統合歴329年7月28日
夏休みが始まり、真夏の青さに草木も生気を失うような炎暑にギア部の面子はくたばりかけていた。
何せ実機訓練でもやろうものならブースターから噴出される高熱の炎により発生する熱風が
夏の熱気を倍増してくれるのだからやってられない。
何せ実機訓練でもやろうものならブースターから噴出される高熱の炎により発生する熱風が
夏の熱気を倍増してくれるのだからやってられない。
「だあああ!!やってられるかッ!!」
突然、雄叫びを上げスチール製のデスクに頭を叩き付ける。
ガァン!!と金属がへしゃげる音が木霊する。
ガァン!!と金属がへしゃげる音が木霊する。
「夏だ!!夏休みだ!!夏休みの定番!!夏合宿に行くぞ!!」
ガバッと立ち上がり、額から血を流しながら握り拳を作って皆に提案…最早、命令に近い。
八坂高校スポーツギア部の部長である加賀谷望は連日の猛暑の為か、普段の姿は見る影も無い程に壊れていた。
八坂高校スポーツギア部の部長である加賀谷望は連日の猛暑の為か、普段の姿は見る影も無い程に壊れていた。
普段ならば沈着冷静な男なのだが、この時ばかりはただの危険人物である。
何とも言えない妙な迫力のせいでスポーツギア部、暴力担当…基、期待のルーキー守屋一刀も
変に逆らったり、無粋な突っ込みを入れる気にもなれず大人しく肯定する事しか出来なかった。
変に逆らったり、無粋な突っ込みを入れる気にもなれず大人しく肯定する事しか出来なかった。
「良いですね。夏合宿。」
乾いた笑顔で肯定する守屋に気を良くしたのか。
加賀谷は亀裂の入った眼鏡をキラリと光らせ、額から血をダラダラと垂れ流しながら強く首肯した。
加賀谷は亀裂の入った眼鏡をキラリと光らせ、額から血をダラダラと垂れ流しながら強く首肯した。
「そうだろ?そうだろ!特に守屋の為にもなるからな!」
「俺の為にもなる?」
「うむ。我々、ギア部はMCI搭載機が一機しか無いから矢神に協力を求めねば実機訓練が出来ないッ!!
だが、合宿という名目でMCI機を保有する高校に襲撃を仕掛ければ、そんな問題など容易く解決出来る!!」
だが、合宿という名目でMCI機を保有する高校に襲撃を仕掛ければ、そんな問題など容易く解決出来る!!」
堂々と胸を張り、情け無い上に危険な言動で着実にキャラ崩壊進行中の加賀谷を
一先ず、見なかった事にして2年生の歳方アリアが悔しげに肯定する。
一先ず、見なかった事にして2年生の歳方アリアが悔しげに肯定する。
「それに私等じゃシミュレーターを使った訓練にも付き合ってやれないしな…
せめて、阿部や副部長みたいに近接武器も使えれば良いんだけど。」
せめて、阿部や副部長みたいに近接武器も使えれば良いんだけど。」
「近接戦は苦手だもんねぇ…」
歳方の嘆きに同じ2年生の内田燐も頷く。
元々、歳方は中近距離で連射性能の高いハンドガンでの牽制を
内田は長距離からの砲撃支援を其々担当しており近接戦闘に関しては畑違いの分野になる。
ましてやMCIの個人競技で射撃武器を使う選手など滅多にいない為、訓練にも付き合えず
自分達に出来る助言も守屋にとって、あまり意味を為さない。
元々、歳方は中近距離で連射性能の高いハンドガンでの牽制を
内田は長距離からの砲撃支援を其々担当しており近接戦闘に関しては畑違いの分野になる。
ましてやMCIの個人競技で射撃武器を使う選手など滅多にいない為、訓練にも付き合えず
自分達に出来る助言も守屋にとって、あまり意味を為さない。
元々の担当が違うのだから当然と言えば、当然なのだが同学年の他校生に
後輩の面倒を見させている現状に情けなさや、不甲斐なさ、申し訳なさを感じて溜息を吐く。
後輩の面倒を見させている現状に情けなさや、不甲斐なさ、申し訳なさを感じて溜息を吐く。
「宋銭高校の矢神が来るようになって以前よりはマシにはなったが、対人戦闘における経験があまりにも少なすぎる。」
副部長である三笠慶もその事は理解していたが、別段気にする様子は無い。
ギアの数が多い高校は忘れがちだが、ギアとは非常に高価なスポーツ用品で
八坂高校のようにギアを6機も保有出来るチームはそう多くは無い。
ギアの数が少ないチームなら普段の練習が他校との練習試合みたいなもので、大半の高校で行われている練習方法である。
ギアの数が多い高校は忘れがちだが、ギアとは非常に高価なスポーツ用品で
八坂高校のようにギアを6機も保有出来るチームはそう多くは無い。
ギアの数が少ないチームなら普段の練習が他校との練習試合みたいなもので、大半の高校で行われている練習方法である。
「その通りだ。よって、夏合宿を利用してMCI搭載ギアを保有する高校に対し
時間が許す限り徹底的に!!それも片っ端から殴り込みをかけ殲滅する!!」
時間が許す限り徹底的に!!それも片っ端から殴り込みをかけ殲滅する!!」
額からダラダラと血を流しながら加賀谷の変人度が加速気味に上昇していくが
涼しくなれば、恐らく頭も冷えて元に戻るだろうと思い、見なかった事にして
