その『×』は真昼にやってきた。
女木戸市の中央通りに突如として、一切の前触れなく出現した巨大な影は、
前回と同様に近づいた人々を昏倒させ街を恐怖に陥れる。その混乱の渦中を民族衣装のような制服をまとった
天照研究所の職員たちが奔走し、倒れた人々を安全な場所へうつすとともに、これ以上の被害をくい止めるために
魔学を駆使していた。
志野真実はすでにシンブレイカーの胸に抱かれて静かに出撃の時を待っている。
服装は頼人から渡された、各所に色んな機械の付いたドライスーツのようなものに着替えていた。
全体的に白っぽい色あいで、飾り布がまきついたそれはシンブレイカーとの精神リンクの微調整や、
『×』からの精神干渉への防御の機能があるらしい。ごちゃごちゃした見た目とは裏腹に生地がよく伸び、
とても動きやすいのだが、気に入らないのは、裏地になにか経文や神秘的な幾何学模様が隙間なく印刷されていて、
それが着替えるのに躊躇するほどに不気味なことだ。どうしても必要なものなのかと頼人に訊いたら『仕方ないことです』
と言われてしまった。
研究所の指令室では天照が最上段の席に座し、頼人をはじめとする研究員たちがシンブレイカーの起動準備と
『×』の分析、一般人の救助等に忙殺されている。その中に八意の姿は無かった。彼は自分の研究室の中で両手を大きく
広げてひとりで高笑いをしている。
カオスマンはすでに迎撃体制にうつっていた。彼はビルの屋上でマフラーを風になびかせている……。
女木戸市の中央通りに突如として、一切の前触れなく出現した巨大な影は、
前回と同様に近づいた人々を昏倒させ街を恐怖に陥れる。その混乱の渦中を民族衣装のような制服をまとった
天照研究所の職員たちが奔走し、倒れた人々を安全な場所へうつすとともに、これ以上の被害をくい止めるために
魔学を駆使していた。
志野真実はすでにシンブレイカーの胸に抱かれて静かに出撃の時を待っている。
服装は頼人から渡された、各所に色んな機械の付いたドライスーツのようなものに着替えていた。
全体的に白っぽい色あいで、飾り布がまきついたそれはシンブレイカーとの精神リンクの微調整や、
『×』からの精神干渉への防御の機能があるらしい。ごちゃごちゃした見た目とは裏腹に生地がよく伸び、
とても動きやすいのだが、気に入らないのは、裏地になにか経文や神秘的な幾何学模様が隙間なく印刷されていて、
それが着替えるのに躊躇するほどに不気味なことだ。どうしても必要なものなのかと頼人に訊いたら『仕方ないことです』
と言われてしまった。
研究所の指令室では天照が最上段の席に座し、頼人をはじめとする研究員たちがシンブレイカーの起動準備と
『×』の分析、一般人の救助等に忙殺されている。その中に八意の姿は無かった。彼は自分の研究室の中で両手を大きく
広げてひとりで高笑いをしている。
カオスマンはすでに迎撃体制にうつっていた。彼はビルの屋上でマフラーを風になびかせている……。
最後に研究員たちの報告をうけて、とうとう天照は叫んだ。
「魔学使用承認! シンブレイカー、起動せよ!」
「魔学使用承認! シンブレイカー、起動せよ!」
ビルの谷間に巨人が立つ。
私はその胸中から2体めの敵を見据えた。
今回の『×』は人型だった。
黒いプラスチックのような表面の、いわゆる裃を着た痩せっぽっちの男が、空中に軽く足を広げて正座したまま、
ゆっくりと地面と平行にスライドしている。その様子は現代美術のオブジェのようにシュールだ。
「前回は断頭台だったけど……」
今回はなんだろう。今回もやはり何かを模しているのだろうか。
「今回は『切腹』ですね」
天照の落ち着いた声が私の立つ異空間に響いた。
「ハラキリ、ですか」
言われて納得した。たしかにあの黒い巨人の姿勢は今まさに小刀を目の前に置き、切腹に臨もうとする人間のものだ。
ただし小刀らしいものは今のところは見当たらない。
(刀……か)
私はシンブレイカーの右腕でその腰部装甲の後ろに鎖で吊り下げられた巨大なものの柄に触れた。
それは『太刀』だった。
それは前回指摘されたシンブレイカーの問題点――武装が少なすぎること――を受けて八意が設計したもので、
『×』にも有効な斬撃を繰り出せるそうだ。
(そんな技術があるならシンブレイカーとか要らないんじゃ?)と私は思ったが、天照の説明によると、
この太刀では『×』の滅却は不可能で、しかも『×』に有効な斬撃を放つためのエネルギーはシンブレイカーの動力源
から引っ張らないととても賄えないらしい。
だからあくまでこの太刀は相手の隙を作るためにしか使えないのだそうだ。
「志野さん、準備はよろしいですか?」
天照の声が響いた。私はうなずく。
「警戒してください、まだ今回の敵はどういうものかわかってません」
「はい。それよりも、あの約束を……」
「大丈夫です、承知してますよ。」
天照はそう言った。
