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守護機兵Xガードナー 第六話

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第六話「異少女」
 エホバ・バイシクルは補給の為、欧州のオリンポス統連軍基地に停泊していた。
「寒い」
 金網越しに演習場の訓練機の模擬戦を眺めながらシュートは呟いた。支給されたガードナー隊の制服は今の時期には少し薄手だった。掌に暑い息を吐く。すると、どこからか歌が聞こえた。
「チムチムニィ、チムチムニィ、チムチムゥチェリ~♪」
 余りに場違いで調子外れな歌声。それも少女の声だ。
「町一ィ番のォかほ~もの~♪」
 お世辞にも上手いとは言えない歌声の主は、長い金網を向こうからやってきた。
「皆さん聞い~て下さいなぁ~っと、ん?」
 少女が気づく。髪を両サイドに結び、着ている制服にはキャラクター物の缶バッチを幾つも付けた格好。まん丸い瞳がこちらを不思議そうに覗く。
「お兄さん…どちらの方ですかぁ?新しく配属された人?」
「いや、部隊の補給で立ち寄ったんだよ」
「そうなんですかぁ…今はお一人で何してたんですか?」
「いやチョット演習を眺めてただけさ…」
 ゴウンッ、と地面が揺れる。訓練機の一機がやられ地面に倒れた。周りから歓声が聞こえる。
「…なんか盛り上がってるな」
「軍人達が集まって賭け事をしてるんですよ」
 データを取ったり搭乗者を医務室へ運ぶ者達も居たが、その隅では、さっきまで演習を眺めていたはず軍人達が集まり何かを手渡し合っている。
「…ん?あっ!」
「どうしたんですかぁ?」
「い、いや何でもない…」
 隅で固まる軍人の中に居た。逆立った髪型、電子ゴーグル、整備士のツナギにジャケットの出で立ちをしたライド・デンサーの姿を。
 シュートは見て見ぬふりをする。
「それより、君みたいな子がどうしてココに?」
「ボクですかぁ?そんなのココの基地所属のアイドルに決まってるじゃあ~りませんかぁ」
 薄い胸をパンと叩く。
「と言っても、もうすぐ移動になるんですけどね。新しい部隊に配属になるんですよ。しかも!宇宙ですよ?あの空の上に行くんですよ?素晴らしいじゃあ~りませんかぁ!」
 異様なテンションにシュートは押される。だが、少女がとても嬉しそうなのは伝わった。でも、
(戦争に荷担しているだよな…)
 彼女が何の役職かは知らない、だが戦争に関わってる事には変わらない。
 少女は未だ喋っていた。
「それでね?木星にはアニメ好きの宇宙人がいて」
「ごめん!もう時間だから行かなきゃ、じゃな!」
 シュートは逃げるように去った。
 とにかく離れたかった。
 少女の放つ雰囲気に何故か異様なモノを感じた。
 自分を見つめる不思議な眼。
「眼?あれをどこかで見たことがある?」
 少女に覚えはない。だがあの眼。赤色の眼。どこでみたのだろうか。
「何をしている」
 声をかけられ驚く。
「暇を持て余している暇があったら訓練に付き合え…」
「…サイバ・ドール」
 髪を束ねタンクトップ姿のサイバ。かなり汗を掻いてはいるが息は少しも乱れていない。
「もっとも成果を披露する場所がお前には無いがな」
 サイバはそのまま何処かへ走り去ってしまった。シュートは呆然と立ち尽くす。
「…あの眼もだ」
 サイバと最初と出会い。
 冷たく見卸す青い眼。あの眼もそうだった。あの眼も最初見た時そうだった。
『俺も“眼”を持っている』
 サイバの台詞を思い出す。

“眼”

