自分が学生だった頃。
――――の、記憶はあんまりない。
それというのも、通っていた期間がごく限られたものだったからだ。
思い出はそこで過ごす期間の長さに比例して増えていく。当たり前のことながら、自分にはそれが許されていなかったわけで。
世界は不公平に出来ていると自分は思う。
こんな――――
――――の、記憶はあんまりない。
それというのも、通っていた期間がごく限られたものだったからだ。
思い出はそこで過ごす期間の長さに比例して増えていく。当たり前のことながら、自分にはそれが許されていなかったわけで。
世界は不公平に出来ていると自分は思う。
こんな――――
こんな世界に生まれてしまったせいで。
パラベラム!~開拓者達~(仮、本当に仮の題名)
地平線続く大地、草木一本見受けられない不毛の土地。
真夜中の荒野に、四足の獣のシルエットが浮かび上がる。
――――否、獣ではない。
生物に見受けられる独特の曲線美というものが、そのシルエットには一切存在していなかった。
体中を纏う、触ったら怪我をしそうな刺々しい装甲板の数々、今は暗くて分からないが、それらは荒野の中でカモフラージュしやすいようにダークブラウンに塗装されていた。
一見して受ける印象は狼に近いものがある。だが、それにしたってこの大きさ――――全長3メートルを裕に越える狼など、世界中どこを探しても存在するはずがない。
何よりも――――そして何よりもそのシルエットが生物であることを否定するその証拠に、
真夜中の荒野に、四足の獣のシルエットが浮かび上がる。
――――否、獣ではない。
生物に見受けられる独特の曲線美というものが、そのシルエットには一切存在していなかった。
体中を纏う、触ったら怪我をしそうな刺々しい装甲板の数々、今は暗くて分からないが、それらは荒野の中でカモフラージュしやすいようにダークブラウンに塗装されていた。
一見して受ける印象は狼に近いものがある。だが、それにしたってこの大きさ――――全長3メートルを裕に越える狼など、世界中どこを探しても存在するはずがない。
何よりも――――そして何よりもそのシルエットが生物であることを否定するその証拠に、
その『狼』には、首が二つあった。
「…………」
ゆっくりと、目を開けていく。
視界に映るのは、暗視モードに移行して全体が薄緑色に見える地平線の大地だった。
――――そう、その『狼』が見ている世界そのものである。
「ダイブ成功、どうぞ」
無感動にその地平線を見つめつつ、自分――――ユーリ・フレデリックは自分が『狼』への『ダイブ』を成功させたことを回線の向こう側の人物に伝えるため、口を開いた。
「どうやらそのようですね……ユーリ、何か見えますか?」
「地平線が見える」
返ってきたのは爽やかな男の声、ありのままを答える自分。
「そういうことを聞いたわけではないんですが……」
困ったような、それでいて困っていないことがありありと分かる感情を声に乗せた声が再び返ってくる。……まあ、分かってはいたけれど。
<マナ反応は今の所無し、だ。 奴ら、このまま雲隠れする気かもしれねぇ>
「そう、そうですオルトロス、それが聞きたかった」
新たに加わった声は具体的に言うと、自分の隣から聞こえてきた。
野生味に溢れる若い男の声。だが、それは驚いたことに電子制御で機械が作り出した音声だったのである。
潜在的に、『狼』――――いや、これにはヴァルター・オルトロスという固体名があるのだからそう呼ぶべきだろう――――の操縦系は彼にあって、自分ではない。
そもそも、自分が機械人形と同じ視界を有していること自体が普通ではないのだ。
オートマタ――――この世界を構成する物質『マナ』を原動力に活動し、中には人類と同等の知能を有するものも存在する、オーバーテクノロジーの塊。
人間のように喋り、立って歩くその様を見て、人々はそれを『機械人形』と呼んだ。
