化する。
更に過負荷をかけ強制的に暴走状態を引き起こし、それを刀身状に成形し、叩き付けるだけ。

均衡を失った破壊エネルギーが刀身から溢れ出し、全方位に無差別な破壊を巻き散らかす。
いくら神の子が、コアクリスタルのエネルギーを制御する事に特化しているとは言え、ゼロ
距離から放たれた暴走状態のエネルギーを無力化出来る程の制御は不可能と言っても良い。

無軌道に、無差別に破壊だけを巻き散らかすエネルギーの暴走相手に、受け、捌き、避ける。
ありとあらゆる行動が無力化される。カオスの装甲が溶ける様に削り取られ、ユリウスの肉
体は断末魔の悲鳴を上げる間も無く爆ぜ、消滅する。

ストレンジャーはギアの強化能力により、頭部や心臓を失っても蘇生出来るだけの不死性を
持つが、体内に取り込んだコアクリスタルを破壊してしまえば、唯の人間と変わらない。
ましてや細胞の一片までもが消滅してしまっては再生は出来ない。

「おや、久々過ぎて力を入れすぎましたかねぇ」

幾何学模様の様な破壊痕の中心で宗也が得意気に呟くと、暴走の反動でナイトレグルスの右
腕が五獣剣ごと弾け飛ぶ。化け物染みた不死性を持つストレンジャーさえも完全に殺し切る。
これこそが、どんな手を使ってでも死ぬまで殺せという四方一天流の本領である。

我が身さえも砕く恐れのある暴走エネルギーの制御。唯のストレンジャーは別として神の子
ならば、事前情報があれば対策の一つや二つ程度、用意するのは難しくは無い。だが、見敵
必殺であるが故に黄龍剣の存在を知る者は皆、墓の下。

発動してしまえば最後、暴走エネルギーに飲み込まれるまでの一秒にも満たない時間の中で
黄龍剣を無力化し、反撃に転じる事を強要される。黄龍剣の本質を知る者を一人として遺さ
ないからこそ、黄龍剣は対ストレンジャー戦に於いて宗也を無敗たらしめている。

「いやはや、六体中三体が大破、一体が中破。契約が終わった瞬間にこれですか……世の中、
侭ならないものですねぇ……当然、経費に計上出来ませんし、不正がバレてフェルニアさん
を怒らせたら後が怖いし、リリスさんには用心棒の件、本気で考えてもらいましょうかねぇ」

宗也はぶつぶつと呟きながら、ほんの数分前まで屋敷だった筈の廃墟から背を向けた。
前回の報酬から、四体のストレンジギアの修理費用を差し引くと、何を如何足掻いても赤字。
いつも通りの作り笑顔を貼り付けてはいるが、顔色は非常に悪く、憔悴し切っている。

例え、超一流の殺戮者であっても貧乏だけは完全に殺し切れないようである。






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