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GEARS 第十二話

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Parabellum

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統合歴329年9月15日

―お前は不利な生身での戦いで私を圧倒し、有利な筈のギア戦で私に敗北した。原因は何だと思う?

実機の対戦で初の敗北を味わって二週間が経過…更に言えば、小野寺とのシミュレーター訓練で地を舐め続けて二週間が経過し、守屋は一人、屋上に寝そべり流れる雲を眺めながら、新たに加わった仲間の投げかけた問題の答えを探していた。

「…全然、意味が分からん。」

不利なのに勝り、有利なのに劣る。これではまるで頓知だ。どんなに考えても答えの糸口が見つかる気配は全く無い。

「何が?」

「何がって………お前、いつから其処に居た?」

聞き慣れた声に釣られて、何気無く首を左に傾けると霧坂が腰掛けていた。
小野寺が霧坂に電磁ロックの解除方法を教えたと言っていたのを思い出して、守屋は辟易する思いで顔を引きつらせた。
別に霧坂から隠れる為に屋上に来ているわけでは無いが、あまり良い気はしない。だからと言って拒絶しているわけでも無いのだが。

「10分くらい前からかな?凄く考え込んでいるみたいだったから観察させてもらったよ。」

そう言って霧坂が手を開くと眉間に皺を寄せて考え込む守屋の立体映像が数枚、クルクルと踊りまわった。
これでは、観察と言うよりも盗撮だ。今更、止めろと言って考え直す様な相手でも無いし、既に慣れた。

「これは重症だな…昼休みにまで何の用だ?」

守屋は気分を害する以上に静かな屋上で霧坂の気配を察知するどころか、足音さえ気付かなくなる程考え込んでいた事に苦笑した。

「ほら、9月と言えば定番の催し物があるからね。」

霧坂は満面の笑みで、立体映像を閉じ体育祭の種目決めのプリントを守屋の眼前に突きつけた。
何の気紛れか、ギアに関係しない催しのまとめ役など面倒臭いと拒否し続けて来た霧坂が体育祭実行委員の一人として名乗りをあげたのだ。

「なあ、霧坂?」

「既に出たい種目既に決めてる?職権乱用しまくりで好きな事、なんでもやらせてあげるから!」

「いや。体育祭は欠席させてもらう。」

守屋はプリントを左腕で押し退け、はしゃぐ霧坂から目を背け立ち上がった。

「は?何で?月のモノ?」

「男だから、そんなモノは来ない。」

ふざけた事を言いながら詰め寄ろうとする霧坂に守屋は苦笑しながら、霧坂相手には珍しく…恐らく初めて、柔らかな口調で理由を語った。

「俺が居たら、クラスの連中が怖がるだろ?」

霧坂は面白味の無い理由のだと思い、普段通り守屋を振り回してやろうと口を開きかけようとして霧坂は絶句した。
守屋が暗く無感情な表情の上に無理矢理、迷惑そうな表情を貼り付けていたからだ。

「皆が良い気分で頑張れるのなら、俺が居ない方が良い。放課後の種目決めの時はスタジアムに行っておく。」

守屋は霧坂から視線を外して立ち去ろうと踵を返すと、霧坂は慌てて守屋のシャツを握った。

「いや、ちょっと待ってよ…」

守屋は改めて、霧坂に向き直った。表情は相変わらず取って付けた様な苦笑い。

「霧坂。部活以外の時まで無理して俺に付き合う必要は無いんだぞ?」

「…ッ!?」

「あまり、俺と一緒に居たら霧坂まで変な目で見られかねない。俺の事は放って…」

曇天の空に小気味の良い乾いた音が木霊した。

「ふざけんなッ!!アンタ、逃げてんじゃないわよッ!!」

霧坂は顔を真っ赤に染め上げ、今にも泣き出しそうな表情をしていた。

―どんな人間にも感情はある。

霧坂でも怒る事があるんだなと若干、的外れな事を考えていると小野寺の言葉が頭の中に過ぎった。

「悪い。失言だったな…だけど、俺の事は放っておいてくれて良いから。」

守屋は赤く腫れ上がった頬を気に止めず、屋上から立ち去った。

一方の霧坂は自分が何を言うべきなのか、何をするべきなのか分からず立ち尽くしていた。
大体の事は何でも笑い飛ばせる自信があったのに、どうにも最近は上手く感情のコントロールが出来ない。

