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第三話のおまけ 銭湯編

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sousakurobo

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 共同浴場という習慣は昔から存在する。
 古代ローマ時代から共同浴場は存在しており、皇帝も入っていたという。
 第二地球入植時代には一人一人がのんびりと浴槽に入れるわけもなく、巨大な浴室を作ってそこに入っていた。
 そして今、入植したときにいた日本人の影響で「銭湯」というシステムが浸透している。
 大きな浴槽に、山の絵に一直線に並べられた洗い場。ボイラー室から伸びる煙突。懐かしさを感じる入り口には、銭湯の文字が記されている。
 剥げ頭の老人が暖簾をくぐって出て行った。
 その直後、賑やかな一団が銭湯に近寄っていく。
 一人は金髪に眼鏡の優男風の若い男性。一人は黒髪に冷たそうな目つきの若い男性。一人は黒に近い茶色い髪の毛を高い位置でポニーテールにした女性。最後の一人は長く美しい銀色の髪の毛に長身の女性。
 男二人は会話が弾まないのか、ぽつりぽつりと言葉を交わす。
 一方の女性陣は喧嘩にも似た会話をしていた。背後をとったウィスティリアが嫌がるメリッサをぐいぐいと押して銭湯に連れて行こうと―――……というよりかは連れ込もうとしている。

 「なんでアタシが一緒にお風呂に入らないと行けないのよ。命の恩人へのお返しが銭湯って意味が分からないんだけど!」
 「いいからいいから~。ここは私が奢るから、入りましょ?」

 あのダイブの後、何故か一行は銭湯に来ていた。
 汗を流すためだとかなんとか言ってウィスティリアに強引に了承させられたのだ。一人頷かなかったのは誰なのかは言うまでも無い。
 暖簾をくぐって料金を払うと、それぞれ男女別の脱衣所に入っていった。




 「それで」
 「ええ」
 「なんで引っ付いてくるのよっ」

 髪の毛を下ろしたメリッサは体にしっかりとタオルを巻きつけ、後ろから追尾してくるウィスティリアから逃げるように小走りで洗い場に向かっていた。ウィスティリアは撒かされまいと転ばない程度の走りで追いかけていく。
 楽しげなウィスティリアと比較してどことなくムスッとした表情のメリッサ。
 メリッサが一つの椅子を引き寄せて座ると、その隣にウィスティリアが座る。慌てて一つ向こう側の椅子に座ると、ついてくる。
 諦めの表情を浮かべたメリッサはシャワーで体を濡らし始めた。
 すかさずウィスティリアが背後に回る。

 「私が流してあげる」
 「お断りよ」

 後ろを見ないでピシャリと拒否を示すと、タオルの上からお湯をかけて汗を流していき、続いて顔を軽く洗う。疲れが取れていくような気がした。同時に妙な視線も感じた。振り返ると、そこにはまだウィスティリアがいるわけで。
 見詰め合うというよりにらみ合ったまま時間が経過する。
 耐えられなくなったメリッサが目を逸らす。ウィスティリアはうふふと楽しそうに笑った。

 「アンタそんなキャラだっけ。なんかキャラ変わってない?」
 「いいえ、これが普通よ?」
 「………まーいいけど」

 気にするだけ負けだと自分に言い聞かせると、シャワーで髪の毛を濡らしていく。頭頂部から落ちていく水が髪の毛全体を浸して、溢れ出した分はうなじ、鎖骨まで流れて全身を濡らす。
 お湯がメリッサの肌を徐々に赤くしていく。
 シャワーのコックを捻って止め、閉じていた瞳を開くと、目の前の鏡で後ろを確認する。ウィスティリアは後ろに居なく、隣で早速髪の毛を洗っていた。
 面倒にならなくて済みそうだ。ほっと息を吐く。メリッサは頭と体のどちらを先に洗おうかと思考する。頭から洗ったほうがいいかな、と考えると、置いてあったシャンプーソープを手に取った。
 銀色のシャンプーソープは誰かさんの髪の毛を思い起こさせる。
 眼を瞑ってシャンプーソープをあわ立たせると髪の毛を洗い始めた。まずは地肌を洗うようにして脂を掻きだすように。続いてもみ上げを洗って、最後に後ろに垂れた髪の毛を洗う。

 「ひっ!? ………なによ、なにすんの?」

 ぴたりと何かが背中に触れて、ぴくんと肩を揺らしながら飛び上がってしまう。眼を閉じているせいで何も見えない。大方予想はついていたので後ろに居るであろう人物に声をかける。

 「私が洗って、あ、げ、る」
 「…………」

 今までさほど付き合ったことがなく、普段はどんななのかが分からなかったため、ギャップに少々戸惑いを覚えるメリッサ。
 他人に洗ってもらうなどもう随分無いこと。
 眼を瞑ったまま後ろに首を捻る。

 「ことわ」
 「いいのね? ありがとう」
 「そんなこと言って……はぁ、いいわよ。好きにして」

 そこまで髪の毛を洗うことに魅力を感じているのか否か、判断出来なかった。ここで押し問答をしていても面倒なだけと考えたメリッサは、だらりと手を降ろすと、頭を相手に任せることにした。
 ウィスティリアは口元を持ち上げるような笑みを見せると、メリッサの後ろに椅子を持ってきて座って、頭を洗い始めた。
 意外と上手かった。

