統合歴329年8月3日
「祭りで戦い、山で戦い、平原で戦い、牧場で戦い、今日で5日目か…」
八坂高校スポーツギア部一年生、守屋一刀は夏合宿の出来事を思い返していた。
7月29日、冷泉学園にてレイス・ジョーカー3機を徹底的に捻り潰した後に冷泉地区の夏祭りに参加。
7月30日、藤宮高校のアクト・メイレーンを撲殺後、藤宮山の大林で森林浴を満喫した。
8月1日、峰葉学園のディーヴァに執拗且つ理不尽な脚技で蹴り倒し、キャンプファイアを楽しんだ。
8月2日、茂弓高校のルナメタルを斬殺。茂弓自然公園で牛の乳搾りを体験した。
7月30日、藤宮高校のアクト・メイレーンを撲殺後、藤宮山の大林で森林浴を満喫した。
8月1日、峰葉学園のディーヴァに執拗且つ理不尽な脚技で蹴り倒し、キャンプファイアを楽しんだ。
8月2日、茂弓高校のルナメタルを斬殺。茂弓自然公園で牛の乳搾りを体験した。
夏合宿にしては明後日の方向へ突き進み過ぎている気がしないでも無いが
八坂高校スポーツギア部の部長、加賀谷望(夏仕様)のイカレ具合に比べればマシだ。
八坂高校スポーツギア部の部長、加賀谷望(夏仕様)のイカレ具合に比べればマシだ。
「夏の定番と言えば、海だあああああああああああああッ!!!」
「いや、違うだろ。…違わないけど。」
公共の場で咆哮する加賀谷から数歩離れ守屋は無関係を装い、口の中でぼそりと突っ込みを入れる。
小気味よく後頭部を引っ叩いて、なんでやねんと突っ込みたいのだが、アレの仲間と思われるのは勘弁願いたい。
小気味よく後頭部を引っ叩いて、なんでやねんと突っ込みたいのだが、アレの仲間と思われるのは勘弁願いたい。
「海はさて置き…今日は守屋も油断出来ない相手だぞ。」
守屋が憮然としていると、八坂高校スポーツギア部副部長、三笠慶から刺激的なお言葉が投げかけられる。
「お、遂に強敵の出現ですか?」
見知らぬギアに見知らぬ選手との戦いは楽しい。だが、相手が強いと尚楽しい。
だからこそ、実に楽しそうに待っていましたと言わんばかりの表情で三笠に向き直る。
だからこそ、実に楽しそうに待っていましたと言わんばかりの表情で三笠に向き直る。
「ああ。宝仙高校はウチと同じで団体戦主体のチームで、個人戦にはあまり力を入れて来なかったんだ。
だけど、今年になってからウチと同じで、少しばかり状況が変わってしまってな。」
だけど、今年になってからウチと同じで、少しばかり状況が変わってしまってな。」
「MCI搭載機を一機導入、適合する一年生が一名入部。だけど、練習相手が居ないという事ですか?」
「ああ。その上、初の対人戦で全部員を撃破したそうだ。」
成る程。同じ一年生で置かれた立場も似ている。相違点を上げるとすれば守屋は初の対人戦で全部員の撃破に至ってはいない。
それどころか初の対人戦で守屋を敗北至らしめた男に未だ、ただの一度も勝利する事が出来ないでいる。
それどころか初の対人戦で守屋を敗北至らしめた男に未だ、ただの一度も勝利する事が出来ないでいる。
苦虫を噛み潰したような表情で、その男…加賀谷に目線を移すと不穏当な言動と共にを咆哮し
周囲の歩行者を恐怖の渦に陥れていた。通報されてしまえ。
周囲の歩行者を恐怖の渦に陥れていた。通報されてしまえ。
守屋は再び目線を逸らし他人のフリをしながら何故、コレに勝てないのかと自問自答する。
考えるまでも無い。猛暑のせいで無残な姿に壊れてしまったが、コレとて八坂州五指に入る猛者なのだ。
いくら素質があるとは言え、スポーツギアを始めて半年にも満たない素人が如何にか出来る相手では無い。
それは重々承知している。事実、どんなに強くなってもその差が埋まらないのだから。
考えるまでも無い。猛暑のせいで無残な姿に壊れてしまったが、コレとて八坂州五指に入る猛者なのだ。
いくら素質があるとは言え、スポーツギアを始めて半年にも満たない素人が如何にか出来る相手では無い。
それは重々承知している。事実、どんなに強くなってもその差が埋まらないのだから。
(納得いかねぇ…)
一人で悶々としながら、思考の海に意識を埋没させてしまったせいで、迂闊にも危険人物の接近を許してしまう。
恐怖の大王と化していた加賀谷が、爬虫類の様な目付きで腰を振りながら、ゆっくりと守屋ににじり寄って来たのである。
先輩達に助けを求めようとするが因みに三笠を初めとする上級生達は既に退避済み。裏切り者め。
加賀谷は守屋との距離が1mという所で大きく跳躍。守屋の頭上を飛び越え、空中で4回転半、着地と同時に守屋に指を差す。
恐怖の大王と化していた加賀谷が、爬虫類の様な目付きで腰を振りながら、ゆっくりと守屋ににじり寄って来たのである。
先輩達に助けを求めようとするが因みに三笠を初めとする上級生達は既に退避済み。裏切り者め。
加賀谷は守屋との距離が1mという所で大きく跳躍。守屋の頭上を飛び越え、空中で4回転半、着地と同時に守屋に指を差す。
「似た者同士、お互いに切磋琢磨して来い!!」
見事としか言い様が無い筈なのに気持ち悪いとしか形容が出来ない。
と言うか、お前の運動神経は壊滅的な程に悪いんじゃなかったのか。
と言うか、お前の運動神経は壊滅的な程に悪いんじゃなかったのか。
宝仙高校に到着後、加賀谷は宝仙高校のスポーツギア部を恐怖の渦に…基、挨拶へ出向き
仮設格納庫の中で整備担当の部員達に最終調整の為に指示を飛ばす。
仮設格納庫の中で整備担当の部員達に最終調整の為に指示を飛ばす。
あのイカれたノリで、まともな指示を出せるとは思えないが、状況が悪くなった例は一度も無い。
納得は出来ないが腐っても加賀谷望だ。信じるしかあるまい。
納得は出来ないが腐っても加賀谷望だ。信じるしかあるまい。
(それよりも今日の対戦相手だな。)
