歓迎パーティーから数日後の、晴れた日の昼下がり。
遥はひたすらリヒターにマナを送り続けて、リヒターはひたすら『とっつき』を放ち続けていた。
リヒト曰く、遥もリヒターもマナのコントロールが甘いらしく、まずはそこをなんとかしないと何も始められないそうだ。
遥はひたすらリヒターにマナを送り続けて、リヒターはひたすら『とっつき』を放ち続けていた。
リヒト曰く、遥もリヒターもマナのコントロールが甘いらしく、まずはそこをなんとかしないと何も始められないそうだ。
パラベラム!
Episode 09:はじめてのおつかい~紅いバイザー、長い耳~
Episode 09:はじめてのおつかい~紅いバイザー、長い耳~
まずはマナを賢者の石から取り出すために意識を集中。そして取り出したマナを手に集ると、地下に走っているマナの通り道“地脈”に乗せて、リヒターへ送る。……のだが、
「だあーっ、またバラけたぁっ」
遥の周辺を実体の無い蛍が舞う。地脈に乗せるまでの間に、どうしてもマナが拡散してしまうのだ。
リヒト曰く「マナを纏める」との事だが……ようわからん。
「これ地味だけどけっこう疲れるね。リヒター、マナはどれくらい溜まった?」
<……腹八分目程です>
腹八分目か……よし。
「じゃあそろそろお願い」
<イエス・マイマスター>
リヒターの右手にマナが集まり、光を放つ。
「で、そこから伸ばして!」
<イエス・マイマスター>
リヒターが力むと、手に纏ったマナがほんの少しだけ伸び、刃を形作る。
<ダガー、形成完了しました>
一方のリヒターは、マナのコントロール技術がめきめき上達していた。これが才能の差だろうか……遥、少し嫉妬。
「よしよし、よくやった。じゃあ今のうちに伐っちゃおっか!」
が、その嫉妬は微塵も表に出さない。だってギトギトしたのは嫌いだから。
――――健康的にいこう、健康的に。
<イエス・マイマスター>
命じられた通り、リヒターが手近にあった木を根に近いところでぶった伐る。
スパン。太い木がまるで刀で大根を斬るみたいに気持ち良く伐れて倒れる。
一本、二本、三本――――と、リズミカルに木々を伐採していくリヒターと、賢者の石からマナを搾り取る遥……ああ駄目だ、またバラけた。
「おお。やっとるね、遥ちゃん」
初老の紳士があらわれた!
彼はジェームズ・ロバートソン。遥にとって初めてのクライアントだ。ちなみに依頼内容はロバートソン氏の所有する林道の掃除。激しく地味な事だが、遥はルーキーなので仕方がない。
何事も、小さな事から、コツコツと。
「あ、ジェームズさん。こんにちは!」
遥がぺこりと頭を下げる。
心臓の鼓動が高鳴って、ついつい早口になってしまう。
「こんにちは。調子はどうかな?」
「はい、見ての通りぴんぴんして」
<マスター、ロバートソン氏がおっしゃっているのはおそらく身体の事ではなく仕事の事かと……>
まさかの勘違い。完全にアガっている。
「ああっ、すみません! えーと、そうですね……。大体あと一時間もあれば完遂できると思います」
「おお、早いじゃないか。じゃあこの作業が終わったら教えてくれたまえ、ティータイムにしよう」
そう微笑みながら遥の肩を叩いて、ロバートソン氏は向こうに建つ屋敷へと消えていった。なんでもロバートソン氏はけっこうな資産家だそうで、ここ以外にもいくつか別荘を所有しているらしい。
「すごいねぇ、お金持ちって」
もはや点になってしまったロバートソン氏の背中を見ながら遥が呟く。
<イエス・マイマスター。どんな仕事をなさっている方なのでしょうか>
そう言いながら片手間に光のダガーで丸太を大量生産するリヒター。
「えーと、このメモによると鉱山を持ってるんだって」
肩に掛けたポシェットから、ルガーが情報を纏めたメモ帳を取り出して、それを確認する。
<まるではじめてのおつかいだな>
「今なんて言いまし……って、あら?」
クスクスという笑い声に引き攣った笑みで返そうとするが、途端それは驚愕に変わった。何故ならそこにいたのが、
<ん? 私は“かわいい”と言ったつもりだったんだがな>
「はい。かわいいですよ、遥さん!」
ひらがなコンビの主のほうにしてやおよろずがオーナー、まどか・ブラウニングと、ひらがなコンビの従のほうにしてみんなの教官、玉藻・ヴァルパインだったから。
たまちゃんこと玉藻・ヴァルパインは現在、手の平サイズの仔狐型機械人形に宿っている。これはブラウニング家に代々伝わっている由緒正しき擬体で、めちゃんこ高級だとか何とか。ちなみに尻尾は九本。これはたまちゃんのこだわりらしい。
「ちょっ、まどかちゃん! 頭の上に手ぇ置くのやめて! 恥ずかしいから!」
「ああっ、すみません! 危うくお持ち帰りしてしまうところでした……」
そうか、この子もやっぱり普通じゃないのか……。
がくりとうなだれる遥をよそに、まどかの肩の上に乗ったたまが問い掛ける。
<ところで遥、調子はどうだ?>
「どうもこうもないよー、全然上手くいかないよー」
ふらりふらりとまどかに縋り付く。豊満なバストが柔らかい。ずっとこの谷間に顔を埋めていたい。というか、揉んでみたい。
「よしよし」
まどかが優しく頭を撫でる。ああ、これでまどかが年上だったらなぁ。なんて思いながら糸目で頬擦りをしていると、
<おまえ達、何をイチャイチャしている!>
「ひぎいっ!」
何故かブチ切れたたまの体当たりを喰らって地面に叩き付けられ……そうになって華麗に受け身。基本ドジだが、なんやかんやで身のこなしはそれなり以上だ。
「ああっ、遥さんが! 何するんですか、たまちゃん!」
<仕事中にイチャつく奴があるか!>
「は、遥さんと私はそんな関係じゃありません!」
顔を真っ赤にしてまどかが反論した。“そんな関係”……?
