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GEARS 第六話

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統合歴329年7月2日

八坂高校襲撃事件から一月が経ち、空き家になっていたMCI搭載機専用格納庫に
漸く、住人であるMCI搭載スポーツギア、アイリス・ジョーカーが定位置に仁王立ちしていた。

そして、鋼鉄の巨人の相棒を自称するアイリス・ジョーカーの専属パイロットである守屋一刀は
格納庫の地下にあるシミュレーターの中で上下左右に揺さぶられ、平衡感覚を失いかけていた。

「霧坂が男だったら間違いなく殴り飛ばしているな。」

理事長がほんの気紛れで作ったカタパルト射出用訓練プログラムで遊んでいたのだが
然るべき手順を踏めば、全く危険性の無い物だという事はよく分かった。そこまではまだ良い。

霧坂茜華のある一言が切欠で即席で用意したシミュレーションステージに挑戦したのだが、結果はこの様だ。
とは言え、一度はぶっつけ本番で成功しているのだから、このまま引き下がるのも癪に障る。

再び、建物に向かってバズーカを構えているギアを目掛けて、アイリス・ジョーカーを砲弾よろしく撃ち出す。

そう。八坂高校襲撃事件当時の再現である。大会の成績が良くなる事は全く無いだろうが、ギアによる襲撃事件が発生した場合
出鱈目な先制攻撃により大きなアドバンテージを得る事が出来る。何よりもカッコイイとは霧坂の弁。

二度も三度も、あんな事が起こってたまるかと思ったが、折角だからやってみようと思ったのが運の尽きだ。

成功率僅か2%という散々たる結果で、ただ失敗するだけならば兎も角、学校を巻き込んだり、機体をバラバラされたりと
死に直面するどころか、自分が新手の災いの種になるなどと目も当てられない失敗が続く。
今更ながら目隠しで綱渡りをしていた事を思い知り辟易するのでった。

「本当にあの時、上手くいって良かったな…一歩間違えれば文字通り大惨事じゃないか。」

「大丈夫!大丈夫!成功率が0%でも守屋君はヒーロー体質だから、ここ一番で上手くいくように出来ているんだよ!」

霧坂の大丈夫!は大抵、守屋にとって大丈夫だった例が無い。
結果的には大丈夫なのだが、認めてしまったら何かに負けた気がしてならない。
とは言え、そう辟易する事も無い。今日は待ちに待った他校との練習試合なのだから。
そして、遂に初のMCI搭載機同士の戦いである。ともなれば嫌でも気分が盛り上がるに決まっている。

「それで、練習試合って何処の高校が相手なんだ?」

「宋銭高校。ほら、5月に乱入して来た違法ギアもどきの。」

嫌でも盛り上がっていた気分が一気に盛り下がった。確実に一波乱ある気がしてならない。

「近隣で守屋君の相手を出来そうなMCIギアの選手って宋銭くらいしか居ないんだって」

自分より強い相手が宋銭にしか居ない。喜び半分、不満半分といったところだろうか。
元々の素質のお陰か守屋のレベルは留まる事を知らず右肩上がりで急上昇中だ。
とは言え、所詮はギア歴二ヶ月のド素人だ。自分が最弱だとしても当然だと思う。

それに自分より強い相手を目標に練習をする方が、見えない敵と戦うよりも上達が早い。
自分より強い相手と如何にして戦い、これを攻略するか考えるだけで武者震いするというものだ。
しかし、近隣で自分より強い相手が一校しか無いとは…これでは、戦い甲斐が無い。

「守屋。アイリス・ジョーカーの換装作業が完了したぞ。移動中に微調整を済ませておくようにな。」

各部員がシミュレーター訓練を行っている中、部長である加賀谷望は各ギアのハードウェア変更の指揮を執っていた。
例えばアイリス・ジョーカーの場合、襲撃事件の際に破壊されたナックルシールドをより厚みのある物に変更し
肘の部分には直径の大きなニードルを、拳の部分には4本のスパイクを内田燐の提案によって装備されている。
右腕には折畳式のブレード内臓シールド、脚部には緩衝材の追加ユニットを装備し
より破壊力の高い脚技や跳躍の連続使用を可能にした。
機体の重量は跳ね上がるが、アイリス・ジョーカーの出力自体が高くそれ程のハンデになるわけでも無く
攻撃力、防御力、継戦能力の向上と事実上のパワーアップだ。そして、初のMCIギア戦だというのにも関わらず
対戦相手が以前の乱入騒動を巻き起こした生徒が通う学校という事知ってか守屋の表情は精彩に欠ける。