仮設格納庫の中ではアイリス・ジョーカーの足元で整備担当の部員達が右往左往して非常に慌しい。
試合前はいつもだが、アイリス・ジョーカー担当の部員達は特に忙しく走り回っていた。
加賀谷は守屋が対戦するギアを見るなり急遽、守屋機の構成を変更するよう命じたからだ。
試合前はいつもだが、アイリス・ジョーカー担当の部員達は特に忙しく走り回っていた。
加賀谷は守屋が対戦するギアを見るなり急遽、守屋機の構成を変更するよう命じたからだ。
最近、定番装備になりつつある右腕のブレード内臓シールドは兎も角、脚部の追加衝撃緩和剤ユニットが並から特盛に変更。
そして、今回、初めて使用する有線式チャクラム内蔵シールドが左腕に装着されようとしていた。
そして、今回、初めて使用する有線式チャクラム内蔵シールドが左腕に装着されようとしていた。
「いよいよ、換装パーツの解禁ですか。」
「今日が総仕上げみたいなものだからな。」
予備のパーツは多めに用意してあるが、追加装備に関しては元々のストックと流通量が少なく
ある意味で本体よりも貴重な為、易々と破壊されても困るし格下相手に持ち出すような代物では無い。
だからこそ、追加装備を使う時は破壊されても惜しくないような相手と戦う時に限られる。
ある意味で本体よりも貴重な為、易々と破壊されても困るし格下相手に持ち出すような代物では無い。
だからこそ、追加装備を使う時は破壊されても惜しくないような相手と戦う時に限られる。
「それに加賀谷が急な構成変更を命じるくらいだ。搭乗者と同じでギアも難物って事だろ。」
だとしても、生身でもギアでも使った事の無いチャクラムなど持たされても使い所が分からない。
だが、加賀谷の教育方針は戦いを通じて自分で気付けという物で、細かな指示やアドバイスを出す事は滅多に無い。
ただ急な装備変更を指示するくらいだ。使いこなす事が出来れば戦いを有利に運ぶ事が出来るだろう。多分。
だが、加賀谷の教育方針は戦いを通じて自分で気付けという物で、細かな指示やアドバイスを出す事は滅多に無い。
ただ急な装備変更を指示するくらいだ。使いこなす事が出来れば戦いを有利に運ぶ事が出来るだろう。多分。
「加賀谷曰く、備えあれば楽しいな…だそうだ。」
「それは楽しいですね。全然、意味が分かりません。」
「俺も分からん。だが、この界隈で宋銭を除けば最強の相手だ。油断はするなよ。」
宋銭を除けば最強。三笠の言葉を受け、宋銭高校スポーツギア部の二年、矢神玲の事を考える。
この男もまた加賀谷と同様、底の見えぬ男だ。そして、恐らく8月12日に行われる地区大会でケリを付ける事になる。
シミュレーター訓練での戦績は散々な物で正直、勝てる見込みは全く無い。
妙な焦燥感に駆り立てられるが、今は目の前の敵だ。
この男もまた加賀谷と同様、底の見えぬ男だ。そして、恐らく8月12日に行われる地区大会でケリを付ける事になる。
シミュレーター訓練での戦績は散々な物で正直、勝てる見込みは全く無い。
妙な焦燥感に駆り立てられるが、今は目の前の敵だ。
「分かりました。アイリス・ジョーカー出しますよ。」
お前に用は無いと湧き上がる焦燥感を心の奥底に追いやり、アイリス・ジョーカーを立ち上げる。
宝仙高校のギアスタジアムの中に機体を歩ませると既に対戦相手が腕組みして待ち構えている。
だが、素手でやり合う気は無いらしく足元には巨大な棍棒のような武器が鎮座していた。
宝仙高校のギアスタジアムの中に機体を歩ませると既に対戦相手が腕組みして待ち構えている。
だが、素手でやり合う気は無いらしく足元には巨大な棍棒のような武器が鎮座していた。
「君が噂の守屋一刀君だね?私の名前は片桐セイナ。今日の共同訓練、お手柔らかにね。」
「ああ。宜しく頼む。」
最近、勝手に変な噂らしきものが一人歩きしているような気がしてならない。
アイリス・ジョーカーのサブモニターには対戦相手である片桐セイナの屈託の無い笑顔が表示されている。
青みがかったショートヘアに翠の瞳に絆創膏。少女と言うよりはまるで少年だ。
アイリス・ジョーカーのサブモニターには対戦相手である片桐セイナの屈託の無い笑顔が表示されている。
青みがかったショートヘアに翠の瞳に絆創膏。少女と言うよりはまるで少年だ。
(眼は…紅くないな。)
初の対人戦で全部員を完膚無きにまで叩き潰したという事前情報から察するに紅眼の仕業だと思っていたのだが
紅い眼を持つわけでも無ければ、ふざけた保護者に、ふざけた訓練を課せられたような雰囲気も無い。
何にせよ、油断出来る相手では無い。守屋機はブレードを引き伸ばし、いつでも跳躍出来るように腰を落とす。
紅い眼を持つわけでも無ければ、ふざけた保護者に、ふざけた訓練を課せられたような雰囲気も無い。
何にせよ、油断出来る相手では無い。守屋機はブレードを引き伸ばし、いつでも跳躍出来るように腰を落とす。
試合開始の合図がスタジアムに鳴り響く。敵が来るのを待ち受けるのは性に合わない。
守屋機は地を蹴り、砂埃を巻き上げ、白煙を吐き出しながら片桐機に肉迫する。
一歩一歩、地を蹴る度に地面が抉れ、砂煙と土塊が宙に巻き上げられる。
一歩一歩、地を蹴る度に地面が抉れ、砂煙と土塊が宙に巻き上げられる。
低空を飛翔する戦闘機のような勢いで迫り来るアイリス・ジョーカーの勇姿を片桐は楽しそうに口の端を吊り上げた。
(良い気迫をしている。部長達なんかよりもずっと楽しませてくれそうだよ。)
まずは小手調べ。加速の勢いに乗せたブレードを片桐機の腹部に目掛けて一閃。
だが、手応えは無い。片桐は守屋機の斬撃に合わせて機体を前転させ、攻撃を潜り抜ける。
だが、手応えは無い。片桐は守屋機の斬撃に合わせて機体を前転させ、攻撃を潜り抜ける。
機体が背中合わせになると二人は機体に急制動を掛け脚部から白煙と化した緩衝材を勢い良く吹き出す。