『約束』とは、私が今回シンブレイカーに乗る条件として突きつけたもので、『全てを包み隠さず話す』というものだった。
『×』、カオスマン、天照研究所、魔学……全ての答えがこの戦いの後に分かる、そう思うとメラメラと闘志が
湧いてきた。
「じゃあ……行きます!」
「行ってください!」
シンブレイカーはドームを飛び越え、中央の道路をまっすぐに『×』に向かって突進した。
右肩の廃棄口の輝きが増し、大きく反り返った光の刃が形成される。巨人はそこを突き出して上半身を縮め、
タックルをかました。光の刃は『×』の胸に突き刺さる。
そこで巨人は足を踏ん張ってブレーキをかけた。まだ前回の戦いの補修が終わっていない道路がめちゃくちゃに
荒らされる。心が痛んだが、無視した。
肩に突き刺さり、ぐったりとした『×』を、なるべくその傷が広がるように肩から引き抜き、そのまま巨人の左腕を
『×』の腋、右腕を腰あたりからまわして全体を肩に背負い、全力で下に引っ張る――プロレス技のひとつ、
バックブリーカーだ。
これだけのことをされても今回の『×』は悲鳴をあげない。私はさらに力をこめた。嫌な音と感触が首の後ろでする。
『×』の背骨がへし折れたらしい。
巨人は『×』の足をひっつかみ、拘束していた腕を離して、『×』を地面に叩きつける――「それはダメです!」
天照が叫んだ。
私はぎょっとした。ボロ布のように地面に叩きつけられたはずの『×』はそのまま地面の中に吸い込まれたのだ。
天照が言う。
「『×』に実体は無いんです! 叩きつけるような攻撃に効果はありません!」
私は周囲を警戒した。片手を刀に添える。すると次の指示がとんできた。
「西へ向かって、女木戸ヶ丘に出てください。そこなら思いきり暴れられます。」
「わかりました。『×』はどうやって誘い出します?」
「勝手についてきます。足下からの攻撃に気をつけて。」
その言葉になにか引っかかるものを感じたが、すぐに頭から振り払って、私は西へと向かって走った。
私はその胸中から2体めの敵を見据えた。
今回の『×』は人型だった。
黒いプラスチックのような表面の、いわゆる裃を着た痩せっぽっちの男が、空中に軽く足を広げて正座したまま、
ゆっくりと地面と平行にスライドしている。その様子は現代美術のオブジェのようにシュールだ。
「前回は断頭台だったけど……」
今回はなんだろう。今回もやはり何かを模しているのだろうか。
「今回は『切腹』ですね」
天照の落ち着いた声が私の立つ異空間に響いた。
「ハラキリ、ですか」
言われて納得した。たしかにあの黒い巨人の姿勢は今まさに小刀を目の前に置き、切腹に臨もうとする人間のものだ。
ただし小刀らしいものは今のところは見当たらない。
(刀……か)
私はシンブレイカーの右腕でその腰部装甲の後ろに鎖で吊り下げられた巨大なものの柄に触れた。
それは『太刀』だった。
それは前回指摘されたシンブレイカーの問題点――武装が少なすぎること――を受けて八意が設計したもので、
『×』にも有効な斬撃を繰り出せるそうだ。
(そんな技術があるならシンブレイカーとか要らないんじゃ?)と私は思ったが、天照の説明によると、
この太刀では『×』の滅却は不可能で、しかも『×』に有効な斬撃を放つためのエネルギーはシンブレイカーの動力源
から引っ張らないととても賄えないらしい。
だからあくまでこの太刀は相手の隙を作るためにしか使えないのだそうだ。
「志野さん、準備はよろしいですか?」
天照の声が響いた。私はうなずく。
「警戒してください、まだ今回の敵はどういうものかわかってません」
「はい。それよりも、あの約束を……」
「大丈夫です、承知してますよ。」
天照はそう言った。
『約束』とは、私が今回シンブレイカーに乗る条件として突きつけたもので、『全てを包み隠さず話す』というものだった。
『×』、カオスマン、天照研究所、魔学……全ての答えがこの戦いの後に分かる、そう思うとメラメラと闘志が
湧いてきた。
「じゃあ……行きます!」
「行ってください!」
シンブレイカーはドームを飛び越え、中央の道路をまっすぐに『×』に向かって突進した。
右肩の廃棄口の輝きが増し、大きく反り返った光の刃が形成される。巨人はそこを突き出して上半身を縮め、
タックルをかました。光の刃は『×』の胸に突き刺さる。
そこで巨人は足を踏ん張ってブレーキをかけた。まだ前回の戦いの補修が終わっていない道路がめちゃくちゃに
荒らされる。心が痛んだが、無視した。
肩に突き刺さり、ぐったりとした『×』を、なるべくその傷が広がるように肩から引き抜き、そのまま巨人の左腕を
『×』の腋、右腕を腰あたりからまわして全体を肩に背負い、全力で下に引っ張る――プロレス技のひとつ、
バックブリーカーだ。
これだけのことをされても今回の『×』は悲鳴をあげない。私はさらに力をこめた。嫌な音と感触が首の後ろでする。
