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GEARS 第十話

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匿名ユーザー

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統合歴329年8月6日

「楽しかったけど、やっぱり我が家が一番、落ち着くわ~。」

霧坂は部屋に着くなり荷物を投げ捨て、ベッドの上に飛び乗り寛ぎ始めた。

「気持ちは分からんでも無いが、それは中年の台詞であって子供の台詞じゃない。」

守屋は慎みという物を何処かに置き忘れた同級生の行動に頭を抱える。
霧坂がベッドにダイブした時に黒い下着がチラリどころか、モロに見えてしまい非常に居心地が悪い。

「せめて、大人の台詞って言ってよねぇ?」

守屋が霧坂に行動に対して苦言を漏らすのもいつもの事で、霧坂がそれを適当にあしらうのもいつもの事だ。
だから、霧坂は特に気にするわけでも無く、守屋に向き直り足をバタバタさせながら、さも楽しげに不満を漏らす。
気付いていないのか、気にしていないのか。変に指摘すると薮蛇になり兼ねないので守屋は下着の事に関しては黙る事にした。

「第一、此処は俺の部屋であって、霧坂の部屋では無い。そもそも…」

仮にも男の部屋に二人で居ると言うのにも関わらず、この無防備さ加減には呆れ果てるしか無い。
普段から異性扱いしていないのはお互い様だが、流石に此処まで酷いと辟易するのも通り越して、軽く凹みそうになる。
尤も、其れすらもお互い様なのだから霧坂ばかりに文句を論うのは、少しばかり筋違いというものだ。

「細かい事、気にしないの!!私にとっちゃセカンドホームみたいなモンだしさ。」

あまり守屋の苦言を聞き流してばかりもいられない。あまり放って置くと、苦言では無くお説教が始まるので
キリの良い所で大声を出して守屋の苦言を中断させる。一々、事細かで神経質で面倒な男だと思う。

「さも当然のように俺のベッドにダイブしやがって…もう少し、遠慮ってものをだな…」

(って、止まんないし。)

普段の守屋ならば肩を竦めて溜息を吐く所なのだが、生憎と今の守屋は照れ隠しの真っ最中だ。
自分自身を落ち着ける為に苦言を並べ立てているだけに過ぎず、自分が何を言っているのか、よく分かっていない。
いないのだが、説教の最中、霧坂がベッドにダイブする姿と同時に下着の色まで鮮明に思い出してしまい守屋は赤面して押し黙る。

「さて、それじゃ夏休みの宿題を片付けちゃいましょうかね。」

霧坂は守屋が静かになったのを良い事に放り投げた鞄の中から数冊のテキストを取り出し、守屋のデスクを陣取る。

「聞けよ…オイ。」

霧坂イヤーは馬の耳。声が大きかろうが、小さかろうが都合の悪い事は防御率6割くらいで事前にシャットダウン。

期末試験で一緒に勉強したのを切欠に霧坂が守屋家に居付くようになり早一ヶ月。
他のフロアもそうだが、特に守屋の部屋に関しては勝手知ったるもので何処に何があるかなど本人以上に把握している。
今回の獲物は守屋が既に片付けているであろう夏期休暇の課題だ。デスク右袖下から二番目の引き出しからテキストを取り出す。

「パーフェクト♪」

パラパラと中身を確認して霧坂は満足そうな笑みを浮かべる。正否は別にして一生懸命やりました感がアリアリと出ている。

「どうでも良いが、丸写「母さんが今夜、ウチで夕飯食べていけって言ってたけど如何する?」

説教が始まるよりも早く守屋を黙らせる為、使用回数無制限な上に一撃必殺の威力と信頼度を誇るカードを叩き付ける。

「勿論、有難く頂戴する。」

霧坂の目論見通り、守屋は短く返答し口を閉ざす。

守屋家の住人は総じて料理の腕が致命的で家庭の食卓という物に縁が無く、食事の殆どを外食や出来合い等で済ませている。
そのせいか、守屋は齢16にして手作りの料理や家庭の味といったものに対して、異常な程の執着心を見せるのだ。
幸いにも霧坂の母親は勿論の事、霧坂自身も守屋の舌を満足させるには充分過ぎる料理の腕を持っている。

霧坂は守屋の悲惨な食力事情に同情すると同時に何とも餌付けするのが簡単な男なのだろうと苦笑する。
特に空腹時は従順だし、何を与えても満足そうな笑顔で平らげてくれるので、守屋に手料理を振舞うのも悪い気はしない。

「じゃ、有難く丸写し「駄目に決まっているだろ。」

守屋の反撃。霧坂が喋り終わるよりも早く、暴挙に出るよりも早くテキストを引っ手繰り、半目で睨みつける。

謀ったな守屋一刀!繊細な乙女心を踏み躙るとは何たる事か!?今日の夕飯はお前の嫌いな…って、嫌いな物とかあったっけ?
そんな複雑怪奇で意味不明な感情を込めて睨み返すが、そんな感情を守屋に…寧ろ、理解出来る者など一人として居る筈が無い。

