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第十話 「動き出した者共」

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 『Diver's shell


 十話 「動き出した者共」



 ―――……天気が悪い。
 夏近づいたこの日、島の天気は最悪だった。最悪と言えるうちはまだ最悪ではないと言っても、空から轟々と雨が叩きつけ、地面にぶつかって細かな霧に分裂して視界を奪うような日では、最悪に限り無く近いというほか無い。
 今日は船を出すのも危険だろうな。
 オヤジはそう呟きながら窓の外を見遣った。古いガラス越しに見える空は灰色の絵の具を圧縮したが如く青色を隠蔽している。外を走る車などの音も聞こえない。鳥の姿も消えている。
 雨の日は憂鬱になると同時に冷静にもなれる。
 オヤジは、シャツを脱いで洗濯機に放り込んで新しいのを着ると、リビングというより居間を通って冷蔵庫の置いてある台所へと向かう。冷蔵庫の中から牛乳を取り出して一気飲みすると、パックを握力で握りつぶしてゴミ箱に投げ入れた。
 エリアーヌの姿が見えない。ついさっきまで台所に居たはずなのに、である。
 疑問に思ったオヤジは、雑貨や潜水機の部品を保管している倉庫のほうに足を向けた。
 廊下を歩いていって、扉に手をかける。
 その時、首筋に冷たいものが押し当てられた。

 「動くな喋るな妙な真似をするな。両手を頭の上に置け。さもなくば5秒以内に射殺する」
 「誰だ……ッ」

 銃だ。
 角度からは良く見えないが銃と言うのだけ分かった。
 その人物は、物陰、丁度置いてあった箱の陰から染み出るようにオヤジの背後を取って銃を視界ギリギリに映る場所から押し付けてくる。動けば間違いなく殺すつもりなのであろう。
 オヤジは最初抵抗しようとした。むざむざとやられるわけには行かないと。だが、ここまで寄られ、気配一つ物音一つ立てずに背後を取れるのだから、手馴れであり、下手に動けば死ぬというのを本能と理性が警告してくる。
 両手を挙げて頭の上に置く。すると、両手首にプラスチック製の拘束具がはめられた。工具か何かが無ければ切れそうに無い。

 「歩け。ただし歩調を変えたら殺す」
 「………」

 オヤジと謎の人物は歩き始める。
 背後の人物に服を引かれて方向転換させられている様は情けないが大真面目だ。
 もし―――……もしも、殺そうと思えばどうにでも出来たはずだ。背後から首筋をかき切るもよし、拳銃で脳天をブチ抜くもよし、ナイフでグサリもよし。それをわざわざ拘束したということは何か理由がある。
 居間の扉を開けて中に入る。
 そこには、黒服の男が7~10人が居て、ツナギ姿のエリアーヌががんじがらめに縛り付けられていた。エリアーヌは口に貼られたテープに負けじと地面で「んー」を連呼し続けている。

 「座れ。座らないのなら殺す」
 「殺す殺すうるせーなぁ………お嬢さん?」
 「……ふん、性別など関係ないな。黙って座っていろ」
 「何者だっつったって答えないよな? お嬢さん」
 「黙れ。脚を撃ちぬくぞ」

 そういうと、オヤジの背後に立っている女性は銃を背中に押し付けて床に座らす。オヤジは不貞腐れた顔をし、両腕を組もうとして拘束具に止められてしまった。
 男たちは、一見すると普通の格好をしているが、服が盛り上がっていることから防弾ジョッキを着込んでいることが分かる。何より、肩から腰からぶら下げた銃器、そして手の拳銃などから一般人ではない。
 目的も無しにこんなことをするわけは無い。

 「んんんんーッ、んんーッ!!」
 「このガキやかましいぞ。おい、クソオヤジ、こいつを黙らせろ」

 全身を縄で縛られても直抵抗を続けるエリアーヌ。窓の外を窺っていた男の一人が足で軽く小突く。オヤジはエリアーヌに目配せをすることで黙らした。
 オヤジの背後で銃を突きつけている女がポケットに手を突っ込むと、携帯電話を取り出す。電話をかけると、指を動かして男達に二人が銃を突きつけられているところを撮影させる。
 女は、銃を天井に向けて携帯電話を耳に当てる。すかさず男の一人がオヤジに向かって銃を向けた。人一人殺すには十分な威力の自動小銃だ。
 そして女の声が雨に掻き消されずに室内に響きだした。