『×』の背骨がへし折れたらしい。
巨人は『×』の足をひっつかみ、拘束していた腕を離して、『×』を地面に叩きつける――「それはダメです!」
天照が叫んだ。
私はぎょっとした。ボロ布のように地面に叩きつけられたはずの『×』はそのまま地面の中に吸い込まれたのだ。
天照が言う。
「『×』に実体は無いんです! 叩きつけるような攻撃に効果はありません!」
私は周囲を警戒した。片手を刀に添える。すると次の指示がとんできた。
「西へ向かって、女木戸ヶ丘に出てください。そこなら思いきり暴れられます。」
「わかりました。『×』はどうやって誘い出します?」
「勝手についてきます。足下からの攻撃に気をつけて。」
その言葉になにか引っかかるものを感じたが、すぐに頭から振り払って、私は西へと向かって走った。
女木戸ヶ丘は女木戸市の西に広がる平原で、建物などもほとんど無い。そのため巨人と悪霊が周囲に迷惑をかけずに
戦うにはうってつけの場所だ。
丘の真ん中まで走り込んだ私は後ろを確認する。何もいない……
じゃあ地面の下? そうして視線を落とした瞬間、地面から生えた真っ黒い2本の腕がこちらの足を掴もうとしてきた
ので、私はとっさにシンブレイカーをジャンプさせた。
離れる地面に現れたのは、身体が奇妙な方向にへし折れた『×』だった。私は空中でその腹に狙いを定め、叫ぶ。
「右足! 刃出してっ!」
すでに後ろに振り上げていた、シンブレイカーの右の爪先にある光の刃が輝いた。落下しつつ、思いきりその刃が
突き刺さるように『×』を蹴る。
と、その瞬間敵は大きく身をよじった。巨人の蹴りの狙いはそれる――結果、巨人の刃は『×』の腹ではなく首に
突き刺さり、そのままサッカーボールのように頭部を蹴り飛ばすことになった。
「2打席連続ホームラン!」
頼人の興奮した声がした。
「サッカーにホームランは無いでしょう」と天照の声。
「ツッコミどころ、そこ違う!」
着地し、後方に跳んで距離をとりつつ私はそう叫んだ。
私は奇妙な感覚に陥っていた。
今回の、あの『×』――切腹をモチーフにしたあの『×』は、どうにも手応えがない。というか、攻撃する意思が見られない。
胸を刺されようが、背骨をへし折られようが、首をはね飛ばされようが、前の『×』のように悲鳴ひとつあげないのも
不気味だ。
奴がしたことといえば、地中から巨人の足を掴もうとしただけ……そのことがどうにも気にかかった。
「さて、志野さん」
不意に天照が話しかけてきた。私は応える。
「おそらく、本番はここからです。」
「それはどういう――」
「『×』、変型!」
頼人の声にハッとして、改めて敵を見据えた。
『×』の胸には最初のタックルで開いた大きな穴があったのだが、その内側に何かが蠢いている。
それは不定形の黒いスライムのようで、血とも違った。そのスライムは『×』の胸から這い出て、地面に落ち、
やがて人の形に固まる。
私はその姿を見て、それが何かを理解した。
「まさか『介錯人』……?」
抜き身の刀を低く持ち、着物の袖を紐で結んだ黒い侍の姿を見て、口をあんぐり開けてしまった。
「腹を割いただけでは人はすぐには死にません。だから慈悲の意味もこめて確実に首をはねなければいけないんです。」
天照が解説するが、私にとってそんなことはどうでもいい。
「要するに、あれが『×』の本体ってことですね!」
「ええ、ですが気をつけて。介錯人は多くが剣の達人です。」
腹から介錯人を生み出したあとの切腹人は前のめりに倒れ、地面に吸いこまれる。残るのは介錯人だけになった。
「やつはまだ首をはねてません、おそらく志野さんの首を狙ってくるでしょう。」
「また首? ギロチンのときもそうでしたよね」
「首をはねるのが一番苦痛が少ないですから」
「それって……まるで」
天照の言葉に私は思う。
(『×』が情けをかけてるみたいだ……)
「『介錯人』、刀をふりあげました!」
横から割って入った頼人の声に私はシンブレイカーを身構えさせる。
介錯人は刀の先を空に向け、足を少しだけ開いて静止している。しかしそれは緊張ある静止だった。
まるで獣が獲物に飛びかかる寸前のような――そして実際、そのとおりだった。
『×』は地面を蹴ると、目にも止まらぬスピードでシンブレイカーに接近し、刀で斬り伏せようとしてきた。
私は反射的に腕でガードする。マズかった。
「いだぁっ!?」
巨人の腕に振られた日本刀の刃はその装甲に弾かれたが、その衝撃は凄まじく、それだけでもかなりの痛みがあった。
スーツの内側の肌に青あざができる。
私はさらに後方に跳びつつ、素手での戦闘は危険だと判断する。
「刀はいける!?」
私は大声で訊いた。
「エネルギーはMAX! いけますよ!」
頼人が答える。
私は腰の後ろの太刀に手をそえ、再び『×』が踏み込んできたその瞬間を狙って、太刀を鞘から抜き放った。
直後、空中へ切り飛ばされる『×』の刀を握る両腕――!