「少しは将来を見据えて真面目に勉強したら如何だ?」

「まだ高1だよ?もう将来とか考えてんの?」

真面目な奴だとは思っていたが此処までかという驚きが半分、お前は進路指導の教師かという反発心にも似た呆れが半分。
守屋は気を悪くするでも無く、そう思われるのは織り込み済みだと言わんばかりに苦笑しながら返答する。

「俺はウチがこんなだからな。高校を卒業したら砕牙州の士官学校に入学して軍へ進む事になるだろうな。」

「軍人かー…私は如何しようかなぁ…」

霧坂は人差し指を唇に当てて考え込むが何も出て来ない。

やりたい事や好きな事と言えば、スポーツギア観戦くらいのもので他の事は割と如何でも良い。
実は自分の手で動かす。作る。直すといった事に関しては、それ程の熱意は持っていないのだ。
常時特等席で観戦出来るからギア部に入ったに過ぎず、選手の道を選んだのも整備するより動かす方がマシだったからだ。

「ま、その内に何か思い付くとは思うけどね。」

「何も思い付かないんなら勉強しておけ。出来るのと出来ないのとでは選択肢の幅が大きく違って来るからな。
後々、やりたい事が見つかっても学力が不足しているせいで、その道に進めないってのは無念だろ?」

「色々、考えてるんだね?」

「全部、母さんの受け売りなんだけどな。あの人も学力不足で苦労したクチらしいからな。
高校卒業する直前で、やっぱり別の道に進みたいって思った時に苦労するぞってな。」

古くから続く軍人一族の一人息子とは言え、軍属に就く事を強要されているわけでも無ければ、期待されているわけでも無い。
「やる事が無いなら家業を継げ」太古の時代に多く倭国人達が遺した言葉に従い軍人にでもなるか程度の心構えをしているだけだ。

「だけど、夏休みももう折り返しだよ?なのに、それらしいイベントが全く無いのは、ちょっと問題だと思うよ?」

守屋は偶には霧坂と真面目な会話でもしてみようと思ってしまった自分が大馬鹿者だったと思い知らされた。
全て夏合宿中に詰め込んで来たとは言え、かなり遊び倒してきたつもりだったのだが、霧坂はまだまだ足りていないらしい。

「夏合宿やって、夏祭りやって、牧場に海に山。花火も見たし来週は区大会もある。これ以上、何を望むんだ?」

「何か物足りないと思っていたけど、地区大会の事を完全に忘れていたよ。」

そう。霧坂にとって、この夏は遊び足りていないのでは無く、ギア分が不足気味なのだ。
と言うよりも、守屋とアイリス・ジョーカーに伯仲出来るだけの実力者との戦いが余りにも無さ過ぎる。
片桐との戦いも悪くは無かったが所詮は遠距戦仕様、鋼のぶつかり合いとは少し違う。

それもこれも、矢神が赤点を取り過ぎて八坂高校に来れなくなったのが悪い。
だが、そんな不満とも後数日でお別れだ。この夏一番の大目玉、守屋と矢神の決戦の日は後一週間足らずで訪れるのだから。

統合歴329年8月12日

八坂州野宮地区大会当日。野宮区立ギアスタジアムには多くの観客が詰め掛けていた。
観客は各校の関係者、熱心なスポーツギアファン。そして、マスコミだけに留まらない。
ギアメーカー、プロモーターチームにギアの盛んな大学、企業といった選手や高校にとって気の抜く事の出来ない観客も多い。

スポーツギアのチームは物好きなスポンサーからの資金提供によって活動を行っているが、それが全てではない。

観客を魅了出来る程の試合を展開出来るだけの技量を持つ選手が搭乗したギアは兎に角、よく売れるのだ。
メーカーや仕様によって長短は分かれるが、スポーツギアの基本性能や価格にそれ程、大きな開きが無い。
勿論、追加パーツや換装パーツ等の性能を向上させる為のパーツもあるが、腕でカバー出来る程度の範囲だ。

よって、チームがギアを購入する際の判断基準は外見、仕様。そして、ギアの印象で決まるのだ。

この野宮地区であれば加賀谷望の愛機、スカーレット。矢神玲のリヴァーツ等が当てはまる。
特にこの2機は地球全土の高校生ギア選手に大きな支持を受けており、生産が追いつかない程である。

彼等が乗ってくれさえすれば広告塔となってくれるのだからメーカーとしては楽な商売だ。
だが、彼等が別の機体に乗り換えてしまったら?自社のギアに乗り換える分には良いが、これが別のメーカーだったら?
企業としては、そんな状態に陥るのは実に面白くない事この上ない。では、もっと乗ってもらう為にはどのような手段を講じるべきか?

