創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第一話 「自信があるから成功とは限らない」

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sousakurobo

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人類共通の夢の一つに、「もっと遠く」というものがある。
 他の大陸や島を知らない人間は外に出たがり、大航海時代になるとその欲望は爆発した。
 勿論利権絡みの話もあっただろうが、純粋な学者や冒険者は未知なる世界を求めて海を渡った。
 やがて時代は変わっていき、世界で最も高い山や南極北極などに次々に進出していき、地球上で未知な世界は消えた。
 そこで人類は考える。
 地球がダメなら、遥か遠くの星がある、と。
 試行錯誤、途方も無い資金が投じられて、人類はとうとう宇宙に進出し、月へ到達し、更には太陽系の外にまで進出した。
 有人で外宇宙までいけるようになったその時代、地球に突然の終焉が襲来した。
 月の40%ほどの大きさの隕石の襲来。
 それを迎え撃とうと全世界が総力を結集するも、結果は失敗。
 人類は、来るべき滅びのときに備えて、「人類の種計画」を始動させた。現代版のノアの箱舟とも言うべきその計画は、候補地に選出されたいくつかの惑星に向けて生物の種子や人間を乗せて出発し、惑星改造を行うことで第二の地球を作り出すという途方も無いものであった。
 そしてその時は来た。
 聖書に記されている世界終焉の刻。
 地球は木っ端微塵に砕け散り、太陽の重力に引かれて跡形も無く消えうせた。
 「人類の種計画」によって建造された移住船は衝突前に地球を出発。宇宙を目指していって、とうとう太陽系から姿を消した。



 目的の星にたどり着いた移民者達が惑星改造して第二の地球に変えてから数十年。
 そこでは、海に眠るお宝を探して人型の探査機が活躍していた。









 第二地球暦148年 5月10日 13時20分
 α1遺跡 深度3000m付近




 ―――海。
 生命のゆりかごと称されるその水の中を、大きな影が下降していく。
 水というのは、単にそこに満たされているだけではない。物体を溶かし、状態を変化させて、自然の地形を生み出す。時に津波となって甚大な被害をもたらす。 水とは無表情ではないのだ。
 更に深海となると、水圧で大抵のものがぺしゃんこにされてしまう。その力たるや並大抵のものではない。普通の生物は生きることすら許されない。
 その巨大な影の「腕」が位置を微調整するかのように動く。
 頭部と思しき箇所が蠢いたかと思うと、ライトに光を灯して、更なる深海へと向ける。
 それはつるりとした表面をしており、全体的に流線型で、赤い塗装や青い塗装が迷彩模様のように混ざり合う奇妙な風貌をしている。スラリと伸びた金属の両脚の先端部にはパイプのような形状の装置をつけており、人間の背中に該当する部分は出っ張っており、ぽっかりと口をあけた部位がいくつか存在する。
 この星での通称を「潜水機」という、人型の探査用機である。
 潜水機の居る位置は深度3000m。人間の目では暗闇としか言いようが無い海を、潜水機はただ潜って行く。というよりかは「沈んでいる」といったほうがいいのかもしれない。
 頭部のライトが海中に浮いている白い物体を浮き出させる。
 プランクトンの死骸などが沈んでいる最中の光景。マリンスノーである。
 生物やモノの存在しないこの空間では、小さな白い塊ですら巨大な惑星のようにも見えてくる。その中を沈んでいく潜水機は神話に登場する巨人であろうか。
 深度はついに4000mに到達する。
 潜水機の頭部のライトが照射点を変える。そこには、深海にあるはずの無い物体が映し出されていた。
 流線型、幾何学的な文様を施された建築物や、なんと形容していいのか分からない残骸。ドーム状の一箇所は鋭利な刃物で切り取られたかのように口を空けて暗闇を享受している。
 別の方向を照らして見れば、深海に張り付くように存在する巨大な建築物が見えるようになる。
 潜水機は頭部を上に向けるようにすると、脚部に取り付けられているスラスターによって速度を落としていって、最終的にマリンスノーのような速度で両脚を建築物につける。
 サイコロのように角ばった建物の表面が、潜水機が海水をかき回した余波で、まるで煙をあげているかのようになる。つもり積もったマリンスノーであろうか。
 潜水機の頭部メインカメラが稼働して周辺を観察する。
 この頭部にはその他にもいくつか機器が取り付けられているため、一般的な人間の頭部とはかなり異なる形状をしている。
 潜水機は、「遺跡」に存在する「入り口」を覗き込むと、ふわりと舞い上がるような軽やかな動きで中に入っていった。