シンブレイカーは『×』とすれ違い、刀を下から振り上げた姿勢で止まった。『×』は振り下ろしたはずの両腕が無く
なったことで姿勢を崩し、地面に倒れる。
巨人の手の刀は異様な造形だった。
刀の刃は赤く輝き、キラキラとしたエネルギーの残滓を纏っている。刀の背の部分には機械のようなディテールが
ずらりと並んでいて、それらはすさまじい熱と蒸気を発していた。
これが八意の開発したシンブレイカー専用の太刀『破罪刀』である。
私は素早く『×』の方を振り向いた。この刀では『×』を痛めつけることはできても、とどめを刺すことはできない。
案の定敵はすでに吹き飛んだ腕をまたくっつけていた。
「化け物め……あんた、なんなんだよ」
思わずそんな感想が出た。与えたダメージをすぐ回復されるたびに戦意をくじかれそうになってしまう。
だから、次できめることにした。
刀を上段に構え、精神を集中する。「刀が使えなくなるまであと何秒?」と訊いた。
「あと45秒」
返事を聞きながら私は『×』を見た。向こうもこちらと同じように刀をかまえ、ジリジリと詰め寄ってきている。
ゆっくり息を吐き、吸った。
辺りの空気が張り詰める……。
戦うにはうってつけの場所だ。
丘の真ん中まで走り込んだ私は後ろを確認する。何もいない……
じゃあ地面の下? そうして視線を落とした瞬間、地面から生えた真っ黒い2本の腕がこちらの足を掴もうとしてきた
ので、私はとっさにシンブレイカーをジャンプさせた。
離れる地面に現れたのは、身体が奇妙な方向にへし折れた『×』だった。私は空中でその腹に狙いを定め、叫ぶ。
「右足! 刃出してっ!」
すでに後ろに振り上げていた、シンブレイカーの右の爪先にある光の刃が輝いた。落下しつつ、思いきりその刃が
突き刺さるように『×』を蹴る。
と、その瞬間敵は大きく身をよじった。巨人の蹴りの狙いはそれる――結果、巨人の刃は『×』の腹ではなく首に
突き刺さり、そのままサッカーボールのように頭部を蹴り飛ばすことになった。
「2打席連続ホームラン!」
頼人の興奮した声がした。
「サッカーにホームランは無いでしょう」と天照の声。
「ツッコミどころ、そこ違う!」
着地し、後方に跳んで距離をとりつつ私はそう叫んだ。
私は奇妙な感覚に陥っていた。
今回の、あの『×』――切腹をモチーフにしたあの『×』は、どうにも手応えがない。というか、攻撃する意思が見られない。
胸を刺されようが、背骨をへし折られようが、首をはね飛ばされようが、前の『×』のように悲鳴ひとつあげないのも
不気味だ。
奴がしたことといえば、地中から巨人の足を掴もうとしただけ……そのことがどうにも気にかかった。
「さて、志野さん」
不意に天照が話しかけてきた。私は応える。
「おそらく、本番はここからです。」
「それはどういう――」
「『×』、変型!」
頼人の声にハッとして、改めて敵を見据えた。
『×』の胸には最初のタックルで開いた大きな穴があったのだが、その内側に何かが蠢いている。
それは不定形の黒いスライムのようで、血とも違った。そのスライムは『×』の胸から這い出て、地面に落ち、
やがて人の形に固まる。
私はその姿を見て、それが何かを理解した。
「まさか『介錯人』……?」
抜き身の刀を低く持ち、着物の袖を紐で結んだ黒い侍の姿を見て、口をあんぐり開けてしまった。
「腹を割いただけでは人はすぐには死にません。だから慈悲の意味もこめて確実に首をはねなければいけないんです。」
天照が解説するが、私にとってそんなことはどうでもいい。
「要するに、あれが『×』の本体ってことですね!」
「ええ、ですが気をつけて。介錯人は多くが剣の達人です。」
腹から介錯人を生み出したあとの切腹人は前のめりに倒れ、地面に吸いこまれる。残るのは介錯人だけになった。
「やつはまだ首をはねてません、おそらく志野さんの首を狙ってくるでしょう。」
「また首? ギロチンのときもそうでしたよね」
「首をはねるのが一番苦痛が少ないですから」
「それって……まるで」
天照の言葉に私は思う。
(『×』が情けをかけてるみたいだ……)
「『介錯人』、刀をふりあげました!」
横から割って入った頼人の声に私はシンブレイカーを身構えさせる。
介錯人は刀の先を空に向け、足を少しだけ開いて静止している。しかしそれは緊張ある静止だった。
まるで獣が獲物に飛びかかる寸前のような――そして実際、そのとおりだった。
『×』は地面を蹴ると、目にも止まらぬスピードでシンブレイカーに接近し、刀で斬り伏せようとしてきた。
私は反射的に腕でガードする。マズかった。
「いだぁっ!?」
巨人の腕に振られた日本刀の刃はその装甲に弾かれたが、その衝撃は凄まじく、それだけでもかなりの痛みがあった。
スーツの内側の肌に青あざができる。
私はさらに後方に跳びつつ、素手での戦闘は危険だと判断する。
「刀はいける!?」
私は大声で訊いた。
「エネルギーはMAX! いけますよ!」
頼人が答える。
私は腰の後ろの太刀に手をそえ、再び『×』が踏み込んできたその瞬間を狙って、太刀を鞘から抜き放った。
直後、空中へ切り飛ばされる『×』の刀を握る両腕――!
シンブレイカーは『×』とすれ違い、刀を下から振り上げた姿勢で止まった。『×』は振り下ろしたはずの両腕が無く
なったことで姿勢を崩し、地面に倒れる。
巨人の手の刀は異様な造形だった。
刀の刃は赤く輝き、キラキラとしたエネルギーの残滓を纏っている。刀の背の部分には機械のようなディテールが
ずらりと並んでいて、それらはすさまじい熱と蒸気を発していた。
これが八意の開発したシンブレイカー専用の太刀『破罪刀』である。
私は素早く『×』の方を振り向いた。この刀では『×』を痛めつけることはできても、とどめを刺すことはできない。
案の定敵はすでに吹き飛んだ腕をまたくっつけていた。
「化け物め……あんた、なんなんだよ」
思わずそんな感想が出た。与えたダメージをすぐ回復されるたびに戦意をくじかれそうになってしまう。
だから、次できめることにした。
刀を上段に構え、精神を集中する。「刀が使えなくなるまであと何秒?」と訊いた。
「あと45秒」
返事を聞きながら私は『×』を見た。向こうもこちらと同じように刀をかまえ、ジリジリと詰め寄ってきている。
ゆっくり息を吐き、吸った。
辺りの空気が張り詰める……。
――直後、その緊張が破られた。
先に踏み込んだのはシンブレイカー。巨人は握った刀の切っ先が背中につくくらいに大きく腕を振り上げ、
防御を一切考えない低い姿勢で突撃した。
対する『×』はそれを真っ向から迎え撃つ。振り上げた刀を素早く振り下ろした。
2本の刃がぶつかる。両断され、刃を空中に踊らせることになったのは――
――『×』だった。
先に踏み込んだのはシンブレイカー。巨人は握った刀の切っ先が背中につくくらいに大きく腕を振り上げ、
防御を一切考えない低い姿勢で突撃した。
対する『×』はそれを真っ向から迎え撃つ。振り上げた刀を素早く振り下ろした。
2本の刃がぶつかる。両断され、刃を空中に踊らせることになったのは――
――『×』だった。
たしかな手応えを腕に感じて、私は最初の一太刀が上手くいったことを知った。しかしここで止まってはならない。
私は刀を反転させ、下から上へ切り返す。『×』の腕がまた吹き飛んだ。だがまだ攻撃の手を休めるわけにはいかない!