守屋は様々な高校のMCI担当の選手と戦える事を純粋に喜んだ。
涼しくなれば、恐らく頭も冷えて元に戻るだろうと思い、見なかった事にして
守屋は様々な高校のMCI担当の選手と戦える事を純粋に喜んだ。
矢神と練習を共にするようになってから、加賀谷から動きが格段に良くなっていると
褒められたのだが、自分がどの程度、マシになったのかが全然、分からない。
褒められたのだが、自分がどの程度、マシになったのかが全然、分からない。
何せ、幾度と戦っても矢神に勝てない上に比較対照になる相手が矢神しかいないのだ。
初めに戦った頃に比べれば、あからさまな手加減をされる事は無くなったものの
矢神は本来の得物である剣を持ち出した事が無く、そんな様子も無い。
初めに戦った頃に比べれば、あからさまな手加減をされる事は無くなったものの
矢神は本来の得物である剣を持ち出した事が無く、そんな様子も無い。
毎回、良い所まで追い詰める事が出来るのだが、後一歩という所で撃墜されてしまう。
矢神が常にギリギリの所で守屋に勝てるように手加減をしている為、実力差が全然埋まっている気がしない。
後一歩が踏み越えられないと錯覚してしまい、自分が成長していないのでは余計な焦りを覚える。
矢神が常にギリギリの所で守屋に勝てるように手加減をしている為、実力差が全然埋まっている気がしない。
後一歩が踏み越えられないと錯覚してしまい、自分が成長していないのでは余計な焦りを覚える。
実際の所、出鱈目な勢いで差は狭まっているのだが、元々の実力差が天と地の差ほどあったのだから
分かり難いのも当然と言えば当然なのだ。それに加賀谷の見立てなら絶対に間違いはあるまい。
第一、矢神はMCIギアの選手としては最上層の存在だ。最下層の守屋が易々と敵う相手では無い。
分かり難いのも当然と言えば当然なのだ。それに加賀谷の見立てなら絶対に間違いはあるまい。
第一、矢神はMCIギアの選手としては最上層の存在だ。最下層の守屋が易々と敵う相手では無い。
だが、矢神は僅か1年で最上層の域まで到達出来てしまったのだ。自分には同じ事が出来るのだろうか?
こんなにも恵まれた環境に身を置きながら、人並み程度の実力と結果では話にならない。
その為にも様々な敵を知り、己の力を知る事の出来る合宿という名目の遠征は今の守屋にとって打って付けであった。
何よりも矢神が期末試験で赤点を連発してしまい夏休み返上の補講授業で八坂に来る事も出来ない。
こんなにも恵まれた環境に身を置きながら、人並み程度の実力と結果では話にならない。
その為にも様々な敵を知り、己の力を知る事の出来る合宿という名目の遠征は今の守屋にとって打って付けであった。
何よりも矢神が期末試験で赤点を連発してしまい夏休み返上の補講授業で八坂に来る事も出来ない。
「では、明日からギアの数が揃っている高校に殴り込み…武者修行の旅に出るぞ!!」
「応!!…って、明日?」
まだ見ぬ多くの敵達との出会いや、武者修行という響きに守屋のテンションも急上昇するが
明日からとは急過ぎる。あまりにも急なので自分の聞き違いでは無いかと平静を取り戻し聞き直す。
明日からとは急過ぎる。あまりにも急なので自分の聞き違いでは無いかと平静を取り戻し聞き直す。
「スポーツギア部は毎年、7月29日から8月6日は強化合宿期間だろう?当然だろ?」
「な゛…!?初耳ですよ!」
何を今更と言うような顔をされるが、そんな事を聞いた覚えなど全く無い。
思わず、霧坂の様子を伺うが、どうやら守屋と同じ状態のようだ。
互いに見合わせ、この眼鏡、頭大丈夫か?という表情をすると、霧坂は力無く首を横に振った。
思わず、霧坂の様子を伺うが、どうやら守屋と同じ状態のようだ。
互いに見合わせ、この眼鏡、頭大丈夫か?という表情をすると、霧坂は力無く首を横に振った。
「既に先方には連絡している!何も問題は無い!」
何故か、加賀谷は得意げな顔に満面の笑みで親指をグッと立て歯を輝かせる。
未だに額から流れ続ける顔の流血模様と相まって非常に鬱陶しい事、この上無い。
未だに額から流れ続ける顔の流血模様と相まって非常に鬱陶しい事、この上無い。
「すまんな。守屋、霧坂。見ての通り、加賀谷は夏になるとアホになるんだ。
連絡させたつもりが、まさか練習相手の学校にしか連絡していなかったとは…」
連絡させたつもりが、まさか練習相手の学校にしか連絡していなかったとは…」
「ええ。最近、気でも違えたかの様な変わり様だったので心配していたのですが、此処まで酷いとは…」
ある種の熱射病のせいで人格崩壊を起こしてしまった加賀谷の頭が残念な事になってしまい
流石の守屋の一言も中々に容赦が無いが、それを咎める者は誰一人としていない。
流石の守屋の一言も中々に容赦が無いが、それを咎める者は誰一人としていない。
「確かに壊れた部長を初めて見た時は軽く殺意を覚えたもんなぁ…」
しみじみと2年の阿部辰巳が呟き、歳方、内田の二人が「確かに」と声を合わせて頷いた。
