創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

Episode 01:通り過ぎてった日を悔やむよりも。

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ParaBellum

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「……目の前のこの荒野は、何だ?」
 乾いた笑いを浮かべるリヒトの目前に広がるのは、彼が見知った緑の海ではなく、雑草すら生えていない、赤色の荒野だった。
「……しばらく来ない間に随分変わりましたね。焼き払ったんでしょうか?」
 首を傾げなが、まどか。
 しかしながら、アウロラの広大な畑を焼き払う事は不可能に近い。それこそ、遥か古に作られたという、天を焼き、死の灰を撒き散らす爆弾でも使いでもしなければ。
 しかしそんなものは伝説上の存在だ。実在したとしても、そんな危険な代物を使うような馬鹿はいないだろう。
<……焼き払ってこうなるとは考えられません>
 遥が契約したオートマタ、リヒターが黙考の末意見する。
「……そうですよね。とりあえず皆さん警戒を怠らないようにしてください」
 懐からヘアゴムを取り出して口にくわえ、髪を纏めてそれを結った。まどかの本気モードのスイッチが入る。
「一応、機械人形は出しておいてください、何があるかわからないので」
 まどかの指示に無言で頷き、遥とリヒトが各々の杖で地面を突いてこう唱えた。
「パラベラム」


■Tuern×Para Bellum!□
てのひらをたいように
Episode 01:通り過ぎてった日を悔やむよりも。


□Chapter 01:大丈夫、折ってませんから。


 鋼の巨人と駅を出て、砂埃を被った石畳に一歩を踏み出した。街はまるで死んでしまったように静まり返っていて、どこか不気味だ。
 ピリピリとした、殺気にも似た空気を感じながら、やおよろず一行は歩いていく。
「……おかしい、まるで何年も前からこうだったみたいだ」
 静寂に耐え兼ねたのか、顎に手をやりながらライが呟く。
「誰かいるなら返事をしてくださーい」
 そう手でメガホンを作って叫ぶ遥に向かって、拳程の大きさの石が飛来した。しかし遥は特に慌てた様子もなく、手にした黒い杖“ブリューナク”を構えて、
「真芯に捉えて――――打つべし!」
 ホームラン。美しい放物線を描いて、石はいずこかへと飛んで行った。やおよろず一行が歓声を上げる。
「ふぅ……。返事の代わりに石投げる悪戯っ子はどこの誰かな。ちょっとその凛々しいお顔を拝んでくる」
 遥が建物の影へ消えた。いつもと変わらない顔だったが、声の調子が硬い。どうやら相当お冠のようだ。
 しばらくして、遥が去って行った方から痛烈な悲鳴が聞こえてきた。遥のではない、男のだ。
「な、何が起こってるんでしょう……」
 恐怖から若干上擦った声で、まどか。
「……て、手厚い歓迎のお礼をしてるんだろう」
<……い、悪戯っ子には折檻が必要だからな>
 リヒトとたま、遥の肉体言語の被害者達もまた、震える声で答えた。
 その時、突如悲鳴がぴたりと止む。
「生存者一名確保してきたよ!」
 黒髪の男性の服の襟を掴んで引きずりながら遥が戻ってきた。どうやら生存はしているようだが負傷しているし、意識もないようだ――――何故そんな状態なのかは明白だが。
「遥ちゃん、やり過ぎじゃない? 正当防衛の範疇を越えたら犯罪だよ」
 というルガーの問いに、遥は人差し指を立てて説明した。
「大丈夫、折ってませんから。それに体格差もあるし、相手は武器を持ってたので正当防衛は一応成立する……はず!」
「ははは、君は恐ろしい子だね」
 ルガーの乾いた笑いと、石を投げてきた男の呻き声が同時に聞こえ、その場にいたメンバーはなんとも言えない気分になる。
「とりあえず、このへんに縄か何かないかな」
「あいよ」
 すぐさまリヒトがオートマタ固定用のケーブルを転送し、遥に渡す。どうも、と一礼して遥がそれを受け取った。
「どうするんです?」
「縛る」
 限界まで伸ばしたケーブルがギシリ、と悲鳴にも似た音を立てた。遥の表情はあくまで真剣そのものだ。
 ずんずんと失神した男性に歩み寄り、てきぱきと“慣れた手つきで”手足を縛っていく。
