○4
「尾崎くん。君、サッカーは好きかな?」
「……え? いや、……別に……」
「面白いよね、サッカー。運動量多いし、ゲームのテンポも早いし。キーパー以外、基本的に手とか使えないし。でね、私、思ったんだけど――」
なぜ持っていたのかもよく分からない鍵で体育館の扉を開き、下駄箱から持ってきた体育館シューズへ足全体を押し込むと、無人の館内すべてを輝かせるような笑顔で少女は言った。
「サッカーしながら空いた両手でゲームも出来たら、もっと最高に面白いよね!」
「…………、は……?」
相手が何を言っているのか分からない。
思考と表情を完全に停止させた晴道の前で、来栖貴子は制服姿のまま両足に体育館シューズを整える。照明も落ちたまま無人の体育館へ勝手に上がり込み、奥の倉庫に消えていく。
そして引っ張り出してきたのは、車輪付きのスコアボードと、腰までの高さの直立式の足付き網が一対、それに少女に蹴られて転がってくるサッカーボールが一個。
紺のニーソックスにスカートの姿でドリブルしてきたサッカーボールを、バスケットボール用のセンターサークルで貴子は止めた。
思考停止したままの少年をよそに、少女はバスケットボールコートの両端に一対の網を、そして中央脇にスコアボードを据えていく。
「いい? この網がゴールね」
「? ゴール??」
何の?
目の前に広がる舞台と並んでいく道具から、既に答えは類推しながらも、晴道の理性は頑なにそれを許容することを拒否している。
この女はいったい、今からここで何を始めようとしているのか?
「このセンターサークルでキックオフ。フィールドの縁はそこの、青と緑のテープの線ね。ゴールは、この網の……外枠に弾かれたのはアウトってことで、網の部分に当たったのだけを得点扱いすることにしようか」
一人てきぱきと話を進めていく少女の前で、一瞬ふっと気を遠くしかけた少年が、何とか踏みとどまって小さく挙手した。
「え、……ええ、と……。……質問……いいか……?」
「ええ、もちろん。何かな、尾崎君? 疑問があれば何でもどうぞ」
「あの、あんた……その、来栖さん、さ……あんた、俺を、ここまで……一対一で、俺と、サッカーやるために……連れてきたの?」
「いいや?」
頭を押さえながら苦渋とともに問いかける少年に、違うよ? とでも言いたげに頭を振り、少女は小首を傾げる。そして例の萌え萌え美少女アニメキャラに覆い尽くされた、痛GPGをひらひらと振ってみせた。
「まさかあ。わざわざ尾崎くんを誘っておいて、そんな単なる普通のサッカーなんかはやらないよ。私はここで君と、『ラゲリオン・サッカー』をやりたいんだな」
「……ら、……『ラゲリオン・サッカー』……?」
「そう!」
頬を不穏にひくつかせる少年に言いながら、少女は両手にGPGを構える。同時に足をサッカーボールに乗せると、一気に後ろへスピンさせて宙空へ巻き上げた。
そのままニーソックスを履いた膝で、スカートを跳ね上げながらリフティングを始める。
「手元のGPGで『神速機動ラゲリオン』を対戦プレイしながら同時に、生身のプレイヤー同士が空いた両足でサッカーを楽しむ。
新進気鋭の携帯機用対戦格闘ゲームと、世界的な大人気を誇る伝統球技のまったく新しい融合――これぞ名付けて『ラゲリオン・サッカー』。楽しさ二乗で夢が広がる!」
晴道は切れた。
「何でも混ぜりゃいいってもんじゃねえぞッ!! いいかオイあんたが今やろうとしてんのはな、スプーンの反対側にフォークどころか電子レンジを付けましょうってレベルの暴挙だ!!」
「でも、面白そうでしょ?」
「んなわけねえだろ! そもそもなんで同時プレイなんだよ!? せめて最低限交互にしろや!! チェスボクシングだってそうやってる!!」
「いや、そうかな? 過去の人類ゲーム史上に例を見ない、若い柔軟な発想が産んだ奇跡の最高傑作だと思うけど?」
「そりゃ堅い発想で例を見ないんじゃなくて単にあまりに確実な失敗が見えすぎてて、この地球上じゃあ誰一人としてやらねえだけだ!!」
「むっ、……不評……?」
「いやちょっと待てオイ! むしろ今の話して好評だった奴とかいんのか!? いねえよな! いなかったよな!?」
懇願するように念を押す少年を前に、少女は唸りながら中空へサッカーボールを跳ね上げ、額の上で転がしはじめた。難しい顔で天井だけを見上げている。
「ううむ……」
「正気かあんた!?」
ボールと額に磁石を仕込んででもいるかのように、転がりながらも落ちる気配は微塵も見せない。言っていることはどうしようもなく破綻しているが、こちらは相当なバランス感覚だ。
「――本当に何なんだよ、あんた……」
少女の持つあらゆる部分の極端さに呆れ果てながら眺める少年へ、貴子は額へボールを載せたまま視線を流した。
「うーん。今回はちょっとやる気なさそうだね、尾崎君?」
「当たり前だ。てか普通、これでやる気になる奴とかいんのか? 常軌を逸してクソゲー過ぎんだろ」
脱力しきって冷たく言い放つ晴道に、少女は少し不思議そうに目を細めた。
「クソゲーって……? まあいいや。それじゃあ、尾崎君がやる気になってくれるような素敵な賞品さえあれば、そんなクソゲー? でもやる気になってくれるかな?」
「賞品?」
「そう。ゲームには賞品が付き物でしょう? だから尾崎君がこのゲームで私に勝てたら、素敵な賞品を差し上げようというわけですよ。尾崎君が今、いちばん欲しがりそうなものをね」
「……なんだよ」
「そうだね、こういうのはどうかな。尾崎君が私のことを、どんなことでもひとつだけ知れる権利――なんてのは、欲しくならない?」
「…………」
「本当に何でもいいよ? 誕生日とか携帯電話の番号とかメアドとか、それにこの前の試験の成績とか、私の3サイズでも男性遍歴でも、何でもね」
「へえ。何でも知れる、ねえ――それじゃあ今ここで、来栖さんの生まれたままの姿が知りたい、なんてのもアリなわけだ?」
さすがに引っぱたかれるのも覚悟で晴道は軽口を投げたが、ボールを自在に弄ぶ少女は笑みを深めるだけだった。
「ん、私は別にいいよ。そういうのもアリだね。せっかく人のいない体育館を使ってるわけだし、私の身体について、いろいろとじっくり教えてあげましょう。
それで尾崎君が自分の寂しさを慰める以外にも、何かいいことがあるのなら構わないんじゃないかな?」
「…………」
動じないか。
半身で見据えたままの少年に、少女は薄い微笑みを崩さず横目で言う。
「だけどまあ、私の見るところ。尾崎君が本当に知りたそうなことは、私の裸以外にいろいろありそうだからね」
生き物のように転げ回ろうとするサッカーボールを器用に額で留めながら、少女の流し目が少年をなめる。
「よっ、と」
