「エピローグ」
ユトとメリッサの一日は、いつも変わらず早くから始まる。
一般の人よりも早く眼を覚まし、身支度をして、朝食を取って、ダイバーとしての仕事をする。
一連の事件の後も二人は大差無い生活をしていた。
ダイバーを止めるという選択肢も確かにあったが、二人で話し合って、『もう少し続ける』と結論を出した。遺跡に潜ったが為に命を落としたも同然なフローラのことも真面目に話した。だが、メリッサはこう言ったのだ。『お母さんなら止めろなんて言わない』、と。
ただ、ダイバーに必須な潜水機は遺跡に置いてきてしまったので、オヤジさんに頼んで新しいのを組み立てたりしているところだ。
一連の事件全ての概要を知ったオヤジは何も言わずに二人を抱きしめてくれた。結末がどうのより、過去がどうのより、二人が無事であることが大切だったのだから。ユトの家族や友人なども似たような反応だった。メリッサの友人などもそうだった。
ただ一人、メリッサの父親だけはイの一番に激怒した。姿見えぬ黒服の連中の行方。フローラが殺された理由が『金』の一文字だったのだから無理も無い。黒服の連中はタナカとウィスティリアが処分を下してくれたに違いないのだが、姿が見えない以上は確認のしようが無い。
φ37遺跡は、いつの間にか地図から消されていた。ダイバーの間では不穏な噂が飛び交っていて、兵器の実験がどうのこうの、とてつもないものを見つけたのだどうのこうのと言われているが、どれも正確な情報ではない。
それに、φ37遺跡の話題そのものが消えかけている。あの二人が暗躍しているのかもしれない。飄々とした態度で嘘の情報を喋るウィスティリアや、真面目な顔で相手を脅すタナカが簡単に想像できた。
潜水機の組み立て作業はほぼ終わっている。
ユトとメリッサの二人は、塗装に使う塗料の入ったドラム缶を潜水機の格納庫へと転がしながら押し込むと、汗を拭いながらリビングへと出てきた。
外の気温は高い。7月半ばともなれば湿気も上がり、気温は上限を知らぬように上昇し続ける。地球から持ち込んだセミがみんみんと騒々しい鳴き声を上げている。地面の少ない島だというのにしぶといことだ。
昼が近づき、更に気温は上がってくる。
ユトがどこかに電話をかけて、メリッサは冷たい合成イチゴジュースをリビングのソファで飲む。
一般の人よりも早く眼を覚まし、身支度をして、朝食を取って、ダイバーとしての仕事をする。
一連の事件の後も二人は大差無い生活をしていた。
ダイバーを止めるという選択肢も確かにあったが、二人で話し合って、『もう少し続ける』と結論を出した。遺跡に潜ったが為に命を落としたも同然なフローラのことも真面目に話した。だが、メリッサはこう言ったのだ。『お母さんなら止めろなんて言わない』、と。
ただ、ダイバーに必須な潜水機は遺跡に置いてきてしまったので、オヤジさんに頼んで新しいのを組み立てたりしているところだ。
一連の事件全ての概要を知ったオヤジは何も言わずに二人を抱きしめてくれた。結末がどうのより、過去がどうのより、二人が無事であることが大切だったのだから。ユトの家族や友人なども似たような反応だった。メリッサの友人などもそうだった。
ただ一人、メリッサの父親だけはイの一番に激怒した。姿見えぬ黒服の連中の行方。フローラが殺された理由が『金』の一文字だったのだから無理も無い。黒服の連中はタナカとウィスティリアが処分を下してくれたに違いないのだが、姿が見えない以上は確認のしようが無い。
φ37遺跡は、いつの間にか地図から消されていた。ダイバーの間では不穏な噂が飛び交っていて、兵器の実験がどうのこうの、とてつもないものを見つけたのだどうのこうのと言われているが、どれも正確な情報ではない。
それに、φ37遺跡の話題そのものが消えかけている。あの二人が暗躍しているのかもしれない。飄々とした態度で嘘の情報を喋るウィスティリアや、真面目な顔で相手を脅すタナカが簡単に想像できた。
潜水機の組み立て作業はほぼ終わっている。
ユトとメリッサの二人は、塗装に使う塗料の入ったドラム缶を潜水機の格納庫へと転がしながら押し込むと、汗を拭いながらリビングへと出てきた。
外の気温は高い。7月半ばともなれば湿気も上がり、気温は上限を知らぬように上昇し続ける。地球から持ち込んだセミがみんみんと騒々しい鳴き声を上げている。地面の少ない島だというのにしぶといことだ。
昼が近づき、更に気温は上がってくる。
ユトがどこかに電話をかけて、メリッサは冷たい合成イチゴジュースをリビングのソファで飲む。
「オヤジさん達、もうすぐ側まで来てるって」
「じゃ、私達も準備して家出てましょ」
「じゃ、私達も準備して家出てましょ」
電話を置いたユトは自分の部屋に戻って水着やら海で泳ぐ道具一式を揃えて袋に詰める。メリッサは、水着の他に日焼け止めオイルなども袋に詰めた。
メリッサの方は準備をしていたのでかなり早く玄関についていたが、準備を怠っていたユトはもたもたして中々出てこない。冷房の無い玄関は暑く、夏の服装のメリッサでも汗を滲ませてしまう。
と、外に人の気配がしてきた。大きい歩調一つ。小さな歩調一つ。二人の人物が家の前の小さな庭の門の前へと来ると、呼び鈴を押した。電子音が家中に響く。