 それを見て、まどかが他の面子に囁いた。
「……遥さん、ここに来るまでは何してたんでしょう」
 リタとライがまどかに顔をくっつけて答える。
「……もしかすると、あれは一人旅には必須スキルなのかもしれないよ」
「……世の中割と物騒ですからね」
 それを聞いたまどか、以前見たモヒカンのわるいお兄さん達がヒャッハーしているところを想像して、なるほど、と強く頷いた。
「遥さんって、凄いんだなぁ」
 そしてそんな悪党達を成敗していく遥を想像し、尊敬と羨望の眼差しでまどかが遥を見つめる。
<何を想像してるんですかね>
「世紀末じゃね?」
<ナルホド了解合点承知。この前のアレですね>
 三ヶ月前のドッキリを思い出す。遥はドッキリに乱入してきたモヒカンの悪党達相手に大立ち回りを演じたのだ。
「よし、できた!」
 そんなこんなを考えている内に、作業は終了した模様。手を叩いて、ふぅ、と額を拭う。
「で、どうすんだコレ」
 しゃがんで男の頬を突きながら、リヒト。男は呻くが目は覚まさない。
「とりあえず、どこか別の場所で――――」
 ルガーが男を背負おうとしたその時、物影からぞろぞろと人間が姿を現した。彼らは皆手に農具を持っていて、その目は血走っている。そして彼らは、口々にこう言うのだ。
「機械だ……自動人形が村に入ってきたぞ……!」
「追い出せ、追い出せ……!」
「機械はこの村には必要ない……!」
 まるで生ける屍のようなその形相に、やおよろず一行は一歩退く。
「この人達、機械人形の事嫌いみたい……」
<確かに、ヘイトされてますね>
 じわり、一行の背中を嫌な汗が伝った。
<マスター、迎撃の許可を>
「駄目。リヒター達じゃ強すぎる」
 人々はふらふらとした不安定な足取りで、しかし確実に一行を追い詰めていく。形相だけでなく、そのそぶりも生ける屍のそれのようだ。
 一方のやおよろず一行は、各々一瞬だけ視線を合わせて頷き合う。皆考える事はただひとつ。
「とりあえず今はとんずらすっぞ!」
 リヒトが杖を突き立てると、人が何人か入れるくらいの大きさのコンテナが三つ召喚された。オートマタ用のリュックサックだ。
 このリュックサックは追加のコンデンサやウェポンコンテナとして使用されるだけでなく、人員輸送用にも使用されている。
 某所では心を持たない量産型オートマタ、通称“木偶”を外部から操作する実験に使われているらしいが、それはまた別の話である。
「とりあえず、まずはルガーと女の子からだ」
 コンテナの上部が開く。
 脇に備え付けられた凹凸を使って、男を背負ったルガーとリタ、まどかが器用にそれらをよじ登っていった。
「遥、お前も――――」
「私はリヒターに掴まるから大丈夫です。私よりもライを!」
「でも、遥ちゃんは――――わかった」
 ライは少しばかり逡巡するも、遥を一瞥してコンテナに手を掛けた。
 「……よし、いい子」遥が微笑む。
「よし、おまえらマッハで背負え」
<まったく、ボケる暇もありませんね。イエス・マイマスター>
 オートマタ達がベルトに肩を通し始めると、突然現れた三つのコンテナに呆然としていた村人達が襲い掛かってきた。遥達が足払いなどで対処する。
 背部のハードポイントにリュックサックが固定されたのを確認すると、リヒターらオートマタが前に出て、人々を威嚇した。人々は恐れ、おののく。
<まるで人がゴミのようですね、怪獣の気持ちがわかったような気がします>
<むしろゴキブリか何かに見えるがな>
<なら汚物は消毒しないといけませんね>
 逃げ回る人々を見て、シロとたまが楽しそうに嘲笑する。一方の黒い騎士はいたって真面目に跪き、自らが仕える姫君に、恭しく手を差し延べていた。
<マスター、私の手に>
「ありがと、リヒター」
 遥がにこりと笑いながら、リヒターの手にぴょこんと飛び乗る。同時にリヒトもシロの肩へと飛び乗った。とんずらの準備は完了だ。
「よし、とんずらだ!」
 たまとリヒターがスラスターにマナを集中させ、シロが脚部を逆関節に変型させる。
<皆さん、あまり近いと怪我をするので離れてください>
 リヒターが律儀に警告をしてから、ゆっくりと飛翔する。
 マナの特性を利用した機構によって保護されたリュックサックの中のリタとライはともかくとして、両手に抱えた遥を考えての事だろう。
 ――――その傍らで、リヒトを乗せたシロは全力で跳躍していたが。


