創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

GEARS 第三話

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匿名ユーザー

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統合暦329年5月30日

初夏の訪れを予感させるような強い陽射しに辟易しながら
これまた一緒に居るのが辟易するようなクラスメイトが、さも当然かのように隣を歩いていた。

「そういや、守屋君って格闘は得意だけどさ、剣とか銃も達者なの?」

「剣は兎も角、銃が得意な高校生って滅多に居ないんじゃないのか?」

守屋が至極、真っ当な返答をするが、少なくとも霧坂にしてみたら守屋は真っ当な高校生では無い。
守屋が紛争地域で重火器を振り回していると言われても、「ああ。そうだろうね。」と簡単に信用するだろう。

「いや、得意そうじゃん?第一、フツーじゃないんだし。」

普通じゃない。その言い方に少し憮然とするが、気持ちは分からんでも無い。

「確かに家はあんなだし、物心が着いた時から色々、叩き込まれたけど
他人を殺傷する目的の道具は持たされた事が無いんだ。
だから、機械術にしたって刃は潰してあったし、銃火器の類だって触れた事が無い。」

「そっか、ゴメンゴメン。じゃあ、守屋君が大会に出るとしたら格闘か自由形かな?」

守屋は聞き慣れない言葉に眉を顰め、霧坂に聞き返した。

「自由形ってなんだ?」

「大会の出場種目だよ。本来なら同じ武器同士で戦うんだけどね。
其々が得意な武器、ギアに最も適切な装備をして戦うんだよ。銃vs剣とかね。
流石にMCIとSCIで区分されるけどね。」

要はギアのバーリ・トゥードか。初めてギア部の見学に行った時の加賀谷と三笠の戦いをふと思い出した。
ソードライフルvsハルバート+ランス。アレも一種の自由形か。
互いに武器を合わせるよりも好き勝手な武器でぶつかり合った方が面白そうだ。

「面白そうだな。早く大会に出場してみたいもんだ。」

「ま、守屋君の場合はアイリス・ジョーカーの再調整からだね。」

前回の戦いで破損した左腕の修理がギア部の整備担当班の手に負えなかった為、工場送りになってしまったのだ。
守屋は自分の操縦技術が未熟だからと破損させてしまったと考えていたが、原因は少し違う。
アイリス・ジョーカーの反応速度を抑えていた為、守屋の動きをトレースする事が出来なかっただけに過ぎず
例え、大会上位の腕を持つ選手であっても、そうと知らなければ守屋と同じく機体を破損させていただろう。
ギアが工場から戻って来たら守屋はアイリス・ジョーカーの反応速度を調整しながら
単純動作を繰り返しながら、最適なパラメーターを設定する事から始めなければならない。
自動設定でも前回よりは比べ物にならないくらい動かし易くなるが、モーショントレースという性質上
MCI搭載機の性能を最大限引き出す為には最適値を見つけるのは必須事項だ。
何よりもMCI部門の大会出場者達は皆通って来た道であり、自動設定で出場するなど言語道断なのだ。

「早く、ジョーカーに慣れたいんだけどな…」

ぼやく守屋を霧坂が珍しく普通に宥める。

「適切な調節をしたギアがどれだけ扱い易いかはシミュレーターでも分かったでしょ?
それに変な癖が付くといけないからね。守屋君はレギュラーなんだから、しっかりやらないと。」

霧坂がまともな事を喋るのは初夏の陽射しによる熱射病なのではと
微妙に失礼な事を考えながら、スタジアムに足を踏み入れた。
ギア部の選手陣は加賀谷の前に並び、活動前のミーティングを行っていた。

「よし。全員、集まったな。今日はシミュレーターを使った総当たり戦を行う。
1年…特に守屋は『まだ』対人戦を経験していないからな。」

「ええ。『まだ』未経験ですね。」

実際には宋銭高校の生徒と交戦し撃退しているのだが、そんな事実は無い事になっており
今回のシミュレーター訓練が初めての対人戦という事になっている。

「では、守屋はリヴァイド・ジョーカーのデータ。それ以外の部員はリヴァイドのデータを使え。
使用兵装は各自自由とする。守屋のみMCI搭載機になり、近接系の選手にはかなり大きなハンデを抱える事になるが…
ギア選手としてのキャリアは無いも同然だ。つまり、負けたらかなり恥ずかしいぞ?各自、肝に銘じるように。」

