創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<ep.1>

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だれでも歓迎! 編集
一昔前のアナログな人形劇を思わせるアニメを、彼女は瞬き一つせず見続けている。何が面白いかは分からないが、彼女にとっては愉快なのだろう。
私のトレードマークである黒いコートを羽織る。台所に向かって指を鳴らすと、私が帰ってくるまで一通り料理を作っておいてくれる。
それにしても……なんて良い時代だろう。簡単な動作でありとあらゆる事が労なくこなせる。
一部の学者がこのままでは人間は退化すると唱えていたが、私はそうは思わない。結構な事じゃないか。
つまらない事に時間を掛けず、人生やら家族やら哲学的な事に頭を使う事が出来る。むしろ進化しているのではないかと。

おっと、出かける前に彼女に声を掛けるのを忘れていた。玄関から出る間際に、私は未だに無表情のまま、ホログラムテレビを見つめる彼女に告げる。
「行ってくるよ、ティマ」

ROST GORL ep1

今日も無事に仕事を終わらした。一息吐いて、私はナビゲーションに自宅を設定し、決定ボタンを押す。愛車は私の指示を理解し、自宅に向けて自動運転で走り出す。
ゆったりと運転席を90度まで下ろして、仰向けになり依頼人の情報を保存したデータフォンを起動させた。
モニターを触ると、淡く発光して企業名のロゴが出てきた後、依頼人のデータが一斉に羅列する。
モニターを指で下ろし今回の依頼人についての詳細を読みながら、帰る間際のちょっとした物思いに耽る。

何時頃からか……社会は、人々は心の充足を、ロボットに埋めてもらうようになった。それは家族のいない老人からペットが欲しい子供、無論性的欲求をも含めて。
しかしそれで人々が常に幸福かと言えば、そうではない。未だに殺人事件は新聞欄を賑わらせ、心の拠り所の無い人々が多いからか風俗店が消える事も無い。
ロボットとは何か。それはあくまで代用品だ。心という空き箱を埋める為の寂しい空箱。そこには重さも温かみも無い、スペースを埋める為だけの空箱。

私の職業はその空箱を補修、修理する、言わば修理士だ。依頼があれば千差万別、ロボットであれば種類は問わず、何時でも駆けつけて修理する。
数十年丁寧にこなしてきたのが実を結んだのか。私の元には常に途切れなく依頼が舞い込んでくる。自慢であるが、同業者の中ではかなりの上位に入る。
だが、私自身それが功績だとは思っていない。正直に言うと、この仕事は好きでやっている訳ではないのだ。
若い頃に子供の頃の夢であるカメラマンを目指していたが、病気により体を壊した両親を経済的に支える為に嫌々、この仕事を選んだのである。

理由は簡単。この仕事は多かれ少なかれ、修理という目的さえ果たせれば報酬を得る事が出来る。言うなれば。着実に仕事をこなせていけば、安定した収入が望める為だ。
無論同業者同士で争いは起こるのだが、私は運が良いのか先ほど言った通り、毎回仕事にありつく事が出来る。
需要が激しいのか毎年毎年、大量の新型ロボットが企業から売り出され、利用者が故障させる。それも一日に一人ないし二人三人……。
かつてこの技術を学んだ師の言葉が、長年働いている今ようやく理解できる。
――――この仕事に終わりはない。人々がロボットを求める限り、我々は仕事を得る事が出来る。

さっきの空箱の例えからして、私はロボットが嫌いまではいかずとも好きにもなれない。
ロボットという存在が小さい頃からどうにも苦手なのだ。心が通っていないのに、どうして皆ロボット何かを必要とするんだろうと子供心に疑問符を浮かべていた。
多分両親がバリバリの自然主義……というか極端なアナログ思考なのが遺伝したからだと思う。二人とも潔癖なほどロボットが嫌いだからだ。

だがその子供がよりによってロボットを修理する仕事に就くとは皮肉というかなんというか。
だけど私自身、この仕事に長く勤めていても、介護用を除いて、ロボットに愛着を持ったり、心の支えにしたい等という考えを理解する事が無いのに変わりはなかった。
いや、無かったはずなのだ。――――彼女、ティマに出会うまでは。

愛車が停車し、自宅に着いた事を知らせてくれる。背伸びをして運転席を起こす。
今日の依頼人は確か可愛がっていたロボペット……確かゴールデンレトリバーか。
その犬が突如動かなくなったという、一人暮らしの老人だった。性別は男。なかなか高級な住宅街に住んでいた。原因は単純な電子回路のショート。すぐに終わった。
あーいう所に住んでる人って大抵如何にもな上流家庭とかが多くて、老人が一人で住んでいるってのは珍しい。まぁ依頼人の事情は踏み込むなかれ。得てして知らぬだ。