私はさらに刀を振り下ろし、今度は相手の胴体を袈裟斬りにしてやろうとした。
が、そのために刀を反転させた直後、私は予想外の事態に直面した。
(――体が動かない!?)
私は腕を振り上げた姿勢のままで固まってしまっていた。当然シンブレイカーもその姿勢のまま動かなくなる。
口まわりはかろうじて動かせたので、私は訊いた。
「動かない!」
「志野さん、これを見て!」
目の前の空間に小さな窓が出現する。それはどうやらシンブレイカーを外部のカメラで撮影しているもののようだ。
「なにこれ!?」
私はそこに映る巨人の姿を見て驚いた。
シンブレイカーの背中にはなにか黒い影のようなものが貼りついていて、それの地面まで伸びた端が巨人の動きを
封じていたのだ。
「『切腹人』です! 地面の中に潜んでいたようです!」
頼人の報告が聞こえた。
さっき介錯人を産んだアイツが、まだ生きていたのか! 理解した私はもがくが、切腹人の影を振り払うことはできず、
逆に身体を引っ張られ、無理やり両膝を地面につかされることになった。腕は刀を握ったまま下げられ、
膝の上に添えられる。私は気づいた。
(この姿勢、切腹だ!)
ゾッとしてシンブレイカーの様子を確認する。黒い影は巨人をすっかり包み込んでいた。
そんな巨人の目の前にすぅ、と静かに立つ『介錯人』。その腕は刀を含め、すでに再生しかけていた。
さらに悪い状況は重なる。
「破罪刀、エネルギーダウン!」
報告とともにシンブレイカーの握る刀の赤い輝きが消える。精神体である『×』を斬る力を失ったのだ。
「鞘に納めて充電してください!」
頼人がそう叫ぶが、私がいくらもがいても巨人の体はびくともしない。これは単純な力によるものじゃない、
と直感した。
「パイロットとの精神リンクに『×』の介入あり! 操作系が乗っ取られています! この状態で首をはねられたら
精神が死を認識します!」
そんな声が聞こえた。正直何言ってるか全然わからないが、とにかくヤバい状況らしい。
「ねぇ、どうすればいい!?」
私は問いかけた。
そうこうしているうちに介錯人は腕と刀の再生を完了する。いよいよ一刻の猶予もない。
私は刀を反転させ、下から上へ切り返す。『×』の腕がまた吹き飛んだ。だがまだ攻撃の手を休めるわけにはいかない!
私はさらに刀を振り下ろし、今度は相手の胴体を袈裟斬りにしてやろうとした。
が、そのために刀を反転させた直後、私は予想外の事態に直面した。
(――体が動かない!?)
私は腕を振り上げた姿勢のままで固まってしまっていた。当然シンブレイカーもその姿勢のまま動かなくなる。
口まわりはかろうじて動かせたので、私は訊いた。
「動かない!」
「志野さん、これを見て!」
目の前の空間に小さな窓が出現する。それはどうやらシンブレイカーを外部のカメラで撮影しているもののようだ。
「なにこれ!?」
私はそこに映る巨人の姿を見て驚いた。
シンブレイカーの背中にはなにか黒い影のようなものが貼りついていて、それの地面まで伸びた端が巨人の動きを
封じていたのだ。
「『切腹人』です! 地面の中に潜んでいたようです!」
頼人の報告が聞こえた。
さっき介錯人を産んだアイツが、まだ生きていたのか! 理解した私はもがくが、切腹人の影を振り払うことはできず、
逆に身体を引っ張られ、無理やり両膝を地面につかされることになった。腕は刀を握ったまま下げられ、
膝の上に添えられる。私は気づいた。
(この姿勢、切腹だ!)