だが、それも一瞬。両機は機体を急反転させながら再び攻撃に転じる。初動はほぼ同時。
ぶつかり合った武器が大きな火花を迸らせ、機体に纏わり付く白煙を弾き飛ばし、膠着状態を生み出す。
だが、それも一瞬。両機は機体を急反転させながら再び攻撃に転じる。初動はほぼ同時。
ぶつかり合った武器が大きな火花を迸らせ、機体に纏わり付く白煙を弾き飛ばし、膠着状態を生み出す。
だが、力任せに押さえ込もうとする片桐に付き合うつもりなど無い。守屋機は半歩身を引きブレードを折り畳み
片桐機の踏み足に足払いを仕掛け体勢を崩す。片桐は慌てて立て直そうとするが、それよりも守屋が追撃に移る方が早い。
守屋は片桐が対応出来ないと判断すると更に間合いを詰めながら鋼拳を5発叩き込む。
片桐機の踏み足に足払いを仕掛け体勢を崩す。片桐は慌てて立て直そうとするが、それよりも守屋が追撃に移る方が早い。
守屋は片桐が対応出来ないと判断すると更に間合いを詰めながら鋼拳を5発叩き込む。
片桐機は守屋の容赦無い連撃に機体を激しく揺さ振られ、装甲を軋ませる。
それでも守屋は攻撃の手を緩めない。片桐機の頭部目掛けて、左足を蹴り上げる。
それでも守屋は攻撃の手を緩めない。片桐機の頭部目掛けて、左足を蹴り上げる。
頭を潰されては堪ったものでは無い。両腕を交差し如何にか体勢の立て直しを計る。
ガードを崩されたはしたもの、何とか頭部への攻撃は防いだ。今度は此方の番だと反撃に転じようとする。
ガードを崩されたはしたもの、何とか頭部への攻撃は防いだ。今度は此方の番だと反撃に転じようとする。
(ガードが崩れたな…)
一度、攻撃に転じた守屋が易々と反撃を許す筈も無く、蹴り抜いた左足を踵落としの要領で再び片桐機の頭部に襲い掛かる。
一発一発が一撃必殺の威力を秘めている癖に、弱点に対する猛襲も執拗と来たもので、とんでもない奴だと片桐は舌を巻く。
一発一発が一撃必殺の威力を秘めている癖に、弱点に対する猛襲も執拗と来たもので、とんでもない奴だと片桐は舌を巻く。
「あはは…冗談じゃねーわ。」
此処一番で漸く回避行動が間に合った。守屋機の踵落としは空を切り地面に激突し小さなクレーターを作った。
本当に冗談じゃないと苦笑いしながら、安全圏まで飛び退く。全く余裕の無い状況だが片桐の表情は実に楽しそうだ。
本当に冗談じゃないと苦笑いしながら、安全圏まで飛び退く。全く余裕の無い状況だが片桐の表情は実に楽しそうだ。
「こりゃ、相手の土俵に合わせてたら勝てねーわ。」
片桐は自分自身の戦闘能力と、愛機イーゼル"イェーガー"で守屋に近接戦闘を挑む愚を悟り、更に後退。
だが、後退した片桐を守屋が逃がす筈も無く、ここぞとばかりにアイリス・ジョーカーは撃ち出された砲弾の如く疾駆する。
あの脚力と技量だ。瞬き後一つ終える頃には間合いを詰められるどころか、攻撃を終えているだろう。
だが、後退した片桐を守屋が逃がす筈も無く、ここぞとばかりにアイリス・ジョーカーは撃ち出された砲弾の如く疾駆する。
あの脚力と技量だ。瞬き後一つ終える頃には間合いを詰められるどころか、攻撃を終えているだろう。
「ま、こっちもそうなんだけどね。」
守屋機の鋼拳が片桐機を打ち貫くよりも早く、片桐は攻撃に転じる。
今まで打撃に使っていた打突武器を腰溜めに構え、イーゼル・イェーガーの名が示す通り引鉄を引く。
爆音と共にマズルフラッシュが放たれ、破壊エネルギーを纏った巨大な砲弾が勢い良く吐き出される。
今まで打撃に使っていた打突武器を腰溜めに構え、イーゼル・イェーガーの名が示す通り引鉄を引く。
爆音と共にマズルフラッシュが放たれ、破壊エネルギーを纏った巨大な砲弾が勢い良く吐き出される。
「生憎と私と、この子の本領はこっちでね。守屋君はどーよ?」
流石に一撃でスポーツギアを沈黙させる程の威力は無いが、ほぼゼロ距離。
回避なんて不可能と言っても過言では無いし、ダメージも五分と五分だ。
回避なんて不可能と言っても過言では無いし、ダメージも五分と五分だ。
「どーも何も、扱うのも扱われるのも苦手だけど…特にアレだ。ソードライフルなんて最悪だ。」
景気良く噴出される白煙に気も止めず機体を急制動させ姿勢を落とし砲弾をどうにかやり過ごす。
守屋は忌々しげに顔を歪め、真紅の機体と優等生の皮を被った変人を思い浮かべる。
そして、歳方や内田の二年生の二人組みもそうだ。飛び道具を使う相手に良い思い出が無い。
そして、歳方や内田の二年生の二人組みもそうだ。飛び道具を使う相手に良い思い出が無い。
「ソードライフルでは無いけど、これも中々の逸品だよ?」
片桐は守屋以上に忌々しげに顔を歪める。いや、忌々しいと言うよりは悔しげと形容する方が正しい。
何せ苦手だと言っておきながら、奇襲じみたゼロ距離からの砲撃を避けられてしまっては立つ瀬が無い。
何せ苦手だと言っておきながら、奇襲じみたゼロ距離からの砲撃を避けられてしまっては立つ瀬が無い。
「MCIの銃使いか…面白そうだな。」
忌々しい得物ではある。だが、MCI同士の戦いで飛び道具を持ち出す相手と戦う機会は滅多にない。
SCIと異なり、MCIには照準システムや制御装置が無く、命中精度は劣悪。相手に被弾させるにはかなりの錬度を要する。
SCIと異なり、MCIには照準システムや制御装置が無く、命中精度は劣悪。相手に被弾させるにはかなりの錬度を要する。
しかし、近接武器と打ち合いが出来る程の耐久性と質量を持つ銃身を軽々と振り回し
あきらかに不向きな筈の長物を短銃さながらの早撃ちなんて芸当までやってのけるパワーがある。
あきらかに不向きな筈の長物を短銃さながらの早撃ちなんて芸当までやってのけるパワーがある。
MCIに飛び道具など愚の骨頂…そんな一般的な認識を改めさせられるには充分な相手。