「別に…無理なんてしていない…ッ!それに守屋君が良くても私がイヤなんだよ…」

守屋をクラスに馴染ませるチャンスと思って、体育祭の実行委員などという面倒臭い事この上無い役目を進んで請け負ったにも関わらず、その代価が拒絶の言葉とは、ちゃんちゃら可笑しくて笑いを通り越して怒りが込み上げ、気が付いた時には守屋の頬を引っ叩いていた。

そして、放課後―

霧坂は教卓に両腕を突き、クラスメイトを睨みつけるように見回してから口を開いた。

「種目決めの前に皆に話があるんだけど。」

「どうしたの?」

霧坂が僅かながらに言葉に怒気を含めているのも気付かず、クラスの男子生徒の一人が聞き返した。
夕凪太郎。未だに二次成長期の訪れていない八坂高校一、女装の似合いそうな少年である。

他のクラスメイトも夕凪に倣い、霧坂へ視線を集中させた。

「皆、守屋君に対して怯え過ぎなんじゃない?危ない所を助けてもらった事はあっても、危ない目に合わされた事は無い筈だけど?」

守屋が八坂高校の全校生徒を救った5月の違法ギア襲撃事件―
あの時の恐怖を易々と忘れられるわけが無く、皆一様に苦々しい顔付きになる。

教室で雑談している最中、突如として鋼鉄の悪魔が校庭に降り立ち、有無を言わさず黒々としたバズーカの砲口を突き付けられた記憶は今でも鮮明に残っている。
そして、逃げ出そうにも身動きの一つでもしようものなら、漆黒の宵闇よりも暗い砲口から砲弾が吐き出され、教室や友人諸共、全身をバラバラに引き裂かれて死んでしまうのでは無いのかという根拠の無い恐怖心のせいで逃げ出す事さえ出来ないでいた。

恐怖心に打ちひしがれた彼等に出来た事と言えば、まだ死にたくないと心の中で祈りながら、身体を硬直させる事だけだった。
何も出来ず絶望していた正にその時だった。白銀の装甲に身を包んだギアが、守屋一刀のアイリス・ジョーカーが轟音と共に現れたのである。

(霧坂の悪ノリのせいで)全身を歪ませたその姿は天が使わした軍神とは程遠く、地獄の底から這い出て来た悪鬼羅刹のようでもあった。
その上、違法ギアを一蹴した後、左腕と右足は千切れ落ち、地獄へ帰還すると言わんばかりの爆発と異音を伴い地に崩れ堕ちた。
ヒーローのような華々しい活躍とは程遠く、不器用で不恰好で滅茶苦茶ではあったものの、命の恩人である事は事実なのだ。

―君の行いに勇気を持った者、感謝の念を持った者が居る事を忘れないでくれ。
事件翌日に八坂高校理事長兼、スポーツギア部顧問兼、スポンサーである弥栄栄治が語った言葉である。

実際、守屋の行いに感謝している者は数多い。
特に転入初日に起こった血の惨劇に視覚的、直接的に関わっていない者等は守屋に対してそれ程、恐怖を抱いているわけでは無い。
スポーツギア部の部員達による所も大きいが、関わりの無い人間に対して恐れ怯える事が出来る程、器用で滑稽な奴はそう多くは無いのだ。

「そ、そりゃあ…そうなんだけどさ…守屋って、何か近寄り難いって言うか、何て言うか…」

西行幸仁。彼もまた守屋一刀に対し感謝の念を持つ生徒の内の一人である。
初日の乱闘事件以降、守屋は何かしらの暴力沙汰を起こす事も無く、自らの危険も省みず自分達の危機を救ってくれた。
恐らく、悪い奴では無い…寧ろ、間違いなく良い奴なのだろう。だが、如何接して良いのかが分からない。
情けない話だが、皆が守屋に怯えているのを見て、それに吊られて自分も怯えてしまう。

