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第一一話「白き羅刹」

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匿名ユーザー

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 所変わって、中東。サウジアラビア。
 地下格納庫にあるバイラムⅡは無言のまま立ち尽くしていた。
 備え付けのディスプレイには整備を完了したらしく、各部のランプが緑の色を照らしている。
 室内とはいえ気温はかなり高いせいかパイロットスーツを脱ぎかけのまま、うなだれているアジャム。
 それに対し、カミーラは顔色一つ変えずに一心不乱にキーを叩き続けていた。そして視線があるデータに行
き着くと軽く息を飲んだ。蒼ざめた顔のまま軽くキーを叩き、そっと蓋を閉じるとアジャムのほうを向いた。
「アジャム、悪いのですが送って行ってもらえませんか?」
「送るってどこにだよ?」
 首をかしげるアジャムに対し、カミーラは少し切羽詰った表情で言葉をつむぐ。
「先ほど、各都市群がバイラムによって襲撃されました」
「襲撃? って事は……」
「交渉が決裂したのでしょう」
 苦虫を噛み潰したかのような顔をさせながらロッカーを開けると合成皮のようなスーツを取り出した。
 ピンク色のエナメル素材のような光沢に所々に白のラインが入っている。そして手足には銀色のリングが付
いており、見た所からそれを使ってサイズをあわせるのだろう。
 彼女は上着の上からそのスーツに腕を通すとスーツはまるで彼女の身体に吸い付くかのように体のラインを
作り出した。
 そして、すぐさま壁際にあるレバーを下ろすと重苦しい音とともにハンガーのバイラムⅡがゆっくりと上昇していく。
 それを見たアジャムはパイロットスーツを着直すとバイラムⅡの足元へと歩いていく。
「交渉ねぇ……火星の移住を拒否したってことか……」
「でしょうね」
 面白くなさそうに仏頂面で見上げている。格納庫を覆っていた灰色の天井は無くなり、青一色の空が見えていた。
 一足先にバイラムんコックピットに乗り移るとエンジンに火を入れる。静かなファンの音が辺りに響いていく。
「んで? 俺らはどうすんの?」
「アトランティスへ行き、事実確認をします」
「何でアトランティスなんだ?」
「あそこがアンギュロスの地球基地だからですが?」
 突然の事に口が塞がらない。ここ最近は彼女の言葉に驚かされてばかりであった。
「はぁ?」
「あそこにバイラムが眠っている、と言うことです」
 カミーラはバイラムⅡに乗り込もうと備え付けの昇降ケーブルに足をかけ、スイッチを押すとケーブルは上
へと昇っていく。アジャムもそれに続いて乗り込む。計器はどこも異常が見えない。カメラや照準機にもブレ
は見つからない。
「色々わかんねぇな、何で誰も気が付かなかったんだ?」
 二人は口を動かしつつも発進準備を進めていく。
「先ほど述べようにバイラムはメンテナンスが必要ありません」
「おまけにやたらとカムフラージュが優秀なんだよな」
「ですが、本格的なものとなるとそうは行きません。無から何かを作り出すのは誰にも出来ないことです」
 本格的、すなわち部品交換やソフトウェアの交換、破損した回路の修理。どれをとってもバイラム一人で出
来るものではない。だからこそアンギュロスの地上部隊がバックアップに回るのだ。
 基礎的な解体作業から始まり、運送の手配、無関係者への配慮、そして必要なパーツの入手ルートなどあげ
れば切りがない。そして、当たり前のように政府の人間が手引きをしている以上、情報漏えいには気を使っている。
 最悪の場合、目撃者の抹殺もありえるのだから。
「それに、あそこは土地と呼ばれるものがありません。もしも工場を作るとしても全て人間の手で作られた
物です。会社はダミー、作られている物が工業部品ならば誰も気がつきはしないでしょう」
「へぇ、じゃあバイラムの基地っていうのもあながち嘘じゃねぇ、ってことか」
「はい、例え発覚したとしてもそのまま海の底に沈ませるだけです」
「なるほどねぇ……そんじゃ、アトランティスへと急ぐとしますかね」
 アジャムが思い切りペダルを踏み込むとバイラムⅡは自身と同じ色の空へと向かっていった。