そして、何よりもこんな珍しい相手と戦うのは実に面白い。
そして、何よりもこんな珍しい相手と戦うのは実に面白い。
「中長距離用のキャノンライフル。装弾数はそんなに多く無いから弾切れするまで頑張って逃げてね。」
片桐は今度は此方の番だとでも言いたげな様子で楽しげな口振りで守屋機に銃口を突きつける。
事実、楽しんでいた。ギア部に入部して四ヶ月、ただ一度の敗北も許した事が無い自分が初めて追い込まれたのだ。
それも、熟練の猛者では無く自分と同じ高校からスポーツギアを始めた、同じ一年生を相手にして。
事実、楽しんでいた。ギア部に入部して四ヶ月、ただ一度の敗北も許した事が無い自分が初めて追い込まれたのだ。
それも、熟練の猛者では無く自分と同じ高校からスポーツギアを始めた、同じ一年生を相手にして。
これまで上級生相手にしか戦って来なかった二人は同級生相手に負けてたまるかと牙を剥く。
「弾切れするまで撃たせる程、悠長な奴に思われていたのか…俺が易々と撃たせると思うなよッ!!」
気迫と共に片桐機に鋼拳を打ち飛ばすが、拳が届くよりも早く片桐は機体を真上に跳躍させ守屋の打撃から逃れる。
「跳躍力は奴の方が上か!」
追撃し空中戦を挑もうとするがアイリス・ジョーカーの脚力では追い付けない。
落下して来るまで大人しく此処で待つか?飛び道具を持っている相手に?論外だ。阿呆としか言い様が無い。
落下して来るまで大人しく此処で待つか?飛び道具を持っている相手に?論外だ。阿呆としか言い様が無い。
後退しながら回避行動を取り、片桐機の着地を待ってから反撃に転じるのがベターな選択なのだろうが
それでは無難過ぎて、とても面白く無い。啖呵を切った以上、正解も不正解も関係無く前に出るべきだ。
出るべきなのだが、前に出る為の手段が無いのでは如何しようも無い。
それでは無難過ぎて、とても面白く無い。啖呵を切った以上、正解も不正解も関係無く前に出るべきだ。
出るべきなのだが、前に出る為の手段が無いのでは如何しようも無い。
(いや、良い物があるじゃないか。)
守屋は忸怩たる思いで機体を後退させようとするが、頭のイカれたボスが持たせた武器の存在を思い出す。
左腕のシールドに内臓された有線チャクラム。流石に飛び道具扱い出来る程の射程距離は無い。
だが、空中の片桐を叩き落すには充分過ぎる射程距離だ。
左腕のシールドに内臓された有線チャクラム。流石に飛び道具扱い出来る程の射程距離は無い。
だが、空中の片桐を叩き落すには充分過ぎる射程距離だ。
片桐が地上の守屋に銃口を向けるよりも早く、左腕を片桐機に突き付けチャクラムを射出する。
チャクラムは甲高いうねり声をあげて風を切り裂き、片桐機の腹部を食い破ろうと襲い掛かる。
チャクラムは甲高いうねり声をあげて風を切り裂き、片桐機の腹部を食い破ろうと襲い掛かる。
だが、片桐は動揺する事無く、極めて冷静に対応する。
「打撃に比べたら遅いし、軽い。」
再びキャノンライフルを棍棒のように持ち、迫り来るチャクラムを弾き返す。
更に落下エネルギーを伴いキャノンライフルの砲身を守屋機の頭部に叩き落そうと猛襲する。
更に落下エネルギーを伴いキャノンライフルの砲身を守屋機の頭部に叩き落そうと猛襲する。
流石に意地を張って良い攻撃では無いとチャクラムを巻き戻しつつ、安全圏まで飛び退く。
危機一髪。隕石と言わんばかりの勢いで地面を抉り、片桐機の各部から景気良く緩衝材が噴出される。
更に砂煙と土塊が柱のように巻き上げられ、片桐機の姿を掻き消す。
更に砂煙と土塊が柱のように巻き上げられ、片桐機の姿を掻き消す。
(使い所がよく分からんな。)
再びチャクラムが収められた左腕を一瞥する。
(加賀谷部長が持たせてくれた以上、意味はある筈なんだが…)
使い道の分からない武器に気を取られていても仕方が無いが、加賀谷ならどう戦うのかと一瞬、意識を思考の海の埋没させる。
迂闊にも程がある。先程、守屋は片桐が見せた一瞬の隙を付き、七発の打撃を一瞬で叩き込んだ。
片桐は守屋と同じ事をキャノンライフルで返礼。だが、放たれる砲弾は七発どころでは済まされない。
片桐は守屋と同じ事をキャノンライフルで返礼。だが、放たれる砲弾は七発どころでは済まされない。
砲身からはフルオートで悪ふざけかとしか思えない量の弾が吐き出される。
とは言え、MCIの命中精度なぞSCI機と比較にならない程、劣悪だ。避けるまでも無く易々と当たる物では無い。
だからと言って、余裕をかましてもいられない。アイリス・ジョーカーを中心にけたたましく降り注がれる弾幕の雨。
とは言え、MCIの命中精度なぞSCI機と比較にならない程、劣悪だ。避けるまでも無く易々と当たる物では無い。
だからと言って、余裕をかましてもいられない。アイリス・ジョーカーを中心にけたたましく降り注がれる弾幕の雨。
避けずとも当たりはしないが、何処へ向かって飛んで来るかも分からない以上、抜け出す事も出来ない。
シールドで機体を覆い機体に降り注がれる砲弾の雨をやり過ごすが、この場に縫い止められているのも同然だ。
シールドで機体を覆い機体に降り注がれる砲弾の雨をやり過ごすが、この場に縫い止められているのも同然だ。
「砲撃が止んだ………ッ!?」
片桐がマガジンを入れ替えている隙に防御体勢を解き絶句する。
一見出鱈目に放たれた砲弾の雨は守屋機だけで無く、大地にも降り注がれ
綺麗に整地されていたスタジアムは見る影も無い程、無残な姿に変わり果てていた。
だが、今の守屋には変わり果てたスタジアムの姿を認識する事が出来ない。
綺麗に整地されていたスタジアムは見る影も無い程、無残な姿に変わり果てていた。
だが、今の守屋には変わり果てたスタジアムの姿を認識する事が出来ない。
何故か?