<そんな事くらいわかっている!>
「だったらやきもち妬いちゃ駄目です!」
<やっ、やきもち……!? 私がやきもちなんて妬くわけがないだろう!>
ひょっとして今の、結構図星だったんだろうか。声を荒げてたまも反論。
一方遥は、たまちゃんもけっこうかわいいとこあるんだなぁ、なんて腕を組んで顎に手を当てながら考えていた。完全に他人事モードだ。そんな時、ガサゴソと木々を分ける音。
<……一体何があったのですか、マスター>
気付けば両手から木の臭いをぷんぷんさせながらリヒターが背後に立っていた。
「うーん……痴話喧嘩、かな? ところでリヒター、お仕事終わったの?」
<いえ。すみません、マナが切れてしま……>
限界に達したのか、リヒターが強制的にスリープモードに移行する。そうだった、そういえばけっこう長い事放置してしまっていたんだった。
「うーわ、なんてこった! ごめんねリヒター!、今マナあげるから!」
再度意識を集中。リヒターにマナを――――
<おい、ちょっと待て遥>
送ろうとして、たまに呼び止められる。
「あー、はいはい?」
遥、放出しようとしたマナを寸止めされてちょっといらいら。これは……下品な例えだが、トイレに行きたくても行けない感覚に似ている。
<そうそう、これが言いたくて来たんだ>
「はい、そうでしたね」
いつの間にやら痴話喧嘩は終了していたようだ。まどかがたまを抱き抱えていた。
「い、言いたい事あるなら早く言ってね。漏れちゃうから、マナが」
その場で足踏みを繰り返す遥。早くしないとマナが無駄になってしまう。
<どうせ掃いて捨てる程湧いてくるんだ、少しくらい無駄になっても大丈夫だろう。それに失禁とは違う、別に気にする事はない>
「あの、そう言われると余計に恥ずかし……んあっ」
出た、出てしまった。
マナと一緒に力が抜けていき、ゆっくりと息を吐きながらその場にぺたんと尻餅をつく。ついでに幼い頃の恥ずかしい記憶がフラッシュバック。なんだこの羞恥プレイ、死にたい。
「わわ、なんかやたらと扇情的ですね……」
<まだまだマナのコントロールが成っていないな。最低でも一分は持たせられるようになれよ>
「ひっ、人事だと、思ってぇ……えぐっ」
「よしよし」
泣き出した遥をまどかが抱きしめる。
<おまえ達、何をイチャイチャしている!>
「ひぎぃっ!」
何故かブチ切れたたまの体当たりを喰らって地面に叩き付けられ……そうになって華麗に受け身。
「ああっ、遥さんが! 何するんですか、たまちゃん!」
<仕事中にイチャつく奴があるか!>
「は、遥さんと私はそんな関係じゃありません!」
無限ループって怖い。
「だあーっ、またバラけたぁっ」
遥の周辺を実体の無い蛍が舞う。地脈に乗せるまでの間に、どうしてもマナが拡散してしまうのだ。
リヒト曰く「マナを纏める」との事だが……ようわからん。
「これ地味だけどけっこう疲れるね。リヒター、マナはどれくらい溜まった?」
<……腹八分目程です>
腹八分目か……よし。
「じゃあそろそろお願い」
<イエス・マイマスター>
リヒターの右手にマナが集まり、光を放つ。
「で、そこから伸ばして!」
<イエス・マイマスター>
リヒターが力むと、手に纏ったマナがほんの少しだけ伸び、刃を形作る。
<ダガー、形成完了しました>
一方のリヒターは、マナのコントロール技術がめきめき上達していた。これが才能の差だろうか……遥、少し嫉妬。
「よしよし、よくやった。じゃあ今のうちに伐っちゃおっか!」
が、その嫉妬は微塵も表に出さない。だってギトギトしたのは嫌いだから。
――――健康的にいこう、健康的に。
<イエス・マイマスター>
命じられた通り、リヒターが手近にあった木を根に近いところでぶった伐る。
スパン。太い木がまるで刀で大根を斬るみたいに気持ち良く伐れて倒れる。
一本、二本、三本――――と、リズミカルに木々を伐採していくリヒターと、賢者の石からマナを搾り取る遥……ああ駄目だ、またバラけた。
「おお。やっとるね、遥ちゃん」
初老の紳士があらわれた!
彼はジェームズ・ロバートソン。遥にとって初めてのクライアントだ。ちなみに依頼内容はロバートソン氏の所有する林道の掃除。激しく地味な事だが、遥はルーキーなので仕方がない。
何事も、小さな事から、コツコツと。
「あ、ジェームズさん。こんにちは!」
遥がぺこりと頭を下げる。
心臓の鼓動が高鳴って、ついつい早口になってしまう。
「こんにちは。調子はどうかな?」
「はい、見ての通りぴんぴんして」
<マスター、ロバートソン氏がおっしゃっているのはおそらく身体の事ではなく仕事の事かと……>
まさかの勘違い。完全にアガっている。
「ああっ、すみません! えーと、そうですね……。大体あと一時間もあれば完遂できると思います」
「おお、早いじゃないか。じゃあこの作業が終わったら教えてくれたまえ、ティータイムにしよう」
そう微笑みながら遥の肩を叩いて、ロバートソン氏は向こうに建つ屋敷へと消えていった。なんでもロバートソン氏はけっこうな資産家だそうで、ここ以外にもいくつか別荘を所有しているらしい。
「すごいねぇ、お金持ちって」
もはや点になってしまったロバートソン氏の背中を見ながら遥が呟く。
<イエス・マイマスター。どんな仕事をなさっている方なのでしょうか>
そう言いながら片手間に光のダガーで丸太を大量生産するリヒター。
「えーと、このメモによると鉱山を持ってるんだって」
肩に掛けたポシェットから、ルガーが情報を纏めたメモ帳を取り出して、それを確認する。
<まるではじめてのおつかいだな>
「今なんて言いまし……って、あら?」
クスクスという笑い声に引き攣った笑みで返そうとするが、途端それは驚愕に変わった。何故ならそこにいたのが、
<ん? 私は“かわいい”と言ったつもりだったんだがな>
「はい。かわいいですよ、遥さん!」
ひらがなコンビの主のほうにしてやおよろずがオーナー、まどか・ブラウニングと、ひらがなコンビの従のほうにしてみんなの教官、玉藻・ヴァルパインだったから。
たまちゃんこと玉藻・ヴァルパインは現在、手の平サイズの仔狐型機械人形に宿っている。これはブラウニング家に代々伝わっている由緒正しき擬体で、めちゃんこ高級だとか何とか。ちなみに尻尾は九本。これはたまちゃんのこだわりらしい。
「ちょっ、まどかちゃん! 頭の上に手ぇ置くのやめて! 恥ずかしいから!」
「ああっ、すみません! 危うくお持ち帰りしてしまうところでした……」
そうか、この子もやっぱり普通じゃないのか……。
がくりとうなだれる遥をよそに、まどかの肩の上に乗ったたまが問い掛ける。
<ところで遥、調子はどうだ?>
「どうもこうもないよー、全然上手くいかないよー」
ふらりふらりとまどかに縋り付く。豊満なバストが柔らかい。ずっとこの谷間に顔を埋めていたい。というか、揉んでみたい。
「よしよし」
まどかが優しく頭を撫でる。ああ、これでまどかが年上だったらなぁ。なんて思いながら糸目で頬擦りをしていると、
<おまえ達、何をイチャイチャしている!>
「ひぎいっ!」
何故かブチ切れたたまの体当たりを喰らって地面に叩き付けられ……そうになって華麗に受け身。基本ドジだが、なんやかんやで身のこなしはそれなり以上だ。
「ああっ、遥さんが! 何するんですか、たまちゃん!」
<仕事中にイチャつく奴があるか!>
「は、遥さんと私はそんな関係じゃありません!」
顔を真っ赤にしてまどかが反論した。“そんな関係”……?