例えば予備パーツの安価提供、新開発パーツの優先提供、衝撃緩和剤、弾薬の無償提供などが挙げられる。
兎に角、ギアは金のかかるスポーツ用品だ。消耗品の類でも積み重なると眩暈がする程の金額を要求される。
そういった負担をメーカーが肩代わりする事で長期に渡って広告塔としての役割を果たしてもらうというやり方だ。

守屋としては、アイリス・ジョーカーの性能を観客達に見せ付け、半年足らずで築いてしまった莫大な修理費用を精算したい所である。
何よりも広告塔としての役割を担えた時の金銭以外の利点、工場搬送時の最優先修理は守屋にとっては必要不可欠だろう。
どんな敵でも徹底的に叩き潰す代わりに、徹底的に破壊されるのだから優先的に修理してもらえるに越した事は無いのだから。

加賀谷にとってはプロモーターチームの存在が気になる所だ。
彼等は優秀な選手。それも近々、卒業予定にある3年生をスカウトする為に大会の視察に訪れる。

(全く…何様のつもりなのやら。)

加賀谷はスカウトの可否に興味は無い。寧ろ、辟易する程に引く手数多の状態で正直、目障り極まりない。
此方の都合も考えず、傲慢にも上から目線で品定めをしてくる連中が気に入らないだけだ。
だが、そんな連中を公式の場で完膚なきに叩き潰し、メンツを踏み躙ってやるのはさぞかし楽しいだろうとも思う。

最後に矢神玲。今の所、様々な思惑を錯綜させている部外者達には全くと言うわけでは無いが興味が無い。
学力が少々…いや、致命的に不自由な彼だからこそ、大学や企業のお目にかかって楽に人並みの進路を歩みたいくらいの欲はある。

だが、そんな事の為にこの日、この時、この場所に立っているのでは無い。
誰かと競い合う為に、自分の力を表現する為にスポーツギアの選手としてこの場所に居るのだ。

そして、まだまだ自分と競い合い、ぶつかり合う程の実力には達してはいない物の
将来的には一番のライバルになるであろう少年が銀の髪を陽光で煌かせながら此方へ向かって来る。

「久しぶりだな、守屋。今日は新人戦じゃなくて、レギュラーとして出るんだよな?」

「当然!矢神サンこそ出場するんだよな?またリヴァーツの中に古坂みたいな奴が入ってるって事は無いんだよな?」

守屋にとっては待ちに待った決戦の日だ。唯でさえ長期間のお預けを喰らっている状態だ。
流石にこれ以上は『自称』温厚な守屋でも我慢出来そうには無い。無粋で不逞の輩如きに邪魔をされては業腹というものだ。
そんな守屋の心情を感じ取ったのか、矢神は実に楽しそうに笑う。成長著しい守屋が夏休みの前半で、どれだけ腕を上げたのか?
矢神としても、そろそろ一度、本気で戦っておきたいと思っていた所だったのだ。誰にも邪魔をさせるつもりは無い。

「今日は一切、手加減しないからな。俺とリヴァーツの真の力って奴を見せてやるよ。」

「それは楽しみだ。俺と当たるまでに負けるなよ?」

守屋にとっては初の公式大会だが、緊張には程遠い。
以前、宋銭高校と練習試合を行う前日に霧坂に聞かされていたが野宮地区内で守屋とまともに戦えるのは矢神玲だけだ。
矢神と戦う為には決勝のステージに立たなければならないが、所詮は有象無象。守屋の準備運動の相手でしか無い。

その一方で矢神は抜刀すらせず、ただの一度も被弾せずに拳一つで対戦相手を一撃で粉砕していく。

「まさに破竹の勢いだな。」

守屋は偶然、矢神の試合を目にしてしまい、更に奮起する。
是が非でも、矢神と対等の立場になりたい守屋は左腕一本で、矢神同様に被弾する事無く一撃で勝負を進めていく。
矢神を打ち倒すだけに為に地区大会の舞台に立っているのだ。矢神と同じ事が出来なくては万に一つも勝ち目は無い。

八坂高校ギア部副部長、三笠慶。二年生、阿部辰巳は二人の戦いぶりに嘆息する事しか出来ないで居た。

「守屋の奴、矢神に勝てると思いますか?」

「今のままでは厳しいかも知れんが、漸く巡ってきた矢神との決着に守屋の戦意も充実している。
勝てないにせよ、この場に居る人間全員の度肝を抜く程度には追い詰める事が出来ると思っているんだが…」

確かに一介の高校生に過ぎない二人ですら、守屋の闘気がアイリス・ジョーカーを通じて溢れ出ているのが分かる程だ。
守屋と矢神は流れるように決勝戦まで駒を進める。此処までは八坂のギア部員達の予測通りだ。
だが、観客達はそういうわけにはいかない。完全にノーマークだった1年生が矢神に追い縋る程の勢いで試合を進めていくのだから。

しかし、観客達の驚きなど二人には関係の無い事だし、知った事じゃない。
真紅の装甲に包まれたリヴァーツの眼前に、白銀の装甲を身に纏うアイリス・ジョーカーが立ちはだかる。