 「メリッサ、周辺警戒と音像」
 「もうやってる。アンタこそ操縦しくじらないでよ」
 「分かってる、命かかってるんだからさ」

 静かな外の世界とは全く違って、潜水機内部は非常に賑やかだった。
 前に機体の操縦者である彼が座り、後ろに補助の彼女が座る。
 操縦席には周辺から取り入れられた映像が映し出されており、「遺跡」内部に自分が生身で立っているかのようである。彼の手元にはいくつか半透明なモニターが映し出されていて、各種情報が表示されている。その中には現在の深度や居場所があり、絶えず情報を更新してモニターに反映していることが良く分かる。
 彼――ユト=シーゼンコードの命令通りに機体は「遺跡」を進んでいく。
 ここでいう「遺跡」とは、単なる古びた建築物などではない。
 人類が始めて第二地球に訪れた際に発見された謎の建築物のことである。なんと深海に張り付くように建造されており、建物内部が水没してしまっている今現在でも朽ちることなく存在している。
 それだけだったら調査対象となるだけだが、この星の遺跡はそうではなかった。
 通常では信じられない強度を持つ合金。
 水没してもなお稼働を続ける謎の機関。
 高エネルギーを内包した結晶や鉱石。
 現在の技術では到底再現出来ない電子機器の残骸。
 高い技術があるからこそ作れる何らかの設計図の情報の断片。
 それらが遺跡内部には多数存在していたのである。
 当然、それを放置しておける人間など居ない。ゴールドラッシュにも似た大騒ぎが起こった。我先にと潜水艦を建造して、遺跡に残っているお宝を引き上げる。未知なる技術や物体は高値で売れるのだ。
 そうした状況を政府は止めようがなく(秘密に遺跡に向かうものが続出した)、仕方が無く黙認。
 そして現在、星に存在する遺跡に潜って宝を引き上げる職業を専門に行う「ダイバー」が社会で認められるようになっている。
 では何で人型なのか。
 それは、遺跡内部の各種の仕掛けや、ふらりと出現するガードロボの存在がある。
 生命反応を検知できなくても、遺跡は生きている。そう、防御機構や維持機構は今だに稼働をしていて、侵入者を排除しようとするときがあるのだ。
 それに対抗すべく造られたのが、潜水艦や潜水艇の発展型の「潜水機」なのである。
 対抗と言っても戦うことがメインではない。
 より確実に、安全に、「宝」を回収するためである。
 遺跡から引き上げられた技術を応用して造り上げられた潜水機は、従来の水中作業機と比較しても圧倒的に能力が高い。ある程度の戦闘もこなせ、道具を失っても手を使えば大抵のことはなんとかなる。その手も人間のように動かせるようになっている。
 ―――……技術の無駄遣いと言ったらそこまでなのだが。
 ユトは、前に潜ったときにスキャンした地図に眼を通しながら、潜水機脚部のスラスターで遺跡の回廊を進んでいく。
 潜水機の右腕には黒い剣。左腕にはグレネードランチャーのような形状の武器が装着されている。
 潜水機が楽々と通過できる回廊を頭部のライトが照らす。金属のような、木のような、樹脂のような、なんとも形容しがたい素材で構築されたその回廊。光の当たった箇所から見えたのは、緑に近い色だった。
 深海だというのに、こうやって人工物に囲まれて人工の(人類ではないが)建築物の内部に居ると、それこそバーチャルリアリティの世界に放り込まれたかのような錯覚を覚えてしまう。
 ユトは眼鏡の位置を修正すると、回廊の奥をじっと見つめて、機体を更に進ませていく。

