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第七話 「胎動(後)」

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 『Diver's shell

 七話 「胎動(後)」



 ダンッ。
 ユトの背後で、何かを叩き壊す音が聞こえるや否や、白く細い二本の腕が視界に映った。
 ユトは本能的に首を後ろに回し、

 「―――……グッ………ぅ ッ!?」
 「あああああああアあッッ!!!!!!!!」

 絶叫を上げるメリッサに首を絞められてしまった。
 とても人間とは思えぬ大声が鼓膜を強烈に殴打するのは辛かったが、それが紙切れに見えるほどの苦痛が喉に広がり、酸素の供給が止められ、更には血管が圧迫されてしまう。
 四の五の言っている場合ではない。明白な殺意を感じる。殺される。首に絡まっている腕をがっしりと掴んでなんとか離そうとする。
 ―――……だが、離れない。
 万力のように首を締め付ける両腕は、普通の人間よりも強く、しかも制御主が錯乱状態に陥っているために、鋼鉄製と表現出来るほどの力で首を締め付けてきている。

 「ッ………リ……ッさ!」
 「ぃやあっ、やぁああッ!!!」

 視界がぼやけ掛けてきた。ユトの瞼が痙攣し始める。顔も青くなったり赤くなったりを繰り返す。
 喉をへし折らんとするメリッサの拘束を解除させるために腕に力をこめつつ、出来る限りの声で叫ぶが、首を絞められているのではどうにもならない。掠れてしゃがれた声がザラザラと出てくるのみ。
 密着して締めているのではなく、座席の頭を置く場所の分だけ隙間があるため、気を失うに失えない、それでいて苦痛は確かに存在する拷問状態。
 当のメリッサは気が違った絶叫を上げてユトの首を絞め続けている。
 詳しく描写するなら、恐怖や怒りなどの感情入り混じる表情で首の筋肉が浮くほど強く腕を締め付け、脳が揺れるほど大きく頭を振って、ユトの座席の後ろに頭を叩きつけている状況。
 死ぬ。
 殺される。
 相棒に、信じた相手に、絞殺される。
 ユトの思考に縦線や横線が交じって、自分の今居る場所や名前すら消え去っていく。
 生存本能が防衛のために全身の筋肉に働きかける。
 無意識に爪を立て、ダイブスーツを引き裂くほど強く腕を握って酸素を求める。爪が食い込んだ箇所の人工皮膚が歪んで傷ついていく。血は出てこない。人工なのだから。
義腕の痛覚などの感覚が鈍く設定されているのを今は強く呪った。

 「ぁ………ぁ……ああ………」
 「はな、……し…て!」

 メリッサの瞳から光が消えていく。
 ユトを絞め殺さんとしていた両腕から力が抜け始めて、やっと呼吸するだけの空間が戻ってくる。
 ユトはこみ上げてきた吐き気を堪えながら、全身が要求する空気を苦しげに肺の中に入れ始めた。ぜぇぜぇと死ぬ間際に近い呼吸音が操縦席に響く。バイタルデータの異常を感知したダイブスーツからの警告音がうるさいことこの上ない。
 座席にもたれかかり全てを放棄して呼吸をする。酸素が不足しているのか、頭に続く血管を締め付けられた所為なのか、意識は濁り、まともにモノを考えようという発想が出てこない。
 だから、後部座席でメリッサが気を失ったのには気がつけない。
 数分後。
 喉に違和感を覚える程度に回復したユトの姿があった。
 全力疾走後の呼吸で後ろに警戒しつつ振り向く。顔は赤らみ、じっとりと汗で濡れていて前髪はバラバラになっている。


 「――――………ハーッ……はぁ……っ………ぅ………………メリ…ッサ……?」

 ―――……また首を絞められるのではないか。
 そんな不安がこみ上げてくるが、ここはユトという人間性が振り向くことを指示する。メリッサがこんなことをするわけが無い。何か理由があったのだ、と。
 後部座席に眼を向けてみると、子供のように平和な寝顔を浮かべて気を失っているメリッサの体躯があった。
 相当強く頭を振ったのか髪の毛が解けて両肩を覆い隠すように広がっている。前髪もボサボサで顔を覆うカーテンのようになってしまっていて。表情は極めて平和だが、瞳から滝のように涙が流れて水の跡を作っている。
 両腕はぐったりと下げられて、ダイブスーツが破れて義腕の一部が露出しており、人工皮膚が捲れ上がっているのも見えた。
 丁度、子供が母親に怒られて泣き疲れて眠っている様子を思い起こさせる。
 ユトはそろりそろりと指を伸ばしていってメリッサの肩を突いてみた。