もっともオルトロスの場合――――四足歩行の獣がモチーフとなっているため、人形と呼ぶのは些か抵抗がある気がしなくもないが。
「言うまでもありませんがそこは『圏外』ですからね、マナの残り残量には注意してください」
「ああ、分かってる」
注意深く辺りを見回しながら、緊張気味にそう答えた。念のため今言われた通り、コンデンサに蓄えられたマナの量を確認……って、そんなゲージある訳無いな。
こういうのは、本人に聞くのが一番手っ取り早い。
「オルトロス、マナの残り残量は?」
<リシュウからの供給率か? 確認開始……問題ねぇ、97%だ。 まだまだ行けるぜ相棒!>
一々反応が暑苦しい、真夜中でこんなに冷え込んではいても、彼の声を聞いているだけで団扇を扇ぎたい気分になる。
リシュウというのは、現在無線の向こう側にいる人物のことで、立場としてはオルトロスの『マスター』だ。
機械人形はマナを自分自身で作り出すことが出来ない。必然的に、マナを供給してくれる『神子』の存在が必要になる。
リシュウは所謂ところの神子であり、オルトロスと契約を結んだマスターなのであった。
「了解、奴らどうせ地中に隠れているんだろう……レーダーを起動してくれ」
<オーケー、相棒>
その台詞が終わるやいなや、オルトロスの後脚二本の付け根の間----尾部から伸びるしなやかな尻尾がピンとまっすぐになり、ゆるゆると上を向いていく。
「それと、マナ防壁は解除しておいてくれ、ただし、いつでも展開できるように」
それに対しては返事こそなかったものの、直後にオルトロスの装甲板の表面を覆っていた青色の粒子のようなものが消え失せる。よし、分かってくれたようだ。
やがて、ピクリと尻尾が揺れたかと思うと、
<――――敵反応、二つ。おいおい、バレバレだなこりゃ>
あからさまに呆れた声を上げるオルトロス、だが、自分はそうは思わなかった。
「野良だから、な」
自分達が今追っているのもまた、機械人形なのである。マスターを持たないオートマタ――――我々は一般的にそれらを『野良』と呼んでいた。
野良はマナを安定して得られる術を持たない。それはつまり、常に飢餓状態にあるという事であり、稼動維持にほぼ全てのマナを回す羽目となっている。
結果、高度な知性を保つだけの余裕はないため、大抵は喋れても片言、酷いものでは喋れないものも存在した。
「どうです、やれそうですか?」
リシュウの言葉に自分は頷く、正確にはオルトロスの二つある頭の内、向かって右側が頭を垂れた。
「問題ない。……それにしても、なんでまた『圏外』なんかに逃げ込んだんだろうな」
マナは通常地面の下を流れている、地脈を介して運ばれる。
しかし、圏外と呼ばれるその地域には地脈がない。マナを得ることが事実上の不可能な為、生命は愚か、オートマタにとっては踏み込みたくない土地であるはずだった。
「大方、圏外なら我々にとっても盲点だと考えたのでしょう、野良にしては知能を働かせた方です」
……なるほど。しかしレーダーの前にはその努力も無駄だったというわけだ。
<奴ら、このまま放っといても半日もせずにマナ不足で機能停止するはずだが……それまでには流石に出てくるだろうな>
向かって左側の頭に光る緑色のモノアイが点滅する、オートマタ的には瞬きだろうか。
「お……? オルトロス、結構珍しいこと言うじゃないか、普段は待つことが嫌いだって言うのに」
相手の状態が分かって少し安心すると共に、思わず嫌みが口をついて出てしまっていた。少し反省。
オルトロスが何か言い返してくるのを待つ前に、自分は言葉を続ける。
「――――そうだな、なんにせよ地中で衰弱死は嫌だろうし、相手方から出てくるのを待った方が確実か」
昼間自分達が追い詰めた野良のオートマタは、後一歩の所で逃がしてしまった。
折角弱らせたオートマタをそのまま逃がしてしまうのは勿体ないというもの、その後索敵を続けた結果――――意外にもこの、圏外に逃げ込んだ可能性が高いことが分かったのだ。
