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第一〇話「ネオ・バイラム」

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 宇宙から帰還したファルとマールはユニオンの国防ビルの特務室に呼ばれた。部屋の中は小奇麗であったが、
机の上には山のような書類が積んであり、恐らくそっと触れれば今にも中を舞うだろう。よく見てみるとほとん
どは報告書の類いだった。
 二人とも階級は違えども緑の軍服をきちんと着こなしていた。襟や袖と言ったところに皺らしい物は何一つ
無く、手袋からストッキングに至るまで念入りの準備をしていたことが分かった。
 無理も無い、二人の前にウィルスがいる。二人の女性を注意深く見つめると重い口を開いた。
「ミスリーア少尉、ラザフォード大佐。両人が呼ばれた理由は分かるかね?」
「いいえ?」
「残念ですが分かりません」
 あえて毅然に言い放つ二人。別に二人とも敵意を持っているわけではない、きちんと話す。それがユニオン
軍のルールであるからだ。だが、すこし気に触ったのか眉を軽く動かした。
「もう少し賢いと私は思っていたのだがねぇ?」
「どのような意味でしょうか?」
 含みのある言い方に対し、マールは決して退かなかった。平然とした態度でゆっくりと話した。
「ならば単刀直入に言おう、君たちはアレを見たのだね?」
「あれ? とは?」
「……バイラムだよ」
 ウィルスの言葉にファルは頷く。そんな彼女を見ながら懐のタバコに手を伸ばした。がマールの刺すかのよ
うな視線に思わず手を引っ込めた。
「ここは禁煙だったか?」
「いえ、しかしお吸いになるのならば換気扇をお使い下さい」
「分かった」
 机の上にあるスイッチに手を伸ばし、軽く叩くと天井についていたファンがゆっくりと動き出した。そして
再び懐のタバコを手に取ると口にくわえ、火をつけた。赤い火が付いたタバコの紫煙がファンの方へと昇っていく。
「それで、一体なんの用なのですか?」
「これから攻撃してもらいたい所がある」
「攻撃?」
 ウィルスの言葉にファルは思わず聞き返してしまった。攻撃という単語にかなりの意味を持っているだ。
「攻撃場所はここだ」
 壁についていたディスプレイに電源が入る。世界地図が映し出されると徐々に目的の場所へと寄って行く。
 そこにあったのは――。
「アトランティス?」
「海上自営都市じゃないですか」
 正式名称は海上自由自営都市国家。 通称、アトランティス。 スペインより西に位置し、丁度ユニオンと
ステイツの間を漂う人工都市であった。出来たのはおおよそ二百年前であり、サイエンスリミット計画によっ
て作られた。自営の文字が入っているのは自給自足を鉄則とするためである。しかし、ここが何故?
 そんな二人の疑問を答えるかのようにウィルスは軽く咳払いをした。
「君たちの目的は指定された建物をピンポイントで攻撃すること。くれぐれも民間人に攻撃をするなよ」
 ウィルスの命令に二人は言葉を濁した。
「了解ですが……」
「目的をはっきりさせていただかないと攻撃は出来ません。ユニオン軍規、第十三条、第五文。上官の命令が
不当であった場合、異議申し立て、及び作戦への不参加が認められる。お忘れでしたか?」
「確かにそうだな、しかし……軍人は任務を最優先すべきではないのかね?」
「場合によります、軍人は所詮皮でしかありません。殺戮の手を貸すのは殺人狂か何も考えない無能人です」
 冷静になマールに対し、ファルは攻撃を指示された場所を見る。ディスプレイに触れ、航空写真へと切り替
えた。一見すると何の変哲の無い建物だ。場所は無人の大型ビル。だが何かがおかしいと感じ取れた。
「あの、この建物の大きさは?」
「おおよそに三十平方メートル、高さ二十五メートル。建物自体は十年以上も前で立てた会社は既に倒産、
おまけに近隣住民からは破壊申請が来ている」
「では、近くに住民は居ない、と?」
「いや、ほんの数名が通り道にしている。くれぐれも隠密にな」
「では、最後の質問です。なぜ、建物を破壊するのですか?」
「それは……」
 ベラベラとおしゃべりをしていたのに急に口を閉ざし始めた。この建物になにか裏があることを教えている
ような物だ。とファルはそっと呟いた。その疑問をマールが組んでくれたのか、口に出してくれた。
「一兵卒に話すには成すことなど何も無い、と?」
「嫌、正直に言うと信じてもらえないだろう……があえて言わせてもらおうかね」
 口から紫煙が一気に噴出してきた。 
「ミスリーア少尉、君は男でも女でもない生物を見た事あるかね?」
 突然のウィルスの問いにファルは思わず押し黙った。逆にマールの方は皮肉めいた言葉で問いを返す。
「ウィルス司令、エスカルゴの畜産でもおやりになるおつもりなのですか?」
「とんでもない! だが、そのような生物が居たらどうする。という話だ」
そうはいうが――。
「……正直、信じられません」
「だろうな」
 タバコの炎はフィルターまで来るとポケットから袋型の携帯灰皿を取り出し、その中に放り込んだ。
「では、君たちがもっとも理解しやすい言葉で形作ってやろう。ここはバイラムを保有する秘密結社の秘密基地だ」
「バイラムの?」
 ウィルスの言葉に首を傾げてしまう。先ほど映し出された航空写真を見つめる。
 この建物にバイラムがしまわれているなんて毛頭思わない。
「そうだ、彼らの名前はアンゲロス、英語読みならアンギュロスだな」
「アンゲロス? 何なんですか?」
「ギリシャ語で天使、という意味ですね」
「そうだ。古来よりギリシャ神話の世界でも旧約聖書の世界でも出てきたアレだ」
「それが何か?」
「私達がこれから戦おうとしている相手はそういうものなのだ」
 ウィルスは二人に背を向けると懐に手をやるとそのまま持っていたまだ残っているタバコごと握りつぶした。
 一方の二人はお互いの顔を見合わせ、彼の言葉に対し頭を捻るしかなかった。