 自分も持っている“眼”。
 そして、兄も持っていた“眼”。
 あれは二人だけのモノだったはずだった。それが、
「何故だ…?」

 不意に、冷たい風が吹いた。

 考え事をしながら走っていたら人にぶつかった。
「おっと、ゴメン」
 素通りしようとすると肩を掴まれる。振り返ると屈強な男達がシュートの方を睨み付けている。12人の巨人のマーク、オリンポス基地の軍人の様だ。
「おい兄ちゃん、ぶつかって置いてそれはねーんじゃないか?」
「見ねぇ制服だな?どこの部隊だ?」
「…離せよ」
「あっ!この盾のマーク、こいつガードナー隊じゃね?」
「ガードナァ?あの時代遅れの甘ちゃん部隊か!」
「半世紀前は相当な規模の組織だったそうだが今じゃあ戦艦一隻のちっちぇ部隊に成り下がったって聞いたぜ」
「そんな奴等が俺達に挨拶も無しに、しかも、ぶつかって謝りもしねぇとは落ちる所まで落ちたもんだなぁ?」
 男達は大笑い。
 完全な見下した笑いだった。
「…てめぇら、笑うな!」
 シュートは肩の手を振り解き男の顔面を殴り付ける。だが、
「蚊が刺したか?」
 効いていない。
「今度はコッチの番だ…オリャッ!」
 太い腕を振り被る。だが、シュートには当たらない。向かう拳の方向が手に取るようにわかる。
 右、左、フック、アッパー
 相手もムキになって打ってくるが余計攻撃が単調になり軌道が読みやすくなる。
「チョコマカと逃げやがってッ」
 シュートはサッ、と後ろへ下がり間合いを取る。
「…逃げるが勝ちだ」
 逃走を計る。
 が、他の軍人達に阻まれ、二人に羽交い締めにされる。
「追い詰めたぞ…さてどうしてやろうか?」
 下卑た笑いを浮かべる。シュートは最悪の状況を覚悟した。
 その時、大きな地鳴りが響いた。
「…何だあれ?」
 男が演習場の方を指さす。黒いロボットがこちらヘと向かってくる。間接部など所々装甲が無く内部がほとんど露わになっている、試作型の様だった。動作がぎこちなく苦しそうにも見える。
「あれ研究棟で造ってた奴じゃないのか?」
「チッ、開発室の爺たち夜中にコソコソと何してかと思えば、あんな人形造ってやがったのか」
 黒いマシンはシュート等の前に来る途中、前を走るトラックにつまずき、大きな音をたてて倒れる。
「見ろよ!まるで赤ん坊だぜ?」
「オイッ乗ってる下手クソ、俺が代わってやろうか?」
 男たちは罵倒を浴びせる。
 四つん這いになった黒いマシンがこちらを向いた。剥き出しになった一つ目のカメラアイが世話しなく動く。そして、ある一点で止まった。
「…不味い」
 シュートは“眼”で先が見えてしまった。
 数秒後に起こる、惨劇のビジョンを…。
「どけッ!」
 男達が気を取られている内にシュートは掴まれていた両腕を振り解き、とっさに飛び退く。すると、
 ダダダダッ!と、言う音が響きわたる。
 黒いマシンの頭部、両サイドの砲塔が火を吹いた。放たれてた先はさっきまで程までシュートがいた場所、今は赤い血の海と肉塊があるだけだった。
 黒いマシンは雄叫びを上げるように機関砲を乱射する。やがてマシンは唸りを上げながらその場を離れ建物の方へ向かう。
「…暴走している?」
 と、シュート。だが、機械の故障か、搭乗者の異常かは解らない。黒い機体はただ暴れ回るのみ。
 マシンの攻撃を逃れた男達はただ立ち尽くす。あぜんとした表情で基地が破壊されるのを呆然と見つめていた。
「…お、お前等、ボサっとするな!さっさとアイツを止めろォ!」
 リーダー格の男が怒鳴る。他の隊員等は仲間の惨状を見て消沈していた。そんな奴等をリーダーは一人一人殴っていく。
「あんなデク人形、俺がやってやる!てめぇら、早く着いてこいッ!」
 リーダーの男は格納庫へ向かい走る。つられて他の者達も逃げる様にその後に続く。
 黒いマシンの暴走は今だ続いていた。

