「英気を……随分と削り取られているようにも見受けられるが、何があった?」
あれから一週間後。気の休まる暇の無い地獄の休暇を終え、ロワール城の王座へ辿り着くと、アランと、ラウバルト将軍は俺の顔を見て絶句し、アディンは俺を気遣うような素振りを見せた。
「いや、何とか休暇を乗り切る事が出来た……何も問題は無い。何も……な」
ラウバルト将軍に娘の躾くらい、まともにやれと言いたい気分になったが、彼もまた嘉穂の飲酒を食い止めるのに苦心しているようでもあった。それに終わった事を気にしても仕方が無い。犬に噛まれたと思って目を瞑ろう。今回だけは。
「今後一切、俺に休暇を与えてくれなくて良い。戦っている方が楽だ……今なら全世界を敵に回しても良い」
さあ、仕事だ。この世界には死ななければ何も分からない莫迦者共に、理不尽な力に脅かされ涙と共に命を落とす者があまりにも多過ぎる。
人間を守るための最後の切り札。刻印装甲の適合者として人を守るために、狂戦士の名が示す通り無慈悲な莫迦共を皆殺しにしてやれば良い。
どうせ、地球に戻るまでの手懸り探しと、そのついでの片手間の軽作業。今までもそうだった。これからもそうだ。それが全部で良いじゃないか。悩むのは帰ってからにすれば良い。
人間を守るための最後の切り札。刻印装甲の適合者として人を守るために、狂戦士の名が示す通り無慈悲な莫迦共を皆殺しにしてやれば良い。
どうせ、地球に戻るまでの手懸り探しと、そのついでの片手間の軽作業。今までもそうだった。これからもそうだ。それが全部で良いじゃないか。悩むのは帰ってからにすれば良い。
人を守る力はあれど、人を慮る余裕は無く、全てを守り切れる程万能でも無い。出来ない事はあまりにも多いが、俺にしか出来ない事もある。
出来なかった事に気を落とすよりも自分に出来る事を一つ一つ、こなしていけば良い。必要以上に軽んじる事も無ければ、必要以上に重く捉える必要も無い。
シルヴァールの力は人を守るための力だと言った。違えたら殺すとも言った。良いさ。精々、恫喝していれば良い。
出来なかった事に気を落とすよりも自分に出来る事を一つ一つ、こなしていけば良い。必要以上に軽んじる事も無ければ、必要以上に重く捉える必要も無い。
シルヴァールの力は人を守るための力だと言った。違えたら殺すとも言った。良いさ。精々、恫喝していれば良い。
どちらにせよ、大陸南部を含め、オルベリオンを始めとする魔族に奪取された刻印装甲を奪い返さねばならない。地球に帰るついでだ。
この世界を救ってから、ゆっくりと帰路に立たせてもらう。
この世界を救ってから、ゆっくりと帰路に立たせてもらう。
「あまり、顔色が良くないようだが大丈夫か?」
「俺の天敵は酒だけだ。それ以外なら恐れるに足りん……ああ、そうだ。休暇前、俺に防備に専念してもらうと言っていたが、それは断らせてもらう」
「なんだと?」
「これまで通り……目に付いた敵は皆殺しにする。守るべき民がいれば全力で守る。今まで通りにな」
「貴様、我々の優先すべき事を分かっていての発言なのだろうな?」
「ハッ……いきり立つな、阿呆が。出来る事をする。そう言っているだけだ」
先週、言われた言葉をそっくりそのまま返してやるとアディンは悔しげに唸り声を上げた。ざまあみろ。
「話は以上だ。では、道中の莫迦共を皆殺しにしながら、結界の防備に当たるとしよう……それではな」
≪装甲展開≫
足元を中心に橙に輝く巨大な魔方陣が描かれ、中から白銀に輝く、20m程の巨大なマネキン人形のような巨人が現れる。
その凹凸の無い、真っ平らな巨躯に纏わりつく疾風は紺碧の甲冑となり全身に装着され、有機的な二枚の翼と尻尾。足からは大鷲の様な鋭い爪が伸びる。
全身に耐魔法防御用の刻印が刻まれ、凶鳥と騎士が融合したかのような井出立ちの刻印装甲。天の上級刻印装甲シルヴァールが視覚化される。
その凹凸の無い、真っ平らな巨躯に纏わりつく疾風は紺碧の甲冑となり全身に装着され、有機的な二枚の翼と尻尾。足からは大鷲の様な鋭い爪が伸びる。