 所変わってステイルの西海岸に位置するフロリダ州ロチャ。
 北にあるワシントンは秋の模様を見せているが大陸の南に位置するここフロリダは未だに常夏の匂いを残していた。
 そして住宅街を二人組みの男性が歩いていた。藍色の背広と灰色の背広を着た彼らは緊張した面持ちで辺り
を見渡していた。町の人々から、路地の細道まで視線を送る徹底振りだった。そして、家の前まで来るとかな
り強めな調子で扉を叩く。
「はーい」
 甲高い声がドアの向こう側から聞こえてきた。扉を開けるとそこに居たのはセルであった。
「セル・オーランドだな? 我々と一緒に来てもらおう」
 彼女に手帳を見せ付ける。手帳はFBIの文字が書かれていた。しかし、彼女は身を固くすることなくとぼ
けた口調で切り替えしてくる。
「良いけど……仕度をするまで待ってくれない? すっぴんで行くのは気が引けるの」
 そう言って部屋の奥へと引っ込んでいった。男達は顔を見合わせると部屋の奥へと入って行く。

「隊長、本気ですか?」
 道路の脇に止めてある車の中からアルが呟いた。双眼鏡で何度もセルの家を観察していた。
 セルはFBIの男性たちにエスコートされる形で彼らとともに歩いていく。
「ああ、本気だ」
 ボルスの方は鞄の中から書類を取り出すと一通り観察し始めた。書類の中身はケントの司法解剖記録だ。
「ケントの胃から酒が検出されたのは知っているな?」
「ええ、知っています」
「かなり高価なバーボンだったらしい。しかもかなりの量だ。私は酒に詳しくないからなんとも言えんが少な
くともかなり貴重な品だったようだ、無理矢理飲ませられた形跡も無いから犯人は自動的に顔見知りというこ
とになる。」
「しかし、それが彼女であるという証拠は……」
 アルが言った通り彼女が犯人である証拠は何一つ無い。凶器の拳銃も見つかっておらず、手がかりもほとん
ど無い状態だ。深夜という時間帯のせいで当時、基地に残っていたものはおらず、居たのはケントだけであった。
「ふっ、私が一番怪しんでいるのは彼女の会社なのだがな」
「会社ですか?」
 そうって彼に資料を手渡した。書かれている事をゆっくり閲覧する。統合管理会社というわけの分からない
単語が書かれていた。社長をはじめオフィスの様子などが乗っている。
「ああ、正直言って何を作っているのかわからん」
「サービス業なのでは?」
 だが、ボルスはその言葉を真っ向から否定した。
「仮にもケントと同じ学部を卒業した人間がか? あそこを卒業するという事は自動的に工業系の会社に就職
するのが普通だ。それなのに何故管理会社に勤めるのだ? それに統合管理と書かれているな? 物品の管理
か? 建築物の管理か? 言葉の意味を考えるなら総合管理という言葉はあっても統合管理という言葉ないぞ」
 統合と総合はは違うものである。総合は寄せ集めなのに対し、統合は一つに統一するという意味合いがある。
 そのため、統合管理という言葉はあまりにもおかしいのだがアルは頭を抱えて左右に振るう。
「なんか、頭がごちゃごちゃしてきました……」
「そうだな、ではその答えを探す為に彼女に家に入るぞ」
 そんなアルに対し、ボルスは扉を開けて彼女の家へと向かう。
「不法侵入ではないですか!」
「そうだ、だが別に何かを盗むというわけではないぞ、ただ単に中を拝見させてもらおうというだけだ」
 そう言って辺りを見渡す。時間も丁度いいのか、辺りには人気が無い。車が時々走っているがあっという間
に去っていく。隣の家にも人影らしいものは何一つ見えなかった。
「近所の人に見つからないようにした方が良いですね」
「そうだな」
 二人は扉の前に来るとピッキングツールを鍵穴に差し込んだ。
 数十秒後に鍵は軽い音をたててあっさりと開いた。二人は再び辺りを見渡し、人影が無い事を確認する
と素早い動作で家の中に駆け込んだ。
 二人が入って最初に目にしたのは様々な色の壁であった。赤、青、黄、緑、紫、桃。
 そして、塗られた壁には国際色豊かな物が置いてあり、二人の顔を困惑一色へと変化させていく。
 パプアニューギニアで作られたと思われる仮面。
 東ヨーロッパで作られたキリストの十字台座。
 中国なのか日本なのか分からない謎のロボットプラモデル。
 ロシアの赤の広場を描いた風景画。
 アフリカで掘られたと思われる木彫りのライオン。
「隊長、彼女は何者なんでしょうか?」
 アルは白い手袋を身につけると辺りに視線を送らせる。ボルスの方は監視カメラを発見するセンドセンサー
ゴーグルで辺りを見渡す。そして部屋を一蹴するとゴーグルを外し、アルのほうへを向き直る。
「分からん、もしかしたら単なる旅行好きの女性かもしれないな……よし、早速、調査開始だ」
「了解です」
 ボルスとアルは部屋の中を物色し始めた。お土産の品と思われる宝石箱を手に取ったり、台の下に敷いてあ
る布を巻くったり、電灯の裏を探ってみたりしたが――。
「見つかりませんね、隊長……」
「そうだな、次はプライベートルームへ行くか?」
 ボルスの提案にアルは思わず戸惑いの表情を見せた。顔は少し赤くなり、目をあさっての方向へと向けている。
「い、行くって……やっぱり下着とか漁るんですか?
「別にしなくていい、意外なようだが下着にチップなどを縫いこむというのはお前が思っているほどデメリットがある」
 ボルスが言う通り、肌着などにチップなどの記憶媒体を組み込むとかなりの確立でエラーを引き起こすのだ。
 理由は簡単、肌着は汗を吸うことで中にあるチップをショートさせたり、もっとも肌に擦られる為、機械自
体が故障する原因になるのだ。そのため、多くのスパイはバックアップを取ったり、別の隠し場所に隠すことが多い。
 無論、月でケントが行ったように衣服に縫いこむ場合も外部の衝撃を配慮しなくてはいけない。
「そ、そうですよね」
「何だ、見たかったのか?」
「い、いえ! しかし、こんな事ならレイに頼むべきだったのでは?」
「いや、こういう事はするから彼女には向かないな。それに、彼女には別の仕事を任せてある」
「別の……ですか?」
「ああ」
 二人は階段をゆっくりとした歩調で昇っていく。極力、物音を立たせずにあたりに気を配った。
 時おり壁を触ってトラップなどが無い事を確かめるが普通の民家である以上、おかしな所は何一つ無かった。
 そして、階段を昇り切ると部屋の奥へを入っていく。
「ここが彼女の部屋か……」
 扉の向こう側は乱雑な部屋であった。衣服は脱ぎ散らかされ、床には無数の袋とビン。化粧台には無造作に
ファンデーションや口紅が転がっており、棚にはファイルや本がバラバラに並んでおり、
大きなデスクの上にはパソコンの電源が付いたままであった。
「酷いですね……」
「ああ」
 二人は呆れながら部屋の中を物色し始める。といっても部屋の片づけをするわけではなく、床や棚といった
所を手探りで探っていく。しかし、隠し扉や隠し金庫と言ったものは何一つ見つからなかった。
 棚のファイルも彼女が所属している管理会社の物ではあり、中身はコンクリートの総量や作られた物の耐久
テストの結果などあとさわりが無い物だった。
「何もありませんね……」
「そうだな」
 二人は顔を見合わせると同時に甲高い電子音が鳴り響いた。視線を電子音の方へと向けるとパソコンが動作をし始めた。
「な、なんだ!?」
「隊長、彼女のPCか……どうします?」
「どうするもこうするも無いだろう? 調べてみよう」
 二人はパソコンの前に来るとマウスを動かしてみた。スクリーンセーバーが消え去るとメールソフトが起動していた。
 新着のメールが一通届いている。
「電子メールですか?」
「早速読んでみるとしよう」
 ボルスは最新のメールを読んでみる。差出人の相手は――。
「アンゲロス? 何かのコードネームか?」
 そして、メールの中身は二人を戦慄させるのに十分の内容だった。

