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シンブレイカー 第八話

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匿名ユーザー

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 天照恵は疲弊していた。
 立っているのがやっとなほどの肉体の疲労は、トン単位の重量を持つ巨人の四肢を動かすに
想像以上の体力が必要だったためだが、それよりも辛いのは精神的な疲労だった。
 急ごしらえのパイロットスーツは内側が冷や汗でぐっしょりと濡れ、不快である。
食いしばった歯は痛いほどだ。前髪が額に貼りついて邪魔になっている。
 南の大学付近に第3の『×』が出現したことをうけて、まず頭によぎったのは『どこでシンブレイカーと
『×』をぶつけるべきか』というある意味最も重要だが、同時にどうでもいいことだった。
 それよりも優先すべきは志野真実の安全だというのに。
 結局、予め決めていた通りに何人かの研究員を迎えに行かせたのだが、彼らから志野真実に逃げられた
という報告を受けたときは正直めまいがした。
 逃げたくなる気持ちもわからなくはないが、事情を話すわけにもいかない。そこで急遽高天原たちも迎えに
行かせることになってしまった。彼らなら多少強引な手段に出てでもうまくやってくれるだろう。
 今シンブレイカーが立っている位置からは『×』の姿は市内のビルに遮られてよく見えない。これは危険な状態だ。
不意打ちをくらうとか、そんなことよりも――天照は足下に目をやった。
 そこには何台ものパトカーが赤色灯を騒がしく点灯させて、シンブレイカーの周囲を囲むように停まっていた。
その合間には警官たちが警棒や盾を携えて立っていて、シンブレイカーの正面からは拡声機での『そこの巨人!
 手を挙げて地面に伏せろ! 』との馬鹿げた呼びかけも聞こえてくる。
 一番面倒な事態だ。天照は深く息を吐く。
 今までこういった事態にならなかったのは、『×』の影響で警察が無力化されていたからなのだが、
今回はまだ『×』が市内にまで来ていない。だから彼らも普段通りに市民の安全を確保すべく働けているのだ。
普段ならばありがたいことのなのだが、今のこの情況では、踏みつぶしてしまうかもしれない危険のほうが大きい。
研究員たちに説得させるわけにもいかないし、慎重に動くか、『×』が近づいて彼らが倒れたあとに素早く
安全な場所まで運んでやるしかない。
 とにかく、『×』が市内まで来てくれなければ情況は変わらない。
 と、そのとき通信が入って、天照は耳を傾ける。
「高天原頼人から連絡だ、志野真実の説得に成功。今ハーレーでこちらに向かっている。
『×』もついてきているようだ」
 聴こえてきたのは高慢そうな口調――八意だ。天照は自分の代理として指令室には彼を置いてきていたのだった。
「わかりました、ありがとうございます」
「その際に、『×』の目的も喋ったそうだ」
「……わかりました」
「いいのか?」
「ごまかし続けるのはどうせ不可能でしたから――『×』が見えました。迎撃準備に移ってください」
「すでに完璧である!」
 シンブレイカーの視線の先にはビルをすり抜けて中央通りに出ようとする黒い棒状の『×』が見えていた。
それと、微かに遠方から迫る音がある。
 エンジン音だ。
 道路の警官たちも気づき、音の聞こえる、中央通りの南方を見やる――



 ――以前に一度乗ったことのあるおかげか、今回は暴れまわるこの鋼鉄の馬にしがみつくのに、
それほど神経を使わなくても済んでいた。
 バイクはとんでもないスピードでとんでもない角度のコーナーをいくつも曲がり、ときには飛び越え、
ついに中央通りの南方へ出た。
 私はそこで遠方に立つシンブレイカーを認め、次にその足下に集まる警官たちを見て驚いたが、
ハーレーは構わずにその中に突っ込んでいく。
 このままでは人を轢いてしまうかも!