頭では良くない事だと理解しているが、今更どの面下げて守屋に接して良いか分からないのだ。

「皆が怯えているから守屋君が気を使って、近寄らないようにしているだけだっての!!
皆が怖がるからって体育祭に出ないって言っているわ。皆がいい気分で頑張れるなら、その方が良いからって!!
クラスで孤立していても、ちゃんとクラスの事を考えてくれているんだよ。それでも怖いッ!?
私は何度も守屋君の家に行った事があるわ。勉強を教えてもらった事もあるし、家族と食事だってした。
図書館が占拠された時だって、身体張って守ってくれた。だけど、一度だって酷い事をされた事も言われた事も無い!
戦う術が優れているだけで、普通の人と何も違わないのに無闇に怯えて、拒絶する皆の方が余程、非人間的よ!!」

霧坂の慟哭染みた叫びが教室に響き渡り、水を打ったように静かになる。

途中から自分が何を言っているのか分からなくなっていた。ただムカついた。口を開けば開く程、ムカついて仕方が無かった。
まともに息継ぎをしていない気がするけど、知った事じゃない。誰も彼も如何しようも無い程ムカついて仕方が無いのだから。

「あの馬鹿…廊下中に響いているじゃないか…」

霧坂の悲痛な叫びは教室だけでは無く一年の教室棟に響いており生徒達が何事かと守屋達の教室に視線を向け立ち止まっていた。

守屋は何とも言えない表情で周囲の生徒達に気付かれないように窓から飛び降りた。
人目に付くので、あまりやりたくないが、あの場に居る生徒達に気付かれたら…きっと居た堪れない気分になる事だろう。
守屋は霧坂の慟哭から逃げるようにスタジアムに向かって走り出した。

スタジアムに着くと薙刀を両手にウォーミングアップをしている小野寺を鉢合わせになった。

「守屋…妙に目が赤いな?お前がどんなに私に憧れても紅眼にはなれんぞ?」

小野寺は目を真っ赤に腫らした守屋の顔を見るなり見当外れな冗談を口走った。

「違いますよ…突風に煽られたゴミが大量に眼に入っただけです。」

「ふむ?…そうか。」

的外れな冗談なのは自覚しているが、守屋が力も覇気も無い苦笑を返すのは想定外だった。
何時もなら、此処で詰まらない漫才のような掛け合いになる筈なのだがと、小野寺は守屋の表情をチラリと伺う。
そして、何かに納得したかのような表情をして追求する事をやめた。

「それよりも、小野寺先輩付き合ってもらえます?無性に暴れたい気分なんですよ。」

それに気付く事も無く、守屋は力無く笑いながら申し訳無さそうに小野寺に練習開始を促した。

「私は守屋の練習相手として八坂にスカウトされたんだ。…いくらでも胸を貸してやろう。気が済むまで、ぶつかってこい。」

小野寺は柔らかい口調と暖かい声色で、当然だろうという表情で真っ平らな胸を叩いた。

「良い奴ばかりだな…」


―守屋一刀が八坂高校のスタジアムで擬似的に生成された大地に容赦無く、叩き付けられている頃
砕牙州では、もう一人の守屋。守屋剣が薄暗い広間で頭を垂れていた。

「翁…申し訳御座いません。翁に築いて頂いた太平の世を我々が維持出来ませんで…」

守屋剣が翁と呼んだ男は謝罪の言葉に気を止める事もせず、眼前の小さな花畑を硬い表情で眺めていた。
薄暗い部屋に閉じ込められた花畑…いや、花畑と言うにはおこがましい。漸く、双葉が芽吹いた物ばかりで
土が露出しており、花を咲かせたのは極僅かだ。

眺めているからと言って花が咲くのが早くなる筈も無く、翁と呼ばれた男―君嶋悠は漸く、剣に向き直った。
赤い髪にすらりと伸びた手足に真っ直ぐに伸びた背筋。そして、その顔には年季を感じさせる皺は一つも無く
翁という呼び方は余りにも相応しく無く、老いを語るには、まだまだ厚かましい年の頃に見える。

