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シンブレイカー 第七話

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匿名ユーザー

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「退院おめでとー!」
 3日後、すっかり回復した岡本結衣をかこみ、私はいつもの仲間たちと市内のファミリーレストランで
彼女の退院を祝うために集まっていた。
 3日前に目にした死体のような姿がまるでウソのように彼女は明るく笑う。その笑顔を見て私は、
本当に心の底から「良かった」と思った。
「んでさ、結局原因はなんだったわけ?」
 誰かが彼女にそう訊いた。
「貧血だったみたい。ごめんね、心配かけて」
「貧血かー」
 ジュースをストローですする彼女。今度は別の仲間が身を乗り出す。
「でもでも、フツー貧血であそこまでなる?おかしくない?」
「だよね、おかしいよ」
 私は彼女の意見を肯定した。いくらユイが回復したからといって、天照研究所への怒りがおさまったわけじゃない。
「もしかしたら、なんか隠されてるんじゃないのー? 実はガンでした!とかさ」
「やめてよーもう」
 脳天気に笑いあう彼女らが私には眩しく見えた。
 自分のコーラをひとくち。薄いし、炭酸も無い。
「ところで話は全然変わるんだけど」
 不意に岡本が言った。
「みんな、コレ知ってる?」
 そうして彼女が鞄から取り出したのは彼女の携帯電話だった。しかしよく見ると、
イヤホンジャックに何か小さな見慣れない機械が刺さっている。私はその独特なデザインに見覚えがある気がした。
「なにそれ?」
 私の隣の娘が訊く。
「これね、退院するときに病院の受付の人が試供品とか言ってくれたんだけど、スゴイよ!」
 彼女はその機械をジャックから抜き、よく見えるように掲げる。
「なんとコレをジャックに挿すだけで、バッテリーが無限になるの!」
 彼女が大まじめにそう言った直後、私たちのテーブルには一瞬沈黙が舞い降りた。
しかし彼女らと私の沈黙は異質なものでもあった。
「え、あれ? ホントだよ?」
 周りの反応に少し困ったような様子になる岡本。彼女の隣の娘は苦笑いを浮かべた。
「いやー、さすがにそれは無いでしょー」
「いやホントなんだって!」
「……それ、知ってるかも」
 私がそう言うと、岡本は表情を明るくした。
「だよね、本当だよねこれ!」
「シノ、それマジなの?」
 岡本の隣が訝しげな表情を見せる。私は頷いた。
「それ、魔学だよね」
「あー、たしかにそんなこと言ってたかも」
「でもそれマジならヤバくない?」
「だよね、ヤバイよね!魔学ヤバイよ。これからクルよ」
 岡本の言葉に私は激しいものが胸にこみ上げるのを感じる。
 彼女を入院させた元凶の技術を、その本人に渡すなんて……いったい天照研究所はどういうつもりなんだ?
 私は無邪気にはしゃぐ彼女らをどうすることもできず、ただ眺めるだけだった。