 激しい剣戟が舞っている。いや、剣ではない。正確に言えば手刀だ。手刀でビスマルクの剣戟を捌いている。
 わずか数センチといっても過言ではないほどの突きが胸を、背中を、目の前を通り過ぎていく。
 自分が振るう剣を無手が受け止める。幾度となく火花を散らし、何度も激しい音を響かせているわりに目の
前の鬼はたじろぎもしない。仮にも改造を重ねてきたというのに目の前の敵には軽々と避けられて行った。
 先ほどよりさらに速い突きが飛んできた。
「ちぃ!?」
 ファルは操縦桿を倒し、強引に機体を捻らせて攻撃をかわす。
 戦闘が始まって早くも一時間経つ、大きく息を吸って荒い呼吸を整える。
 せめてもう一機、私と同じくらいの力を持って人がいれば……。
 辺りにはファルしかおらず、他の隊員達はアトランティスを目指すように指示した。だが、時間が経つにつれ
徐々に劣勢に追い込まれている状況にファルは苛立ちが隠せなかった。
 こいつの相手は私がする、そう言い切ったくせにこの状況は正直、まずすぎた。
 バイラムと戦い、勝った。だからその改良型にも勝てるつもりと思っていた。
 その自身は目の前にいる敵にあっさりと打ち砕かれてしまい、今はもう手も足も出ない状況だ。 
「そろそろ、終わりにしましょうか?」
 妙に慈悲染みた口調で言うセルに対しフツフツを怒りがこみ上げてくる。
 冗談じゃない! こんなところで終われるか。
 半ばやけ気味に剣を構え、目の前の鬼を睨みつける。黙って負けるつもりなんて毛頭ない!
 だが、そんな思いをあざ笑うかのようにバイラム・カスタムが横にピッタリとくっ付いてきた。
 まずい!
 そしてバイラム・カスタムの突きがビスマルクに伸びようとする。蹴りで防ごうと素早く操縦桿を倒すが間に合わない。
 だがバイラムの突きは横から飛んできた砲撃が邪魔をした。大きな爆発で機体が揺れる物のダメージはない。
「だれ?」
 視線の先にいたのは一機のポーンだった。正確に言えば姿形はポーンだがポーンではない。そう、あれは――。
「あれは……ナイツ!? 何であんなところに……」
 だが見た所かなり古い。装甲に使われている材質は若干歪んでおり、各部の間接がむき出しになっていた。
 突然の事に目を白黒させていると通信は入ってきた。
「こちら、ステイツ軍所属、シルバーナイツ、貴官を援護させてもらおう!」
「援護? そんな古い型で?」
「ふふ、確かにこいつは古いが機体も腕も錆付いていないつもりだ」
「そう、それなら援護よろしく!」
 そういうとビスマルクは大剣を振りかざし、バイラム・カスタムへと向かっていく。
 だがそれを白羽取りの要領で両手で挟みこむ。それと同時にナイツが切り捨てようとしてくるがバイラム・
カスタムは大剣ごとビスマルクを横へ投げ飛ばし、そのまま横腹を蹴り付けた。金属と金属がぶつかる重い音
が青い空に響いている。
「ぐぅぅぅ!?」
 受けた場所は良かったのか、空を軽く回転するだけで機体は少し凹みが付いただけであった。
 そして、そのまま襲い掛かってきたナイツの攻撃を受け止める。