「漸くだな。」

守屋は興奮と喜色を含んだ声を矢神に投げかける。これから悪鬼羅刹の如く戦おうとしているとは思えない程、明るい声だった。

「随分と待たせてしまったみたいだからなぁ…」

矢神は楽しくて仕方が無いと言わんばかりに守屋の言葉を受け止め、左肩にマウントされた斬馬刀の柄を握る。

「お互いに手加減は一切、無しだ。」

矢神は真紅の瞳を炎の様に煌かせ、アイリス・ジョーカーの全長よりも長い刃渡り8mもある斬馬刀の切っ先を守屋機に突きつける。

「良し…やるぞ。ジョーカー!」

今までのシミュレーター訓練では受けた事の無い矢神の気炎に煽られ、守屋は意気揚々と声を張り上げる。
右腕に装備されたバックラーブレードの刀身を展開し腰溜めに構え、試合開始の合図と同時に砂埃を巻き上げながら地を蹴る。
スポーツギア随一の脚力を持つアイリス・ジョーカーの加速力から繰り出される刺突は馬鹿正直に矢上機の首に喰らい付こうとする。

フェイントも牽制も無い単純明快な一撃だが、目にも止まらぬ高速の剛撃である事には違いない。
まともに喰らえば敗北は避けられない。とは言え、防ぐのも避けるのも面白くない。何よりも無粋だと矢神は考えた。
守屋が態々、馬鹿正直で力任せな攻撃で俺達の決戦に幕を開けてくれたのだ。
小手先だけの技で対応するなど愚の骨頂。無礼にも程があると考え、矢神は斬馬刀を上段に構える。

「真っ向勝負だ、守屋ァッ!!」

馬鹿正直で力任せな攻撃以外の返礼など思いつきもしない。その結果が敗北だとしても悔いは無いし、敗北など有り得ない。
矢神の闘気を纏った斬馬刀は雷鳴と言わんばかりの轟音を鳴り響かせながら風を引き裂き、大地を侵略しただけでは飽き足らず
地面の役割を果たしていたモノを土砂と共に竜巻の如く、空高く巻き上げ二機のギアを覆い隠す。

周囲に飛び散る砂埃や破片と共に、バックラーブレードの刀身が宙を舞い墓標の様に地に突き刺さる。

霧坂は守屋が敗北したのではと息を飲むが、その不安は5つの轟音によって打ち払われる。
あの聞き慣れたリズムで打ち鳴らされた轟音は間違いなく守屋の両手両足を使った連撃だ。

「今のどうなったの…?」

霧坂は居ても立ってもおられず、落ち着かない様子でスタジアムに視線を向ける。

状況を察するに守屋はバックラーブレードを切り落とされはしたものの、お得意の格闘戦で矢神を圧倒しているという事になる。
しかし、あの八坂五指に数えられる実力者である矢神玲がこんなにも容易く、守屋に連撃を許すとは考え難い。
二人の様子をこの眼で確認したいのに巻き上げられた土砂が晴れていくが、あまりにもゆっくりでもどかしい。

「何あれ…?」

竜巻が晴れ、守屋達がぶつかり合った地点がクリアになり地に崩れ落ちた二機のギアが観客に姿を晒す。
八坂や宋銭の生徒だけで無く、観客全員がスタジアム全体からどざわめき声が静かに響いた。

「どういう事…?」

腰部を大きく歪ませ、両腕と右足。更に頭部を失い地に転がるギアが一機。
一刀両断の名の下、右肩から真っ二つに切り裂かれたギアが一機。

だが、矢神玲と守屋一刀の愛機である、リヴァーツとアイリス・ジョーカーでは無い。
肝心の二人は二機のギアの残骸の中心で背中合わせに構えを取り、周囲を警戒している。

「悪いな。お前の剣ごと、ぶった斬っちまった。」

「右腕を飛ばされるよりマシだ。」

純粋な力比べで戦いの火蓋を切って落とされた二人の決戦は違法ギアの乱入という形で急遽中断させられる。
此処に来てまさかの…いや、この騒ぎの首魁からすれば今日のこの時こそが、絶好のタイミングなのだ。
地区大会とは言え、多くの高校から新旧様々なスポーツギアが集まり、さながらギアの見本市の様相を示している。

正に選り取りみどりの状況。その上、この大会に参加したギアの殆どが各メーカーの修理工場への搬送準備中で
コンディション以前にギアの搭乗すら困難で満足に抵抗が出来ない状態にあり、稼動可能なギアも数で押し込むのは容易い。