 アンゲロス工作員、コードネーム:セラ
 昨日の報告書にあったケント・ベルガンに対する処分は妥当であった反面、我々の存在を他に知
 らしめかねない結果となった。彼によって我々の技術が流出した以上、何らかの手段を講ずる事
 を申請した。その結果、新型機を派遣することに決定した。後日、受領するように。
 なお、アンゲロス上層部は次の人間の監視を決定することにした。
 ハワード・マッケンバウアー:国連大使。
 以前から政府による軍縮に反対をしている危険人物。彼の行動を関するように義務化。付近の情
 報員とコンタクトをし、情報交換をせよ。
 ウィルス・パーガン:国連軍事査問委員長兼元ユニオン軍元帥
 ここ最近やたらと政府の動向を探っているもよう、我々の存在を捕まれる前に抹殺せよ。
 ソウ・ヨウシン:重慶基地司令。
 タカ派の将軍。以前から新型PMの開発を要請している。軍費を使い込みをしているもよう。証
 拠を押さえ次第、殺処分せよ。
 なお、以前逃亡中のコードナンバー六六六はサウジアラビアに潜伏しているもよう。この報告書
 を受け取り次第、サウジアラビアへと向かい彼を抹殺せよ。

 蒼ざめた顔のままで二人は顔を離すとお互いに顔を見合わせた。
「隊長、これは一体なんなんですか?」
「分からん、だが……彼女を問いただすことになりそうだ……」
 二人は机から離れると一目散に彼女の家から飛び出していった。