その美貌を卑怯と思う晴道をよそに、貴子はボールを鼻梁に伝わせて爪先へ落とし、軽く空中へ跳ね上げた。
「よし。じゃあ十回やろう」
「……じゅっ、……十回ぃ?」
思わず頓狂な声を上げる晴道に、貴子はリフティングしながら何の迷いも無く頷いた。
「うん、十回勝負。どちらかが先にサッカーで点を入れるか、もしくはラゲリオンで勝つか、までが一勝負。
サッカーの方はハンドなんかの反則でもすぐに得点扱い、ボールがラインを越えたら『ラゲリオン』もその間はポーズ掛けて停止。
それで決着が付いたら一勝負ごとに、サッカーもラゲリオンも毎回一から仕切り直しね。
そんな風にラゲリオンサッカーを十回やって、私がその十回に全部勝てたら私の勝ち。でも十回終わるまでにそのうち一回でも尾崎君が勝てたら、総合勝利は君のものです。どう?」
「!」
蠱惑的な、そして同時にひどく挑発的にも見える少女の笑みに、晴道は鋭く刺すような視線で応えた。少女はまるで怯みもせずに口許を緩める。
「まあ、なんだ……来栖さん謹製クソゲーと、賞品の内容は置いとくとして、だ。十対一でいいってか……? ずいぶんと舐められたもんだな」
「そんなことないよ? 尾崎君が最初の一回で勝てば、私はもうぐうの音も出ないんだからさ。だからここは一つ、このふざけた女をぎゃふんと言わせてみちゃってよ、尾崎君」
「…………」
睨みつけながらのその沈黙を、都合良く無言の同意と解釈したか、少女は手元の痛GPGに再起動をかけた。
スリープしていたGPGが『神速機動ラゲリオン』を前回の決着直後からレジュームし、次の対戦の設定画面に移っていく。
「今回も尾崎君は《カスタリオ》でよろしくね。私は今回、んー、そうだなー……よし、《ベフェーレン》で行ってみるかな!」
やはり一方的に機種選択を決定して、少女は勝手に設定画面を先へ進める。晴道はため息混じりに従った。
《ベフェーレン》はストーリーモードでは主人公のライバルキャラが駆る、ワンオフ仕様の可変高速機だった。
人型時には地上を素早く駆け回り、鋭角三角形にも似た航空機型に変形すれば空を自在に飛び回る。
そしてすれ違いざまに、二本差しの鋭利な曲刀で敵機を撫で斬っていくのが基本戦術である。
その加速力と機動性はゲーム中でも随一だ。いずれにせよ小回りは利かないが、一撃離脱で大きな威力を発揮する機種だった。
とはいえ《ラゲリオン・ディーヴァ》のようにすべての面において桁違いの高性能を誇るわけではなく、特に装甲防御は脆い。捉えることさえ出来れば《カスタリオ》の武装であっても十分に撃破は可能だ。
だが一歩でもゲームの展開を読み違えれば、瞬時にライフゲージのすべてを刈り取られてゲームオーバーを迎えることになるだろう。
何にせよ、《カスタリオ》で渡り合うには厳しい相手だ――もっともそれは『神速機動ラゲリオン』に登場する、ほぼすべての機種がそうなのだが。
「ところでさ、来栖さん」
「何かな、尾崎君?」
「来栖さんが賭ける賞品は、さっき言ってたのでいいとして、だ。俺の方は、何を賭ければいいんだ。
来栖さんにだけ賭けさせておいて俺には何も賭けるものがないっていうのは、そいつはフェアじゃない」
「あれ、そうなの? 尾崎君はもうとっくにもう、自分の一番大事なものを賭けてると思ってたけどな」
「――?」
少女の返しに意表を突かれる晴道をよそに、貴子はしごく自然な風に告げた。
「この『ゲーム』の結果それ自体が、尾崎君にとってはそのまますべてを賭けるに値するものだと私は思ってたんだけど。ひょっとして、そうじゃなかったのかな?」
存在自体が丸ごと冗談のような少女が、その一瞬だけは瞳の邪気を消して、真摯な光で晴道に淡々と問いかける。
「尾崎君のゲーマーとしてのプライドは、曲がりなりにも『神速機動ラゲリオン』で素人に毛が生えた程度の女子と戦って負けて、そのまま傷つかずにいられるぐらいの安物なのかな。私は、そうじゃないと思ってた」
「……俺は――」
何か言おうとした晴道を制するように、少女はすっと伸ばした右手の先で人差し指を立てていた。
「本当の答えを知っているのは、『本当の』尾崎君だけだと思うね――ステージ設定は曇天、夜、廃墟。最初のボールは尾崎君からどうぞ」
キュッ、とゴムグリップの利いた体育館シューズが光沢のある床を磨く。彼女にパスされて転がってきたサッカーボールを、晴道はGPGを手にトラップした。
「しかし、まあ……来栖さん、なんというか、それ……」
改めて見てみると、やっぱりすごい格好だな。
夏制服に濃紺のニーソックスを履いた少女は両手にGPGをしっかりと握りこみ、そして口にはどこから持ってきたのか、首掛け式のホイッスルまでくわえている。
どうやら審判も兼ねる気らしい。大したやる気と言うほかなかった。
「ひはひはひひ!」
「はいはい、試合開始ね」
宣言するや、少女は体育館にホイッスルを吹き鳴らして重心を落とす。気合いは十分。
そんな彼女を前に、しかし晴道は右足でボールを適当に押さえたまま、ただGPGだけをしっかりと構えるばかりだった。
晴道とて、サッカーにまったく自信がないわけではない。むしろ運動能力全般には相応の自負がある。
いかに貴子が巧みな技術を備えているとしても、女子を相手にそうそう遅れを取ることもないだろう。
そうは言ってもGPGでの『ラゲリオン』と一対一の変則サッカーを同時にやる、などという無茶苦茶なゲームだ。ましてぶっつけ本番では、戦術の立てようもない。
まずは足下のボールはこのままキープし、サッカーの方では守りに徹する。彼女に隙があるようならゴールを目指してもいいかもしれないが、ゲーム全体での攻撃の主力はあくまでも『ラゲリオン』だ。
馬鹿げたクソゲーは速攻で終わらせるに限る。
相手は装甲の弱い高速特化型の《ベフェーレン》。逃げに徹されれば面倒だが、今回の戦場となる『廃墟』の空間には地上にビルが建て込んでおり、直線的に機動できる範囲は限定されている。
いつまでも直進を続けるわけにも行かず、しかもお互いにサッカーの片手間プレイになってしまう以上、小回りの利かない《ベフェーレン》を地に足を着けながら潜む《カスタリオ》が捉えられるチャンスは、決して少なくないだろう。
互いにデタラメ操作を余儀なくされる泥仕合なら、『ラゲリオン』の場数を踏んだ晴道が圧倒的に有利。
少なくとも先刻の、《ラゲリオン・ディーヴァ》相手の真剣勝負よりはずっと簡単に勝てるはず――
「……あれっ!?」
足下にキープしていたはずのボールの感触がなくなり、晴道は危うくバランスを崩しそうになる。慌てて体勢を整えるのと、サッカーボールが背後でネットに突き刺さるのがほとんど同時の出来事だった。
「はい。第一セットは私の勝ちね」
