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パラベラム! Prologue

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 真夜中、草木も眠る丑三つ時。
 小さな集落に、大きな影が近付いていた。
 それは人と同じ二本の足で大地を踏み締め、一歩、また一歩と確実に集落への距離を詰める。
 だが、それは人ではなかった。
 一般的な男性の二倍以上はある体躯と、情報量の多い、人間からは掛け離れたシルエット。その瞳は爛々と緑色に輝き、その装甲は鈍色の光沢を放っている。
 そう、機械なのだ、これは。
 世界を構成する物質“マナ”をエネルギーとし、個体によっては人間に並ぶ知能を有する、機械の巨人。
 ――――人々は古代の遺跡から掘り出されたそれを、オートマタ(機械人形)と呼んだ。
「遥、野良がそっちに行ったぞ」
「うん……!」
 ゴクリ、生唾を飲む。杖を持つ手に力が入る。
「ゴー! 行け!」
「……了解っ!」
 茂みから、小柄な少女が“野良”の数十メートル前方に踊り出る。
 鳶色の髪、三つ編みお下げのその少女、一条 遥は手にした杖を地面に突き立て、こう叫んだ。




 その瞬間、少女の眼前に土煙が上がる。
 荒々しく着地したそれは、平淡な口調でこう言った。
<――――汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ>
 ゆっくりと、しかし油断を感じさせない動作で振り返る。
<システム、省エネルギーモードから戦闘モードへ移行。マスター、指示を>
 猛禽類のような頭部に赤く光るツイン・アイ。鋭角的なその装甲が黒く輝く。
 少女は彼を、“リヒター”と呼んでいた。
「目標は“野良”一機。弾薬は使いたくないから……接近戦で対処して」
<イエス・マイマスター>
 リヒターが野良に向き直る。どうやら野良も戦闘モードへ移行したようだ。
「……気をつけて」
<……イエス・マイマスター>
「GO Ahead!」
 遥が叫ぶと同時にリヒターが一歩を踏み込みブースタを点火。放出されたマナが光の尾を引いた。


 ♪  ♪  ♪


 滑るように大地を駆ける漆黒の巨人。鈍色の巨人がそれを受け止めようと低く構える。
 漆黒の巨人――――リヒターの両腕がぼうっと光った。マナによる防壁だ。
 野良がタイミングを見計らって右腕を一閃。
 しかしリヒターはそれを減速してタイミングをずらし回避。そして、そのまま脇の下へ潜り込み、貫手で脇を打つ。
 濃密なマナの防壁によって覆われた貫手は易々と装甲を引き裂いた。
<……マナ不足の防御力などこんなものか>
 本来、オートマタの装甲はマナによって強化されているはずだが、この野良はマナが不足しているためか、それが疎かになっている箇所が多数あるようだ。
<ガァァァァァァァッ!>
 悲鳴のような音とともに、野良の胸部装甲がえぐられ、部品が宙を舞った。が、浅い。致命傷には至っていない。
 スラスターを使って空中で一回転をしながら、距離を離す。
 そこに野良が地面を蹴って跳躍。十数メートルの距離を、ほぼ一瞬で詰められてしまう。
 相手はどうやら防御を捨ててパワーとスピードに特化したタイプのようだ。下手をすると一撃一撃が致命傷となりえるだろう。
 距離を離すか、それとも――――
 その時、彼は確認した。
 こちらを観察する主の姿を。
 そして、彼は理解した。
<――――なるほど>
 野良がリヒターに掴み掛かる。リヒターも野良に掴み掛かる。
<……さあ、力比べだ>