 さらに所変わって中東、サウジアラビアの上空。雲と雲との合間に微かだが何かが飛んでいる。
 バイラムⅡであった。機体の青と空の青が混ざり合い雲のコントラストが美しい様相を表していた。
 コックピットに居るアジャムはペダルをさらに踏み込む。体に凄まじい重力がかかるが彼は気にせずペダル
を踏み続けた。ビリビリとした衝撃がスーツの上から伝わってきた。そしてバイラムⅡは雲を突き抜け、その
先にある蒼天へとその姿を現した。
「なるほど、こいつはいい!」
 グライドアなんか目じゃない。この加速力はまさに疾風。それだけじゃない、これからさらに速度が上げられる。
 その証拠に計器はまだ半分以下、しかもクラッチの数は一を示している。
 再び操縦桿を傾けて右へ左へと蛇行飛行を行う。雲に当たらないように気を使いながらゲームのように避けていく。
 地面が見え始めると持っていた槍を無人の建物に合わせ、ディスプレイに表示されている照準が緑から赤へと変わる。
 そしてトリガーを引くが、軽い音がしただけで何も起こらなかった。
「弾は入ってねぇ……か」
 正直言って拍子抜けだったが別にテスト飛行という名目がある以上仕方が無いことかもしない。
 気の抜けた顔をしているとカミーラがこちらに通信をしてきた。
「アジャム、そろそろ帰還を」
「へいよ」
 アジャムは操縦桿を傾け、バイラムをカミーラの家へ向くと思いきりペダルを踏んだ。
 背面に付けられたバーニアを光らせ、青の鬼が空を滑空しながら元の家へと帰ってく。

「いかがでしたか?」
 帰ってきたアジャムに対し、冷たいような、不安そうな声で聞いてきた。
「ああ、なかなかいい機体だな」
 コックピットから出るとカミーラの隣へと歩いていく、そしてバイラムⅡへ視線を送った。
 量産機とは違った感覚に少々戸惑ったもののかなりいい機体であることは理解できた。
 加速度、索敵能力、装甲。下手な量産機では太刀打ちは出来ないだろう。だが、唯一の心残り、いや欠点は
武装面だった。銃剣一体型の槍が一つのみなのだ。複数と戦う事を想定すればミサイルやアサルトライフルぐ
らいは欲しい。もっとも、これもバイラムである以上十分な破壊力を持っていることは十分分かっている。
「ありがとうございます」
 カミーラは頭を下げると再びバイラムⅡの方へと歩いていった。
「整備すんのか?」
「いえ、ちがいます。それにこの機体には整備は必要はありません」
「必要ない?」
 アジャムは呆気にとられた。いくらなんでも整備が不要という事は無いだろう。仮にもかなり複雑な機構を
持つバイラムⅡである。もし作るのなら数人の人手が必須のはずだ。整備をするにいたってもカミーラはその
様子はない。機械がやると言うわけでもない。
「おいおい、いくらバイラムでも動作不良を起こすんじゃねぇのか?」
「いえ、バイラムⅡは独自に整備を行うのです」
「何?」
 戸惑いの声をあげた瞬間、バイラムⅡから甲高い電子音が響き渡った。
 バイラムの方へ視線を送るとそこには整備を終えたランプが付いていた。
「マジかよ……」
「これ位普通ですよ」
 そうは言うがあまりにもでたらめ過ぎた。整備が不要の強力機体。まさに存在自体が反則だ。
 そして、カミーラがコックピットに座るとアジャムの頭におかしな疑問が浮んで来た。
「なあ、以前俺がやりあったバイラムも……」
「ええ、あれも整備は必要ありません。ただ隠れる場所があればいいだけです」
 カミーラの言葉に納得しかかった。それはつまり、海の底や高山地帯、廃墟や汚染された湖など無人地帯
のほとんどがバイラムの隠れ家も同意である。発見されなければバイラムはいつも完調なのだ。
「はぁ、お前さんが異星人だって事は十分理解できたよ。んで?」
 ため息を付きながらカミーラの方を見るアジャムに彼女は首をかしげる。
「んで、とは?」
「簡単な話だろうが、お前の目的だよ」
「私の目的……」
 突然押し黙ってしまった。何か言いたくないことでもあるのか彼女はじっとアジャムの方を見つめていた。
「……じっと見るって事は隠し事か?」
「かも知れませんね」
 カミーラはコックピットの方に視線を送る。備え付けられたキーボードを叩き、レーダーを見つめる。
 すると、高い電子音が響いた。
「なんだ?」
「敵が来たようです」
「敵だぁ?」
 二人は地下の階段を昇っていくと三機の巨人、PMが空から降りてきた。ジェットのような何かが燃える音
を響かせて大地へと着地すると辺りを見渡し始めた。
「何だよ、あれ?」 
 赤いPMだった。顔の真ん中に緑のカメラアイ。左耳にセンサーが付いており、腹部の所には菱形が付いて
いる。手には六角棒を思わせるものを握っており、背中には飛行用と思われるジェット機用の翼が付いていた。
 ステイツでもAUAでもユニオンでも見たことが無い。どこの国のだ?
 そう思った矢先、彼らは無差別に棍棒を振るい始めた。元々無人の街であったが破壊されたビルがさらに破
壊され土煙とともに平地になっていく。建物叩き壊し、止まっている廃棄車をゴルフのように打ち上げたり、
ガスタンクをけりと罵詈タリとやりたい放題だ。
「あれは一体なんなんだ?」
 傍若無人さに笑みを溢しながら自体を見つめているアジャムに対し、カミーラは悲痛な顔で小さく呟いた。
「デライト……ついに私の居場所を突き止めたのですか……」
「デライト? あの機体の名前か?」
「はい、性能はバイラムとほぼ同じです」
「バイラムと……ねぇ」
 ふとカミーラの方に視線を送った後、再び赤い機体こと、デライトに視線を送る。彼らは一心不乱に建物を
壊し、土地を更地にしていく。地面が露出するまでたたき続ける様はまるで破壊衝動に身を任せているようだった。
 ここから少し距離があるとはいえそろそろ逃げた方が良さそうだ。
「おい、どうすんだ?」
 アジャムの問いかけに彼女は悲痛な顔で呟いた。
「ここに残ります、私はまだ答えを見つけてません……」
「答えだぁ?」
「はい、私は……いえ、私達は戦いを捨てられるのか。という問いです」
「……あのな、普通そういうのは生き延びてから考えろよ……」
 アジャムの言葉に彼女は目を見開いてアジャムを見た。
「そういうものなのですか?」
「そういうもんだんだよ!」
 彼は呆れ気味に笑うとデライトたちにクルリと背を向けた。
「何を?」
「決まってるだろ、あいつらを片付けてくらぁ。久々に手ごたえがありそうな獲物だからな」
「待ってください!」
 カミーラはこれから迎撃に向かおうとするアジャムを呼び止めた。
「何だよ、今更返せなんて言うつもりか?」
「いえ、そうではありません」
 少し口ごもった後、カミーラは真剣な瞳で言い放った。
「アジャム、貴方に私のバイラムを託します」
「悪いが、そういう重い物は別の奴にやってくれ」
 だるそうに手を振った後、一気に地下に降り立ち、バイラムⅡのコックピットに座るとペダルを思い切り踏み込んだ。
 背面のバーニアが光を放つとそのまま勢いよく外へと飛び出していった。
 そして、彼らを捕捉すると落ちるかのような勢いで一機のデライトを横から思い切り蹴り飛ばした。
 激しい轟音とくだけちった瓦礫とともに叩き付けられる形で寝転がっていたデライトはやってきたバイラム
の方へと視線を向けた。
「おうおうおう、なかなか派手な解体作業をしてるじゃねぇか、俺も混ぜてくれよ!」
 他の二機もそれに応呼するかのようにバイラムの方へ視線を向ける。そして手に持っていた棒を向けると光
が飛び出してきた。軽い爆発音と共に熱を含んだ光線がバイラムへと向かっていく。
「おっと!?」
 素早く右へ左へとかわしていく。飛び出した光は建物を崩し、赤い爆発が大地を焼いた。
 動きも思ったほど大した事はない。ビーム兵器を持っていることにやや驚いたものの性能の差は歴然としていた。
 だが、アジャムはそんな事よりも愕然としたことがあった。
 何だ、こいつら……まるっきり隙だらけじゃねぇか……。
 バイラムⅡの性能もさることながらデライトの戦い方はあまりにも単調すぎた。
 敵に向かってただビームを撃つ。近付いて来たら棒を振るう。この二種類しかない。
 よほど悪いCPUを積んでいるのだろうか? 舐められたもんだぜ。
 アジャムは軽く舌打ちをしながらペダルを一気に踏み込んだ。青の鬼が赤の一つ目との距離を一気に縮める。
「そらよ!」
 そのままバイラムⅡの槍が赤いPM、デライトの胸をいともあっさり貫いた。金属がぶつかる激しい物音も、
摩擦で引き起こる火花すらなく、一撃でその胸を貫いたのだ。
 そしてデライトはそのまま動かなくなった。槍を横に振ってデライトを振り落とすと彼らはやる気がまるで
無いかのように再びビームを撃ちこんでくる。繰り返し作業という言葉がぴったりであった。
 おいおい、これはマジで欠陥品なのかよ?
 そんな思いが湧き出てくるが気を抜くことはしなかった。
 猛スピード接近しながら槍を横に振るうとデライトが真っ二つになった。
 手応えもない、あるのは人形を相手にしているかのようなそんな感触だった。
 ユニオンやステイツ、AUAのCPUですらこんなふざけたプログラム設定はしない。
 そしてドタドタと足を響かせながら走ってきた最後のデライトを棒立ちのまま槍で顔を叩き潰した。
 時間にしてわずか三分。転がっている機体を見てアジャムから笑い声が溢れてきた。
「まるっきり雑魚じゃねぇか……バイラムと同性能? なら、こんなに脆いわけねぇよ!」
 デライトの頭を思い切り蹴り上げた。頭は綺麗な放物線を描き、地面を転がっていく。
 彼女が嘘を言わないことはアジャムは理解していた。だが、こいつはあまりにも酷すぎた。
 性能差なんていう安っぽい言葉じゃない。まるで木偶人形だ。
 いったいこいつらは何をしに来たんだ?
 壊れたデライトを見つめながらアジャムはシートに体重をかけながら視線を空へと向けた。