「? ――!?」
相手を見失った晴道に、その声は背後から聞こえてきた。
やっと視野に《ベフェーレン》が入ってくるところだった『ラゲリオン』にポーズを掛け、そのままメニューから対戦中止を選択して設定画面まで戻しながら、少女はスコアボードをめくった。1ー0。
「…………?」
何が起こったのか、まったく分からない。
ボールを回収してセンターサークルまで戻してくる少女の動作を、少年はただ呆然と見送っていた。
「はい??」
確かなことは、たったひとつ。
晴道がGPGの画面を覗き込んで『ラゲリオン』での勝利を目指して集中していた間に、貴子は晴道が認識する間もないほどの早業でボールを奪い取り、ゴールに叩き込んだということだけだった。
「よし。第二セット行ってみようか。ねえ、尾崎くん――そんな風にボーッとしてると、また何にも出来ずに終わっちゃうよ?」
「お、……おう」
引き攣った笑みを漏らしながら、晴道は置かれた現状を分析する。
『ラゲリオン』に集中していた晴道が何か意味のある行動を起こす前に、貴子はサッカーの方だけへ集中してお留守のボールを奪い取り、瞬時に勝負を決めてしまった。
それだけのことだ。それだけのことだが、当初の作戦は変更せざるを得ないようだ。少なくとも彼女には、それだけの行動をたやすく終えられるだけの能力があるのだから。
大した腕だ。わざわざ自分から言い出すだけのことはあって、どうやら彼女のサッカー技術は相当の域に達しているらしい。それこそ、並みの男子では到底、相手にさえもならないほどに。
「まあ、サッカーの方はなかなかやるようだが……次も今の奇襲が通用するとは考えない方がいい。ゲーマー相手に二度目の初見殺しは――」
「尾崎君、能書きはいいから。さっ、二本目開始!」
「…………」
GPGを握り込んだまま笛をくわえ、貴子がまたホイッスルを吹き鳴らす。
晴道は今度は上体の重心を落とし、足下のサッカーボールをしっかり押さえ込みながらも、今度は少女の動きを中心に視線を据えた。
一瞬ちらと画面へ視線を落とせば、上空深奥に銀翼の煌めきが目に入る。そのまま逆落としに突進してくる豆粒のような《ベフェーレン》の輪郭が見えたと思う間もなく、少女はGPGを操作しながら猛然とボールを奪いにダッシュしてきていた。
同じ手を二度食うものかよ――晴道は《カスタリオ》に迎撃の位置と構えを取らせつつ、遙か鈍色の空から降り注ぐ牽制の射弾を最小の動きで回避する。その間に晴道の視線は忙しなく、GPGを二分、前方を八分と往復している。
《カスタリオ》まで一呼吸の距離に接近した《ベフェーレン》が航空機型から人型へ変形するのと、目前に迫った少女が現実世界でサッカーボールを取りに来るのはほぼ同時だった。
――マジか。
注視していて初めて分かった。彼女の脚力は尋常ではない。ほとんどGPGだけしか見ていなかった初回に瞬殺されたのは、当然すぎるほど当然だった。
十メートル以上の距離を瞬時にゼロまで詰める、一般女子とは到底思えない加速に晴道は舌を巻く。
踏み込みとともに閃く体育館シューズとニーソックスの脚が、抜きざまに鞘走る《ベフェーレン》の曲刀が仮想と現実、両面の世界で晴道を襲う。
「くっ……!」
晴道はそれでも必死に左足を繰り出し、獣の躍動じみた鋭さの足さばきとの間に割り入れた。《カスタリオ》の剣と《ベフェーレン》の曲刀が火花を散らして弾き合う。
ボールを狙う少女の足はさながら、次々としなり飛ぶ竹束にも似たしなやかな速さと強さ、そして手数で襲い来る。それでも晴道は紙一重で、かろうじてボールのキープに成功していた。
そしてその攻防の間にも、『ラゲリオン』の中で戦闘は進行している。
出会い頭の一瞬に《カスタリオ》と数合を切り結んで離れた《ベフェーレン》は再び航空機型に変じ、機体後方に集中したノズル群から盛大な噴焔を吐いて廃墟の上空へ駆け上がっていく。
その鋭角三角形のシルエットを追うように晴道の《カスタリオ》は胸部内蔵機関砲を放つが、火線は《ベフェーレン》に追いつくことすらままならず、空しく弾道を散らすばかりだった。狙いきれていない。
「聖徳太子じゃねえんだからよ……!」
少女に対するサッカーでのボールキープとGPGでの『ラゲリオン』の同時並行、それら両面への集中は晴道へ、まさに電子レンジ付きのフォークで食事するような負担を強いていた。
《カスタリオ》の動きは明らかに精彩を欠いていたが、それでもこの状況で『ラゲリオン』の操作が一通り出来ていること自体が、晴道の並外れた技術の証明になってもいる。
だというのに《ベフェーレン》を操る少女の操作は少しばかりも陰ることがなく、あわやというところまで晴道を追いつめた《ラゲリオン・ディーヴァ》でのそれと遜色ない冴えを見せていた。
そしてサッカーの方はといえば、なぜ晴道が今までボールを奪われずにいるのかが分からないほどの、巨大な格差を見せつけているのだ。少女はあまりにも速すぎ、そして、鋭すぎる。
晴道は紛れもなく、虚実両面の戦場で劣勢に立たされていた。
本当に何なんだ、こいつ――この動き、いったい何をどうやってやがるんだ?
サッカーと『ラゲリオン』とを切り替えるわずかな合間に少女の顔を睨みつければ、少女の方はすっかりGPGの方だけに視線を下ろして没頭したままで、五体を駆使する苛烈な攻撃サッカーを展開していた。
人型のまま機体各部のスラスターを全開で噴かす《ベフェーレン》がトリッキーな機動に乗せて左右の曲刀を振りかざし、至近距離から《カスタリオ》と切り結ぶ。
「あ痛っ……!?」
晴道は最初の数合を無難に切り抜けたが、途中から迎撃が追いつかなくなりはじめた。GPGの筺体が震えて《カスタリオ》のダメージを晴道に教える。
体捌きに追われてGPGの画面を注視しきれず、細かな動きに対応しきれない晴道と《カスタリオ》をあざ笑うように、《ベフェーレン》の斬撃が次第に機体を捉えはじめる。
こんな状況下でも、単にボタン一つで繰り出せるデフォルトそのままのパターン動作への対処なら、身体に深く叩き込まれている。画面を見続けていなくても、かなりの程度まで対処できるはずだ。
晴道にはその自信があった。だが少女はその晴道の自信を越えて《カスタリオ》に打撃を与えはじめている。
――なんだ? こいつ……!
あり得ないはずの推移を辿る戦況に戸惑い、晴道は思わずサッカーでの猛攻へ備える視線を、いつもより長くGPGの画面へ留めた。
そして、気づいた。
《ベフェーレン》の二刀を操る操作には、ボタン一つで繰り出せるシステム任せのパターン動作にはまりきらない何かが――精密に、そして執拗に敵機を狙うプレイヤーの意志が宿っていることに。
マニュアル操作だとでも言うのか。この状況で?