「誰も彼もが当然の様に明日を享受する事の出来るこの世界は充分に太平よ…何もこのような老骨の機嫌を伺う必要など無いのだぞ?
ヒト同士での殺し合いならば大いに結構。それがヒトたる所以…ヒトがヒト以外のモノに蹂躙されなければワシは一向に構わん。」

「しかし…これでは翁が求める者を失う惧れがあります。」

だが、周囲の人間は彼の事を翁と呼び、彼も自分自身を老骨を自称している。

「アレの覚醒を促し、覚醒を確認するのはワシの役目であって主等の役目では無い。
そして、存在しない筈の人間の為に世界の道理を乱してはならぬ。この世界はワシの物では無く主等の物なのだからな。」

自称老骨は、静かに言葉を紡いだ。それは、余計な真似をするなという拒絶と言うよりも、まるで老人が幼い孫を窘めるかのような口調だった。

「ワシがこの世界に存在する限り、アレは死なん。と言うよりも死ねん。」

君嶋は再び、剣から花へと視線を移した。剣からは、その表情を伺い知る事は出来ないが物心が付いた時から付き合いだ。
老骨殿が、どの様な表情をしているかは大体の想像が付く、種子を見守る表情は暖かくもあり、必死でもあり、焦りでもある。
そして、種子を君嶋に与えた者へ対する無尽蔵に湧き上がる混沌とした憎しみが混ざり合った表情をしている事だろう。

「ワシは此の侭、役目を果たす為に静観する。主等は主等の法と秩序を保つ為に役目を果たせい。」

「ハッ…では、自分は砕牙の内乱を鎮圧して参ります。」

剣は自らの役目を果たす為、広間から立ち去ろうと踵を返すと君嶋の呟きが耳朶を叩いた。

「世界という奴は…忌々しい限りよの。何処までもワシ等人間を虚仮にし腐りおる。」

「翁…」

剣は慌てて振り返り、何とも言えない表情を君嶋に差し向けた。世界という言葉に置き換えたとしても、それ以上は良くないと。

「ただの愚痴じゃ…聞き流せい。ワシが無能だとしても、二度とヒトを滅ぼしはせんよ。」

君嶋は不敵な笑みで物騒な事を口走り、剣はどう返答すべきかという表情で口を噤んだ。

「今度こそ必ず、滅ぼす事無く守り抜き役目を果たして見せよう。
…無駄話は此処までじゃ、この世界は主等の物じゃ。所有者である主等の意思で役割を果たせ。」

「ハッ…では、失礼致します。」

物騒な上に話の所々をぼかされ、彼の言いたい事を完全に理解出来ているわけでは無いが、この自称老骨殿が大丈夫だと言っているのであれば、間違いなく大丈夫なのだろうと剣は出立した。

「この世界も間も無く終わりだと言うのに種子は未だ芽吹かず…全く、こうも平和だと動き方が分からぬな…」

誰も居ない広間で一人愚痴るものの自称老骨の基準では平和過ぎる世界だと、その表情は実に満足気だった。


統合歴329年9月16日

ホームルームが終わり、守屋は少しばかり憂鬱な気分で帰り支度をしていた。
何も考えずに大暴れしたい気分だというのにも関わらず、今日は一斉メンテナンスの日で選手陣は休みの日なのだ。

更に霧坂が体育祭実行委員の仕事で朝、昼と慌しく働いており、守屋に纏わり付いて来なかった為
今日は一度も口を開いていない事に気付き、憂鬱さが更に加速する。
近付くなと言っておいて、近付かなくなったらこの様で、自分の女々しさに心底辟易した。

尤も―昨日の昼休みと放課後の一件のせいで顔を合わせ辛いし、何を喋って良いかも分からないのだが。

何はともあれ、今日の守屋は非常に暇なのだ。一人で遊びまわる趣味も無く、大人しく勉強をしようという気分でも無い。
まだ日は高いが、父の課した訓練課題を普段より多めにこなそうかと考えていると、未だに顔と名前の一致しないクラスメイト達が緊張した面持ちで守屋の前に並んでいた。