「守屋君。GO」
霧坂が加賀谷を指差し首を掻っ切るジェスチャーを守屋に送る。何がGOだ。
統合歴329年7月29日
「そう言えば、その冷泉学園ってのは強いのか?」
例によって定位置である守屋の左隣に座っている霧坂に、これから向かう高校について訪ねてみた。
加賀谷部長曰く、多くの選手と戦うのが趣旨であって、相手の強さは度外視しているらしい。
加賀谷部長曰く、多くの選手と戦うのが趣旨であって、相手の強さは度外視しているらしい。
ギア歴が一ヶ月だけ先輩の霧坂は唇に人差し指を当て、むーっと唸り冷泉について知りえる情報を搾り出す。
「んー…MCIが3機、SCIが7機。ギアの保有台数だけで言えば、かなりの大規模だね。
練習の幅や密度は八坂の比じゃ無い筈なんだけど…」
練習の幅や密度は八坂の比じゃ無い筈なんだけど…」
冷泉学園の活躍や目立つ選手の名前が思い浮かばず言いよどんでいると
仕方が無いなと、歳方が笑顔で助け舟を出す。
仕方が無いなと、歳方が笑顔で助け舟を出す。
「れーせんなんてアレだ。数ばっかのザコだ。」
全く持って身も蓋も無い。だが、その通りなのだから仕方が無い。
「アリアちゃん、冷泉学園の中で言わないでよ?」
歳方の失礼極まる言動に内田は眉を顰めながら嗜める。
それが事実だとしても、それで騒動を巻き起こされては適わない。
そして、騒動が起こったら自分が真っ先に巻き込まれるのは分かりきっている。
それが事実だとしても、それで騒動を巻き起こされては適わない。
そして、騒動が起こったら自分が真っ先に巻き込まれるのは分かりきっている。
(でも、今年は守屋君が居るから大丈夫かな?)
内田は守屋の事を自分と同じ受難体質だと思っていたが、今やその考えを改めている。
今や八坂高校スポーツギア部の受難体質は守屋一刀、一人だけだと。
今や八坂高校スポーツギア部の受難体質は守屋一刀、一人だけだと。
「れーせんでも、大事な守屋のイケニエだからな。終わるまでは大切に扱ってやるって!」
「要するに八坂の敵では無い…と言うわけですか。」
何と無く、黒い羽と触覚、三角の鍵尻尾が似合いそうな笑い方だなと思っていると阿部が異を唱える。
「そうは言うけどな、もしかしたら守屋みたいな、スッゲェ1年が居るかも知れないだろ?」
宋銭高校も去年の全国大会までは完全に無名だったにも関わらず、矢神玲という
イレギュラーの出現により強豪高校の一角を担うようになったという一例がある。
これまでが取るに足らないチームだとしても油断では出来ないのだ。
イレギュラーの出現により強豪高校の一角を担うようになったという一例がある。
これまでが取るに足らないチームだとしても油断では出来ないのだ。
「あー…金だけはあるみたいだし、余所から強い選手を引っ張ってきてるとかってのも考えられるのか…」
実力はあるが設備の無い生徒、金はあるが実力のある生徒がいない学校の間ではよくあるやり取りで珍しい事では無い。
「ま、居ても居なくても守屋の餌食になるだけだろうがな。霧坂もしっかりな?」
当然の事だが、守屋一人を鍛えればそれで良いと言う話では無い。
いずれは霧坂もSCI団体戦の選手として八坂の中核を担う立場になる。
ならば、霧坂自身も守屋を煽って遊ぶばかりでは無く、そろそろ実力を見せてやらねばなるまい。
いずれは霧坂もSCI団体戦の選手として八坂の中核を担う立場になる。
ならば、霧坂自身も守屋を煽って遊ぶばかりでは無く、そろそろ実力を見せてやらねばなるまい。
他の部員に隠れて目立たないが、加賀谷より課された訓練メニューは欠かす事無く消化しているし
守屋程の非常識な早さでは無いにせよ、着実に実力を伸ばしていっている。
力試しの機会を与えられて喜んでいるのは守屋だけでは無いと言う事だ。
守屋程の非常識な早さでは無いにせよ、着実に実力を伸ばしていっている。
力試しの機会を与えられて喜んでいるのは守屋だけでは無いと言う事だ。
「勿論ですよ。八坂の一年は守屋君だけじゃないってトコ、見せ付けてやりますよ!」
霧坂は握り拳を一つ作り不敵な笑みを浮かべ、守屋の胸を叩いた。
冷泉学園到着早々ギア部の面々に挨拶と簡単な自己紹介を済ませ実機訓練に移る。
守屋はアイリス・ジョーカーを起動し加賀谷の指示通り追加装備無しで冷泉学園の生徒と対峙する。
前髪が長く目があるのか無いのかよく分からない顔をしている上に特徴らしき特徴が無い3人組のMCI選手達に
守屋は山田A、山田B、山田Cと心の中で勝手に名前を付ける事にした。既に本名を忘れてしまったのだから仕方が無い。
前髪が長く目があるのか無いのかよく分からない顔をしている上に特徴らしき特徴が無い3人組のMCI選手達に
守屋は山田A、山田B、山田Cと心の中で勝手に名前を付ける事にした。既に本名を忘れてしまったのだから仕方が無い。
冷泉高校の一番手は山田Aとナックルシールド装備のレイス・ジョーカー
「アレが噂のアイリス・ジョーカーか。生身の戦いと、ギアの戦いの違いを教えてやらないとな。」