少女は明らかに、今この瞬間も先刻同様の全力をもって、『神速機動ラゲリオン』をプレイしていた。
そしてその間にも貴子は、晴道を休む間もなく追いつめる攻撃サッカーを展開している。
迫る少女の脚からボールを、《ベフェーレン》の剣舞から《カスタリオ》を守りながら、少年は息を切らせて少女を見た。ボールを狙って躍動する脚でも、ぶつかりあいそうな肩でもなく、彼女の顔を――その眼差しを確かめる。
少女はただ、GPGの画面だけを凝視していた。
晴道が必死に脚を繰り出し、身体を回して守ろうとするボールや晴道自身の動きなど、貴子は端から見向きもしていなかった。その状態で少女は少年を追いつめ、そして《ベフェーレン》にも《カスタリオ》を圧倒させていた。
――まさか。
冷たい感触が背筋を撫でる。疑念が確信へ変じていく。
まさか、こいつ、ボールを――いや。
GPG以外、何も見ていないのか?
いったい如何なる技術を用いて、彼女がそれを可能にしているのかは分からない。
だが現に彼女はサッカーの方へ一切の注意を払うことなく、GPGだけへ集中して《ベフェーレン》の操作に全力を投入したまま、晴道を追いつめる熾烈な攻撃サッカーを展開しているのだ。
――化け物め。
呑んだ言葉が臓腑の上を滑り落ちる。
この場に留まってもボールは守りきれないと判断し、晴道は破れかぶれで奪われかけたボールを後ろへ転がして下がった。
少女との間に無理矢理に身体を割り入れ、彼女に対する数少ない優位点の一つである体格差で、一瞬だけの壁を作る。
と、そのタイミングで、いったん距離を開いていた《ベフェーレン》が航空機型のまま急加速し、《カスタリオ》へ突進してきた。
――ここだ。
電撃のように直感が閃く。
これこそまさに、晴道が待ち続けていた好機だった。
今の晴道には一瞬だけの、サッカーではなくGPGへ全力を注げる余裕があった。
《カスタリオ》は高速で斬り掛かる《ベフェーレン》の初太刀へ精緻なカウンターを合わせて斬撃で弾き、がら空きになった胴へと盾の一撃を叩き込む。
質量に勝る《ベフェーレン》はそこまで痛打されてもなお、《カスタリオ》を体当たりだけで押し潰そうとするかのように姿勢を制御して突進を継続する。
だが速度を落としたその一瞬に、《カスタリオ》は《ベフェーレン》へ組み付いていた。腰を落とし、武装したままの両腕でがっちりと抱え込む。
砂礫の噴煙が爆ぜ散るように廃墟へ溢れた。
崩れかけの廃ビルを背にした《カスタリオ》は、後足と背中を壁にめり込ませながら突進する敵機の勢いを凌ぎきり、ついには《ベフェーレン》の慣性すべてを殺して止めた。
航空機型のままでまともに足を止められた《ベフェーレン》は、それでも人型へ変形し、曲刀を振りかざして状況の打開を図ろうと足掻く。
だが最初の激突で大きく減らしたライフゲージは《カスタリオ》の熾烈な追撃を浴びて、危険域へと急激に滑り落ちていく。もう二割も残っていない。
流れは完全に晴道へ傾いていた。立て直させない。畳みかけるだけだ。
勝てる――あと三秒もかからない!
その直感と同時に、怖気を震うプレッシャーを少女自身から感じて、晴道は戦慄した。
今や《ベフェーレン》は瀕死で、晴道の勝利は眼前にある。
だがもう一つの勝負、サッカーで晴道を完全に圧倒する少女が、こちらで反撃を仕掛けてこないはずがないのだった。
大鉈にも似た《カスタリオ》の剣で叩かれ続ける《ベフェーレン》になお反撃させながら迫る少女へ、晴道は吐き出すように気合いを吠えた。
「おらよ!」
「!」
晴道は明後日の方角へ、力の限りにサッカーボールを蹴飛ばしていた。
もはや場外へ飛び出て仕切り直しになろうが、ガラス窓にぶち当たって叩き割ろうが知ったことではない。
ただ、これで少女がボールをリカバーするか無視するかの間にGPGへ集中し、《カスタリオ》が《ベフェーレン》を打ちのめして一気に撃墜するための、ほんのわずかな時間が稼げさえすればそれで良かった。
完全にサッカーを捨てた晴道が、そのまま《ベフェーレン》へ止めを刺そうと画面を睨みつけたとき。
「――?」
一陣の風が真横を吹き抜け、そして頭上に影が生じて光を遮る。
《カスタリオ》へ半ば無意識のうちに勝利への連続攻撃操作を叩き込みながら、晴道は、それを、見た。
跳んでいた、少女が――体育館の空中へ、ボールを捉えに。
彼女はボールに追いついていた。
二人の上背よりも高い空中で回転する少女の蹴り足が、臑の芯でまともにボールを当てる。
きれいに中央を潰されて左右対称にひしゃげるボール、空中で躍動するしなやかな四肢と舞い散る黒髪、翻るスカート、シャツをひときわ大きく押し上げながらたわむ胸の膨らみ。
そして、それでも空で逆さにGPGを握ったままの少女の瞳は、ボールの行き先でも手元の画面でもなく、ただ、晴道の瞳だけを見返していた。
笑っていた。
ほぼ直線の逆落としで走ったサッカーボールはネットの上部へ直撃、金属パイプの枠ごと一気に宙へ吹き飛ばして三メートルは向こうへ跳んだ。
独楽のように回った少女がGPGを握ったまま、体操選手の鮮やかさで床へ着地する。
体育館シューズがふたつきれいに鳴り響き、暴れて弾む胸の膨らみがホイッスルを打ち上げると、そのままくわえて吹き鳴らす。
《カスタリオ》に撃破された《ベフェーレン》が吹き飛んで爆発、『Player 1 Win!!』の表示とファンファーレが流れ出てきたのは、それらすべてが終わったあとのことだった。
「危ない、危ない。やるね、尾崎君。ついちょっと本気出しちゃったよ」
「…………、本気……、だぁ……?」
少年の額を流れ落ちていく汗は、ただ少女との攻防戦だけで浮かんだものではなかった。スコアボードを2-0にめくりながら少女は言う。
「いやあ。びっくりしちゃったからつい、ね。尾崎君も思いきったことするなあ」
「はっ……。ああいうの、実は来栖さんの『ラゲリオン・サッカー』じゃ禁じ手だったってか?」
「いいや? 別に、あれが禁じ手だったってわけじゃないよ。ああいうのはルールの範囲内で、どんどん試してもらってオッケ。
でも、なんだったっけ、さっき尾崎君が、さっき自分で言ってたの――ああ。
『ゲーマー相手に二度目の初見殺しは通用しない』だっけ? あれ、私にも言わせてほしいなぁ。
『来栖貴子相手に二度目の初見殺しは通用しない』」
「…………」
「尾崎君、次はもうちょっとマシな攻略法を考えてね。アレじゃあ私は倒せないよ」
押し黙る晴道の足下へ、貴子はボールを転がして寄越した。
体育館の窓から注ぐ光を背中に浴びて、光の粒子と陰影を同時にまといながら、痛GPGを手に少女はささやく。
「さ、尾崎君。続きをやろうよ――清く正しく、正々堂々と、ね」
「尾崎くん。君、サッカーは好きかな?」
「……え? いや、……別に……」
「面白いよね、サッカー。運動量多いし、ゲームのテンポも早いし。キーパー以外、基本的に手とか使えないし。でね、私、思ったんだけど――」
なぜ持っていたのかもよく分からない鍵で体育館の扉を開き、下駄箱から持ってきた体育館シューズへ足全体を押し込むと、無人の館内すべてを輝かせるような笑顔で少女は言った。
「サッカーしながら空いた両手でゲームも出来たら、もっと最高に面白いよね!」
「…………、は……?」
相手が何を言っているのか分からない。
思考と表情を完全に停止させた晴道の前で、来栖貴子は制服姿のまま両足に体育館シューズを整える。照明も落ちたまま無人の体育館へ勝手に上がり込み、奥の倉庫に消えていく。
そして引っ張り出してきたのは、車輪付きのスコアボードと、腰までの高さの直立式の足付き網が一対、それに少女に蹴られて転がってくるサッカーボールが一個。
紺のニーソックスにスカートの姿でドリブルしてきたサッカーボールを、バスケットボール用のセンターサークルで貴子は止めた。
思考停止したままの少年をよそに、少女はバスケットボールコートの両端に一対の網を、そして中央脇にスコアボードを据えていく。
「いい? この網がゴールね」
「? ゴール??」
何の?