「その機体に乗っているのはボルス大尉ね?」
「ああ、貴様に復讐するために来てやったぞ」
「……呆れたわ」
 二機を相手にしつつもセルの動きには何一つブレがなかった。
 手でビスマルクの攻撃をいなしつつ、ナイツへの配慮も忘れない。
 銃器が通用しないことを配慮に入れても、彼女は二人の攻撃を一つずつ丁寧にかわしていく。
 機体の性能さ? 違う、彼女の技量。それをバイラムが手助けをしている。
 ファルは何度も攻撃をするナイツを尻目に徐々に劣勢に追い込まれている事を感じ取れた。
 それがさらに彼女を苛立たせる原因になった。
「こんなふざけたことに手を貸すことをか?」
「いいえ、戦力差を考えない馬鹿な行動を呆れているだけよ」
「バカで結構! そうでなければアイツと友になどなっていない」
 ボルスの言葉にセルは思わす目を見開いた。
「……納得したわ」
 そして、呆れた口調で呟いたがその中にどことなく楽しさが見え隠れしていた。
「でも……簡単に負けるつもりは無いの」
「ぐぅ!?」
「んくぅ!?」
 飛び回る二機の頭を掴むと思い切り振り回し始めた。パイロットなどお構い無しに大きく上下に、左右に振
り回し続ける。二人はすぐさまペダルを思い切り踏み、逃れようとするがバイラム・カスタムはバランスを崩
す様子は全くなく、逆に自分達の酔いをさらに呼び覚ますことになった。、
 そして思い切り海面へと投げ捨てる。が二機とも素早く機体を水平にすると再び上昇をし始めた。
「あっぶなぁ!」
 仮にも汎用兵器であるPMは海に落ちたとしても問題はなかったが、大きく機動や武装を制限されるため、
海へ入るのは避けたかった。そもそも海中でバイラムと戦うのはデータに無い上に博打過ぎると二人は思っていた。
「……地球人ってしぶといのね」
「手加減してるのではないのか?」
 ボルスの言葉に少し首を捻った。が、すぐさま納得したかのような顔で大きく頷いた。
「ああ、手加減してたのね。私」
 この言葉にファルの頭が煮えたぎってきた。
 言われて気が付くなんて、この女、おちょくってんの?
「ば、ばかにするなぁぁぁぁぁ!」
 猪武者の如く再び突っ込んでいくと彼女は素早く操縦桿を倒し、ビスマルクを闘牛士のようにかわそうとする。
 だが、その動きは既に見切っていたのよけたバイラム・カスタムを正面に捉えていた。
「くらえぇぇぇぇ!」
 雄叫びと共に大きく振り下ろすとビスマルクの大剣、ブリューナクがバイラムの左肩を切り裂いた。
 音をさせることなく切られた物はそのまま海面へと沈んでいく。
「はぁ……はぁ……どうよ!?」
「……そうね、手加減はやめることにするわ」
 切られた部分を見ながら先ほどとは打って変わって冷たい口調で間合いを取り直す。
 そしてスーツから一本の鉄の棒を取り出すとコンソールにある窪みに差し込んだ。
「EX1、スタンバイ」
 声と共に紫のバイラムに現れるオレンジの血管。各部の関節が激しい音を立てている。
 二人とも同じ事を思い出していた。心臓が破裂するかのような激しい鼓動が聞こえてくる。
「アレは……」
「嘘でしょ?」
 すなわち、