執拗なまでに降り注がれた弾幕の雨によって、盛大に巻き上げられた土煙と土塊は
スタジアム全体を覆い隠し、一寸先すら見る事も叶わないのだ。
スタジアム全体を覆い隠し、一寸先すら見る事も叶わないのだ。
土煙の結界。または砂塵の牢獄とでも形容すべきか。
戦闘兵器の意匠を凝らしただけの競技用の砲弾で此処までの事が出来るのか?
いや、競技用の砲弾で、これ程の芸当をやってのけるとは。
これまでに経験した事の無い状況に守屋は片桐の発想にただただ驚嘆する事しか出来ない。
いや、競技用の砲弾で、これ程の芸当をやってのけるとは。
これまでに経験した事の無い状況に守屋は片桐の発想にただただ驚嘆する事しか出来ない。
「これは一体、どう動くべきか…?」
驚嘆ばかりもしていられないのだが、突拍子も無い展開に二の足を踏めずにいると爆音と共に砲弾の洗礼が再び降り注がれる。
視界が最悪なのは片桐も同じ筈にも関わらず、迫り来る砲弾は先程とは比べ物にもならない正確さで守屋機を捉える。
視界が最悪なのは片桐も同じ筈にも関わらず、迫り来る砲弾は先程とは比べ物にもならない正確さで守屋機を捉える。
片桐が放った砲弾は7つ。その内の2つは地を抉り、3つはシールドに阻まれ、2つは左肩と右膝を捉えた。
「そりゃ、同じ場所にずっと突っ立ってりゃ目隠ししたって当たるに決まってるよ!」
「ダメージになったのは2発だけだ。下手糞。」
負け惜しみも良い所だ。兎に角、いつまでも立ち尽くしていては蜂の巣にされてしまうだけだ。
幸い、砲弾によって切り裂かれた砂の結界が片桐が居る位置を教えてくれる。
跳躍力では遅れを取ったが、瞬発力はアイリス・ジョーカーに分がある。
幸い、砲弾によって切り裂かれた砂の結界が片桐が居る位置を教えてくれる。
跳躍力では遅れを取ったが、瞬発力はアイリス・ジョーカーに分がある。
守屋機は砲弾によって作られた道を辿り真っ直ぐに爆走する。
撃ちたければ撃てば良い。一発や二発で撃ち落される程、柔な機体では無い。
それに単純な損傷の度合いで言えば、片桐の方が上だ。
撃ちたければ撃てば良い。一発や二発で撃ち落される程、柔な機体では無い。
それに単純な損傷の度合いで言えば、片桐の方が上だ。
どんなに傷付けられても片桐に追いついた時、腕なり脚なりが動けば逆転は容易い。
「なんだ。3発は防がれたんだ。今度こそ、これでおあいこ…かな?」
爆音が立て続けに7回鳴り響き、吐き出された砲弾は背後からアイリス・ジョーカーに襲い掛かる。
「後ろを取られただとッ!?」
外れた4発の砲弾は大地を蹂躙し、残る3発は守屋機の後頭部、背部、腰部に喰らい吐き盛大に転倒させる。
「あんな見晴らしの良い所を真っ直ぐ、走ってるんだもん。そりゃ狙うに決まってるっしょ!
それよりも、これでお互いに直撃5発。これで振り出しかな?」
それよりも、これでお互いに直撃5発。これで振り出しかな?」
何が振り出しなものか。視界は最悪だというのに、片桐は守屋の姿をはっきりと捉えた上に
音も無く守屋機の背後に回り、見事に頭部を撃ち抜いたのだ。
音も無く守屋機の背後に回り、見事に頭部を撃ち抜いたのだ。
だが、頭部を撃たれたとは言え、視界が一瞬明滅しただけで破壊には遠く及ばない。
「一発や二発、首を撃たれたくらいじゃ破壊はされんか…」
わざと声に出して呟く。声は震えていない。声が裏返ったりもしていない。
いつも通りの、普段通りの自分だ。ただの杞憂らしい。
いつも通りの、普段通りの自分だ。ただの杞憂らしい。
何が杞憂なのか?
(矢張り、負ける気がしないな。)
絶対的に不利な状況。だと言うのにも関わらず、守屋は諦める以前に己が敗北する事など全く考えていない。
厳密には考え付かないでいた。この状況でも、己が敗北するイメージが全く掴む事が出来ないのだ。
厳密には考え付かないでいた。この状況でも、己が敗北するイメージが全く掴む事が出来ないのだ。
不利な上に猛暑のせいで、遂に頭がイカれたのか?それとも、無意識の内に虚勢を張っていたのか?
