<やれやれ……おい、これは一体どういう事だ、貴様>
元々冷めているせいか、液体窒素をぶちまけられたみたいに冷凍された場の空気に影響される事の無いたまが苛立ちを通り越して呆れた声で問うた。バンカーバスターよろしく鋭く重い言葉がリヒトめがけて――――
「ヘーシェンのボディは大破、連絡は無し、その上見知らぬ女の子とオートマタを連れて帰還、か……。何があったんだい? 事と次第によっては流石の僕も容赦はできないよ」
「連れて来たのが小さい女の子……さすがリヒト、ロリコンなだけはあるね」
「私達の知らないところでどんなラッヴロマンスがあったんですか!」
「らっぶろまんすがあったんですか!?」
――――殺到する。まさに一斉射撃だ。
突然姦しくなった“やおよろず”の面々に、遥とリヒターは顔を見合わせた。
「……ひょっとして私達、歓迎されてない?」
<……そのようです>
まあ、さもありなん。結局のところ、旅人というのは“余所者”なのだ。警戒されないわけがない。遥も実際のところ何度かそういう目に合っている。安定を求める住人達と旅人とではやはり相入れない部分があるのだろう。
「あー、諸君、静粛に。お前ら、聞け」
リヒトがパン! と手を叩くと、一瞬で静まる“やおよろず”の面々。
「……リヒトって、凄い人なのかな」
<……そのようです>
軽薄眼鏡に金髪ロリータ、黒髪美少女に金の宝玉、大男――――見た目からしてクセのありそうなメンバーだ。そんな彼ら、彼女らを一瞬で黙らせるリヒト、やはり彼は高名な神子なのかもしれない。
「俺は昨日、白馬の王子様だったんだよ!」
「なんじゃそりゃぁ!?」
ずべし! あまりにも恥ずかしい台詞に勢い余ってついつい叫んでしまった。
<助けたのは白いウサギですが何か>
「細けえ事はいいんだよ。それに、俺とおまえは一心同体じゃないか」
<やだこの人気持ち悪い>
一心同体なはずのパートナーが一番辛辣なのはどうなんだろう、いいんだろうか、これは。
<どうやらリヒトに聞いても無駄なようだな。……おい、そこの貴様ら>
乾いた声。杖に付いた玉が発しているらしい。
「は、はい」
<はい>
<何があったか、ピンからキリまで教えてもらうぞ>
それにしても攻撃的な口調だ。謝ってとんずらしたくなってきた。
「駄目ですよ、たまちゃん。そんな脅すような事言っちゃ」
それを諭す、凶暴な機械人形――――どうやらたまというらしい――――とは逆にたおやかな印象を受ける黒い髪の少女は同郷の士だろうか。
「すみませんでした。口調は乱暴ですけど、根は優しくていい子なので、どうかたまちゃんの事、許してあげてください」
「大丈夫ですよ、怒ってませんから」
遥がそう言うと、少女は嬉しそうに少し垂れ目気味の瞳を細めた。凜とした雰囲気と可愛らしさが同居していて、なんとも不思議な子だ、と遥は感じた。……パジャマのせいだろうか。
「それで……何があったのか、私達に教えていただけませんでしょうか」
「はい、喜んで」
「その前に場所を移そう。着替えなきゃいけないメンバーもいるし、そこの彼の話も聞かなきゃいけないしね」
<はい、喜んで>
元々冷めているせいか、液体窒素をぶちまけられたみたいに冷凍された場の空気に影響される事の無いたまが苛立ちを通り越して呆れた声で問うた。バンカーバスターよろしく鋭く重い言葉がリヒトめがけて――――
「ヘーシェンのボディは大破、連絡は無し、その上見知らぬ女の子とオートマタを連れて帰還、か……。何があったんだい? 事と次第によっては流石の僕も容赦はできないよ」
「連れて来たのが小さい女の子……さすがリヒト、ロリコンなだけはあるね」
「私達の知らないところでどんなラッヴロマンスがあったんですか!」
「らっぶろまんすがあったんですか!?」
――――殺到する。まさに一斉射撃だ。
突然姦しくなった“やおよろず”の面々に、遥とリヒターは顔を見合わせた。
「……ひょっとして私達、歓迎されてない?」
<……そのようです>
まあ、さもありなん。結局のところ、旅人というのは“余所者”なのだ。警戒されないわけがない。遥も実際のところ何度かそういう目に合っている。安定を求める住人達と旅人とではやはり相入れない部分があるのだろう。
「あー、諸君、静粛に。お前ら、聞け」
リヒトがパン! と手を叩くと、一瞬で静まる“やおよろず”の面々。
「……リヒトって、凄い人なのかな」
<……そのようです>
軽薄眼鏡に金髪ロリータ、黒髪美少女に金の宝玉、大男――――見た目からしてクセのありそうなメンバーだ。そんな彼ら、彼女らを一瞬で黙らせるリヒト、やはり彼は高名な神子なのかもしれない。
「俺は昨日、白馬の王子様だったんだよ!」
「なんじゃそりゃぁ!?」
ずべし! あまりにも恥ずかしい台詞に勢い余ってついつい叫んでしまった。
<助けたのは白いウサギですが何か>
「細けえ事はいいんだよ。それに、俺とおまえは一心同体じゃないか」
<やだこの人気持ち悪い>
一心同体なはずのパートナーが一番辛辣なのはどうなんだろう、いいんだろうか、これは。
<どうやらリヒトに聞いても無駄なようだな。……おい、そこの貴様ら>
乾いた声。杖に付いた玉が発しているらしい。
「は、はい」
<はい>
<何があったか、ピンからキリまで教えてもらうぞ>
それにしても攻撃的な口調だ。謝ってとんずらしたくなってきた。
「駄目ですよ、たまちゃん。そんな脅すような事言っちゃ」
それを諭す、凶暴な機械人形――――どうやらたまというらしい――――とは逆にたおやかな印象を受ける黒い髪の少女は同郷の士だろうか。
「すみませんでした。口調は乱暴ですけど、根は優しくていい子なので、どうかたまちゃんの事、許してあげてください」
「大丈夫ですよ、怒ってませんから」
遥がそう言うと、少女は嬉しそうに少し垂れ目気味の瞳を細めた。凜とした雰囲気と可愛らしさが同居していて、なんとも不思議な子だ、と遥は感じた。……パジャマのせいだろうか。
「それで……何があったのか、私達に教えていただけませんでしょうか」
「はい、喜んで」