 KILL YOU

 背筋に何かが走った。それと同時に二人は辺りに気を配る。目の前にいるバイラム・カスタムではなく、何
も無い青一色の景色に。
「上!?」
「イヤ、後ろだ!?」
 二人は別々の方向に視線を送る。だが、二人の視線の先には何も無い。
「流石ね、こっちを見ていたら……死んでたわよ」
 セルはそう言いながら身動きが取れない二機を見つめていた。紫の鬼は二人の真下にいたのだった。
 別に二人は読み間違えたわけではない。バイラム・カスタムはファルとボルスが感じた通り、ビスマルクの
上を通り過ぎ、ナイツの背後に回り、その後二人の真下に移動したのだ。
 ファルの額に汗が浮ぶ。あんな動きをしたらパイロットが持たないはずなのに……。
「今度は攻撃するわね」
 再び大きく構えを取ると二機のPMのほうへ飛んでいく。
「まずい!?」
 ファルは剣を構えつつ、背面に付いていたスモークミサイルを叩き込もうとするがミサイルはバイラム・カスタムの
身体をすりぬけ、そのまま飛んでいってしまった。
 残像!?  そう思う矢先、自分の腕が掴まれていた。軋んだ音を響かせて腕の装甲がひび割れ、中の配線が
千切れていく。
「ぐぅぅぅぅ!」
「ミスリーア少尉!」 
 ナイツが横から攻撃を加えようとするがフォークで突き刺したかのような鋭い手刀でナイツの首が飛んだ。
「しまっ――」 
 そしてそのまま縦に振り下ろされそうになる前に二度目の砲撃がバイラム・カスタムの脇を通り過ぎた。
「まだ追加なの?」
 視線の先にいたのは……。
「青いバイラムだと!?」
「あれも敵なの!?」
 突然の事に戸惑う二人。青の鬼は長槍を肩に背負いながら見た目から、その不愛想さを見せつけていた。
「気になるから来てみりゃあドンパチとはねぇ。正直、仕事以外で銃弾の中を突っ切るのは趣味じゃねぇんだが……」
「なら、ここで降ります」
 怠そうな顔をしているアジャムに対し、カミーラは冷静、いや真摯な顔で言い放った。今にもそのままシー
トベルトを外して外へと飛び出していきかねない。
「タンマ、今降りたら俺ごと海の藻屑だ。降りるのは後にしてくれ」
「? おかしな人ですね? 銃弾の中へ飛び込むのは好きではないと仰ったではありませんか」
「それは……あれだ、言葉のアヤってやつだ」
 まるで漫才のように軽快に話す二人に対し、ボルスとファルは状況を飲み込めずにいた。
「……なるほどね」
 セルは小さく呟いくとすぐさま備え付けの通信機へと手を伸ばす。
 そして数秒後、映し出されたカミーラの顔に少しだけ憎悪の表情をするとお互いの顔を見つめあった。
「やはりあなただったの、コードナンバー六六六」
「はい、私です」
「一体どういうつもりなのかしら?」
 怒りを通り越して呆れた顔でため息をつく。
「普通に考えりゃ、そのままの意味ってことじゃねぇのか?」
「? その機体を地球人に?」
 セルの問いに対しカミーラは一言も口を開かなかった。ただ目の前にいる彼女を真っ直ぐ見つめるだけであった。
「なるほどね、良くわかったわ。コードナンバーまで捨てて男に走ったってことね」
「否定はしません」
 セルが乗るバイラム・カスタムは腰についていた小刀を両の手で取る。
 右手は刀を思わせる薄い刃、左手はサバイバルナイフを少し長くしたかのような太い刃。
 ナイツとビスマルクの二機と戦った時よりもさらに緊張感が走っている。
「悪いけど、たとえ誰であろうと向こうに行かせるつもりはないわ」
 独特の構えをするバイラム・カスタムに対し、カミーラはアジャムの方をちらりと見る。
「アジャム」
「あいよ、やり合うのなら……」
 長槍をバイラムカスタムのほうへ向けると軽く一息をつく、そして思い切りペダルを踏み込んだ。
「上等だってなぁ!」
 眩い閃光と共にバイラムⅡは真っ直ぐバイラム・カスタムへと飛び込んでいく。
 バイラム・カスタムは動くことなくその場に立ち尽くした。
「あらよっと!」
 素早く下へと回りこむとそのまま槍の長さを生かして大きくすくい上げようとする。
 だが、バイラム・カスタムは機敏に反転し、攻撃をかわす。そしてそのまま長槍の柄を思い切り蹴りバラン
スを崩そうとする。
「甘いんだよ!」
 だがそのままの勢いで縦に回転するとそのまま浴びせ蹴りが腰にぶつけた。
 装甲はへこまなかったが激しい破裂音と共にコックピットに激しい振動が突き抜ける。
 セルは軽く舌打ちをしながらペダルを踏み込むとすぐさま体勢を立て直す。一方のアジャムはその様子を見てつい
にやけた顔で口笛を吹いてしまう。
「うひょう、バイラムとは違った意味でつええな」
「当然です、彼女は私達の中でかなり上位のパイロットですよ」
「へぇ、そいつは知らなかった」
 今度は小型のアサルトライフルを取り出すとバイラムⅡに照準を合わせる。銃口から火花と共に軽い破裂音
を響かせるが、アジャムはヘラヘラしながらも次々に飛んでくる攻撃を右に、左にとかわしていく。
 その姿はまるで鳥のように空を舞い、フィギュアスケートのように海面を滑っていた。時おり、槍に付いて
いる銃口をバイラム・カスタムに向けては発砲するも彼女もまたそれを素早くよけていく。
「あの地球人、バイラムⅡを使いこなしているとでもいうの?」
 少し驚いた顔をした後、薄ら笑みを浮かべる。
「良いじゃない、手ごたえの無い相手をするよりもこっちの方が面白そうだわ」