そんな不安があったのだが、どうやら普段通り過ぎる程、いつもの自分だ。だったら普段通りにやれば良い。
そんな不安があったのだが、どうやら普段通り過ぎる程、いつもの自分だ。だったら普段通りにやれば良い。
そう片桐の言った通り、これでおあいこ。ただ振り出しに戻っただけに過ぎないのだ。
ぶつかり合う一年生。交差する砲撃と鋼拳。
だが、守屋一刀を良く知る二人の男。守屋を圧倒する二人の男は違う感想を持つだろう。
加賀谷望。そして、矢神玲の両名がこの場に居たら口を揃えてこう言う筈だ。
加賀谷望。そして、矢神玲の両名がこの場に居たら口を揃えてこう言う筈だ。
『アイツは追い込んでからが厄介なんだ。』
結果だけを見れば確かに華々しい戦果と言えよう。
結果だけしか見ないから守屋一刀の本質を見間違えてしまう。
結果だけしか見ないから守屋一刀の本質を見間違えてしまう。
確かに過去の戦績を遡ってみると、綺麗な勝ったり圧倒的な勝利を納める事は滅多に無い。
戦えば必ずと言って良い程、機体を壊す。メーカーの工場で修理を依頼した回数も少なくは無い。
戦えば必ずと言って良い程、機体を壊す。メーカーの工場で修理を依頼した回数も少なくは無い。
この場に矢神が居たら、加賀谷と同じ事を言っただろう。
「アイリス・ジョーカーが転倒した時点で徹底的に追撃するべきだった。
最早、イーゼル・イェーガーに勝ち目はない。」
最早、イーゼル・イェーガーに勝ち目はない。」
守屋機はありとあらゆる箇所に砲撃を受け無残な姿に変貌している。
あまり良い傾向では無い。だが、そんな事はいつもの事だ。
あまり良い傾向では無い。だが、そんな事はいつもの事だ。
(精々、いい気になってぶっ放していれば良いさ…)
砲撃に晒されながら状況を整理する。イーゼル・イェーガーを撃破する為に。
装甲が弾け、欠落していくが放っておけば良い。結果的に奴を殴り飛ばせば帳尻は合うのだから。
装甲が弾け、欠落していくが放っておけば良い。結果的に奴を殴り飛ばせば帳尻は合うのだから。
それに砲弾に晒され続けるのも悪い事ばかりでは無い。
立て続けに放たれる砲弾によって砂の結界は切り裂かれ視野が広くなる。
立て続けに放たれる砲弾によって砂の結界は切り裂かれ視野が広くなる。
「成る程…そういう事だったのか。」
結界と形容してはいるものの、所詮は白煙、土煙、土塊を巻き上げて作った粗悪品だ。
目暗ましその物が有効な手段とは言え、容易く破綻する。
目暗ましその物が有効な手段とは言え、容易く破綻する。
それを理解していたからこそ、片桐は意図的に地を抉り結界の再生を行っていた。
それなのにも関わらず、破綻したのは何故か?何故、守屋に見破られたのか?
それなのにも関わらず、破綻したのは何故か?何故、守屋に見破られたのか?
片桐は見てしまったのだ。砂の結界の隙間から転倒するアイリス・ジョーカーを。
アイリス・ジョーカーの装甲が欠落する様を。そして、興奮気味に己の勝利を確信する。
後、数発も砲弾を叩き込めば、勝利出来る。あの守屋一刀に。
アイリス・ジョーカーの装甲が欠落する様を。そして、興奮気味に己の勝利を確信する。
後、数発も砲弾を叩き込めば、勝利出来る。あの守屋一刀に。
片桐は興奮状態に陥り只管、砲弾を撃ち込む。自身の攻撃で砂の結界が薄くなっていく事も気にせず。
結界など無くても自分の勝利は確定的だ。結界の事なぞどうでも良い。
勝利への確信と興奮が片桐から冷静さと判断能力が欠落していく。
結界など無くても自分の勝利は確定的だ。結界の事なぞどうでも良い。
勝利への確信と興奮が片桐から冷静さと判断能力が欠落していく。
矢継ぎ早に砲弾が撃ち込まれるが、何処から来るのか分かりさえすれば避けられないにせよ対応は難しくない。
「とは言え…応用力に関しては片桐の方が上か。俺もまだまだだな。」
密度の薄くなった結界の外側から、此方に銃口を向ける片桐機を見て、またも驚嘆する。
片桐はMCI機の中でも随一の跳躍力を生かし、守屋機を中心に跳び回りながら空中で砲撃を浴びせていたのだ。
更に発砲時の大き過ぎる轟音を利用し、着地時の衝突音を掻き消し、音も無く背後に回ったかのように見せかけた。
常に鳴り響く発砲時の轟音は音が大き過ぎて、逆に位置の特定が出来ないという性質を利用したのである。
更に発砲時の大き過ぎる轟音を利用し、着地時の衝突音を掻き消し、音も無く背後に回ったかのように見せかけた。
常に鳴り響く発砲時の轟音は音が大き過ぎて、逆に位置の特定が出来ないという性質を利用したのである。
それだけでは無い。MCI搭載ギアは性質上、陸地での格闘戦が主となる。
空中戦を行うという発想が無い。それ故に、常に目線は前後左右。試合中に空を仰ぎ見る癖が無い。
空中戦を行うという発想が無い。それ故に、常に目線は前後左右。試合中に空を仰ぎ見る癖が無い。
だから多くの選手は対戦相手が上に居る筈が無いという固定概念に囚われる。
互いに生身で戦っているのでは無くギアで戦っているのだから人間と同様の戦い方をする必要は無い。
メーカーや、製造時期、開発コンセプトによってギアの性能は実に多彩で、その性能を引き出す為には
生身の人間同士の時のように戦うだけが全てでは無いし、それだけでは強豪選手に勝利する事は出来ない。
メーカーや、製造時期、開発コンセプトによってギアの性能は実に多彩で、その性能を引き出す為には