「その前に場所を移そう。着替えなきゃいけないメンバーもいるし、そこの彼の話も聞かなきゃいけないしね」
<はい、喜んで>
♪ ♪ ♪
「つまり、オートマタに襲われたところを彼――――リヒター・ペネトレイターとリヒト・エンフィールド、ヴァイス・ヘーシェンに助けてもらった、という事でいいのかな……一条 遥ちゃん」
ルガーがデスクの上にコーヒーの入ったマグカップとサンドイッチを置いた。
「ありがとうございます。……一言で表せば、そうなりますね」
<なんだ、よくある話じゃないか>たまがつまらなさそうにひとりごちた。
別段驚く必要もない――――いくつかの点を除けば、だが。
「本当に、野良共が連携を?」
「はい、一機目が陽動、二機目が本命、三機目が大本命でした」
「いただきます」二房の三つ編みを前に垂らした少女、一条 遥がサンドイッチを頬張る。「んー、おいしい」
「三機目……フェーレスっつったか。あいつは他のとは違ったな。ただの野良じゃあないぜ、確実に」
<はい。マナ不足に陥っておらず、中型の荷電粒子砲を二丁、装備していました>
と、リタとライに身体をいじられながら、リヒター。
<荷電粒子砲? ……解せんな、キナ臭い。共食いにはオーバーキルだよそれは>
マナ不足に陥っていない、それだけならまだ不自然とは言い難い。共食いでマナを補給できるからだ。
たま自信も野良の時はそうやって生きてきた。手当たり次第、片っ端から破壊して、コンデンサを奪う――――文字通り、オートマタ同士の共食いで、だ。もうずっと前の話だが。
だが、荷電粒子砲を持っているなら話は別だ。あれはマナの消費量が多い上に威力があり過ぎてコンデンサまで破壊しかねない。
まともな判断力がある野良ならば装備するはずがないのだ。
<……何らかのパトロンがいるのは確実ですね、生意気な>
「だとすれば、バックについてるのは犯罪組織が妥当かな。――――人身売買か、物騒だね」
<需要は、ありそうだしな>
ほくそ笑み、美味しそうにサンドイッチをパクついている遥とハナクソをほじっているリヒトを見比べた。……リヒト・エンフィールド、下品な奴。
「あ? 何だよ、たま」
<需要は、ありそうだしな>
「ああ、上等モンだ!」
<おまえ一回死んでこい>
そんな事を聞いているわけではないというのに、この馬鹿野郎が。
ルガーがデスクの上にコーヒーの入ったマグカップとサンドイッチを置いた。
「ありがとうございます。……一言で表せば、そうなりますね」
<なんだ、よくある話じゃないか>たまがつまらなさそうにひとりごちた。
別段驚く必要もない――――いくつかの点を除けば、だが。
「本当に、野良共が連携を?」
「はい、一機目が陽動、二機目が本命、三機目が大本命でした」
「いただきます」二房の三つ編みを前に垂らした少女、一条 遥がサンドイッチを頬張る。「んー、おいしい」
「三機目……フェーレスっつったか。あいつは他のとは違ったな。ただの野良じゃあないぜ、確実に」
<はい。マナ不足に陥っておらず、中型の荷電粒子砲を二丁、装備していました>
と、リタとライに身体をいじられながら、リヒター。
<荷電粒子砲? ……解せんな、キナ臭い。共食いにはオーバーキルだよそれは>
マナ不足に陥っていない、それだけならまだ不自然とは言い難い。共食いでマナを補給できるからだ。
たま自信も野良の時はそうやって生きてきた。手当たり次第、片っ端から破壊して、コンデンサを奪う――――文字通り、オートマタ同士の共食いで、だ。もうずっと前の話だが。
だが、荷電粒子砲を持っているなら話は別だ。あれはマナの消費量が多い上に威力があり過ぎてコンデンサまで破壊しかねない。
まともな判断力がある野良ならば装備するはずがないのだ。
<……何らかのパトロンがいるのは確実ですね、生意気な>
「だとすれば、バックについてるのは犯罪組織が妥当かな。――――人身売買か、物騒だね」
<需要は、ありそうだしな>
ほくそ笑み、美味しそうにサンドイッチをパクついている遥とハナクソをほじっているリヒトを見比べた。……リヒト・エンフィールド、下品な奴。
「あ? 何だよ、たま」
<需要は、ありそうだしな>
「ああ、上等モンだ!」
<おまえ一回死んでこい>
そんな事を聞いているわけではないというのに、この馬鹿野郎が。
<……さて、解せない事、その二だ。リヒター・ペネトレイター、率直に聞こう。何者だ、貴様>
たまの視線の先には、リヒター・ペネトレイターが鎮座していた。長い間戦ってきたたまも知らないタイプのオートマタだ。
一条 遥の話によると、彼は突然現れて彼女を襲ったオートマタを撃破し、そのままついてきたという。
もしも一条 遥が神子なのなら、彼は契約を結ぶために恩を売ったのだと納得はできる。が、生憎遥は神子ではない。助ける理由が無いのだ。
――――もしかするとこいつ、単なるお人よしか……? いや、そんなはずはあるまい。
何か裏があるはずだ、きっと。
たまがあれこれ思案している内に、リヒターが喋りだす。
<――――私が何者かは、私自信にもわかりません>
<なんだと……!?>
たま、絶句。何を言ってるんだこいつは。
「なんと、メモリーが無いんですか!」
<はい>
リヒターはリタの問い掛けを静かに肯定した。つまり記憶喪失だという事だ。だとしたら、
<何故彼女を助けた、何の目的で>
するとリヒターは信じられない事を口にした。
<私の目的は彼女を、ひいては彼女が宿す賢者の石を護衛する事です>
<なんだと……?>
このオートマタ、随分バカげた事を言う。賢者の石など、所詮は風化したお伽話の中に登場するアイテムに過ぎない。過ぎないはずなのだ。だが――――
たまの視線の先には、リヒター・ペネトレイターが鎮座していた。長い間戦ってきたたまも知らないタイプのオートマタだ。
一条 遥の話によると、彼は突然現れて彼女を襲ったオートマタを撃破し、そのままついてきたという。
もしも一条 遥が神子なのなら、彼は契約を結ぶために恩を売ったのだと納得はできる。が、生憎遥は神子ではない。助ける理由が無いのだ。