全身に耐魔法防御用の刻印が刻まれ、凶鳥と騎士が融合したかのような井出立ちの刻印装甲。天の上級刻印装甲シルヴァールが視覚化される。
「行くぞ、シルヴァール。この世界には死なねば分からん莫迦共と、救わねばならん弱者が余りにも多すぎるからな」
全神経に魔力を集中し、殺すべき莫迦な人間はいないか。守るべき人間はいないか。駆逐するべき魔獣はいないか。大陸全土に意識を広げる。
大陸北部にいないのなら、それでも構わない。一人で大陸南部まで挨拶に行くまでだ……いや、大陸北部にいるな。異常固体の臭いがする。
境界線を突破されたという報告は受けていない。態々、遺跡の発掘までやったのか。ご苦労な事だが、哀れなものだ。
大陸北部にいないのなら、それでも構わない。一人で大陸南部まで挨拶に行くまでだ……いや、大陸北部にいるな。異常固体の臭いがする。
境界線を突破されたという報告は受けていない。態々、遺跡の発掘までやったのか。ご苦労な事だが、哀れなものだ。
「行かせもしないし、退かせもしない……この場で朽ち果ててもらう」
全魔力の三割程を翼に回し、大きく羽ばたかせながら、宙を蹴り、天を舞う。異常固体を感知した位置までの距離は遥か遠く、どんなに目を凝らしても人間の視覚では感知する事は出来ない。
だが、何の問題も無い。見えないのならば見える位置にまで近付けば良い。ただそれだけの事だ。
だが、何の問題も無い。見えないのならば見える位置にまで近付けば良い。ただそれだけの事だ。
≪ファントムムーブ!≫
認識した魔力の発生源へ向かって瞬時に移動する超加速能力で異常固体の真上へと移動する。残った魔力は七割。
異常固体化した魔獣は三つの首を持つ猛獣、ケルベロス。中級に分類される魔獣だが、融合した魔族と刻印装甲の影響を受けるため、元の等級だけでは能力の判断を付けられない。
何より、異常固体化した魔獣の能力は程度の差はあれど全部が全部、凄まじい力を持つ。最初から最後まで全身全霊を以って、殲滅する以外の事は考えられない。
異常固体化した魔獣は三つの首を持つ猛獣、ケルベロス。中級に分類される魔獣だが、融合した魔族と刻印装甲の影響を受けるため、元の等級だけでは能力の判断を付けられない。
何より、異常固体化した魔獣の能力は程度の差はあれど全部が全部、凄まじい力を持つ。最初から最後まで全身全霊を以って、殲滅する以外の事は考えられない。
右の拳に魔力で生成した竜巻を収束し、ケルベロスの真ん中の頭に振り落とす。
≪このタイミングなら避けられまい! ソニックインパクト!≫
超長距離からの超加速と死角からの急襲にケルベロスは膨れ上がる魔力を感知する間も無く、粉砕された真ん中の頭部を支点に一回転して、背中から地面に落ちようとするが流石は魔族というところか。
突然の奇襲にパニックに陥る事も無く、両肩から斜めに生えた二つの頭部でシルヴァールを睨み付け、背中から倒れ込むと同時に炎と石化のブレスをシルヴァールに吐きかけた。
石化のブレスはシルヴァールに刻まれた刻印に弾かれるが、炎のブレスはシルヴァールの甲冑を容易く溶かす。
突然の奇襲にパニックに陥る事も無く、両肩から斜めに生えた二つの頭部でシルヴァールを睨み付け、背中から倒れ込むと同時に炎と石化のブレスをシルヴァールに吐きかけた。
石化のブレスはシルヴァールに刻まれた刻印に弾かれるが、炎のブレスはシルヴァールの甲冑を容易く溶かす。
「この威力……ゲルヴィナードか! ならば、尚更、見過ごせんな!」
炎の上級刻印装甲、ゲルヴィナード。炎の刻印装甲は階級を問わず、射程距離と持続力が圧倒的に低い代わりに瞬間最大火力は他の属性を容易く圧倒する程の力を持っている。
ここで炎を取り戻せば、境界線の結界を驚異的な火力に晒される危険性が無くなる。背中の両翼をシルヴァールの前面に展開し猛火のブレスを阻むが、持ち堪えられるのは精々、数秒程度。