「残念ですが、それは出来ませんよ」
オルトロスから得たヒントを元に提案した自分の作戦をあっさりリシュウに一蹴される。……なんでだ。
「バネッサさんが、三時間以内には帰ってこいとのことです」
「ええ……」
その言葉にオルトロスの左側の頭がガクリとうなだれる、悔しいが逆らうわけにはいかなかった。
バネッサは自分達をその広い懐で受け入れ、この世界で生きていく道を与えてくれた存在。言うなれば、自分達の保護者だ。
「昼間の時点で仕留められなかったことを怒っているんでしょうね……大丈夫、私も一緒に怒られてあげますから」
「いや、あれはリシュウの方にも非があったし」
その時は二人掛かり……いや正確には二機掛かりで逃げられたにも関わらず自分は悪くないような言い方をするリシュウはまぁ、適当に流しておいて、今は。
「そういうことなら……オルトロス」
<ああ、衝撃マナを撃ち込んで引きずり出す……!>
待たなくてもいいことが分かったせいか、オルトロスが幾分興奮した様子で自分の言葉を引き継いだ。
オルトロスの二つある頭部には、一本づつの角が生えている。それが内側から滲み出る黄金色の輝きを帯びはじめたかと思うと……
<-----でやっ!>
頭を上から下に向けて思いっきり振り、角から離れた光の塊を足元に撃ち込んだ。
それは地面に吸い込まれる瞬間、周囲に小さく電撃のような足を伸ばす。
再び辺りが真っ暗になり、静寂が包み込んだ、次の瞬間、
ゆっくりと、目を開けていく。
視界に映るのは、暗視モードに移行して全体が薄緑色に見える地平線の大地だった。
――――そう、その『狼』が見ている世界そのものである。
「ダイブ成功、どうぞ」
無感動にその地平線を見つめつつ、自分――――ユーリ・フレデリックは自分が『狼』への『ダイブ』を成功させたことを回線の向こう側の人物に伝えるため、口を開いた。
「どうやらそのようですね……ユーリ、何か見えますか?」
「地平線が見える」
返ってきたのは爽やかな男の声、ありのままを答える自分。
「そういうことを聞いたわけではないんですが……」
困ったような、それでいて困っていないことがありありと分かる感情を声に乗せた声が再び返ってくる。……まあ、分かってはいたけれど。
<マナ反応は今の所無し、だ。 奴ら、このまま雲隠れする気かもしれねぇ>
「そう、そうですオルトロス、それが聞きたかった」
新たに加わった声は具体的に言うと、自分の隣から聞こえてきた。
野生味に溢れる若い男の声。だが、それは驚いたことに電子制御で機械が作り出した音声だったのである。
潜在的に、『狼』――――いや、これにはヴァルター・オルトロスという固体名があるのだからそう呼ぶべきだろう――――の操縦系は彼にあって、自分ではない。
そもそも、自分が機械人形と同じ視界を有していること自体が普通ではないのだ。
オートマタ――――この世界を構成する物質『マナ』を原動力に活動し、中には人類と同等の知能を有するものも存在する、オーバーテクノロジーの塊。
人間のように喋り、立って歩くその様を見て、人々はそれを『機械人形』と呼んだ。
もっともオルトロスの場合――――四足歩行の獣がモチーフとなっているため、人形と呼ぶのは些か抵抗がある気がしなくもないが。
「言うまでもありませんがそこは『圏外』ですからね、マナの残り残量には注意してください」
「ああ、分かってる」
注意深く辺りを見回しながら、緊張気味にそう答えた。念のため今言われた通り、コンデンサに蓄えられたマナの量を確認……って、そんなゲージある訳無いな。
こういうのは、本人に聞くのが一番手っ取り早い。
「オルトロス、マナの残り残量は?」
<リシュウからの供給率か? 確認開始……問題ねぇ、97%だ。 まだまだ行けるぜ相棒!>
一々反応が暑苦しい、真夜中でこんなに冷え込んではいても、彼の声を聞いているだけで団扇を扇ぎたい気分になる。
リシュウというのは、現在無線の向こう側にいる人物のことで、立場としてはオルトロスの『マスター』だ。