 「もう頭洗ったの?」
 「ええ。だって貴方の洗えないじゃない」

 なんだろう。
 なんだろう?
 メリッサは背中にぞくぞくとしたモノが走るのを感じた。
 これは、そう、怪奇文章を解読する直前に似ている。経験は無いのだが。
 銭湯の浴場は湯気とお湯の喧騒で満たされている。
 全体を洗え終えたらしく、頭にお湯がかけられた。思わず背中を丸めてしまうと、なにやら後ろで楽しげな笑い声が聞こえた。
 くすくす、というか、あらあら、というか、なんとも形容しがたい声が。
 お湯をかけながらシャンプーが落とされていく。シャンプー分が取れてきたので細く眼を開いてみる。鏡には何故かタオルを取って座っているウィスティリアがいた。大きすぎる胸が垂れずに上を向いている奇跡を見せられて微妙に悔しかった。
 メリッサは自分の胸を見てみた。ちょっと泣いた。
 大体流し終えたらしく、シャワーが止まって壁にかけられる。
 体は自分で洗わないとダメだろう。というか任せて置けないし許せない許したくは無い。そんな趣味は無い。
 メリッサはボディーソープに手を伸ばしたが、それよりも早くウィスティリアがボディーソープを取ってあわ立てていた。
 にっこり。
 両手をワキワキさせながら背後に立っている。
 ゾッとした。とりあえず、鏡のほうに一歩逃げておいた。
 だが、逃げられなかった。身長は相手の方が高いし、筋肉とかの量も相手のほうが一歩勝っている。


 ――以下は音声だけでお楽しみ下さい――


 「なぁあッ!? ちょ、ま、……止めなさいよ! へんたいヘンタイ!」
 「いいじゃないの、減るもんじゃないし、スキンシップは大切よぉ~?」
 「ヤダこっちこんな! むこう行け!」
 「くっくっくっくっ……逃げ場など無いの――」
 「誰かー!! だれうむっ………んー! んー……!」
 「柔らかい。素晴らしいわ……」
 「んーっ、んっ………ん、ぅ…………う~ッ…」
 「ちなみに今の時間帯は人の出入りがとっても少ないのよ」
 「ぁ、………んんんー! ……ゃめ、………?! んー……んっ!」







 「なんかうるさいなぁ」

 一方の男湯では、頭にタオルを乗せた男二人が浴槽でリラックスしていた。
 タオルを乗せるというのはタナカのアドバイスを採用した結果である。
 曰く「のぼせなくなる魔法」だそうだ。意外とファンタジーな言葉を使ったので驚いたりしたそうな。
 かぽーん。
 男湯には二人しか居ないのに桶の音がした。
 地球にあったというフジサンの絵がドーンと壁に描かれている。なんとも味のあることである。

 「タナカさんって筋肉凄いですよね」
 「そうですか?」

 タナカは額に浮かぶ汗を手で拭い、タオルの位置を直しながらユトに返事をした。
 お風呂に入っている所為で顔は赤いが、言葉は冷静で感情が希薄に思える。
 その水面下には男でも惚れ惚れするような美しい筋肉で包まれた体躯がある。

 「鍛えていることは無駄にはなりませんから」

 ユトは自分の腕を摘んでみた。ぷにぷにとは言わないまでも、タナカの体とは比較出来ないほど貧弱。腹筋を見てみると、割れているわけも無くて。脚も普通。なんとなく悲しくなった。
 現実から逃れるために背中を浴槽の端っこに預けた。

 「はーーーっ。気持ちいいなぁ」
 「あと、いいですか?」

 浴槽に体を預けて眼を瞑ったユトに、さりげなくタナカが声をかけてくる。
 眼を細く開けてその方向を見てみる。

 「風呂を出たらコーヒー牛乳かフルーツ牛乳、それか普通の牛乳を飲むのが日本人のスタイルなんです。美味しいですよ」

 ちょっと熱の篭った声でそういうタナカに、ユトはちょっと意外そうな表情を浮かべて頷いた。
 もう少しクール系だと思っていたが、案外話せそうだと思った。
 壁にかかっている時計を確認したタナカは、股間を隠すことなくお湯から上がって、すたすたと歩いていく。
 堂々たる態度にユトはちょっと畏怖に近い感情を覚えた。
 隠さないのは厳しいので、タオルを巻いて外に出た。




 タナカの「牛乳を飲むときは腰に手を当ててください」という言葉に従ったユトは、胃の中の冷たさと、体の温かさ、そして生温い大気との温度差に心地よさを感じながら外に出てきた。
 遅れてタナカが肩にタオルをかけながら出てくる。

 「あれ? 二人が居ない」
 「女性のお風呂は長いものですから」

 腕時計を一瞥したタナカは、直立不動で銭湯の入り口の端にて待つ。ユトもそれに従って待つことにした。時間は既に夜になっていた。空には星が光っている。
 10分ほど経って、ウィスティリアが出てきた。
 風呂に入ったからだろうか。頬が光っているような気がしないでもない。
 水分を帯びた銀色の髪の毛を、頭を振ることで整えて、前髪を掻き分ける。持っているタオルで後ろ髪の水分を吸い取りつつ、軽い足取りでユトとタナカの前まで歩いてくる。
 少し遅れてメリッサが登場した。
 ………なんというか、魂が抜けてしまったような疲れ切った表情でフラフラと歩いてくると、ユトの前でピタリと足を止めた。メリッサの肩をユトが軽く叩いてみる。メリッサは、幽霊が如く頭を持ち上げた。

 「なんかあったの?」
 「………………なーんにも。帰りましょ」

 ユトは首を傾げる。
 メリッサは覚えてろと呟きながら悪鬼の顔で家に帰っていく。
 タナカはストレッチをしながら歩を進める。
 ウィスティリアはつやつやとした顔で歩いていった。

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