翼の再構築に回すだけの余力は残されていない。
ここで炎を取り戻せば、境界線の結界を驚異的な火力に晒される危険性が無くなる。背中の両翼をシルヴァールの前面に展開し猛火のブレスを阻むが、持ち堪えられるのは精々、数秒程度。
翼の再構築に回すだけの余力は残されていない。
翼が炎に蹂躙され、灰となって崩壊を始める。戦闘に使える魔力は残り六割。その全てを使って翼の影で武装を構築する。
シルヴァールの右腕に握った古枝の様な短槍が、ささくれ立つかのように裂け、触手の様に蠢きながらシルヴァールの右腕に進入する。
戦闘用の魔力を全て、短槍の中に流し込み、柄を身の丈程に伸ばし、肉食獣の牙の様に鋭く、太陽の様に光り輝く巨大な刃を構築。ヘブンランサーを顕現化する。
完全に灰になった翼を弾き飛ばし、刀身から放たれる無数の閃光がケルベロスの全身を貫き、その身を赤に染めていく。ケルベロスは最後の力を振り絞り、咆哮と共に炎のブレスを吐きながらシルヴァールに突撃を仕掛ける。
シルヴァールの右腕に握った古枝の様な短槍が、ささくれ立つかのように裂け、触手の様に蠢きながらシルヴァールの右腕に進入する。
戦闘用の魔力を全て、短槍の中に流し込み、柄を身の丈程に伸ばし、肉食獣の牙の様に鋭く、太陽の様に光り輝く巨大な刃を構築。ヘブンランサーを顕現化する。
完全に灰になった翼を弾き飛ばし、刀身から放たれる無数の閃光がケルベロスの全身を貫き、その身を赤に染めていく。ケルベロスは最後の力を振り絞り、咆哮と共に炎のブレスを吐きながらシルヴァールに突撃を仕掛ける。
「そんな余力があれば逃げれば良いものを……」
逃がすつもりなど更々無いがな。突進するケルベロスの胸部にヘブンランサーを突き入れ、イメージする。天は暗闇に染まり、ガラスの様に砕け落ち、崩壊を始めた天を握り潰す様を。
ケルベロスは両の足で立ち上がり、断末魔の咆哮を辺りに轟かせた。全身の骨を破砕し、肉の繊維を引き千切れていくのもお構いなしに、身体を有り得ない方向へと捻じ曲げていく。
ケルベロスは両の足で立ち上がり、断末魔の咆哮を辺りに轟かせた。全身の骨を破砕し、肉の繊維を引き千切れていくのもお構いなしに、身体を有り得ない方向へと捻じ曲げていく。
刹那、死に果てる寸前の魔族が勝ち誇った様な邪悪な笑みを浮かべたのか、脳裏に浮かんだ。
「チッ――」
一瞬にして小さな球体になったケルベロスは残った力を全て魔力に変換し、自らの生命をトリガーに魔力を急速に膨張させ、その指向性をシルヴァールに向け、爆轟を引き起こす。
ヘブンランサーの発動で魔力は既に使い尽くされている。翼を再構築して逃げ出す事も、魔力攻撃で爆轟の指向性を変更する事も出来ない。
俺に出来た事と言えば、シルヴァールの両腕を交差させ衝撃波と爆風に備える程度の事だけだった。
ヘブンランサーの発動で魔力は既に使い尽くされている。翼を再構築して逃げ出す事も、魔力攻撃で爆轟の指向性を変更する事も出来ない。
俺に出来た事と言えば、シルヴァールの両腕を交差させ衝撃波と爆風に備える程度の事だけだった。
「シルヴァールの性能に頼り切りな上に運任せで、勢い任せ。炎属性が相手の時は自爆に備えて、余力を残す。基本中の基本ですよ?」
だが、俺に届いたのはケルベロスの自爆による魔力爆発の衝撃波は届かず、苦手な女の声が届いた。
「嘉穂……何故、君が此処に?」
彼女との遭遇は幸か不幸か、俺とケルベロスの残骸に挟まれる形で地面にクレーターが穿たれていた。彼女の持つ魔術兵装で自爆の衝撃を相殺したようだが……
「忘れたんですか? 私の休暇も昨日までで、今日から大陸中央の結界塔防衛ですよ。お父様から涼夜さんが妙なテンションで出撃したと聞いて、慌てて来てみたら、この様……結構、間一髪でしたね」
「手伝ってくれ。奴はゲルヴィナードを取り込んでいた」
「もしもし? 聞いています? 全然、聞いていませんね?」
彼女の言葉を無視して、爆散した魔獣の残骸の中に埋もれていた魔族の死体から、ゲルヴィナードが封印されている指輪を取り戻した。