<そんな事くらいわかっている!>
「だったらやきもち妬いちゃ駄目です!」
<やっ、やきもち……!? 私がやきもちなんて妬くわけがないだろう!>
ひょっとして今の、結構図星だったんだろうか。声を荒げてたまも反論。
一方遥は、たまちゃんもけっこうかわいいとこあるんだなぁ、なんて腕を組んで顎に手を当てながら考えていた。完全に他人事モードだ。そんな時、ガサゴソと木々を分ける音。
<……一体何があったのですか、マスター>
気付けば両手から木の臭いをぷんぷんさせながらリヒターが背後に立っていた。
「うーん……痴話喧嘩、かな? ところでリヒター、お仕事終わったの?」
<いえ。すみません、マナが切れてしま……>
限界に達したのか、リヒターが強制的にスリープモードに移行する。そうだった、そういえばけっこう長い事放置してしまっていたんだった。
「うーわ、なんてこった! ごめんねリヒター!、今マナあげるから!」
再度意識を集中。リヒターにマナを――――
<おい、ちょっと待て遥>
送ろうとして、たまに呼び止められる。
「あー、はいはい?」
遥、放出しようとしたマナを寸止めされてちょっといらいら。これは……下品な例えだが、トイレに行きたくても行けない感覚に似ている。
<そうそう、これが言いたくて来たんだ>
「はい、そうでしたね」
いつの間にやら痴話喧嘩は終了していたようだ。まどかがたまを抱き抱えていた。
「い、言いたい事あるなら早く言ってね。漏れちゃうから、マナが」
その場で足踏みを繰り返す遥。早くしないとマナが無駄になってしまう。
<どうせ掃いて捨てる程湧いてくるんだ、少しくらい無駄になっても大丈夫だろう。それに失禁とは違う、別に気にする事はない>
「あの、そう言われると余計に恥ずかし……んあっ」
出た、出てしまった。
マナと一緒に力が抜けていき、ゆっくりと息を吐きながらその場にぺたんと尻餅をつく。ついでに幼い頃の恥ずかしい記憶がフラッシュバック。なんだこの羞恥プレイ、死にたい。
「わわ、なんかやたらと扇情的ですね……」
<まだまだマナのコントロールが成っていないな。最低でも一分は持たせられるようになれよ>
「ひっ、人事だと、思ってぇ……えぐっ」
「よしよし」
泣き出した遥をまどかが抱きしめる。
<おまえ達、何をイチャイチャしている!>
「ひぎぃっ!」
何故かブチ切れたたまの体当たりを喰らって地面に叩き付けられ……そうになって華麗に受け身。
「ああっ、遥さんが! 何するんですか、たまちゃん!」
<仕事中にイチャつく奴があるか!>
「は、遥さんと私はそんな関係じゃありません!」
無限ループって怖い。
♪ ♪ ♪
「……で、あによ」
俯いて不機嫌な声で、遥。端から見たらかわいらしいが、こう見えてけっこうキレている。
<悪かった、悪かったよ>
身体を駆け上がり、肩にちょこんと乗っかったたまを、掴む。
「恥ずかしい思いさせといてその謝り方は無いんじゃないかな……!」
遥の馬鹿げた握力が、たまの擬体を圧懐せんと襲い掛かる。各部位からミシミシ、ミシミシと嫌な音。
<ご、ごめんなさい>
「ん、わかった、ゆるす」
短く言うと、たまの身体をぽとりと落とした。
<きゅう>
地面に落ちたたまの身体がぴくぴくと痙攣する。
「ああっ、たまちゃん!」
「次やったらその九本の尻尾全部三つ編みにして糊で固定してやるから覚悟しとけよ……」
と、ドスの効いた声で、遥。泣かせると冗談抜きで怖いタイプのようだ。
「は、はい。きつく言い聞かせておきますから、何とぞ命だけは……!」
その迫力たるや、仮にもこのブラウニング領のお姫様を深々と土下座させる程。
まあ、遥も旅で数々の修羅場をくぐり抜けて鍛えぬかれてきたのだ。悪党は何人も懲らしめているし、キツい肉体労働だってやってきた。……正直外見からはとてもそうは見えないが。
「……わかった」
遥、ずっと俯いたまんま。
<し、死ぬかと思ったぞ……>
ぜぇはぁと息をしながら、たまがまどかの足元に倒れ伏す。
「だ、大丈夫ですか、たまちゃん!?」
倒れたたまをまどかが拾い上げて抱きしめた。
まどかの豊満なバストが、たまの擬体を圧懐せんと襲い掛かる。各部位から再びミシミシ、ミシミシと嫌な音。
<大丈夫だ……死んでは……いな……ぐふっ>
「ああっ、ごめんなさい!」
「えーと、自分もやっといて何だけど……たまちゃん大丈夫?」
<だから大丈夫だと……。それより、伝えたい……事が……>
今にもポックリ逝ってしまいそうだが本当に大丈夫なのだろうか。
「うん」
真剣な表情で耳を貸す遥。
<マナを纏める時は……髪の毛を……>
玉藻・ヴァルパイン、機能停止。
「たまちゃん!? たまちゃ――――ん!!」
揺すっても叩いても、たまは反応しない。まさか本当に壊れてしまったのだろうか、自分のせいで。
「遥さん……」
「何、まどかちゃん……」
短い付き合いだったが、彼女に教えてもらった事は忘れない。厳しいがお茶目な、いい教官だった。
「マナ切れです……」
「へ?」
今何と?
「ですから、マナ切れです……」
ふむふむ、つまり今のはマナ切れによる強制スリープモードだと、君は。
すぐ傍に鎮座している黒騎士を見る。なるほど、つまりリヒターと同じ……って、
「びっくりさせるなぁぁぁ――――っ!!」
「えと、まあ、その……たまちゃんって一応、狐さんですし」
「理由になってないよ!?」
「そうですよね、どちらかというと狸さんのほうが適切ですよね……」
「や、よくわからないんだけど……」
「狸寝入りって、あるじゃないですか」
ああ、なるほど。
俯いて不機嫌な声で、遥。端から見たらかわいらしいが、こう見えてけっこうキレている。
<悪かった、悪かったよ>
身体を駆け上がり、肩にちょこんと乗っかったたまを、掴む。
「恥ずかしい思いさせといてその謝り方は無いんじゃないかな……!」
遥の馬鹿げた握力が、たまの擬体を圧懐せんと襲い掛かる。各部位からミシミシ、ミシミシと嫌な音。
<ご、ごめんなさい>
「ん、わかった、ゆるす」
短く言うと、たまの身体をぽとりと落とした。
<きゅう>
地面に落ちたたまの身体がぴくぴくと痙攣する。
「ああっ、たまちゃん!」
「次やったらその九本の尻尾全部三つ編みにして糊で固定してやるから覚悟しとけよ……」
と、ドスの効いた声で、遥。泣かせると冗談抜きで怖いタイプのようだ。
「は、はい。きつく言い聞かせておきますから、何とぞ命だけは……!」
その迫力たるや、仮にもこのブラウニング領のお姫様を深々と土下座させる程。
まあ、遥も旅で数々の修羅場をくぐり抜けて鍛えぬかれてきたのだ。悪党は何人も懲らしめているし、キツい肉体労働だってやってきた。……正直外見からはとてもそうは見えないが。
「……わかった」
遥、ずっと俯いたまんま。
<し、死ぬかと思ったぞ……>
ぜぇはぁと息をしながら、たまがまどかの足元に倒れ伏す。
「だ、大丈夫ですか、たまちゃん!?」
倒れたたまをまどかが拾い上げて抱きしめた。
まどかの豊満なバストが、たまの擬体を圧懐せんと襲い掛かる。各部位から再びミシミシ、ミシミシと嫌な音。
<大丈夫だ……死んでは……いな……ぐふっ>
「ああっ、ごめんなさい!」
「えーと、自分もやっといて何だけど……たまちゃん大丈夫?」
<だから大丈夫だと……。それより、伝えたい……事が……>
今にもポックリ逝ってしまいそうだが本当に大丈夫なのだろうか。
「うん」
真剣な表情で耳を貸す遥。
<マナを纏める時は……髪の毛を……>
玉藻・ヴァルパイン、機能停止。
「たまちゃん!? たまちゃ――――ん!!」
揺すっても叩いても、たまは反応しない。まさか本当に壊れてしまったのだろうか、自分のせいで。
「遥さん……」
「何、まどかちゃん……」
短い付き合いだったが、彼女に教えてもらった事は忘れない。厳しいがお茶目な、いい教官だった。
「マナ切れです……」
「へ?」
今何と?