そんな事を今更、教えて貰わずとも身内に嫌という程、叩き込まれているし、噂の中身の方が気になって仕方が無い。
矢神と練習するようになって動きが格段に良くなったと言われたが
さて、一体どの程度、自分がマシになったのか…判断材料扱いして申し訳無いと思いつつ構えを取る。
さて、一体どの程度、自分がマシになったのか…判断材料扱いして申し訳無いと思いつつ構えを取る。
試合開始のサイレンと同時に山田Aのレイスが拳を振るう。
(パーツの予備は潤沢なんだが…初日から潰すわけにもいかんか。)
ガードを解き、バックステップで迫り来る鋼拳をやり過ごし、再び距離を詰める。
「戻りが遅い。」
レイスの稼動限界まで振り抜かれていた腕を山田Aが戻すよりも早く、左フックで更に押し込む。
胸部装甲と上腕の装甲が干渉し合い、火花を散らし装甲を歪め、あるいは弾き飛ばす。
弾けた装甲の破片にエネルギーパイプが引き裂かれ、レイスの右腕がダラリと垂れ下がる。
胸部装甲と上腕の装甲が干渉し合い、火花を散らし装甲を歪め、あるいは弾き飛ばす。
弾けた装甲の破片にエネルギーパイプが引き裂かれ、レイスの右腕がダラリと垂れ下がる。
「そ、そんな!?たったの一撃で!?」
狼狽する山田Aの事など知った事かと言わんばかりに右フックで左肩部を強打、左フックで右腕を無かった事にして
左ローキックで右足をへし折り、腰部右膝蹴りを突き刺し、山田Aが体勢を崩し地に伏せるよりも早く右正拳突きで頭部を破壊する。
左ローキックで右足をへし折り、腰部右膝蹴りを突き刺し、山田Aが体勢を崩し地に伏せるよりも早く右正拳突きで頭部を破壊する。
「まずは一人。」
機体の損傷状況、疲労状況を確認するが打撃の際に必要とされる衝撃緩和剤が規定通りに減っているだけだ。
打撃に使った部位も、まだまだ疲労状態には程遠く、もう少し無理をさせても問題無さそうだ。
打撃に使った部位も、まだまだ疲労状態には程遠く、もう少し無理をさせても問題無さそうだ。
「ギアに乗って精々、三ヶ月程度の一年に負けるなんて情け無い奴め…」
山田Aよりも前髪の長い山田Bがロングソードを上段に構え守屋を間合いの中に捉える。
「剣か…矢神さんと思って戦う…のは流石に可哀相だよな。」
山田Aと戦って冷泉学園の実力は大体分かった。レギュラー陣達の言う通りの実力しか無い。
山田Bの実力も顔と同様、大した差はあるまい。衝撃緩和剤を激しく噴出しながら跳躍するレイスを待ち構える。
狙いはアイリスの頭部か。機体を撓らせ身体全体で放たれる斬撃は古坂に比べれば格段に上だが…
山田Bの実力も顔と同様、大した差はあるまい。衝撃緩和剤を激しく噴出しながら跳躍するレイスを待ち構える。
狙いはアイリスの頭部か。機体を撓らせ身体全体で放たれる斬撃は古坂に比べれば格段に上だが…
ロングソードが振り落とされるよりも早く肘裏に手刀を叩き込み両腕を破壊。零れ落ちたロングソードを奪い取り頭部を刎ねる。
「フェイントも無しか…残るは一人。」
山田A,Bよりも少し背の高い、山田Cに向き直る。
「アイツ等…一年だからって甘く見るなって言っただろうに!!」
地を蹴り、アイリスを貫こうとランスごと体当たりを繰り出す山田Cを跳躍とバックステップを織り交ぜながら攻撃を避けるが
ブースターでは無く、脚力によって繰り出される緩急が激しい体当たりは捌き難く、避け続けるのも存外に難しい。
避け続けるのは面倒だと言わんばかりに、突き出されたランスを小脇で受け止め山田C蹴り飛ばし、ランスから引き剥がす。
山田Cが慌てて体勢を整えようとするが、それを守屋が許すはずも無く、奪い取ったランスで山田Cの頭部を貫き沈黙させる。
ブースターでは無く、脚力によって繰り出される緩急が激しい体当たりは捌き難く、避け続けるのも存外に難しい。
避け続けるのは面倒だと言わんばかりに、突き出されたランスを小脇で受け止め山田C蹴り飛ばし、ランスから引き剥がす。
山田Cが慌てて体勢を整えようとするが、それを守屋が許すはずも無く、奪い取ったランスで山田Cの頭部を貫き沈黙させる。
「レイス・ジョーカー、三機撃破。加賀谷部長、実機訓練完了しました。」
「よし。引続き、シミュレーター訓練に移ってくれ。整備とSCI組の実機訓練が終わり次第、また実機訓練に移ってもらう。」
アイリス・ジョーカーを仮設格納庫に収容し、シミュレーターを起動させる。
整備担当の部員曰く、衝撃緩和剤の補充だけ良いらしく、打撃に使用した部位の装甲交換も必要無いそうで
もう少し激しい攻撃をするなり、攻撃を受けるなりして機体を損傷させて欲しいと頼まれる。
整備担当の部員曰く、衝撃緩和剤の補充だけ良いらしく、打撃に使用した部位の装甲交換も必要無いそうで
もう少し激しい攻撃をするなり、攻撃を受けるなりして機体を損傷させて欲しいと頼まれる。
あまり気乗りはしないが、整備担当の部員達にも練習の場を提供し整備のノウハウを蓄積して貰わねばならない。