シミュレーターに乗り込み、加賀谷の指示通りリヴァイド・ジョーカーのデータをロードし、兵装にナックルガードを選択。
戦闘準備完了。ギアのモニターがスタジアムの映像を映し出す。

既に相手のリヴァイドが待ち構えていた。全員の使用ギアがリヴァイドのせいで誰か全く分からない。
ライフルにショートソードを装備しているのは分かるが…誰がどの武器を得意としているのか守屋は知らない。
ただ、誰が相手であっても全力でぶつかるという気概。勝つにせよ負けるにせよ、得る物があるという思い。
あわよくば全勝したいという、ささやかな欲望を持っている程度だ。

開始の合図を待っていると相手ギアから通信が入る。

「やっほ、一番手は私だから、お手柔らかにね。」

「霧坂はライフルと短剣を使うのか…」

「ま、私も初心者だからね。色んな武器を使って模索中ってわけ。
守屋君は素手でやるの?って言うか、素手の方が強いんだっけ?」

「多分な。やってみれば分かるさ。俺もある意味、模索中だからな。」

そう言って、構えを取る、

「成る程ね。」

守屋が攻撃を仕掛けるには、距離を詰める必要がある。
しかも、SCI機は人間の至らない所をシステムを補ってくれる。例えば、ライフルのロックオン。
単純な命中精度だけなら、アームドギアにも匹敵する。
以前に加賀谷が高速飛来するロケットランスにライフルの砲弾を何発も直撃させる事が出来たのも
加賀谷の腕による所も大きいが、サポートシステムを適切に運用出来たからこそでもある。
特に飛び道具に事関してはSCI機の優位は非常に大きい。

更に守屋が距離を詰めようにも追いかけっこでは霧坂に分がある。
MCI機は総じてブースターや、スラスター等の推進装置が無いからだ。
とは言え、フィールドの広さは無限では無い、一方方向に逃げれば壁に遮られるし、飛べば天井がある。
エネルギーと弾数も当然、無限では無い。延々と機動力任せで後退しつつ、ライフルで狙撃すると言うわけにはいかない。
弾、エネルギーが尽きる前に壁際まで追い詰められる前に守屋を撃破しなければならない。

兎に角、守屋に攻撃をさせてはならない。守屋に格闘戦を挑むのは無謀過ぎる。
遠距離戦闘ならSCI機に分があるが、近接戦闘ならMCI機の独壇場だ。
何よりも、守屋の格闘戦技能ならばギアを通してとは言え、一撃で昏倒しかねない。

戦闘開始の合図と同時にライフルを二発。後方に跳躍し着地と同時に更に一発。
最初の二発を左腕で打ち払い、3発目を身体を逸らし回避。
霧坂が様子見をしている隙に距離を詰めるべく地を蹴った。
霧坂は距離を詰める為に疾走する守屋を見て、思っていた以上に早いなと思った。
だが、足が早い事など如何でも良い。銃弾を打ち払って無効化するなんて、どんな非常識だ。

「あれ…また左腕?」

以前、宋銭高校の生徒と戦った時も飛び蹴りを左腕で打ち払っていたのをふと思い出した。
まさかと思い。霧坂は左腕に一発、後方に飛び退り右腕に一発。
守屋は左腕で銃弾を打ち払い、右腕を狙った一撃を左前方に跳躍し疾走した。

「成る程。左腕は盾で、右腕は剣ってわけね。じゃあ、コレなら如何かな?」

右腕に向けて、マガジン一つを使い切るつもりで発砲する。
守屋は一発も被弾しない。SCI機の射撃精度が非常に高いのは既に聞き及んでいる。
リヴァイド・ジョーカーのモニタを最大望遠でリヴァイドのライフルの向きで着弾位置を
マズルフラッシュで発砲のタイミングを計り、回避行動に移る。普通なら出来ない芸当なのだが
SCI機に関しては話が違ってくる。攻撃が正確過ぎるが故に予測回避が容易なのだ。
そもそも、MCI機でSCI機に追いつける等と思い上がっていない。
安全に回避行動を取れるように充分な距離を取っている。
本格的に距離を詰めるのは弾が切れてからでも遅くない。
流石に連射されると回避は困難だが、回避だけに意識を集中させれば致命傷だけは避けられる。
現に奇跡的ではあるが、連射されたライフルの砲弾を全て回避した。正直、もう一度やれと言われても出来そうに無い。

