創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

おまけ 「起きたらとんでもない事になってた」

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 『Diver's shell
 おまけ 「起きたらとんでもない事になってた」


 朝起きたら。
 とんでもないことになってた。

 「…………………バカな」

 ユトはそう呟くと、洗面所の鏡の前で戦慄して滝のように汗を流し始めた。
 朝起きた時に感じた違和感を詮索することなくとりあえず洗面所で顔を洗ったのだ。そこで、とんでもない現象というか、物体というか、マテリアというか、肉体ィというか、兎に角目撃してしまった。みちゃった。
 まず、顔だ。
 ユトの記憶の中の顔は余り男っぽくない。自覚している。だが今鏡に映っているのは、女性なのだ。童顔に、眠そうながら優しげな目つき。唇は血色がよくふにふにとしていそうで形がいい。
 髪も違う。
 金髪を適当な長さに切っていたはずが、いつの間にか肩まで伸びて優雅な光を放っている。猫のように細く柔らかい。
 体も違った。
 多めに見積もっても平均的な男性の体はそこに無く、つつましいながらパジャマの上から隆起する柔らかそうな曲線が胸部にあって、腰に触れてみると見事なまでな曲線があった。
 洗面所で声を出したときに気が付いたこともある。声だ。
 一般的な男性の声が上流階級な女性の声に変わっていたのだ。喉仏に手を置く。アダムのリンゴはいずこ?

 「あー、あー、あー………マイクのテストちゅー」

 マイクなんて無いのは知ってる。
 完全十全100%混乱中の頭脳ではこうするしかないのだ。
 すると、まてよ。
 ユトの頭に疑問が一つ浮かび上がる。
 『ついてるのか? ついてないのか』
 トイレに行くしかないのか。いや、時間はまだ早い。慌てるような時間じゃない。でも、確認しないと始まらないではないか。
 うんっ、と頷くと、トイレに直行してドアを閉めた後に鍵を閉める。
 数十秒後。げっそりとして下腹部を撫でながらトイレから出てきたユトの姿があった。
 叫びはしなかったが心の中で絶叫した。
 ついてないな、俺、と。





 「め、メリッサ?」
 「おう?」

 朝飯。
 当番をカレンダーで確認して見たところユトの当番だったため、服を着替えて(目隠し状態で)いつもどおり(色々間違っているが)朝食を作っていると、メリッサらしき男性がリビングに入ってきた。
 不覚にもいい男だった。
 茶色と黒の中間の髪をバラバラに切って首筋に流した細身のイケメン。
 ふぁぁと欠伸をしながら席に座って、テレビ観賞を始める。テレビがつくまでの間でユトの方に顔を向けると、指先を上げて尋ねてきた。

 「手助けは必要かい?」
 「いらないっ、うん、いらないんだ!」
 「そうか」

 普段から癖のある口調だったり、男っぽい口調ではなかったことは幸いだった。地のしゃべり方でも通用する。ただメリッサが砕けた男口調だと非常に話しにくい。
 パンを焼いて、目玉焼きを作る。
 ユトはちらりと後ろを向いてメリッサを見てみた。何度見てもいい男だった。男のユトが見てもいい男だった。
 朝の清清しい空気が白々しい。
 どうしてこうなった。
 どうしてこうなった♪

 「ねぇ……め、メリッサ」
 「なんだい」
 「男………なんでもない」
 「変なユトだなぁ」

 ニコッ。
 メリッサは女なら一撃で落としそうな笑みで挙動不審なユトを笑う。
 ユトは心の中で神様をサンドバックしながら天を仰いだ。

 「もうやだこんなの」

 平常心を保てたのは性分としか言いようが無い。
 冷静すぎるのは混乱の証。





 ユトは走っていた。
 部屋で自分の服を探して見たところ、女物から男物まで一通り入っていた。女の俺って偉いとか呟きながら男物で身を固め、普通のブラジャー(際どいのもあった)ではなくてスポーツブラにパンツ(これだけはどうしようもなかったので泣く泣く)を着て、外出した。
 今日は遺跡調査の予定も無い。
 確かめたいことが幾つもあった。ユトは、まず最初に……と考えてどうしていいのか分からず走りまくっていた。
 自分とメリッサの性別が変わったということは他の人も同様なのでは。
 そう考えると混乱は強まる一方だ。
 海に面した公園へと向かっていって、階段を上がって、潮風を感じた途端に足を地面にとられて思いっきり転倒した。
 顔面から突貫する羽目になって痛みで悶絶して地面を転げまわる。朝から何をやっているのだ。

 「おはようございます。大丈夫ですか?」
 「ハハハ……これは傑作だなぁ」

 嗚呼。
 ………嗚呼ッ。
 頭の痛みを両手で押さえて堪え。何故か傷一つない眼鏡を拾い上げて装着し、視線を上げてみると、知っているような知らないような人物二人が見下ろしてきていた。
 黒髪の女性が手を伸ばしてきている。ユトは大人しく掴まって立ち上がった。