絶対有利の状況を待ち構えていた違法ギアの大群がスタジアムの外からブースターを吹かしながらスタジアムの中に侵入する。

次々に降り立つ違法ギア。リヴァーツのセンサーが48機のギアを捉える。
ついさっき、守屋と撃破した奴を合わせて団体50名様で態々、お越し頂いたという事になる。

「こんな夏真っ盛りによくもこれだけの数が集まったもんだ。違法ギアってのは、そんなに暇なのか?」

「ふざけやがって…何処のどいつだッ!!」

守屋は怒気を隠そうともせず、外部スピーカーをオンにして怒鳴り声を張り上げる。

「ヒャーハッハッハッハッハァッ!!」

下卑た笑い声と共に忘れたくても忘れられないモヒカン頭の男がアイリス・ジョーカーのモニタに表示される。

「久しぶりだなァ?矢神!それに守屋ァ!」

「貴様…二度ならず、三度までも俺を阻むか。」

この男のせいでアイリス・ジョーカーの実機訓練が遅れ、矢神との決着を後回しにされた。
そして、漸く待ち望んだ矢神と決着の日にまで横槍を入れて来るとなれば、怒りを通り越して殺意が芽生える。

「古坂か。何をしに来た?」

「こうもギアが揃ってるんじゃ、やる事ァ一つだけだろう?」

古坂機がスタジアムの外に指を向けると同時に爆音が鳴り響く。

爆炎が立ち上っている所に、工場への搬送予定のギアを積んだ輸送車両の駐車スペースがあった筈だ。
そこで何が起こっているかなど、態々、目にするまでも無い。

「少し見ない内にクズっぷりに磨きがかかったようだな?」

身勝手な奴だとは思っていたが、まさか違法ギアに身をやつす程の大馬鹿者だったとは。
ステレオタイプの小悪党のクズ野郎、此処に極まれり。短絡過ぎて笑えてくる。

「吼えるな!テメェ等には散々、恥をかかされたからなァ?テメェ等の命、ギアごと頂くぜ!!」

矢神はお前如きに何が出来ると呆れたように溜息を吐くが、守屋は此処に来て焦りを覚える。

「矢神サン、ヤバくないか?」

「馬鹿言え!雑魚が乗っかったギアがたったの48機、俺とお前なら楽勝ってなもんだぜ!」

矢神は数の不利など全く意に介する事無く、大声で笑い声を張り上げるが
守屋とて言われるまでも無く、この程度の連中に後れを取るなど微塵に思っていない。

「アイツも宋銭高校のギア部の関係者なんだろ?この事が協会に知れ渡ったら、宋銭のギア部は…」

悪質なルール違反があった場合、違反者が所属する教育機関へ3年間の活動停止命令が出されるのだが
今回のケースだと悪質なルール違反以前に完全な違法行為だ。宋銭高校の永久追放は免れない。
そして、高校を卒業したとしても、矢神自身の選手生命も完全に断ち切られる事になる。

「奴のせいで矢神サンと戦えなくなるなんて冗談じゃないぞ!アンタは俺の目標なんだ!あんな下衆に邪魔をされてたまるか!」

「はっはっはっは!嬉しい事を言ってくれる奴だな。」

笑っている場合かと怒鳴りたくもなるが、矢神はあくまで泰然とした態度を崩さない。

「色々、説明は省略するがアイツならとっくに退学喰らってるからな。部外者も良い所だぜ?
要するに神聖な地区大会の決勝戦に空気を読まずに乱入して来た阿呆な犯罪者Aに過ぎないのさ。」

「余計な心配をさせてくれる…だったら最初に言っておいてくれ。」

守屋はリラックスした面持ちで鋼拳を構え、矢神は斬馬刀を肩で担ぎ、違法ギアの大群に向き直り古坂達を手招きする。

「さて、折角の夏だってのにやる事の無い暇なニートども。遊んでやるから、纏めてかかって来いよ。」

「テメェ等ァッ!!」

古坂は口角から唾を飛ばし、吼えるが付き合っていられない。

「待ち受けるのは性に合わない。先手はもらうぞ。」

守屋は獣じみた脚力で手近な敵に肉迫し、加速の勢いに乗ってリヴァイドの胸部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。
着地の寸前にナイツの背部に回し蹴りで此方に迫りつつあるサイ・メタル目掛けて吹き飛ばす。
もつれ合いながら倒れ込む二機のギアを膝蹴りの際、リヴァイドから奪い取ったロングソードで串刺しにして地に縫い止める。

「シールドチャクラムセット」

アイリス・ジョーカーは守屋の命令に従い、左腕のシールド内に収納している有線チャクラムを高速回転させ主の攻撃命令を待つ。

守屋は獲物を喰らえと短く言を発し、チャクラムは嬉々としてルナメタルの頭部を貫きメイレーンの脚部に絡み付く。
敵機が体勢を崩したと見ると力任せに引きずり回し自機の元まで手繰り寄せる。上半身を踏み潰し、チャクラムをシールドに収納。
守屋は足元に転がる5機の残骸を一顧だにせず、次の獲物へ向かって駆け出した。

「守屋の奴め…後何機居ると思っているんだ。」

矢神は守屋の戦いを見て心底呆れ果て、仕方の無い奴だと苦笑する。
見ていて気持ちが良い程の瞬殺っぷりだが、あれでは機体に負担がかかり過ぎて、敵が全滅するよりも先に此方が自滅してしまう。