――――もしかするとこいつ、単なるお人よしか……? いや、そんなはずはあるまい。
何か裏があるはずだ、きっと。
たまがあれこれ思案している内に、リヒターが喋りだす。
<――――私が何者かは、私自信にもわかりません>
<なんだと……!?>
たま、絶句。何を言ってるんだこいつは。
「なんと、メモリーが無いんですか!」
<はい>
リヒターはリタの問い掛けを静かに肯定した。つまり記憶喪失だという事だ。だとしたら、
<何故彼女を助けた、何の目的で>
するとリヒターは信じられない事を口にした。
<私の目的は彼女を、ひいては彼女が宿す賢者の石を護衛する事です>
<なんだと……?>
このオートマタ、随分バカげた事を言う。賢者の石など、所詮は風化したお伽話の中に登場するアイテムに過ぎない。過ぎないはずなのだ。だが――――
その存在を、信じてみたい自分がいた。
マナの呪縛からの解放は、須らくオートマタの望みなのだから。
<その根拠はどこから来る>
<私に、そうプログラミングされているからです>
胡散臭い。胡散臭過ぎる。普通ならとても信用できない。
しかし不思議な事に、たまには彼が嘘をついているようには見えなかった。理由? そんなものは無い。
<――――まったく、なんてものを拾ってきたんだ、馬鹿野郎が>
<私に、そうプログラミングされているからです>
胡散臭い。胡散臭過ぎる。普通ならとても信用できない。
しかし不思議な事に、たまには彼が嘘をついているようには見えなかった。理由? そんなものは無い。
<――――まったく、なんてものを拾ってきたんだ、馬鹿野郎が>
呟いた、その言葉とは、裏腹に。
<――――賢者の石、か……>
確かに感じる、胸の高鳴り。
♪ ♪ ♪
「そういえば、遥ちゃんは何故リヒトなんかについてきたんだい?」
と、先程までサンドイッチが乗っていた皿を片付けながら、ルガー。
その質問に、待ってましたとばかりに遥が食いついた。
「私を助けてくれたあの子のために、マナについて学ばなきゃ、と思って……そのためには、神子様に師事するのが一番かな、って思ったんです」
「と、いう事は?」
「ここで、働かせていただけないでしょうか」
するとルガーは優しく目を細め、ゆっくりと頷くと、
「だそうです、オーナー」
上品な仕草で紅茶を飲んでいる黒髪の少女のほうを見た。……え? オーナー?
彼女はそれを見るなり立ち上がり、
「えー、皆さん!」
ロングスカートに着替え、黒いジャケットを羽織った少女がその透き通った声を張り上げる。どこから取り出したのか、手にはメガホン。
「皆さん、準備をお願いします! そしてたまちゃん!」
<ああ、わかっているよ。……駄目なようなら、落とせばいい>
遥、リヒターを除く、その場にいた全員が立ち上がる。
「突然ですみませんが、一条 遥さん、リヒター・ペネトレイターさん」
ポケットからゴムを取り出し、長い黒髪をポニーテールに結わう。その刹那、少女の可愛いらしさを、凜とした雰囲気が上回った。
「あなたがたには、入社試験を受けていただきます」
「入社試験……何をするんですか?」
何らかのテストがある事は想像はしていたが……何をするのかは見当がつかない。筆記試験とか?
<模擬戦闘だ>
「模擬……戦闘!?」
「はい。遥さんと、そこにいるリヒター・ペネトレイターさんのチーム、私と玉藻・ヴァルパインのチームで模擬戦闘を行います。お金がかかるので銃器の類は使いません」
大丈夫だろうか。昨日の戦闘でリヒターの強さは十分わかったとはいえ、彼は補給無しで稼動し続けている。マナの残量は大丈夫だろうか。
<大丈夫だ、手加減はしてやる。本気を出したら、すぐに倒しちまうからな>
「むっ」
見透かされた。
皮肉混じりにフッと挑発する、たまちゃんこと玉藻・ヴァルパイン。その挑発に、
「いいですよ、やってやりますとも。模擬のほう、今すぐにでも。……いい? リヒター」
一条 遥、乗っかった。
<イエス・マイマスター>
黒いナイトも、ついてった。
「では、13時に模擬戦闘を開始します。リタさんとライディースさんは、各オートマタの整備をお願いします……いじらせていただいて構いませんね? リヒターさん」
<はい、構いません>
「あいよ!」
「了解しました!」
二人のメカニックがリヒターに駆け寄る。
「じゃあ俺達は」
<この事を皆に言いふらしてきますね>
「はい、お願いします!」
町のほうへ走っていくリヒトとヘーシェン。そのスピード、まさに脱兎の如し。
「……って、ええ!?」
気付いた時には、止めようとした時には既に、遅かった。
と、先程までサンドイッチが乗っていた皿を片付けながら、ルガー。
その質問に、待ってましたとばかりに遥が食いついた。
「私を助けてくれたあの子のために、マナについて学ばなきゃ、と思って……そのためには、神子様に師事するのが一番かな、って思ったんです」
「と、いう事は?」
「ここで、働かせていただけないでしょうか」
するとルガーは優しく目を細め、ゆっくりと頷くと、
「だそうです、オーナー」
上品な仕草で紅茶を飲んでいる黒髪の少女のほうを見た。……え? オーナー?
彼女はそれを見るなり立ち上がり、
「えー、皆さん!」
ロングスカートに着替え、黒いジャケットを羽織った少女がその透き通った声を張り上げる。どこから取り出したのか、手にはメガホン。
「皆さん、準備をお願いします! そしてたまちゃん!」
<ああ、わかっているよ。……駄目なようなら、落とせばいい>
遥、リヒターを除く、その場にいた全員が立ち上がる。
「突然ですみませんが、一条 遥さん、リヒター・ペネトレイターさん」
ポケットからゴムを取り出し、長い黒髪をポニーテールに結わう。その刹那、少女の可愛いらしさを、凜とした雰囲気が上回った。
「あなたがたには、入社試験を受けていただきます」
「入社試験……何をするんですか?」
何らかのテストがある事は想像はしていたが……何をするのかは見当がつかない。筆記試験とか?