 運転方法が分からないのにブレーキをかけられるはずもなく、私はぎゅっと身を縮こめて、目をつぶった。
 直後、下から突き上げるような軽い衝撃があって、それから浮遊感が私を包んだ。 
 薄く目を開ける。ハーレーは停まっていたパトカーのボンネットを跳び箱の踏切台のように利用して
大きくジャンプしたのだ、と私は理解した。
 しかしこれではシンブレイカーの腰までしか届きそうもない(それでも約8メートルの大ジャンプなのだが)。
私は落下するかもしれないとゾッとしたが、無用な心配だった。
 シンブレイカーの右腕がハーレーの車輪の下にすっと差し出され、ハーレーはその腕を一気に駆け上る。
巨人の体を構成する白い砂が車輪に飛ばされ、轍が残る。
 そしてハーレーが肩のところまで上がったところで、私は直感的に飛び降りた。
 ハーレーは肩を飛び越えて、市内のどこかへ消えていく。私はシンブレイカーの頭にしがみつくようにして
肩の上に着地した。
 しっかりと足に力を入れ、前を見た――
 地上16メートルの高さは見晴らしはいいが、恐ろしかった。おまけにフェンスも何もない。
初めてシンブレイカーに乗ったときのように腰がくだけそうになったが、すぐに倒すべき敵の存在を思い出して、
それで心を奮い立たせる。
 そのとき、電話が鳴った。片手で取り出して出る。
「よくぞ戻った、志野真実!」
 特徴的な口調に相手が誰かすぐに判った。
「八意さん、『×』は?」
「貴様の前方11時半、約400メートルだ」
「操縦席にはどうやって」
「なんだ、乗るのか?」
 八意の口調は何故だか残念そうだった。
「巨人の頭にしがみつくヒーロー……せっかくジャイアントなロボにふさわしい構図であるのに」
「ふざけてる場合じゃないんですけど」
「そうだな、残念だがコクピットには入れないぞ」
「どうして」
「シンブレイカーは人の形を維持するのにコクピット内のパイロットの精神とのリンクを必要とする。
 つまり一瞬でもパイロットがシンブレイカーを下りたら、巨人は砂に戻ってしまう。
 そもそも途中で乗り換えることが想定されていないのだから起動中にコクピットを露出させることはできないのだよ」
「じゃあどうすれば」
「だがしかしこんなこともあろうかと!」
 八意が叫んだ瞬間、私のしがみついていたシンブレイカー頭部の装甲がズルリと剥がれ落ちる。
私は危うくバランスを崩しかけつつも巨人の頭を見た。まず素顔の巨人の頭部に黒い頭髪が生えていることに私は驚き、
ついで後頭部に亀裂が入って皮膚が剥がれてその下から人ひとりがやっと入れそうなほど小さい金属製の入り口が
姿を現したことにもびっくりした。
「試験用サブ・コクピットである! 貴様はシンブレイカーの脳となるのだ! マジンゴゥ! 」
「……少し都合が良すぎない? 」
「機械じかけの神なら今貴様が肩に乗っているではないか。これをご都合主義の産物として何と言おうか」
 八意の言っている言葉の意味はよく解らなかったが、とにかくあの中――シンブレイカーの頭蓋骨の中に入れば
いいらしい。
 幸い、シンブレイカーの背中の装甲は少しはり出しているので、そこまでたどり着くのは簡単だった。
入り口から身体をねじ込んだ先はかなり狭い。シンブレイカーの頭部が約2メートルほどの高さしかないのだから当然だ。
しかしその窮屈さも一瞬のことで、入り口を閉じたとたんにいきなり内部がパァと明るくなったかと思うと、
頭蓋骨内はコクピット内と同様に広い異空間と化した。
 私はノビをし、軽く身体の各部の筋を伸ばす。
「やっと戦える……」
「志野さん、よく戻ってくださいました」
 ひとり呟いた直後、私の目の前に天照の像が浮かんだ。そこで私は彼女がシンブレイカーを動かしていたことを
思い出す。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