「ま、この程度の雑魚相手に後先考えたり気張ったりするのもバカバカしいか…」

矢神は斬馬刀を水平に構え違法ギアの群れに飛び込み、斬馬刀と共に機体を一回転。
リヴァーツのパワーに遠心力と斬馬刀の重量を重ねた剛撃。

大地と水平に円を描くようにして振り払われた刃渡り8mの斬馬刀は一撃で7機のギアを横一文字に引き裂く。

「折角の雑魚狩りのボーナスタイムだ。自分らしく大暴れさせてもらうぜ!!」

チラリと守屋の方を見ると全身から緩衝材を吹きながら、二機のイーゼルと対峙している。
まるで、後先なんて知った事かと言わんばかりの戦いっぷりだ。

「これで8対8のイーブンか。まだまだ守屋に負けてやれないからな!」

矢神は新たな標的を定め、斬馬刀を振り下ろし次々に敵を葬っていく。

そして、この騒動の張本人である古坂は戦慄するしか無い。
どんな猛者でも、一瞬で鉄屑に出来る程の数を掻き集めて来たというのにも関わらず
一瞬で半数近くが撃破され、こうしている間にも仲間の反応が消失している。

「テ、テメェ等!!相手は近接戦闘仕様のMCI搭載型だぞ!距離を取れ!
あいつ等のギアは飛び道具が無い!!空から撃て!撃ちまくって蜂の巣にしろ!!」

古坂のヒステリックな叫び声を聞いて、違法ギアの大群は慌ててブースターを吹かし宙に逃げ出そうとする。
だが、違法ギアとは言え所詮は無改造のスポーツ用品に過ぎず、最高速を達するまでのタイムラグが長い。
そして、鈍重な動きで宙に逃げようとする敵を、この二人が見逃す筈も無い。

「離脱などさせるかッ!!」

矢神は斬馬刀を投擲。ブーメランのように弧を描きながら4機のギアを地に叩き墜とす。
戻って来た斬馬刀を握り直し、地面に突き刺し矢神は嬉々として牙を剥き出す。

「リヴァーツに飛び道具が無い?それは何時の情報だ?」

リヴァーツの手首、腰、大腿部のカバーが開く。各所に2本のクナイが仕込まれている。
都合12本のクナイが上昇し切れていない7機のギアに突き刺さり、内4機が墜落。

損傷により高度を維持出来ないでいる3機のギアは守屋機から再び放たれたチャクラムで
数珠繋ぎにされ、大地に引き摺り堕とされる。

「やっと半分ってところか?」

「残りは空の上か…逃がすのも癪だな…」

守屋は悔しげに歯噛みするが、逃亡の心配をするまでも無い。
此方が手を出せないと知るや否や、ライフルから放たれた砲弾が雨霰と降り注ぐ。

「クソッ…最近、こんな展開ばっかだなッ!!」

「当たり所が悪ければ一撃で沈むぞ、絶対に喰らうなよ!!」

対アームドギアを前提に設計されたライフルは弾速、火力、命中精度と全ての面で競技用ライフルを遥かに凌駕する。
守屋は両腕のシールドを前面に展開して逃げ回るが、エネルギー切れ、弾切れを起こすまで避けられる筈も無い。
矢神は見ていられないと、軽やかなステップで銃撃の雨の隙間を縫うように守屋機の傍に駆け寄り斬馬刀を旋回させ銃弾を弾き返す。

「もう何でも有りだな、アンタは…って言うか、警備のギアは何をやっている!!」

情けない事、この上無いが矢上の非常識な能力と、高性能な警備用のギアに頼らねば守屋には生き残る術が無い。
せめて、相手が地上に降りてくれれば撃たれる前に潰す事も出来るが、生憎と相手は空に居る。
攻める事は出来ないが、さりとて己の身一つでは守る事すら侭ならず、不甲斐ない自分に苛々する。

「まあ、落ち着け。警備よりも頼もしい天の助けがお出ましだ。」

矢神機に倣って、空を見上げると紅の閃光が空を切り裂いていた。

「あのブースターの残光は…加賀谷部長!?」

「流石のお前達でも対空戦は分が悪かろう?此処は助太刀させてもらう。」

しかし、流石の加賀谷とは言え団体戦の決勝を終えた直後で機体のコンディションは決して良好とは言い難い。
右足は焼け爛れ、左腕の装甲は欠落し、右肩の装甲が切り落とされ全身が薄汚れており、満身創痍の体を為している。