機械人形はマナを自分自身で作り出すことが出来ない。必然的に、マナを供給してくれる『神子』の存在が必要になる。
リシュウは所謂ところの神子であり、オルトロスと契約を結んだマスターなのであった。
「了解、奴らどうせ地中に隠れているんだろう……レーダーを起動してくれ」
<オーケー、相棒>
その台詞が終わるやいなや、オルトロスの後脚二本の付け根の間----尾部から伸びるしなやかな尻尾がピンとまっすぐになり、ゆるゆると上を向いていく。
「それと、マナ防壁は解除しておいてくれ、ただし、いつでも展開できるように」
それに対しては返事こそなかったものの、直後にオルトロスの装甲板の表面を覆っていた青色の粒子のようなものが消え失せる。よし、分かってくれたようだ。
やがて、ピクリと尻尾が揺れたかと思うと、
<――――敵反応、二つ。おいおい、バレバレだなこりゃ>
あからさまに呆れた声を上げるオルトロス、だが、自分はそうは思わなかった。
「野良だから、な」
自分達が今追っているのもまた、機械人形なのである。マスターを持たないオートマタ――――我々は一般的にそれらを『野良』と呼んでいた。
野良はマナを安定して得られる術を持たない。それはつまり、常に飢餓状態にあるという事であり、稼動維持にほぼ全てのマナを回す羽目となっている。
結果、高度な知性を保つだけの余裕はないため、大抵は喋れても片言、酷いものでは喋れないものも存在した。
「どうです、やれそうですか?」
リシュウの言葉に自分は頷く、正確にはオルトロスの二つある頭の内、向かって右側が頭を垂れた。
「問題ない。……それにしても、なんでまた『圏外』なんかに逃げ込んだんだろうな」
マナは通常地面の下を流れている、地脈を介して運ばれる。
しかし、圏外と呼ばれるその地域には地脈がない。マナを得ることが事実上の不可能な為、生命は愚か、オートマタにとっては踏み込みたくない土地であるはずだった。
「大方、圏外なら我々にとっても盲点だと考えたのでしょう、野良にしては知能を働かせた方です」
……なるほど。しかしレーダーの前にはその努力も無駄だったというわけだ。
<奴ら、このまま放っといても半日もせずにマナ不足で機能停止するはずだが……それまでには流石に出てくるだろうな>
向かって左側の頭に光る緑色のモノアイが点滅する、オートマタ的には瞬きだろうか。
「お……? オルトロス、結構珍しいこと言うじゃないか、普段は待つことが嫌いだって言うのに」
相手の状態が分かって少し安心すると共に、思わず嫌みが口をついて出てしまっていた。少し反省。
オルトロスが何か言い返してくるのを待つ前に、自分は言葉を続ける。
「――――そうだな、なんにせよ地中で衰弱死は嫌だろうし、相手方から出てくるのを待った方が確実か」
昼間自分達が追い詰めた野良のオートマタは、後一歩の所で逃がしてしまった。
折角弱らせたオートマタをそのまま逃がしてしまうのは勿体ないというもの、その後索敵を続けた結果――――意外にもこの、圏外に逃げ込んだ可能性が高いことが分かったのだ。
「残念ですが、それは出来ませんよ」
オルトロスから得たヒントを元に提案した自分の作戦をあっさりリシュウに一蹴される。……なんでだ。
「バネッサさんが、三時間以内には帰ってこいとのことです」
「ええ……」
その言葉にオルトロスの左側の頭がガクリとうなだれる、悔しいが逆らうわけにはいかなかった。
バネッサは自分達をその広い懐で受け入れ、この世界で生きていく道を与えてくれた存在。言うなれば、自分達の保護者だ。
「昼間の時点で仕留められなかったことを怒っているんでしょうね……大丈夫、私も一緒に怒られてあげますから」
「いや、あれはリシュウの方にも非があったし」
その時は二人掛かり……いや正確には二機掛かりで逃げられたにも関わらず自分は悪くないような言い方をするリシュウはまぁ、適当に流しておいて、今は。