 「メリッサ? いきなり……その、首なんて絞め………気絶してる、か?」

 あれだけ声を張り上げて錯乱状態に陥ったのだから、想像もつかない何かが起きたのだろうと容易く予想がついた。
 起こそうと思えば起こすことは出来る。が、医学の知識などに乏しいユトにはそれが正しい判断なのかが分からない。寝かせておいたほうがいいのかもしれないと一人頷いた。
 なにはともあれ、医者にみせるなりなんなりしなくては。

 「ちょっと待ってろよ、今帰るから」

 気絶している以上は独り言となる。
 独り言をメリッサに投げかけ、今居る岩場から離れるために地面に足をついて後ろに下がる。そこで機体の異常に気がついた。
 空間投影モニターに目を通すなり顔色が変わる。

 「……ソナーが……まさかッ!?」

 ソナーが付けっ放しで、ついでにライトも全開。見つけてくださいと言わんばかりの状態で遺跡の前で鎮座していたということになる。かくれんぼの最中に大声を出しながら電飾付き看板を持って練り歩くに等しいことだ。
 咄嗟に背後座席の方に向くと、無残にも破壊されたキーボードがあった。
 脳裏に首を絞められる前の破壊音が思い出される。多分というかあの時に作動してしまったのだろう。ユトは手を伸ばし、引っ込めると、自分の席で空間投影モニターを操作する。
 操縦者権限により一時的に補助者の操作を行えるようにしてソナーとライトを消した。
 これで事実上ユト一人の操縦で地上に帰還しないといけなくなった。
 メリッサを起こさない限りは全てが一人に委ねられる。一人に委ねられるということは、操縦と索敵に情報の選別から表示まで全て一人で行うということ。潜水機が二人乗りなのは負担を軽減するという意味がある。
 背面部帰還用スラスターを起動。脚部スラスターも吹かし、海底を這うようにして遺跡から距離を取ろうとする。
 だが無常にも警告音が操縦席に反響する。
 接近戦型のガードロボが背後から斬りかかってきていた。

 「クソッ!」

 機体が大きく揺さぶられる。
 咄嗟に突き出したブレードの腹に、未発見の接近戦型ガードロボのブレードが食い込んでいる。もしもブレードが無かったら二人仲良く海の藻屑になっていたであろう。
 背面部と脚部スラスターで距離を取り、すぐさま斬りかかる。
 片腕がブレード。片腕がシールド。頭部パーツがずんぐりとした形状のガードロボは、ユトの甘い斬撃をひょいと回避して見せた。
 ユト、ブレードで突きを入れると見せかけて後退。
 ガードロボ、シールドを構えたままでブレードを振り回しつつ距離を詰めてくる。
 深度5000mでの死闘。
 ユトは、ポンピリウスの右腕ブレードを逆手に持ち変えると、ぐっと腰を落とすようにする。ガードロボはブレードの隙間から胴体を突き穿たんと片腕を突き出した。
 瞬間、ポンピリウスのブレードでガードロボのブレードを受け流し、金属の身体を捻るように引き寄せ、肘を顔面に叩き込んだ。
 ありえない動きはしかし、大した損傷を与えることが出来ない。ガードロボが怯み、ポンピリウスの間接の動きが悪くなった程度だ。
 が、時間は稼げた。
 ポンピリウスのブレードがゆっくりと沈下していって海底に突き刺さる。
 次の瞬間、いつの間にやら手に握られていた予備ナイフの切っ先がガードロボの胴体に吸い込まれ、沈黙させていた。赤いオイルがポンピリウスに噴きかかる。