 二人は紫と青のぶつかり合いをただ見ているだけであった。
 スピードで翻弄しようとするカスタムをⅡは焦る様子もなく一つずつ確実に裁いてく。
「次元が違いすぎる……」
 ボルスは小さく呟いた。
 性能差という言葉では足りない。技術レベルと言う言葉でもない。自分たちが乗っている物と彼女達が乗っ
ている物は気球と音速戦闘機ぐらい違うものに見えていた。
 バイラムと対峙した時に理解していたはずだ、と自分に言い聞かせる。
 だが、やはり目の前で見せ付けられるのは彼のエースとしてのプライドをズタズタにしていった。
「そらよ!」
 Ⅱの突きがバイラム・カスタムの右肩を貫いた。
「くっ、でも安心するのは……」
 だが、そのままかまわずに真っ直ぐ飛んでいく。
「まだはええんだろう!?」
 しかし、それを読んでいたのかあっさりと槍を手放すと素早く機体を横にして腹部を思い切り蹴り上げる。
「なぁ!?」
 怯んだ隙に素早く背面に回りこむとバーニアの噴射口に向かって拳を突きたてた。行き場を失った火が身体を通り抜
けると同時に激しい火が飛び散った。そしてそのまま突き刺さっていた槍を引き抜き、構えを取る。
 煙を噴出しながらもバイラム・カスタムは未だに動いていた。中のセルは完全に苦い顔をしていたがまだ闘
志は失っていないのか操縦桿を握ったままであった。
「ぐぅぅぅぅぅ! まだよ、まだやられてない!!」
 だが、それを水を差すかのように通信が入った。内容を確認すると冷静な表情をした。 
「撤退? …了解」
 セルはカミーラたちに背を向けるとそのまま大空へと消えていった。
「逃がすか!」
 逃げ行くバイラムを覆うとする。だが――
「ボルス大尉、追ってはいけません!」
 振り向くとそこにはフリューゲルスがこちらに向かっていた。
「大尉、これよりアトランティスを占領します。よろしければご協力を」
「……了解」
 無念と無力さを痛感しながらボルスはフリューゲルスへと向かった。

 所変わって中国、重慶基地。
 奈央とヨウシン、そしてリーシェンの三人は管制室にいた。
 部屋の中はオペレーターとコウシュンが忙しなく動いており、大量のデータディスクを手に部屋を行ったり
来たりしていた。
「ソウ司令、いったいなにがあったんですか?」
「交渉が決裂って……」
「……今、事実確認をしています。もう少し待ってください」
 ヨウシンが深くため息を付く。
 なんとなくだが理解できる。交渉の決裂、理由は――。
「司令、これを」
「どうも……」
 眉間に皺を寄せているヨウシンの手元にオペレーターからとあるデータを手渡された。
 すぐさまデータディスクを読み込むと現れたディスプレイにますます顔をしかめた。
「なるほど、コレは決裂するわけです」
「司令、説明を!」
「では、軽く説明を……」

 異星人である彼らが求めた大地、火星。
 その火星からついこの間、貴金属が無数に発見されたのだった。
 金やプラチナから始まり、ルビーやサファイアといった鉱山が幾つも見つかった。
 それだけではない、火星には豊富なエネルギー資源が幾つもあったのだ。
 そのおかげで異星人に火星を渡すことを渋り始めたのだった。
 元々彼女達の数はそう多くはなかった。その数は一千万人を割るか割らないかぐらいである。
 そのため、彼女達に譲歩を始めたのだった。半分は我々にくれないか、と。
 当然のように彼女達は拒否、そして核ミサイルを使おうとしたのだが阻止され、逆にバイラムによる各都市
攻撃を許す形となってしまったのだ。