 その日は夜中までカラオケとしゃれこみ、やっと解散しようという流れになったのは夜中の10時を過ぎてからだった。
 ひとりになった私は、痛むノドを押さえて街を歩く。田舎町とはいえ、市内の中心は夜中でも昼間のように明るい。
 ケータイをいじろうとしたが、出て行く勢いで研究所に返してしまったことを思い出す。
新しい携帯電話を手に入れなければならないが、その前に探さなければならないのはアルバイトだ。
貯金だってそんなにない。
 おまけにそう、あのケータイはウォークマンを兼ねていたから、しばらく音楽断ちだ。個人的にそれはつらい。
ピロウズが聴きたい。
 ノドの不快感が気になって歩きながら咳払いをした。ついついやりすぎてしまった。
 中央通りを行く足を止めてわきのコンビニに入った。のど飴の袋をひとつ掴み、2つ並んだレジへ持っていく。
会計の途中、ふと横へ視線をやった――
「あ」
 2人の声は重なっていた。偶然にもそこには高天原頼人がいた。彼も会計の途中だったらしい。
スマートな印象のスーツ姿で、まるで広告のモデルのような立ち姿だ。
「どうも……こんばんは」
 頭を下げる頼人に私は会釈を返す。会計を終えてさっさと店を出ていってしまいたかった。
 お釣りとレシートを受け取り、出口へとつま先を向ける。
「ちょ、ちょっとお待ちください」
 呼び止められた。仕方なく店を出たところで待つ。
「志野さん、お話があります」
 店を出てきた彼はそう言った。私は無言で彼を見る。
「志野さん、もう一度シンブレイカーに乗る気はありませんか?」
 予想の範囲内の質問だった。
 結局、私はシンブレイカーの操縦者として求められていただけなのだ、当然だ。
「あなたに乗っていただかないと、『×』をどうにもできなくなります」
 それを言われるとずきりと心が痛む。
「……まだ『×』がくるんですか」
「はい」
 私の質問に頷く頼人。
 3日前、『もう二度と乗らない』そう言って研究所を飛び出した私だったが、正直に言って、
その決意は揺らいでいた。
 だって、もしシンブレイカーが戦わなかったら、『×』をどうやって撃退するんだ?
 『×』が暴れまわればそれだけ人的な被害も大きくなる……ならば、シンブレイカーでそれを
少しでも抑えるべきなのではないか? 私はそう思っていた。
「パイロットは他にいないんですか」
 ……もしこの質問に頼人が『YES』と答えたら、研究所に戻ろう。大元の原因が研究所で、
自分はその不始末の処理をさせられているのだとしても、誰かがそれで助かるならば、それでいいじゃないか……
 しかし彼の答えは違った。
「いえ、いることはいるんですが……」
 言ってから彼はしまった、という表情をする。
「じゃあ、ますます私には関係ないじゃないですか」
 私は彼に噛みつくように言った。彼はうろたえる。
「い、いえ、たしかにシンブレイカーを動かせる人は他にもいるのですが――」
「――私じゃなきゃいけない理由でもあるんですか?」
 それは半ば勢いにまかせて口から出た挑発の言葉だったが、その言葉に誰よりもはっとしたのは自分自身だった。
「そうですよ……どうしてわざわざ私を選んだんですか。シンブレイカーは私でなくても動かせるのなら、
どうして――」
「し、失礼します!」
 突然、彼は踵を返して小走りに立ち去る。いきなりのことであっけにとられた私は我にかえると、
心の中で彼に中指を立てた。
(都合が悪くなったからって、逃げてんじゃないよ……!)
 私は荒い足取りで、女木戸市の人ごみにまぎれた。