「こちらこそ申し訳ないことを……」
「そういうごちゃごちゃしたのはあとにしましょう。八意さん、操縦をこっちに渡してくれますか」
「すまないが、今から再起動無しのプロセスを組むのであと数分はかかるぞ」
 そんなにか、と私は心の内で舌打ち。
「じゃあ天照さん、それまでお願いします」
「ええ、お任せください。持ちこたえてみせますよ……アレから」
 シンブレイカーの腕が持ち上がり、街の南方を指し示す。
 そこには『×』がいた。
 中央通りの真ん中で、棒に括りつけられた黒い影は、音もなく浮遊している。
 私はその影がこちらを見据えていることに気づき、その虚ろな闇をたたえた瞳を睨みかえした。
(何が『つぐなえ』だ……私は何も悪くない、何もしていないんだから……)
 目を閉じる。
(そんなわけ分かんない言いがかりのせいでユイがひどい目にあって……みんなが迷惑して……)
 深呼吸し、奥歯を噛み締める。
(……許せない。絶対に、ぶっ飛ばしてやる! )
 両拳に力を込め、叫んだ。
「行きましょう! 」
「ええ! 」
 シンブレイカーは駆け出した。アスファルトを破壊し、警官隊をひとっ飛びし、『×』にまっすぐ突っ込んでいく。
 眼前に迫る『×』を睨みながら私は考えていた。
(今回の『×』のモチーフはなんだ? )
 第一の『×』がギロチン、第二の『×』が切腹であったなら、当然この第三の『×』も
何かの処刑をモチーフにしていると考えるべきだろう。
 天照の操縦するシンブレイカーは『×』に肉薄し、殴りつける――と思いきや、繰り出されたのは張り手。
しかも腰が入っていない弱弱しいものだ。
 勢いよく押されて、少しだけ後方にズレる『×』。
 私はズッコケた。
「ちょ、ちょっと天照さん!?」
 コクピットに呼びかける。すると、天照のすまなそうな声がした。
「すいません……私、このような荒事は不得意で……」
「なんで乗ろうと思ったんですか!? 」
 シンブレイカーがさっきから若干内股なのはそのせいか。
 言ってる間に『×』は大勢を立て直し、こちらを見てにやりと笑う。その表情がこちらを嘲笑うような印象だったのが
私の神経を逆なでする。
「じゃ、じゃあ刀を使ってください、それなら平気でしょう?」
「わか、わかりました」
 通信越しにも彼女が慌てているのが伝わってくる。普段の指示を出す側と出される側が逆転している
今の情況がなんだか滑稽に思えた。
 シンブレイカーは腰の後ろに鎖で吊り下げられた機械じかけの日本刀――破罪刀を抜き放つ。
同時にその刃は紅く光輝き、『×』を斬り裂く力を得た。
 巨人は『×』を正面にすえ、刀を振り上げ、袈裟斬り!
 しかし刃は敵の棒の一番上の端をかすめただけだった。
 私はまたズッコケそうになるのをこらえた。
「何してるんですかぁ! 」
「す、すいません! やはり人の形をしたものを斬るのは抵抗が……! 」
「……フフッ」
 通信を介して八意の嘲笑が聞こえた。どうやらこのやりとりが面白くて仕方ないらしい。
私は腹が立って、彼を少し怒鳴りつけた。
 それから落ちついて深呼吸をする。2回。
「……いいですか天照さん、落ち着いて、スイカ割りでもするような気もちでいきましょう。
そうすれば大丈夫です」
「はい……」
 刀をかまえ直すシンブレイカー。
 何故だか『×』は襲いかかってくる気配が無く、突っ立ったままこちらを見ているだけだ。
 ナメられているのかもしれない。しかし好都合だ。
 シンブレイカーは刀を大上段に振り上げたまま敵の正面に立つ。
「いいですか、そのまままっすぐ振り下ろすだけです」
「……はい」
 天照の声も落ち着いてきた。これならいけるかもしれない。
「じゃあお願いします」
「はい……」
 彼女は息を深く吸い込み――
「ヤァア!」
 ――刀を振り下ろした!