 その北に位置する中国、北京にある経済産業労働管理省。またの名を経労省。
 建物の中は騒然としていた。アサルトライフルを持った兵士が辺りを闊歩しており、部屋の中に居た職員達
は両腕を縛られ、猿ぐつわをされている。呼吸が苦しくないように鼻水が出ている職員にちり紙をで鼻をかま
せたり、苦しそうに蠢いている人に近寄っては声をかけてトイレに連れて行ったりしている。
 一見すれば建物を占拠したと見えるが身体の自由を奪ったのみで、暴行行為は一つも見られなかった。
 兵士の一人が携帯型通信機に手を延ばし、コールをかけた。
「本部、こちらリーチ。建物の中に居る人物は全員拘束しました」
「こちら本部、ご苦労様です。そのまま観察を続行してください」
 本部と答えた男性はヨウシンだった。彼はいつも通りの軍服を着ており、手には黒光りをするハンドガンを
持っていた。そしてそれを目の前にいる経労省大臣へと向けた。電灯の光を受けてハンドガンが光を反射する。
「さて、お聞きしましょう。アンギュロスとは一体なんですか?」
「し、しらん!」
 そっぽを向いて答える大臣を見てヨウシンは軽くため息を付いた。
 そんなヨウシンに対し、大臣は金切り声を上げながら手足を乱雑に動かした。
「こ、こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」
「ええ、思っていますよ。あなたのしたことに比べればこの反乱など微々たる物でしょう?」
「い、一体何のことだ!? 私は何も知らん!」
「では、この書類を提出しましょう」
 そう言って懐から一枚の紙を取り出した。
「!?」
「貴方が何を考えているのかはわかりません。しかし、その椅子を明け渡すことは確実です」
 少なくともこれを世間に公表すれば汚職で目の前に居る大臣は更迭される。無論、それを野党やメディアに
追求されて職を追われることになるのは明白であった。だが、彼は鼻息を荒くし、ヨウシンをにらみつけた。
「ふ、ふん! それがどうした!」
「ほう、嫌に強気ですね。では、しかたありませんね……」
 ヨウシンが指を鳴らすと扉か二人の兵士がやってきた。彼らは大臣の両腕を掴むとそのまま立たせた。
「な、何をする、辞めろ!」
「連れて行きなさい」
「放せ! こんな事をしても無駄だ! 私は貴様らに屈しは……」
 捨て台詞をはきながら経労省の人間が連れて行かれた。
「やれやれ、困ったお人ですね」
 早速部屋の中を物色し始める。部屋の中にある棚や本棚と言ったところを無作為に手にとっては隅々調べ続けた。
 机の引き出しも開き、それごと取り外しては床に置いた。書類を引っ張り出し、封筒やファイルを片っ端から取り
出した。すると、おかしな物に気が付く。棚が少し歪んでいるのだ。両脇を手にかけて横に押すと中から金庫が出てきた。
「ふむ、なるほど……」
 この中に何かが入っているに違いないだろう。自分が求める何かが……。
 金庫に近付くと回りに触れてみる。罠の様子は無い、あるのはダイヤル式の鍵と開ける為の取っ手のみ。
 少し唸ったあと、再び部屋の中を物色し始める。
 この手のタイプの人間は忘れないためにメモを取る、もしくはそれに近い物を残すはず……。
 引き出しの内側にメモが貼ってあった。メモを引き剥がすとその通りにダイヤルを回していく。
 ダイヤルは金切り声を上げながら回り続けると、重い音をたてて金庫の封印を開いた。
「開きましたね」
 中を見て見るとあるのは封筒に入った書類が幾つもあった。ヨウシンはその封筒の中身を確かめる。
 そして、一枚の書類に視線が集まる。ヨウシンは眉をひそめた。
「バイラム計画概要書……」
 早速捲ってみた。そこには様々な事が書かれていた。共有結合を使った武器、ブラックボックスが多い特殊
エンジン。計画の手順、及び協力者への要請や通信手段。
 その中でヨウシンが目を引く内容を見つけた。バイラム開発計画の報告書である。手に取るとパラパラとめくってみる。
 その中に気になる一文字を見つけた。