一人はラフすぎる夏の格好のオヤジと、涼しげな格好のエリアーヌだった。オヤジはタオルで鉢巻を、エリアーヌは大き目の麦藁帽子を被っている。
メリッサの方は準備をしていたのでかなり早く玄関についていたが、準備を怠っていたユトはもたもたして中々出てこない。冷房の無い玄関は暑く、夏の服装のメリッサでも汗を滲ませてしまう。
と、外に人の気配がしてきた。大きい歩調一つ。小さな歩調一つ。二人の人物が家の前の小さな庭の門の前へと来ると、呼び鈴を押した。電子音が家中に響く。
一人はラフすぎる夏の格好のオヤジと、涼しげな格好のエリアーヌだった。オヤジはタオルで鉢巻を、エリアーヌは大き目の麦藁帽子を被っている。
「お二人さんー! 早く出てこねェと置いてくぞー!」
「置いてきます……よ~」
「置いてきます……よ~」
両手を合わせて作ったメガホンで大声を張り上げるオヤジ。エリアーヌも大声を出そうとしてメガホンを作ったが、途中で恥ずかしさがこみ上げてきて、メガホンを崩して蚊が鳴くような声で二人を呼ぶ。
オヤジとエリアーヌの後ろにはユトとメリッサの予定には無かった人物が居る。
黒のタンクトップにジーンズ。ダサイサングラスをこれでもかとデコレーションして装備し、テンガロンハットにビーチサンダル(金色)を穿いて、腰を突き出して口で効果音を呟き続ける男――ニコラスだ。手には水着の入った袋がある。
やっと追いついたユトは、メリッサと共に外に出た。高い位置にある太陽から照射された日光が大気を熱し、都市の地面からは揺らめく熱気が見えている。二人は家に鍵を閉めると、並んで門へと歩いていく。
オヤジとエリアーヌの後ろにはユトとメリッサの予定には無かった人物が居る。
黒のタンクトップにジーンズ。ダサイサングラスをこれでもかとデコレーションして装備し、テンガロンハットにビーチサンダル(金色)を穿いて、腰を突き出して口で効果音を呟き続ける男――ニコラスだ。手には水着の入った袋がある。
やっと追いついたユトは、メリッサと共に外に出た。高い位置にある太陽から照射された日光が大気を熱し、都市の地面からは揺らめく熱気が見えている。二人は家に鍵を閉めると、並んで門へと歩いていく。
「Hey!」
「……兄さんも海に行くの?」
「モチロンさ!!!」
「いつの間に話を拾ったのさ」
「千里眼さ!!!!」
「眼じゃ拾えないような」
「いい男は拾えるのさ。波動を聞き取れば大宇宙(コスモ)の神秘が見えてくるだろう……?」
「うん、意味が全く分からない」
「……兄さんも海に行くの?」
「モチロンさ!!!」
「いつの間に話を拾ったのさ」
「千里眼さ!!!!」
「眼じゃ拾えないような」
「いい男は拾えるのさ。波動を聞き取れば大宇宙(コスモ)の神秘が見えてくるだろう……?」
「うん、意味が全く分からない」
ニコラスは返事をすると同時に片膝を地面に付いてポーズを取る。うざかったが笑えた。
オヤジは大声で笑い、ニコラスに手を差し出す。ニコラスは金髪を掻き揚げながらオヤジの手を握ると、サングラスを取った。デコレーションのビーズが一欠けら地面に落ちた。
オヤジは大声で笑い、ニコラスに手を差し出す。ニコラスは金髪を掻き揚げながらオヤジの手を握ると、サングラスを取った。デコレーションのビーズが一欠けら地面に落ちた。
「分かってるじゃないか………オヤジよ」
「ふ……分かるモンには分かるネタがある」
「ふ……分かるモンには分かるネタがある」
手を握り合ってニヤニヤし始めたオヤジとニコラス。
熱にやられたかと他の三人は呆然と眺めるのみ。
熱にやられたかと他の三人は呆然と眺めるのみ。
「えっと………え~っと」
「バカは放って置いて海に行きましょ」
「バカは放って置いて海に行きましょ」
二人を完全に放置してユトとメリッサは海の方へと歩き出す。エリアーヌは馬鹿二人組か、ユトとメリッサ組かを迷った挙句、とことこと馬鹿二人を放置して二人の方へと走り出した。
「待って下さ~いっ!」
三人が歩き始めたのを見てオヤジとニコラスは慌てて後を追いかけ始める。
我先にと走り出す姿は子供のようだ。
ユトはメリッサに左手を差し出した。
メリッサの右肩にはユトが作った義腕がはめ込まれている。動きに不審な点は無く、相当丁寧に作ったことを窺わせる。
二人は手をつないだ。
歩きに合わせて手の橋が前後に揺れる。
我先にと走り出す姿は子供のようだ。
ユトはメリッサに左手を差し出した。
メリッサの右肩にはユトが作った義腕がはめ込まれている。動きに不審な点は無く、相当丁寧に作ったことを窺わせる。
二人は手をつないだ。
歩きに合わせて手の橋が前後に揺れる。
「ユトー」
「ん?」
「ん?」
メリッサが左腕を上げた。左手の薬指にあるシンプルな銀色の指輪が反射して煌く。
ユトも左腕を上げる。同じ型の指輪が銀色の反射を見せた。
二人は指輪と指輪がぶつかり合うように握り拳をぶつけた。
夏に相応しくない小さく涼しい音がした。
ユトも左腕を上げる。同じ型の指輪が銀色の反射を見せた。
二人は指輪と指輪がぶつかり合うように握り拳をぶつけた。
夏に相応しくない小さく涼しい音がした。
【完】
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