 しかし刀は『×』に触れることはなかった。
 天照がまたしくじったわけではない。
 『×』が避けたわけでもない。
 刀身の半分から先が、消失していた。
 否、『焼失』していた。
 私はぞっとするような危険を感じとり、反射的に叫ぶ。
「うしろに下がって!」
 だが争いごとに慣れていない天照がそれに反応できるはずもない。
 シンブレイカーは『×』の『その攻撃』を正面からもろに喰らってしまった。
「キャアアアアアアアア!」
 天照のかん高い悲鳴が響き渡った。シンブレイカーはよろけ、道路上に仰向けに倒れる。
 私は足をふんばってその衝撃に耐えると、こちらを見下ろすかたちになった『×』をギッと睨めつけた。
 『×』は炎に包まれていた。しかしそれはシンブレイカーがかけた浄化の炎ではなく、『×』が自ら発した炎だった。
 その姿を目の当たりにし、私はようやく今回の『×』を理解した。
 あの姿は世界史の教科書で見たことがある。
「『火あぶり』か! 」
 『×』の炎は女木戸市街を煌々と照らす。厄介なことにその炎は霊的なものではなく、
化学反応としての炎のようだった。強烈な熱によって一瞬にして溶解させられたシンブレイカーの刀と前面の鎧が
それを物語っている。
「何をしている、さっさと前面装甲をパージしたまえ! 溶けた装甲が火傷を広げてるぞ!」
 八意の怒ったような声の指示。シンブレイカーの胸の装甲と顔を覆うマスクがはじけ飛んだ。
「立てますか、天照さん!? 操縦の切り替えはまだなの!?」私は叫ぶ。
「あと2分もたせろ!」八意の返事。
 天照の返事は無い。
「こちらにモニターまわせ! ……まずい、パイロットが気絶している!
 スーツのリジェネーター最大パワー、早く起こせ! 次の攻撃が来るぞ!」
 八意の指示が飛ぶ間にも『×』はシンブレイカーに迫る。敵は少し高度をあげ、棒状の身体の先端を、
動けない巨人の胸元に向けた。
(ちょ……まさか……) 
 私の脳裏に嫌な想像がよぎって、顔から血の気がひく。
 はたして『×』はその通りの行動をとった。
 『×』は燃えさかる棒状の身体のその下端を、シンブレイカーの露出した胸元に突き刺した!
「ぎゃあああ!!」
 悲鳴をあげたのは私だった。天照は気絶しているためにそれすらできない。
 『×』の放つ強烈な熱は巨人の肉体を貫いて、私のいるサブ・コクピットまで到達していた。
空間内の温度が一気に上昇し、全身から汗が噴き出し、また体の各所に激痛が走る。熱で皮膚が焼け、
突っ張った皮が裂けたのだ。傷口の奥から血が溢れ、その傷口もすぐに焼けて塞がれた。
「作業中断! ワープ機能で回収! 医療班に連絡! 死ぬぞ!」
 八意の悲痛な声も、もう聞こえるのは遥か遠くだ。
 私は床に倒れる。血まみれの体を抱いて体を反らして転がる様は陸に打ち上げられた魚のようだ。
熱気を吸い込んだ喉は焼け、もう悲鳴も上げられない。
 それでも私は意識を保っていた。だがもう限界だった。
 意識が途切れる。

 『それ』はそのときに起こった。



 女木戸市の真ん中で、砂の巨人が炎に包まれている。彼の胸からは太く長い柱が立ち、
そこに縛られた黒い人影も苦しむような様子を見せている。
 その有様を同じ道路の少し離れた地点から見上げる高天原頼人は危うく膝から崩れ落ちてしまいそうになったが、
そばに立つカオスマンの肩に捕まって、かろうじてそれをこらえた。
「そんな……天照様が……志野さんも……」
 こぼれた言葉は小さく震えていて、弱々しい。彼の両の瞳は潤み、今にも涙が溢れてしまいそうだったが、
それすらもここまでわずかに届く熱気の前には一瞬で蒸発してしまいそうだ。
 彼の耳にはめられた通信機からは、研究所の混乱した様子が伝わってくる。
高天原はその音の嵐を耳障りに感じて、イヤホンを外した。
 天を突く火柱には勢いを弱める様子は見えず、このまま世界の何もかもを焼き尽くしてしまおうとしているの
ではないかとまで思える。
 いや、高天原にとってはまさにその通りだった。彼が忠誠を誓う天照恵と、
人生を捧げた魔学の結晶であるシンブレイカーが無くなることは彼の世界そのものが無くなるに等しいことだった。
(なんで、こんなことに……私はただ……!)