ゾッとしてシンブレイカーの様子を確認する。黒い影は巨人をすっかり包み込んでいた。
そんな巨人の目の前にすぅ、と静かに立つ『介錯人』。その腕は刀を含め、すでに再生しかけていた。
さらに悪い状況は重なる。
「破罪刀、エネルギーダウン!」
報告とともにシンブレイカーの握る刀の赤い輝きが消える。精神体である『×』を斬る力を失ったのだ。
「鞘に納めて充電してください!」
頼人がそう叫ぶが、私がいくらもがいても巨人の体はびくともしない。これは単純な力によるものじゃない、
と直感した。
「パイロットとの精神リンクに『×』の介入あり! 操作系が乗っ取られています! この状態で首をはねられたら
精神が死を認識します!」
そんな声が聞こえた。正直何言ってるか全然わからないが、とにかくヤバい状況らしい。
「ねぇ、どうすればいい!?」
私は問いかけた。
そうこうしているうちに介錯人は腕と刀の再生を完了する。いよいよ一刻の猶予もない。
研究所の指令室で、天照は指を顎先にやり、考えこんでいた。
周りの所員たちからは次々と報告が上がってくるが、もはやそれすら聞き流している。
頼人がそばにかけより、耳うちする。
「まだ精神リンクの切断はできます。志野さんだけでも助けることは?」
「それでは本末転倒なうえに何も解決しません、最悪の結果です」
「じゃあどうします?」
「仕方ありません……賭けになりますが」
すると天照は頼人に指で指示をした。それを受けて、彼は指令室全体に向けて叫ぶ。
「シンブレイカー、ブレイクモード!」
周りの所員たちからは次々と報告が上がってくるが、もはやそれすら聞き流している。
頼人がそばにかけより、耳うちする。
「まだ精神リンクの切断はできます。志野さんだけでも助けることは?」
「それでは本末転倒なうえに何も解決しません、最悪の結果です」
「じゃあどうします?」
「仕方ありません……賭けになりますが」
すると天照は頼人に指で指示をした。それを受けて、彼は指令室全体に向けて叫ぶ。
「シンブレイカー、ブレイクモード!」
唐突な衝撃に私はよろめいた。コクピットの周囲から機械の駆動音が鳴り響き、自分の体の中から熱い力が
湧き出てくる。
「これって……!」
私はすぐに理解した。前回トドメを刺したときの、あれだ!
「ブレイクモードになりました、志野さん、我慢してください」
「また痛いの!?」
「今回は『気持ち悪い』ですよ!」
頼人の不吉な宣告に身震いする。
シンブレイカーの内部メカは自壊寸前までその動きを高め、すさまじいエネルギーと静電気を発する。
巨人を包み込んでいた切腹人の影の向こうから巨人の装甲表面の赤いラインの強烈な輝きが透けた。
「思考パターンは密教タイプB!
真言用のドライブ以外は全て遮断!
対象の精神体は『大元帥明王』! 姿は一面六臂で固定!
憑依媒介はシンブレイカー自身だ!」
「コンタクト成功!」
「予備の砂をシンブレイカー直上へワープさせてください!」
指令室のやりとりが聞こえてくる。
両膝を地面につき、少しうなだれるような姿勢の巨人のかたわらに、とうとう腕も刀も完全に再生した『×』が立つ。
穏やかささえ感じさせる所作で刀を振り上げた。
同時に両肩に軽い衝撃と痛みがあった。
「両肩装甲パージ、準備完了!」
「砂、到達します!」
突然視界が、上から落下してきた真っ白い何かに覆われる。それはシンブレイカーの身体を構成するものと同じ砂
だった。ケーキに砂糖をまぶすように上方から砂の雨を浴びせられたのだ。
「時間がありません、精神体は?」
天照の落ち着いた声。
「顕現まであと10秒!」
「いけない、間に合わない――」
そのときにはすでに『×』は刀を振り下ろしていた――
湧き出てくる。
「これって……!」
私はすぐに理解した。前回トドメを刺したときの、あれだ!
「ブレイクモードになりました、志野さん、我慢してください」
「また痛いの!?」
「今回は『気持ち悪い』ですよ!」
頼人の不吉な宣告に身震いする。
シンブレイカーの内部メカは自壊寸前までその動きを高め、すさまじいエネルギーと静電気を発する。
巨人を包み込んでいた切腹人の影の向こうから巨人の装甲表面の赤いラインの強烈な輝きが透けた。
「思考パターンは密教タイプB!
真言用のドライブ以外は全て遮断!
対象の精神体は『大元帥明王』! 姿は一面六臂で固定!
憑依媒介はシンブレイカー自身だ!」
「コンタクト成功!」
「予備の砂をシンブレイカー直上へワープさせてください!」
指令室のやりとりが聞こえてくる。
両膝を地面につき、少しうなだれるような姿勢の巨人のかたわらに、とうとう腕も刀も完全に再生した『×』が立つ。
穏やかささえ感じさせる所作で刀を振り上げた。
同時に両肩に軽い衝撃と痛みがあった。
「両肩装甲パージ、準備完了!」
「砂、到達します!」
突然視界が、上から落下してきた真っ白い何かに覆われる。それはシンブレイカーの身体を構成するものと同じ砂
だった。ケーキに砂糖をまぶすように上方から砂の雨を浴びせられたのだ。
「時間がありません、精神体は?」
天照の落ち着いた声。
「顕現まであと10秒!」
「いけない、間に合わない――」
そのときにはすでに『×』は刀を振り下ろしていた――
――人は死ぬときに、今までの人生を思い出すという。
あのとき私の脳裏に浮かんだビジョンがそうだったのかは判らない。もしかしたら『×』の精神干渉作用が
シンブレイカーとパイロットスーツを越えて私の心を壊しにかかった結果かもしれない。
ただ、そのビジョンは確実に私の過去にあったことで、私が忘れていた重大な何かだったんだ。
あのとき私の脳裏に浮かんだビジョンがそうだったのかは判らない。もしかしたら『×』の精神干渉作用が
シンブレイカーとパイロットスーツを越えて私の心を壊しにかかった結果かもしれない。
ただ、そのビジョンは確実に私の過去にあったことで、私が忘れていた重大な何かだったんだ。
私は女木戸市を見下ろしていた。雲ひとつ無い快晴で、三州川の向こうの隣の市まで見渡せるほどだ。私はこの景色
に見覚えがある……
……そうだ、ここは織星山の展望台だ。つい昨日、高天原と一緒に来たばかりの……
ふと横を見ると、そこには例のハーレーが停まっていた。それを見て、私はどういうわけかとても懐かしい気分に
なる。
突然後ろから声をかけられた。
(おーい 準備できたぞ)
振り向いて、私は応えた。
(わかった、『×××』)
――ちょっと待って、今私は誰の名前を呼んだ?