「ですから、マナ切れです……」
ふむふむ、つまり今のはマナ切れによる強制スリープモードだと、君は。
すぐ傍に鎮座している黒騎士を見る。なるほど、つまりリヒターと同じ……って、
「びっくりさせるなぁぁぁ――――っ!!」
「えと、まあ、その……たまちゃんって一応、狐さんですし」
「理由になってないよ!?」
「そうですよね、どちらかというと狸さんのほうが適切ですよね……」
「や、よくわからないんだけど……」
「狸寝入りって、あるじゃないですか」
ああ、なるほど。
♪ ♪ ♪
動かなくなったたまを抱えてまどかが帰って行ってから数十分。なんやかんやで仕事が終わり、屋敷のベランダにてロバートソン氏とティータイムの真っ最中。
結局たまが何を言いたかったのかは理解できず、マナの操作もまだまだ上手くいかない。どん詰まりだ、何をやってもピンと来ない。気分はブルー。
「浮かない顔をしているようだね……どうしたのかな?」
「……え?」
――――さ、流石紳士。何でもお見通しということか。
「いやね、君の顔に書いてあるんだよ」
なんと……思っている事が顔に出やすいタイプだというのか、私は。
なんだか恥ずかしくなってきた。
「あの、そんなに顔に出てますか……?」
「はっはっは。今だって顔が赤いぞ、遥ちゃん」
にこやかに笑いながら紅茶を一口。ああ、紳士だ。たたずまいからして紳士だ。
ロバートソン氏につられるように、遥も紅茶に口を付けて、
「うあっちぃ!?」
紅茶の温度熱すぎて、むせる。
猫舌だという自覚はあった、わかっていた。
ああ、地獄を見た。紅茶は熱いが心が冷めた。
「おや、遥ちゃんは猫舌なのかい?」
「ふぁい……恥ずかしながら」
それを聞いて、初老の紳士がクスリと笑う。
「まどかちゃんと同じだね」
「ご存知なんですか?」
その時、ロバートソン氏の表情が一瞬歪んだような気がした。遥の顔が、何かマズい事を言ってしまったのだろうかと不安に曇る。
「あ、ああ……やおよろずにはよくお世話になっていてね。彼女にも何度か仕事をお願いした事があるんだ」
「なるほど」
つまりはお得意様という事か。
「ところで……リヒト君は元気かな?」
「リヒト師匠ですか?」
“リヒト師匠”のあたりでロバートソン氏が心なしかニヤけたような気が……いや、余計な詮索、邪推はよそう。これは仕事だ、割り切ろう。
「そう、リヒト・エンフィールド君の事だ。彼には昔よく助けられてね……。とても優秀な神子だよ、彼は」
「おお、そうなんですか……」
なんやかんやで仕事はきっちりやる人なんだなぁ。ちょっぴりリヒトを見直した遥であった。
「そうだよ、彼は最高だ。顔よし、性格よし、実力あり、まさに完ぺ」
上気したロバートソン氏の声を遮るようにノックの音が鳴り響いた。
「……入りたまえ」
ロバートソン氏、クールダウン。
「失礼します」
扉が開いて、黒髪と理知的な顔立ちの、黒いスーツが似合う青年が入ってきた。
「旦那様、緊急事態です」
緊急事態と言う割には落ち着いてるような気が。
「どうしたんだね、シュンスケ君」
「複数のオートマタを引き連れた悪党共が敷地内に入り込んできました」
「わかった、私が行って彼らと“交渉”して来よう」
意気揚々と赤い宝石の付いたステッキを持って立ち上がる。なんで嬉しそうなんだろう、ロバートソン氏。ひょっとして割と好戦的な人?
だがしかし、オートマタを連れた悪党……神子を雇ったか、何らかの方法で野良を手なずけたか、悪の道に堕ちた神子か。いずれにせよ、生身ではあまりに危険な相手だ。
「お待ち下さい、旦那様。あなたひとりでは危険です。ここは神子である遥様に退けていただくというのははいかがでしょう。」
シュンスケ君が切れ長の目で遥を一瞥する。
「しかしね、シュンスケ君。私は彼らと“交渉”をしに行くんだよ? 悪戯に刺激を与えるのは」
「旦那様!」
「……むう、シュンスケ君がそこまで言うのなら仕方ない」
語気を強めたシュンスケ君の提案をロバートソン氏が渋々受け入れた。
「……というわけで遥様。報酬は上乗せしておきますので、よろしくお願いいたします」
そう言ってシュンスケ君が恭しく礼をした。報酬上乗せと聞いて遥も気合いが入る。
「分かりました、頑張ります!」
指をペキペキ鳴らしながら、勢い良く遥が応えた。
――――ちなみに遥は、けっこう好戦的なタイプだったりする。
結局たまが何を言いたかったのかは理解できず、マナの操作もまだまだ上手くいかない。どん詰まりだ、何をやってもピンと来ない。気分はブルー。
「浮かない顔をしているようだね……どうしたのかな?」
「……え?」
――――さ、流石紳士。何でもお見通しということか。
「いやね、君の顔に書いてあるんだよ」
なんと……思っている事が顔に出やすいタイプだというのか、私は。
なんだか恥ずかしくなってきた。
「あの、そんなに顔に出てますか……?」
「はっはっは。今だって顔が赤いぞ、遥ちゃん」
にこやかに笑いながら紅茶を一口。ああ、紳士だ。たたずまいからして紳士だ。
ロバートソン氏につられるように、遥も紅茶に口を付けて、
「うあっちぃ!?」
紅茶の温度熱すぎて、むせる。
猫舌だという自覚はあった、わかっていた。
ああ、地獄を見た。紅茶は熱いが心が冷めた。
「おや、遥ちゃんは猫舌なのかい?」
「ふぁい……恥ずかしながら」
それを聞いて、初老の紳士がクスリと笑う。
「まどかちゃんと同じだね」
「ご存知なんですか?」
その時、ロバートソン氏の表情が一瞬歪んだような気がした。遥の顔が、何かマズい事を言ってしまったのだろうかと不安に曇る。
「あ、ああ……やおよろずにはよくお世話になっていてね。彼女にも何度か仕事をお願いした事があるんだ」
「なるほど」
つまりはお得意様という事か。
「ところで……リヒト君は元気かな?」
「リヒト師匠ですか?」
“リヒト師匠”のあたりでロバートソン氏が心なしかニヤけたような気が……いや、余計な詮索、邪推はよそう。これは仕事だ、割り切ろう。
「そう、リヒト・エンフィールド君の事だ。彼には昔よく助けられてね……。とても優秀な神子だよ、彼は」
「おお、そうなんですか……」
なんやかんやで仕事はきっちりやる人なんだなぁ。ちょっぴりリヒトを見直した遥であった。
「そうだよ、彼は最高だ。顔よし、性格よし、実力あり、まさに完ぺ」
上気したロバートソン氏の声を遮るようにノックの音が鳴り響いた。
「……入りたまえ」
ロバートソン氏、クールダウン。
「失礼します」
扉が開いて、黒髪と理知的な顔立ちの、黒いスーツが似合う青年が入ってきた。
「旦那様、緊急事態です」
緊急事態と言う割には落ち着いてるような気が。
「どうしたんだね、シュンスケ君」
「複数のオートマタを引き連れた悪党共が敷地内に入り込んできました」
「わかった、私が行って彼らと“交渉”して来よう」
意気揚々と赤い宝石の付いたステッキを持って立ち上がる。なんで嬉しそうなんだろう、ロバートソン氏。ひょっとして割と好戦的な人?