「ね、ねえ…も、守屋君。ちょっと良いかな?」

「あ、ああ…良いけど…」

お互い挙動不審になりながらの受け答えだが、夕凪太郎に代わり、西行幸仁が意を決したように口を開いた。

「あ、あのさ…これから、俺んチに集まってだな。その…エロムービーの鑑賞会をだな…い、一緒に如何だ?」

謎の誘い文句に守屋の顔がアホになって時が止まり、残暑のきつい陽射しが冷気に変わった気がした。

(何と言うか…最低な誘いだな。大方、昨日の霧坂のせい…いや、霧坂のお陰と言うわけか。
此処で拒絶したら、この先も怖い奴…か。確かに俺もいつまでも逃げてばかりではいられないよな…)

何時までも絶句してはいられないと、守屋は幾分か重くなった気のする口を開いた。

「俺…今まで、その手の物と縁が無かったんだ。是非、参加させてくれ。」

最低な申し出ではあったが、守屋一刀も16歳の健全な青少年であり歳相応に興味を抱いており、色んな意味で好都合だった。

「お、おう!そうと決まれば行こうぜ!!」

男同士で友情を深めるとすればエロしか無いという結論が出たものの、いざ本人を前にすると
もしかして、自分達は相当な馬鹿野郎なのでは無いかという不安が破裂寸前まで膨れ上がっていたのだ。
守屋が転入して来る前は多くの女子が色めき立っていた事もあって、守屋一刀という男は無駄にモテて
ヤる事はしっかり、ヤっていて興味無いとか言われたらどうしようかという不安があったのだ。

だが、意外にも守屋も女に無縁だったらしく乗り気である事と、自分達と同じく童貞であろう事に酷く安心した。

「守屋くーん!アリア先輩達がカラオケ行こうって言ってるんだけど…何、この有象無象?」

守屋の懸念していた昨日の出来事なぞ何のその。霧坂は、にこやかに守屋に声を掛けると何気に酷い暴言を吐いた。
霧坂の普段と変わらぬ様子に守屋は安堵し、普段と変わらぬ口調で返答した。

「すまん。歳方先輩達には後日、埋め合わせをすると伝えておいてくれ。」

「ワ、ワリィな。霧坂。これから守屋と遊びに行く事になってんだわ。」

「ま、そう言うことなら仕方無いか。残念だったね。折角、ハーレムだったのに。」

「ハーレム…?」

余談ではあるが、歳方アリアは阿部辰巳と、内田燐は三笠慶と其々、交際中である。
彼氏持ち二人に霧坂の三人でハーレムと言われても心が躍る筈が無い。因みに加賀谷は余った。

「何、その顔。先輩達にある事無い事言うわよ?Hなムービーの鑑賞会するから来れない~って!」

「ちちちちちち違う!断じてそんな事は!!」

「何、マジになってんの?って、もしかして、本当にHなムービの鑑賞会!?」

内心でせせら笑っていると表情に出ていたようで秒殺で見抜かれた上に霧坂の冗談が冗談では無く、大正解なせいで必要以上に守屋は焦りを覚え、そんな様子に霧坂は僅かながら軽蔑の眼差しを向けた。

「そんなわけが無いでしょ。新作のロボットゲームが出たから、守屋君も一緒に如何かなって誘ったんだよ。
普段からギアに乗っているから、この手のゲームには強そうだしね。」

此の侭、放置していたら守屋の撃沈は免れない上に此方にまで飛び火しかねない。
夕凪はすかさず、それらしい理由を瞬時に組み立てて守屋をフォローした。
こちとら、百戦錬磨のエロ兵なのだ。1分もあれば100通りの言い訳を用意出来るし、この幼い顔立ちを持ってすれば説得力は倍増する。

「何だ、そういう事か。驚かせないでよね。」

だから、勘の良い霧坂ですら簡単に納得させる事が出来る。
そもそも、説得力以前に本気にしていない上に霧坂自身が夕凪達に興味が無く何が真実かなど、どうでも良い事だからだったりもするが…