「ふーん…やっぱりね。」

左側に攻撃を行うと左腕に打ち払われる。右側に攻撃を行うと、かなりの頻度で左側に飛び退く。

「素人相手に動きを読まれるのは如何なんだろうね?」

独りごちて、ニ発目のマガジンをセットする。

「これで撃ち止めだけど、これで充分かな。」

右腕に向かって、3発発砲。ワンテンポ遅れて何も無いリヴァイド・ジョーカーより遥か左の空間に向けて3発発砲。
霧坂の予測通り、守屋は左前方に向かって機体を跳躍させる。着地点には砲弾が3発。

「此処まで予想通りだとはね。3発と言わずに、もう5~6発くらい撃ち込んでおけば良かったかな?」

霧坂の放った銃弾は守屋機の脚部を撃ち貫こうと襲い掛かる。

「残念。そこはキルゾーンでしたとさ。足を潰されたら、まともな回避運動も取れないよね?」

霧坂は勝利を確信するが…守屋は無造作に左腕を振るった。
三発の砲弾を打ち払うが、度重なる強引な防御のせいで左腕が爆散する。

「これは…大失態だね。」

恐らく、手の内は知られてしまった。しかも、新たな攻撃手段を講じようにも残弾は僅かだ。

「この攻撃で得られたのは守屋君の左腕…うあ、割に合わないわ。」

必勝の策は守屋に通じず戦意喪失から来る痛恨の操縦ミスをやらかしてしまい勝負は一瞬でケリがついた。

「分かっていたけど、本当に強いわ。私の方が一ヶ月も長く乗ってるんだけどなぁ…」

「ま、要模索ってところか?」

悔しがる霧坂を前に軽くおどけて見せるが、霧坂の予測能力に肝を冷やしたのも、また事実だ。
(日常会話でもよく読まれるしな…俺って分かり易いのか?それとも、霧坂が異常なのか?)
強いて言うなら、どちらも正解である。
モニターから霧坂のリヴァイドが姿を消し、大剣を携えたリヴァイドが現れた。
「おー、来た来た。まずは一勝、よく頑張ったな!」

次の対戦相手から快活な声が届けられた。
「回避した先に銃弾ぶち込まれた時は流石に如何しようかと思いましたけどね。」

声の主は2年のレギュラー、阿部辰巳だった。黒髪に黒目、スポーツギア部の中で最も倭国人らしい顔立ちをしている。

「遠距離攻撃に対する防御手段や回避運動が単調過ぎるんだ。ま、気にする事じゃねーよ。
MCI同士の戦いで飛び道具使う奴なんて滅多にいないしな。」

阿部の指摘に、やっぱり分かり易いのかと少し凹む。
「ま、守屋とやる時はコレの方が良いだろ?」

阿部機は携えた大剣を両手で握り、腰溜めに構える。
とは言え、阿部機はMCIでは無くSCI機の為、レバーやペダル、モーションプログラムによって操作を行う。
使用出来るモーションプログラムの数にも限りがある。長丁場になればなる程、呼び動作だけで動きを読まれてしまう。
だが、MCIは搭乗者の動きをトレースする操縦システムだ。格闘戦に事関してはSCIのような制限は一切無い。
守屋にとって圧倒的有利な状況。
格闘戦における下地は完成していると言っても良い。だが、ギアの性能を完全に引き出すには至ってはいない。

(ま、後輩のレベルアップに付き合ってやるのも先輩の役目ってな。)

構えを崩さずブースターで距離を詰め、突き、切り上げ、振り落とし、薙ぎ払いの四連撃を放つが軽やかに避けられる。

(格闘戦だと回避運動も変則的になるんだな。)

また単調な動きで避けるようなら注意の一つでもしてやらなければなと考えていたが、自分が口出しするまでも無い。

(今度は打たせてみるか。)

大剣を振るいながら、守屋が攻撃に転じ易いように攻撃と攻撃の間に発生するタイムラグを広げてやる。

(ブースターも無いのに早いな。流石に良い踏み込みをする。)

隙ありと守屋機は一瞬で距離を詰め、鋼拳を阿部機の左腕に叩き込む。
両手で持つ事が前提の武器だ。腕の一本でも落とせば攻撃能力は半減どころじゃ済まされない。

(何も教えてねーのに、よく理解している。ガキの時から鍛えたれてた言ってたな?)