 「どうだっ!!」

 普段は見せない焦りと怒りの交じる表情と声で怒鳴り、ガードロボの胴体に突き刺さっているナイフを引き抜くと、腰に戻し、右腕でブレードを持つ。
 近接過ぎて魚雷ランチャーの使用が難しかったからの判断。メリッサに首を絞められたときに分泌された脳内麻薬が気分を高揚させていることが判断と戦闘能力を向上させたのかもしれぬ。
 ユトはメリッサがしているように弱くソナーを発動させて周囲の状況を探る。反応有り。相手から向けられていたソナーが強さを増す。見つかった。
 数、遺跡側から4。前方に3。引いても地獄。行っても地獄。なら、行くべきだ。
 もたもたしている余裕は無い。メリッサを起こすか一瞬の迷いが生まれる。ユトは、命には変えられまいと起こすことを決める。
 ポンピリウスの巨体が海底を蹴っ飛ばし、遥か地上を目指して進み始めた。
 ――警告。魚雷を感知。前方の3機からご丁寧に一発ずつ放たれた死の追尾兵器が、上から降ってくる角度で向かってくる。無常な情報がモニターから発せられてユトの眼の表面にも映り込む。
 ―――……一人の戦いがこんなに心細いなんて。
 深海の中の金属の殻の中でユトは叫んだ。

 「メリッサ起きろ! 俺一人じゃ死ぬかもしれない、力を貸してくれ!」
 「…………」

 メリッサは起きなかった。
 やはり、普通のことが起こったわけではないということであろう。
 ユトは背面部スラスターと脚部スラスターを限界まで回転させて水中を駆け、左腕のランチャーから魚雷を3発連続で発射した。
 続けて3発を前方のガードロボに発射。今度はランチャーを後方に向けると、牽制用に2発を発射する。弾が切れ、ランチャーのマガジンからの装填が始まる。暫くは発射不能となった。
 魚雷の航跡が深海に白い線を描く。
 ユトはもう一度声を張り上げた。

 「メリッサ!」

 返事は無い。うめき声が聞こえただけだった。
 直後震動が襲い掛かってくる。魚雷の迎撃として発射したのが爆発したのだ。海中に巨大な爆発球の花が3つ咲く。
 更に遺跡の方でも爆発が2回起こった。ただし音波が乱れているために良く分からない。
 かといってライトで確認している余裕など無い。
 海底を張っていく余裕が無いので大推力で海面を一直線に目指す。
 警告音。前方から鮫型のガードロボ3機が突っ込んできた。
 迎撃の後に発射した魚雷を回避したのか、傷一つ無く口を大きく開けて食いつかんとしてくる。とてもではないがポンピリウスの装甲で耐えられるわけが無い。
 魚雷ランチャーのネット発射機は連続で2射が限界。一機とは近接で戦わなくてはならない。
 ユトは魚雷ランチャーの狙いをつけつつライトの光量を全開にした。

 「来るなら、来いっ!」

 その表情は、悲壮めいた決死の顔であった。
 敵影新たに感知。

 φ37遺跡近海、水上にて。
 大型のホバークラフトが、海面を抉り取るように風を切って進んでいた。
 後方に取り付けられた大型のファンが暴力的な風を発生させながら船体を滑らせて行く。
 その船体の一番前に、エアスカートの黒色とは相反する髪の色の女性が腕を組んで真っ直ぐに前を睨んで仁王立ちしている。

 「遅い! もっと速度を上げて!」

 銀髪の美しき女性。「おとめ座」を意味するドイツ語の記されたダイブスーツを着込んだウィスティリア=クロイツェルは、運転席に向かってよく通る声で注文をつける。
 速度が出ているので銀髪が旗のように揺れているが乱れはしない。
 果てしなく続く海の向こうと空の間に僅かに円を描く水平線が見えている。

 「頼むぞハンナ。超特急だ」
 「これ以上要求するとか鬼ッス! オヤジさん、燃料代とか整備代とかきっちり払って貰うッスからね! あと弾薬代も!」
 「おうとも」
 「……いっぱいいっぱい請求するッスよ? いっぱい」
 「おうとも」
 「おっしゃぁ、かっ飛ばすッス!!」