だがしかし、オートマタを連れた悪党……神子を雇ったか、何らかの方法で野良を手なずけたか、悪の道に堕ちた神子か。いずれにせよ、生身ではあまりに危険な相手だ。
「お待ち下さい、旦那様。あなたひとりでは危険です。ここは神子である遥様に退けていただくというのははいかがでしょう。」
シュンスケ君が切れ長の目で遥を一瞥する。
「しかしね、シュンスケ君。私は彼らと“交渉”をしに行くんだよ? 悪戯に刺激を与えるのは」
「旦那様!」
「……むう、シュンスケ君がそこまで言うのなら仕方ない」
語気を強めたシュンスケ君の提案をロバートソン氏が渋々受け入れた。
「……というわけで遥様。報酬は上乗せしておきますので、よろしくお願いいたします」
そう言ってシュンスケ君が恭しく礼をした。報酬上乗せと聞いて遥も気合いが入る。
「分かりました、頑張ります!」
指をペキペキ鳴らしながら、勢い良く遥が応えた。
――――ちなみに遥は、けっこう好戦的なタイプだったりする。
♪ ♪ ♪
「おいコラァ! お前がここにおるのはわかっとるんじゃ、出てこんかい!!」
メガホンを使って叫ぶ筋肉質の男達(モヒカン)。そのまさに「悪党!」といった風貌に、遥ちょっぴり感動。
「聞こえとんのかコラァ!!」
聞こえてるも何も屋敷から遠すぎるのだが……。
ちなみに現在、遥は上空で停滞しているリヒターの肩に乗っている。まさかリヒターにちょっとした飛行能力まであるとは思わなかった……といっても、高出力ブースタで無理矢理飛んでいるだけなのだが。
下方に展開している悪党共を見る。以前遥を襲った一ツ目とヒョロ長が各三機ずつ。
「……なんの因果だろうね。ちょっと数が多いけど、いける? リヒター」
<イエス・マイマスター。生身の人間もいますが……マスターは大丈夫ですか>
その問いに遥は無言でサムズアップ。一呼吸置いて、リヒターも無言でそれに応えた。
深呼吸。大丈夫だ、リヒターは強いし、自分だって腕っ節には自信がある。いけるいける、絶対いける……よし!
「GO Ahead!」
<イエス・マイマスター>
リヒターがブースタの出力を弱めた。機体が徐々に高度を下げていく。
下へ、下へ、下へ。近づく地面、遠ざかる空。砂埃を巻き上げて、黒い騎士が着地する。
「な、なんだ!?」
悪党共がたじろいだその隙を突く形で、煙の中から一迅の疾風が飛び出した。
それは最前にいた一ツ目の腹に風穴を開けて立ち止まる。
腕に付着した液体を振り払い、それは言った。
<退け、そうすればこれ以上危害は加えない>
眼光に射竦められてモヒカンの集団が凍り付いた。
「か、数はこっちのほうが上なんだ、やっちまえ! そうすりゃマナでも何でもくれてやる!」
<やはり話し合いでは解決できないか>
「や、今の明らかに話し合いの前に暴力で解決しようとしてたと思うんだけど」
遅れてフードを被った遥が煙の中から現れる。
<そうでしょうか>
「うん」
短い沈黙。木葉が掠れる音だけが聞こえる。
ややあって、悪党のひとりが口を開く。
「な、なんだこのガキゃあ!?」
悪党にそう言われたら、こう答えるしかないではないか。一呼吸の間を置いて、遥が先頭のモヒカンを指差して言った。
「悪党に名乗る名前はない!」
決まった……!
「大人を舐めやがって、このチビが! おいおまえら、ガキを狙え!」
リーダーと思しき男(他の連中よりも装備が派手)が指示を飛ばした。悪党共が一直線に遥に殺到する。
<マスター>
心配になったのか、リヒターが遥のほうを見た。
「大丈夫、いけるから! それよりもオートマタを!」
<……イエス・マイマスター>
命令通りオートマタへと襲い掛かるリヒターを見届けて、悪党へ向き直る。さて、どうするか。
一対七では正直遥に勝ち目は無い。という事は、何らかの方法で連中を分断する必要がある。……となれば、これだ。
遥がポシェットから何かを取り出し、ピンを抜いて――――投擲。
地面に落ちて破裂したそれは、先日もお世話になった白燐超高熱耐消火性焼夷弾頭型発煙化学爆弾。
……煙幕とも言う。というか煙幕である。
巻き起こった煙の中へ全力ダッシュ。先日とは違い、今回は攻める側だ。ちなみにだだっ広い場所では煙はすぐに拡散してしまうので、あまり時間は掛けられない。つまり敵を見つけたら、
「一撃で仕留めるべしっ!」
一人目の獲物を発見。すかさず金的を叩き込むと、断末魔の奇声を発しながら男が倒れた。……潰れてないといいんだけど。
次、二人目。背後から飛び付いてチョークスリーパー。気管を締め上げられて息ができずにしばらくじたばた暴れるが、男はやがて泡を吹いて失神した。
さらに三人目。あたふたしているところを膝裏に蹴りを一発ブチ込んで、膝をついたところを顔面にシャイニング・ウィザード。文字通り鼻っ柱をヘシ折ってやる。
そして四人目。そろそろ煙が晴れてきたか、派手に暴れ過ぎたか、こちらに気付いたモヒカンが殴り掛かってきた。
「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
当然ながら死ぬ気も殺る気も無い。最低限に抑えた動作でそれを躱し、押し倒す。
そして、腕を、
「極める!」
コキャッ。
脇固め、決まった。モヒカン四号の腕があらぬ方向に曲がる。
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぃぁぃぁぁぁぁぃぃぃあぁぁぁ!!」
絶叫を上げる四号を尻目に、次の獲物へ全力疾走。
続いて五人目。向かって来たところを背負い投げ。馬乗りになってこちらも腕を、
「うがぁぁぁぁぁっ!」
極めてやった。駄目押しに後頭部に手刀を一撃。
煙が晴れた。残りのモヒカンはリーダー含めて三人。不意打ちとはいえなんと他愛もない、鎧袖一触とはこの事か。
――――さて、どう料理してくれよう。フードの下の目が妖しく光る。
「ほぼ全滅……!? 七人の鍛え上げられた男がほぼ全滅だと……!? 三分も経たずにか!?」
今言うタイミングじゃないのでは……? まあいいや。
ゆっくり息を吐いて、構え直す。
とにかく、ちゃっちゃと終わらせるとし……え?