「仕方の無い奴だ…今回の対戦相手は紅眼だぞ?それでも、まだ不満か?」

紅眼…統合歴200年代の戦時中に突如として出現した戦闘能力に特化した異能力者である。
普段は薄紅色の瞳をしているのだが、ある条件下で瞳が燃え盛る炎のような真紅に染まる事から紅眼と呼ばれるようになった。

統合歴329年現在、地球から戦争が根絶されて50年余。
未だに紅眼を持つ子供が産まれているが、既に異能の力は消え失せており飾り以上の意味は成していない。
他人からすれば恰好良く見えるか、ただ不気味で気持ちが悪いだけのどちらか程度だ。

とは言え、先天的に高い身体能力と素質を持つ者が多く
ギアに限らず様々なスポーツで常人離れした活躍を見せる選手も少なくない。

「更に去年の州大会では初出場にも関わらず、フリースタイルで準優勝。
当然、オールスターチームの一員として全国大会にも出場している。」

オールスターチームの枠は一つの州に十人までが選ばれる。
要するに、これから守屋が戦う相手は八坂州で十指に入る程の猛者で
単純な実力だけならば加賀谷にも勝るとも劣らない相手だという事だ。

「それは凄い…今の俺には如何足掻いても勝ち目はありませんね。」

口では、そう言うものの先程とは打って変わって目を爛々と輝かせ実に楽しげな表情をしている。
不貞腐れている場合では無い。自分より少しばかり強い程度の相手が一人しかいないと思いきや
自分が逆立ちしても勝てない程の相手をぶつけて来るとは。

勝つにせよ、負けるにせよ得る物は非常に大きい。
それは父親である守屋剣、部長の加賀谷望と戦った結果が実証している。
尤も、ただで負けてやるつもりは無い。八坂州で十指に入る程のMCI乗りが相手なのだ。
技術を徹底的に盗み自分の糧とし、大幅なレベルアップに繋げ場合によっては勝利する。

加賀谷はむらっ気の激しい奴だと呆れながら、愛機の作業に取り掛かる。

「守屋のデビュー戦の相手に全国クラスはやりすぎやしないか?」

加賀谷がスカーレットのコクピットハッチを閉じると、それを待っていたかのように
三笠の専属ギア、クランから通信が入る。咎めるような物言いだが口調自体は随分と楽しげだ。

「手頃な相手が居ないからな。全国クラスに頼らざるを得まい?」

キャリアは僅か二ヶ月、実機の搭乗回数僅か二回。更にMCI同士の交戦回数は無し。
今更、改めるまでも無いが明らかにド素人なのは言うまでも無い。

だが、周辺の学校で守屋の相手を満足にこなせる選手がどれだけ居るのだろうか?
加賀谷自身、これは流石にやり過ぎでは無いだろうかと考えもした。

しかし、守屋もまた紅眼に勝るとも劣らない才覚の持ち主でもある。
特に戦闘中における上達速度は異常と言っても良い。

実力差のある相手と戦わせると、特にその傾向が強く現れる。

だからこそだ。全国クラスの実力を持つ紅眼…矢神玲(ヤガミ レイ)と一戦交えさせる。
加賀谷の目算では今回の練習試合を通じて、守屋のギア戦闘能力の下地が完成する。

(今日は7月2日か…ギリギリだが、守屋のレベルアップ。何とか間に合ったな…)

八坂高校対、宋銭高校の練習試合。初戦はMCI搭載機による個人戦で口火を切った。

(目が紅なら、機体も紅ってか?洒落が効き過ぎているんじゃないのか?)