■Chapter 02:“こちら”の世界へようこそ。


 なんとか逃げ延びたやおよろず一行は、荒野にリュックサックを置いて落ち着いた。
「おいヘーシェン、お前少しは遠慮ってもんを知れ。俺が何度振り落とされそうになったか知ってるのか」
 シロの肩から飛び降りて、リヒト。一切の遠慮をせずに跳びはねていたのだから無理もないが――――
<一回もありませんでしたね>
「ああ、大体あってる」
 どうやらとりあえず言ってみただけのようだ。
「僕はこの世の終わりかと思ったよ」
 口ではそんな事を言いつつも、見た目は明らかにピンピンしているルガー。おそらく長い事付き合っているので慣れたのだろう。
「よっ……と。こっちは快適なもんだったよ。ありがとう、リヒター」
<どういたしまして>
「全然揺れませんでしたよね!」
 リタがルガーに抱っこして下ろしてもらう。
 やがて全員がコンテナから出て一息ついて、男をぐるりと取り囲む。
 男は黒い髪をざんばらにしていて、他の人々と同じように頬はこけ、ボロを着ていた。顔色も悪いし、正直あまり健康そうには見えない。
 遥は少し悪い気になったが、男が拳大の石を投げてきたのを思い出してどうでもよくなった。冗談だったとしてもあれは許せない、というか冗談だったらさらに許せない。
「どうする? 起こすか」
「うん、起こそう」
 ――――よって、ごめんなさいさせる事が必要だ。言い訳は後で聞く。
 ただでさえ月のお客さんが来ていてイライラしているのに、さらに頭に血が上った遥が指をペキペキと鳴らす。
 それを見て、リヒトが感情の矛先を別の方向へ逸らさせる事を試みた。
「遥、それやると指太くなるぞ」
「え、そうなの!?」
「小指の方向に捻ると戻るらしい」
「……なるほど」
 成功。遥は言われた通りに指を捻りだす。その様子を見ていたリヒトに、シロが跪ずき、ひっそりと話し掛ける。
<今日の遥さん、なんだか情緒不安定ですね>
「アレだ、月光仮面が来てんだろ」
 余談だが、月のお客さんも月光仮面も月経の隠語である。
<そういえば遥さんを助けた時にそんな事を言ったような気がしますね>
 ヘーシェンが顎に人差し指を当てる。
「お前の場合は本気なのかとぼけているのかよくわからないな」
<ネタに決まってるじゃないですか>
 「そうかそうか」と含み笑いを浮かべてリヒトは男のほうへ歩いて行った。その背中を見つめながら、拗ねたような声でシロが呟く。
<……いじわる>
 ――――別に、どういう意味か教えてくれたっていいのに。
 狡猾で悪戯好きなうさぎだけど、どこか抜けているところだってあるのだ。