 ユトとメリッサ宅。
 やっとこさ修理が完了したポンピリウスの各部の調整作業が終わった午後。
 憂鬱な雨が降り続く空を見つつのお昼休み。二人は退屈と微かな倦怠感を滲ませてソファーに向かい合うように座っていた。ユトは両手をソファーの後ろに。メリッサはイチゴジュースをちびちびと飲みつつ、ぼんやりと。
 その時、電話がかかってくる。ユトとメリッサは眼で喧嘩をして、結局ユトが立ち上がった。女には勝てない。
 ユトが受話器を取って耳に当てると、妙に冷たい女性の声が耳に入ってきた。

 「はい、もしもし?」
 「………ユト=シーゼンコードだな。よく聞け。お前の知り合いを預かっている。メリッサ=ファルシオンの父親もだ」
 「………何を、言ってるんです?」

 話が飲み込めないユトは、時計を確認するために眼を彷徨わせて、最終的にカレンダーに視点を落ち着かせる。
 電話の向こうでは男達が話しているような音が聞こえてきている。

 「一度しか言わないからよく聞いておけ。我々の言うとおりに行動を起こさない場合、我々は彼らを血祭りに上げるだろう」
 「え、いや、っていうかアンタ誰? 根拠も無く脅しをかけられても」

 俗に言う誘拐? 脅迫? 新手の詐欺?
 混乱しかけたユトを見ているかのように電話の向こうで数秒の沈黙の後、女は言葉を発してくる。

 「これから画像と映像をお前の家のパソコンに送る。今から5分以内に閲覧しろ。警察や知り合いに知らせた場合、我々にも考えがある」
 「ちょっと待った! ………あっ、クソ、切ったか」

 電話は一方的に切られる。
 ユトは、困惑の表情を浮かべて暫くの間電話を見ていた。様子が妙なことに気がついたメリッサが歩み寄ってきて肩を叩く。

 「どうしたの? 殺し屋から電話でもかかってきた?」

 脳内の思考回路が必死に言葉を探す。
 たちの悪い悪戯電話だったのではないか、とか。知り合いのダイブ仲間の冗談か何かではないか、とか。
 だが、ユトの深層心理から「真実」だと何かが囁いてくる。胸騒ぎと言ってもよい。
 ユトはメリッサの不思議そうな顔を眺めると、小さく頷きながら受話器を戻した。

 「……あながち………間違ってないかもしれない……!」
 「は? あ、ちょっと!」

 地面を蹴っ飛ばして破壊する勢いで自室に走り始めたユトを、何がなにやら分からない顔のメリッサが追尾する。
 自分の部屋のドアを蹴っ飛ばして開ければ、パソコンを起動する。OSその他が完全に起動するまでは数分かかる。
 5分以上かかったらどうなるのかは考えたくなかった。
 パソコンの画面にかじりつくようにして待っているユトの背後にメリッサが追いつく。両手を膝に置いて姿勢を落として背後から覗き込むようにする。
 やっとメールソフトが起動した。素早く操作して最新の受信メールを確認すると、確かに今しがた送られてきた画像と映像が添付されている空メールがあった。ウィルスのことを考える前に開く。

 「なによ、これ……オヤジさんとエリアーヌ君……?」

 画像を開く。
 腕と足にプラスチック製の拘束具をされたオヤジさんと、全身を縄でグルグルに巻かれて縛られたエリアーヌ。その周りを取り囲むように男たちがいて、銃を向けている。
 続いて映像データを開く。音声付だった。カメラに向かって引きつった笑みを見せるオヤジと、「ん~」しか言えない涙を浮かべたエリアーヌ。周囲の男たちは面白半分で銃口を押し付ける。
 ユトとメリッサの顔から血が引いていく。
 更に画像データを展開させる。次の瞬間、メリッサがパソコンの置いてある机の表面を爪でがりりと引っかいた。白い痕跡が生まれる。

 「お父さん……!」

 メリッサの父親であるアレックスが、オヤジと同じように拘束されて周囲を銃を持った男達に囲まれている。アレックスの目つきは鋭かったが、やや疲労の色が見られた。
 映像データを見るまでもない。
 ユトとメリッサが無言で顔を向き合わせた時、また電話がかかってきた。
 机の上にある受話器を、ユトが震える手で取って通話を出来るようにする。
 また女の声が鼓膜を叩く。