 ……それからさらに3日後も、雲ひとつない快晴だった。日付はすでに6月だが、
どういうわけか今年は梅雨の気配が未だに無く空気はからりとしていた。気温は暖かく、
しかしときおり南から吹き抜ける風は涼しげでもあってとても過ごしやすい。定期テストも
まだ先のことであるということも手伝って、脳天気な大学生には心配ごとは何一つ無いはずなのだが、
私の心はずんと重いままだった。
 心配ごとが多すぎる。天照研究所のことはもちろん、シンブレイカーのことに、岡本結衣をはじめとする仲間たちや
同級生の中にもちらほら見えるあの謎の魔学機械の広がり(私は岡本から他にも機械をもらっている人が沢山いるということを聞いた)。
いつやってくるかわからない次の『×』、さらにもうひとつ――
(……結局、前回のあの幻覚? はなんだったんだろう……)
 気にかかっていたのは、前回の『×』との戦いのときに一瞬脳裏に浮かんだ、あのヴィジョンのことだった。
 織星山の展望台で、私と一緒に写真を撮る『こうへい』という名前の男性……
 ずばり言って、心当たりは無い。
 情況から見て、あの写真(残留思念を撮影した過去の写真)に写っていたのも『こうへい』で間違いないのだろうけれど、
やはり心当たりは無い。
 忘れてしまっているのだろうか。
 いや、2人きりで写真を撮るような関係の人を忘れるわけがないだろう。
 となると信用できないのは写真の方なのだけれども、わざわざ嘘をつく意味がわからないし……
 結局、何もわからないままだ。
 私はそれ以上の思考を放棄し、前方に視線をやった。すり鉢を半分にした形の大講義室の中心では、
老人がマイク片手に後ろの黒板に書かれた複雑な相関図を解説している。気づかないうちに大分講義が進んでいた。
となりの友達のノートを見せてもらい、すぐに追いつく――そのときだった。
 突然、講義室内にアナウンスが響いた。
「こちらは大学事務室です……全ての大学関係者に緊急のお知らせです……」
 室内が静まりかえり、空気が緊張する。
「市内に巨大な怪物が出現しました……学生の皆様は近くの教室で待機してください……
教員の方々は教員室へ集合をお願いします……職員の方々は各自で対応をお願いします……くりかえします……」
 にわかに騒がしくなり始める講義室。教授は全員に「落ち着いて待機」の指示を出した。
(『×』が来たんだ!)
 理解して、反射的に席を立ちそうになったのを私はぐっとこらえる。
(何を立ち上がろうとしているんだ。私にはもう関係ないこと……)
「またあの巨人も出るのかな?」
 隣の席からの言葉にどきりとする。
「なんかさー、あの巨人に暴れられるとすごい迷惑じゃない?」
 友達の言葉に、困惑しつつ相づちを打つ。
「中央の通りもまだ工事中だし、あの辺りにあった喫茶店もまだ工事中で行けないし」
「そ、そうだね……」
「オトコはああいうの好きそうだけどさー、アレって結局なんなの? 誰か知ってる?」
「あの巨人さー、怪物と戦ってるよね。エヴァンゲリオンみたいなやつなんじゃない?」
 後ろの席にいた、別の友達が言った。
「アニメじゃないんだからさー、勘弁してよ」
「……でも、あの巨人って、怪物を倒してくれるよね。それで助かってる人もいるんじゃないかな?」
 その横の岡本結衣が静かに言う。私のとなりの友達は面白くなさそうな顔をした。
「だとしてもさー」
 そうして彼女がまた口を開こうとしたとき――
「キャアアアアアアアアッ!!」
 ――講義室の端から悲鳴があがった!
 驚いて声の聞こえた方を振り向く。私は目を疑った。
 建物の壁や天井をすり抜けて、何か黒くて巨大な塊――『×』の身体だと私にはすぐわかった――の一部が
講義室内に現れたのだった。私は思わず叫んだ。
「危ない逃げて!」
 しかし『×』に一番近い位置にいる学生がとっさにそんなことを言われて反応できるはずもなく、
なにもできないまま『×』に接近される。だが次の瞬間、再び予想外なことが起こった。
 学生たちの間から強烈な光が発せられたかと思うと、それは次々と周囲の学生たちにも連鎖し、
気づくと赤く半透明で大きな壁が私たちを屋根のように覆っていたのだ。
 私はその光が岡本結衣のケータイ、正確にはそのイヤホンジャックに刺さった機械から発せられていることに気づく。
半ば奪い取るようにして渡してもらい、画面を見ると、そこには『対『×』防壁起動中 連動数5』との表示が出ていた。
 確認した直後、今度は講義室の扉が勢いよく開き、2人の天照研究所の制服に身を包んだ人物が踏み込んでくる。
私はケータイを岡本に返して席を立ち、走って彼らにかけよった。
「『×』はあそこです!」
「お迎えにあがりました!」
「もう乗らないって!」
「乗せませんから! ご同行を!」
 2人の研究員たちは私の腕を掴み、引っ張る。反射的に私はそれを振りほどいた。
「まずはあそこの『×』をなんとかして!」
「そのために!」
 すると再び彼らは私の体を掴みにかかった。私は嫌悪感に思わず一回体を引き、それから衝動的に
彼らの横をすり抜けて講義室の外へ走り出していた。
「こら待て!」
 廊下を全力で逃げ出す私に研究員がそう叫ぶ。私は建物の外へと出て、それから後方の空を見上げ、
ぎょっとした。
 太陽を背にして大学の建物に突き刺さるようにそびえ立っていたのは、巨大な『棒』だったのだ。
 だがただの棒ではない。その棒の半ばには後ろ手にその棒に縛り付けられた黒い人間が居て、私を見下ろしていた。
その無感情で輝きの無い瞳を見上げ、私は全身の毛が逆立った。
 とても耐えられず目を反らして大学の駐輪場へと走る。研究員たちが追ってきていた。
 自分の自転車に跨り、市外への道を走り出した。どういうことか解らないが研究員が追ってきているのなら、
市内へと向かうのは危険だろう。
「なんなんだよ……っつの」
 私はめいっぱいにペダルを漕ぎ続ける。市内から見て南、三州川に沿って下っていけばやがて隣の県に出るはずだ。
そこまで行けば平気だろう……多分。
 女木戸市内から離れるにつれ人影はまばらになり、それに伴って自動車も少なくなるので、
自動車は至極快適に走り続けられた。
 研究員たちの追跡もすぐに振りきり、やがて県境の目印である大きな橋にさしかかる。
(ここまで来れば市内からも研究所からもかなり離れたはずだし、もう『×』もシンブレイカーも見えないかな……)
 そう思い、橋の真ん中で私は後ろを振り返った。
 しかし予想は裏切られた。
 私の後方、わずか数十メートル先の空中に棒状の『×』は音もなく浮かんでいて、
縛り付けられた人間が私を見下ろしていたのだ。横の道路を走る車たちが次々と驚いて急ブレーキを踏み、停止する。
「そんな……なんで」
 そんな言葉がこぼれた。
 『×』は私と目が合うと、口を大きくあけ、ゆっくりと動かす。声は聞こえなかったが、
私にはその動きはまるで何かを言おうとしているように見えた。
(……『つ』……『ぐ』……?)
 私は気づいたらそれを読みとろうとしていた。なぜだかわからないが、あの『×』は私に何かを伝えようとしている……?
(『つぐ』……『な』……『え』……?)
「『つぐなえ』……?」
 『償え』。たしかに『×』はそう言っていた。
「なんなんだよ……アンタらは、何を言いたいんだ!」
 私は『×』に向かってそう叫んだ。
 正直に言って、怖くてたまらない。足は震えているし、握りこぶしはしびれて力が入らない。
寒いわけでもないのに奥歯は鳴り、頬を冷や汗が伝っていた。
 それでも私は腹の底から、全力で、『×』に対して言い放つ!