 「ユト、地図ちゃんと見てよね。迷子はゴメンなんだから」
 「分かってる」

 背後からキンキンと響く声に頷いてみせた。投影されている三次元の地図を横目で確認し、回廊を更に進んでいく。機体の一部から小さな気泡が離れていって、回廊の天井へと向かっていった。
 静か。潜水機の駆動音と、呼吸の音が全ての漆黒の世界。

 「でもα1遺跡なんて、とうの昔に探検しつくされてるじゃない。どうして潜るの?」

 メリッサは目頭を揉み解しつつ、それでいて手は休めず機体各所の補助を行いつつ質問する。

 「確かにね」

 それに対してユトは頷いて見せた。
 α1遺跡。
 一番最初に発見された遺跡であり、数多くのダイバーが潜って宝を引き上げた巨大な海底建築物。地熱発電を行っていたということ、かつて知的生物が住んでいたということ、その二つの重要なことが分かっている遺跡である。
 構造も大半が分かっており、大した宝も出てこないからと熟練ダイバーの間では「初心者向け」「練習用」と評されている。
 そこをあえて潜って調べるというのだから、何か理由があるに違いない。
 メリッサはそう思って尋ねたのだ。
 ユトは機体を回廊の十字路の左に曲がらせると、その先にあった下に続く穴へと飛び込む。
 「誰も発見出来なかった新しい通路とかを探し出す。これ、ワクワクしない?」
 眼を輝かせながら言うユトに、メリッサはげっそりとした表情を浮かべて、出来る限りの限界速度で首を振って否定する。

 「お、か、ね、か、か、る、じゃない! なんなの? なんでこう冒険マニアなの? っていうかバカなの?」
 「バカって………新発見こそ楽しいし、発見できればお金になるし……」
 「そこにお宝があればね。あれば」
 「………だめ?」
 「あ、ガードロボ」
 「うえっ!?」

 冗談のような口調で画面を指差すメリッサ。それが冗談ではないことを悟ったユトは、咄嗟に右腕のブレードを構えた。
 次の瞬間、ボールのような形状のそれが、外見に似合わぬ速度で突っ込んできた。
 ブレード一閃。
 潜水機の右腕がボール型ガードロボを半ばから膾切りにした。
 ガードロボは爆発するでもなく、部品を回廊の床に撒き散らしながら沈黙した。
 斬った時に噴出したオイルが海水を汚す。
 その残骸にライトを当ててみる。その形状と行動形式に合致する情報がモニターに映し出された。

 「自爆型……こんな珍しいのがまだうろついてるなんてね」

 残骸をブレードで突く。飛び出た棒状の部品が回廊の床にポトリと落下した。

 「無傷で捕獲出来れば許してあげたんだけど」
 「無理言わないでよ」
 「無茶は言わないけど無理は言いたくなるわよ」

 どこか不機嫌そうな様子のメリッサにこれ以上言葉を発しても意味が無いと悟ったのか、操縦に没頭する。
 警戒を緩めることなく回廊を進んでいき、下まで続く巨大な縦坑に出る。身を乗り出すようにして縦坑の下を覗き込んでみると、地獄に繋がっているのではと錯覚するほどに深く、ライトの光が届いていない。他の場所と違って水が濁っているというのもある。
 縦坑の直径は少なくとも200m。一体全体ナニをするところなのかは分かっていない。
 ユトはライトで障害物などを確認して、一気に飛び込む。
 同時に両脚部の水中スラスターを作動させて、減速しながら下へと向かう。
 水の濁りはドンドン増していき、途中で視界全てが閉ざされてしまう。メリッサがカメラのモードを切り替える。すると、ぼんやりとながら状況の確認をすることが出来るようになる。
 音波式三次元図と比較しながらの降下作業。
 表示されている水深は数を増していき、機体のどこかが軋みを上げるような音が聞こえた。耐えられると知っていても気分がいいものではない。万が一、もしかして、そんなことばかりが脳裏に出てきてしまう。
 額に汗が浮かんで落ちる。
 二人は、口数も少なく縦坑を降下していく。
 深度5000mを突破。
 ついに機体の両脚が、縦坑の一番下につく。ここで最後だったらしい。魚雷ランチャーとブレードを構えて、縦坑の壁面へと進み寄る。