 ♪  ♪  ♪


 リヒターが土煙を撒き上げながら野良へと一直線に向かってゆくのを確認して、遥は杖を地面から離し、纏ったローブを翻して移動を開始する。
 戦いに関しては素人の自分が指示を出したところで邪魔になるだけだ。彼の判断を信じて、自分はできる事をするしかない。
 闇夜に紛れる、黒いローブ。
「気休め程度かもしれないけど、これで近付いて……」
 サイドに回り込み、遠目から相手を観察する。
 野良とリヒターの戦いは取っ組み合いに移行していた。どうやら彼はこちらの意図を察してくれたようだ。
 相手はパワータイプ……のようだがスピードにも重きを置いているらしい。防御は二の次のようだ。重火器があれば簡単に勝負がつくだろうか。しかしそれだと下手をすれば赤字になる可能性がある。なのに敵は結構強いし……ひょっとしてこの依頼、割に合わない?
 だが割に合わない依頼でも請けなければ、明日のおかずが一品どころか二品……いや、おかず自体が消滅するかもしれない。もしかすると一日二食とか……そんな事になれば彼らから大ブーイングを喰らう事は必至だ。
 それが嫌なら、どこかでいつもより多く稼がなければいけない。そして今がその時なのだ、多分。
「だぁ、もうっ! 全部貧乏が悪い!」
 杖で大地を何度もつつく。この行為に意味は無い。ただの八つ当たりだ。
 ……と、今は己のスカスカの財布を嘆いている場合ではない。
「どこかに、脆い部分があるはず……」
 野良に視線を移す。
 こちらにまでギリギリと装甲が、骨格が軋む音が聞こえてくるようだ。というか、
「聞こえる……脇腹、右の……」
 どうやら相当ガタが来ているらしい。フレームの干渉のせいだろうか、右の脇腹から異音が聞こえた。そこから漏れる、微かなマナの光。
「圧縮されたマナが漏れてる……? という事は……。よしっ!」
 都合よく足元にあった石を拾い、投擲。投げた石は見事狙った相手に命中し、野良が一瞬、こちらに気を取られる。
 リヒターが右腕を腰だめに構えたのを確認し、すかさず杖を地面に突き立てた。地脈を通じて管理者にアクセス、マナの供給を開始する。
「回路接続、マナ供給完了! 右の脇腹! 貫いて、引っこ抜く!」
 リヒターの腕が一際輝きを増した。集束したマナが、光の槍を形作る――――
<イエス・マイマスター>
 野良が咄嗟に防御の姿勢をとろうとする。が、
<もう遅い>
 瞬速の突きが野良の装甲を貫く。だがそれだけでは終わらない、終わらせない。
 内部に侵入した手が、コンデンサを鷲掴みにして引きずり出した。
 溢れ出す圧縮されたマナの粒子が二機の周囲を舞い躍る。その光景は、さしずめ真夏の蛍のよう。
 野良の身体から力が抜け、がくりとその場にくずおれた。再起動の気配は無い。
 ――――勝負は決した。
<目標の沈黙を確認>
 リヒターの言葉を聞き、遥の口から安堵の溜息が漏れる。二つのお下げがゆらりと揺れる。
「お疲れ様、リヒター」
 少女は機械の巨人に歩み寄り、その装甲に優しく触れた。それと同時にマナを送り込む。ご褒美、というやつだ。
<感謝します、マスター>
「こちらこそ」
 にっこりと微笑む少女を見、リヒターも目を細めた。機械だって笑うのだ。
「どうやらこうやら終わったみたいだな」
 背後からの声に、少女は振り返る。
 ざんばらの赤い髪。精悍な顔つきに、鋭い眼差し。見た目から見る年齢は十代後半から二十代前半といったところか。
「『どうやらこうやら』じゃないでしょう? 働け二八歳」
 まあ、実年齢は三十路一歩手前なのだが。
「“俺達”がやったら瞬殺だからな。それにお前を鍛えないと意味無いだろう? はるかさんじゅうきゅうさい」
 ちなみに、精神年齢は外見相応……いや、それ以下である。
「紛らわしい言い方しないの! まだ十八です私は! 誕生日は来月!」
「外見は一四かそこらなんだが、実年齢は二十歳手前……惜しい、実に惜しい」
 ついでに言うとロリコンでもある。
 そんな彼の名はリヒト・エンフィールド。遥の師にあたる人物だ。
「人種の違いを考慮に入れてほしいんですけれど」
「つまり極東は俺にとっての楽園だという事か! さすが黄金の国だ! 極東最高!」
 ……こんなのが師匠だという事を認めたくはないが。
「どうしてこうなっちゃったかな……」
 「ビバ極東!」と騒いでいる師から目を背け、遥は闇夜に佇む黒い巨人を見上げ、溜息ひとつ。
 全ては彼との出会いがきっかけだった。
 事の発端は二ヶ月前。まだ少し肌寒い、三月のお話――――

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