目の前に広がる舞台と並んでいく道具から、既に答えは類推しながらも、晴道の理性は頑なにそれを許容することを拒否している。
この女はいったい、今からここで何を始めようとしているのか?
「このセンターサークルでキックオフ。フィールドの縁はそこの、青と緑のテープの線ね。ゴールは、この網の……外枠に弾かれたのはアウトってことで、網の部分に当たったのだけを得点扱いすることにしようか」
一人てきぱきと話を進めていく少女の前で、一瞬ふっと気を遠くしかけた少年が、何とか踏みとどまって小さく挙手した。
「え、……ええ、と……。……質問……いいか……?」
「ええ、もちろん。何かな、尾崎君? 疑問があれば何でもどうぞ」
「あの、あんた……その、来栖さん、さ……あんた、俺を、ここまで……一対一で、俺と、サッカーやるために……連れてきたの?」
「いいや?」
頭を押さえながら苦渋とともに問いかける少年に、違うよ? とでも言いたげに頭を振り、少女は小首を傾げる。そして例の萌え萌え美少女アニメキャラに覆い尽くされた、痛GPGをひらひらと振ってみせた。
「まさかあ。わざわざ尾崎くんを誘っておいて、そんな単なる普通のサッカーなんかはやらないよ。私はここで君と、『ラゲリオン・サッカー』をやりたいんだな」
「……ら、……『ラゲリオン・サッカー』……?」
「そう!」
頬を不穏にひくつかせる少年に言いながら、少女は両手にGPGを構える。同時に足をサッカーボールに乗せると、一気に後ろへスピンさせて宙空へ巻き上げた。
そのままニーソックスを履いた膝で、スカートを跳ね上げながらリフティングを始める。
「手元のGPGで『神速機動ラゲリオン』を対戦プレイしながら同時に、生身のプレイヤー同士が空いた両足でサッカーを楽しむ。
新進気鋭の携帯機用対戦格闘ゲームと、世界的な大人気を誇る伝統球技のまったく新しい融合――これぞ名付けて『ラゲリオン・サッカー』。楽しさ二乗で夢が広がる!」
晴道は切れた。
「何でも混ぜりゃいいってもんじゃねえぞッ!! いいかオイあんたが今やろうとしてんのはな、スプーンの反対側にフォークどころか電子レンジを付けましょうってレベルの暴挙だ!!」
「でも、面白そうでしょ?」
「んなわけねえだろ! そもそもなんで同時プレイなんだよ!? せめて最低限交互にしろや!! チェスボクシングだってそうやってる!!」
「いや、そうかな? 過去の人類ゲーム史上に例を見ない、若い柔軟な発想が産んだ奇跡の最高傑作だと思うけど?」
「そりゃ堅い発想で例を見ないんじゃなくて単にあまりに確実な失敗が見えすぎてて、この地球上じゃあ誰一人としてやらねえだけだ!!」
「むっ、……不評……?」
「いやちょっと待てオイ! むしろ今の話して好評だった奴とかいんのか!? いねえよな! いなかったよな!?」
懇願するように念を押す少年を前に、少女は唸りながら中空へサッカーボールを跳ね上げ、額の上で転がしはじめた。難しい顔で天井だけを見上げている。
「ううむ……」
「正気かあんた!?」
ボールと額に磁石を仕込んででもいるかのように、転がりながらも落ちる気配は微塵も見せない。言っていることはどうしようもなく破綻しているが、こちらは相当なバランス感覚だ。
「――本当に何なんだよ、あんた……」
少女の持つあらゆる部分の極端さに呆れ果てながら眺める少年へ、貴子は額へボールを載せたまま視線を流した。
「うーん。今回はちょっとやる気なさそうだね、尾崎君?」
「当たり前だ。てか普通、これでやる気になる奴とかいんのか? 常軌を逸してクソゲー過ぎんだろ」
脱力しきって冷たく言い放つ晴道に、少女は少し不思議そうに目を細めた。
「クソゲーって……? まあいいや。それじゃあ、尾崎君がやる気になってくれるような素敵な賞品さえあれば、そんなクソゲー? でもやる気になってくれるかな?」
「賞品?」
「そう。ゲームには賞品が付き物でしょう? だから尾崎君がこのゲームで私に勝てたら、素敵な賞品を差し上げようというわけですよ。尾崎君が今、いちばん欲しがりそうなものをね」
「……なんだよ」
「そうだね、こういうのはどうかな。尾崎君が私のことを、どんなことでもひとつだけ知れる権利――なんてのは、欲しくならない?」
「…………」
「本当に何でもいいよ? 誕生日とか携帯電話の番号とかメアドとか、それにこの前の試験の成績とか、私の3サイズでも男性遍歴でも、何でもね」
「へえ。何でも知れる、ねえ――それじゃあ今ここで、来栖さんの生まれたままの姿が知りたい、なんてのもアリなわけだ?」
さすがに引っぱたかれるのも覚悟で晴道は軽口を投げたが、ボールを自在に弄ぶ少女は笑みを深めるだけだった。
「ん、私は別にいいよ。そういうのもアリだね。せっかく人のいない体育館を使ってるわけだし、私の身体について、いろいろとじっくり教えてあげましょう。
それで尾崎君が自分の寂しさを慰める以外にも、何かいいことがあるのなら構わないんじゃないかな?」
「…………」
動じないか。
半身で見据えたままの少年に、少女は薄い微笑みを崩さず横目で言う。
「だけどまあ、私の見るところ。尾崎君が本当に知りたそうなことは、私の裸以外にいろいろありそうだからね」
生き物のように転げ回ろうとするサッカーボールを器用に額で留めながら、少女の流し目が少年をなめる。
「よっ、と」
その美貌を卑怯と思う晴道をよそに、貴子はボールを鼻梁に伝わせて爪先へ落とし、軽く空中へ跳ね上げた。
「よし。じゃあ十回やろう」
「……じゅっ、……十回ぃ?」
思わず頓狂な声を上げる晴道に、貴子はリフティングしながら何の迷いも無く頷いた。
「うん、十回勝負。どちらかが先にサッカーで点を入れるか、もしくはラゲリオンで勝つか、までが一勝負。
サッカーの方はハンドなんかの反則でもすぐに得点扱い、ボールがラインを越えたら『ラゲリオン』もその間はポーズ掛けて停止。
それで決着が付いたら一勝負ごとに、サッカーもラゲリオンも毎回一から仕切り直しね。
そんな風にラゲリオンサッカーを十回やって、私がその十回に全部勝てたら私の勝ち。でも十回終わるまでにそのうち一回でも尾崎君が勝てたら、総合勝利は君のものです。どう?」
「!」