生身の人間同士の時のように戦うだけが全てでは無いし、それだけでは強豪選手に勝利する事は出来ない。
勝手にギアの戦い方を決め付け、自分自身の力だけで戦い続けて来た結果がこの様だが
ギアの応用力や限界に対する認識を改めさせられたのは大きな収穫だ。
ギアの応用力や限界に対する認識を改めさせられたのは大きな収穫だ。
何より、今やるべき事は後悔したり感心する事では無い。そんな物は寝床の一人反省会の時にやれば良い。
今やるべき事。それは…
「さて…勝ちに行くか。」
片桐が使っている手品は全てタネを明かした。片桐は丸裸にされたも同然。
だが、思考は乱さない。冷静且つ、油断無く片桐機を追う。
だが、思考は乱さない。冷静且つ、油断無く片桐機を追う。
砲撃を警戒しつつ、機体を走らせていると銃口を此方に向ける片桐機が見えた。
まるで自分が狩る側だと言いたげに無防備な姿を晒し攻撃を当てる事だけに集中している。
まるで自分が狩る側だと言いたげに無防備な姿を晒し攻撃を当てる事だけに集中している。
キャノンライフルが周囲に爆音を轟かせながら、巨大な砲弾を吐き出し
守屋機の頭部を食い破ろうと砂煙を、土塊を切り裂きながら猛進する。
守屋機の頭部を食い破ろうと砂煙を、土塊を切り裂きながら猛進する。
片桐は迫り来るアイリス・ジョーカーの事など露知らず、嬉々として砲弾叩き込み、
弾が切れてはマガジンを入れ替える作業に没頭していた。
弾が切れてはマガジンを入れ替える作業に没頭していた。
もしも。そんな言葉に意味など無いが、もしも、片桐が守屋機の姿だけで無く、進行方向も確認していれば
先程から守屋機が居るであろう予測位置にマガジン2発分の砲弾を叩き込んだにも関わらず
AIが試合終了のサインを。片桐の勝利を宣言しない事に疑いを持てば違う結果にもなったのだろう。
先程から守屋機が居るであろう予測位置にマガジン2発分の砲弾を叩き込んだにも関わらず
AIが試合終了のサインを。片桐の勝利を宣言しない事に疑いを持てば違う結果にもなったのだろう。
片桐は着地と同時に新たなマガジンを挿入。最早、動き回るまでも無い。棒立ちで発砲し続ける。
確かに格闘戦能力の高さだけに事関して言えば、最強の相手だったと認めよう。
だが、それでも、この私に撃ち落されて終わる事には違いは無い。いつもの対戦相手と何が違う?
だが、それでも、この私に撃ち落されて終わる事には違いは無い。いつもの対戦相手と何が違う?
機体の頑丈さも認めてやるべきか?などと思いながら最後のマガジンを装填する。
「え…?最後…?」
有り得ない。今回用意したマガジンは7個。この一戦で使い切る為に用意したわけでは無い。
7つもあれば二戦くらいは無補給でいけると思って事前に持ち込んでいたのだ。
此処に来て漸く、片桐は異変を感じ取る。
7つもあれば二戦くらいは無補給でいけると思って事前に持ち込んでいたのだ。
此処に来て漸く、片桐は異変を感じ取る。
「守屋君を追い込んで、トドメを刺すつもりで…」
散々、発砲しまくった挙句、最後のマガジンを装填した。
片桐は大粒の汗を滝のように流しながら、情報モニタを確認する。
片桐は大粒の汗を滝のように流しながら、情報モニタを確認する。
興奮しまくった挙句、発砲しまくって自分が勝った事に気付かず、アイリス・ジョーカーに追撃を仕掛けた。
いくら競技用の弾頭とは言え、これだけの直撃弾を与えたのだ。大怪我をさせているかも知れない。最悪の場合…
だが、情報パネルはアイリス・ジョーカーの健在を示している。
いくら競技用の弾頭とは言え、これだけの直撃弾を与えたのだ。大怪我をさせているかも知れない。最悪の場合…
だが、情報パネルはアイリス・ジョーカーの健在を示している。
「これだけ撃ったのに!?なんで、撃破出来てないの!?
って、そもそも被弾していない!?なんで!?どうなってるの!?」
って、そもそも被弾していない!?なんで!?どうなってるの!?」
MCIギアに搭載されている簡素で粗悪なレーダーがアイリス・ジョーカーの現在位置を表示した。
そんなレーダーが相手ギアの現在位置を捉える事など出来る筈が無い。出来るとすれば…
片桐が狼狽していると突然の衝撃がコクピットを揺さぶり、イーゼル・イェーガーのモニターがブラックアウトする。
そんなレーダーが相手ギアの現在位置を捉える事など出来る筈が無い。出来るとすれば…
片桐が狼狽していると突然の衝撃がコクピットを揺さぶり、イーゼル・イェーガーのモニターがブラックアウトする。
「な、何…どうなってるの、これ…」
「敵が前から来るとは限らない。片桐と同じ事をやっただけだ。」
イーゼル・イェーガーは首を切り落とされ、糸の切れた操り人形のように地に崩れ落ちた。
大見得切って頭部を刎ね飛ばしたは良いものの、改めてステータスパネルを確認すると普段通り、最悪としか言い様が無く
グリーンランプなんて物は相変わらず無縁で、全身レッドとイエローの見事なコントラストで彩られていた。
ついでに派手に動き回ったせいで、衝撃緩和剤の特盛も完食寸前。
グリーンランプなんて物は相変わらず無縁で、全身レッドとイエローの見事なコントラストで彩られていた。
ついでに派手に動き回ったせいで、衝撃緩和剤の特盛も完食寸前。
(五体満足で勝てたのはある意味進歩か?)