守屋のアイリス・ジョーカーと向かう合う宋銭高校の紅いギアを見て肩を竦める。

リッチフィルド重工製MCI搭載スポーツギア、リヴァーツ。
アイリスのような仕様変更機や再開発機とは異なり、MCI搭載機である事を前提として開発されたギアである。

瞬発力、出力に優れ剣戟戦闘に特化しているなどのよくある特徴を持つが
最大の特徴は胴体部分の間接パーツが通常のスポーツギアの二倍もある事だろう。

MCI搭載機は搭乗者の動きをトレースし、機体の動作に反映させる仕組みだが
人間の各間接の稼動部分と稼動範囲は、ギアの各パーツの稼動部分と稼動範囲は全く異なる。
ギアの稼動部分、稼動範囲は人間のそれと比べると恐ろしく少なく狭い。

だから、厳密には人間の動きをトレースし、ギアに出来る動きは正確に再現するが
出来ない動きの場合は、それらしい動き、似たような動きをするだけに留まっている。

以前に守屋がシミュレーターで加賀谷と戦った時の事を例にすると
守屋自身は一発一発が一撃必殺の威力と、目にも止まらぬ早さを持つ連撃を放ったが
ただの一発すら加賀谷に当てる事が出来なかった。

生身で打てば凶器と見紛う程の完成された拳だが、旧型のリヴァイド・ジョーカーに
それを完全再現しろと要求したとしても、それは無理な相談という奴で
腕の力だけ、脚の力だけで打つ単調且つ、稚拙な打撃にしかならない。
最新型のアイリス・ジョーカーとて、幾らかマシになる程度でしか無い。

それが並程度の相手ならばいざ知らず、加賀屋のような全国クラスの実力者ともなると
失笑モノの攻撃にしかならず、目視してからでも容易に回避が出来たというわけだ。

しかし、リヴァーツは背骨や肩甲骨を再現し身体のバネを使った動作や攻撃が可能となっており
搭乗者が本当にやりたかった動作を従来のギアとは一線を画す程の高いレベルで再現出来るのだ。

だが、その代償として、機体その物の堅牢さは極めて低く、メンテナンス性も非常に劣悪で
まだまだ試作段階の域を超える事の出来ず、長短のハッキリと分かれる未完成のギアでもある。

とは言え、難敵であるという事は覆しようの無い事実だ。

それに、これ等の特徴や其々のギアの長短など守屋が知る由も無く、腰に携えられた大刀に目を奪われていた。

大刀は身幅広く、重ねも厚く、刃肉は豊かに付き、切っ先は長く伸び、反りも深い。
所謂、斬馬刀という奴である。何の意匠も施されていない、観賞価値の低い大刀に見えるが…

(紅の装甲に無骨な白刃…正に威風堂々って奴だな…)

「以前は深くを取ったが、今回は対等!いや、俺の方が断然上だ!
今度はお前が地べたを這い蹲る番だ!覚悟しやがれ!!」

ほんの一瞬前まで恐ろしく巨大で強大に見えたリヴァーツが急に馬鹿っぽく見えるのだから、不思議なものだ。

「お前…以前に八坂に乱入して来た奴だな?矢神って選手は如何した?」

リヴァーツから通信を送ってきた対戦相手は以前、八坂高校に乱入した犯人であった。
顔は覚えていないし、名前も知らないが、その世紀末なモヒカンヘッドは記憶に残っている。

そして、守屋は間違いなくこの男は矢神玲である筈が無いと確信を持っていた。
何せ守屋が初めてギアに乗って戦った相手でただの一撃の蹴りで沈むような雑魚だ。
あの程度の実力で八坂州十指に数えられるなどとあってはならない事だ。

「矢神ィ?矢神がお前みてーな雑魚を相手にするとでも思ってんのか?相手にしてらんねーってよぉ!」

「古坂の野郎…何をある事、無い事吹き込んでいやがる…ッ!」

守屋の確信は当たっている。古坂正樹(コサカ マサキ)世紀末の香りがするモヒカンヘッドの正式名称である。
そして、管制塔から古坂の罵倒に憤慨するこの男こそが、紅眼の矢神玲その人であった。

本来ならば八坂高校の要望に従い、この矢神が守屋の対戦相手を勤める筈だったのだが
古坂は守屋がアイリス・ジョーカーの専属パイロットと知ると対戦を強く希望したのだ。

不真面目で単純で短絡でトラブルメーカー。所謂、馬鹿の古坂が熱意を持つのは珍しい。
守屋の実力を知らない宋銭高校のギア部員達は、だったら古坂に任せてみようかと思い至ったのである。
実力は中途半端でどうしようもないがMCIギア、SCIギアの何れもこなす事が出来る貴重な人材だ。
今回の対戦を機に真面目に部活に取り組んでくれるのならば、それも良しと思っていたのだが…