 船体半ばにどっしりと構えられている操縦席には、短めの赤毛にソバカスの女性がタオルの鉢巻を被って操縦している。その横には苛立ちを浮かべているオヤジの姿。
 良く見ると、ホバークラフトの各部には銃器を取り付けられる台座や、明らかに煙幕弾発射管と分かるモノまでついている。更に良く眼を凝らしてみれば、エアスカート本体を保護するための装置まである。真っ当な仕事をしているとは到底言えない。
 ソレもそのはず。彼女……ハンナは、普通の品物から、非合法な物品の受け渡しやら、裏の組織やらの運び屋もやっている。オヤジは危険な遺跡に向かうからと彼女を呼んだのだ。
 ホバークラフトという選択が功を奏し、ユトとメリッサの居るであろう海域にあっという間に到達していた。
 勿論、ガードロボやら何やらがわらわらと寄って来て激しく攻撃を加えてきたので、応戦しつつである。
 操縦席の後方の銃座に陣取ったタナカは、重機関銃の銃身を一人黙々と交換すると、海面を舐めるように突撃してくる自爆型ガードロボに向かって引き金をグッと引き込む。
 耳をつんざく発射音が虫の羽音のように連なって発生、高速の弾丸がガードロボを弾幕で包み込んで撃墜した。
 タナカの射撃音に動じない彼女彼ら。一般人に分類出来る人種ではないのである。
 というか、動じようが動じまいが、行かなければならないのだ。
 タナカはレーダーと目視を駆使して周辺の状況を把握しながら重機関銃の銃口を進行方向右へと向ける。手つきは手馴れたものだ。全身を覆う筋肉とあいまって、軍人のような雰囲気をかもし出している。
 船が右に左に曲がって、車で言うドリフトを決めながら海を進んでいるのに、タナカにしてもウィスティリアにしてもオヤジにしてもハンナにしても動じない。エリアーヌは手すりにしがみ付いているが。
 右、数百mの辺りにガードロボを発見。タナカは重機関銃でガードロボを蜂の巣にして破壊しつくすと引き金から指を離した。銃から生じる硝煙が風に消えていく。
 タナカは改めて自分が使っている重機関銃を眺めた。

 「………悪くない。いい銃だ」
 「ありがとって言いたいけど警戒を怠らないで欲しいッス!」

 ハンナの改造ホバークラフトが猛烈な速度で海を行く。
 腕を組んで艦首に仁王立ちだったウィスティリアは、くるりと踵を返すと、船の後方へと歩いていく。
 するとタナカも起立して船の後ろへと歩いていく。
 オヤジは、誰も居なくなった銃座に腰を降ろすと、銃を握り締めた。

 「あっ、機体の準備は出来てますっ!」

 船の後ろに設けられた貨物スペースには潜水機「バルゴ」があり、入り口には小さな身体で船の動きに耐えているエリアーヌがいる。肩からぶら下げた布はオイル塗れ。顔にも黒いオイルがついている。
 ダイブスーツを着込んだタナカとウィスティリアが貨物スペースに来ると、エリアーヌはようこそをするように手で招き入れる動作をした。

 「ありがとう。後はお姉さん達に任せなさいといいたいけど正直自信ないのよねぇ」
 「乗りましょう」
 「そうね」

 タナカとウィスティリアの二人は、バルゴへと乗るべくなすべきことを始める。
 エリアーヌは船の操縦席まで出てくると、心配を浮かべた瞳で海を見遣った。胸騒ぎが現実のものとならないように祈る。
 その胸騒ぎが発現したかのようにガードロボが海中から攻撃を仕掛け、船が急旋回して海面を波立たせた。

 状況は最悪であった。
 電力、酸素、食料、それらは全て十分に残っているが、周囲の状況が悪すぎた。
 自爆型や接近戦型に徹底的に攻撃を受け、持てうる全てを使って切り抜けようとしたが、出来なかった。正確に言うなら「まだ」生きているということ。「もうじき」死ぬということ。
 呼吸が荒い。
 すやすやと眠っているメリッサを起こそうと大声を張り上げたが結局起きず、ユトは孤独な戦いを続けていた。
 右腕のブレードで接近戦型の頭部を串刺しにし、出力の落ちた脚部スラスターでよろよろと後退するようにブレードを引き抜く。
 左腕は喪失してしまっているため、遠距離攻撃をする術が無い。
 更に度重なる戦闘で耐圧殻にも綻びが生じている。現在の深度が300mというのが救いだが、いつまで持つかは分からない。乗って来た船はφ37遺跡の領域から離れた位置に泊めてある。そこまで逃げられるかどうかは分からない。
 センサー類も精度が落ちている。幸いライトなどは無事なので目視は可能だ。