「あーもー、悔しいなぁ…って言うか、飛び道具は苦手なんじゃないの!?」
「一度、攻略の糸口が見つかればいくらでも逆転出来るさ。
それと手加減している癖に戦い方が一々、雑過ぎる。」
それと手加減している癖に戦い方が一々、雑過ぎる。」
攻撃が雑な上に集中力が持続しないのは本人の問題なので、それはさて置き
片桐が、もっと姑息に無慈悲に攻めていれば守屋を容易く撃破出来ていたであろう。
にも関わらず、特に前半は此方の能力を測るかのように観察しながら戦っていたように感じられた。
片桐が、もっと姑息に無慈悲に攻めていれば守屋を容易く撃破出来ていたであろう。
にも関わらず、特に前半は此方の能力を測るかのように観察しながら戦っていたように感じられた。
「べ、別に舐めてたわけじゃないってば…」
片桐は怒られた子供のように小さくなるので、守屋は別に怒ったつもりは全く無いと肩を竦める。
「州大会でやり合う相手なんだし?色々と出し惜しみさせてもらっただけだよ。」
「成る程。だったら、次にやり合う時は全て暴かせてもらうさ。」
どんな手札を持ち出そうと、今回と同様に正面から叩き潰してやれば良い。
それにアイリス・ジョーカーがボロボロになるのは何時もの事だ。
何もかも普段通りなのだから州大会でもボロボロにしたり、されたりしながら敵を倒せば良い。
それにアイリス・ジョーカーがボロボロになるのは何時もの事だ。
何もかも普段通りなのだから州大会でもボロボロにしたり、されたりしながら敵を倒せば良い。
統合歴329年8月5日
「まさか残りの合宿期間を丸々、遊びに使うとは…」
宝仙高校のスポーツギア部に別れを告げ、八坂高校スポーツギア部のメンバー達は
当初の目的…では無いが、それなりにお目当てになっていた海水浴場へと訪れていた。
当初の目的…では無いが、それなりにお目当てになっていた海水浴場へと訪れていた。
加賀谷の入手した情報によると守屋達の行動可能範囲でまともな練習相手になりそうな高校が無いそうだ。
あんまり雑魚ばかりと戦っても仕方が無いし、あまり手の内を晒すような真似もしたく無いので遊んでしまえという事らしい。
些か物足りない気分もするが、青い空の下で青い海に浮かんでいると、こういうのも良いかと戦意が薄れてくる。
あんまり雑魚ばかりと戦っても仕方が無いし、あまり手の内を晒すような真似もしたく無いので遊んでしまえという事らしい。
些か物足りない気分もするが、青い空の下で青い海に浮かんでいると、こういうのも良いかと戦意が薄れてくる。
「ま、頑張った自分へのご褒美って事で!何だかんだで全勝中なんだって?」
「そういう霧坂こそ、一度も撃破されていないんだってな?」
加賀谷曰く、霧坂はSCI乗りの一年生の中では、この界隈でトップクラスの技量を持つらしい。
「そりゃ、加賀谷部長のスパルタ訓練メニューだって毎日こなしているし
対人戦の回数と人数だけなら守屋君よりも上なんだからね。」
対人戦の回数と人数だけなら守屋君よりも上なんだからね。」
そう言うと霧坂はそれなりに豊満な胸を張り、得意げな笑みを浮かべる。
「成る程…そういや、霧坂とはまだ実機でやり合った事無かったな。」
良い感じに揺れる霧坂の胸には目もくれずに波に揺られながら、顔を合わせる事も無く青空を眺めながら口を開く。
初めて、シミュレーターで対戦した時は悉く、動きを読まれ左腕を破壊され胆を舐めた事を思い出す。
初めて、シミュレーターで対戦した時は悉く、動きを読まれ左腕を破壊され胆を舐めた事を思い出す。
「守屋君がSCIに乗るんだったら相手になるけど?」
まるで守屋の態度が、お前には女としての魅力は全く無いが、搭乗者としてならアリだと言っているようで
流石の霧坂も表情を憮然とさせる。卑猥な表情で見らるのも勘弁だが、女としては矢張り誉められたいものである。
流石の霧坂も表情を憮然とさせる。卑猥な表情で見らるのも勘弁だが、女としては矢張り誉められたいものである。
「無理を言うなよ。」
そんな霧坂に気付いた様子も無く守屋は半笑いで勘弁してくれ降参だと両腕を上げる。
「さらりと恐ろしい事言うからだよ。それよか他に言うべき事があるんじゃないの?」
「あ?ああ…可愛いな?」
「あー…」
さり気無い所か直球で誉めろと言わんばかりの態度で守屋に迫るが、お気に召さない所か何の感慨も無いらしく
浴衣姿の時とは打って変わって、適当に取って付けたような誉め言葉に霧坂は憤慨を通り越して軽く眩暈がした。
浴衣姿の時とは打って変わって、適当に取って付けたような誉め言葉に霧坂は憤慨を通り越して軽く眩暈がした。
一先ず、海パンを奪い取り、そこいらに居る女の子を手当たり次第に呼びつけて
守屋を晒し者にするのは基本としてどうやって報復してやろうか。
守屋を晒し者にするのは基本としてどうやって報復してやろうか。
それともアレか?根本的な考え方が間違えていたのか?
この場合、ハイレグビキニでは無く、スク水を着てくるのがベターだったのか?
この場合、ハイレグビキニでは無く、スク水を着てくるのがベターだったのか?
(何で、私が守屋君なんかの為に、そんなモノ着てあげなきゃいけないのよ。)
そもそも、守屋がそんな事を望んでいる筈も無く、ただの言いがかりでしか無い。
そんな感じに失礼な事を思案していると、守屋と霧坂を呼ぶ三笠の声が聞こえる。手には海の定番アイテムである西瓜が。
何か最近、コイツ等仲良いなとか思いながら守屋の後に続いて三笠の元に向かうと守屋の鍛え上げられた背筋が目に付く。
そんな感じに失礼な事を思案していると、守屋と霧坂を呼ぶ三笠の声が聞こえる。手には海の定番アイテムである西瓜が。
何か最近、コイツ等仲良いなとか思いながら守屋の後に続いて三笠の元に向かうと守屋の鍛え上げられた背筋が目に付く。
見事に鍛え上げられてはいるが生憎と地上最強の生物程では無く、鬼の形相の様な背中では無い。
意外と普通の人間と大差無いんだなと少しばかり残念な気分に陥りながら、定位置である守屋の左隣に並んだ。
意外と普通の人間と大差無いんだなと少しばかり残念な気分に陥りながら、定位置である守屋の左隣に並んだ。
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