振り向いた先にはひとりの青年がいて、こちらにかけよってくるところだった。
彼の向こう側には三脚に据えられた一眼レフのカメラが見える。
そうだ、写真を撮るんだ。
私は思い出してハーレーのそばへ立ち、その彼に寄り添うようにする。
ハーレーを背にして寄りかかり、カメラに向かってピースサインを決めた。
タイマーで、シャッターが押される。彼は言った。
(もう1枚撮ろう)
私はうなずく。
(うん、いいよ、『こうへい』)
に見覚えがある……
……そうだ、ここは織星山の展望台だ。つい昨日、高天原と一緒に来たばかりの……
ふと横を見ると、そこには例のハーレーが停まっていた。それを見て、私はどういうわけかとても懐かしい気分に
なる。
突然後ろから声をかけられた。
(おーい 準備できたぞ)
振り向いて、私は応えた。
(わかった、『×××』)
――ちょっと待って、今私は誰の名前を呼んだ?
振り向いた先にはひとりの青年がいて、こちらにかけよってくるところだった。
彼の向こう側には三脚に据えられた一眼レフのカメラが見える。
そうだ、写真を撮るんだ。
私は思い出してハーレーのそばへ立ち、その彼に寄り添うようにする。
ハーレーを背にして寄りかかり、カメラに向かってピースサインを決めた。
タイマーで、シャッターが押される。彼は言った。
(もう1枚撮ろう)
私はうなずく。
(うん、いいよ、『こうへい』)
ビジョンはそこで終わった。
――私は急速に意識を取り戻した。失われていた現実感が一気に押し寄せ、周囲の状況がわからず混乱する。
私はシンブレイカーがまだ地に膝をついたままなのを発見すると、じゃあ『×』の刀はどうなったのかと上を
見上げた。
振り下ろされた刃は巨人の腕で真剣白刃取り、受け止められていた。ホッとするが、すぐにそれがおかしいことに
気づく。
だって、巨人の両膝にはすでに一対の手が置かれているのだから。
「腕2本だけなら……ギリギリ間に合いました!」
頼人の嬉しそうな叫びがあった。その言葉で私はようやく理解する。
「残り2本、顕現します!」
号令とともに巨人の肩に砂が集まる。それはみるみる形を成し、一対の新たな腕となった。
新たに巨人の肩から生えた片腕は『切腹人』を引き剥がしにかかり、もう片方は『介錯人』の横腹に裏拳を叩き込み、
その相手を吹き飛ばす。
引き剥がされた『切腹人』はその端を掴まれたまま宙にぶんと振られると、刀から自由になった他の2本の腕にも
掴まれて、力任せに引き裂かれた。その破片は『介錯人』に投げつけられ、衝突した2体の『×』は再びひとつに
合体する。
自由になったシンブレイカーは再び大地に仁王立ち。破罪刀を鞘に収めてから2本の手を胸の前で合わせるとともに、
残り4本の手はそれぞれ印相を組んだ。
ひとつの頭に6本の腕を備えた勇ましいその姿は、まさしく密教に伝わる鬼神そのものだ!
私はシンブレイカーがまだ地に膝をついたままなのを発見すると、じゃあ『×』の刀はどうなったのかと上を
見上げた。
振り下ろされた刃は巨人の腕で真剣白刃取り、受け止められていた。ホッとするが、すぐにそれがおかしいことに
気づく。
だって、巨人の両膝にはすでに一対の手が置かれているのだから。
「腕2本だけなら……ギリギリ間に合いました!」
頼人の嬉しそうな叫びがあった。その言葉で私はようやく理解する。
「残り2本、顕現します!」
号令とともに巨人の肩に砂が集まる。それはみるみる形を成し、一対の新たな腕となった。
新たに巨人の肩から生えた片腕は『切腹人』を引き剥がしにかかり、もう片方は『介錯人』の横腹に裏拳を叩き込み、
その相手を吹き飛ばす。
引き剥がされた『切腹人』はその端を掴まれたまま宙にぶんと振られると、刀から自由になった他の2本の腕にも
掴まれて、力任せに引き裂かれた。その破片は『介錯人』に投げつけられ、衝突した2体の『×』は再びひとつに
合体する。
自由になったシンブレイカーは再び大地に仁王立ち。破罪刀を鞘に収めてから2本の手を胸の前で合わせるとともに、
残り4本の手はそれぞれ印相を組んだ。
ひとつの頭に6本の腕を備えた勇ましいその姿は、まさしく密教に伝わる鬼神そのものだ!