<模擬戦闘だ>
「模擬……戦闘!?」
「はい。遥さんと、そこにいるリヒター・ペネトレイターさんのチーム、私と玉藻・ヴァルパインのチームで模擬戦闘を行います。お金がかかるので銃器の類は使いません」
大丈夫だろうか。昨日の戦闘でリヒターの強さは十分わかったとはいえ、彼は補給無しで稼動し続けている。マナの残量は大丈夫だろうか。
<大丈夫だ、手加減はしてやる。本気を出したら、すぐに倒しちまうからな>
「むっ」
見透かされた。
皮肉混じりにフッと挑発する、たまちゃんこと玉藻・ヴァルパイン。その挑発に、
「いいですよ、やってやりますとも。模擬のほう、今すぐにでも。……いい? リヒター」
一条 遥、乗っかった。
<イエス・マイマスター>
黒いナイトも、ついてった。
「では、13時に模擬戦闘を開始します。リタさんとライディースさんは、各オートマタの整備をお願いします……いじらせていただいて構いませんね? リヒターさん」
<はい、構いません>
「あいよ!」
「了解しました!」
二人のメカニックがリヒターに駆け寄る。
「じゃあ俺達は」
<この事を皆に言いふらしてきますね>
「はい、お願いします!」
町のほうへ走っていくリヒトとヘーシェン。そのスピード、まさに脱兎の如し。
「……って、ええ!?」
気付いた時には、止めようとした時には既に、遅かった。
♪ ♪ ♪
ローブを椅子に掛け、準備運動をする遥。やる気は十分だ。
あと少しで13時、勝負の時間がやってくる。……なんだか外が騒がしいような気がするのは気のせいだろうか。
ふと傍らに鎮座するリヒターを見上げた。肩の損傷はほぼ完全に修復されている。どうやらここのメカニック達はかなり優秀らしい。
「後でお礼を言わなきゃね」
「……いいや、その前に『よろしく』じゃないかな」
声がした扉のほうを見る。壁に寄り掛かって腕を組む金髪眼鏡がいた。歳の頃は17、8くらいか。
「ああ、あなたは」
「よう、遥ちゃん。僕はここでメカニックやってるライディース・グリセンティってんだ、ライって呼んでよ」
人差し指と中指を立ててご挨拶。ノリの軽いタイプのようだ。
「よろしくお願いします」
「ああ、そう堅くならなくていいよ。僕そういうの苦手だからさ」
口調は斜めに構えたニヒルな感じ。しかしどことなく感じるのは三枚目の匂い。
「えーと……じゃあ、ライ。何かご用?」
ローブを掛けた椅子にちょこんと座る。同時にライディースもどさりと腰掛けた。
「うん、ご用。……今回の模擬戦闘なんだけど、なるべくモノホンのアリーナに近付けたいんだよね」
アリーナ。オートマタ同士を戦わせ、その勝敗を競うスポーツだ。巨大な機体同士が激しくぶつかり合う、血湧き肉躍るその競技はこれまで数々の伝説を、英雄を生み出してきた。老若問わず圧倒的人気を誇り、チケットは即座に売り切れてしまう。
「ふむ。モノホンのアリーナ、か……」
しかし遥は実際のアリーナを見た事が無い。……いや、一度だけ、ある。ただその時はスタッフとして働いていたので、しっかりと試合を見る事はできなかったのだが。
「そう、モノホンのアリーナ!」
ライが勢い余って席から身を乗り出す。どうやら結構なアリーナフリークらしい。
「うーん……具体的にはどうすればいいの?」
するとライ、今度は席から立ち上がる。かなり熱くなっているようだ。
「入、場、シーン!」
「なるほど、入場シーン!」
とりあえずその熱に乗っかってみる。
「そう、入場シーン! アレをやってもらいたいんだよ! チャンピオン対チャレンジャーみたいな奴!」
チャンピオン対チャレンジャー……わかりやすい例えだ。してほしい事が頭ではなく心で理解できた。
「大体わかった、やってみる!」
誰もいないところでかっこよく登場しても虚しいだけなのでは……いや、これから一緒に働くかもしれないのだ、仲良くなっておいて損は無い。
「ありがとう遥ちゃん!」
いきなりがっしりと手を握られ、少し顔が熱くなる。
「ど、どういたしまして」
「じゃあ、頼んだよ!」
あと少しで13時、勝負の時間がやってくる。……なんだか外が騒がしいような気がするのは気のせいだろうか。
ふと傍らに鎮座するリヒターを見上げた。肩の損傷はほぼ完全に修復されている。どうやらここのメカニック達はかなり優秀らしい。
「後でお礼を言わなきゃね」
「……いいや、その前に『よろしく』じゃないかな」
声がした扉のほうを見る。壁に寄り掛かって腕を組む金髪眼鏡がいた。歳の頃は17、8くらいか。
「ああ、あなたは」
「よう、遥ちゃん。僕はここでメカニックやってるライディース・グリセンティってんだ、ライって呼んでよ」
人差し指と中指を立ててご挨拶。ノリの軽いタイプのようだ。
「よろしくお願いします」
「ああ、そう堅くならなくていいよ。僕そういうの苦手だからさ」
口調は斜めに構えたニヒルな感じ。しかしどことなく感じるのは三枚目の匂い。
「えーと……じゃあ、ライ。何かご用?」
ローブを掛けた椅子にちょこんと座る。同時にライディースもどさりと腰掛けた。
「うん、ご用。……今回の模擬戦闘なんだけど、なるべくモノホンのアリーナに近付けたいんだよね」
アリーナ。オートマタ同士を戦わせ、その勝敗を競うスポーツだ。巨大な機体同士が激しくぶつかり合う、血湧き肉躍るその競技はこれまで数々の伝説を、英雄を生み出してきた。老若問わず圧倒的人気を誇り、チケットは即座に売り切れてしまう。
「ふむ。モノホンのアリーナ、か……」
しかし遥は実際のアリーナを見た事が無い。……いや、一度だけ、ある。ただその時はスタッフとして働いていたので、しっかりと試合を見る事はできなかったのだが。
「そう、モノホンのアリーナ!」
ライが勢い余って席から身を乗り出す。どうやら結構なアリーナフリークらしい。
「うーん……具体的にはどうすればいいの?」
するとライ、今度は席から立ち上がる。かなり熱くなっているようだ。
「入、場、シーン!」
「なるほど、入場シーン!」