蠱惑的な、そして同時にひどく挑発的にも見える少女の笑みに、晴道は鋭く刺すような視線で応えた。少女はまるで怯みもせずに口許を緩める。
「まあ、なんだ……来栖さん謹製クソゲーと、賞品の内容は置いとくとして、だ。十対一でいいってか……? ずいぶんと舐められたもんだな」
「そんなことないよ? 尾崎君が最初の一回で勝てば、私はもうぐうの音も出ないんだからさ。だからここは一つ、このふざけた女をぎゃふんと言わせてみちゃってよ、尾崎君」
「…………」
睨みつけながらのその沈黙を、都合良く無言の同意と解釈したか、少女は手元の痛GPGに再起動をかけた。
スリープしていたGPGが『神速機動ラゲリオン』を前回の決着直後からレジュームし、次の対戦の設定画面に移っていく。
「今回も尾崎君は《カスタリオ》でよろしくね。私は今回、んー、そうだなー……よし、《ベフェーレン》で行ってみるかな!」
やはり一方的に機種選択を決定して、少女は勝手に設定画面を先へ進める。晴道はため息混じりに従った。
《ベフェーレン》はストーリーモードでは主人公のライバルキャラが駆る、ワンオフ仕様の可変高速機だった。
人型時には地上を素早く駆け回り、鋭角三角形にも似た航空機型に変形すれば空を自在に飛び回る。
そしてすれ違いざまに、二本差しの鋭利な曲刀で敵機を撫で斬っていくのが基本戦術である。
その加速力と機動性はゲーム中でも随一だ。いずれにせよ小回りは利かないが、一撃離脱で大きな威力を発揮する機種だった。
とはいえ《ラゲリオン・ディーヴァ》のようにすべての面において桁違いの高性能を誇るわけではなく、特に装甲防御は脆い。捉えることさえ出来れば《カスタリオ》の武装であっても十分に撃破は可能だ。
だが一歩でもゲームの展開を読み違えれば、瞬時にライフゲージのすべてを刈り取られてゲームオーバーを迎えることになるだろう。
何にせよ、《カスタリオ》で渡り合うには厳しい相手だ――もっともそれは『神速機動ラゲリオン』に登場する、ほぼすべての機種がそうなのだが。
「ところでさ、来栖さん」
「何かな、尾崎君?」
「来栖さんが賭ける賞品は、さっき言ってたのでいいとして、だ。俺の方は、何を賭ければいいんだ。
来栖さんにだけ賭けさせておいて俺には何も賭けるものがないっていうのは、そいつはフェアじゃない」
「あれ、そうなの? 尾崎君はもうとっくにもう、自分の一番大事なものを賭けてると思ってたけどな」
「――?」
少女の返しに意表を突かれる晴道をよそに、貴子はしごく自然な風に告げた。
「この『ゲーム』の結果それ自体が、尾崎君にとってはそのまますべてを賭けるに値するものだと私は思ってたんだけど。ひょっとして、そうじゃなかったのかな?」
存在自体が丸ごと冗談のような少女が、その一瞬だけは瞳の邪気を消して、真摯な光で晴道に淡々と問いかける。
「尾崎君のゲーマーとしてのプライドは、曲がりなりにも『神速機動ラゲリオン』で素人に毛が生えた程度の女子と戦って負けて、そのまま傷つかずにいられるぐらいの安物なのかな。私は、そうじゃないと思ってた」
「……俺は――」
何か言おうとした晴道を制するように、少女はすっと伸ばした右手の先で人差し指を立てていた。
「本当の答えを知っているのは、『本当の』尾崎君だけだと思うね――ステージ設定は曇天、夜、廃墟。最初のボールは尾崎君からどうぞ」
キュッ、とゴムグリップの利いた体育館シューズが光沢のある床を磨く。彼女にパスされて転がってきたサッカーボールを、晴道はGPGを手にトラップした。
「しかし、まあ……来栖さん、なんというか、それ……」
改めて見てみると、やっぱりすごい格好だな。
夏制服に濃紺のニーソックスを履いた少女は両手にGPGをしっかりと握りこみ、そして口にはどこから持ってきたのか、首掛け式のホイッスルまでくわえている。
どうやら審判も兼ねる気らしい。大したやる気と言うほかなかった。
「ひはひはひひ!」
「はいはい、試合開始ね」
宣言するや、少女は体育館にホイッスルを吹き鳴らして重心を落とす。気合いは十分。
そんな彼女を前に、しかし晴道は右足でボールを適当に押さえたまま、ただGPGだけをしっかりと構えるばかりだった。
晴道とて、サッカーにまったく自信がないわけではない。むしろ運動能力全般には相応の自負がある。
いかに貴子が巧みな技術を備えているとしても、女子を相手にそうそう遅れを取ることもないだろう。
そうは言ってもGPGでの『ラゲリオン』と一対一の変則サッカーを同時にやる、などという無茶苦茶なゲームだ。ましてぶっつけ本番では、戦術の立てようもない。
まずは足下のボールはこのままキープし、サッカーの方では守りに徹する。彼女に隙があるようならゴールを目指してもいいかもしれないが、ゲーム全体での攻撃の主力はあくまでも『ラゲリオン』だ。
馬鹿げたクソゲーは速攻で終わらせるに限る。
相手は装甲の弱い高速特化型の《ベフェーレン》。逃げに徹されれば面倒だが、今回の戦場となる『廃墟』の空間には地上にビルが建て込んでおり、直線的に機動できる範囲は限定されている。
いつまでも直進を続けるわけにも行かず、しかもお互いにサッカーの片手間プレイになってしまう以上、小回りの利かない《ベフェーレン》を地に足を着けながら潜む《カスタリオ》が捉えられるチャンスは、決して少なくないだろう。
互いにデタラメ操作を余儀なくされる泥仕合なら、『ラゲリオン』の場数を踏んだ晴道が圧倒的に有利。
少なくとも先刻の、《ラゲリオン・ディーヴァ》相手の真剣勝負よりはずっと簡単に勝てるはず――
「……あれっ!?」
足下にキープしていたはずのボールの感触がなくなり、晴道は危うくバランスを崩しそうになる。慌てて体勢を整えるのと、サッカーボールが背後でネットに突き刺さるのがほとんど同時の出来事だった。
「はい。第一セットは私の勝ちね」
「? ――!?」
相手を見失った晴道に、その声は背後から聞こえてきた。
やっと視野に《ベフェーレン》が入ってくるところだった『ラゲリオン』にポーズを掛け、そのままメニューから対戦中止を選択して設定画面まで戻しながら、少女はスコアボードをめくった。1ー0。
「…………?」
何が起こったのか、まったく分からない。
ボールを回収してセンターサークルまで戻してくる少女の動作を、少年はただ呆然と見送っていた。