ブースタを全開にした時のけたたましい音。場所は遠くない、むしろ近い。
恐る恐る音のする方角を見ると、
「えぇ!?」
全力でこちらに迫って来るヒョロ長と、それを猛追するリヒター・ペネトレイターがあった。このままではこちらに突っ込んで来るだろう。
ヤバい、考えるまでもなくヤバい。
逃げようとしたその時、遥の横をひとりの紳士が悠々と通り過ぎた。
「おやおや。詰めが甘いね、遥ちゃん、リヒター君」
メガホンを使って叫ぶ筋肉質の男達(モヒカン)。そのまさに「悪党!」といった風貌に、遥ちょっぴり感動。
「聞こえとんのかコラァ!!」
聞こえてるも何も屋敷から遠すぎるのだが……。
ちなみに現在、遥は上空で停滞しているリヒターの肩に乗っている。まさかリヒターにちょっとした飛行能力まであるとは思わなかった……といっても、高出力ブースタで無理矢理飛んでいるだけなのだが。
下方に展開している悪党共を見る。以前遥を襲った一ツ目とヒョロ長が各三機ずつ。
「……なんの因果だろうね。ちょっと数が多いけど、いける? リヒター」
<イエス・マイマスター。生身の人間もいますが……マスターは大丈夫ですか>
その問いに遥は無言でサムズアップ。一呼吸置いて、リヒターも無言でそれに応えた。
深呼吸。大丈夫だ、リヒターは強いし、自分だって腕っ節には自信がある。いけるいける、絶対いける……よし!
「GO Ahead!」
<イエス・マイマスター>
リヒターがブースタの出力を弱めた。機体が徐々に高度を下げていく。
下へ、下へ、下へ。近づく地面、遠ざかる空。砂埃を巻き上げて、黒い騎士が着地する。
「な、なんだ!?」
悪党共がたじろいだその隙を突く形で、煙の中から一迅の疾風が飛び出した。
それは最前にいた一ツ目の腹に風穴を開けて立ち止まる。
腕に付着した液体を振り払い、それは言った。
<退け、そうすればこれ以上危害は加えない>
眼光に射竦められてモヒカンの集団が凍り付いた。
「か、数はこっちのほうが上なんだ、やっちまえ! そうすりゃマナでも何でもくれてやる!」
<やはり話し合いでは解決できないか>
「や、今の明らかに話し合いの前に暴力で解決しようとしてたと思うんだけど」
遅れてフードを被った遥が煙の中から現れる。
<そうでしょうか>
「うん」
短い沈黙。木葉が掠れる音だけが聞こえる。
ややあって、悪党のひとりが口を開く。
「な、なんだこのガキゃあ!?」
悪党にそう言われたら、こう答えるしかないではないか。一呼吸の間を置いて、遥が先頭のモヒカンを指差して言った。
「悪党に名乗る名前はない!」
決まった……!
「大人を舐めやがって、このチビが! おいおまえら、ガキを狙え!」
リーダーと思しき男(他の連中よりも装備が派手)が指示を飛ばした。悪党共が一直線に遥に殺到する。
<マスター>
心配になったのか、リヒターが遥のほうを見た。
「大丈夫、いけるから! それよりもオートマタを!」
<……イエス・マイマスター>
命令通りオートマタへと襲い掛かるリヒターを見届けて、悪党へ向き直る。さて、どうするか。
一対七では正直遥に勝ち目は無い。という事は、何らかの方法で連中を分断する必要がある。……となれば、これだ。
遥がポシェットから何かを取り出し、ピンを抜いて――――投擲。
地面に落ちて破裂したそれは、先日もお世話になった白燐超高熱耐消火性焼夷弾頭型発煙化学爆弾。
……煙幕とも言う。というか煙幕である。
巻き起こった煙の中へ全力ダッシュ。先日とは違い、今回は攻める側だ。ちなみにだだっ広い場所では煙はすぐに拡散してしまうので、あまり時間は掛けられない。つまり敵を見つけたら、
「一撃で仕留めるべしっ!」
一人目の獲物を発見。すかさず金的を叩き込むと、断末魔の奇声を発しながら男が倒れた。……潰れてないといいんだけど。
次、二人目。背後から飛び付いてチョークスリーパー。気管を締め上げられて息ができずにしばらくじたばた暴れるが、男はやがて泡を吹いて失神した。
さらに三人目。あたふたしているところを膝裏に蹴りを一発ブチ込んで、膝をついたところを顔面にシャイニング・ウィザード。文字通り鼻っ柱をヘシ折ってやる。
そして四人目。そろそろ煙が晴れてきたか、派手に暴れ過ぎたか、こちらに気付いたモヒカンが殴り掛かってきた。
「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
当然ながら死ぬ気も殺る気も無い。最低限に抑えた動作でそれを躱し、押し倒す。
そして、腕を、
「極める!」
コキャッ。
脇固め、決まった。モヒカン四号の腕があらぬ方向に曲がる。
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぃぁぃぁぁぁぁぃぃぃあぁぁぁ!!」
絶叫を上げる四号を尻目に、次の獲物へ全力疾走。
続いて五人目。向かって来たところを背負い投げ。馬乗りになってこちらも腕を、
「うがぁぁぁぁぁっ!」
極めてやった。駄目押しに後頭部に手刀を一撃。
煙が晴れた。残りのモヒカンはリーダー含めて三人。不意打ちとはいえなんと他愛もない、鎧袖一触とはこの事か。
――――さて、どう料理してくれよう。フードの下の目が妖しく光る。
「ほぼ全滅……!? 七人の鍛え上げられた男がほぼ全滅だと……!? 三分も経たずにか!?」
今言うタイミングじゃないのでは……? まあいいや。
ゆっくり息を吐いて、構え直す。
とにかく、ちゃっちゃと終わらせるとし……え?
ブースタを全開にした時のけたたましい音。場所は遠くない、むしろ近い。
恐る恐る音のする方角を見ると、
「えぇ!?」
全力でこちらに迫って来るヒョロ長と、それを猛追するリヒター・ペネトレイターがあった。このままではこちらに突っ込んで来るだろう。
ヤバい、考えるまでもなくヤバい。
逃げようとしたその時、遥の横をひとりの紳士が悠々と通り過ぎた。
「おやおや。詰めが甘いね、遥ちゃん、リヒター君」
♪ ♪ ♪
モヒカンリーダーの命令で一ツ目とヒョロ長が各一機ずつ、遥の方へと注意を向けた。残る三機が足止めをしようと散開し、別々の方向からリヒターに迫る。正面、左右にそれぞれ一機。
三機に囲まれはしたが、マスターは一対八なのだ。それに比べれば大したことはない。それよりも、マスターの方へと向かった二機をどうにかしなければいけない。
リヒターが腕にマナを収束させる。
――――現在のマナの残量からして、全力で戦闘すれば持って三分といったところか。ならば、
<一撃で仕留めるのみ>
ブースト。正面にいた一ツ目の頭を掴んで押し倒すと、とっつきで胸に穴を穿つ。金属が擦れる絶叫を上げて穿たれた穴から盛大にマナを噴出させ、それきり一ツ目は動かなくなった。
一機目、クリアー。
続いてヒョロ長が二機、左右から挟み打ちを仕掛けてきた。仲間が倒された事に怯む様子は無い。
肘に装備されたブレードの切っ先が、
<……!>
空を切る。屈んでそれを回避したのだ。
リヒター、咄嗟に両手にマナを集中。ダガーを発生させ、回転しながら一閃。ヒョロ長二機の腰部が光の刃に切断され、上半身が宙を舞った。
二機目、三機目同時にクリアー。
二機の上半身が地面にキスをする前にブースタを全開。マスターの方へ行った二機の追撃を開始する。
加速、加速、加速。やがて漆黒の騎士は一ツ目の巨人に追い付いた。
スピードを緩める事無く、すれ違いざまにダガーで首を撥ねる。急に視覚を失ったせいでバランスを崩し、一ツ目が派手に砂煙を巻き上げながら転倒。
四機目、クリアー。
残るはヒョロ長一機、なのだが。
<素早い……>
可能な限り贅肉を削ぎ落としてあるだけはあって、装甲は薄いが身は軽い。先日戦った時は比較的狭い通路だったため楽に仕留める事ができたが、こう開けた空間では追い付くのにも時間が掛かる。射撃兵器があれば違うのだが。
なんにせよ、このままでは間に合わない……!