「ど、どうしよう。矢神!古坂のせいで宋銭ギア部の印象が…」

「ま…こうなってしまった以上は仕方がありませんよ。
前も笑って許してくれた事だし、今回もそれに期待しましょうや。」

ただ三年生というだけの理由で大した実力も無ければ、周囲を引っ張る力も無い。
名前もよく覚えていない部長がオロオロしているが、いつもの事だ。放っておけば良い。

(守屋一刀とか言ったっけか?確か、あの守屋剣の一人息子なんだよな…
だったら、古坂如きに負けるって事は無いだろうが…)

矢神からすれば、古坂の実力など何をやらせても中途半端にこなせる程度の器用貧乏でしか無い。
真面目に鍛錬を積めば高レベルのオールラウンダーとして活躍の場を選ばないエースになれるのだろうが
見ての通りの性格だ。まともに練習をする筈も無く、守屋に一撃で撃破された時から実力の向上は全くと言って良い程無い。

確かに前回の戦闘に比べたら、機体の性能差は殆ど無いと言っても良いだろう。
だが、守屋の実力は二ヶ月前と比較するのも馬鹿らしくなる程、跳ね上がっている。

「やれやれ…矢神サンとやれるのを期待していたってのに、とんだ茶番だな。」

「なんだ?八坂のMCIは俺との対戦がお望みだったのか…ワリィ事をしてしまったな…」

あからさまにやる気の無い守屋のぼやきに矢神は頭を掻きながら苦笑した。

しかし、守屋の嘆きも尤もだった。八坂州でも十本の指に数えられ、加賀谷に匹敵する程の実力を持つ相手。
そして、まだ見ぬ未知のMCI戦。嫌でも血は滾り、闘志は燃え盛る。にも関わらず、蓋を開けてみれば、このザマである。

ギアの性能差が埋まった程度で本気で勝ちを確信するような愚鈍な男を相手に戦って何を得ようと言うのだろうか?

「さっさと来い。お前を叩き潰して、帰って不貞寝だ。」

守屋は如何でも良い事のように言い放ち、適当に拳を構える。重心も適当。要するに投げやりになっている。

「ええい…守屋め。俺達は喧嘩をしに来たんじゃないんだぞ…」

見るからにやる気の無い守屋の姿と、暴言に加賀谷は、ぼやき嘆いた。
確かに気持ちは良く分かる。この事態は加賀谷の描いた未来には存在しない出来事だ。
あの程度の相手では守屋にとって何の益にもならず態々、宋銭高校に連れて来た意味が無くなる。

敵陣のど真中では口を大にして言う事は出来ないが宋銭高校など実質、矢神玲の功績だけで成り立つ砂上の楼閣に過ぎない。
SCIギアの団体戦に至っては得る物など精々、霧坂に実機での試合経験を積ませる事が出来る程度だろう。

とは言え、これ以上、時間を無駄にするわけにもいかない。霧坂に自分の愛機であるスカーレットを任せ
内田にチームの指揮を命じ、三笠には試合中は一切、口出しをしないように言い含め事の成り行きを見守る事にした。
試合開始の合図と同時にリヴァーツが跳躍。大きく踏み込み大刀の斬撃を浴びせようとしてくるが踏み込みが浅い。
脚部から気化した緩衝材が噴出しすらしない。リヴァーツの性能を全く引き出せていないのが守屋の目で見てもよく分かった。

そして、加賀谷に鍛えられ、それなりに対人戦を経験した今だからこそ分かる。

(コイツ…下手だな。)

今までに戦って来た相手の中で一番弱いと言っても差し支え無い。

大刀を野球のバットのように両手を引っ付けて持ち、手首には全く力が入っておらず斬撃の軌道も歪みきっている。
一撃必殺の剛撃を、何発も叩き込めるだけの性能を持つのにも関わらず繰り出される斬撃は稚拙その物だ。

剣戟戦闘特化型の超高性能ギアでも搭乗者がこれでは何の意味も無い。
攻撃が当たらない事に業を煮やした古坂が何か喚いているが、知った事じゃない。
続けるのも馬鹿馬鹿しいと右腕のシールドから擦過音を立てながらブレードを引き伸ばす。

ちょっとしたギミックなのだが、意外とカッコイイなと守屋の顔が綻び少しばかり機嫌が直る。
斬撃と言うにはおこがましい攻撃を半身引いて避け、ブレードを一閃。

鮮やかな弧を描き、ブレードをシールドの中に収め溜息一つ。

ただの一撃で首を刎ね飛ばされ地に屈するリヴァーツの姿を見れば溜息の一つも吐きたくなる。
こんな攻撃、八坂のレギュラー陣どころか霧坂にすら通用しない。
得る物などある筈が無く、シールド内臓ブレードのギミックと切れ味が気に入った程度の感想しか無い。