とりあえずその熱に乗っかってみる。
「そう、入場シーン! アレをやってもらいたいんだよ! チャンピオン対チャレンジャーみたいな奴!」
チャンピオン対チャレンジャー……わかりやすい例えだ。してほしい事が頭ではなく心で理解できた。
「大体わかった、やってみる!」
誰もいないところでかっこよく登場しても虚しいだけなのでは……いや、これから一緒に働くかもしれないのだ、仲良くなっておいて損は無い。
「ありがとう遥ちゃん!」
いきなりがっしりと手を握られ、少し顔が熱くなる。
「ど、どういたしまして」
「じゃあ、頼んだよ!」
そう言ってガレージを出ようとして、その寸前に振り返るライ。
「君には期待してるよ。僕は君に賭けたんだからね」
……賭けた? なんだかあまりいいニュアンスに聞こえなかったのは何故だろう。
「それに、君達が加わってくれれば、あいつらなんか……!」
……あいつら? はて、何の事だろう。尋ねる前にライは出ていってしまった。
「なんかよくわかんないけど、複雑なんだなァ」
それっきり遥は考えるのをやめた。なんだか色々変だが、今は集中だ、集中。
<……マスター>
「ん? どうしたの? リヒター」
起きてたんだ。
<つかぬ事をお聞きしますが……入場シーンとは、どうすればいいのでしょうか>
ぷっ。
「真面目なんだね、リヒターって。なんだかワンちゃんみたい」
そう、まるで一生懸命な子犬のようだ。リヒター・ペネトレイター、可愛い奴め。
「入場シーンっていうのはね、堂々と歩けばいいんだよ」
……多分。自分もよくわかっていないので、心の中でそう付け加える。
<イエス・マイマスター>
素直にお返事。偉い偉い。
「さーて、もうそろそろ時間かな。調子はどう?」
<至って良好です、マスター。後でリタ・ベレッタらに礼をしなければいけません>
「そうだね。でもそれは勝ってから!」
椅子からローブを引ったくって羽織り、フードを目深に被る。傍から見ればまるで魔術師のような格好だ。
「……じゃ、行こっか!」
<イエス・マイマスター>
そして外に出た遥達を迎えた……いや、襲ったのは――――
「君には期待してるよ。僕は君に賭けたんだからね」
……賭けた? なんだかあまりいいニュアンスに聞こえなかったのは何故だろう。
「それに、君達が加わってくれれば、あいつらなんか……!」
……あいつら? はて、何の事だろう。尋ねる前にライは出ていってしまった。
「なんかよくわかんないけど、複雑なんだなァ」
それっきり遥は考えるのをやめた。なんだか色々変だが、今は集中だ、集中。
<……マスター>
「ん? どうしたの? リヒター」
起きてたんだ。
<つかぬ事をお聞きしますが……入場シーンとは、どうすればいいのでしょうか>
ぷっ。
「真面目なんだね、リヒターって。なんだかワンちゃんみたい」
そう、まるで一生懸命な子犬のようだ。リヒター・ペネトレイター、可愛い奴め。
「入場シーンっていうのはね、堂々と歩けばいいんだよ」
……多分。自分もよくわかっていないので、心の中でそう付け加える。
<イエス・マイマスター>
素直にお返事。偉い偉い。
「さーて、もうそろそろ時間かな。調子はどう?」
<至って良好です、マスター。後でリタ・ベレッタらに礼をしなければいけません>
「そうだね。でもそれは勝ってから!」
椅子からローブを引ったくって羽織り、フードを目深に被る。傍から見ればまるで魔術師のような格好だ。
「……じゃ、行こっか!」
<イエス・マイマスター>
そして外に出た遥達を迎えた……いや、襲ったのは――――
♪ ♪ ♪
『えー、今回はこの場にお集まりいただき、誠にありがとうございます。実況はこの僕、ライディース・グリセンティが!』
『解説はこの私、リタ・ベレッタと!』
<ヴァイス・ヘーシェンがお送りするでござるの巻>
……え?
『さあ、挑戦者がやってまいりました! 三つ編み娘、一条 遥とその従者、リヒター・ペネトレイタァァァァァァァァァァッ!!』
ワァァァァァァァァ!!
歓声と、熱気だった。おそらく町中の人という人が集まっている。
内心「何事か!?」と戸惑いながらも、遥はあくまでも悠々と歩を進めた。
『迎え撃つは、なんでも屋“やおよろず”がオーナー、まどか・ブラウニングと、我らが教官、玉藻・ヴァルパイィィィィィィィン!!』
ワァァァァァァァァ!!
一方壇上には黒髪のまどか。毅然としているようで、よく見るとうろたえている。どうやら彼女にとってもイレギュラーな事態らしい……傍らのパートナーはどうか知らないが。
遥とリヒターが指定の位置に辿り着くと、あれほど賑わっていた歓声がピタリと止んだ。
見上げる視線の先、箱のようなパーツで構成されたオリーブ色の重量級、大型オートマタ。あれが玉藻・ヴァルパインの本体か。イメージと随分違うが……。
<来たか。一条 遥、リヒター・ペネトレイター>
ククク、と笑うさまはまるでヒールのようで。
「ええ、来ました。玉藻・ヴァルパイン」
被っていたフードを派手な動作で取っ払った。会場に歓声が戻ってくる。それっぽく言ってみたが、どうやらハズレではなかったようだ。
『お互い準備はオーケーですね? ……では、3、2、1』
「たまちゃん!」
「リヒター!」
『レディー・ゴー!!』
GO Ahead! 重なった二つの声を、巨大な声達が掻き消した。
『解説はこの私、リタ・ベレッタと!』
<ヴァイス・ヘーシェンがお送りするでござるの巻>
……え?
『さあ、挑戦者がやってまいりました! 三つ編み娘、一条 遥とその従者、リヒター・ペネトレイタァァァァァァァァァァッ!!』
ワァァァァァァァァ!!
歓声と、熱気だった。おそらく町中の人という人が集まっている。
内心「何事か!?」と戸惑いながらも、遥はあくまでも悠々と歩を進めた。
『迎え撃つは、なんでも屋“やおよろず”がオーナー、まどか・ブラウニングと、我らが教官、玉藻・ヴァルパイィィィィィィィン!!』
ワァァァァァァァァ!!