「そういった事に耐性が無いのに、お前が変な事を言うからだ。」

何はともあれ、夕凪のフォローのお陰で守屋は平静を取り戻し、普段の調子で霧坂に苦言を漏らした。

「ゴメン、ゴメン。それじゃ、また明日ね~!」

「ったく…アイツ、変な所で勘が良いな…」

笑顔で手を振りながら走り去っていく霧坂を見送り、九死に一生を得たという表情をする守屋を見て、夕凪達は今更ながら、守屋が超人でも無ければ、悪鬼羅刹でも無い普通の人間なのだと認識を改めさせられた。

そして、西行家にて―

普段ならば、360度何処からでも視聴可能な立体映像を中心に気に入った位置で鑑賞するのだが、今日は普段とは違っていた。

「すっごい、釘付けだね…」

自分達とそれ程、年の変わらない少女の艶かしく、あられもない姿に
守屋は顔を朱に染め、口を半開きにして文字通り、目の前の映像を食い入るように…文字通り釘付けになっていた。

普段ならば奇声を発して騒ぎながら見るのだが、夕凪達は守屋の意外な姿を眺めていた。

「さっきの反応と言い、マジでエロ動画見るの初めてだったんだな…」

「あ、ああ…今まで見たり、触れたりする機会無かったし…」

ムービーの終了と共にクラスメイトの一言で我に返った守屋は若干、前屈みになりながら居心地の悪そうに視線を逸らした。

「そんな、守屋にはお近づきの印って事で、コレを進呈だ!」

「マジかっ!?」

余りにも普通の健全な男子らしい反応をする守屋に気を良くした西行は秘蔵のディスクを守屋の前に差し出すと、これまた普段の守屋からは想像出来ない程の勢いで鼻息荒く、西行に喰らい付いた。

「も、守屋君…?」

「あ、いや…悪い。やっぱり、受け取れない。」

夕凪を始めとする若干、引き気味のクラスメイト達の姿を目の当たりにして、頭に登った煩悩と血液が一気に沈み冷静になる。
と、口で遠慮はするものの、西行の手に握られたデータディスクを未練がましい表情で見つめていた。

「欲しいのは山々なんだけどな…霧坂に見つかったら、後が大変だ…」

守屋は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てた。この時ばかりは霧坂の存在が疎ましい事この上無い気分だった。
だが、西行達からすれば面白い話のネタ以外の何でも無い。

「ほっほーう?」

「な、何だよ?」

西行のわざとらしい感嘆の声に何と無く嫌な予感を感じ、後ずさりしようとすると四方をニヤケ面したクラスメイトに囲まれていた。

「霧坂に見つかったら、後が大変だ…か。守屋君って霧坂さんと付き合ってんの?」

「ち、違うッ!アイツが、よくウチに出入りするから見つかったら…その何だ?困るだろッ!?色々と!!
その手の物は一切、持ち合わせていないって言っているのに、掃除するフリして探し回ったりするんだ、アイツは!!」

男だか女だか、よく分からない面したクラスメイトの半ば暴言にも近い質問に守屋は口から心臓が飛び出る思いをしながら、意味不明な言い訳をまくし立てるが、誰も彼も大変だねーなどと思うはずも無く、それからどした?と興味深そうにしている。

「ふーん。って事は霧坂が、守屋を振り向かせる為に色々、頑張っているってわけだ!」

「お、お前等…その辺で勘弁してくれ…アイツは俺を困らせる為に色々、頑張ってるだけだ。」

「それは違うでしょ。昨日さ、霧坂さんにスッゲェ怒られた。そして、守屋君の良い所を沢山教えてもらったよ。
で、思ったんだ。危ない所を助けてもらったのに、俺等って何やってたんだろって。」

「でさ、守屋と話をしてみようと思ったんだ。だけど、やっぱり、怖くってさ、皆も一緒に着いて来てもらったんだ。」

「そうか…どうだった?やっぱり、まだ怖いか?」

四方を囲んでおいて今更怖いなどとほざいてくれたら張り倒してやろうかとも思うが今まで、恐怖の化身として扱われて来たのだ。
自分が人に恐れを抱かせる存在なのか、人から受け入れられる存在なのかが非常に気になるところだった。
今は無遠慮に接してくれてはいるが一時の勢いだけなのではないのかという懸念だってある。