 ♪  ♪  ♪


 目を覚ますと、そこはやっぱり荒野だった。転倒していた身体を、排気音を響かせながらゆっくりと起こす。
<さっきのは何だったんだろうね、ショウイ――――>
 白い機体は、どこにも見当たらない。そして、
<――――チ?>
 共に旅を続ける主の姿もまた、見当たらなかった。
 タウは考える。
 自分を置いてどこかへ行ってしまったのだろうか。だとしたら自分は待機しておくべきだとは思うが、果たしてショウイチがシステムダウンした無防備な自分に何もしないで去っていくだろうか?
 答え――――有り得ない。
 当然タウは自分自身の身体がどれだけ危険なものか知っているし、それはショウイチも同じだ。この力が悪用されれば、“また”世界を滅ぼしかねない。
 ――――ショウイチに、何かあったんだ。
 タウエルンは、“ショウイチを捜す”という、独自の判断で行動する事を決定した。
 だって彼は、“自動”人形なんだから。
 まずは全てのセンサをフル稼動させて、周囲の状況を探る。周囲は特に何も――――いや、あった。
 北西の方向、生体反応が六、自動人形の反応が三。五つの生体反応と三つの自動人形が、ひとつの生体反応を包囲している。あまりよろしい状況ではなさそうだ。
 自動人形の反応が若干覚えのないものなのが気掛かりだが、取りあえずタウは様子を見に行く事にした。
 トラクターへとトランスフォーム。静音駆動で、点在する岩の間を縫うように目標へと忍び寄る。
 目標が見えてきた。
 自動人形は、以前戦った黒騎士に似た機体が一機。オリーブ色の重装甲の機体が一機。二本のうさぎの耳のようなアンテナを装備した小型の機体が一機。
 人間は、三つ編みの少女、赤髪の男性、ブロンドの少女、黒髪の女性、筋肉質な男性、金髪に眼鏡の少年、そして縄で拘束されたボロを着た男。
 ボロを着た男はどうやらアウロラの住人のようだが、彼を取り囲んでいる連中は何なのだろう。黒騎士が配備されているという事はまさか、軍の――――
 しかしアウロラの住人を誘拐する必要はあるのだろうか。人質を使って何をするにしても、あの街にそこまでの価値はないはずだ。
 そこまで考えて、タウはひとつの例外を思い出す。
 あの街の下に、かつて大戦で使われていた兵器が眠っていたとしたらどうだろう。そう、かつて戦った、ダルナスのような。
 だとしたら早急に手を打たなければ、悲惨な事になるだろう。そんな事は誰も望んではいない。
 ショウイチの許可が下りなければ、ソーラーキャノンもナノマシンによる分解もできないが、仕方がない。
 それらがなくたって、通常の自動人形の10機や20機くらいへっちゃらだ。
 自らを鼓舞しながら、ゆっくりとトランスフォームを完了させる。
 ――――ショウイチがいなくたって、僕は戦えるんだ!
 紅蓮の巨人が、大きく一歩を踏み出した。黒騎士が素早い反応でその眼前に立ち塞がる。
<……その人を、放せ!>