確かに守屋の踏み込みは早い。攻撃も理に叶っている。攻撃パターンも多彩だ。
だが、その速さもMCIとしては早いと言うだけに過ぎない。阿部は慌てもせずに、ブースターを一吹かしして、一歩離れる。

(そういや、もう一発来るんだっけな。)

阿部機は大剣を持ち上げ盾の代わりに構え、守屋機の右回し蹴りを防ぐ。モヒカンと戦った時と同じだ。

「きっとそう読んでくれると思いましたよ。」

守屋の挑発気味の発言に阿部が眉を顰めようとするが、それよりも早くコクピットに衝撃が走った。
守屋機の左足刀が阿部機の右足に甚大なダメージを与える。
幸い欠損だけは避けられたが、踏み込みに頼った斬撃は後何発放てるだろうか?
(足を潰されたのは初めてだな。よりによって手持ちのモーションパターンの踏み足は右と来たもんだ。
…手詰まりか。つーか、後輩の欠点を気付かされて如何するんだよ、俺。)

手詰まりと言うには若干、語弊がある。阿部の用意したモーションパターンには
ブースターを活用した空対地、地対空のブースターを活用した攻撃プログラムがある。
だが、SCI機を使う予定の無い守屋にとって利益をもたらす攻撃では無い。
(やれやれ…後輩を舐め腐った罰だ。此処は花を持たせてやるか。)
満足に攻撃が出来ないまま阿部も守屋に撃墜され、次の対戦相手と相対する。
歳方アリア。阿部と同じく、2年のレギュラーで二丁のハンドガンを装備している。

「守屋、わたしゃ吃驚だよ。まさかギアに乗って一週間の奴が阿部を倒すとは思わなかったよ。」
「阿部さんも、此方に合わせて戦ってくれた上に手加減までされてましたから。」
「でも、余裕ぶっこいて負けるのは先輩としてどうよって感じなんだけどねぇ…
まあ、先輩として立つ瀬が無いから、そろそろ負けてもらおうか!」

開始の合図と同時に距離を詰めて来る。
(てっきり、霧坂と同じようにアウトレンジからと思ったんだけどな…)

歳方はブースターの出力を最大値まで引き上げ守屋機に迫りながら、ハンドガンを発砲する。
二丁のハンドガンから吐き出された弾は守屋機に一発も被弾しない。
(当たらない?どうなっている?)

SCIの精密射撃能力は人間のそれを大きく上回っている。
なのにも関わらず、歳方機の射撃は出鱈目だ。避けるまでも無く当たらない。
(アレはそもそも狙っていないのか?厄介だな…)

こちらを狙っているのか狙っていないのか分からないが、モニタを最大望遠モードにしても見切るのは非常に困難だ。
ライフル程の攻撃力は無いが発射感覚が短い上に高速移動しながらの射撃の為、銃身が激しくぶれている。
これでは攻撃予測なんて出来やしない。
(霧坂みたいな丁寧な攻撃なら見切るのも簡単なんだろうけど、こういった雑な攻撃は見切れないみたいだねぇ。)
漸く、守屋が苦戦らしい苦戦…と言うか随分と戸惑っているようだ。助言くらいはするべきだろうか?