次のSCI機の団体戦の為に機体を下げようと踵を返すと視界の隅にリヴァーツが
システムを再起動し立ち上がろうとする姿が一瞬目に映るが最早、何の興味も無い相手だ。

「やっぱり、中身がアレじゃあね…」

MCIギアの観戦が好きな霧坂にとっても下らない戦いだと感じた。
粗雑な攻撃に適当な回避運動。投げやりな攻撃。これで一体、何を楽しめと言うのか。

八坂高校の生徒だけに限らず、矢神も古坂に対して何の感情を持ち合わせていない。
ただボンヤリとアイリス・ジョーカーを眺め、何故、八坂が自分との対戦を希望していたのかを理解する。

(素人にしちゃ動きが良すぎる。アレだけの才覚があるなら俺が選ばれるのも道理ってわけだ。)

ただでさえ、八坂には借りがあるというのに古坂如きをぶつけてしまったのは不義理にも程がある。
頭部以外は無傷その物だ。SCIの団体戦中に急ピッチで修理させて、守屋と対戦すべきか。

宋銭高校のギアスタジアムで様々な思惑が錯綜し、誰もが思考の中から古坂の存在を追い出していた。
そもそも、思考の中に古坂を存在させる理由など何一つして無いのだから当然だ。
だからそこだ。再起動したリヴァーツの腕にスポーツギアの試合では使われる筈の無い物が
競技に使うのはご法度とされる重火器がアイリス・ジョーカーのコクピットを狙っている事を

何度も何度も、銃声が空に鳴り響くまで、狙われた当の本人でさえ気付かなかった。

「ハーッハッハッハッハッハ!!悪い!悪い!ついつい、手が滑ってしまってなァ!!」

コクピットブロックに何発も大口径の弾丸を撃ち込まれ、アイリス・ジョーカーはその場で崩れ落ちた。

「古坂ァッ!!!」

「ど、どうしよう!?」

古坂の凶行に流石の矢神も瞳を真紅に染め上げ激昂する。
我が愛機で醜態を晒し、更に醜態で重ね塗りする気かと。
狼狽する部長を捨て置き、作業用に控えさせていた、ナイト・ジョーカーを起動させる。
アイリス・ジョーカーの胸部装甲から白煙が立ち上るが、絶対安全を謳うだけの事はある。
実際にはコクピットを激しく揺さぶられ一瞬だけ、気を持っていかれただけに過ぎない。

(霧坂のやる事が俺の役に立ったのって始めてなんじゃないのか?)

カタパルト射出訓練で何度も失敗したせいで衝撃耐性が付いたのだろうか。
毎日のように激しく揺さぶられているのだから、当然と言えば当然なのだが…
何はともあれ、この借りは今すぐ返さなくてはなるまい。

複雑な気分で霧坂に感謝しつつ、アイリス・ジョーカーを立ち上げ、リヴァーツを睥睨する。

「コ、コクピットに直撃させた筈だぞ!?」

胸部装甲を歪に歪ませ、白煙を吹くアイリス・ジョーカーを見て古坂は狼狽する。
競技用では無く戦闘用と判断を下され、スポーツギア界から追放されたリニアガンの直撃を何発も受けたのに何故立てるのだと。
現にアイリス・ジョーカーの胸部装甲は既に装甲としての体を成していない。
昏倒して当然の損傷だ。いや、昏倒していなければおかしいのだ。なのに何故、当たり前にように立っている。

だが、古坂の狼狽など知った事じゃない。

「お前のお陰で目が覚めた。覚悟は良いな?」

リヴァーツの腕を掴み、足払いをかけ機体を浮かせ、アイリス・ジョーカーの背に乗せ掴んだ腕を地面に向けて引く。
背負い投げの要領で投げ飛ばされ、背中を激しく叩きつけられるが受身を取るだけの技量が古坂にある筈も無い。
全身でダメージを受け、人間で言う背骨に相当するパーツの半数が破砕され自立する事も出来ない。