特に激しい損傷を受ける事になるであろう州大会中、肝心な時に修理する事が出来ないでは話にならない。
次の実機訓練ではもう少し激しく攻撃をしてみるかと思案しながら、リヴァイド・ジョーカーをシミュレーターステージに出現させる。
被弾による損傷よりも、自身の攻撃の反動で損傷を受ける方が前向きだしなと自分自身を納得させ山田トリオを待つ。
特に激しい損傷を受ける事になるであろう州大会中、肝心な時に修理する事が出来ないでは話にならない。
次の実機訓練ではもう少し激しく攻撃をしてみるかと思案しながら、リヴァイド・ジョーカーをシミュレーターステージに出現させる。
被弾による損傷よりも、自身の攻撃の反動で損傷を受ける方が前向きだしなと自分自身を納得させ山田トリオを待つ。
「本当に良いのか?」
「構わん。思う存分に叩きのめしてくれ。」
何やら山田達が驚き戸惑っているが、加賀谷はそれに対して意に介する事無く続けた。
「此方の選手はMCIと戦う機会が非常に限られている。極力、多く長く戦わせてやらねばならん。」
無論、其方が疲れているのであれば一旦、休憩を挟んでからでも構わないが。」
無論、其方が疲れているのであれば一旦、休憩を挟んでからでも構わないが。」
「舐めるなよ、八坂ッ!!俺達が勝つまで休憩など無いと思え!!」
加賀谷の皮肉を込めた気遣いに躊躇いがちだった山田達に気炎が立ち上る。
「一体、如何したのですか?」
置いてけぼりの状況で意味が分からない。
「何の事は無い。ただ3対1で戦うように頼んだだけだ。
それとリヴァイドの攻撃力を最低にレイスの防御力を最大にしておいた。」
それとリヴァイドの攻撃力を最低にレイスの防御力を最大にしておいた。」
シミュレーターだから出来る裏技なのだが、ただでさえ性能差があるにも関わらず
更に性能差を広げた上に3対1で叩き潰してくれと頼まれては、躊躇いもする。
更に性能差を広げた上に3対1で叩き潰してくれと頼まれては、躊躇いもする。
「そして、あの物言いですか…そりゃあ、怒りもするでしょう。これは存外、手強そうだ。」
「得る物があるのなら負けても構わんぞ?」
得る物が無いから、こんなにもあからさまなハンデを付けたのだ。
それにも関わらず、この加賀谷の言い様は守屋の闘志に火を付けるには充分過ぎた。
それにも関わらず、この加賀谷の言い様は守屋の闘志に火を付けるには充分過ぎた。
「ハッ…上等だ。敗北どころか、膝を屈する事無く終わらせてやりますよ。」
加賀谷は些細な事で血気を逸らせる守屋と山田トリオに肩を竦め試合開始のサイレンを鳴らす。
それと同時に3機のレイスはリヴァイドを取り囲むようにして其々、慎重に必殺の間合いを取る。
それと同時に3機のレイスはリヴァイドを取り囲むようにして其々、慎重に必殺の間合いを取る。
まずは正面の徒手空拳の山田Aのレイスが地を這うようにリヴァイドに肉迫する。
姿勢を低くし視界の外から下半身のバネを使い急襲するのが目的なのだろう。
姿勢を低くし視界の外から下半身のバネを使い急襲するのが目的なのだろう。
(姿勢を下げるのが早すぎる。それでは奇襲にならない。)
跳躍と共にリヴァイドの頭部目掛けて、レイスの拳が突き出される。
リヴァイドもまたレイスの拳に目掛けて拳割の要領で鋼拳を叩きつける。
リヴァイドもまたレイスの拳に目掛けて拳割の要領で鋼拳を叩きつける。
迎撃成功。ダメージは無いも同然だが、レイスは空中で動きを止める。
今、こうしている間にも二人の山田が一撃必殺の攻撃と共に守屋に迫りつつある。
お前の相手は後回しだと山田Aに膝蹴りを叩き込み、更に機体を浮かせ中段蹴りを放ち距離を離す。
今、こうしている間にも二人の山田が一撃必殺の攻撃と共に守屋に迫りつつある。
お前の相手は後回しだと山田Aに膝蹴りを叩き込み、更に機体を浮かせ中段蹴りを放ち距離を離す。
山田Aが蹴り飛ばされ、守屋の視界の外に出ていくと同時に、ロングソードを振りかぶる山田Bが視界に入ってくる。
防御力が跳ね上がっているせいで、先程と同じように一撃で腕を破壊して剣を奪うというわけにもいかない。
如何したものかと一瞬思案するが、すぐに中断。利用出来そうな物が手近にあるでは無いか。
ランスを携えリヴァイドを背後から刺し貫こうとする山田Cのランスの穂先を山田Bのレイスに受け流す。
防御力が跳ね上がっているせいで、先程と同じように一撃で腕を破壊して剣を奪うというわけにもいかない。
如何したものかと一瞬思案するが、すぐに中断。利用出来そうな物が手近にあるでは無いか。
ランスを携えリヴァイドを背後から刺し貫こうとする山田Cのランスの穂先を山田Bのレイスに受け流す。
山田Bは山田Cのランスに深々と突き刺され戦闘不能状態に陥る。
ランスが山田Bに刺さり身動きが取れない事を良い事に、山田Cの頭部に執拗な打撃を繰り返すが有効な打撃を与えられない。
とは言え機体その物は守屋の打撃に弾かれ、浮かされ、吹き飛ばされている。