地道だが、ここ最近だけで上級刻印装甲が三体も手に入ったのは大きな収穫と言える。下級や中級で一喜一憂していた頃が遠い昔の事の様にも感じられた。
後は適合者を探せば良い。最悪の場合、一体は彼女がどうにかしてくれる事だろう。
地道だが、ここ最近だけで上級刻印装甲が三体も手に入ったのは大きな収穫と言える。下級や中級で一喜一憂していた頃が遠い昔の事の様にも感じられた。
後は適合者を探せば良い。最悪の場合、一体は彼女がどうにかしてくれる事だろう。
「これから、どうするつもりですか?」
「君と同じ、大陸中央の結界塔防衛を任されたが、道すがら救うべき人間がいるなら守り、殺すべき敵がいるなら始末する」
「まるで狂犬ですね」
「全てを救い、全てを滅ぼすと言っているわけでは無い。目の届く範囲でやるだけの事だ」
俺の目を凝らしても、映る物の数は高が知れている。俺が手を伸ばしても、届く距離は極僅か。
必要以上に他者の生命を重く見ず、軽く見ず。その都度、出来る事をやっていけば良い。
俺も大概の大莫迦者だからな。似たような事や、取るに足らない事で思い悩み、躓く事もあるかも知れないが……
必要以上に他者の生命を重く見ず、軽く見ず。その都度、出来る事をやっていけば良い。
俺も大概の大莫迦者だからな。似たような事や、取るに足らない事で思い悩み、躓く事もあるかも知れないが……
「涼夜さん一人では心配ですし、最終的な目的地が一緒なら同行する事にしましょう。何やら、お父様も涼夜さんとなら一緒に呑んでも良いと言っていますし。まあ、体の良い厄介払いといったところでしょうか?」
「厄介払いか……君は誰に対してでも、ああなのか?」
「心外ですね。相手は選びますよ。あんな事をしたのは涼夜さんが初めてですし、お父様の時は腹踊りをさせただけです。契約能力のお陰で割と好き放題ですね。勿論、消されない程度に抑えますが」
成る程……あの男め、完全に彼女を俺に押し付ける気か。断固としてお断りだ。いずれ、熨斗を付けて返上してやらねばなるまい。
彼女の契約能力に目を付けて、養子に仕立て上げ、騎士の称号まで与えたのだ。責任を持って、腹踊りをしながら、最後の最後まで面倒を見てやるべきだ。
とてもでは無いが、俺には彼女の面倒など見切れん。責任を取る事も出来ん。彼女の相手をするよりも異常固体と死闘を繰り広げている方が楽だからな。
彼女の契約能力に目を付けて、養子に仕立て上げ、騎士の称号まで与えたのだ。責任を持って、腹踊りをしながら、最後の最後まで面倒を見てやるべきだ。
とてもでは無いが、俺には彼女の面倒など見切れん。責任を取る事も出来ん。彼女の相手をするよりも異常固体と死闘を繰り広げている方が楽だからな。
「だからと言って、本当に沸いて出て来られても迷惑なのだがな……」
ケルベロスの断末魔に誘われてやって来たのか、三体の魔獣が音よりも早く飛来する。五感だけでは感知出来ない常識外れの移動速度だが、身に纏った魔力量が大き過ぎる。目を瞑っていても、存在を感知出来る。
「数は三体……魔力量からして異常固体ですけど、どうします?」
「何故、俺が狂戦士と呼ばれているか、知らないわけじゃないだろう? それに君の晩酌に付き合う事に比べたら、この程度の脅威など物の数にもならんさ」
シガレットケースから霊薬を一粒取り出し、体内に落とし込む。ケルベロスとの戦いで使い尽くした魔力を回復し、失われた翼と両腕の甲冑を再構築する。
そのまま、野鼠の様に人目を忍んで南方へ逃げ帰れば、死なずに済んだものを…だが、俺の目に触れた以上、容赦はしない。
そのまま、野鼠の様に人目を忍んで南方へ逃げ帰れば、死なずに済んだものを…だが、俺の目に触れた以上、容赦はしない。
「動く者全てが俺の敵だ! 一切合財の全てを駆逐する!」
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