「守屋~。SCIの攻撃は確かに正確だろうけど、常に正確無比で合理的な攻撃をすると思ったら大間違いだよ。
全部が全部、合理的な攻撃なら霧坂の攻撃みたいに読み易い攻撃になっちゃうだろ?」

アドバイスの言葉を銃弾と一緒にプレゼント。牽制弾を数発。そして、本命弾を四発。
非有効射程距離からの、ただ当てるだけの銃弾。有効なダメージでは無いが四肢を捉えていた。
(やろうと思えば、いつでもやれる…ってわけか。)

距離の詰め合いもそろそろ終わりだ。ハンドガンの有効射程距離になると同時に歳方機は発砲を止める。
それどころか、ブースターの勢いを緩めない。
(すれ違い様に背中に攻撃って所か…?正面からぶつかって膝蹴りで打ち落としてやる!)

全身のバネを使って跳躍し歳方機に正面から立ち向かう。
歳方は思わず口を吊り上げ、ニヤリと笑った。
(面白い子だ。MCIでSCIを相手に真正面から空中戦を挑んで来るだなんてね。)

歳方機は空中で一回転、膝蹴りを避け守屋機の背中に二発銃弾を撃ち込む。

「今、撃たれた所にSCIのブースターがあるんだよ。普通なら墜落だねぇ。」
(さて、これは手強いな。いや…)

反転し、再びこちらに高速接近する歳方機に向き直り、跳躍する為、全身のバネを撓ませた。
(また膝蹴りかい?愚直だねぇ…付き合ってやるよ。)

機体を跳躍させ歳方機の両腕を広げ正面に立ちはだかる。勿論、膝蹴りなどするつもりは無い。
先程と同じく回転しつつ逃げようとする歳方機にしがみついた。

「これは…何なんだ?」
「合理的且つ、非合理的な攻撃ですかねぇ…多分。」
「いや、多分って…」

因みにリヴァイドには他のギアにしがみ付かれたまま、高度を維持出来る程のパワーは無い。
更に対戦開始から常時ブースターを最大出力で稼動させていた事もあり…
「嘘っ!?エネルギー切れ!?」

態々、ご丁寧に再現された重力に引き摺り落とされる。
一瞬の油断が敗北に繋がった。それも空中で飛びつかれ地面に引き摺り落とされるという
合理性以前に不条理極まりない攻撃。そもそも、あんな攻撃をする奴なんて見たことが無い。恐るべし素人。
しかし、負けは負けだ。それも一番、不恰好な負け方をしてしまった。
「り~ん~…わたしゃ、もーダメだ。仇を取ってくれ~。無理なら私より情けない負け方してくれ~!」

次の守屋の対戦相手として内田燐が守屋と向かい合っていた。
「同じマニューバを立て続けに二回も使うからだよ。それからエネルギーの無駄遣いが多すぎ。」

守屋と歳方の戦闘記録を流し見しながら、歳方にアドバイスを流す。

「と言うか、子供の頃から戦闘訓練受けてるんだから私達より身体の使い方が巧い事くらい少し考えたら分かるよね?」
「もう良いよ。それ以上言われたら立ち直れそうにない…」

仕方が無いなぁ…と、話を打ち切り、守屋にスナイパーライフルを突きつけた。
「また飛び道具…」

歳方と戦って嫌と言う程に思い知らされた。
(相手が潰す気で来たら、手の打ちようが無い。)

遮蔽物の無いバトルフィールドで真正面で向かい合っている。
スナイパーにとって最悪の条件だが、MCIにブースターもスラスターも無い。
走る以外に高速移動を行う手段を持ち合わせていない。
勿論、ブーストダッシュと比較にならない程遅い。

「弾数はかなり少ないけど、早いし当たると痛いから注意してね?」

内田はその場から動きもせずに守屋に狙いを付ける。
守屋はすぐ様、サブモニタを最大望遠モードに切替、銃向を確認し着弾位置を予測する。
(狙いは胸部装甲…一撃で決める気か。)

左腕を盾代わりに構える。どれ程の威力を持つか分からないが、左腕と引き換えに見切る腹積もりだ。
(また左腕…本当に癖なんだね。)

ナックルガードじゃなくて、素直にシールドを装備すれば良いのにと苦笑する。
アドバイスは後からでも出来る。今はやるべき事は守屋にギア戦の経験を積ませる事が最優先だ。
躊躇いも無くトリガーを引く。霧坂のライフルとは違いマズルフラッシュは無い。
突然、襲い掛かる衝撃に守屋は転倒する。幸運にも砲弾は左腕をもぎ取っただけで胸部装甲には届いていない。
(あ、そっか。SCIと違って中の人が驚けば、ギアも驚くんだね。一発目は命拾いしたけど、ニ発目はどうする?)