「俺、守屋君の事好きかも。面白いし、意外と可愛いし。」

「嬉しいけど、男相手に可愛いは無いだろ…」

「いや、実際、守屋って可愛いよな?しっかし、今まで勿体無い事したよなぁ」

良し悪しの、どちらとも予想外の反応に皆、一様に頷き守屋を受け入れる言葉を重ねた。その表情と声色に恐怖は微塵も無い。

「そうか…ありがとう。」

守屋は滅多に見せなくなってしまった16歳の少年相応の穏やかな笑顔と安堵の表情でクラスメイト達に感謝の言葉を述べた。

「いや、俺達こそ、ゴメン。守屋の事、色々と誤解していた。」

「無理も無い。正直、自分でもアレは無いと思っていたからな…」

謝罪の言葉を受けながらも、今更ながらもう少しマシな解決方法があったんじゃないのかと自らの行いに辟易するしか無かった。

「そういや、何でギア部に入ったんだ?確か停学明けた直後だったよな?」

「っあ~~~~!!お前、頭悪そうなのに、何で嫌なトコを突付くかな!?」

「あー、守屋、ひっでー!ひでーよー!!」

普段なら西行の何気無い質問に家業の繋がりで元々ギアに興味があったと答えるのだが、話の流れが流れだっただけに事の元凶となった友人の顔が嫌でも思い浮かんでしまい守屋は苦悶の表情で頭を抱えた。

「あ、成る程。霧坂さん絡み。」

「アイツ…家が目の前なんだ。で、停学明ける直前に勧誘して来たんだよ。ギアに興味は無いかって。」

「それから、霧坂は守屋の通い妻になったってわけか!」

「ド突くぞ、テメェ…」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?こ、殺されるッ!?」

違法ギア戦と同等、もしくはそれ以上の殺気を放ちながらの恫喝を受け西行は軽く死を覚悟しながら悲鳴をあげる

「冗談だ。冗談。」

顔は笑っているが目は全然、笑っていない。からかうと面白いが調子に乗ると、手痛い報復が帰って来る。
西行は死を覚悟すると同時に殺されないラインを学習する事を心から誓った。

「ま、ウチは両親が滅多に家に居ないし、霧坂の小母さんに飯の面倒見てもらう事が多いのは確かだけどな。」

「ほー…それにしても俺、霧坂があんな性格だなんて全然知らなかったなぁ」

「確かに中学の時と比べたら別人だよね。」

「なんだ?中学の時はもっと無遠慮で、大雑把で、いい加減で厚かましい奴だったのか?」

そうか、アレで大人しくなった方なのか。中学の時はどれだけ滅茶苦茶な奴だったのかと守屋が苦笑いをしていると
夕凪と西行が神妙そうな顔付きで目配せをしており、笑いながら喋れる雰囲気で無い事に気付いた。

「その様子だと霧坂さん…守屋君に何も喋っていないみたいだね…」

「喋れないだろ…」

「何があったんだ?」

「一応…僕達から聞いたって霧坂さんには言わないでね。」

守屋が分かったと真面目な顔で返すと夕凪はおずおずと口を開いた。

「僕達は霧坂さんとは中学校からのクラスメイトなんだけど、今みたいに明るい子じゃ無かったんだ。
守屋君なら家業柄覚えているよね?4年前の神隠し事件の事。」

地球人は全員、出生登録の際、ID登録され統合地球政府の管理システムのデーターベースに登録され、その気になれば全人類の様子をリアルタイムで確認する事が出来る。例え、それが死体であったとしてもだ。
しかし、システムを総動員させても失踪した人々の痕跡を辿る事が出来なかったのである。
失踪する数秒前の足取りは掴めているのだが、その直後、まるで神隠しにでも遭ったかのように存在が消えて無くなっているのだ。
尚、被害者はただ一人として遺体どころか遺品の一つさえも見つかっていない。