「無茶です!機体のコンディションが悪すぎます!」

「ああ。絶不調過ぎて逆に絶好調極まる。
チマチマと少数を相手に出来る余裕は無いのでな。全員、まとめてかかってくると良い。」

「そんなボロボロのギアで何が出来る!八坂五指だか十指だか知らねぇがッ!!」

加賀谷はブースターを最大出力で敵陣に切り込み、ソードライフルを両手に舞う。

「ならば、これを機会に知っておけ。」

まさに疾風迅雷。ある者は斬られ、またある者は刺され、そして撃たれる。
加賀谷は眼前の敵を一瞬で背後へ抜き去り、全機のブースターを破壊し地に叩き落す。

「矢神、守屋。墜としたギアが客席を巻き込まないように対応を頼む。」

「あ、後先考えてから墜として下さい!!」

次々に墜落して来るギアに肝を冷やした守屋は慌てて、チャクラムを放ち、安全な場所に釣り上げる。
とは言え、空戦が出来る加賀屋の登場で古坂達は地上の守屋達を相手にする余裕は無くなった。
一撃必殺の威力を誇る銃弾の雨に晒される事に比べたら、幾分か気楽なものだ。
それでも、今度は人の命を預かる場面になった為、まだまだ気を抜く事は出来ないが。

「一応、考えなしでは無さそうだ。客席に落ちそうな奴はそう多く無い。」

そう言うと矢神は斬馬刀を構え、客席に堕ちそうな違法ギア目掛けて投擲。
斬馬刀は違法ギアを捕らえ、主人の元へと帰還。矢神機は右腕で斬馬刀を掴み、左腕で違法ギアの首を握り潰す。

加賀谷は次々に襲い掛かる銃弾に目もくれず一直線に敵陣に切り込む。
戦闘用ライフルの威力は確かに驚異的ではあるが、スポーツギアにその反動を押さえ込めるだけのパワーは無い。
撃っている本人達は狙っているつもりでも実の所、照準など全く合っていないに等しく、回避運動を行う必要性が全く無い。
被弾イコール運が無かった程度の流れ弾に恐れる暇があったら一機でも多く地に叩き落とした方が余程、安全だ。

「アームドギア用の武器がスポーツギアに使いこなせるわけが無かろう?選手としても違法ギアとしても三流以下だな。」

攻撃力だけに気を取られた結果がこの様なのだから呆れるしか無い。
この数で内田のスナイパーライフルを持ち出されでもしたら流石の加賀谷でも尻尾を巻いて逃げ帰る所だろう。
スポーツギアに対して一撃必殺の威力である事には違い無いのだから。

「クソッタレ!!これならどうだァ!!」

古坂は劣勢と見るや否や、半ばヤケクソ気味にライフルの銃口を客席に向ける。

「これなら絶対に外れないだろ?お前のせいで多くの人間が死ぬ事になるんだ。ザマー見ろ!!」

「霧坂。出番だ。」

加賀谷は臆する事無く、地上に待機している霧坂に戦闘参加の合図を送る。
地上から爆音が鳴り響くと同時に、古坂機の左腕がライフルと共に消し飛ぶ。

「あ、新手だとッ!?」

「団体戦の選手なものでな。短期戦闘は苦手なんだ。」

形勢逆転も僅か一瞬。いや、形勢逆転にすらなっておらず、加賀谷はしれっとした態度で肩を竦めた。

「霧坂…?」

そして、守屋はブクレスティアの搭乗者が内田だとばかり思い込んでいただけに少なからず驚いていた。
八坂に内田以上の砲狙撃戦が出来る選手が居ない事もそうだが、霧坂に曲芸じみた狙撃が出来ると思っていなかったからだ。
そんな守屋の疑い半分、驚き半分の感情を改めさせてやると言わんばかりに霧坂は立て続けにトリガーを引き絞る。
轟音、頭部を失い墜落。轟音、ブースターが破砕され墜落。轟音、コクピットに直撃。

ブクレスティアの性能もさる事ながら、その専用スナイパーライフルの威力はルールギリギリの火力を持っており
コクピットブロック周辺はさて置き、スポーツギアの装甲程度なら簡単に破壊出来るという点に関しては戦闘用の砲弾と大差は無い。
不可避の魔弾の恐ろしさは守屋自身、その身で嫌というほど味わっている。

「へっへー!どうよっ!!」

我ながら上等な出来だと、霧坂は満足そうな笑顔とVサインをアイリス・ジョーカーのモニターに送る。

「やるな…いや、大したもんだ!」

あまりにも良い笑顔をするものだから、守屋も釣られて笑顔で賛辞の言葉を霧坂に送る。
完全に流れは守屋達に傾いており、50機以上の違法ギアも残るは片手で数える程度で
外を襲撃していたグループも警備のギアに粗方鎮圧されたようで、目立った被害は無いらしい。

「冗談じゃねぇぞ、クソったれぇ!!」

大群を引き連れて来たと言うのにも関わらず、何一つとして収穫は無く手持ちのギアは悉く破壊されてしまった。
楽な仕事のついでに矢神と守屋に落とし前を付ける腹積もりも悉く叩き潰されては古坂の面目丸潰れだ。
奪取は無理でもせめて、一機くらいは破壊していかなければ腹の虫が収まらない。

だからと言って、八坂五指に数え上げられる加賀谷と矢神に太刀打ち出来る筈が無い。
火器と左腕を失った状態で守屋に戦いを挑むのも、これまた無謀極まる。
勝てそうな相手といえば、狙撃型のギアに乗る名前も知らない女。