と、その刹那。
「おやおや。詰めが甘いね、遥ちゃん、リヒター君」
赤い宝石を宿した、雪のように白いステッキを持った紳士がゆっくりと歩いてきた。
三機に囲まれはしたが、マスターは一対八なのだ。それに比べれば大したことはない。それよりも、マスターの方へと向かった二機をどうにかしなければいけない。
リヒターが腕にマナを収束させる。
――――現在のマナの残量からして、全力で戦闘すれば持って三分といったところか。ならば、
<一撃で仕留めるのみ>
ブースト。正面にいた一ツ目の頭を掴んで押し倒すと、とっつきで胸に穴を穿つ。金属が擦れる絶叫を上げて穿たれた穴から盛大にマナを噴出させ、それきり一ツ目は動かなくなった。
一機目、クリアー。
続いてヒョロ長が二機、左右から挟み打ちを仕掛けてきた。仲間が倒された事に怯む様子は無い。
肘に装備されたブレードの切っ先が、
<……!>
空を切る。屈んでそれを回避したのだ。
リヒター、咄嗟に両手にマナを集中。ダガーを発生させ、回転しながら一閃。ヒョロ長二機の腰部が光の刃に切断され、上半身が宙を舞った。
二機目、三機目同時にクリアー。
二機の上半身が地面にキスをする前にブースタを全開。マスターの方へ行った二機の追撃を開始する。
加速、加速、加速。やがて漆黒の騎士は一ツ目の巨人に追い付いた。
スピードを緩める事無く、すれ違いざまにダガーで首を撥ねる。急に視覚を失ったせいでバランスを崩し、一ツ目が派手に砂煙を巻き上げながら転倒。
四機目、クリアー。
残るはヒョロ長一機、なのだが。
<素早い……>
可能な限り贅肉を削ぎ落としてあるだけはあって、装甲は薄いが身は軽い。先日戦った時は比較的狭い通路だったため楽に仕留める事ができたが、こう開けた空間では追い付くのにも時間が掛かる。射撃兵器があれば違うのだが。
なんにせよ、このままでは間に合わない……!
と、その刹那。
「おやおや。詰めが甘いね、遥ちゃん、リヒター君」
赤い宝石を宿した、雪のように白いステッキを持った紳士がゆっくりと歩いてきた。
♪ ♪ ♪
紳士はゆっくりと遥の前に移動する。まるで目の前に何も無いかのような素振りで。
「えーと、ロバートソン氏、危ないですよ……?」
一条 遥、混乱中。
「はっはっは、これくらい大丈夫だよ!」
<ええ、そうですね。これくらい楽勝です>
快活、否、豪快に笑うロバートソン氏と、この声……あれ?
「えーと、シロ……ちゃん?」
間違いない。リヒト・エンフィールドが契約しついるオートマタ、ヴァイス・ヘーシェンの声だ。声なのだが、リヒトもヴァイスもここにはいない。いないはずなのだが……もしかして、そっくりさん?
一条 遥、超混乱中。
しかし混乱している間にもヒョロ長は迫っている。慌てる遥に対して、すこぶる冷静なロバートソン氏。
「では、いくぞ」
ロバートソン氏がニヤりと笑いながらステッキをクルリと一回転させると、
「変わった!?」
ステッキが、光を放ちながら氏の身の丈程もあるバスターソードに変化した。変形ではない、変化したのだ。
上段の構から、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。同時にマナによるバリアを展開、正中線から真っ二つになったオートマタの残骸を左右へ受け流した。そして飛んできた残骸がモヒカン六号に命中。モヒカン六号、失神。
「ひ、ひぃっ、化け物……!」
残ったモヒカン二人がその場から逃げ出した。無理もない、生身でオートマタを破壊するという離れ業を見せ付けられたのだから。実際遥だって、
「遥ちゃん、二人を追い掛けてくれないかな」
動けずに――――
「報酬は上乗せするから」
「はい、かしこまりましたーっ!」
いなかった。
目にも留まらぬ早さで立ち上がり敬礼すると、逃げ出したモヒカンのほうへ走り出す。
「行くよ、リヒター!」
<イエス・マイマスター>
悪党二人は遥達が木を伐っていた林道のほうへ逃げたようだ。あそこならば大体道はわかっているし、木は伐ったので逃げ場所も限られている、発見は容易だ。この戦い、勝てる!
助走をつけてリヒターの背中に飛び乗る。
「マナ、ほしい?」
<オートマタと戦闘にさえならなければ問題ありません。今はチャージよりも追撃を優先すべきだと考えます>
今の遥ではマナを操る事に慣れていないため動きながらマナを石から引き出す事ができない上に、短時間で大量のマナを送信する事ができずチャージに時間がかかってしまう。
「もたもたしてると逃げられちゃうもんね、わかった。でも危ないって思ったらすぐに言うんだよ?」
<イエス・マイマスター。……加速します、どこかに捕まってください>
どこかって……あ、ちょうどよさそうなのがあった。
頭に付いているトサカにしがみつく。リヒターが一瞬硬まったような気がした。
リヒターの身体が少しだけ浮くと、次第に加速を始める。
「そういえば、人間にあんな事って出来るものなの?」
オートマタを剣で切断したり、マナの防壁を張ったり。
<多少ならば可能ですが、あのレベルは不可能のはずです>
「……だよね」
じゃあ目の前でそれをやってのけたロバートソン氏は、一体何者なんだろう……?
「えーと、ロバートソン氏、危ないですよ……?」
一条 遥、混乱中。
「はっはっは、これくらい大丈夫だよ!」
<ええ、そうですね。これくらい楽勝です>
快活、否、豪快に笑うロバートソン氏と、この声……あれ?
「えーと、シロ……ちゃん?」
間違いない。リヒト・エンフィールドが契約しついるオートマタ、ヴァイス・ヘーシェンの声だ。声なのだが、リヒトもヴァイスもここにはいない。いないはずなのだが……もしかして、そっくりさん?
一条 遥、超混乱中。
しかし混乱している間にもヒョロ長は迫っている。慌てる遥に対して、すこぶる冷静なロバートソン氏。
「では、いくぞ」
ロバートソン氏がニヤりと笑いながらステッキをクルリと一回転させると、
「変わった!?」
ステッキが、光を放ちながら氏の身の丈程もあるバスターソードに変化した。変形ではない、変化したのだ。
上段の構から、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。同時にマナによるバリアを展開、正中線から真っ二つになったオートマタの残骸を左右へ受け流した。そして飛んできた残骸がモヒカン六号に命中。モヒカン六号、失神。
「ひ、ひぃっ、化け物……!」
残ったモヒカン二人がその場から逃げ出した。無理もない、生身でオートマタを破壊するという離れ業を見せ付けられたのだから。実際遥だって、
「遥ちゃん、二人を追い掛けてくれないかな」
動けずに――――
「報酬は上乗せするから」
「はい、かしこまりましたーっ!」
いなかった。
目にも留まらぬ早さで立ち上がり敬礼すると、逃げ出したモヒカンのほうへ走り出す。
「行くよ、リヒター!」
<イエス・マイマスター>
悪党二人は遥達が木を伐っていた林道のほうへ逃げたようだ。あそこならば大体道はわかっているし、木は伐ったので逃げ場所も限られている、発見は容易だ。この戦い、勝てる!