ランスが山田Bに刺さり身動きが取れない事を良い事に、山田Cの頭部に執拗な打撃を繰り返すが有効な打撃を与えられない。
とは言え機体その物は守屋の打撃に弾かれ、浮かされ、吹き飛ばされている。
つまり、ダメージにならずとも機体の動作に影響を及ぼす程の衝撃は発生している。
その衝撃は現実の物として再現されシミュレーター用のコクピットを激しく揺らす。
その衝撃は現実の物として再現されシミュレーター用のコクピットを激しく揺らす。
「となれば…搭乗者狙いで行くか。」
より衝撃の加わり易い胸部や腹部に正拳の連撃を浴びせ、股関節に膝蹴りを打ち上げる。
ダメージは無いに等しいが上下前後左右にコクピットを激しく揺さぶられ、山田Cが呻く。
生半可な攻撃では通用しないかも知れないと守屋が必要以上に連撃を叩き込んだせいで
気絶を通り越して胃の中の内容物が逆流しかけているのだ。
ダメージは無いに等しいが上下前後左右にコクピットを激しく揺さぶられ、山田Cが呻く。
生半可な攻撃では通用しないかも知れないと守屋が必要以上に連撃を叩き込んだせいで
気絶を通り越して胃の中の内容物が逆流しかけているのだ。
そんな山田Cの危機を知ってか知らずか、山田Aが復帰し守屋に飛び掛る。
「三笠先輩のブーストハルバードの方が1000倍早いな。」
山田Cへの攻撃を中断し、身体を半身程逸らし腹部に目掛けて膝蹴りで打ち上げ、空かさず背部に肘打ちで地面に叩き落す。
矢張り機体へのダメージは無いが、地面に叩き付けられた際に発生する衝撃の影響で山田Aは立ち上がれずにいる。
引続き、山田Cに打撃を与えようとするが座り込んだまま立ち上がる様子も無い。
矢張り機体へのダメージは無いが、地面に叩き付けられた際に発生する衝撃の影響で山田Aは立ち上がれずにいる。
引続き、山田Cに打撃を与えようとするが座り込んだまま立ち上がる様子も無い。
最早、雌雄を決したも同然で、戦意の消失した相手にこれ以上の攻撃は酷だと構えを解き、一息吐く。
「撃破1、戦闘不能2。俺の勝ちですね。」
歴然たる性能差に数の利を与えてもこの程度かと加賀谷は肩を竦めた。
と言うよりも防御力を跳ね上げたのは大きな失態だった。ギアが守屋の攻撃に耐え切れても搭乗者は別だ。
死屍累々といった表現の似合う山田トリオを見て加賀谷は心から謝罪の言葉を述べた。
と言うよりも防御力を跳ね上げたのは大きな失態だった。ギアが守屋の攻撃に耐え切れても搭乗者は別だ。
死屍累々といった表現の似合う山田トリオを見て加賀谷は心から謝罪の言葉を述べた。
皮肉を込めたつもりは無いのだが、敵に気遣われ慰められては立つ瀬が無いと山田トリオは戦意を奮い立たせる。
「甘い!!甘いぞ!!八坂!!そして、守屋一刀!!」
これには守屋どころか加賀谷も驚いた。
空元気で怪我をされても困ると山田トリオのバイタル値を確認するが、アドレナリンの分泌量が多いだけで
身体的なダメージは死ぬようなレベルでは無く、訓練を続けても恐らく問題は無さそうだ。
問題があるのかも知れないが生憎、加賀谷は医者では無い。いざとなれば冷泉の顧問が責任を取る事になるだろう。
空元気で怪我をされても困ると山田トリオのバイタル値を確認するが、アドレナリンの分泌量が多いだけで
身体的なダメージは死ぬようなレベルでは無く、訓練を続けても恐らく問題は無さそうだ。
問題があるのかも知れないが生憎、加賀谷は医者では無い。いざとなれば冷泉の顧問が責任を取る事になるだろう。
「俺達が勝つまで休憩は無いと言ったッ!!」
「この俺に持久戦を挑むつもりか?上等だッ!!」
(州大会下位校の選手では使い物にならんか。)
実際の所、SCI機の選手である加賀谷にはMCI機の選手としての守屋の実力を今一つ測りかねている。
確かに身体能力は優れていよう、尋常ではない成長速度である事も認めよう。だが、州大会上位に食い込むレベルでは無い。
此処までは分かっているが、どの程度のレベルなのかと問われると答える事が出来ない。
だから、適度な実力を持った敵を用意して守屋の実力を図り、今後の訓練方針を立てるつもりだったのだが
辛うじて州大会に出場出来る程度の実力の選手など最早、守屋の敵では無い。
確かに身体能力は優れていよう、尋常ではない成長速度である事も認めよう。だが、州大会上位に食い込むレベルでは無い。
此処までは分かっているが、どの程度のレベルなのかと問われると答える事が出来ない。
だから、適度な実力を持った敵を用意して守屋の実力を図り、今後の訓練方針を立てるつもりだったのだが
辛うじて州大会に出場出来る程度の実力の選手など最早、守屋の敵では無い。
(守屋が頼もしいのか、俺が用意した敵が弱過ぎたのか…)
膝を屈する所か、ただの一撃被弾する事無く一方的に山田トリオを攻め立てる守屋を見ながらしみじみと思った。
「なんだ、まだやっていたのか?」
守屋に破壊されたレイス・ジョーカーの修理が終わったにも関わらず、実機訓練を行う事も無く
シミュレータールームに引きこもって、延々と轟音を立て続けているのだから一体、何をしているのかと