 バイラム計画にはブレインウィザードシステムを使うことが決まった。

「このシステムは一体なんなのでしょう?」
 すかさず別のページをめくってみる。

 ブレインウィザードシステム。
 人型兵器であるPMは従来の兵器より、拡張性、及び汎用性が高い事は実施できていた。
 しかし、どう足掻いてもひとつだけ出来ないことがある、それは反射だ。
 反射行動をPMに移すにはPM自体に学習させるか、HTSのような人の動きを形にするシステムが必要である。
 だが前者は学習させる費用、及び訓練が必要であり、後者はコックピットという間接的な空間に反故をされ
ているため、反射に誤差、及び発揮しない場合がある。そこで――。

 読み進めているうちにとある一文にヨウシンは目を見開いた。そこにはこう、書かれている。


 反射と柔軟性を両立させる為に生きた人間の脳を使うことにした。


「なる……ほど……学習の簡略化、反射行動の即実化、そして柔軟性の確立……」
 これならプログラムを組まなくてもいい。脳という名のCPUが勝手にもっとも効率のいい戦術を組み立て、
選んでくれるのだ。それだけじゃない、本能や感性と言ったものラグ無しで形に出来るのだ。PMを自分の肉
体とする。まさに人類は不死の肉体を得たとも同意なのだ。
 ヨウシンは深呼吸をすると再び書類に目を落す。
 全てを知らねばならない、その意志で嫌悪感が湧き出る書類を眺め続けた。


 しかし、これをする前にやっておかなくてはならないことがある。
 ”それは認識の変更である”


 思わず息を飲んだ。この概要書に書いてあることが本当ならばバイラムの戦いにためらいが無い事は納得で来てしまう。
 認識の変更、それはあるものを別のものとして認識するという単純なことである。
 だがそれこそがバイラムを、森宮一明を悪魔に変えたのだ。
「人間をゴキブリや蛾、害虫として認識をさせれば……」
 躊躇いは無くなる。
 人を殺すのは社会の罰、罪悪感、反撃のリスクなどが付いてまわるが、人を害虫として認識すれば殺しても
罪悪感を感じる事は無い。ハエやゴキブリを殺しても泣く人間は一人もいないのだ。
 しかし、記憶の消去は完全に行えなかったせいか、バイラムがまだ動き始めた頃、コックピットに居たコウ
シュンを殺すことが出来ず、リーシェンがやった光信号に対し拒絶反応を示したのだ。
 殺戮を行えるバイラムという戦闘力よりも人間をここまで侮辱できる政府の感情がヨウシンには理解できなかった。
「殺人鬼より下劣ですね、いえ、大義があるというのがいけないのかもしれません」
 ヨウシンは概要書を手にコピー機がある場所へ移動する。
「ソウ指令、これからはどうしますか?」
「これを世間に公表します。少なくとも……何らかの動きはあるでしょうしね」
 ヨウシンの顔には既にいつものような柔和さが無くなり敵の殲滅に命を賭ける将の顔になっていた。