助走をつけてリヒターの背中に飛び乗る。
「マナ、ほしい?」
<オートマタと戦闘にさえならなければ問題ありません。今はチャージよりも追撃を優先すべきだと考えます>
今の遥ではマナを操る事に慣れていないため動きながらマナを石から引き出す事ができない上に、短時間で大量のマナを送信する事ができずチャージに時間がかかってしまう。
「もたもたしてると逃げられちゃうもんね、わかった。でも危ないって思ったらすぐに言うんだよ?」
<イエス・マイマスター。……加速します、どこかに捕まってください>
どこかって……あ、ちょうどよさそうなのがあった。
頭に付いているトサカにしがみつく。リヒターが一瞬硬まったような気がした。
リヒターの身体が少しだけ浮くと、次第に加速を始める。
「そういえば、人間にあんな事って出来るものなの?」
オートマタを剣で切断したり、マナの防壁を張ったり。
<多少ならば可能ですが、あのレベルは不可能のはずです>
「……だよね」
じゃあ目の前でそれをやってのけたロバートソン氏は、一体何者なんだろう……?
♪ ♪ ♪
「ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇよ……!」
「俺達はロバの野郎をブチのめしに来たってのに……なんだなんだなんだってんだ! なんだってんだよあのジジイは!?」
モヒカン七号ががたがたと震え、モヒカンリーダーが苛立って木を殴る。殴られた木が、大きく傾いた。
<まったく不甲斐無いわね、その筋肉は飾りなの?>
どこからか聞こえてきたのは、せせら笑う少女の声。近くに潜んでいるのだろうそれは、
「その声……シュヴァルツとかいう奴!」
<ご名答、よくわかったわね。……って、そんな事よりあんた達! あれだけ戦力提供してあげたのに負けるってどういう事よ! ひょっとして馬鹿なの? 脳味噌にシワ無いの!?>
「うるせぇ!」
シュヴァルツの甲高い声に、モヒカンリーダーが再び木を殴った。木が大きな音を立てて倒れる。
「てめぇは戦ってないから言えるんだろうがよ、ありゃ化け物だ! ジジイも、ガキも、オートマタも!!」
<あんたらが弱いだけでしょ。もっと頭使いなさいよ、伏兵とか。……まあいいわ。あたしがあの黒いのを足止めしといてあげるから、あんた達は三つ編みの子を引っ捕らえなさい。じゃ、行くわよ!>
そう一方的に告げて、黒い影が飛び去った。それを見て、モヒカンリーダーが呟く。
「テメェも黒いじゃねぇか」
と。
「俺達はロバの野郎をブチのめしに来たってのに……なんだなんだなんだってんだ! なんだってんだよあのジジイは!?」
モヒカン七号ががたがたと震え、モヒカンリーダーが苛立って木を殴る。殴られた木が、大きく傾いた。
<まったく不甲斐無いわね、その筋肉は飾りなの?>
どこからか聞こえてきたのは、せせら笑う少女の声。近くに潜んでいるのだろうそれは、
「その声……シュヴァルツとかいう奴!」
<ご名答、よくわかったわね。……って、そんな事よりあんた達! あれだけ戦力提供してあげたのに負けるってどういう事よ! ひょっとして馬鹿なの? 脳味噌にシワ無いの!?>
「うるせぇ!」
シュヴァルツの甲高い声に、モヒカンリーダーが再び木を殴った。木が大きな音を立てて倒れる。
「てめぇは戦ってないから言えるんだろうがよ、ありゃ化け物だ! ジジイも、ガキも、オートマタも!!」
<あんたらが弱いだけでしょ。もっと頭使いなさいよ、伏兵とか。……まあいいわ。あたしがあの黒いのを足止めしといてあげるから、あんた達は三つ編みの子を引っ捕らえなさい。じゃ、行くわよ!>
そう一方的に告げて、黒い影が飛び去った。それを見て、モヒカンリーダーが呟く。
「テメェも黒いじゃねぇか」
と。
♪ ♪ ♪
静かな林道に、突如として騒音が響いた。男の叫び声と、木が倒れる音……間違いない、世紀末チンピラ集団がそこにいる。
<マスター、二時の方向>
「うん、聞こえた。多分そこに」
<……接近警報! マスター、今すぐ飛び降りてください>
言われるままにリヒターの背中から飛び降りるのと同時、強烈な衝撃がリヒターを襲った。リヒター、数歩後退る。
「……また、そっくりさん?」
紅いバイザー、長い耳。現れたのは、ヴァイス・ヘーシェンそのものだった。だが色が違う。ヴァイスはその名の通りの白だが、この機体はヴァイスとは対象的な――――
<黒い、ヘーシェンタイプ……>
<ご名答、よくわかったわね。……って、見ればわかるか>
だが同じなのは身体だけではなかった。声までそっくりヴァイスと同じ、透き通った、少女の声。ただしこちらは抑揚たっぷりだが。
もしかして、ロバートソン氏の……いや、流石にそれは無理があるか。こちらを襲う道理がない。
<そんな事よりも、そこのちっちゃい三つ編みの! 賢者の石、いただくわよ!>
「……えぇー、またー?」
またか。また賢者の石か。遥、二回目にして早くもうんざり。
<悪党連中も潜んでいます、気をつけてください、マスター>
「むう、そういえばそっか。集中集中」
しかし、これは面倒な事になった。悪党がいつ襲い掛かってくるかわからない以上、迂闊にリヒターにマナをチャージしてやる事ができない。
「ああっ、もうっ!」
迂闊だった。
事前にチャージしておけば、こんな事にはならなかったのに――――!
<マスター、二時の方向>
「うん、聞こえた。多分そこに」
<……接近警報! マスター、今すぐ飛び降りてください>
言われるままにリヒターの背中から飛び降りるのと同時、強烈な衝撃がリヒターを襲った。リヒター、数歩後退る。
「……また、そっくりさん?」
紅いバイザー、長い耳。現れたのは、ヴァイス・ヘーシェンそのものだった。だが色が違う。ヴァイスはその名の通りの白だが、この機体はヴァイスとは対象的な――――
<黒い、ヘーシェンタイプ……>
<ご名答、よくわかったわね。……って、見ればわかるか>
だが同じなのは身体だけではなかった。声までそっくりヴァイスと同じ、透き通った、少女の声。ただしこちらは抑揚たっぷりだが。
もしかして、ロバートソン氏の……いや、流石にそれは無理があるか。こちらを襲う道理がない。
<そんな事よりも、そこのちっちゃい三つ編みの! 賢者の石、いただくわよ!>
「……えぇー、またー?」
またか。また賢者の石か。遥、二回目にして早くもうんざり。
<悪党連中も潜んでいます、気をつけてください、マスター>
「むう、そういえばそっか。集中集中」
しかし、これは面倒な事になった。悪党がいつ襲い掛かってくるかわからない以上、迂闊にリヒターにマナをチャージしてやる事ができない。
「ああっ、もうっ!」
迂闊だった。
事前にチャージしておけば、こんな事にはならなかったのに――――!
――――次回へ続きますよっ、と。
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