「はい??」
確かなことは、たったひとつ。
晴道がGPGの画面を覗き込んで『ラゲリオン』での勝利を目指して集中していた間に、貴子は晴道が認識する間もないほどの早業でボールを奪い取り、ゴールに叩き込んだということだけだった。
「よし。第二セット行ってみようか。ねえ、尾崎くん――そんな風にボーッとしてると、また何にも出来ずに終わっちゃうよ?」
「お、……おう」
引き攣った笑みを漏らしながら、晴道は置かれた現状を分析する。
『ラゲリオン』に集中していた晴道が何か意味のある行動を起こす前に、貴子はサッカーの方だけへ集中してお留守のボールを奪い取り、瞬時に勝負を決めてしまった。
それだけのことだ。それだけのことだが、当初の作戦は変更せざるを得ないようだ。少なくとも彼女には、それだけの行動をたやすく終えられるだけの能力があるのだから。
大した腕だ。わざわざ自分から言い出すだけのことはあって、どうやら彼女のサッカー技術は相当の域に達しているらしい。それこそ、並みの男子では到底、相手にさえもならないほどに。
「まあ、サッカーの方はなかなかやるようだが……次も今の奇襲が通用するとは考えない方がいい。ゲーマー相手に二度目の初見殺しは――」
「尾崎君、能書きはいいから。さっ、二本目開始!」
「…………」
GPGを握り込んだまま笛をくわえ、貴子がまたホイッスルを吹き鳴らす。
晴道は今度は上体の重心を落とし、足下のサッカーボールをしっかり押さえ込みながらも、今度は少女の動きを中心に視線を据えた。
一瞬ちらと画面へ視線を落とせば、上空深奥に銀翼の煌めきが目に入る。そのまま逆落としに突進してくる豆粒のような《ベフェーレン》の輪郭が見えたと思う間もなく、少女はGPGを操作しながら猛然とボールを奪いにダッシュしてきていた。
同じ手を二度食うものかよ――晴道は《カスタリオ》に迎撃の位置と構えを取らせつつ、遙か鈍色の空から降り注ぐ牽制の射弾を最小の動きで回避する。その間に晴道の視線は忙しなく、GPGを二分、前方を八分と往復している。
《カスタリオ》まで一呼吸の距離に接近した《ベフェーレン》が航空機型から人型へ変形するのと、目前に迫った少女が現実世界でサッカーボールを取りに来るのはほぼ同時だった。
――マジか。
注視していて初めて分かった。彼女の脚力は尋常ではない。ほとんどGPGだけしか見ていなかった初回に瞬殺されたのは、当然すぎるほど当然だった。
十メートル以上の距離を瞬時にゼロまで詰める、一般女子とは到底思えない加速に晴道は舌を巻く。
踏み込みとともに閃く体育館シューズとニーソックスの脚が、抜きざまに鞘走る《ベフェーレン》の曲刀が仮想と現実、両面の世界で晴道を襲う。
「くっ……!」
晴道はそれでも必死に左足を繰り出し、獣の躍動じみた鋭さの足さばきとの間に割り入れた。《カスタリオ》の剣と《ベフェーレン》の曲刀が火花を散らして弾き合う。
ボールを狙う少女の足はさながら、次々としなり飛ぶ竹束にも似たしなやかな速さと強さ、そして手数で襲い来る。それでも晴道は紙一重で、かろうじてボールのキープに成功していた。
そしてその攻防の間にも、『ラゲリオン』の中で戦闘は進行している。
出会い頭の一瞬に《カスタリオ》と数合を切り結んで離れた《ベフェーレン》は再び航空機型に変じ、機体後方に集中したノズル群から盛大な噴焔を吐いて廃墟の上空へ駆け上がっていく。
その鋭角三角形のシルエットを追うように晴道の《カスタリオ》は胸部内蔵機関砲を放つが、火線は《ベフェーレン》に追いつくことすらままならず、空しく弾道を散らすばかりだった。狙いきれていない。
「聖徳太子じゃねえんだからよ……!」
少女に対するサッカーでのボールキープとGPGでの『ラゲリオン』の同時並行、それら両面への集中は晴道へ、まさに電子レンジ付きのフォークで食事するような負担を強いていた。
《カスタリオ》の動きは明らかに精彩を欠いていたが、それでもこの状況で『ラゲリオン』の操作が一通り出来ていること自体が、晴道の並外れた技術の証明になってもいる。
だというのに《ベフェーレン》を操る少女の操作は少しばかりも陰ることがなく、あわやというところまで晴道を追いつめた《ラゲリオン・ディーヴァ》でのそれと遜色ない冴えを見せていた。
そしてサッカーの方はといえば、なぜ晴道が今までボールを奪われずにいるのかが分からないほどの、巨大な格差を見せつけているのだ。少女はあまりにも速すぎ、そして、鋭すぎる。
晴道は紛れもなく、虚実両面の戦場で劣勢に立たされていた。
本当に何なんだ、こいつ――この動き、いったい何をどうやってやがるんだ?
サッカーと『ラゲリオン』とを切り替えるわずかな合間に少女の顔を睨みつければ、少女の方はすっかりGPGの方だけに視線を下ろして没頭したままで、五体を駆使する苛烈な攻撃サッカーを展開していた。
人型のまま機体各部のスラスターを全開で噴かす《ベフェーレン》がトリッキーな機動に乗せて左右の曲刀を振りかざし、至近距離から《カスタリオ》と切り結ぶ。
「あ痛っ……!?」
晴道は最初の数合を無難に切り抜けたが、途中から迎撃が追いつかなくなりはじめた。GPGの筺体が震えて《カスタリオ》のダメージを晴道に教える。
体捌きに追われてGPGの画面を注視しきれず、細かな動きに対応しきれない晴道と《カスタリオ》をあざ笑うように、《ベフェーレン》の斬撃が次第に機体を捉えはじめる。
こんな状況下でも、単にボタン一つで繰り出せるデフォルトそのままのパターン動作への対処なら、身体に深く叩き込まれている。画面を見続けていなくても、かなりの程度まで対処できるはずだ。
晴道にはその自信があった。だが少女はその晴道の自信を越えて《カスタリオ》に打撃を与えはじめている。
――なんだ? こいつ……!
あり得ないはずの推移を辿る戦況に戸惑い、晴道は思わずサッカーでの猛攻へ備える視線を、いつもより長くGPGの画面へ留めた。
そして、気づいた。
《ベフェーレン》の二刀を操る操作には、ボタン一つで繰り出せるシステム任せのパターン動作にはまりきらない何かが――精密に、そして執拗に敵機を狙うプレイヤーの意志が宿っていることに。
マニュアル操作だとでも言うのか。この状況で?