内田がライフルを構え直すと、守屋は慌てて立ち上がり右腕で胸部装甲を庇った。
あくまで正面から受け止め、攻撃を見切るつもりらしい。取り合えず攻撃力が高い事だけは理解したらしく
ギアのつま先を軽く浮かせ、素早く後ろに倒れ込む準備もしている。

「度胸…あるね…」
「割と臆病ですよ?弾速が全然分からない以上、闇雲に突っ込んでも勝ち目無いですからね。
両腕と引き換えに見極めさせてもらいますよ。足が使えれば攻撃は出来ますからね。」

勝負を投げたわけでは無さそうだ。本気で右腕を犠牲にして足技で倒すつもりらしい。
だったら、足を狙えば内田の勝ちは確実になるのだが…
(正面対決でそれは無粋だね。アリアちゃんも阿部君も、こういう気分で戦ったのかな?)

歳方と阿部が、守屋のやりたいように戦わせてやっていたのを思い出し納得した。
こうも馬鹿正直に正面から向かって来られるとアレコレ小細工するのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
一方、守屋は視覚では内田機の砲弾を見切れないと分かると、集音センサーの感度を上げ
発砲音で着弾のタイミングを計る為に聴覚に意識を集中させていた。
発砲音が鳴り響くと同時に後ろに倒れ込もうとするが、既に遅い。
砲弾はナックルガードを弾き飛ばし、右腕の装甲を削り取っていた。
格闘戦には使えないが、まだ盾代わりにはなる。
再び、立ち上がり右腕を構える。

(発砲音が聞こえてからじゃ遅い。)

発砲音と同時に倒れ込む。受身を取るよりも早く右腕が宙を舞っていた。
右腕は耐え切れなかったが、受けた衝撃その物はかなり軽減されていた。

「距離を離せば大分、安全になると思うよ?」
「内田先輩こそ…足を狙えば、一発でケリが付きますよ?」

守屋機があまりにも凄惨な姿に変わり果ててしまった為、思わず口出しをしてしまったが
無粋な事を言ってしまったと後悔する。改めて、これはそういう勝負なのだと思い知らされる。

内田がトリガーを引いたと同時に守屋が右肩を前にして前に踏み込んだ。
前のめりに崩れ落ちる守屋機を内田は固唾を飲んで見守った。

「これで…防ぐ物が一個も無くなってしまいました。」

思いの他、余裕そうな口ぶりで立ち上がる守屋機を見て何故か、安堵した。

「こっちも残り一発。次が最後だよ。」

3回攻撃を受けて理解した。SCI機のようにブースターやスラスターがあるならいざ知らず
この距離ではMCI機にスナイパーライフルの一撃を代償無しに無力化する手段は無い。
だからこそ、4発目の攻撃を右上腕部に被弾させ弾を消耗させる事に集中した。
どうせ避けられないのなら後ろに下がるよりも前に進む方が良い。それに内田から嬉しい報告も聞けた。
残りの弾数は一発。ならば、取るべき選択はこれだ。内田機を目指して真っ直ぐに駆ける。

(本気?自暴自棄になっているわけでは無いみたいだけど…こっちも追い詰められているのは同じだしね。)

気を取り直し、トリガーを引く。音に合わせて守屋機が身を沈め…地に伏した。

「直撃…守屋君、私の勝ちだね。」

少し不満だった。馬鹿正直に正面から突っ込んで来るくらいだから、
想像だに出来ないような奇策があるとか、こちらの攻撃を完全に見切ったのではと
変な話だが、自分を倒す下準備が整ったのではと期待していたからだ。

「いてて…先輩、ちょっとばかり気が早いですよ?」

戦闘情報を確認すると確かに守屋機のコンディションは最悪だが、撃破扱いにはなっていない。

「そっか、最後の最後でちゃんと回避出来たんだね!」
「いや…その…そうじゃなくてですね…」

やけに守屋の歯切れが悪い。

「どうしたの?」
「えーと、身を沈めてやり過ごそうとしたのですが…両腕が無いせいでバランスが取れず先輩が撃つよりも早く…こう、ガッシャーンと…」

運も実力の内とは言うが内田は開いた口が塞がらなかった。
間抜けな幕切れではあったが主兵装を無力化された事は事実だ。
「もう少し良いところまで行けると思ったんだけどなぁ…」