 ♪  ♪  ♪


 遥達のやり取りを見守りつつ、警戒を厳にしていたリヒターは、いち早くオートマタの反応に気がついた。
 データベースに登録されていないうえに非常に微弱な反応だが、そんなものはゴマンといるので参考にならない。
 索敵性能に優れるヘーシェンタイプで、戦場にいた経験も豊富なのシロに尋ねる。マスターの遥に報告したかったが、今日の遥はなんだか怖いのでちょっと気が引けた。
<気がつきませんか、ヴァイス・ヘーシェン>
<正直気がつきませんでした。今も何の事なのかわかりません>
<そうですか>
 この時の二人の間には重大なすれ違いがあったのは言うまでもない。
<ふむ……>
 ならばこれはシステムの異常なのか、とリヒターが唸る傍らで、月光仮面って何の事だろう、とシロが首を傾げる。
 そして、シロよりも経験豊富な九尾の妖狐、たまこと玉藻・ヴァルパインは、
<まどか、微弱な反応近付いている>
 しっかりちゃっかり愛しのお姫様に報告していた。
「微弱な反応……ですか?」
<ああ、どの機種にもまったく一致しない。どうする?>
 黒髪の姫君は、人差し指を頬に当てて考える。
「まだ素性がわからない以上、下手に手出しをする事はできませんね……」
 助けを求めてきた、という可能性を否定できない以上、攻撃はできない。だが、敵意を持って近付いてきた場合は早急に行動しなければ手遅れになる可能性もある。なら――――
「……リヒターさん」
<何でしょう、まどか・ブラウニング>
 攻防共に非常に高いレベルを誇り、接近戦が得意なリヒターに対応してもらおう、そうまどかは考えた。
「正体不明の微弱な反応が接近しています」
<私の方でもそれらしきものを捕捉しました>
「流石ですね、リヒターさん。なら話は早いです、対象の動向を探ってください。敵対する意思が感じられた場合、攻撃しても構いません」
<了解しました>
 片膝をついた黒騎士が、短くと頷いた。
「すみません、本当はマスターの遥さんを通してするべきだったんですけど……その、遥さん、つ、月のお客さんが来ているみたいだったので……」
 まどかが恥じらいに頬を朱に染めるが、リヒターは何故彼女が恥ずかしがっているのか理解できなかった。
 ――――が、こんなのでも一応今は緊急事態なのだ、月のお客さんが何なのかは後で考えよう。リヒター、気持ちを改めて対象の監視を開始した。
 対象の反応は何度も言われている通り非常に微弱で、気を抜けば見落としてしまいそうになるくらいだった。機器の故障と勘違いしても仕方がない。
 時折その反応を消失させながらも、蛇行しながら接近してくる。皆には情報が伝わったようで、いつでも動けるようスタンバイしていた。
 そして、赤いオートマタが、一行の前にその姿を曝した。見たところブルタイプの改造機だろうか、頭部の角など、共通点が多い。
 皆が固唾を飲んで状況を見極めようとする中、そのオートマタは、拳を構えてこう言った。
<……その人を、放せ!>
 猛牛が地面を蹴り、剛力を乗せた鉄拳をリヒターに見舞う。
 太ましいフォルムからは予想もつかないスピードに防壁の展開が出来なかったため、リヒターもそれを真っ向から掌で受け止めた。腕が痺れるが、そんなのは意に介さない。
<……何者だ>
 ぎり、と猛牛の片腕を握る。それなり以上の力を加えているはずだが、猛牛はびくともしない。
<君達こそ、あの人を捕まえて何をしようとしているんだ!>
 少年のような声を張り上げて、猛牛が足払いを食らわせた。倒れそうになりつつも、各部のスラスターで姿勢制御をして持ちこたえる。
 ――――面倒な敵だ。機敏で俊敏、かつ一撃一撃が重い。まるでブルタイプの皮を被ったレオーネタイプのよう。
<状況を聞こうとしただけだ>
<じゃあなんでぐるぐる巻きに!>
 ジャブからのストレートを、最低限の動きだけで回避し、暴れ牛の脇腹へ回し蹴りを放つ。が、効果は薄いようだ。少し体勢を崩したに過ぎない。
<突然、襲われたからだ……!>
 だが、その隙は攻撃のチャンス。低く屈んで、ボディーブロー。巨体が少しだけ浮いた。
<くっ……! でもそれは、自動人形が街に入ったからだって、わからないのか!>
 猛牛の正拳突きが、リヒターを後方へ大きく吹き飛ばした。そして馬乗りになって拳を振り上げる。
<アウロラは、機械人形との共存の象徴の街のはずだ>
<機械人形……あの時のヤツが言ってた――――>
 突然動きを止めた猛牛を不審に思うが、それは一瞬。すぐにパワーを全開にして突き飛ばすと、バックダッシュで距離を離した。仕切り直しの睨み合い。
 その間、リヒター・ペネトレイターは思考する。
 攻撃、防御、機動性、どれを取ってもハイスペックだ。特に防御力が凄まじい。どんな攻撃を繰り出そうとそれらの全てが決定打と成り得る事はなく、逆にカウンターでこちらが痛恨の一撃を喰らう羽目になる。
 そんな時はどうするべきかの答えは、既に決まっている。
 リヒターが、右腕にありったけのマナを集中させた。
 それを見て、猛牛が腰を落とす。なんと、真っ向勝負を仕掛ける気のようだ。
<上等だ……!>
 リヒターの闘志が、俄然燃え上がった。同じように腰を落として、右腕を引く。一撃必殺の貫手にて、その分厚い装甲に風穴を空けてやらんと双眸が光り輝く。
 背部と脚部のスラスターがマナの光を放出し、蛍にも似た光が舞い踊る。
 突撃――――しようとした、その刹那。
<そのへんで終わりにしておけ、おまえら>
 増加装甲を脱ぎ捨てたたまが間に割って入った。九本の尻尾を巧みに操って二人を制止する。
 釈然としないものを感じながらも、リヒターがその矛を納めた。それを確認して、たまが猛牛へ向き直る。
<――――まさか街ごと入れ代わるとはな。“こちら”の世界へようこそ、自動人形くん>