一方壇上には黒髪のまどか。毅然としているようで、よく見るとうろたえている。どうやら彼女にとってもイレギュラーな事態らしい……傍らのパートナーはどうか知らないが。
遥とリヒターが指定の位置に辿り着くと、あれほど賑わっていた歓声がピタリと止んだ。
見上げる視線の先、箱のようなパーツで構成されたオリーブ色の重量級、大型オートマタ。あれが玉藻・ヴァルパインの本体か。イメージと随分違うが……。
<来たか。一条 遥、リヒター・ペネトレイター>
ククク、と笑うさまはまるでヒールのようで。
「ええ、来ました。玉藻・ヴァルパイン」
被っていたフードを派手な動作で取っ払った。会場に歓声が戻ってくる。それっぽく言ってみたが、どうやらハズレではなかったようだ。
『お互い準備はオーケーですね? ……では、3、2、1』
「たまちゃん!」
「リヒター!」
『レディー・ゴー!!』
GO Ahead! 重なった二つの声を、巨大な声達が掻き消した。
♪ ♪ ♪
激突。興奮と熱狂の中、鋼の身体がぶつかり合って、耳障りな音を立てた。
<……正面からか>
<違うな、リヒター・ペネトレイター>
たまが上半身を落とし、足払い。リヒターがバランスを崩す。が、着地寸前でブースタを使って無理矢理体勢を元に戻し、なんとか距離を離した。……やはり、できる。
<……正面からか>
<違うな、リヒター・ペネトレイター>
たまが上半身を落とし、足払い。リヒターがバランスを崩す。が、着地寸前でブースタを使って無理矢理体勢を元に戻し、なんとか距離を離した。……やはり、できる。
♪ ♪ ♪
『いやー、今のは際どかったですね、リタさん、ヴァイスさん』
『はい、高出力ブースタが無ければ即死でしたね!』
<リヒターさん、思ったより強引なんですね、惚れてしまいます>
『はい、高出力ブースタが無ければ即死でしたね!』
<リヒターさん、思ったより強引なんですね、惚れてしまいます>
♪ ♪ ♪
今度はたまがブースターに点火。それと同時に足の裏に装備されたローラーが回転し、摩擦を軽減する。
――――突っ込んでくるか、真っ直ぐ。
接触寸前、サイドのブースタ全開。超高速移動でそれを躱す。
<いい性能だ。だが、ブースタ便りの戦い方で勝てると思うなよ?>
たまの腕からワイヤーアンカー。それがリヒターの腕の付け根に絡み付く。
――――しまった。
ワイヤーを巻き戻し、リヒターを引き寄せ、顔面を力いっぱい……ブン殴る!
<しかし、捕まえたのは、こちらも>
リヒターも負けじと腹に膝蹴りを喰らわせた。
<同じ……!>
――――突っ込んでくるか、真っ直ぐ。
接触寸前、サイドのブースタ全開。超高速移動でそれを躱す。
<いい性能だ。だが、ブースタ便りの戦い方で勝てると思うなよ?>
たまの腕からワイヤーアンカー。それがリヒターの腕の付け根に絡み付く。
――――しまった。
ワイヤーを巻き戻し、リヒターを引き寄せ、顔面を力いっぱい……ブン殴る!
<しかし、捕まえたのは、こちらも>
リヒターも負けじと腹に膝蹴りを喰らわせた。
<同じ……!>
♪ ♪ ♪
『おおっと、両名本格的絡み合ったー! 殴る蹴るの大接戦ですね!』
『ちょっとチーフ、実況は僕の役目なんスけど!?』
<単純な殴り合いなら重量級のたま姉様に分がありますね。ここからどう有利なポジションに持っていくのか注目です>
『シロちゃんがちゃんと解説している、だと……!?』
『ちょっとチーフ、実況は僕の役目なんスけど!?』
<単純な殴り合いなら重量級のたま姉様に分がありますね。ここからどう有利なポジションに持っていくのか注目です>
『シロちゃんがちゃんと解説している、だと……!?』
♪ ♪ ♪
<だがこれで自由に身動きは取れまい?>
たまが執拗に顔面を殴る。目を潰す算段か。
<それは>
リヒター、貫手にマナを集中させる。野良を葬った、あの一撃だ。
<貴女も同じはずだ>
弓を引くように拳を引き、瞬速の突きが炸裂する。
「決まった!?」
いや、決まっていない。当たる直前にマナが拡散してしまった。
「まさか……」
懸念していた事が現実となってしまった。
マナが、もう無い……!?
<どうやらマナが尽きたようだな。……まあ昨日から……いや、ひょっとするとそれ以前から補給をしていなかったのなら仕方ない。最大出力でドンパチをしたなら、なおさらな>
口ではそう言うが、行動には全く容赦が無い。顔面、密着状態から立て続けに一発、二発、三発。
<……まあ、よくやったよ貴様は>
蹴り倒し、踏み付ける。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。リヒターがたまの足首を掴んだのだ。
黒騎士、最後の力を振り絞って叫ぶ。
<……マスター、マナを、今こそ……!>
そうしたい、そうしたいけど……どうすればいいのかがわからない。
<私と、接触したの、なら……フラグは、既に……。あなたの、意思に……応えてくれる……はずです……!>
ああ、賢者の石だけに!? などとツッコんでる場合ではない。
――――賢者の石が、リヒターが言う通り、私の想いに応えるなら……、
「マナを、ちょうだいっ!」
たまが執拗に顔面を殴る。目を潰す算段か。
<それは>
リヒター、貫手にマナを集中させる。野良を葬った、あの一撃だ。
<貴女も同じはずだ>
弓を引くように拳を引き、瞬速の突きが炸裂する。
「決まった!?」
いや、決まっていない。当たる直前にマナが拡散してしまった。
「まさか……」
懸念していた事が現実となってしまった。
マナが、もう無い……!?
<どうやらマナが尽きたようだな。……まあ昨日から……いや、ひょっとするとそれ以前から補給をしていなかったのなら仕方ない。最大出力でドンパチをしたなら、なおさらな>
口ではそう言うが、行動には全く容赦が無い。顔面、密着状態から立て続けに一発、二発、三発。
<……まあ、よくやったよ貴様は>
蹴り倒し、踏み付ける。
だが、戦いはまだ終わっていなかった。リヒターがたまの足首を掴んだのだ。
黒騎士、最後の力を振り絞って叫ぶ。
<……マスター、マナを、今こそ……!>
そうしたい、そうしたいけど……どうすればいいのかがわからない。
<私と、接触したの、なら……フラグは、既に……。あなたの、意思に……応えてくれる……はずです……!>
ああ、賢者の石だけに!? などとツッコんでる場合ではない。
――――賢者の石が、リヒターが言う通り、私の想いに応えるなら……、
「マナを、ちょうだいっ!」
刹那、胸の奥底から何かが沸き上がる。温かく、満たされるような感覚。優しくて、心地のいい感情。これが、これがマナというモノなのか。
扱い方はなんとなく理解できる。マナが、教えてくれる。
ならば、沸き上がるマナよ!
「リヒターに……届けぇぇぇぇ!!」
地面に思いっきり手を押し付けた。マナが大地に吸収され、そのマナは地脈を通って彼へと流れ込む。
そして――――
扱い方はなんとなく理解できる。マナが、教えてくれる。
ならば、沸き上がるマナよ!