 「見たようだな。なお、我々は他にも君らの身近な人物を抹殺する手はずを整えている。画像こそ送信しないが、理解出来るな?」
 「お前ら一体なんなん……」
 「質問は許可出来ない。我々の言うとおりに行動しろ」
 「くっ……」

 人質を取られているため、迂闊な行動や言動は出来ない。自分であるならまだ選択の余地はあるが、知り合いや家族に銃が向けられているとなるとどうしようもない。
 ユトは悔しげに歯から息を漏らすような音を出し―――……メリッサに受話器を奪われた。
 速度は正に神速。

 「アンタ誰なのよ! 人質とって脅してどうするっていうの!? お金? いいわよ、いくらでもあげようじゃない!」
 「メリッサ冷静にならないとっ」

 受話器を握った手に触れたが、冷静さを失っているメリッサを止めるには至らない。メリッサは顔を真っ赤にして、片方の手を腰にあて、大声を張り上げて電話の向こうに怒鳴る。
 すると女性は渇いた笑い声を上げた。

 「黙れ。なんならあそこのガキでストリップショーをするって手もある。いや男だったか。兎に角、今のお前たちの立場をわきまえる事だ。それから交渉は許可出来ない。お前らから得られる品などたかが知れている」
 「………………どうすればいいのよ」
 「これからお前らにはφ37遺跡に潜ってもらう」
 「は?」

 それこそ気でも違ったのかという声を上げて聞き返すメリッサ。ユトは耳をくっつけるようにして声を拾う。
 電話の向こうの脅迫者は要求を再度繰り返した。

 「φ37遺跡に潜れ。直ちに準備をし、遺跡の最深部付近へと到達し、指定のものを引き上げてこい。対象に関しての資料及び必要な情報はお前らの船のトイレの天井に貼り付けておいた。確認しろ、以上」

 電話がぶちっと音を立てて切れる。
 メリッサとユトは呆然とした顔で見つめあい、轟々と雨が降り続く外を見た。
 よりによって豪雨。
 それでも立ち上がると潜水機の格納庫へと走っていく。途中で二人して転んで痣を作ったが、笑っている暇や痛みを堪えている暇は無かった。

 きゅっ、と音を立てて服のベルトが締められる。
 女性は自分の防護服の止め具を止めていくと、机の上に置かれている拳銃を手にとって、マガジンを引き抜いて弾を確認すると再度差し込む。更に机の上の短機関銃を手にとって背中に回し、足に装備されているナイフの刃を確認して戻す。
 多目的ゴーグルを被って、周辺の地図が確りと表示されるかを確かめる。続いて赤外線モードを確認して頭の上に上げた。

 「準備は出来たわ」
 「ええ、こちらも出来ました」

 散弾銃を背中に下げて、拳銃と大型ナイフで武装した男性は、胸に装備されているスタングレネードをちらりと一瞥してマジックテープを押し付けなおす。
 外へと視線をやる二人。
 雨の中の戦いは骨が折れそうだ。
 女性は顔をしかめ、自室のドアを出て行く。後ろを男性がついていく。双方の動きに無駄は存在しない。どこかで雷鳴がした気がした。

 「雨の日に決起するほど追い詰められたのかしらねぇ………。ま、計画通りだけど」
 「あぁ……そうだ、化粧の乗りが悪いとか言わないで下さいね」
 「予知能力?」
 「予想能力です」

 なんてことも無い会話をし、都会の一角にある家から外に出た二人は、エアバイクに跨る。女性のは大型エアバイク。男性のは速度を追及したようなスポーツタイプ。
 雨に濡れるのも気にせずにエンジンをかけると、数mまで上昇する。
 女性は銀色の前髪を指先で整えると、男性に目配せをする。男性は小さく頷いた。

 「他のは?」
 「我々に合わせるそうです。行きましょう」
 「今言っておくけど、背中は任せたわよ―――…タナカ」
 「分かっていますウィスティリア」

 二人は雨の中を飛び去って行った。
 独特のエンジン音が雨音に紛れて消えた。



            【終】


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