 「くうっ……このッ!!」

 自爆型の突進を紙一重で回避したが、途端に爆発し、海中に衝撃波が撒き散らされる。鍋の中に押し込まれてバットで滅多打ちにされているような震動に脳が揺れてしまい、思考回路が混乱する。
 ―――……数時間は戦っているだろうか。
 性懲りも無く背後から斬り込みをかけてくる接近戦型のガードロボの斬撃を、帰還用の背面スラスターで揺れるように避けて、思い切りブレードを叩きつけてやる。
 だが、そのブレードもついに耐久限界に来たのか、根元からへし折れて海底に沈んでいった。
 ユトは腰の予備ナイフを構え、接近戦型ガードロボに斬りかかる。
 水を押しのけての格闘。

 「こんな武器で戦うこと自体―――……!」

 ガードロボの長いブレードが一振り。ナイフでは受け止めように受け止められず、刃に皹が入りつつも受け流す。更にガードロボは攻撃を仕掛けてくる。胴体、つまり自分が居る場所だけは攻撃を喰らってはならぬと必死で受け流すが、ナイフの皹が更に広がってしまい。
 警告の声がうるさい。切ってしまいたいほどにうるさくて仕方が無い。
 ユトの息は荒く、疲労から全身は汗でびしょぬれになって、腕の筋肉はぴくぴくと震え始めていた。
 逃げられない。
 執拗なまでの追撃に、初めて自分たちの愚かさを知った。
 死の恐怖にかたかたと音を立てる歯をかみ締める。

 「ぐっ」

 咄嗟に身を捩るが、真下から突っ込んできた鮫型のガードロボに右腕を持っていかれてしまう。ぎしぎしと嫌な音が機体内部に響く。
 これで戦う術はなにもない。ユトは脚部スラスターと背面部スラスターで地上に向かって逃げ始めた。
 すると、待っていましたとばかりにガードロボの群れがわらわらと寄って来た。
 深度100m。海面、その上の人間の領域から差し込んでくる日光が見え初めて視界に映り込む。
 深度50m。右脚の直ぐ側で魚雷が爆発して、脚部スラスターの出力が急激に低下した。それでも地上を目指して浮上していく。
 警告が新たに増える。ある程度の距離から魚雷が複数発接近中。でも、避ける手段が無い。ユトは緊急脱出に備えて携帯型の酸素装置を二つ取り出し、メリッサを起こそうとした。
 下からはガードロボ、横からは魚雷―――……逃げられない。
 命と潜水機。命の方が大事だ。

 「じゃあなポンピリウス」

 ユトは、操縦席を強制的に開放させようとレバーに手をかけて、

 『諦めるのはまだ早いんじゃない?』

 突然割り込んできた無線に手を止めた。
 横から突っ込んでくる魚雷は急激に向きを変え、下からポンピリウスを破壊せんとするガードロボの群れに飛び込んでいって膨大な量の爆発の壁を構成した。
 バルゴ―――……ウィスティリアとタナカの潜水機は、これでもかと魚雷を乱射してガードロボの群れを蹴散らしていく。
 瞬間、バルゴはブレードで接近戦型数機を切り刻み、自爆型のガードロボにパイルバンカーを叩き込んで深海へと没した。
 バルゴのモノアイが、両腕のもがれたポンピリウスを見遣る。
 海中に静寂が訪れた。

 『メリッサは居ないの?』

 ウィスティリアは素朴な疑問を訊ねてくる。
 そのメリッサは後部座席で気を失ったままだ。それは兎に角、今はこの海域から安全な領域に逃げなくてはならない。
 後ろからやってきたホバークラフトのエンジン音が頼もしく思えた。


           【終】

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