「ああ…当時、よく親父が愚痴っていたからな。」

「その神隠し事件なんだけど、霧坂さんの家族…お兄さんも被害者の一人なんだ。」


統合歴329年9月17日

昨日の話を聞いて何と無く気が重い。別に守屋自身に問題があるわけでも無いし、何かが出来るわけでも無い。
無駄な思考。無駄な感傷。分かってはいるが気が付けば考えてしまう。左隣を見ても霧坂は居ない。今日も実行委員の仕事だ。
まさか例の失踪事件に霧坂の肉親が関わっていたとは思いも寄らず、これから如何接していけば良いのかと無駄な悩みを抱える。

通学路に校舎が視界に入ると守屋を見て驚く生徒が数名。普段は霧坂が居るせいで全く気付かなかったがよく見ると皆が皆
守屋に恐怖心を抱いているわけでは無いらしく、物珍しそうに眺めてくる生徒も居れば、知った事じゃないと校舎に急ぐ生徒も居る。

「外野がグダグダ言っていても仕方が無いな…」

守屋は苦笑いしながら溜息を一つ吐き、教室に入ると喧しい教室が一瞬静まり返り、喧しくなる。
守屋を見て固まる生徒に吊られて例の如く静まりかけたが、その静まりが教師の到着では無く守屋の到着だと気付き、西行率いるエロ軍団が大声で守屋を出迎えたからである。

そんな様子を驚いたように凝視する者も居れば、何事も無かったかのように雑談を再開する者も居る。
守屋は西行達と雑談しながら教師を待つ、この時間が普通の学生らしい時間に感じられて嬉しく思っていた。

―そして、放課後

「やっぱ、ウチのクラスで運動神経が良いのって守屋君よね。さて、何処に組み込むべきか…リレーは陸上部で編成するし…」

「やっぱ、守屋って強いし、騎馬戦が良いんじゃん?敵をばっさばっさと薙ぎ倒して行くんだ。真・守屋無双って感じに。」

「騎馬戦ってハチマキを取れば良いんだろ?薙ぎ倒すのは色々と不味いだろ…二度も停学食らう気は無いぞ。」

「肝心な守屋君は何か希望は?」

「そうだな…あ、これは俺向きだな。」

「何々?」

休憩時間を挟む度、西行や夕凪達が守屋の席に集まり下らない話でも盛り上がり、ゲラゲラと馬鹿みたいに笑い声をあげる様を見て興味を持たない筈が無く一人、また一人と守屋の元を訪れ馬鹿話に花を咲かせ、気が付いた時にはクラスの一員として打ち解けていた。

そして、昼休みと放課後になっても守屋が突然姿を消すという事が無かった為、霧坂も機嫌を損なう事無く、誰一人欠かす事無く種目決めが始まったのである。

この日の守屋は常に笑顔の絶えなかったが、半分は作り笑いだ。
漸く、打ち解けられて嬉しく思うが、自分の事ばかりで喜んで笑ってもいられないと思っているのも、また事実だ。
ライセンスの無いチンピラどもに当然の様にスポーツギアやビーム兵器が出回っている事も決着が付いていない。

4年前の大量失踪事件の事も―

当然ではあるが、一個人でしか無い自分に出来る事と言えば、目に付いた奴を叩き潰すくらいで
抜本的な解決となると如何する事も出来ない事も自覚している。
だからこそ、砕牙州に残り軍の任務を遂行中の父親と数ヶ月ぶりの再開を決意した。

決意すると同時に己の無力さに辟易した。
自分がやろうとしている事は、ただのおねだりに過ぎないのだから。

(自分の無力さと思い上がりに吐き気がする。)

(今度は、何を悩んでいるんだか…)

僅か四ヶ月程度の付き合いでしか無いが、この二ヶ月は殆ど毎日
常時、顔を付き合わせていただけに守屋の微細な表情の変化にも気付くようになり、此処数日は特に作り笑い…と言うよりも、喜怒哀楽全てが作り物のように感じていた。
だが、その悩みのタネが他でも無い自分の事だとは気付く由も無かった。


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