「というわけです」
「なんと愚かな……」
 ヨウシンが説明を終えるとリーシェンは腕を震わせていた。
 こんな下らない事で多くの死者が出たと言うことが許せないのか苦虫を噛み潰した顔をしながら眉間に皺を
寄せている。
「まあ、私達がバイラムを倒したと言う事実が彼らを調子に乗らせてしまったのでしょう」
「で、ですが……」
「非難をしているわけではありません、私達は当然の事をしたまでです」
 ヨウシンは朗らかに言うがリーシェンの顔は完全に蒼ざめていた。
 そんなとき、基地に通信が入った。通信士が目を見開き、何度も事実確認を促す。
 そして、送られてきたデータに対し、ウイルスチェックや偽装チェックを行う。
 チェックが終わるとすぐさまコウシュンに手渡した。コウシュンがデータの中身を調べる。 
「福岡にバイラムが現れたらしい」
「ええ!?」
「今から二時間ほど前、バイラム三機が日本州、福岡市に襲来。都市部に対し破壊行為を行う。しかし突如現
れた白い同型機によりバイラム三機は撃破」
「同型機?」
 この言葉にヨウシンの顔がこわばる。
「戦闘終了後、無抵抗のバイラムを鹵獲し、調査を行ったところ一人の少年が搭乗していたもよう。少年はそ
のまま軍の病院へと移送されたようだ」
「そうですか、それで少年の身元は?」
「既に判明しています、森宮祐一、十七歳、地元の高校に通う学生のようです」
「ゆ、祐一君が!?」
 リーシェンはちらりと隣を見ると奈央は毅然として立ったままだった。もっとも蒼い顔のままだったが。
「森宮……まさか……」
「そのまさかです、皮肉にも彼の父親は初代バイラムであった森宮一明でした」
「どうしますか?」
 若干戸惑い気味な顔をしているコウシュンに対し、ヨウシンは大きく頷いた。
「続けてください」
「了解、そして調査を続行した所、少年と何者かとの通信記録が残っていました」
「森宮君は彼らの?」
 ヨウシンの言葉に奈央は思わずコウシュンの胸倉を掴んで叫んだ。
「そ、そんな事ありません! 祐一君がバイラムと繋がってるなんて!?」
「落ち着け、水原。当たり前のようだが組織の人間ではない。だが親しかったのは確かだ」
「親しかった?」
 コウシュンの言葉に掴んでいた手の力が抜けていく。よほど強く握ったのか、服にはくっきりと皺が付いて
しまっていた。
「メアリーという名前に心当たりは?」
「祐一君の彼女だって聞いてます」
「なるほど、それなら辻褄が合うな」
 コウシュンが腕を組んでいるとヨウシンは鋭い目つきで聞いてきた。
「カン君、その白い新型。バイラムを撃破した……と」
「はい、名前はエグザトリア、無手で一機、腰についていたビームガンで二機撃破したそうです」
 報告を聞いていたリーシェンは完全にあきれ返っていた。
 これではまるで自分達の兵器が殆ど玩具だ。必死に戦ってきた我々は一体なんだったんだ?
 不機嫌さを露にするがヨウシンは言葉をさらに続けた。
「……カン君、すぐさまエグザトリアを使用し、近くのバイラムを掃討しなさい」
 管制室内が一気に凍りついた。
 突如やってきた謎の機体、それに乗れとこの司令はいっているのだ。
 パイロットは無事でいられるのか? もしも暴走をしたら? 最悪の場合アンギュロスに機体を乗っ取られ
るかもしれない。リスクが高すぎる。それに向こうとの兼ね合いもあるだろう。
 だが、ヨウシンは調子を崩さずにコウシュンを見つめる。
「分かっています、ですが我々には手段が少なすぎます。リスクは……覚悟の上です」
「……了解しました」
「すみませんね、相変わらず貧乏くじを引かせてしまって」
「かまいません、ですがいざというときの為にリーシェン、黄龍を連れて行きます」
「ええ、お願いしますね。あとバイラムの破片は必ず回収しておいて下さい。今後の事を考えれば必ず必要に
なってくるはずです」
「了解」
 コウシュンが敬礼をすると部屋を出て行った。リーシェンは少し戸惑った顔をしながらも後に続いた。
 奈央はそんな二人を見送ると小さく呟いた。
「祐一君……」
 話そうとした矢先にこれだ。
 彼とバイラムには何らかの因縁があるのかな?
 そんな邪推をしてしまう自分が居た。
「水原さん」
「は、はい!?」
 突然の言葉に驚き着つつ、振り向くとヨウシンが優しく微笑んでいた。
「あなたを伍長としてではなく一人の技術者としてお願いがあるのですが……」
「は、はぁ……」
 ヨウシンの言葉に奈央はただ戸惑うばかりであった。