「私には、償うような罪は何もない!」

「――そのとおりです、志野さん」
 静かな声が辺りに響いた。と、同時に突然『×』がバラバラに分割され、その破片の向こう側から、
1つの人影と巨大な影が、爆音を引き連れて飛びこんでくる――
「頼人さんっ!」
 私はその影の名を呼んだ。
 巨大なハーレーは私の後方に着地してから後輪をすべらせ、通常の運転では到底不可能な軌道で私の前にまわり込む。
と同時にそのハーレーの上に、一緒に飛んでいた人影が着地した。
「カオスマンも……!?」
 目を丸くする私に運転席の頼人が微笑みかける。
「ここは私どもが足止めいたします。志野さんはこれ以上シンブレイカーの被害を広げないように、
女木戸市内に戻ってください」
 彼の後方ではカオスマンによってバラバラにされた『×』がすでに再生を始めている。
やはり『×』を倒せるのはシンブレイカーだけらしい。
「やっぱり……そうなんですね」
 ハーレーを降りる頼人に私は静かに言った。彼は申し訳なさそうに視線を落とす。
その態度が私の予想が間違っていないことを肯定していた。
「『×』の狙いは、私なんですね」
「……隠していて、すいませんでした」
「べつにいいですよ。それに……すっきりしました」
 私の言葉を意外に思ったのか、頼人は不思議そうにハーレーに跨る私を見た。
私はガソリンタンクの表面を指先で撫ぜる。ハーレーは気持ちよさそうに首を少し振った。
 私は『×』を振り向く。視線の先ではカオスマンが日本刀とワイヤーを駆使して『×』の足止めをしていた。
「実のところ、不安だったんですよ。理由もわからないまま戦わされて……みんなに迷惑かけて……」
 頼人は無言。
「でも、やっとその不安も無くなった」
 私はハーレーのハンドルを握り、『×』を睨みつける。自然と口角がつり上がり、めらめらと闘志が湧いてきた。
「頼人さん、私はね、ケンカを売られて黙っていられるような性分じゃないんですよ」
 そうだ、私は覚えのない罪を責められ、なおかつそのせいでいくつものひどい目にあっておきながら
ジッと我慢していられるほどできた人間じゃない。
 売られたケンカは買わなくてはいけないんだ!
 頼人は私の発言にひどく驚いたようだったが、すぐに嬉しそうな表情を見せた。
「志野さん、私はあなたを誤解していたかもしれません……」
「シンブレイカーはもう街に出てる?」
「天照所長があなたの代わりに」
「じゃ、行ってくる!」
「その前に、これを!」
 頼人が何かを投げ渡してきた。キャッチすると、それは私のスマートフォンだった。
「ありがと!」
 私はすばやくそれを操作して、音楽プレーヤーを起動する。
スピーカーから流れ出したのはthe pillowsの『EMERALD CITY』。
 ハーレーのハンドルを強く握った。
 後輪が2秒間バーンアウトし、私の身体を乗せたハーレーは唸りをあげて飛び出す。
《ガオオオオオオオオオオオオッ!!》
「かかってこい、ぶん殴ってやる!」
 叫びの余韻と焦げ臭さを残して、私は橋の上から姿を消した。


 本当の戦いは、ここから始まる。

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