加賀谷に代わりSCI選手陣の指揮を取っていた三笠が守屋の様子を見に、シミュレータールームに現れた。
シミュレータールームに引きこもって、延々と轟音を立て続けているのだから一体、何をしているのかと
加賀谷に代わりSCI選手陣の指揮を取っていた三笠が守屋の様子を見に、シミュレータールームに現れた。
「三笠先輩。いえ、存外にしぶとい相手で。
守屋らしからぬ言動に三笠は首を傾げる。冷泉学園の選手など取るに足らない雑魚ばかりだ。
先程から延々と鳴り続けている轟音の正体は間違い無く、守屋の打撃により生じた衝撃をシミュレーターが再現している音の筈。
先程から延々と鳴り続けている轟音の正体は間違い無く、守屋の打撃により生じた衝撃をシミュレーターが再現している音の筈。
「しぶとい?経験が浅いとは言え守屋が苦戦するような相手じゃ無いと思ったんだが…」
「なんでも、俺に勝つまで休憩しないとか。」
口を動かしながら、斬撃を打ち払い回し蹴りを放ちレイスを弾き飛ばす。
「それに昼に様子見って…今、何時ですか?」
ランスの突進を蹴り上げ、がら空きになった胴へ鋼拳を突き入れる。
「もう5時前だぞ?守屋は兎も角、冷泉の連中、飯も食わずによく頑張るな。」
三笠が苦笑いしていると、守屋は半ば驚きながらレイスの鋼拳を受け止める。
「道理で腹が…」
受け止めた鋼拳を捻り上げ、足払いで機体を浮かす。
「減るわけだ。」
腕を押し込み、胴を蹴り上げ頭から地に叩き落す。
「てっきり、まだ二時くらいかと思っていました。」
戦闘不能になったレイス3機を見て満足げに答える。
「何セットやったんだ?」
まだ余力が残り気味の守屋に呆れる。
「ちゃんと数えては無いですが…80セットくらいですかね?」
「今ので183セットだ。最早、限界への挑戦だな。」
圧倒していたのは最初の内だけで、後の方はただただ一方的な虐殺みたいなものである。
「シミュレーターって言ったって、かなりの衝撃を受ける筈だぞ?
それにも関わらず、守屋の攻撃を183セット…肉体の強靭さだけなら驚嘆に値するな。」
それにも関わらず、守屋の攻撃を183セット…肉体の強靭さだけなら驚嘆に値するな。」
「機体が再起動しないな…遂に死んだか。」
聞こえないならば気にする事も無いかと、加賀谷が失礼極まり無い事を言う。
ある意味、死んだも同然の状態で山田トリオの限界への挑戦は終わりを迎えた。
そして、山田トリオはスポーツギア史上、歴史的な連敗記録を樹立したのである。
ある意味、死んだも同然の状態で山田トリオの限界への挑戦は終わりを迎えた。
そして、山田トリオはスポーツギア史上、歴史的な連敗記録を樹立したのである。
「そんな事よりも、もうすぐ祭の時間だ。二人とも早く来いよ。」
「祭…ですか?」
夏合宿とは全く関係の無さそうな単語に守屋は胡乱な表情で首を傾げる。
「折角の夏休みなんだし、練習ばかりじゃ息が詰まるだろ?各地の行事も一緒に楽しんでしまおうって魂胆さ。」
確かに魅力的な魂胆だ。明日以降は何処の選手と戦い、何をして遊ぶのかと思うと
夏休み特有のトコトン夏を楽しめ的なノリで、テンションが跳ね上がる。
夏休み特有のトコトン夏を楽しめ的なノリで、テンションが跳ね上がる。
「素晴らしいだろう!!女子の浴衣姿はお前も好きだろう!!」
空調の効いた管制塔に居たせいか、はたまた他校生が居た為、自重していたのか知らないが
加賀谷の目が煩悩に薄汚れ、合宿前のテンションに戻り不穏な叫び声をあげる。
加賀谷の目が煩悩に薄汚れ、合宿前のテンションに戻り不穏な叫び声をあげる。
「………」
守屋は死んだ魚の様な目をして口を噤んだ。
「まあ…何だ。こんな奴でも部長なんだ。そうドン引きしないでやってくれ…」
「大好物に決まっているッ!!」
加賀谷を遥かに凌駕し、これまでに無い程の気合を込め守屋が咆哮する。
「お前もかよ!?」
「三笠先輩はお嫌いですか?女性の浴衣姿は。」
そんな突っ込みなど意に介するどころか無駄に凛々しく真面目な表情で三笠に問いかける。
「同じ男として同情を禁じ得ない。あの魅力が分からんとは…最早、お前に語る事は無い。すぐさま死ね。」
三笠が口を開くよりも早く、加賀谷が殺気を迸らせる。意味不明なノリで殺されては溜まったものでは無い。
単純な殴り合いの喧嘩ならば十中八九、三笠が勝つだろうが何せ、このノリだ。
第一、暑さの余り自らの頭を叩き割って意味不明な言動を口走る男に勝てる気がしない。
単純な殴り合いの喧嘩ならば十中八九、三笠が勝つだろうが何せ、このノリだ。
第一、暑さの余り自らの頭を叩き割って意味不明な言動を口走る男に勝てる気がしない。
「嫌いだとは一言も言っていないし寧ろ好きだ。ただ、守屋が煩悩を表に出した事に驚いただけだ。」
三笠は降参するから勘弁してくれと両腕を上げ、突っ込みの理由を語る。
守屋は部活と武に一辺倒の男で、色事に限らず歳相応の愚にも付かないような欲望を剥き出しにしている所を誰も見た事が無い。