「そういうことなら……オルトロス」
<ああ、衝撃マナを撃ち込んで引きずり出す……!>
待たなくてもいいことが分かったせいか、オルトロスが幾分興奮した様子で自分の言葉を引き継いだ。
オルトロスの二つある頭部には、一本づつの角が生えている。それが内側から滲み出る黄金色の輝きを帯びはじめたかと思うと……
<-----でやっ!>
頭を上から下に向けて思いっきり振り、角から離れた光の塊を足元に撃ち込んだ。
それは地面に吸い込まれる瞬間、周囲に小さく電撃のような足を伸ばす。
再び辺りが真っ暗になり、静寂が包み込んだ、次の瞬間、
<ガアァアアァアッ!>
地響きが発生し、前方の地面が文字の如く『割れた』。
上空に砂や小石が巻き上げられ、オルトロスの装甲板上にぶつかっては滑り落ちていく。
<いよっしゃあ! 大当りだぜ!>
そうしてできた地面の裂け目から、甲殻類を思わせる機械の脚が数本覗くと、本体がその姿を現した。
細身のオルトロスとは違い、ずんぐりむっくりしたその体型。
一枚あたりの装甲板の面積が大きい、シンプルな流線型を有する胴長のその機体。
前足に取り付けられた四本づつの小さな爪と、尖った鼻が……そう。その機体が、
<型番照合……R-24、マウルヴルフだな、相棒、昼間戦ったのと一致したぜ>
――――モグラを模したものであることを示していた。
「よし。……おい、そこの機械人形」
ユーリは前方で身体を震わせているマウルヴルフ(モグラ)型の機械人形に、無機質に話し掛ける。
「抵抗は無駄だ、抵抗しなければ苦しませずに殺してやる、だから抵抗するな」
今、何回抵抗って言っただろうか、我ながら馬鹿げた台詞だとは思う。
だが、自分達がやっているのはそういうことだ。
野良の機械人形を狩っては持ち帰り、分解して周辺にパーツを売り捌く。
自分達は『ジャンク屋』なのだから。
<フ ザケ……ルナ>
ややあってマウルヴルフが返答する、その声の様子からすると……もはや声帯回路にマナが行き渡っていない感じだった。
<ワレワ、レハ……人間ニ従属ナド、スル、種族デハ……ナイ!>
「…………」
よく聞き取れなかったが、要するに抗うということなのだろう、野良の喋る事など決まっていたし、そもそも答えなど聞いていない。
「行くぞ、オルトロス、防壁展開。5秒でケリをつける」
<ああ! 狙うは宝玉!>
――――オートマタには知能や人格の中枢を司る『宝玉』が必ず一つは存在していて、それが実質のコアの役割をしている。色は機体によって様々だが、オルトロスの場合はオレンジ色で、狼で言う胸にあたる部分にそれがあった。
オルトロスの身体全体を青白い粒子が包み込んで仄かに光る、次の瞬間。
上空に砂や小石が巻き上げられ、オルトロスの装甲板上にぶつかっては滑り落ちていく。
<いよっしゃあ! 大当りだぜ!>
そうしてできた地面の裂け目から、甲殻類を思わせる機械の脚が数本覗くと、本体がその姿を現した。
細身のオルトロスとは違い、ずんぐりむっくりしたその体型。
一枚あたりの装甲板の面積が大きい、シンプルな流線型を有する胴長のその機体。
前足に取り付けられた四本づつの小さな爪と、尖った鼻が……そう。その機体が、
<型番照合……R-24、マウルヴルフだな、相棒、昼間戦ったのと一致したぜ>
――――モグラを模したものであることを示していた。
「よし。……おい、そこの機械人形」
ユーリは前方で身体を震わせているマウルヴルフ(モグラ)型の機械人形に、無機質に話し掛ける。
「抵抗は無駄だ、抵抗しなければ苦しませずに殺してやる、だから抵抗するな」
今、何回抵抗って言っただろうか、我ながら馬鹿げた台詞だとは思う。
だが、自分達がやっているのはそういうことだ。
野良の機械人形を狩っては持ち帰り、分解して周辺にパーツを売り捌く。
自分達は『ジャンク屋』なのだから。
<フ ザケ……ルナ>