「『大元帥明王 アータヴァーカ』顕現しました!」
頼人の声が聞こえたが、私にはそんなことはどうでもよかった。
私は絶叫していた。
「うわぁああなにこれ気持ちわるい!」
私は体を縮め、おぞけに震える自らの肩を抱き、まとわりつくすさまじい違和感に悶えている。なんというか、
身体の一部が言うことをきかずに勝手に動き回る違和感を数倍にしたような、とにかく形容しがたい不快な違和感だ。
「腕が4本も余計に増えましたからね、脳が混乱しているんです」頼人が解説する。
「どうにかなんない!? ちょっとこれヤバい気持ち悪いんだけど!」
「『×』を倒せば終わります」
「わかった!」
私は巨人の足で大地を蹴った。
目の前に『×』がぐんと迫り、私は力任せに殴りつける。腹を殴られた『×』は体を浮かせた。
するとその浮いた体を、新たに増えた4本の腕ががっちりと捉え、持ち上げる。
「ゲェー! あれは!」
その様子を見て、頼人が興奮して叫んだ。
シンブレイカーの6本の腕は『×』の身体を、その両手首、両足首、腰を押さえつけた状態で自身の肩の上に、
逆さまに固定していた。そのままシンブレイカーはまた大地を蹴り、空中に跳び上がる!
「キン肉バ――」
「いいえ、あれはアシュラバスターです」
頼人と天照の声。私は聞き流す。
シンブレイカーが大地に着地した! 大量の土が舞い上がり、同時に『×』が絶叫する。『×』の四肢は
シンブレイカーの殺人技によってもがれ、敵はもはや達磨と成り果てた。
私はサッカーボールのようにそれを蹴り飛ばし、刀を再び抜く!
「チャージ不完全! 刀を鞘に戻してください!」
「いえ、このままやらせましょう、すでにシンブレイカーが自壊を始めてます、倒すなら今しかありません」
「うわああああああ!!」
雄叫びをあげ、私は刀を諸手で大上段に振り上げた。するとそれに呼応するように
四本の腕の手の平から灼熱の炎が舞い上がって、それぞれが武器の形に変形する。
落下する『×』が最期に見たのは、5つの武器を携えて迫る、炎の鬼神の姿だった。
鬼神が腕を振り下ろすと、炎の剣が『×』を切り裂く。その次は炎の槍が腹を貫き、炎の金剛杵が追い打ちをかける。
指から放たれた炎の投げ輪がいくつもの方向から突き刺さり、『×』の全身を光に包む。
苦悶の叫びが女木戸ヶ丘に響いた。私はそれをかきけすほどの大声を出す。
「うるっさいんだよ!!」
炎を纏った破罪刀を全力で振り下ろした。『×』は再びふたつに分断され、そして現れたときと同じように、
唐突に消滅した。
シンブレイカーは刀を振って炎を払い、納刀する。同時に4本の腕にヒビが入って、一瞬にして砕け散った。
装甲表面の紅い光も落ち着いている。
「……『切腹人』、滅却おわりぃ!」
2体めの『×』はそうして倒された。
頼人の声が聞こえたが、私にはそんなことはどうでもよかった。
私は絶叫していた。
「うわぁああなにこれ気持ちわるい!」
私は体を縮め、おぞけに震える自らの肩を抱き、まとわりつくすさまじい違和感に悶えている。なんというか、
身体の一部が言うことをきかずに勝手に動き回る違和感を数倍にしたような、とにかく形容しがたい不快な違和感だ。
「腕が4本も余計に増えましたからね、脳が混乱しているんです」頼人が解説する。
「どうにかなんない!? ちょっとこれヤバい気持ち悪いんだけど!」
「『×』を倒せば終わります」
「わかった!」
私は巨人の足で大地を蹴った。
目の前に『×』がぐんと迫り、私は力任せに殴りつける。腹を殴られた『×』は体を浮かせた。
するとその浮いた体を、新たに増えた4本の腕ががっちりと捉え、持ち上げる。
「ゲェー! あれは!」
その様子を見て、頼人が興奮して叫んだ。
シンブレイカーの6本の腕は『×』の身体を、その両手首、両足首、腰を押さえつけた状態で自身の肩の上に、
逆さまに固定していた。そのままシンブレイカーはまた大地を蹴り、空中に跳び上がる!
「キン肉バ――」
「いいえ、あれはアシュラバスターです」
頼人と天照の声。私は聞き流す。
シンブレイカーが大地に着地した! 大量の土が舞い上がり、同時に『×』が絶叫する。『×』の四肢は
シンブレイカーの殺人技によってもがれ、敵はもはや達磨と成り果てた。
私はサッカーボールのようにそれを蹴り飛ばし、刀を再び抜く!
「チャージ不完全! 刀を鞘に戻してください!」
「いえ、このままやらせましょう、すでにシンブレイカーが自壊を始めてます、倒すなら今しかありません」
「うわああああああ!!」
雄叫びをあげ、私は刀を諸手で大上段に振り上げた。するとそれに呼応するように
四本の腕の手の平から灼熱の炎が舞い上がって、それぞれが武器の形に変形する。
落下する『×』が最期に見たのは、5つの武器を携えて迫る、炎の鬼神の姿だった。
鬼神が腕を振り下ろすと、炎の剣が『×』を切り裂く。その次は炎の槍が腹を貫き、炎の金剛杵が追い打ちをかける。
指から放たれた炎の投げ輪がいくつもの方向から突き刺さり、『×』の全身を光に包む。
苦悶の叫びが女木戸ヶ丘に響いた。私はそれをかきけすほどの大声を出す。
「うるっさいんだよ!!」
炎を纏った破罪刀を全力で振り下ろした。『×』は再びふたつに分断され、そして現れたときと同じように、
唐突に消滅した。
シンブレイカーは刀を振って炎を払い、納刀する。同時に4本の腕にヒビが入って、一瞬にして砕け散った。
装甲表面の紅い光も落ち着いている。
「……『切腹人』、滅却おわりぃ!」
2体めの『×』はそうして倒された。