 「データによると」

 ユトは潜水機を操って魚雷ランチャーを肩にかけながら言った。

 「この第23大縦坑は、他の縦坑と違って隠し通路の数が圧倒的に少ない」

 そして胸部の収納スペースから調査用の器具を取り出して、壁に慎重に当てる。

 「なら、ひょっとしてあるかもしれない。どう? なんにも考えてないわけじゃないんだ」
 「いいわよ。そう………みつかれば、ね」
 「………」

 無言の圧力に屈してしまいそうになる自分に気合をいれつつ、調査器具の位置を変えて内部に空間が無いかどうかを調べていく。送られてきた情報に眼を通し、 作業を続けていく。メリッサは周辺に異常が無いかを常に監視する。
 直径200mもあるこの場所で発見された「抜け道」は今のところ3箇所だけ。
 一箇所くらいはあるはず、否、無いと困る。
 刻々と減っていく活動限界時間を尻目に、潜水機で壁を調べ続ける。
 時には手で壁を叩いてみたり、ブレードを小さな隙間にねじ込んでみたり、それはもう、地道な作業。誤解されがちな考古学者と同じで、基本はこういったことの繰り返しなのだ。ドンパチは出来る限り避けてスマートに事を終わらせるのが理想なのである。
 だから間違ってもテンガロンハットを被って鞭を振り回したり、ヒャッハーと叫んで銃を乱射したり、遺跡に爆薬を仕掛けて爆破したりはしない。
 残り時間は1時間。それが過ぎれば、地上に戻らなくてはならない。長時間潜水出来る装備を整えてきていないのだから。
 残り40分。
 第23大縦坑の一番下で潜水機が頑張っている。その動きは心なしか焦っているようにも見える。
 残り20分。明らかに大急ぎな動きで潜水機が作業をしている。深海でも使用可能なカッターで壁を切りつけたり、センサーをフルに活用して微妙な振動を計測したり、煙幕弾を利用して水の流れを計測したりして、なんとか未発見の抜け道を探そうとするが、見つからない。
 既に発見されている抜け道の場所を確認する回数は更に増え、時間を確認する回数は超連打状態。
 一方のメリッサは涼しいもの。ふんぞり返った状態でキーボードを叩いて情報を入力し、時折投影モニターを展開してはそれを見る。
 残り3分。エトは、今まで以上の手際のよさで手を動かしていた。額……というよりも全身に染み出しているのは暑さから来る汗ではあるまい。パイロットスーツが体温を下げるべく奮闘しているが、もう暑いのか寒いのかすら分からなくなってきた。ひょっとして適温かもしれない。意味が分からない。

 「ハイ、お時間でございます」
 「………ぇ」

 時計を見る。
 潜水機の片腕は、以前誰かが見つけた抜け道の一部に宛がわれたまま停止している。
 ゴキゴキと首を鳴らすように後ろを向いてみれば、そこにはニッコリと笑った相棒が居るわけで。
 その相棒は手をグーにして親指を突き出すと、「ちょっと裏までツラを貸せ」と言わんばかりの動作をしてみせ、小さく頷いて見せた。

 「アンタの腕は認めてる。ケド、今回だけは言いたいことがあるわけ。―――……今回なにも収穫が無い、ということはお金がかかる、どういう意味だか分かるわよね? わざわざほとんど調査済みの遺跡に来るなんて、もう……ね。レアメタルの一つでも引き上げられるなら許してあげてもいいのに」
 「で、で、でも、ホラ、なんか見つか」
 「ってないからでしょ! さっさと上がる!」

 ユトは頭を垂れると、道具を回収して、潜水機の背中に装備されているスラスターを作動させた。

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