「リヒターに……届けぇぇぇぇ!!」
地面に思いっきり手を押し付けた。マナが大地に吸収され、そのマナは地脈を通って彼へと流れ込む。
そして――――
♪ ♪ ♪
<こいつは、まさか>
距離を離す。ここで攻撃を加えるのはどちらにとっても面白くない。
<……まどか、管理者へのアクセスは?>
まどか・ブラウニング、その問いに震える声で、短く「されていません」とだけ答える。魅入っているのだ、この光景に。
しかし、これで八割方確定した。
<一条 遥は賢者の石を宿している、か……。それにしても、この土壇場で発動するとは>
全てのオートマタが目指すものがそこにある――――興奮が駆け巡り、手の震えが止まらない。
今にも笑い出したい衝動を必死で堪える。柄にも無く子供のように跳び跳ねたくてウズウズする。
<――――ああ、そうだな。夢見る乙女になってしまいそうだよ>
マナが充填されてゆっくりと起き上がる黒騎士を見て、柄にも無い、本当に柄にも無い事を口走った。
<面白いじゃないか。管理者も把握していない存在……イレギュラーめ>
距離を離す。ここで攻撃を加えるのはどちらにとっても面白くない。
<……まどか、管理者へのアクセスは?>
まどか・ブラウニング、その問いに震える声で、短く「されていません」とだけ答える。魅入っているのだ、この光景に。
しかし、これで八割方確定した。
<一条 遥は賢者の石を宿している、か……。それにしても、この土壇場で発動するとは>
全てのオートマタが目指すものがそこにある――――興奮が駆け巡り、手の震えが止まらない。
今にも笑い出したい衝動を必死で堪える。柄にも無く子供のように跳び跳ねたくてウズウズする。
<――――ああ、そうだな。夢見る乙女になってしまいそうだよ>
マナが充填されてゆっくりと起き上がる黒騎士を見て、柄にも無い、本当に柄にも無い事を口走った。
<面白いじゃないか。管理者も把握していない存在……イレギュラーめ>
♪ ♪ ♪
「出来た、私にも……」
半ば呆けたように、つい今しがたリヒターにマナを注いだその手を見る。まだ少しだけ残る、マナの温もり。
そして少女は、見た目相応の笑顔を浮かべてこう言った。
「私にも出来たよ! リヒター!」
覚醒した賢者の石をの効果か、それとも精神的なものなのか、とても身体が軽い。どこまでも飛んで行けそうな気がするくらい。今の自分なら、何だって出来そうな……こういう気持ちを、何ていうんだっけ。
<イエス・マイマスター。……感謝します>
半ば呆けたように、つい今しがたリヒターにマナを注いだその手を見る。まだ少しだけ残る、マナの温もり。
そして少女は、見た目相応の笑顔を浮かべてこう言った。
「私にも出来たよ! リヒター!」
覚醒した賢者の石をの効果か、それとも精神的なものなのか、とても身体が軽い。どこまでも飛んで行けそうな気がするくらい。今の自分なら、何だって出来そうな……こういう気持ちを、何ていうんだっけ。
<イエス・マイマスター。……感謝します>
――――M-12“リヒター・ペネトレイター”再起動、完了――――
<これでまた……戦える>
ああ、そうだ、全能感だ。全能感っていうんだ、この感覚。
「戦えるよ、勝てるよ。今なら、きっと」
なんとなくだけど、わかる。
<ならば、マスター>
リヒター、一度こちらを窺うと、すぐにたまのほうへ向き直る。
<ご指示を>
マナの防壁、発動。やる気は満々のようだ。
「なら、がむしゃらに接近して」
一歩踏み込む、二歩踏み込む、三歩踏み込む、四歩、五歩、六歩。走り出して、加速、加速、加速。
「真正面から、とっつけ!」
<イエス・マイマスター!>
ああ、そうだ、全能感だ。全能感っていうんだ、この感覚。
「戦えるよ、勝てるよ。今なら、きっと」
なんとなくだけど、わかる。
<ならば、マスター>
リヒター、一度こちらを窺うと、すぐにたまのほうへ向き直る。
<ご指示を>
マナの防壁、発動。やる気は満々のようだ。
「なら、がむしゃらに接近して」
一歩踏み込む、二歩踏み込む、三歩踏み込む、四歩、五歩、六歩。走り出して、加速、加速、加速。
「真正面から、とっつけ!」
<イエス・マイマスター!>
♪ ♪ ♪
<イエス・マイマスター!>
リヒター・ペネトレイター、敵機を正面に捉え、ブースト! 防壁をさらに集束させた両腕には、主人から送られたマナと、一撃必殺の攻撃力。
迎え撃つは齢千を越えし妖狐、玉藻・ヴァルパイン。何を考えたか、そこから動かない。
<正面から……愚直だな、リヒター!>
<それは貴女も同じだ!>
エンゲージ。防壁同士がぶつかり合って、火花を散らす。動きが止まった、今なら――――!
右手のパイルの尖端がたまの防壁を貫いた。
<甘いな! ……まどか!>
「はい、たまちゃん!」
まどかが杖を突き刺し、叫ぶ。
「マナ……ブースト!」
管理者にアクセスし、たまへとマナを送り込む。それによって強化された防壁が光のパイルを押し返す。
<マナが足りてないんだよ。完全じゃない、だから>
ブーストされた出力に加え、各部に展開されていた防壁が集中し、やがてリヒターを弾き飛ばした。
<こうなる!>
全体重を乗せた一撃が迫る、迫る、迫る!
<させるか……!>
右前部ブースタで勢いを増して、横方向へ一回転。身を屈めて、回避と同時に足を狙う!
<くそっ、ぬかった! 防壁を一ヶ所に集め過ぎたか!>
大腿部へとパイルが吸い込まれる、その直前。
リヒター・ペネトレイター、敵機を正面に捉え、ブースト! 防壁をさらに集束させた両腕には、主人から送られたマナと、一撃必殺の攻撃力。
迎え撃つは齢千を越えし妖狐、玉藻・ヴァルパイン。何を考えたか、そこから動かない。
<正面から……愚直だな、リヒター!>
<それは貴女も同じだ!>
エンゲージ。防壁同士がぶつかり合って、火花を散らす。動きが止まった、今なら――――!
右手のパイルの尖端がたまの防壁を貫いた。
<甘いな! ……まどか!>
「はい、たまちゃん!」
まどかが杖を突き刺し、叫ぶ。
「マナ……ブースト!」
管理者にアクセスし、たまへとマナを送り込む。それによって強化された防壁が光のパイルを押し返す。
<マナが足りてないんだよ。完全じゃない、だから>
ブーストされた出力に加え、各部に展開されていた防壁が集中し、やがてリヒターを弾き飛ばした。
<こうなる!>
全体重を乗せた一撃が迫る、迫る、迫る!