守屋一刀を知る者なら誰でも驚き戸惑って当然だ。
守屋は部活と武に一辺倒の男で、色事に限らず歳相応の愚にも付かないような欲望を剥き出しにしている所を誰も見た事が無い。
守屋一刀を知る者なら誰でも驚き戸惑って当然だ。
「自分も男ですから。」
とは言え、本人の言うとおり守屋も若く健全な高校生だ。三度の飯より女が好きと言うわけではないが
人並み程度に煩悩を持つし是だけは譲れない拘りもある。それが浴衣を初めとする倭服だったと言うだけの事だ。
人並み程度に煩悩を持つし是だけは譲れない拘りもある。それが浴衣を初めとする倭服だったと言うだけの事だ。
「しかし…祭ですか。では、自分も支度をしてきます。」
「集合場所は冷泉学園の校門前だ。あまり遅いと置いて行くぞ。」
三笠の言葉に頷き、踵を返し外に向かいながら、モバイル機を起動させる。
目の前に冷泉学園周辺のマップデータを呼び出し、目当ての店を検索し
店員達に自分の目当ての品を置いているかを問いかける。
目の前に冷泉学園周辺のマップデータを呼び出し、目当ての店を検索し
店員達に自分の目当ての品を置いているかを問いかける。
八坂も統合歴以前は倭国の一部だったのだから、置いていない店の方が少ないとは思うが…
祭となればアレが無くては話にならない。
祭となればアレが無くては話にならない。
「部長達も事前に言っておいてくれれば、家から持って来たというのに…困ったものだ。」
一つも困っていない顔をして目当ての品物を販売している店へと歩き出した。
程無くして、待ち合わせ場所である冷泉学園の校門前に向かうとそこには霧坂が一人で待っていた。
「守屋…君?」
霧坂は守屋の見慣れない姿に驚き戸惑うが守屋は霧坂の姿に喜ぶ。
「霧坂も浴衣か。分かっているじゃないか。」
霧坂は群青の生地に大振りの紫陽花をあしらった浴衣にベージュの帯に小梅の意匠を模った帯留を巻き
長いブロンドアッシュの髪をアップにしてパールビーズの花簪を刺し、うなじを強調する髪形に変わっていた。
長いブロンドアッシュの髪をアップにしてパールビーズの花簪を刺し、うなじを強調する髪形に変わっていた。
「へへ。どーよ?」
「よく似合っている。可愛いじゃないか。拝んでも良いか?」
霧坂の恰好は守屋のモロ好みで珍しく厭味一つ言う事も無く即答で賛辞の言葉を並べ立てた。
「お、意外な反応。」
守屋が世辞など言う筈も無い。それが霧坂が相手なら尚更だ。
霧坂は守屋の言葉が心からの賛辞であるという事を見抜き、素直に喜んだ。
霧坂は守屋の言葉が心からの賛辞であるという事を見抜き、素直に喜んだ。
「浴衣の似合う女性は地球の宝だからな。」
「チッ…そういうオチかよ。」
喜びもほんの束の間、守屋にとってみれば浴衣が似合う女であれば誰でも眼福。
似合いさえすれば誰でも良い事に気付き、浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。
似合いさえすれば誰でも良い事に気付き、浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。
「ん?」
「別に~それよか、守屋君こそ格好良いじゃん。何か似合うというか自然というか…」
漆黒の生地に真紅の裏地に龍の刺繍が入った帯。
遥か昔、倭国が戦国と呼ばれていた時代に傾奇者と呼ばれる者達さながらの出で立ちである。
遥か昔、倭国が戦国と呼ばれていた時代に傾奇者と呼ばれる者達さながらの出で立ちである。
「砕牙に居た頃は倭服着る事の方が多かったしな。それにしても皆、遅いな。遅かったら置いて行くぞとか言ってたのに…」
「既に置いてかれているの。でも、一人放置していくのも可哀相だから態々、こうして待っていたってわけ。
本当に置いていくとは何とも無常な先輩方だ。だが、この状況は絶好の機会だ。
昔からやってみたかった事を霧坂に実行する事に決めた。
昔からやってみたかった事を霧坂に実行する事に決めた。
「悪いな、待たせたか?」
「ううん。今来たところ」
霧坂が浴衣姿とこの機会、思わず調子に乗って倭国定番のネタを振るが模範解答的な返しに思わず絶句する。理由は特に無い。
「何で、ネタ振りした守屋君がドン引きしてんのよ?」
期待通りの返しをしてやったというのに、確かにこれは理不尽極まりない。
「そりゃあ、不慣れなネタ振りなのは分かるけど、もう少し頑張るべきじゃない?」
「すまん。流石に其処までの領域には到達していない。」
守屋の敗北宣言に珍しく霧坂は情けない男だと肩を竦め、定位置である守屋の左隣に立ち祭りの会場へと足を向けた。
ぬか喜びさせたり、理不尽な対応をされたのだ。これでもかってくらい奢ってもらわないと割に合わないというものだ。
ぬか喜びさせたり、理不尽な対応をされたのだ。これでもかってくらい奢ってもらわないと割に合わないというものだ。
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