ややあってマウルヴルフが返答する、その声の様子からすると……もはや声帯回路にマナが行き渡っていない感じだった。
<ワレワ、レハ……人間ニ従属ナド、スル、種族デハ……ナイ!>
「…………」
よく聞き取れなかったが、要するに抗うということなのだろう、野良の喋る事など決まっていたし、そもそも答えなど聞いていない。
「行くぞ、オルトロス、防壁展開。5秒でケリをつける」
<ああ! 狙うは宝玉!>
――――オートマタには知能や人格の中枢を司る『宝玉』が必ず一つは存在していて、それが実質のコアの役割をしている。色は機体によって様々だが、オルトロスの場合はオレンジ色で、狼で言う胸にあたる部分にそれがあった。
オルトロスの身体全体を青白い粒子が包み込んで仄かに光る、次の瞬間。
次の瞬間、マウルヴルフはオルトロスの姿を見失っていた。
<…………!?>
マナ不足によってマウルヴルフの視界にノイズが入った瞬間である、再び視界がクリアになった時、目の前には単なる地平線のみが広がっていた。
辺りを見回すその動きが、緩慢。
オルトロスと……そしてユーリにとって、マウルヴルフの全てがスローに感じられた。
『狼』は『モグラ』の遥か上空――――10メートルもの高さに瞬時に飛び上がっていたのだ。
「圧縮粒子、纏え!」
<了解!>
全身に青い光を湛えたオルトロスの、前脚の爪に眩しいほどの攻撃色を持ったマナが宿る。
そのままマウルヴルフ向かって自然落下――――否、背面に装備したバーニアが機体を更に加速させ、急速に落下していく。
「いっけえぇぇぇぇぇ!」
<うありゃあああぁぁ!>
マウルヴルフがまさかと思い、やっと空を見上げる頃には、
マナ不足によってマウルヴルフの視界にノイズが入った瞬間である、再び視界がクリアになった時、目の前には単なる地平線のみが広がっていた。
辺りを見回すその動きが、緩慢。
オルトロスと……そしてユーリにとって、マウルヴルフの全てがスローに感じられた。
『狼』は『モグラ』の遥か上空――――10メートルもの高さに瞬時に飛び上がっていたのだ。
「圧縮粒子、纏え!」
<了解!>
全身に青い光を湛えたオルトロスの、前脚の爪に眩しいほどの攻撃色を持ったマナが宿る。
そのままマウルヴルフ向かって自然落下――――否、背面に装備したバーニアが機体を更に加速させ、急速に落下していく。
「いっけえぇぇぇぇぇ!」
<うありゃあああぁぁ!>
マウルヴルフがまさかと思い、やっと空を見上げる頃には、
――――ズン。
<――――――>
マナによる防壁も張られていない頭部が潰され、同時に顎の下にあった茶色の宝玉が粉々に破壊されていた。
マウルヴルフ内に残っていたなけなしのマナが、首の辺りから漏れ出でて空に消えていく。
<……よぉっし!>
頭を前脚で踏み潰したオルトロスがそこから後ろに跳んで離れると、尻尾をぶるぶるっ!と震わせて勝利の声を上げた。
渇いた地面に亀裂が入るほどの衝撃。たとえ相手がマナを有り余るほど残していたとしても、これには堪えられなかっただろう。
しかし、自分はそれを見ても何も感じなかった。
この戦いに大義名分や大した意味などない――――それが分かっているからだ。
この世界の常識……弱肉強食の法則に従っているだけ。
人間がどんなに高い知能を有していたとて、この世界で生きている限り食物連鎖の楔から解き放たれる事は、決してない。
――――これでは、やっていることは動物と同じではないか。
「五月蝿い、オルトロス……機能停止したか確認してくれ」
<いやぁ、俺達ゃ最強のコン……あ、ああ、分かったよ>
オルトロスに今の心境を語っても恐らくは理解されないだろう、苛立ちが先行して少し言葉に刺を含ませてしまったかもしれない。
<確認開始……確認終了。こいつはもうただの機械の塊だ>
じゃあ、『こいつ』じゃなくて『これ』と呼ぶべきだよな。
――――そう、思わず口に出しそうになってしまった。どうやら自分は少々感情的になっているらしい、誰に対して?