 その翌日、ボルスはセルをフロリダのビーチバーに呼び寄せた。
 辺りは既に暗くなっており、今日は珍しく星が見えていた。静かに響く波の音が辺りに響いている。
 時おり湿気を含んだ風が辺りを通り抜けていく。街頭に照らされ、ものかなしい雰囲気を作り出している。
 二人はカウンター席に座りながらグラスを傾けていた。
「こんな所に呼び出して、何か用?」
「すまないな、一応確認させてもらおうと思ってな」
 軍服のボルスに対し、彼女はかなりラフな格好だった。
 薄手のTシャツ、少しきつめのスカート。白のパンプスと安物で身を固めている。
 ボルスは彼女の前にグラスをおくと透明の酒、テキーラを注ぐ。
「確認って……まさか、ケントの事?」
「ああ……折角だ、ケントの事を教えてくれないか?」
 カウンターに肘を着いて彼女の顔を見つめる。まだ酒が回っていないらしく、赤くはなっていなかった。
「あなたの方が長い付き合いなんじゃないの?」
「確かにな、だが大学時代のケントの事を知りたい」
「そう、じゃあ何から話したらいいのかしら?」
 椅子を傾けながら指でのの字を書く。眉間に皺を寄せながらケントとのを思い出しているようだ。
「馴れ初めから頼む、こういうときは最初からがいい」
「そうね――」
 そう言って彼女は口の中にテキーラを含んだ。

 数分後、酒が回ったのセルとボルスは徐々に饒舌になってきた。既に瓶を一本、空っぽにしている。
 だが、二人とも酔った様子はなくひたすらケントの話で盛り上がっていた。
「そうか……実に以外だな」
「ふふ、そうでしょ?」
 このままでは埒が明かない、少し揺さぶってみるか……。
「先ほどから酔ってないようだが酒は強い方なのか?」
「え? やぁね、ちょっと酔い止めを飲む前に飲んできただけよ」
「そうか、ならきちんと話せるはずだな?」
 先ほどのような談笑と打って変わって冷たい口調で彼女の出方を見ている。
「なにをよ?」
「ケントが死んだ時間のアリバイだ」
 ボルスの言葉にセルはグラスを置いた。そしてややわざとらしさを含んだ明るい声でこう言ってきた。
「アリバイって言い方は止めてよ、時間行動って言って」
「分かった、そう言わせてもらおう。それで、君は一体何をしてたんだ? その時間に」
「ふふーん、家に帰って寝てました。って言っても信じてくれないわよね」
「いや、信じるが……些か細かいところまで聞かせてもらおう」
「どうぞ」
 質問を許した以上、一気に攻めなくてはいけない。
 心の奥底で気合を入れ直すとあらかじめ用意をしていた質問をぶつけてみる。
「何故、あの会社に就職を?」
「いきなりそれ? 共通項が全く見えないんだけど……」
 首をかしげるセルにボルスはさらに言葉を続ける。
 ここは強気で押していこう。下手に手加減をすると真実が見えなくなる……。
「やましいことがなければ答えられるはずだが?」
「もう、しょうがないわね……。お給料が良かったからに決まってるじゃない」
「だろうな、しかも縁故採用だと私は聞いていたが……」
「あったりー、羨ましいでしょー?」
 ニコニコと笑顔を向けてくるセルに対し、ボルスはきつい表情で彼女を見つめていた。
「最後だ、ここ最近この酒を買ったみたいだがどこで飲んだ?」
「え? どこって……」
「民間人なら知っているはずだ、ここ最近はこういうものを買うには身分証明が必要だと言うことぐらい」
 ボルスはボトルのビンをセルの前におきながら唸るように言う。
 軍備品とはいえ物が消費される以上、価格は上がる。武器類から始まり、末端の食料品すら値上げは起こるものである。
 特に酒類は政府の管理下におかれ、購入するには身分証明書が必須となるのだ。
 ギャングやマフィアなどが密造酒を作らないためにこのようなことをするのだが……。
「身分証明にわざわざ偽装IDカードを使ったのは何故だ?」
 ケントが飲んでいたバーボンは元々作られる量が制限されているものである。
 アルと共に彼女を見張っている間、レイはこの酒を買ったものを調べ上げたのだ。
 その結果、彼女が浮かび上がった。しかし……彼女はよりにもよって身分証明に偽装IDを使ったのだ。
 しかも単なる粗悪品ではない、かなり高度なIDだった。かなり複雑な暗号化もされており、よっぽどの技
術がなければ作れない代物であった。
「答えてもらおう、何故こんな事をした!」
 いきり立つボルスに対し、セルは軽く溜息をつくと椅子から立ち上がった。
「出ましょ、さすがにこんな所で個人的な話をするには不向きすぎるもの……」
「そうだな」
 ボルスは辺りをちらりと一瞥すると帽子を被ったアルとサングラスと化粧をしたレイがボルスへと視線と送
り返してきた。二人とも準備は良いようだ。
 ボルスとセルはゆっくりと砂浜を歩き始めた。夜はさらにふけ始め、徐々にだが街の灯りも消え始めつつあった。
「さて、何から聞きたい?」
「単刀直入に言おう、君がケントを殺したのか?」
 この言葉にセルは少し微笑んだ。その顔はどことなく弱弱しく、罪悪感と自分への卑下を含んでいるようだった。
「いいえ、って答えて欲しい?」
「ああ、君はケントの友人だと聞いている。だから、そういう事は聞きたくは無い」
 どこの刑事ドラマだ、これは……。
 だが先ほどの言葉はボルスの偽ざる気持ちであった。親友の友人を疑うなんてしたくはなかった。
「口調からして完全にYESだって思ってるわね」
 セルの指摘に思わず言葉を飲み込んでしまう。
 友人にもその癖を指摘されたことが何回もあったがなかなか治らないボルスの癖であった。
「私はあえてNOって答えるわ。無いんでしょ? 証拠」
「ああ、そうだな……だが、別の証拠ならある」
「別の?」
 目を見開いてボルスを見てくる。ボルスは眉間に皺を寄せながら懐から一枚の紙を出した。
「そうだ、君の会社は政府から多額の賄賂を貰っているようだな」
「あら、初めて知ったわ」
「その金のほとんどが君の口座に振り込まれている理由を聞かせてもらおう」
 すっ呆けた顔で飄々としているセルに対し、ボルスの方は旗色が悪いのか唇を噛み締めている。
「私が一枚噛んでるからー。でもこれはケントの死と何にも関係ないわよね」
 彼女にとって重用なのはお金ではない、ただケントを殺したのが自分であるという証拠。それのみを示せと
言っているのだ。考えろ、彼女の心を揺さぶるあの言葉……。
 もはやこれまでと思い、ボルスは使わないと決めた言葉を言い放った。
「……あえて訴えられる覚悟で言おう。そろそろ本当の事を話してくれないか、エージェント・セラ」
 この言葉に今まで飄々としていた彼女の顔が一瞬驚いた顔をした後、諦めたような、観念したかのような、そんな顔をした。
「その言葉を出されちゃあねぇ……降参だわ」
 セルは軽くため息を付いた。そしてそのまま空を見上げて小さく呟いた。
「もしかしたら本当は気づいて欲しかったのかもしれないわね、こんなこと、馬鹿げているって……」
「どういうことだ?」
「こういうことよ」
 彼女が海の方へ歩いていくと巨大な何かが海面から飛び出してきた。水しぶきを上げて飛び出してきたのは
人型の影。大きさからしてPMだろう。
「くっ!?」
 ボルスは目を疑った。アルもレイも目を見開いて目の前の機体を凝視する。彼女が機体の掌に乗るとコックピ
ットへと乗り込んだ。
「流石だわ、ボルス大尉。貴方の観察眼は目を見張る物があるし、執念も立派。でもこれは流石に予想外だったでしょ?」
「ああ、本当だ! まさか君がバイラムを持っているとはな!」
 目の前にいる紫の鬼。姿形は違えどもバイラムだった。二本の大きな角、肩についているバインダー、
 武器は持っては居なかったものの、鎧武者という言葉がぴったりだった。
 威風堂々とした振る舞いに黒の悪魔と違った印象を与える。
「バイラム? ちょっと違うわね。これはバイラム・カスタム。個人用にカスタマイズされたものだから見た
目ほど変わってないわ」
 バイラム・カスタムはボルスたちに背を向けると背面のバーニアを光らせ、漆黒の大空へと飛び立った。
「ま、待て!」
 大声で叫ぶが既に彼女の姿はどこにもなかった。そんな時、
「隊長、これを!」
 レイが携帯電話を見せた。そこにはその一文が書いてあった。
”アトランティスで待ってます、おめかしをいっぱいして来てね”
「なるほど、最後まで彼女らしいやり方だ!」
 奥歯を思い切り噛む。そしてセルが去った方向をじっと睨みつけていた。