「すまないな、突然に」
 帰還したセルを待っていたのは司令と呼ばれた女性であった。
 彼女は少し気だるそうな顔で頬杖をつきながら入ってきたセルを見つめている。
「いえ、問題はありません」
 セルが敬礼をすると司令は軽くため息を付いた。
「今回の件で我々の協力者がぐんと減ってな」
「しかたありませんわ。向こうの政局争いに巻き込まれた以上、こうなることは明らかでしたもの」
「……それで、エージェント・セラ。君はどうするつもりなのかね?」
「私もメアリーと同じです。コードナンバー六六六は生活を得たみたいですけど……行き着く先はきっと同じ
なのでしょう」
「同じ、というのは?」
「滅び、でしょうね」
 メアリー、彼女は戦いたがっている。愛する者と。
 自分もまた決着を付けなくてはいけない、ケントと。
「……そうか、それもまたいいのかもしれん」
「では、私はこれで……」
「ああ」
 セルは司令に頭を下げるとそのまま部屋を出て行った。
 一人になるとそのまま椅子にもたれかかった。そして口元に手をやると顔が綻ぶのがわかった。
 自分達は追い詰められている、という事実に対して笑いが止まらなかったのだ。
「フフフ……フハハハハハハ!」
 彼女もまた、戦いという物に魅入られたものであった。

 所変わってロシア北西部にある都市、モスクワ。
 かつて赤の広場と呼ばれたこの場所にバイラムによって家を、家族を、故郷を、そして思い出を失った人々
で溢れかえっていた。人々からは絶え間ないため息と不慣れな土地ゆえにいいようの無い不安感、そして失っ
たことによる悲しみが大きな雲のように流れていた。
 そして、旧ロシアにある国会議事堂では二人の男がいた。
 一人はハワードであり、もう一人は国連事務総長である。
「バイラムの攻撃は?」
「以前続いておりますがAUAにいるバイラムは既に掃討を完了したと報告が。現在の死者は二億――」
 死傷者の報告を淡々と話すハワード。彼の顔には能面のような顔が張り付いており、現在の状況を認めたく
なかったようだ。一方、聞いている事務総長もまた、凍りついた顔でハワードの報告を聞いていた。
「そうか。それで約束を反故をした者達はほとんど死んだのかね?」
「いえ、一部の政府高官は専用のシェルターへ避難しました」
「そうか、それは残念だ」
 国連事務総長は鼻で笑った。
「残念……ですか?」
「そうだよ、ハワード。ここまで来たらもはや何も残らないということだ」
 国連事務総長は椅子に寄りかかりながら狂ったように笑い始めた。
「全く、大したものだよ。私が積み上げてきたものはたった一つの保身のおかげで泡と共に消え去った。これ
は喜劇なのかね? ハワード。いや、喜劇などではないな、コントやバラエティ番組の一種だ! 三強も国連
も皆滅びる! しかも当事者達は何故この事態になったのかすら分からない! まさにコメディだよ!」
 ハワードは黙ったまま事務総長を見つめていた。
「くっくっくっくっ、ハワード、私はどうしたら良い?」
 力なくいう事務総長を見ながらハワードは極めて冷静に言い放った。戸惑いも優しさも無くただの言葉として。
「事実を公表すべきだと思います」
「そんな事をすればパニックになるのでは?」
「少なくともこの状況を作り出したものを燻し出すことは出来ます」
「ふん、その後は?」
「対アンギュロス、いえ、異星人部隊を作ります」
「……勝てるのかね?」
「それは神のみぞ知るものです。私は勝利ではなく別の事、あえて言えば国連の人々の首を差し出すことで一
旦、交渉を白紙にすべきではないでしょうか?」
 ハワードは言葉を淡々と続けていく。
「私は政治家と言う職業を詐欺師の集まりにしたくは無いのです」
 これは真実であった、ハワードにとっての。もしもここで何も責任を取らなければ一体何のための民主主義
なのだろう? そうハワードは問いかけたかった。
 そんな彼の言葉を受けてか、事務総長は重い口を開いた。
「……わかった、事実を公表しよう」
「ありがとうございます」
 責任を取ろうとする彼に対し、ハワードは深々と頭を下げた。

第12話「命というモノ」へ続く

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