「世界に対して……かな」
自嘲する感じにそう呟く。するとオルトロスが、
<……どうした? 相棒>
様子のおかしい自分を心配してか、幾分声の調子を落として話し掛けてきてくれた。
このままでは自己嫌悪がピークになりそうだ。
「いや、なんでもない。それより機体の回収を……ん?」
誤魔かすように自分達のこれからすべき事を提案しようとして、何か忘れていることに気付く。
<…………あ>
オルトロスも同じく気付いたようだ、恐る恐るといった様子で、
<確か敵、二機いたはずだよ、な? だけど俺達が倒したのは一機だけで>
こんな時、最初から気付けよとは言わない約束で。
「……レーダーを起動だ! 早く!」
また逃がしたなんて事になれば、バネッサに怒られるだけじゃ済まない!
――――今日はもしかしたら、厄日なのかもしれなかった。
――――続く。
マナによる防壁も張られていない頭部が潰され、同時に顎の下にあった茶色の宝玉が粉々に破壊されていた。
マウルヴルフ内に残っていたなけなしのマナが、首の辺りから漏れ出でて空に消えていく。
<……よぉっし!>
頭を前脚で踏み潰したオルトロスがそこから後ろに跳んで離れると、尻尾をぶるぶるっ!と震わせて勝利の声を上げた。
渇いた地面に亀裂が入るほどの衝撃。たとえ相手がマナを有り余るほど残していたとしても、これには堪えられなかっただろう。
しかし、自分はそれを見ても何も感じなかった。
この戦いに大義名分や大した意味などない――――それが分かっているからだ。
この世界の常識……弱肉強食の法則に従っているだけ。
人間がどんなに高い知能を有していたとて、この世界で生きている限り食物連鎖の楔から解き放たれる事は、決してない。
――――これでは、やっていることは動物と同じではないか。
「五月蝿い、オルトロス……機能停止したか確認してくれ」
<いやぁ、俺達ゃ最強のコン……あ、ああ、分かったよ>
オルトロスに今の心境を語っても恐らくは理解されないだろう、苛立ちが先行して少し言葉に刺を含ませてしまったかもしれない。
<確認開始……確認終了。こいつはもうただの機械の塊だ>
じゃあ、『こいつ』じゃなくて『これ』と呼ぶべきだよな。
――――そう、思わず口に出しそうになってしまった。どうやら自分は少々感情的になっているらしい、誰に対して?
「世界に対して……かな」
自嘲する感じにそう呟く。するとオルトロスが、
<……どうした? 相棒>
様子のおかしい自分を心配してか、幾分声の調子を落として話し掛けてきてくれた。
このままでは自己嫌悪がピークになりそうだ。
「いや、なんでもない。それより機体の回収を……ん?」
誤魔かすように自分達のこれからすべき事を提案しようとして、何か忘れていることに気付く。
<…………あ>
オルトロスも同じく気付いたようだ、恐る恐るといった様子で、
<確か敵、二機いたはずだよ、な? だけど俺達が倒したのは一機だけで>
こんな時、最初から気付けよとは言わない約束で。
「……レーダーを起動だ! 早く!」
また逃がしたなんて事になれば、バネッサに怒られるだけじゃ済まない!
――――今日はもしかしたら、厄日なのかもしれなかった。
――――続く。
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