ナビゲーションでいつもの駐車場を検索し、自動運転でその場所まで向かわせる。自宅から数分程度の場所に駐車場があってよかった。
さて、我が家に帰りましょうか。愛車から取り出した、仕事道具が詰まったトランクケースを引き上げて歩き出す。
ふと、鼻にぽつぽつと冷たい水の感触が奔る。空を見上げると、いつの間にか灰色の雲が一面に広がってきて、そして……。
あぁ、参った。かなり強い雨が降り出してきてしまった。トランクケースから折りたたみ傘を出して広げる。

一層強くなる雨に心で舌を打ちながら、私は自宅へ帰る間、自宅で待つ正体不明のアンドロイド、ティマについてぼんやりと思いだす。

二週間前くらいか、私が彼女を見つけたのは。傘が微妙に必要なくらいの小雨が降っている夜。
家路に向かう間際の路地裏のゴミ捨て場で、ぐったりと裸の彼女は他のゴミ袋に紛れて倒れていた。その時の光景は今思い返しても酷い物だった。
彼女の部位の内、右腕と両足は形を成しておらず、内部の電子回路と人間で例えるなら骨となる補助用マニピュレーターが痛々しいほどに露出していたのだ。
しかし奇跡的に動体と頭、それに左腕は全くと言っていいほど損傷が見受けられい。欠損した部分さえ取り換えればすぐに動く事が出来るだろう。

私はこの時点では、目の前の彼女に対し、特に何の感情も抱いてはいなかった。
正直この手のジャンク寸前のアンドロイドなど、珍しくも何ともない。少し物騒な繁華街を歩けば、幾らでも転がっているものだ。
ロボット三原則を好きなだけ曲解した連中が、裏で仕入れたアンドロイドを好き勝手に利用する。新聞が社会問題と囃し立てているのを私は一笑する。
ロボットと人間の関係を壊す禍々しい事件! だの ロボット三原則を踏み躙る最低な行為! だの。人を食い物にする連中が何をぬかすか。

そんな訳で嫌な物を見た、早く帰ってシャワーを浴びようと私は家路へと向かおうとした。だが。

私は妙に彼女の事が気になった。家路に向かう足を止め、もう一度彼女の姿を見つめてみる。
彼女はじっと目を瞑っていた。その肌はアンドロイドらしく病的なまでに白くて、セールスポイントであろう鮮やかな金髪がべったりと濡れている。
胴体部分は利用者のニーズに合わせてか、お世辞にも豊かとはいえない胸と肋骨が若干見えるほどガリガリなお腹。
間違いない、この子を求めてるのは変態だ。それもドが付く。
残っている左腕の細さと、各々の特徴から考えて愛玩用か……正直考えたくない。何にせよ、不幸なアンドロイドって事だけは確かだ。

思えば、仕事で繁華街というか、危ない所を行けばこういうのってしょっちゅう見るけどウチの近くで見るのは初めてな気がする。治安が良い場所に住んでるとは思ってないけど、堂々とゴミ捨て場でアンドロイドを捨てる無神経な奴が近くにいると思うと吐き気がする。
だけどなんとなく、このアンドロイドをここに放置しておくのが気が引けるというか。一応このままにしとけば市の人が勝手に片付けてくれる。
でも……どうしようかな。なんか腑に落ちない。捨てるにしても、こんな場所にわざわざゴミと一緒に捨てるなんて馬鹿としか思えない。

殆どザル法だが、アンドロイド及びロボットを不法投棄すると、法で罰せられるからだ。このゴミ捨て場にはロボットを捨てていいなんて一言も書いちゃいない。
さっきの社会問題にはこの件も入っていて、人里つかない場所にアンドロイドも含めたロボットが不法投棄されている事が問題となっている。
だがまぁ、裏で入手するような輩には法なんて関係ない訳で。しかしこんなあからさまな場所で捨てるかぁ? 幾らなんでも。
考えれば考えるほど、このアンドロイドが分からなくなってきた。君子危うきに近よらずって言うしこのまま帰るか……。

しかしまじまじと見つめていると、私は不思議にこのアンドロイドが気になってきた。
今までの長い経験上、この様なタイプを見た覚えが無い。単に私が若くして物覚えが悪いだけかもしれないが。
それにしても綺麗だ。猟奇的な光景ではあるけど、本物の女の子が眠っているかのようだ。当り前の事だが、アンドロイドは人間と寸分無く出来ている。
一応直ぐに人と見分けるポイントはあるのだが、一見すると私の様な職業柄でも無い限り、コロリと騙されてしまうと思う。それも社会問題になっているのだが、またの別の話。