<させるか……!>
右前部ブースタで勢いを増して、横方向へ一回転。身を屈めて、回避と同時に足を狙う!
<くそっ、ぬかった! 防壁を一ヶ所に集め過ぎたか!>
大腿部へとパイルが吸い込まれる、その直前。
「そこまで!」
金髪の偉丈夫の一声で、戦闘は停止した。両者共にピタリと止まる。それは彼、彼女らのマスター、観客も例外ではなかった。まるで時が止まったように、静寂が辺りを支配する。
だが、それも数瞬。
「勝者……リヒター・ペネトレイター!」
ジャッジが下った。今まで以上の圧倒的な声が空を、大地を震わせる。
「私達、勝ったんだ!」
<イエス・マイマスター。我々の勝利です>
「やったね、やったねリヒター!」
<……イ、イエス・マイマスター>
喜びの余り足に抱き着いてくる遥にたじろぐリヒター。そこにまどかを肩に乗せたたまが歩いてきた。
「遥さんも、リヒターさんも、本当に凄いです。昨日が初対面だとは思えないくらい。ね? たまちゃん」
<ああ。楽しかったよ、リヒター・ペネトレイター。柄にも無くに熱くなっちまった>
対戦相手からのきらびやかな賛辞。そし差し出された手。無言でそれをがしりと握る。
<認めよう、お前達の力を。そして――――>
金髪の偉丈夫の一声で、戦闘は停止した。両者共にピタリと止まる。それは彼、彼女らのマスター、観客も例外ではなかった。まるで時が止まったように、静寂が辺りを支配する。
だが、それも数瞬。
「勝者……リヒター・ペネトレイター!」
ジャッジが下った。今まで以上の圧倒的な声が空を、大地を震わせる。
「私達、勝ったんだ!」
<イエス・マイマスター。我々の勝利です>
「やったね、やったねリヒター!」
<……イ、イエス・マイマスター>
喜びの余り足に抱き着いてくる遥にたじろぐリヒター。そこにまどかを肩に乗せたたまが歩いてきた。
「遥さんも、リヒターさんも、本当に凄いです。昨日が初対面だとは思えないくらい。ね? たまちゃん」
<ああ。楽しかったよ、リヒター・ペネトレイター。柄にも無くに熱くなっちまった>
対戦相手からのきらびやかな賛辞。そし差し出された手。無言でそれをがしりと握る。
<認めよう、お前達の力を。そして――――>
■Episode 08:『なんでも屋“やおよろず”へようこそ!』(発動篇)
興奮冷めやらぬ喝采の中、遥とリヒターの入社試験は終わりを告げた。ぞろぞろと帰っていく町の人々。その中には二人を励ます人達もいた。つかみは上々のようだ。
「町村特有の排他的な雰囲気を払拭したぞ、ヘーシェン」
<流石だよな俺ら>
計画成功でご満悦のリヒトとヘーシェンの背後に忍び寄る巨体。
<何が流石だ、貴様ら。無駄な労力を使わせやがって>
「緊張したんですよ、すっごく!」
たまとまどかの平仮名コンビである。
<オーケーオーケー。姉者もオーナーもマテ! ときに落ち着けって!>
「そうそう、賭けに勝ってがっぽり儲けたしね、僕が!」
「楽しかったですしね!」
そう言いながら椅子を片付けるメカニック二人。
「試験だという事を忘れるくらいね。それに模擬店のおかげ小遣いも手に入ったし、万々歳じゃないか」
と、エプロン姿のルガー。手に持つ缶の中にはお金。
「ルガーさんまで……もうっ」
「まあまあ。僕らが責任を持って片付けるから、二人は休んでおくといいよ」
「それよりも」と言葉を続ける。
「今日は遥ちゃん達の歓迎パーティーをしようと思うんだけど、どうかな? お金ならある事だし」
その案に反対する者はいなかった。
「じゃあ、とっとと片付けちゃいましょう!」
各々返事をして、散らばっていく。
最後に残ったヘーシェンが、人垣の中で引っ張り凧になっている遥とリヒターを見、呟いた。
<本当に忙しいのは、これからですけどね>
遥を襲ったオートマタのが、まだはっきりしていない。リヒターの事もだ。もしもあのフェーレスが賢者の石を狙っていたのなら、面倒な事になるだろう。が、
<……ま、いっか>
今は考えるのはやめにしよう。この状況を楽しむべきだ。それに、
――――ルガーさんの料理……一度は食べてみたいですね、興味があります。
<あーあ、人間になりたいなー>
何気なく呟いた小さな彼女の独り言は、二人を取り巻くざわめきに掻き消された。
「町村特有の排他的な雰囲気を払拭したぞ、ヘーシェン」
<流石だよな俺ら>
計画成功でご満悦のリヒトとヘーシェンの背後に忍び寄る巨体。
<何が流石だ、貴様ら。無駄な労力を使わせやがって>
「緊張したんですよ、すっごく!」
たまとまどかの平仮名コンビである。
<オーケーオーケー。姉者もオーナーもマテ! ときに落ち着けって!>
「そうそう、賭けに勝ってがっぽり儲けたしね、僕が!」
「楽しかったですしね!」
そう言いながら椅子を片付けるメカニック二人。
「試験だという事を忘れるくらいね。それに模擬店のおかげ小遣いも手に入ったし、万々歳じゃないか」
と、エプロン姿のルガー。手に持つ缶の中にはお金。
「ルガーさんまで……もうっ」
「まあまあ。僕らが責任を持って片付けるから、二人は休んでおくといいよ」
「それよりも」と言葉を続ける。
「今日は遥ちゃん達の歓迎パーティーをしようと思うんだけど、どうかな? お金ならある事だし」
その案に反対する者はいなかった。
「じゃあ、とっとと片付けちゃいましょう!」
各々返事をして、散らばっていく。
最後に残ったヘーシェンが、人垣の中で引っ張り凧になっている遥とリヒターを見、呟いた。
<本当に忙しいのは、これからですけどね>
遥を襲ったオートマタのが、まだはっきりしていない。リヒターの事もだ。もしもあのフェーレスが賢者の石を狙っていたのなら、面倒な事になるだろう。が、
<……ま、いっか>
今は考えるのはやめにしよう。この状況を楽しむべきだ。それに、
――――ルガーさんの料理……一度は食べてみたいですね、興味があります。
<あーあ、人間になりたいなー>
何気なく呟いた小さな彼女の独り言は、二人を取り巻くざわめきに掻き消された。
――――次回へ続きますの。
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