 高天原は絶望し、視線を地面に落とす。
 何もかもおしまいなんだ――そう感じてゆっくりと目を閉じようとした。
 そのときだった。
 悲鳴が上がった。
 高天原はその悲鳴に聞き覚えがあった。
 この金切り声にも似た、強烈な嫌悪感をもたらす悲鳴は――
 ――『×』の悲鳴だ!
 高天原は顔を上げた。視線の先にはつい数秒前には想像もできない光景があった。
 シンブレイカーが立ち上がって、燃えさかる『×』の顔面を思いきり殴りつけていたのだ。
 『×』はその体を浮いたままくるくると回転させ、炎の勢いを弱める。
 鉄拳を食らわせたシンブレイカーはしかし満身創痍で、殴りつけた腕は装甲ごとどす黒く炭化し、
直後に崩れ去る。各部の装甲はほとんどが溶けて剥がれ落ち、砂で構成された巨人の素体がむき出しになっていた。
ほぼ裸の状態だ。しかもその上、コクピットと各種重要な機械が詰まった胸部には大きな穴が穿たれてしまっている。
その立ち姿は勇ましいというよりも哀れだった。
「天照様が復活されたのか!? それとも志野さんが!?」
 高天原は通信機を拾い上げて怒鳴った。負けず劣らずの声量で返事が返ってくる。
「パイロットは両名とも意識不明! シンブレイカーは勝手に動いています!」
「なんだって……!?」
 驚愕する。
「Sジェネレーター、理論限界値とっくに突破、出力計測不能! メーターがもう3周はしてますよ!」
「危険だ、すぐに強制停止! ジェネレーター自体を切り離してください!」
「それが……」
「早く!」
 通信の向こうの研究員は泣きそうな声で言った。
「シンブレイカーの肉体が我々の制御下を外れて、ジェネレーターを切り離そうとすると押し返してくるんです!」
「何だと……!」
 高天原はシンブレイカーを見上げた。巨人の各部から溢れる紅い光は今までに見たことがないほどの輝きを発して、
巨大な刃を形成している。身体のラインも同様に輝き、炎に包まれている『×』がかすむほどの光を放った。
 (完全に暴走している)高天原はそう判断した。
 だがシンブレイカーはすでに研究所の制御下を外れている。自分たちにはどうしようもない。
 シンブレイカーは各部から溢れた光を集め、崩れた片腕を補う。
再び両腕が揃った巨人は今度は両腕を大きく広げて身を沈め、『×』に飛びかかるような姿勢をとった。
 そのとき、高天原はシンブレイカーの身体の光のパターンから、あることに気づく。
(あれは……すでにブレイクモード! 何を召喚する気だ!?)
 高天原が叫んだ直後、巨人の身体の内側から閃光に近い熱線が溢れ出し、直視すら困難なほどに輝く。
 そのこの世で最も眩しい煌きを全身に受けて、高天原は巨人に何が憑依したかを悟った。
(『天照大御神』……!)
 日本神話の太陽神は『×』に飛びかかり、その身体を抱きしめる。『×』が絶叫した。だがそれも一瞬だった。
 この世に太陽以上の炎は無い。火あぶりの炎ごときが太刀打ちできるはずもなく、
『×』の体は文字通りの瞬く間に一片も残らず滅却され、消え去るほかはなかった。
 直後に巨人の放つ光もかき消え、どすぐろく変色した焼死体のような姿のシンブレイカーだけが残される。
 歓声は無く、辺りは静まり返っていた。
 巨人は崩れ落ちた。



 ……地面に崩れた巨人の焼死体を眼下に見下ろして、ひとつの人影がビルの屋上に立っていた。
 その体格は小さく、子供のようだったが、残酷な光をたたえた大きめの瞳からは大人の男にもとても出せない
威圧感のようなものがすでに宿っていた。
 その人物は薄い色のショートヘアをかきあげ、気怠そうにポツリつぶやく。
「シンブレイカーもこの程度か……『計画』の達成は困難そうだね」
 自分の言葉がどこかおかしかったらしく、くつくつと笑い、『彼女』は白衣を翻して背を向ける。
 胸元の名札には『因幡命』とあった。

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