□Chapter 03:僕は……タウエルン。


 猛牛を加え、再び男を囲む。ただし先程と違い、男の目は覚めているが。
<……入れ代わった、とは?>
 リヒターが腰を下ろしながら遥に問う。
 何故か遥の機嫌は回復していて、未だ縛られている男は怒っているような、怖がっているような、微妙な表情をしていた。何をしたのかはわからない。
「この人の証言から判断したの」
 遥が男に一瞥をくれてやると、男の瞳に恐怖がありありと浮かんだ。
<あの、マスター、彼に何を……>
「別に、ちょっとごめんなさいさせただけだよ」
 いつもと同じ太陽みたいな遥の笑顔が、今はなんだかとても恐ろしいものに感じられた。
「畜生、子供のくせに……化物め!」
 涙目の男の悪態は聞こえないフリ。
<あ、あの……君達は?>
 若干戸惑いながら、猛牛のオートマタ。
「私達はなんでも屋“やおよろず”っていうの」
 その質問に、遥がない胸を張って答え、皆の名前を猛牛に教えていった。
「そして、私は一条 遥っていうの。あなたは?」
<僕は、アル……いや、>
 何かを言おうとして尻込みしてから、
<僕は……タウエルン>
 タウエルン。その名前を聞いて遥の脳が勝手にそれ変換する。田植えるん、と。
「か、変わった名前だね」
<遥さん、笑い堪えてるのミエミエですよ>
「人の名前を悪く言っちゃあいけねーな、遥」
 そう指摘するシロとリヒトの声も笑いを堪えて震えていたのは明白だ。
「そう言う師匠達だってミエミエじゃん! ……ごめんね、タウエルンさん」
<ううん、僕は大丈夫。それよりも“こちらの世界”って?>
<それについては私が説明しよう>
 再び装甲を着込んだ玉藻・ヴァルパインがハスキーな声で説明する。
 少し前にもタウと同じ異世界からの訪問者が来た事や、恐らくその影響で時空が歪んでしまったであろうという事。
 どちらも同じタイミングで地震が起こったという事、正体不明の白亜の巨人、そして何よりも、目の前のこの状況。
 それらを総合すると、街と街が入れ代わったと考えるのが妥当だろう、と。
<まあ、あくまで推測に過ぎないがな。ところでおまえの世界は、機械人形がヘイトされているらしいじゃないか>
 そう言って、たまが縛られている男に冷ややかな視線を送る。
<僕の世界だと、機械人形じゃなくて自動人形って言うんだけど――――>
 猛牛改めタウエルンが遠慮がちに訂正を入れようとした時、ひとりの男がタウの視界に飛び込んだ。
「児童人形と聞いて飛んできたぞ!」
 ロリコンという名の紳士、リヒト・エンフィールドだ。
<あ、これ誤字なんでwiki収録時に修正しといてください>
 ただしその紳士は白いうさぎに掴まれて早々に退場したが。
<何を言ってるんだあいつらは……まあいい。しかし自動人形か、私達機械人形とは真逆だな>
 自動人形と違い、機械人形――――オートマタは特に嫌われているわけではない。
 オートマタが世界を破壊しようが何をしようが、世界を共に再生していったのもまたオートマタだし、古代に何をやらかしていようと、そんなものは今は関係ない。
 それに一部の調子に乗った馬鹿を除けば、特に人に危害は加えないし、むしろマナさえ与えれば仕事を手伝ってくれたりもする。
 まるで犬のようだ、と一部の野良に馬鹿にされる事もあるが、たま自身はそれでいいと思っていた。おそらくシロもリヒターも同じように思っている事だろう。
<自動人形は、大戦が終わった後も犯罪に利用され続けてるから、いいイメージがないんだ。みんながみんな、そうってわけじゃないけれど>
「機械は使う人次第、ですね」
 言い終わってから悲しそうな声で笑ったタウ。それにリタが補足する。
<機械は使う人次第、か……>
 今は姿の見えない相棒もそんな事を言っていたなぁ、と思い出す。
<そうだ、僕の相棒のショウイチに会わなかった? こういう人なんだけど>
 タウがホログラムを発生させた。それには色褪せた赤いシャツと、所々擦り切れているジーンズを身に纏った青年が映っていた。顔立ちはいいが、表情は冴えない。
 ろくな手入れもしていないだろう髪はボサボサで、腰からぶら下げた水筒がなんだか独特な哀愁を漂わせている。
 やおよろず一行は彼を見た事がなかったが、一同は同じ考えを抱く。
 ――――こんな格好なら、嫌でも目立つんじゃない? と。
「すみません、心当たりはありませんね……」
<そっか……>
 まどかが申し訳なさそうに、タウが残念そうに頭を垂れた。
「あ、そうだ!」
 ぱちん! まどかが手を叩く。
「それなら私達に依頼していただくというのはどうでしょう!」
 ――――これが、奇妙なトラクターと珍妙な人々の付き合いの始まりだった。


 To be Continued...□


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