「今度こそ動けないな?ならトドメだ。」

再び、シールドからブレードを伸ばし腕を振り上げ、コクピット目掛けて突き出そうとするが
ナイト・ジョーカーの腕が絡み付き腕の関節部分を固定され、攻撃を阻止される。

「そこまでだ。俺の出番を奪うのも、古坂を殺すのも一向に構わんのだが
愛機だけは勘弁してやってもらえんかね?見た目と違って繊細な機体なんだよ。」

リヴァーツを愛機と呼び、性能差の著しいギアで守屋に接近を気付かせずに攻撃を阻止したパイロット。
加賀谷望以外で、そんな芸当をやってのけるパイロットなど守屋は一人しか知らない。

「アンタが矢神玲サンか?」

「ああ。取り合えず、剣を収めてもらえると助かるんだがな?
これ以上やられると、お前との対戦が出来なくなりかねないからな。」

最後まで聞く必要も無い。矢神と戦えなくなるのは困る。
それに性能差のあるナイト・ジョーカーでもこの様だ。
ならば、本来の乗機であるリヴァーツに乗ったら如何なるのか?
これが全国クラスの実力なのかと嫌でも思い知らされる。

(逆立ちしても勝てないと理解していたつもりだったんだがな…)

勝つ為の糸口が全く見えて来ないのだ。まるで加賀谷と対峙しているような気分になる。
だが、勝ち目が全く見えないからこそ、挑み撃破したいという欲求が沸き立つというものだ。

ブレードをシールドの中に収納し、リヴァーツから視線を外し、矢神もアイリス・ジョーカーに絡ませていた腕を外す。

「よし。良い子だ。部長、こっちは片付いた。古坂をリヴァーツから引っ張り出してくれ。
これから古坂を半殺しにするが、お前も混ざるか?」

最早、古坂如きに興味は無い。其方で好きにしてくれと肩を竦めた。
これ以上、奴に振り回されるのはゴメンだ。
統合歴329年7月3日

個人戦、団体戦共に八坂の勝利で練習試合は締め括られたものの後味の悪い結果になってしまった。

「宋銭高校が侘びを入れに来てな。守屋と対戦した奴はギア部を退部になったそうだ。」

「でもって、無期停学なんだってさ。」

加賀谷の後に霧坂が続けて口を開く。当然と言えば当然の処分だと感じた。
だが、処分が遅すぎる。もっと早くに始末しておいてくれれば、お互いに嫌な思いをせずに済んだろうに。

「勿論、守屋の匙加減一つで協会に訴える事も出来るがどうする?」

戦闘用兵装の使用禁止、兵役3年以上の操縦兵の参加禁止、コクピット部へ故意の攻撃禁止
法規定を越える損傷を負ったギアの使用禁止、認定整備師より認可の無いギアの使用禁止

悪質な禁止行為があった場合、出身教育機関、出身企業から
3年間の大会出場禁止措置、本人には3年間の活動禁止処分を下される。

まだ矢神玲と一度も戦っていないというのに、そんな事態になってもらっても困る。
第一、守屋は宋銭高校が憎いのでは無く、古坂正樹が鬱陶しいと思っているだけだ。
今後も此処一番という所で邪魔をされてはたまったものでは無いが、奴が消えたのならば何の憂いも無い。
ただでさえ校内の人間との溝が深いというのに、校外の人間とも溝を深くするような真似はしたくない。

「何と言うか…拍子抜けするな。骨の一本や二本は覚悟してたんだけどな。」

他校の制服を来た男子生徒が口を開く。青みがかった黒髪に薄紅色の瞳。
昨日の今日で八坂高校を訪れる紅眼なんて一人しか居ない。

「何故、矢神サンが八坂に?」

「本来なら古坂を侘びを入れさせるのが筋なんだがな。今、外に出られる状態じゃなくってな。」

これから古坂を半殺しにするが、お前も混ざるか?
先日、ギア越しに声をかけられた事を思い出した。
文字通り再起不能にされたのだろう。自業自得だ。馬鹿者め。

「それにだ。俺の代わりに古坂を出す事を承諾した俺にも責任が無いわけじゃないからな。ブン殴られに来たってわけさ。」

態々、律儀な相手だと苦笑する。

「だったら、直接殴り合うよりもアレの相手をしてくれた方が俺としては嬉しいんだけどな?」

守屋が指を差した先にはギアシミュレーターが並んでいる。

「ウチのルーキーは練習相手が居ないせいで伸び悩んでいる。MCI乗りの選手に手伝ってもらえると非常に助かる。」

加賀谷はしれっとした表情をしているが、暗に今すぐ守屋と戦えと言っている。
尤も、矢神自身も守屋に対して興味がある。

「侘びを入れると思って、トコトン付き合ってやるか!」

練習相手に不足しているのは、こちらも同じだからな。と心の中で付け加える。
優れた身体能力と素質を誇る二人だったが、両者には大きな違いがある。
守屋はSCIの選手とは言え、中堅から全国クラスの選手と日常的に練習が出来る。