気づけばアンドロイドに気を取られて早や30分経っていた。既に小雨が止んでいて、全くと言っていいほど星空が見えない。
……どうせ一人身だし、ワーカーホリックな為趣味と言える物も無し。特に面白みのないTVプログラムを酒を煽りながら過ごす日々。
近所は都会らしく個人主義。関わろうとする人もいないし、私も煩わしいから関わる気も無い。
かといってロボットを生活のパートナーにしようなどと考え……考え……。

気づけば私はデータフォンで愛車を呼び出し、アンドロイドを連れ込んで自宅に帰っていた。
他人のゴミを持ちかえる事は法的にも人間的にも許容されるとは思えないが、持ち主不明のアンドロイドなど誰も気に留めはしないだろう。
愛車が自宅に着き、私は一応人目を気にしながらアンドロイドを連れ込む。向かうは自宅地下のガレージだ。
しかし今思い返しても、なぜ私がこの様な行為に思い切ったかは思い出せない。それほど興味が湧いたのかもしれない。

基本は出張だが、一応遠方からの依頼も引き受けている為このガレージを使う事がある。それほど使用頻度は多くない。
コートをそこらへんに脱ぎ捨てる。ボタンを押すと、収納された人型アンドロイドを修理する為の専用台を起き上がった。
台にアンドロイドを乗せ、特別製の作業用ゴーグルを掛けてどんな状態なのか、既存のパーツで間に合うかを確かめる。損傷個所にズームするとどれだけ酷い状態なのかが分かる。

乱暴に引きちぎられたのか、補助用マニュピレーターが荒々しい切断されており、足の動きを制御する電子回路がショートしきっている。
これだけの事をしてなおかつゴミ捨て場に捨てるとは、前の持ち主はよっぽどの異常者だったと見える。良心の呵責の欠片も無いんだろう。
幸いにも目新しいパーツは無く、私の知っている範囲で欠損した部位を直す事が出来そうだ。
もしも欠損した部分が新規パーツだった場合、直す事は出来ても作る事が出来ない私にはもうお手上げだからね。

流石にこれから修理する気力も、パーツを取り寄せる事も出来ない。明日、仕事の間際に馴染みの業者にパーツを注文しよう。
その前にしておかねばならない事がある。このアンドロイドのデータチップから情報を取りださねばならない。
アンドロイドの頭部にはデータチップと呼ばれる開発者・製造工場のライセンス情報が事細やかに刻まれた部品がある。
修理士は依頼を受ける前に、データチップを依頼主から受け取らなければいけない。それが正規の商品かを知るためだ。
依頼主が拒否したり、少しでも怪しい所があれば直に警察沙汰となる。一見理不尽な様だがそれが法律だから仕方ない。

頭部の額に触れながら、チップを引き出す為のスイッチに触れる。前髪を上げると、若干凸凹を感じ、その部分を軽く押しだす。
すると額から縦横5センチ程度の小さなチップが自動的に出てきた。これがデータチップだ。懐からデータフォンを取り出し、チップを専用の接続口に挿入する。
これでこの正体不明のアンドロイドの素性が分かるはずだ。どこかの悪趣味な道楽者が利用した愛玩用のアンドロイドか、それとも……。

ところが何時まで経ってもモニターに情報が羅列されない。やはり、か。正規の、というか企業以外が作った違法のアンドロイドな場合、こういう事態に陥る。
しかしだ。そういったデータチップの場合、私のデータフォンは認識不能という警告メッセージを出して直ぐにチップを吐きだすのだが全く反応が無い。
モニターは真っ暗なまま。不思議だ。まさかデータフォンが不調なのか? 試しにリセットし、チップを強制的に取り出そうとした手前。

突如、モニターに奇妙な文字が浮き出てきた。私は驚き、目を丸くする。
文字は日本語だったり英語だったり、また見た事のない言語であったり良く分からない。
するとだ、その文字は点滅したり、上下に跳ねたりとまるで生物のようにモニター上で動き出した。
こんな事象は初めてだ。データチップはあくまで情報を記す為の部分であり、ウイルスやバグが発生するなんて聞いた事が無い。
何秒くらいしただろうか、その文字は次第に中央に集まっていくと、わらわらと群がりだし、やがてある言葉となった。

その言葉は、Teima。それだけを表示すると、言葉、いや文字は波が引く様にサーッと消えていった。

データフォンがチップを吐きだす。私は恐る恐るチップを取り出し、じっと眺めてみた。特に変わった所は見えないが……何なのだろう、このアンドロイドは。
あるべき情報が何も無く、かといって違法に作られた訳でもない。しかしだ。その代わり、通常では考えられない事象を引き起こした。
私は思う。これはとんでもない物を拾ってしまったのではないかと。こいつはめんどくさい事になるんじゃないかと。

そうだ、一つだけ分かっている事がある。このアンドロイドの名前だ。
Teimaだから……ティマとでも名付ける事にしよう。

続く

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