「ゴフッ!…外が騒がしいな?」
 エホバ・バイシクルの格納庫、デッキの片隅で整備士長ダッカー・ブランは昼食の弁当を盛大に吹いた。
 その米粒が正面に座っていたライドの顔に掛かる。
「…不幸だ」
 顔の米を取りながら呟く。先程の賭け試合に参加したライドは持ち金の半分をスッてしまったのだ。
 その為、基地の購買部ではあんパンと牛乳しか買えなかったのだ。
「01出るぞ、そこどいてくれ!」
 解放されたゲートの向こう、カタパルトの上を走るシュートが叫んだ。
「大将!また家出する気かぁ?」
「違う、出撃するんだよ」
 シュートは黄色のガードナー、X01のコクピットによじ登る。
「へぇ、坊ちゃんやる気になったんだ…出撃?火星の侵攻軍かッ!?」
「黒いマシンが暴走してんだッ!この基地の機体らしい!」
 胸部のハッチが開く。機体に乗り込み、各電源を起動させる。
「大将、カタパルトは整備中だから使うなよ」
「了解!足元に居る奴、みんなどけぇ!」
 資材や補給物資を運ぶ人達を急かす。
「シュート・ダリューグ、Xガードナー1号機、行きますッ!」
 01が発進する。
 だがカタパルトはメンテナンス中の為、その上を走って出撃する。
『シュート聞こえる?演習場で試験運用機“メイル”が暴走してしまったの。至急、機体の破壊をお願い!』
 ルーナからの通信だ。
「正に向かってんよ。破壊?中に人は乗って無いのか?」
『らしいけど…無人機だって聞いたから』
「そうか、分かった…居たぞ!」
 黒いマシン、メイルは破壊を続けていた。建物は黒い煙と炎を上げ、奴の周りには止めに入った機体、演習機や先程の軍人達のマシンが無惨な姿を晒していた。
「後ろを向いている、今がチャンスだ!」
 敵機はまだこちらに気付いていない。01は腰のラックからレーザーブレードを取り出すと、それを構えた。柄の先端から光の刃が形成される。
「ブースト全開、一気にかっ捌く!」
 目標へと加速し間合いを積め、光の剣を突き立てる。
 ぐるん、とメイルの首がこちらを向く。そして、虹色のフィールドを発生させた。
「この輝きは、IW(イリュージョンウォール)?」
 01のブレードが弾かれる。
「I・Wはガードナーの専売特許じゃないのか?」
 圧縮した粒子を障壁として放つI・WはXG隊が新開発した特殊兵器である、はず。
「ッたく、今日は分かんない事だらけだ」
 01はブレードを捨て拳を構える。
「目には目を、I・WにはI・Wだ!」
 01の周りに球体状のバリアが発生すると、それが両腕に収縮される。
「打ち抜いてやる…!」
 01の拳がメイルへと向かう。勿論、相手もバリアを形成した。
 衝突。二機の間で閃光が迸る。01はパンチを何度も打ち続ける。そして放った拳がバリアを通り、肩の発信装置を破壊した。
 だが、敵機は怯まず逆に反撃する。メイルの拳が01の胸部を殴打。機体に衝撃が走る。シュートはコンソールに頭を打ち、額から血が流れる。
 意識が朦朧とする中、通信が入る。
『こちらX04、援護します!』
 幼い少女の声がスピーカーから流れる。後方から接近する機体。爆炎の中から現れるオレンジ色のマシン、蟹の様な大きな腕、肩には翼の生やした盾のエンブレム。
「…ガ、ガード…ナー?」
 地を滑る様に高速移動する。03の腕の四つ爪の間から四本のレーザーが発射された。メイルはそれを回避する。通り過ぎたレーザーはぐにゃっと曲がり敵機を追尾する。それぞれが腕部、脚部を貫く。
『まだまだ、逝っけぇ!』
 ダルマ状態になった黒いマシンが崩れ落ちる前に03が急接近する。両腕が高速回転し爪がドリルの様になり敵機を貫いた。
『駄目押しにィもいっちょ!』
 片方のクローも敵機の胸に突き刺す。
『引き裂け!ゼロフォー』
 爪が花が咲く様に四方に開く。そのまま、腕を左右に動かし黒い機体を二つに裂いた。
「凄い、けど無茶苦茶だ…」
 コクピットを開き、その光景を見てシュートは呟く。
 すさまじい惨状の中で佇むオレンジの機体はまだ残骸を痛めつけていた。その体は返り血の様にメイルの引き裂いた時に吹き出たオイルにまみれていた。そんな03がこちらに近づいてきた。
「ダイジョーブですかぁ?」
 コクピットが開くと心配そうな少女の声が聞こえる。
「大変!血が出てるじゃないですかぁ?早く医務室に行きましょう」
 ヘルメットをシートへ放り投げるとこちらの01に飛び移ってくる。
「あれ?さっきのお兄さんじゃないですか?ガードナーに乗ってるって事はぁ…XG隊の人?」
「…あ、う」
 シュートは口をパクパクさせる。
「そうだ、自己紹介しなきゃ!あたし“ミア・キャイリー”十五歳。今日からXガードナー隊に配属されます。よろしく!」
 今日は本当に分からない事だらけだ。気が遠くなってきた。
「ちょっと、生きてます?もしもーし?寝ないでくださぁい!」

 作戦室。暗い部屋で昼間の戦闘を記録した映像を眺める人影。
「…いいのか?試験体十号を持って行かれて、あれは提督のお気に入りじゃなかったのか…」
 白衣の老人が呟く。
「七号との戦いで勝ったのです。それにあれはまだ色々経験が足りない…データを取るにはピッタリの部隊じゃないか」
 提督と呼ばれる額の後退した金髪の男が言った。
「…経験ねぇ、そっちの経験は十号に無理矢理強いた癖に…」
「博士、何か言いました?」
「…いんやぁ?それにしても、メイルも色々調整が必要じゃなぁ、まさか部外者に一度でも深手を負うとは…これは楽しくなってきた!」
「Xナンバーの一号機、乗っているのはアグリットの倅ですか…もう一つの、昇進証明の“アルターアイ”を持つ少年ですか。彼もこちらで監視してますよ…協力者が居ますからね」
「…火星からの特派員か…昔“勝利の守護機兵隊”の頭脳が、変わり果てたもんですなぁ…」
「お黙りッ!」
「…何も怒鳴らんでも、禿げるぞい?」
「フン、過去です。何時までも時代遅れの組織に用はありません。今が攻め時、守るだけが戦いではない…勝たなきゃ死。勝つ事が全てです。たとえ、何をしようとも…です」
 男は声を荒げる。

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