特に悔しそうには全く見えない。寧ろ、喜色混じりのぼやき声がスピーカー越しに鳴り響いた。
「ほんの少しでも行かせてしまうと負けかねないので…すいません。」

確かに守屋機は両腕が欠落し、度重なる転倒で薄汚れていた。
それに引換え、内田機はスナイパーライフルの弾が尽きただけで機体その物の
コンディションは良好…開始位置からライフルを5発撃っただけで終わったのだから当然だ。

「大丈夫。良く頑張ったね!」

守屋が正式に入部する前、内田は守屋について噂を鵜呑みにしていたせいで
否定的な物の見方をしていたが、行動を共にするようになり一方的な確執は既に無くなっている。
当然だが、守屋は横暴な人間では無いし、無闇に暴力を振るうような人間でも無い。
力を誇示する事も無く、ただ一心で部活に精を出す普通の男子生徒と何ら違いは無い。
何よりも内田は歳方に、守屋は霧坂に事ある毎に振り回され厄介事を押し付けられる。
そんな受難体質という共通点もあってか二人の関係は他の部員と同様良好である。

さて、様々な思惑がありもしたが2年生レギュラー陣全員に勝利するという快挙を成し遂げしてしまった。
残るは3年生レギュラー。副部長、三笠慶。そして、部長、加賀谷望との対戦である。
この二人の戦いは入部前に一度見ている。自分の心をいとも容易く奪い取るような戦いをした二人と戦う事が出来る。
正直、勝算など全く無い。更に加賀谷に至っては三笠を一撃で落としている。
だが、守屋は意気軒昂。身近な所に自分を圧倒的な実力差で叩き潰してくれるような相手が居る方が強くなり甲斐があると言うものだ。

「此処まで負け知らずか。素質はあると思っていたが、大したもんだ。」

三笠は賛辞の言葉と共にハルバードを構え、背面ブースターを起動させる。
「だけど、此処まで来たら負けられないよな?」

まるで自分を倒してくれる事を期待するような口振りだと感じた。
実際、三笠は守屋の勝利を期待している。勿論、手加減は一切しないし自分も負けるつもりは無い。
だが、SCIとMCIが格闘戦で戦った場合、SCIの優位は機械制御された正確無比な攻撃のみである。
機体の仕様上、守屋が勝って当然の戦いである。

(MCI部門の個人戦…出場する以上、俺程度に負けるなよ…俺より強い奴なんてゴロゴロしているんだからな)

昨日今日、初めてギアを触ったような1年をレギュラーにするくらいだ。守屋にかける期待は非常に大きい。

(とは言え…負けるのも癪なんだよなぁ…)

コンソールパネルを手馴れた手つきで操作し、背中のランスを消失させる。

(負けた時の言い訳用にな…)

「それじゃ、全員に勝つつもりで行きますよ!」

「上等だッ!!」

三笠機はブースターの出力を最大値まで引き上げ、守屋機目掛けて突撃。最初の一撃は小細工無しの渾身の一撃だ。
守屋もそれを察し、カウンター狙いで拳を構えた。力任せに攻めてくれるのなら、機体性能の差でまだ勝機がある。

(カウンターで頭部を潰す。巧くいけば一撃で三笠先輩を倒せる!)

それで、倒せるような相手では無い。避けようともせずに、この場に留まっているのだ。カウンター狙いな事くらい見抜かれて当然だ。
カウンターは十中八九不発に終わる。問題は不発に終わった後、三笠は如何動く?
自分は如何動けば良い?カウンターを諦めて、接触される直前に跳躍し背後を取る?
論外だ。相手は性能差の不利を承知した上に力攻めを選んだというのに自分は逃げに転じるだと?
それは逃げと変わらない。攻撃だろうが回避だろうが、真正面からだ。改めて、拳を握り直し、迫り来る三笠機を睨み付けた。

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