だが、矢神はそうでは無い。先天的な素質だけならば守屋よりも上だろうが、その素質を磨く場が無い。
練習試合や大会で運良く実力者と出会えた時こそが、矢神にとって限られた練習時間になる。
もしも、守屋が矢神の練習相手に値する選手ならば、途轍もない強敵を生み出す事になりかねない。
加賀谷も、それは承知の上だ。寧ろ、それこそ加賀谷の望む事だ。
是まで幾度と無く、守屋の練習に付き合い。ただの一度も敗北する事無く守屋を退け続けているが
成長の著しい守屋を相手にMCIギアに併せて戦うのも、そろそろ厳しくなって来たところである。

SCI本来の動きで戦えば、守屋に後れを取る事無く卒業出来るだろうが、それでは守屋と戦う意味が無くなる。
矢張り、MCIギアの選手を鍛えるのであれば、MCIギアの選手をぶつけるのが正解だ。

そして、守屋は敵が強ければ強い程、喜び勇むような一歩違えれば変質的なマゾヒストになりかねないような男だ。
互いに競い合わせ延々と強くなれば良い。今でこそ敵味方に分かれているが、
全国大会になればこの男も味方になるのだから、強くなってもらうに越した事は無いのだ。

(問題は守屋が何処まで矢神に喰らいついていけるか…だな。)

シミュレーターが広い荒野を構築し、二体の巨人を産み落とす。

守屋の駆るリヴァイド・ジョーカーに対するは、矢神の駆るナイト・ジョーカーである。
どちらも徒手空拳主体の標準仕様だが、リヴァイドの調整は完全に守屋に適合しているのに対し
矢神のナイト・ジョーカーは出荷時と同じ初期設定のままで、自動調整すらされていない。

加賀谷は両機のステータスを確認し、矢神が手加減をしている事を知る。

(これで互角…なれば良いが。)

性能差のあるアイリス・ジョーカーですら勝ち目の無い相手だ。この程度でも五分というには怪しい。

試合開始のサイレンがシミュレーターステージに鳴り響く。
遂に守屋にとって初のMCI機同士の戦いが始まった。

地を蹴り、地面を這うようにしてナイト・ジョーカーに肉迫する。
牽制ついでにスポーツギアの弱点である頭部目掛けて拳を振り上げ、矢神も負けじと頭部目掛けて拳を振り落とす。
鋼と鋼がぶつかり合う轟音が仮想世界に鳴り響く、互いの拳は左腕の拳に阻止され激しい衝撃を生み
其々のギアの肩部から白煙が噴出す。態々ご丁寧に再現された気化した衝撃緩和剤である。
ステータスパネルがダメージレポートを更新するが、衝撃緩和剤の消費量以外は無視出来る損傷だ。
気にせず、次の攻撃に移るが矢神機の蹴りの方が早く、低姿勢に構えていた守屋機は回避に転じる。
しかし、回避運動を行うのも、ほんの僅か。
回避運動を取りつつ姿勢を整え左腕でフェイントを織り交ぜながら一撃必殺の鋼拳を叩き込む。

「くくっ…流石はMCI搭載機。そんなのアリかよ。」

守屋機の拳は矢神機の掌で受け止められる。左腕から白煙から噴出すと同時に守屋も吹き出した。
確かにSCIでは、こんな芸当は出来ないだろう。厳密には可能だが使用出来るモーションパターンに限りがあるのに
こんな曲芸じみたモーションパターンを組み込む奴など居やしない。
加賀谷と戦っている時に様々な手段で攻撃を無力化されて来たが、ギアで拳を受け止められたのは初めてだ。
守屋自身も、避ける、捌く、防ぐといった動きを取る事は多々あるが受け止めた事は無い。受け止めようと思った事すらない。
第一、こんなに容易く出来るものなのか?容易く受け止められて良いものなのか?そう思うと不思議と笑えてきた。