少女は明らかに、今この瞬間も先刻同様の全力をもって、『神速機動ラゲリオン』をプレイしていた。
そしてその間にも貴子は、晴道を休む間もなく追いつめる攻撃サッカーを展開している。
迫る少女の脚からボールを、《ベフェーレン》の剣舞から《カスタリオ》を守りながら、少年は息を切らせて少女を見た。ボールを狙って躍動する脚でも、ぶつかりあいそうな肩でもなく、彼女の顔を――その眼差しを確かめる。
少女はただ、GPGの画面だけを凝視していた。
晴道が必死に脚を繰り出し、身体を回して守ろうとするボールや晴道自身の動きなど、貴子は端から見向きもしていなかった。その状態で少女は少年を追いつめ、そして《ベフェーレン》にも《カスタリオ》を圧倒させていた。
――まさか。
冷たい感触が背筋を撫でる。疑念が確信へ変じていく。
まさか、こいつ、ボールを――いや。
GPG以外、何も見ていないのか?
いったい如何なる技術を用いて、彼女がそれを可能にしているのかは分からない。
だが現に彼女はサッカーの方へ一切の注意を払うことなく、GPGだけへ集中して《ベフェーレン》の操作に全力を投入したまま、晴道を追いつめる熾烈な攻撃サッカーを展開しているのだ。
――化け物め。
呑んだ言葉が臓腑の上を滑り落ちる。
この場に留まってもボールは守りきれないと判断し、晴道は破れかぶれで奪われかけたボールを後ろへ転がして下がった。
少女との間に無理矢理に身体を割り入れ、彼女に対する数少ない優位点の一つである体格差で、一瞬だけの壁を作る。
と、そのタイミングで、いったん距離を開いていた《ベフェーレン》が航空機型のまま急加速し、《カスタリオ》へ突進してきた。
――ここだ。
電撃のように直感が閃く。
これこそまさに、晴道が待ち続けていた好機だった。
今の晴道には一瞬だけの、サッカーではなくGPGへ全力を注げる余裕があった。
《カスタリオ》は高速で斬り掛かる《ベフェーレン》の初太刀へ精緻なカウンターを合わせて斬撃で弾き、がら空きになった胴へと盾の一撃を叩き込む。
質量に勝る《ベフェーレン》はそこまで痛打されてもなお、《カスタリオ》を体当たりだけで押し潰そうとするかのように姿勢を制御して突進を継続する。
だが速度を落としたその一瞬に、《カスタリオ》は《ベフェーレン》へ組み付いていた。腰を落とし、武装したままの両腕でがっちりと抱え込む。
砂礫の噴煙が爆ぜ散るように廃墟へ溢れた。
崩れかけの廃ビルを背にした《カスタリオ》は、後足と背中を壁にめり込ませながら突進する敵機の勢いを凌ぎきり、ついには《ベフェーレン》の慣性すべてを殺して止めた。
航空機型のままでまともに足を止められた《ベフェーレン》は、それでも人型へ変形し、曲刀を振りかざして状況の打開を図ろうと足掻く。
だが最初の激突で大きく減らしたライフゲージは《カスタリオ》の熾烈な追撃を浴びて、危険域へと急激に滑り落ちていく。もう二割も残っていない。
流れは完全に晴道へ傾いていた。立て直させない。畳みかけるだけだ。
勝てる――あと三秒もかからない!
その直感と同時に、怖気を震うプレッシャーを少女自身から感じて、晴道は戦慄した。
今や《ベフェーレン》は瀕死で、晴道の勝利は眼前にある。
だがもう一つの勝負、サッカーで晴道を完全に圧倒する少女が、こちらで反撃を仕掛けてこないはずがないのだった。
大鉈にも似た《カスタリオ》の剣で叩かれ続ける《ベフェーレン》になお反撃させながら迫る少女へ、晴道は吐き出すように気合いを吠えた。
「おらよ!」
「!」
晴道は明後日の方角へ、力の限りにサッカーボールを蹴飛ばしていた。
もはや場外へ飛び出て仕切り直しになろうが、ガラス窓にぶち当たって叩き割ろうが知ったことではない。
ただ、これで少女がボールをリカバーするか無視するかの間にGPGへ集中し、《カスタリオ》が《ベフェーレン》を打ちのめして一気に撃墜するための、ほんのわずかな時間が稼げさえすればそれで良かった。
完全にサッカーを捨てた晴道が、そのまま《ベフェーレン》へ止めを刺そうと画面を睨みつけたとき。
「――?」
一陣の風が真横を吹き抜け、そして頭上に影が生じて光を遮る。
《カスタリオ》へ半ば無意識のうちに勝利への連続攻撃操作を叩き込みながら、晴道は、それを、見た。
跳んでいた、少女が――体育館の空中へ、ボールを捉えに。
彼女はボールに追いついていた。
二人の上背よりも高い空中で回転する少女の蹴り足が、臑の芯でまともにボールを当てる。
きれいに中央を潰されて左右対称にひしゃげるボール、空中で躍動するしなやかな四肢と舞い散る黒髪、翻るスカート、シャツをひときわ大きく押し上げながらたわむ胸の膨らみ。
そして、それでも空で逆さにGPGを握ったままの少女の瞳は、ボールの行き先でも手元の画面でもなく、ただ、晴道の瞳だけを見返していた。
笑っていた。
ほぼ直線の逆落としで走ったサッカーボールはネットの上部へ直撃、金属パイプの枠ごと一気に宙へ吹き飛ばして三メートルは向こうへ跳んだ。
独楽のように回った少女がGPGを握ったまま、体操選手の鮮やかさで床へ着地する。
体育館シューズがふたつきれいに鳴り響き、暴れて弾む胸の膨らみがホイッスルを打ち上げると、そのままくわえて吹き鳴らす。
《カスタリオ》に撃破された《ベフェーレン》が吹き飛んで爆発、『Player 1 Win!!』の表示とファンファーレが流れ出てきたのは、それらすべてが終わったあとのことだった。
「危ない、危ない。やるね、尾崎君。ついちょっと本気出しちゃったよ」
「…………、本気……、だぁ……?」
少年の額を流れ落ちていく汗は、ただ少女との攻防戦だけで浮かんだものではなかった。スコアボードを2-0にめくりながら少女は言う。
「いやあ。びっくりしちゃったからつい、ね。尾崎君も思いきったことするなあ」
「はっ……。ああいうの、実は来栖さんの『ラゲリオン・サッカー』じゃ禁じ手だったってか?」
「いいや? 別に、あれが禁じ手だったってわけじゃないよ。ああいうのはルールの範囲内で、どんどん試してもらってオッケ。
でも、なんだったっけ、さっき尾崎君が、さっき自分で言ってたの――ああ。
『ゲーマー相手に二度目の初見殺しは通用しない』だっけ? あれ、私にも言わせてほしいなぁ。
『来栖貴子相手に二度目の初見殺しは通用しない』」
「…………」
「尾崎君、次はもうちょっとマシな攻略法を考えてね。アレじゃあ私は倒せないよ」
押し黙る晴道の足下へ、貴子はボールを転がして寄越した。
体育館の窓から注ぐ光を背中に浴びて、光の粒子と陰影を同時にまといながら、痛GPGを手に少女はささやく。
「さ、尾崎君。続きをやろうよ――清く正しく、正々堂々と、ね」
-