古坂はダガーを引き抜き、霧坂機目掛けて機体を急降下させる。

「焼け死ねやアアアアッ!!」

古坂機の刀身が鈍い光を放つ。

「ビームの残光!?」

守屋は見覚えのある光の正体に逸早く気付きアイリス・ジョーカーを走らせる。
以前、守屋に極上の恐怖を叩き込んだ光だ。トラウマの克服なんてものは出来ていない。
第一、普通に生活していればビーム兵器と出くわす事などまず無いのだから克服のしようも無い。

「疾く…もっと疾く走れ!ジョーカーッ!」

だが、身体が勝手に…否、守屋の全てが疾く走れ。奴よりも疾く駆け抜けろと己の身体と、アイリス・ジョーカーに命令する。
己の力だけで戦い続けて来た守屋が初めてアイリス・ジョーカーの力を求め、アイリス・ジョーカーは初めて守屋に力を貸し与える。
一瞬にして二機の間に滑り込み、古坂機のダガーが霧坂機のコクピットに突き立てられるよりも疾く我が身を盾とすべく身構える。

アイリス・ジョーカーの左腕が肩口からバッサリと斬り落とされるが、霧坂機には届いていないのだから問題は無い。
ビーム兵器の何が恐ろしいかなど霧坂が知る必要は無いし、何より知って欲しいとも思わない。

「霧坂に触るな…殺すぞ!」

「だったら、テメェを殺してやらぁ!!」

予定は狂ったが守屋機のコクピットは眼前にあり、振り落としたダガーを斬り上げるだけでケリが付く。

「阿呆が…調子に乗るなッ!」

だが、ダガーの攻撃力が高かろうとギアの出力と格闘戦の適性はアイリス・ジョーカーの方が圧倒的に上なのだ。
古坂機の右腕を捻り上げ、引き千切り、手刀で首を刎ね飛ばすが、矢神との決着を邪魔された怒りはこの程度では収まらない。

「アイリス・ジョーカー、フルドライブッ!」

アイリス・ジョーカーは主の命令に従い、ジェネレーターから正常に稼動しているとは思えない程の重低音を吐き出し
胸部の排熱口からは甲高い音を立てながら白煙を噴き、想定外の負荷にフレームが鈍い音を立てながら振動する。
重なり合う三つの異音は主である守屋一刀の怒りを体言するアイリス・ジョーカーの獰猛な唸り声とでも言うべきか。

本来であれば、こんな早期にそれも八坂が誇る未完成の魔改造システムを使う予定は無かったが使わずにはいられない。
更に自身に降り掛かる負担は大きいが、工場送りという結末に変更は無い。ならば全身全霊を持って打ちのめすまでだ。

「三回死んで、幼児からやり直しやがれッ!!」

辺り一面と自身に巨大な亀裂が走る程、激しく大地を踏み貫くと同時に、古坂機を慟哭と共に撃ち貫く。
バズーカ砲の直撃に匹敵する程の衝撃に古坂機は上半身を粉々に粉砕され周囲に上半身だったモノをばら撒く。
流石にコクピットブロックは頑丈に出来ているらしく、残念ながら古坂を殺すには到っていない。

「霧坂、無事か?」

先程は横目で軽く確認しただけだ。守屋は霧坂機に向き直り、しっかりと無事を確認する。
所々、破損はしているものの襲撃の際に受けた傷では無く、試合中に受けた傷があるだけだ。

「守ってくれて、ありがと。私はヘーキだけど、カッコ悪いトコを見せちゃったね?最後の最後でヘマしちゃった。」

霧坂はバツが悪そうに苦笑するが、普段通りの霧坂の様子に守屋は安堵する。

「無事なら、それで良い。」

安堵しながら何故、霧坂の事で感情を振り回されたのだろうかと首を傾げる。
首を傾げるとフルドライブの反動のせいで消し飛んだ、肘から先が粉々になった右腕が眼に映る。
その上、矢神との決着も付かず仕舞いに終わってしまった。何もかもが大失敗で辟易する。

「ま、決着は州大会でだな。」

苦悩する守屋を見て、矢神は苦笑いしながら斬馬刀を担ぎ直し、宋銭高校のゲートへと引き返す。
守屋を庇いながら戦っていたのにも関わらず、リヴァーツはほぼ無傷で足取りも軽い。
立ち去る矢神の後姿を見届けながら、改めて圧倒的な実力差を嫌と言うほど思い知らされる。

「今のままでは矢神サンに勝てないな…」

「州大会まで3ヶ月もあるんだし大丈夫だって!それよりも今は無事に騒動が片付いた事を素直に喜ぼうよ!」

「そうだな…皆が無事で良かった。」

確かに、見知った者の中で何かしらの傷を負った者は一人としていない事は素直に嬉しく思う。
とは言え、ビーム兵器が一介の高校生ですら簡単に手に入る現状に妙な不気味さを感じ
未だに拭えないビーム兵器に対する恐怖心から人知れず、夏の暑さとは関係の無い汗を垂れ流すのであった。

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