「お帰りなさい、メアリー」
 自動ドアが開くと一人の女性が優しく微笑むがメアリーは機嫌が悪そうな顔で椅子に座った。
 メアリーは地球で着ていた服とは違い、ウェットスーツのように体に張り付いた服だった。
 そしてその顔はやや膨れっ面で仕草もやや投げやりだ。
「どうしたの?」
「ユウイチを殺し損ねたの」
 まるで子供が欲しいものが手に入らなかったかのようにぶっきらぼうに言った。
「任務は失敗したってことなの?」
「そういうこと!」
 腰のラックから銃器を取り出すと目の前のテーブルに置いた。消音機はついているがあまり手入れがされていないようだった。
 そのまま背もたれにもたれかかりガッカリとした顔をする。
「あーあ、ちゃんと心臓を狙ったのにな」
「もう、撃ったからって過信しちゃ駄目じゃない。ナイフ、持ってたんでしょ? 今度はちゃんと首の頚動脈
を切らなきゃ駄目よ」
「はーい」
 お互いの口調は完全に親子の会話であった。 
 内容は眉をしかめる物ではあったが彼女達は一向に気にせず団欒のように話している。
「ところで新型はどうなったの?」
「新型? ああ、”エグザトリア”のことね」
「うん、最初のはユウイチのお父さんの脳みそを使ってたけどこれはキャプテンのだから性能はいいと思うの」
「テストの段階で百機のバイラムを数分で倒したらしいわ」
「うわぁ、私もネオ・バイラムから新しいのに変えたい」
「ふふ、もうちょっとしたら配備されると思うわ。だからもうちょっと我慢をしてね」
「はーい」
 メアリーはそう言うと椅子から立ち上がり、階段を昇っていった。

第十一話「白き羅刹」に続く

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