「はっ…それで笑う奴も如何かと思うがな?」

マニピュレーターにかなり大きなダメージを受ける上に衝撃緩和剤の消耗も激しい。
だから、こんな防ぎ方をする奴は居ない。居るとしたら、ただの馬鹿者だ。
こんな事やらない。やる筈が無い。やらなくて当然。殆どの選手の共通認識だ。
だが、実際に拳を受け止められた選手は如何思うか?大抵の場合、驚き慌てふためく。
そして、紅眼である矢神の前でそんな隙を見せたら如何なるか?一刀の下に叩き伏せられるだけだ。

弱い奴程、簡単に呆気に取られ大きな隙を見せる。
だが、守屋は如何だ?なんて馬鹿な真似をやってのけるんだと楽しそうに笑っている。
今、こうしている間にも守屋機の右腕は握り潰されようとしているのにも関わらずだ。

「確かに笑ってばかりもいられんか!」
掴まれた右の拳を更に突き入れ、機体が密着させる。
更に矢神機の腰を引き寄せ、膝蹴りを叩き込む

「お前はホモかッ!?」

ギア越しとは言え、野郎と抱き合うのは御免だと跳躍し守屋の抱擁から抜け出す。
ついでに掴んでいた右腕を捻じ切り、引き千切っていく。

「失礼な事を言うな!」

矢神のトンデモナイ言動と、珍しく声を荒げる守屋にギア部の面々は思わず苦笑する。
しかし、未調整の機体で手加減をされているとは言え、守屋も中々粘るなと加賀谷は関心する。
利き腕を持っていかれたのは痛いが、股関節に打撃を叩き込めたおかげで脚技と機動力を封じる事に成功した。
そして、衝撃緩和剤の使用量は守屋機よりも矢神機の方が圧倒的に上だ。現状では守屋の方が有利ではある。

守屋は再び距離を詰め脚部のトドメを刺すべく下段蹴りを叩き込む。
矢神は受けた蹴りの衝撃に逆らわず、機体を横に滑らせ、腕を守屋機の首に巻きつけ守屋機を軸に背後を取る。

「守屋。MCIギアってのは人間の動きをトレースしてくれるんだからよ。蹴る殴るだけじゃ勿体ないよな?」

全国クラスを相手にこの状況。最早、嫌な予感しかしない。

矢神機は守屋機の腰に腕を回し、後方に反り投げようとする。

「マ、マジかよッ!?」

狼狽する守屋、勝利を確信する矢神を余所に二人が意図しないタイミングで、ギアの装甲が破砕音を立てる。

「あ…」

矢神の口から間の抜けた声が漏れる。
甚大なダメージを負っていた股関節が限界を超え、ご臨終召されたのである。
矢神機のジャーマンスープレックスは不発に終わるどころか、守屋機の地面に挟まれ撃破扱いに。

「じ、自滅!?あ、阿呆かお前!!」

「いや、折角だからMCIの限界無き運動性能を見せてやろうと思ったんだがな?
機体の強度が足りなかったようだ。まあ、アレだ。お前が膝蹴りとかやるからいけないんだ。」

馬鹿だ。馬鹿がいる。古坂とはタイプが異なるが新手の馬鹿の御登場である。

「と言うわけで、コンティニューしても良いか?」

「あ…あ、当たり前だッ!!こんな勝ち方があってたまるかッ!!」

それからキリ良く十セットした所で下校時間を迎えた。
まともな勝ち方が出来なかったにせよ、矢神は守屋を気に入ったらしく練習相手になる事を快諾した。
矢神はMCIギアならではの多彩且つ、変則的な動きで守屋を翻弄する。
回数を重ねれば重ねる程、守屋はそれを吸収し自分の物にしていく。

後、数回も戦わせればシステムを調整せねば太刀打ち出来なくなるであろう。
加賀谷の思惑通り、たったの一日で全国クラスの選手との実力差を大きく埋める事に成功した。
実力差を大きく埋めたとは言え、まだまだ天と地の差ほどの開きがあるのも事実だが
今後は矢神からの協力を得る事も出来る。

(此処まで来たら、俺がアレコレと手を回す機会も減る…後は守屋次第か。)

霧坂と肩を並べて、あーでも無い、こーでも無いと言い合っている守屋の背中を見て
加賀谷は漸く、肩の荷が下りるのを感じていた。

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