 「タナカ……さんとウィスティリアさん?」
 「当ったり前だろう、なぁタナカ」
 「他の人に見えるなら眼科と精神科をお勧めします」

 黒髪の女性――タナカ。
 鏡面に切れ込みを入れたように鋭い切れ長の二つの瞳。黒髪は腰まで伸びており、見ただけで艶やかで柔らかくいい匂いを感じ取れそうだ。服装はラフでありつつ清楚なワンピース。健康そうな二の腕が出ている。
 銀髪の青年――ウィスティリア。
 飄々として怪しげな笑みを浮かべた端整な顔立ち。長めの銀髪を三編みにして垂らし、引き締まった肉体を強調するように白のYシャツの胸元を開けている。悔しいがいい筋肉だった。
 誰も彼も性別が違うなんて。
 ユトは返事をするよりも早く、階段を一足で飛び越えて駆け出した。

 「まともなヒトはいないのかぁぁああああああ!!」

 冷静な頭が沸騰しそうだった。
 彼……ではなく彼女は、色々なところを駆けずり回った結果、『全員性別が違う』という悲しい結論を得た。
 そしてユトは最後の砦――オヤジさんの家へと行くことにした。
 オヤジさんではなくオバサンなのかと余計なことを考えたのは秘密だ。
 オヤジさんの家は元通りだった。だが油断は出来ない。人が違っている可能性が高い。古臭い家のガラス戸の前に立って中を覗き込み、眼鏡の位置を直しながら必死な様子をかもし出すように額を押し付ける。
 ガラス戸の隙間から埃と油の臭いが漂ってきた。

 「ユトか?」

 ギチギチギチ。
 首だけを回転させて後ろを向くと、ツナギのきょにゅーなお姉さんがいらっしゃった。
 なんできょにゅーなんですか。
 美しい髪の毛をゆったりと伸ばし、胸を見せ付けるように『オヤジさん』が立っている。
 富士山級とはなんたることか。たゆんたゆんとか聞こえてきたのは気のせいだ。

 「もういやあああっ」
 「あっ、おいどこに行くんだ」

 ダッシュ!!!
 街の外に向かって離陸せんとばかりに駆け出すッ!!
 息が切れるほど走った頃、気が付いた頃には涙目で町外れの廃工場の正面玄関の低い階段に座り込んでいた。
 神様、なんですかこれは。設定を間違えていませんか。性別のところを弄りましたな? 超高速で脳裏に文章の配列が浮かび上がった。天まで届け。
 その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「ユト………さんですか?」
 「エリアーヌ……!」

 眼を上に向けてみた。
 足、お腹、顔。あぁ、エリアーヌに変化は無かった。オレンジ色の古ぼけてダボダボなツナギに独特な帽子。片手に買い物袋。時間からして昼ごはん用か。
 ユトはエリアーヌの方に歩み寄ると、ぎゅっと抱きしめた。小柄な体のエリアーヌは、ユトが抱きしめるとびくっと震えたが、空いている片手で背中を撫でてくれる。

 「駄目ですよ―――ユトさん」
 「ぇ?」

 エリアーヌの様子が妙だ。
 猫なで声に近いざらつく声でユトの耳元で囁き、驚くほどの力で廃工場の奥に引きずり込んでいく。いつの間にか取り出したロープで両腕を縛り付けて、しかも数秒の間に首に縄がかかっている。
 工場の奥に引きずりこまれたユトは、突如突き飛ばされて尻餅をついてしまう。眼を開くと、両足が縛れていた。いつの間にと考えるが、エリアーヌを見て考えが吹き飛んだ。
 暗い工場に差し込む昼間の光を逆光に、ツナギの前を開けたエリアーヌが立っている。
 顔を赤くして、呼吸を荒くしながら歩み寄ってくる。
 意味が分からない。
 逃げようともがくが、綱がしっかりと結び付けられているので芋虫のように体を捩るしかない。腕と足に食い込んで皮膚が赤くなっただけだった。
 エリアーヌが迫ってくる。獣がするように手足で四つんばいで迫ってくる。あっという間に圧し掛かられ、組み伏せられ、耳元に口を寄せられてしまう。ぞくぞくとした感覚が背中を撫ぜた。
 ユトは、恐る恐る口を開いた。
 顔面蒼白になり、赤くなる。ユトの顔が信号機のように点滅しているようで。
 押し倒されて圧し掛かられている。ユトは、耳元をエリアーヌに舌でなぞられるのを感じ、声が出そうになるのをグッと堪えながら尋ねんと。やすりのようにザラつく舌は唾液で湿っていて。
 男のときよりも鋭く尖った皮膚から伝播したナニかがユトの両脚を蠢かせた。

 「エリアーヌって………っ…、……ぅ…男だよ……ね?」
 「女に決まってるじゃないですかー」

 また女か。
 しかも 女 に や ら れ る。
 ってか性格が違う。なんで変態になってるねん。
 エリアーヌはユトの胸へと指先を走らせ、





 「うおお尾おおおおおお御おおお雄おおおおおおおオオォぉ!?」

 そこで眼が覚めた。
 爆撃で実家が吹き飛んだのを目撃してしまった兵士のような声を上げ、エビフライになる前のエビのように跳ねてベットから転落してしまう。
 強か顔面を打ちつけたが、そんなことは些細なことだ。自分が男であることを確認するために素早く全身を触って見て嗅いで確認し、床の上でほっと溜息をつく。頭のてっぺんから足の裏まで男だった。
 エリアーヌに押し倒されるなんて。
 時計を見る。朝だった。
 もうあんなのはこりごりだな。ユトは脳内で呟きながら部屋を出て行った。

 続かない。


             【終】

 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー