統合歴329年10月29日
涼やかな空気に時折、冬の到来を予感させる冷たい風が混じる秋空の下、八坂州私立八坂高校スポーツギア部のスタジアムでは3人の選手が1枚のプリントを囲んでいた。
プリントには『文化祭の催し物』と記載されており、多分に漏れず八坂高校でも文化祭の準備に向けて慌しい空気が漂っている。
だが、ギア部には文化祭特有の慌しさとは無縁な様子で、守屋は何もしないのは流石に拙いのではと、加賀谷部長・三笠副部長を問い質しに来たのであった。
プリントには『文化祭の催し物』と記載されており、多分に漏れず八坂高校でも文化祭の準備に向けて慌しい空気が漂っている。
だが、ギア部には文化祭特有の慌しさとは無縁な様子で、守屋は何もしないのは流石に拙いのではと、加賀谷部長・三笠副部長を問い質しに来たのであった。
「バトルロイヤル…ですか?」
「そうだ。八坂高校スポーツギア部の伝統でな。初日はシミュレーターを一般開放し、レクリエーションを行う。
二日目は其々の専属ギアで、ヤラセ無しのバトルロイヤルを行い、最後まで勝ち残った選手を見事当てる事が出来た者には…」
二日目は其々の専属ギアで、ヤラセ無しのバトルロイヤルを行い、最後まで勝ち残った選手を見事当てる事が出来た者には…」
尤も、守屋の心配は全くの無用だったようで、存在その物が催し物になるギア部には文化祭の準備などあって無いようなものらしい。
因みに加賀谷は伝統などと大仰な言い方をしたが設立して僅か6年のギア部の歴史などあって無いようなものだ。
因みに加賀谷は伝統などと大仰な言い方をしたが設立して僅か6年のギア部の歴史などあって無いようなものだ。
「高校の文化祭でトトカルチョなんて大丈夫なのですか?」
「別に賭けるのは金じゃなくて文化祭の利用券さ。これなら換金出来無いし法に触れる事も無いだろ、多分。」
守屋が怪訝そうな表情で問いかけると三笠は利用権のサンプルをヒラヒラと揺らす。
「成る程。因みに最後まで立つ事が出来た者への報酬はあるのですか?」
「勝者には利用券を進呈…されるかも知れない。」
「あー…はい。了解です。」
何か釈然としない物を感じつつ、守屋はバトルロイヤル文化祭仕様についての説明を受ける事になったが、それ程大層な仕様変更があるわけでは無い。
一、八機のギアによる対戦という性質上、シミュレーターを用いる。
二、搭乗機はシミュレーター訓練用に調整したリヴァイドのデータでは無く、専属機のデータを使用する事。
※但し、霧坂は専属機が無い為、八坂高校所有のギアから任意に選択。選択する機体は試合開始まで不明。
三、アイリス・ジョーカーのフルドライブ等の公式戦の規約に反するシステムは使用禁止。
四、レーダー、センサー類の機能を制限。
二、搭乗機はシミュレーター訓練用に調整したリヴァイドのデータでは無く、専属機のデータを使用する事。
※但し、霧坂は専属機が無い為、八坂高校所有のギアから任意に選択。選択する機体は試合開始まで不明。
三、アイリス・ジョーカーのフルドライブ等の公式戦の規約に反するシステムは使用禁止。
四、レーダー、センサー類の機能を制限。
つまる所、ルールを守って8人で組んず解れつ大暴れしましょうねという事だ。
入部直後に全部員と対戦は行っているが、当時は大きくハンデを付けられた状態での戦いで、接待ゴルフの様な勝負でしか無かった。
だが、今回は其々の部員が専属ギアで公式戦と同じ仕様で戦うのだ。ギア部の仲間達の真の実力を僅かでも触れる事が出来る。
そして、何よりも八坂高校最強の選手、加賀谷望と愛機、スカーレットと戦う事が出来る絶好の機会でもある。
春に一蹴された時と比べて、何処まで対抗出来るようになったのか挑戦したかったところでもあり、守屋の闘志は否応無しに燃え滾る。
入部直後に全部員と対戦は行っているが、当時は大きくハンデを付けられた状態での戦いで、接待ゴルフの様な勝負でしか無かった。
だが、今回は其々の部員が専属ギアで公式戦と同じ仕様で戦うのだ。ギア部の仲間達の真の実力を僅かでも触れる事が出来る。
そして、何よりも八坂高校最強の選手、加賀谷望と愛機、スカーレットと戦う事が出来る絶好の機会でもある。
春に一蹴された時と比べて、何処まで対抗出来るようになったのか挑戦したかったところでもあり、守屋の闘志は否応無しに燃え滾る。
そして、待ちに待った統合歴329年11月3日。体育祭の対バリエント戦の影響を受けたせいか、客の入りは上々。
だが、守屋はそんな事に意を介さずシミュレーターマシンの中で普段の試合以上に緊張した面持ちで開幕を待っていた。
だが、守屋はそんな事に意を介さずシミュレーターマシンの中で普段の試合以上に緊張した面持ちで開幕を待っていた。
(ギア部の面子で段違いの能力を持っているのは加賀谷部長、小野寺先輩。この二人に勝つのは…今の俺にはほぼ不可能。
だが、それは皆も承知している筈…集中砲火を受けるのは加賀谷先輩、小野寺先輩が定石か。更に内田先輩の長距離砲撃も脅威だ。)
だが、それは皆も承知している筈…集中砲火を受けるのは加賀谷先輩、小野寺先輩が定石か。更に内田先輩の長距離砲撃も脅威だ。)
矢神とプライドを賭けて戦うわけでも無ければ、違法ギアと命を賭けて戦うわけでも無い。ただの催し物だ。
ただの催し物の筈だというのにも関わらず、握り締めた拳からは汗が滲み、嫌でも緊張している事を自覚させられてしまう。
ただの催し物の筈だというのにも関わらず、握り締めた拳からは汗が滲み、嫌でも緊張している事を自覚させられてしまう。
(意外と負けず嫌いなんだな、俺。)
だが、其々が一癖も二癖もある実力者揃いの八坂高校スポーツギア部。まともに戦いたくば、ほんの僅かな失態すら論外なのだ。
そして、僅かな失態を犯す事無く渡り合える自信が無く、自分一人の自己満足の戦いだというのにも関わらず、嫌な重圧を感じていたのである。
だが、プレッシャーばかりにかまけてばかりいるわけでもいかない。試合開始の刻限まで、闘いの鐘が鳴るまで後僅か。
そして、僅かな失態を犯す事無く渡り合える自信が無く、自分一人の自己満足の戦いだというのにも関わらず、嫌な重圧を感じていたのである。
だが、プレッシャーばかりにかまけてばかりいるわけでもいかない。試合開始の刻限まで、闘いの鐘が鳴るまで後僅か。
「何はともあれ…まずは状況確認。最優先すべき事は集中砲火を浴びないようにする事だな…」
試合開始の刻限になり、この日の為に用意された戦場全体を映す巨大スクリーンと八機のギアのメインモニタをリンクさせた八台のスクリーンが試合開始のサインを表示。
選手達の眼前に広がる何も無い灰色の世界。何も無いのも束の間、何処までも果てなく続く灰色の空に30m程の高さで蓋がされる。
選手達の眼前に広がる何も無い灰色の世界。何も無いのも束の間、何処までも果てなく続く灰色の空に30m程の高さで蓋がされる。
MCIギアの最大跳躍高度より若干高く、SCIギアの最大飛行高度よりも若干低い天井を構築し、ある程度の公平性を持たせたのだ。
そうこうしている内に、円柱や立方体等の様々な形の柱が建ち、灰色の世界に模様が刻まれ、彩色が施され擬似的な市街地が形成される。
そうこうしている内に、円柱や立方体等の様々な形の柱が建ち、灰色の世界に模様が刻まれ、彩色が施され擬似的な市街地が形成される。
実際の市街地と比べると戦い易いように道を大きく作られ、選手同士が密集し過ぎないよう市街地の皮を被った巨大迷路になっている。
だが、建造物の強度は無いも同然で破壊は容易い。但し、破壊すると巨大な破砕音が轟くように設定されており、他の選手に居場所を示す事になる。
すぐに戦闘が終わらないようセンサー類の使用を制限し巨大迷路の体を取っているが、選手同士が迷子になり戦いが始まらず必要以上に試合が長引かないようにする為の工夫である。
だが、建造物の強度は無いも同然で破壊は容易い。但し、破壊すると巨大な破砕音が轟くように設定されており、他の選手に居場所を示す事になる。
すぐに戦闘が終わらないようセンサー類の使用を制限し巨大迷路の体を取っているが、選手同士が迷子になり戦いが始まらず必要以上に試合が長引かないようにする為の工夫である。
一分程で戦場の形成が完了し、最後に擬似的に構築された愛機が虚構の戦場に産み落とされる。
いよいよ、八坂名物バトルロイヤルの始まりだ。と言っても守屋の眼前に広がるのは広い道路と、所狭しと並び立つ天井まで伸びたビルの森。
こうしていては埒が明かないと第一歩を踏み出すと同時に鼓膜が馬鹿になりそうな程の爆音と共に眼前のビルに大穴を穿たれる。
いよいよ、八坂名物バトルロイヤルの始まりだ。と言っても守屋の眼前に広がるのは広い道路と、所狭しと並び立つ天井まで伸びたビルの森。
こうしていては埒が明かないと第一歩を踏み出すと同時に鼓膜が馬鹿になりそうな程の爆音と共に眼前のビルに大穴を穿たれる。
「この砲撃…内田先輩のスナイパーライフルか?」
穿たれた大穴を覗き込むと同様に大穴を穿たれたビルが軒を連ねている。その大穴を穿った内田燐のブレイジンは既に移動を開始。
恐らく、今の砲撃で殆どの選手が内田が何処に居るのか大体の予測を付けている頃だろう。
だが、内田は移動予測を狂わせる為にブースターを吹かしたり歩いたり、時には走り、天井付近まで飛び上がる等、無駄な行動を取る。
近接戦闘メインの選手は敵が合理的な判断に基づいて行動すると決め付けるきらいがあるので、行動の中に無駄を含める事で彼等の予測を狂わせる事は容易い。
恐らく、今の砲撃で殆どの選手が内田が何処に居るのか大体の予測を付けている頃だろう。
だが、内田は移動予測を狂わせる為にブースターを吹かしたり歩いたり、時には走り、天井付近まで飛び上がる等、無駄な行動を取る。
近接戦闘メインの選手は敵が合理的な判断に基づいて行動すると決め付けるきらいがあるので、行動の中に無駄を含める事で彼等の予測を狂わせる事は容易い。
そして、内田の砲撃が呼び水となりバトルフィールドの各所で戦いが始まった。
「ビンゴ!やっぱり燐の開けた大穴を覗き込むのは守屋だと思っていたよ!」
間抜けにも長々と大穴を覗き込んでいるアイリス・ジョーカーの頭部目掛けて歳方はブクレスティアのハンドガンを4連射、駄目押しで大口径のマグナムを発射。
格闘戦仕様の重厚な装甲を持つアイリス・ジョーカーとは言え、頭部の強度は全スポーツギア共通で、5発もあれば釣が来る。
余談ではあるが歳方は去年、三笠がロケットランスで拵えた大穴を覗き込んで加賀屋に頭部を撃ち抜かれたという苦い経験がある。
格闘戦仕様の重厚な装甲を持つアイリス・ジョーカーとは言え、頭部の強度は全スポーツギア共通で、5発もあれば釣が来る。
余談ではあるが歳方は去年、三笠がロケットランスで拵えた大穴を覗き込んで加賀屋に頭部を撃ち抜かれたという苦い経験がある。
「アイリスゲット!」
「甘いぜ、アリアッ!!」
ガッツポーズを取る歳方の背後には阿部のリヴァイド・カスタムが背後に忍び寄っており、上段に構えたバスターソードを今にも振り落とさんとしていた。
歳方は開始早々、撃破されて堪るかと地を蹴り上げ、ブースターを吹かし初撃を凌ぐが、阿部は機体を反転させながらバスターソードを横薙ぎに振り抜きブクレスティアの左足を斬り飛ばす。
歳方は開始早々、撃破されて堪るかと地を蹴り上げ、ブースターを吹かし初撃を凌ぐが、阿部は機体を反転させながらバスターソードを横薙ぎに振り抜きブクレスティアの左足を斬り飛ばす。
「辰巳ィ?初っ端から可愛い彼女に奇襲かけるたぁ、良い度胸してんねぇ?」
歳方はブースターと残った右足を器用に操り、体勢を立て直しつつ後退しながら牽制弾をばら撒き、本命のマグナム弾を撃ち込む。
「俺の進行方向に居るアリアが悪いのさ。」
阿部は悪びれる事無く、刃幅の広いバスターソードを盾代わりにして迫り来る銃弾を防ぎながら間合いを詰める。
―その一方で霧坂茜華は…
「コラ!霧坂、逃げるなッ!!」
「私が加賀谷部長に勝てるわけ無いじゃないですかッ!!逃げるに決まってるでしょうが!!」
激しいデッドヒートを繰り広げる二機のスカーレット。先行は霧坂機。そして、後から猛攻を仕掛ける加賀谷機。
だが、同じギアである以上、当然のことながら性能は何もかもが全く同じ。二機の距離は狭まる事も無ければ広がる事も無い。
だが、同じギアである以上、当然のことながら性能は何もかもが全く同じ。二機の距離は狭まる事も無ければ広がる事も無い。
そして、何よりも―
「霧坂め…何時の間にこんなに上手くなっていたんだ!?」
機体の性能が互角とは言え、搭乗者の操縦技術には大きな開きがあり、この逃走劇も長くは続かない筈だった。
だが、霧坂はスカーレットのブースターを常時フルスロットルで駆動させており、常に限界最高速度を維持しているのだ。
その上、この入り組んだ巨大迷路で一度もぶつかる事無く、ブースターを小刻みに操りながら、加賀谷から逃亡を続けている。
戦闘技術は並の一年生より若干上程度だが単純な操縦技術だけならば桁違いに高いのではと今更ながらに気付かされる。
だが、霧坂はスカーレットのブースターを常時フルスロットルで駆動させており、常に限界最高速度を維持しているのだ。
その上、この入り組んだ巨大迷路で一度もぶつかる事無く、ブースターを小刻みに操りながら、加賀谷から逃亡を続けている。
戦闘技術は並の一年生より若干上程度だが単純な操縦技術だけならば桁違いに高いのではと今更ながらに気付かされる。
(仕方が無い…壁ごと貫くか。)
加賀谷は霧坂を追い詰める算段を構築しつつ、州大会の新人戦に八坂高校代表選手に霧坂を出場させる事を決めた。
どちらにせよ守屋は矢神との決戦を望むだろうから、新人戦に出す事は出来ないし必然的な人選でもあった。
どちらにせよ守屋は矢神との決戦を望むだろうから、新人戦に出す事は出来ないし必然的な人選でもあった。
そして、加賀谷と霧坂が逃亡劇を繰り広げている区域から2ブロック程離れた地点では二つの黒が交差していた。
副部長三笠慶の愛機クランと、二年のエース小野寺織の愛機ヴァイゼストである。
副部長三笠慶の愛機クランと、二年のエース小野寺織の愛機ヴァイゼストである。
三笠は背中の大型ツインブースターに左肩のロケットランスを接続し、両の腕でハルバードを握り締めヴァイゼストに肉迫。
如何にクランが重装型のギアとは言え三つのブースターを持つ以上、単純なスピード勝負ではヴァイゼストに勝ち目は無い。
その上、クランのブーストハルバードに接続されている六基のブースターは全てプログラム制御により三笠の意の侭に操る事が出来る。
それに対して、ヴァイゼストのブーストサイズは制御は音声入力に委ねられる為、ブーストハルバードの様に自在に操るには限界がある。
如何にクランが重装型のギアとは言え三つのブースターを持つ以上、単純なスピード勝負ではヴァイゼストに勝ち目は無い。
その上、クランのブーストハルバードに接続されている六基のブースターは全てプログラム制御により三笠の意の侭に操る事が出来る。
それに対して、ヴァイゼストのブーストサイズは制御は音声入力に委ねられる為、ブーストハルバードの様に自在に操るには限界がある。
「攻撃速度、攻撃回数、攻撃精度は相手が上…だが、一撃の攻撃力は此方の方が圧倒的に上…ならば!」
小野寺はブーストサイズを旋回させ構え直し、黒い巨星クランを見据える。
「三笠先輩、勝負です。SCIギアでMCIギアに近接戦闘を仕掛ける愚を教えて差し上げましょう。私は守屋程、甘くはありませんよ?」
「面白いッ…見せてもらおうかッ!!」
再び、黒と黒、矛と鎌がぶつかり合い、辺り一面に剣閃が飛び交い、二人の戦いに巻き込まれた建造物が轟音を伴い倒壊していく。
―そして、守屋一刀は…
突如現れたブクレスティアに驚き、バランスを崩して転倒し事無きを得て、道路沿いに機体を進ませていた。
壁をぶち抜けば歳方と阿部が戦っている区域に到達出来るが折角なので潰し合ってもらう事にした。因みに他の選手とは遭遇していない。
いよいよ、本格的に戦いが激化し、周囲から轟音が鳴り響き、守屋は否応無しに焦りを感じていた。
壁をぶち抜けば歳方と阿部が戦っている区域に到達出来るが折角なので潰し合ってもらう事にした。因みに他の選手とは遭遇していない。
いよいよ、本格的に戦いが激化し、周囲から轟音が鳴り響き、守屋は否応無しに焦りを感じていた。
(何が集中砲火に警戒だ…完全に俺だけ蚊帳の外じゃないか。)
只管、待ち続けるのもアリかも知れないが、この戦いが見世物である以上、客に退屈させるような事をするわけにもいかない。
だが、守屋がやった事と言えば、内田が穿った大穴を覗き込んで、歳方に発砲されて腰を抜かしただけで興行という意味合いでは客にとっては見ていて一番面白くない選手だ。
尤も、観客はスカーレット同士のデッドヒート、歳方と阿部の痴話喧嘩、三笠と小野寺のガチバトルに注視しているので、情けない話だが守屋の心配は杞憂というものだ。
だが、守屋がやった事と言えば、内田が穿った大穴を覗き込んで、歳方に発砲されて腰を抜かしただけで興行という意味合いでは客にとっては見ていて一番面白くない選手だ。
尤も、観客はスカーレット同士のデッドヒート、歳方と阿部の痴話喧嘩、三笠と小野寺のガチバトルに注視しているので、情けない話だが守屋の心配は杞憂というものだ。
「仕方が無い…壁をぶち破って適当な所に乱入するか。」
漁夫の利みたいで気が重いなと思いつつ手近なビルを崩しにかかろうとすると守屋の背後に轟音と共に大穴が穿たれる。
「内田先輩か………ん?」
守屋は機体を屈ませ、眼を閉じ耳を澄ませる。発砲音と鋼が風を斬る音、これは歳方と阿部の二人の戦いだ。
もう一方で重たい物がぶつかり合う音、恐らくクランとヴァイゼスト。別の位置で聞き慣れたスカーレットのブースト音がハモって響いている。
霧坂が搭乗機にスカーレットを選択し、俄かに信じ難いが加賀谷と高速戦闘を繰り広げているようだ。
もう一方で重たい物がぶつかり合う音、恐らくクランとヴァイゼスト。別の位置で聞き慣れたスカーレットのブースト音がハモって響いている。
霧坂が搭乗機にスカーレットを選択し、俄かに信じ難いが加賀谷と高速戦闘を繰り広げているようだ。
「内田先輩はフリーって事か…穴を伝って行けば対戦出来そうだな。」
だが、一つ懸念もあった。ブクレスティア専用スナイパーライフルの攻撃力は競技用兵装の中でも1、2を争う程の破壊力を誇る。
その代償として装弾数は極端に少なく、安易に発砲出来るような代物では無い。つまり、この攻撃には何らかの意味があるという事だ。
第一、守屋一刀が知る内田燐という少女は思慮深く、慎重で忍耐強い性格をしており狙撃者向けの性格をしている。
その代償として装弾数は極端に少なく、安易に発砲出来るような代物では無い。つまり、この攻撃には何らかの意味があるという事だ。
第一、守屋一刀が知る内田燐という少女は思慮深く、慎重で忍耐強い性格をしており狙撃者向けの性格をしている。
「だが、いつまでも手をこまねているわけにもいかんか…」
守屋は内心に何らかの引っ掛かりを感じながらも穿たれた穴沿いに文字通り一直線に機体を走らせる。
ビルが派手な音を立てながら崩れ落ちるがシミュレーターだからこそ建つ事が出来ているに過ぎず、強度も重量も無いに等しい。
拳を振るうまでも無く面白いように崩れていき、絶え間無く瓦礫が愛機に降り注いで来るが、降り注いだ瓦礫が更に小さく砕かれるだけで、機体にダメージは無い。
感覚的には上から絶え間無く、豆腐が降り注いでくる感じに近い。まるで自分が絶対者になったような気分になり少しだけ楽しい。
ビルが派手な音を立てながら崩れ落ちるがシミュレーターだからこそ建つ事が出来ているに過ぎず、強度も重量も無いに等しい。
拳を振るうまでも無く面白いように崩れていき、絶え間無く瓦礫が愛機に降り注いで来るが、降り注いだ瓦礫が更に小さく砕かれるだけで、機体にダメージは無い。
感覚的には上から絶え間無く、豆腐が降り注いでくる感じに近い。まるで自分が絶対者になったような気分になり少しだけ楽しい。
「今度、このステージで遊んでみるか」などと戯けた事を考えつつ、壁をブチ破り突き進んでいると漸く、穴を穿たれていない壁に辿り着く。
「あら、意外な子が釣れちゃったね?」
おっとりとした声が苛烈な砲撃と共に発せられるが、ビルを一直線に轟音を立てながらブチ破って進んで来たのだ。
当然の事ながら、内田以外の選手からの奇襲も予測済みだ。機体を豆腐の様に柔らかいビルに突っ込ませ、砲撃を避ける。
当然の事ながら、内田以外の選手からの奇襲も予測済みだ。機体を豆腐の様に柔らかいビルに突っ込ませ、砲撃を避ける。
「わ、偉い偉い。至近距離からの射撃も避けられるようになったんだね!」
「射撃…?」
守屋は体勢を直し、内田の射線から逃れつつ距離を詰めながら怪訝そうな表情になる。
「そう。でも、砲撃の方はどうかな?」
「何…ッ!?」
そして、一際、大きな轟音が鳴り響き、守屋の周囲に砂煙が巻き上がる。
「あ、もしかして引っ掛かった?実は試合が始まってスナイパーライフルを使ったのは今が初めてなんだよ?
遮蔽物は多いけど、強度は無いも同然だし普通のライフルでも遠くに飛ばすだけなら簡単なんだよ。」
遮蔽物は多いけど、強度は無いも同然だし普通のライフルでも遠くに飛ばすだけなら簡単なんだよ。」
つまる所、ただでさえ少ない残弾が更に少なくなっているというのは、ただの勘違い。
目視可能な距離からスナイパーライフルを撃ち込む為の布石にまんまとかかったというわけだ。
だが、それに悔いている場合では無い。何時までも距離を開けていては敗北は必至。
何はともあれ前進しなくては話にならないと守屋は巻き上がる粉塵を切裂き、弾丸の如く跳躍。
左腕がスパークを放ち、反応が幾分か鈍くなっているが欠落していないだけ、まだマシだ。
目視可能な距離からスナイパーライフルを撃ち込む為の布石にまんまとかかったというわけだ。
だが、それに悔いている場合では無い。何時までも距離を開けていては敗北は必至。
何はともあれ前進しなくては話にならないと守屋は巻き上がる粉塵を切裂き、弾丸の如く跳躍。
左腕がスパークを放ち、反応が幾分か鈍くなっているが欠落していないだけ、まだマシだ。
内田の愛機ブレイジンは狙撃戦特化のギアだが、それ以外の性能は決して高く無い。狙わせさえしなければそれ程、難敵とは言えない。
一気に距離を詰め、ブレイジンの頭部に鋼拳を放つが、内田は特に慌てた風でも無く機体を上昇させながら後退しながらフルオートで弾丸をばら撒き、高度を取るとスナイパーライフルを構える。
一気に距離を詰め、ブレイジンの頭部に鋼拳を放つが、内田は特に慌てた風でも無く機体を上昇させながら後退しながらフルオートで弾丸をばら撒き、高度を取るとスナイパーライフルを構える。
「チッ…!」
守屋は横っ飛びにビルの中に突っ込み機体を疾駆させる。
「目眩ましのつもりかな?流石にそれは甘いよ?」
アイリス・ジョーカーの進行に沿って、崩れ行くビルの群れを一瞥すると内田は躊躇い一つ無くトリガーを引く。
ビルの中を突き崩しながら進んだ所で守屋の前進に合わせてビルが破壊されていくのだから守屋が何処に居るかなどを割り出すなど内田で無くても容易い事だ。
だが、守屋は内田が目算した地点よりも後方から跳躍し、再び彼我の距離がゼロになる。
ビルの中を突き崩しながら進んだ所で守屋の前進に合わせてビルが破壊されていくのだから守屋が何処に居るかなどを割り出すなど内田で無くても容易い事だ。
だが、守屋は内田が目算した地点よりも後方から跳躍し、再び彼我の距離がゼロになる。
「目算を誤った!?」
アイリス・ジョーカーの左腕が閃くが損傷のせいで動きが鈍い。避けるのは容易く、余裕を持って間合いを取る。
だが、守屋はそれを気にした風も無く、何も無い空間にアイリス・ジョーカーの左腕を更に振り回す。
だが、守屋はそれを気にした風も無く、何も無い空間にアイリス・ジョーカーの左腕を更に振り回す。
「何をしているの…?」
全くの無意味な行動に戸惑っていると、突如としてビルの残骸から有線チャクラムが飛来しブレイジンの右足を絡め取る。
無意味な行動で相手を欺くのが得意な割に、一見して自分に対して無意味な行動を取られると全く対応出来ないのが内田の欠点である。
無意味な行動で相手を欺くのが得意な割に、一見して自分に対して無意味な行動を取られると全く対応出来ないのが内田の欠点である。
「もしかして…さっきのは…」
「ええ、正解です。ビルの中に潜り込んだ時、内田先輩が予測するであろう進行方向へ向けてチャクラムを放ち、俺がビルを破壊しながら前進しているように見せかけたというわけです。」
「このステージの条件だからこそ出来た事ですけどね。」と得意気に付け足し、ワイヤーを右腕で掴み、ブレイジンを大地に叩き付けようと守屋は容赦なく両腕を振るう。
だが、内田も簡単に守屋の目論み通りにはさせてはくれず、躊躇う事無く絡みついたチャクラムを自らの右足ごと撃ち壊す。
だが、内田も簡単に守屋の目論み通りにはさせてはくれず、躊躇う事無く絡みついたチャクラムを自らの右足ごと撃ち壊す。
そして、戒めから逃れた内田は地に叩き付けられる寸前で体勢を立て直す。
「流石…ですね。」
チャクラムは破壊され、同じ手は使えない。対する内田は右足を失っただけでスナイパーライフルの残弾も充分。
ブースターも健在で高速機動も可能で最早、打つ手は何一つとして残されていないし、意表を突けそうなアイディアも沸かない。
ブースターも健在で高速機動も可能で最早、打つ手は何一つとして残されていないし、意表を突けそうなアイディアも沸かない。
「修理費がかからないシミュレーターだから出来る芸当だよ。」
「ひ、皮肉ですか!?」
「さっきのお返しだよ。それじゃあ、どうしよう?降参なんてしないよね?」
「当然です。先に種明かしをしますが打つ手が一つもありません。ですが、俺にしては珍しく両手両足とも健在。最後の最後まで足掻かせて頂きますよ。」
「うん。偉いね。流石、男の子。」
優しい言葉とは裏腹にスナイパーライフルが突き付けられる。全く容赦してくれるつもりは無いらしい。
(打つ手は無いが…)
守屋は右腕のバックラーブレードの刀身を伸ばし、左腕のシールドで頭部を庇い、下半身のバネを撓ませ姿勢を下げる。
「内田先輩、勝負です!!」
アイリス・ジョーカーが地を蹴ると同時にブレイジンがスナイパーライフルのトリガーを引き絞る。
彼我の距離は50m、アイリス・ジョーカーの瞬発力ならば到達するまで0.01秒も必要の無い程の至近距離。
だが、スナイパーライフルもギアの瞬発力など問題にならない程の弾速を誇る―
彼我の距離は50m、アイリス・ジョーカーの瞬発力ならば到達するまで0.01秒も必要の無い程の至近距離。
だが、スナイパーライフルもギアの瞬発力など問題にならない程の弾速を誇る―
「霧坂、観念しろッ!!」
「ちょ!?いつまで追っかけて来るんですか!?」
霧坂はというと相変わらず最大速度を維持しつつ加賀谷から大絶賛逃亡中。
加賀谷は霧坂を追撃しつつ此処まで逃げ回る選手は初めてだと思うと同時に、此処まで相手を追い掛け回すのも初めてだと苦笑した。
笑えるが、スポーツギアは戦うモータースポーツであってコーナーを攻めたり、タイムを競い合うモータースポーツでは無い。
いい加減にケリを付けるかと腰部にマウントされた二振りのソードライフルを両手に持ち、狙撃体勢に移る。
加賀谷は霧坂を追撃しつつ此処まで逃げ回る選手は初めてだと思うと同時に、此処まで相手を追い掛け回すのも初めてだと苦笑した。
笑えるが、スポーツギアは戦うモータースポーツであってコーナーを攻めたり、タイムを競い合うモータースポーツでは無い。
いい加減にケリを付けるかと腰部にマウントされた二振りのソードライフルを両手に持ち、狙撃体勢に移る。
「ロックオン警報ッ!?撃たれて…堪るかぁぁぁッ!!」
霧坂は機体を横転させ機体をビルに突っ込ませ、無理矢理射線から逃れる。
大きな音を立てて周囲の選手に存在を気取られてしまうかも知れないし、1対2になり状況が悪化する危険性もあるが
加賀谷のヘイトを他の選手に押し付ける事が出来るかも知れない。霧坂は祈る思いで壁をブチ破ると…
大きな音を立てて周囲の選手に存在を気取られてしまうかも知れないし、1対2になり状況が悪化する危険性もあるが
加賀谷のヘイトを他の選手に押し付ける事が出来るかも知れない。霧坂は祈る思いで壁をブチ破ると…
「ご自慢の剣戟戦闘プログラムも肝心な軸足を潰されちゃ、威力半減だろ?」
「へッ!お前こそ残った残弾は後幾つだ?」
「どっちも満身創痍かよッ!?」
霧坂が飛び込んだエリアでは未だ阿部、歳方は夫婦喧嘩の真っ最中だった。しかも、リヴァイドカスタムは急所以外の其処彼処に銃痕を刻んでおり
特に両脚は自立は不可能な程無残な姿に変貌しており、ブクレスティアも負けず劣らず全身に刀傷が刻み付けられている。
特に両脚は自立は不可能な程無残な姿に変貌しており、ブクレスティアも負けず劣らず全身に刀傷が刻み付けられている。
「と、兎に角、二人とも後は任せましたよッ!?」
『え?』
呆気に取られる両者の間を切裂くように突風を伴い、飛翔するスカーレットin霧坂。そして、後に続くスカーレットin加賀谷。
ついでに両者の間を抜けるついでに首を切り落として行く。サブパネルに歳方機、阿部機のロストが表示される。
ついでに両者の間を抜けるついでに首を切り落として行く。サブパネルに歳方機、阿部機のロストが表示される。
「瞬殺!?壁にさえならない…」
「コラァッ!!霧坂、後で覚えときなよ!?」
歳方の怒声が届いた気がしなくも無いが聞かなかった事にしておこう。小野寺や守屋に押し付ける事が出来れば状況を打開出来るのだ。
霧坂の目論見としては守屋、加賀谷、小野寺の三竦みにして内田に狙撃させ、三笠に内田を襲わせて満身創痍になった生き残りを撃破。最早、机上の空論で終わりを迎えようとしている。
霧坂の目論見としては守屋、加賀谷、小野寺の三竦みにして内田に狙撃させ、三笠に内田を襲わせて満身創痍になった生き残りを撃破。最早、机上の空論で終わりを迎えようとしている。
「と、兎に角…誰でも良いから、巻き込まないと!」
霧坂は音を頼りにビルを貫きながら再び、戦闘エリアに雪崩れ込むと同時に首を刎ね飛ばされる。
「そんな…追い付かれたっていうの…?」
霧坂は突然の出来事に驚愕しつつ背後に目を見やると下半身が吹き飛んだ加賀谷機が黒煙を噴いており、サブモニタには霧坂機、加賀谷機のロストが表示されている。
「え?え?何?」
霧坂機の内部スピーカーが内田の驚き戸惑った声を受信している。
「う…内田燐!その首貰ったッ!!」
刹那、焦り混じりの守屋の叫び声が届く。
「こ、コラアアアア~ッ!!!」
「な、何事…!?」
矢継ぎ早に繰り広げられる守屋と内田のやり取りの後に撃破されるブレイジン。流石の霧坂でも意味が分からないと戸惑いを隠せない。
その真相は守屋が地を蹴ると同時に内田がスナイパーライフルのトリガーを引き。更に同じタイミングで霧坂と加賀谷がこのエリアに雪崩れ込み
霧坂機は偶然、守屋機のブレードで首を切り落とされ、スナイパーライフルの射線に入った加賀谷機も下半身を吹き飛ばされたのだ。
そして、突然の乱入に内田は慌てふためき、一足早く平静を取り戻した守屋に首を刎ねられたという顛末である。
その真相は守屋が地を蹴ると同時に内田がスナイパーライフルのトリガーを引き。更に同じタイミングで霧坂と加賀谷がこのエリアに雪崩れ込み
霧坂機は偶然、守屋機のブレードで首を切り落とされ、スナイパーライフルの射線に入った加賀谷機も下半身を吹き飛ばされたのだ。
そして、突然の乱入に内田は慌てふためき、一足早く平静を取り戻した守屋に首を刎ねられたという顛末である。
「残りは三笠先輩と、小野寺先輩…いや、小野寺先輩一人か。」
サブパネルに目を見やると、つい今し方三笠機がロストした所だった。
「近接格闘戦仕様とは言え…SCI機で、MCI機を相手に此処まで喰らい付いて来れるとは…流石…ですね…」
小野寺は呼吸を荒くしながらブーストサイズを投げ出し膝を突き、その傍らには左肩を首ごと、バッサリと斬り落とされたクランが仰向けになって倒れていた。
「こんなんでも副部長なんでな。ほら、戦いはまだ終わってないぞ。立って立って。」
「あ…貴方は…鬼ですか…!?」
小野寺は三笠との対戦で辛うじて勝利を得る事が出来たに過ぎず、右足首、右肩の装甲をブーストハルバードに斬り落とされ
左腕はロケットランスで無残にも引き千切られ、胸部装甲もバックリと切裂かれており、右腕と左足の反応も鈍い。
ブーストサイズも4つあるブースターの内、3つは機能しておらず、刀身も刃毀れが酷く、柄も半分程で切裂かれてしまった。
おまけに搭乗者も疲労困憊と来ている。小野寺が紅眼とは言え筋力が非常識なだけで他は普通の人間と大差無いのだ。
左腕はロケットランスで無残にも引き千切られ、胸部装甲もバックリと切裂かれており、右腕と左足の反応も鈍い。
ブーストサイズも4つあるブースターの内、3つは機能しておらず、刀身も刃毀れが酷く、柄も半分程で切裂かれてしまった。
おまけに搭乗者も疲労困憊と来ている。小野寺が紅眼とは言え筋力が非常識なだけで他は普通の人間と大差無いのだ。
「では、守屋に勝ちを譲るか?そうか、守屋に無敗でいられる選手は加賀谷一人だけか…残念な限りだな~?」
「あ~、もう!!分かりましたよ!立ちますよ!立って守屋を捻り潰して来ますよ!」
小野寺は三笠の皮肉にムキになり、半ばヤケクソ気味に立ち上がる。
矢張り、反応が鈍い上に装甲が擦れる嫌な音が響いている。伝送系をやられている上に、フレーム干渉が起きているようだ。
矢張り、反応が鈍い上に装甲が擦れる嫌な音が響いている。伝送系をやられている上に、フレーム干渉が起きているようだ。
「せめて守屋も満身創痍で居てくれれば勝ち目はあるんだが…いや、守屋の事だ。どうせ半死半生の体だろうよ。」
小野寺は大破寸前になったアイリス・ジョーカーの姿を思い浮かべ、折れそうになる心を無理矢理奮起させる。
一応、守屋の指南役として八坂高校に迎えられた以上、どんな状況であっても守屋に遅れを取るのは矜持に関わる。
同じ満身創痍であれば操縦技術で遙に上回る自分が勝つのは道理だ。さあ来い、守屋一刀。まだまだ、お前に遅れを取る私では無い。
一応、守屋の指南役として八坂高校に迎えられた以上、どんな状況であっても守屋に遅れを取るのは矜持に関わる。
同じ満身創痍であれば操縦技術で遙に上回る自分が勝つのは道理だ。さあ来い、守屋一刀。まだまだ、お前に遅れを取る私では無い。
程無くして、ヴァイゼストの前にビルを破壊しながら、ほぼ【無傷】のアイリス・ジョーカーが颯爽と躍り出る。
「あ、コレは無理だな。」
小野寺織。自尊心が強く、少しばかり傲慢な少女だが、優れた相手を認める度量の広さを持ち合わせている。
そして、負けず嫌いだが意外と諦めも早い。此方はボロボロだと言うのに関わらずアイリス・ジョーカーは左腕からスパークを吹いているだけで五体満足。
そして、負けず嫌いだが意外と諦めも早い。此方はボロボロだと言うのに関わらずアイリス・ジョーカーは左腕からスパークを吹いているだけで五体満足。
「無理って行き成り、何なんですか?」
「いや、何でも無い。と言うか、随分と綺麗なままだな?どう考えてもお前のキャラじゃないんだが?」
「気持ちは分からんでも無いですが、やかましいです。」
守屋は若干、喜色混じりに淡々と答え、バックラーブレードを腰溜めに構える。
日頃の恨みと言うわけでは無いとは思うが、守屋から楽しくて仕方が無いというような雰囲気が全身から溢れて出ているのを小野寺は感じていた。
日頃の恨みと言うわけでは無いとは思うが、守屋から楽しくて仕方が無いというような雰囲気が全身から溢れて出ているのを小野寺は感じていた。
「いや…これだけのハンデがあるのだから守屋が勝って当然だ。何せ、私が指南しているのだから当然…」
小野寺がブツブツと悲痛な独り言を始め、これ以上、師の醜態は見ていられないと守屋は笑顔でヴァイゼストの首を刎ね飛ばした。
こうして、八坂高校ギア部伝統行事バトルロイヤルも無事に終了し、今年も多くの観客を満足させる事に成功した。
終わってみると他の部と違い大袈裟な準備をする必要も無く、手軽に観客を喜ばせる事が出来、後片付けに悩ませられる事も無く楽な催しなもんだと
役目を終えた守屋は霧坂を連れ立って、中学では体験する事の出来なかった文化祭を満喫していた。
終わってみると他の部と違い大袈裟な準備をする必要も無く、手軽に観客を喜ばせる事が出来、後片付けに悩ませられる事も無く楽な催しなもんだと
役目を終えた守屋は霧坂を連れ立って、中学では体験する事の出来なかった文化祭を満喫していた。
「それにしても、吃驚だわ。」
「全くだ。良い所まで行くとは思っていたが最後まで残るとは予想外だった。」
「それにしても、こんなに券貰って使い切れるの?」
まさかの大番狂わせ、八坂高校のルーキー守屋一刀の勝利。あれだけの幸運と偶然を引き寄せる事を誰が予想出来ようか。
そして、多くの観客が手堅く八坂州十指の一人、加賀谷に賭けて居た為、守屋と守屋に賭けた観客の配当がとんでも無い事になり
今、正に守屋の上着からは、まるで成金か何かのように利用券の束が顔を覗かせている。
そして、多くの観客が手堅く八坂州十指の一人、加賀谷に賭けて居た為、守屋と守屋に賭けた観客の配当がとんでも無い事になり
今、正に守屋の上着からは、まるで成金か何かのように利用券の束が顔を覗かせている。
「仕方が無い。クラスの連中に配ってやるか…」
半分くらい霧坂に押し付けてやろうかとも考えたが、今日も明日も霧坂と出店を回る約束をしてしまったので、霧坂に押し付けたところで
利用券を守屋が出すか霧坂が出すかの違いでしか無く、減っていないも同然だ。西行辺りに押し付けてやれば、喜ぶかも知れない。
利用券を守屋が出すか霧坂が出すかの違いでしか無く、減っていないも同然だ。西行辺りに押し付けてやれば、喜ぶかも知れない。
「んー…皆も守屋君に賭けて、手持ちの利用券が増えてるだろうから、あまり喜ばれないかもだね~。」
「あいつ等…俺に賭けていたのか?」
「皆、守屋君がどんな人なのか改めて分かっただろうし、信じられているんだよ。」
「……ま、これも霧坂のお陰なんだろうな。」
守屋は人格と賭けの対象は全く結び付かないんじゃないのかと思ったが
これもある意味全幅の信頼という事になるのだろうかとも考え、気持ち長めの間を置いて口を開くと思わず、本音が出てしまった。
これもある意味全幅の信頼という事になるのだろうかとも考え、気持ち長めの間を置いて口を開くと思わず、本音が出てしまった。
「いやいやいや!な、何で私が出て来るのさ!?」
霧坂は頬を朱に染め、両腕を振りながらワタシカンケイナイヨ?ワタシナニモシラナイヨ?と慌てだし
守屋は「意外とこの女、からかい甲斐があるんじゃないか?」などと思いながら苦笑して、唯一の強みを放出する事に決めた。
此処まで良い反応を取られては我慢出来るものも我慢出来なくなるというものだ。
守屋は「意外とこの女、からかい甲斐があるんじゃないか?」などと思いながら苦笑して、唯一の強みを放出する事に決めた。
此処まで良い反応を取られては我慢出来るものも我慢出来なくなるというものだ。
「体育祭の種目決めの前にな。」
「ほほう…あのバカ共は…って言うか、寧ろ、西行君辺りのアホが口を滑らせたんでしょ?ええ、言わなくても分かっているわ。」
すると態度は一変、霧坂はほの暗い気炎を猛らせ静かな怒りを表し、脳内会議で西行の処刑方法についての討論を開始。
「くくっ…アレな。物ッ凄ェ廊下に響いていたぞ?」
「ふぇ!?」
「プッ…く、くくっ…恥ずかしさのあまり、途中でスタジアムに逃げ帰ったんだぞ?」
霧坂の見当違いな怒りや、間の抜けた悲鳴があまりにも可笑しくて、事の顛末を語り終えた守屋は堪えきれず大笑い。
そして、見る見る内に霧坂の顔が茹蛸の様に真っ赤に色付いた。もしかしたら頭から湯気も立ち昇っているかも知れない。
そして、見る見る内に霧坂の顔が茹蛸の様に真っ赤に色付いた。もしかしたら頭から湯気も立ち昇っているかも知れない。
「あ、あ、ああ…あああああ!!!あ、有り得ねぇ!!ちょっと、マジで私が最悪なんですけどッ!?」
一番、守屋に知られたくなかった隠し事だったのにも関わらず、他の誰でも無い自分の口から守屋に聞かせていた事を知り
霧坂は怒り、悲しみ、後悔、屈辱、恥じらいといった複雑怪奇な色々と混ざり合った表情で早口に捲し立てる。
霧坂は怒り、悲しみ、後悔、屈辱、恥じらいといった複雑怪奇な色々と混ざり合った表情で早口に捲し立てる。
「いや、お前のお陰で転校せずに済んだわけだし感謝しているんだぞ?」
守屋は一頻り笑った所でフォローを入れるが、笑い過ぎで眼が潤んでおり説得力は皆無だ。
「うううっさい!バーカ…って、転校!?何それ?そんなの聞いていないんだけど!?」
「夏合宿で色んな高校を回っただろう?余所の連中は俺の事を怯えずに普通に接してくれるし楽しかったんだよ。
だから、矢神さんも居るし宋銭高校に転校しようかって考えていたんだ。今は霧坂のお陰で毎日が楽しいし、転校する気も無くなったけどな。」
だから、矢神さんも居るし宋銭高校に転校しようかって考えていたんだ。今は霧坂のお陰で毎日が楽しいし、転校する気も無くなったけどな。」
そして、守屋は「矢神さんとは公式の舞台で決着を付けたいしな。」と締め括った。
「はあ~…あの時、キレておいて良かったわ。でも、皆も怖いって言うよりも、如何接して良いか分からないって感じだったんだよ?」
知られたくない事を知られ、その事でからかわれ、守屋が転校を考えていた等と、珍しく霧坂が守屋の言動に振り回されてしまうが
それでも、自分が動いた結果、全てが丸く納まったと知ると心から安堵したらしく、深く溜息を吐いた。
それでも、自分が動いた結果、全てが丸く納まったと知ると心から安堵したらしく、深く溜息を吐いた。
「一番最初に話しかけてきたのが西行と夕凪だったけど…本当に如何して良いのか分からないってくらい必死だったっけか。」
「へぇ?何て言って来たの?」
「ああ。それがさ…って、アレだ。内緒にさせてくれ。お願い。頼む。」
本当に如何し様も無い連中から、最低なお誘いを笑い話として霧坂に披露してやろうと思ったが、口を開きかけて思い留まる。
ガチガチに固まってアダルトムービー見ないかって誘いに来たんだぜなどと口が裂けても言える筈が無い。
守屋は何も言わなかった事にしてくれと必死の思いで両手を合わせて、霧坂を拝み倒した。
ガチガチに固まってアダルトムービー見ないかって誘いに来たんだぜなどと口が裂けても言える筈が無い。
守屋は何も言わなかった事にしてくれと必死の思いで両手を合わせて、霧坂を拝み倒した。
「ま、まあ、別に良いんだけどさ。」
(って、ゲームが如何こうって話じゃなかったっけ…?)
「助かる。そう言えば、来週は州大会だな。」
霧坂もまた完全には平静を取り戻せていない事を良い事に守屋は半ば強引に話題を転換。
だが、急でも何でも無く八坂州スポーツギア高校大会の開催まで、いよいよ残すところ一週間となったのだ。
そして、守屋にとっては矢神と決着を付ける事の出来る今年最後のチャンスでもあり、嫌でも気が昂ぶるというものだ。
だが、急でも何でも無く八坂州スポーツギア高校大会の開催まで、いよいよ残すところ一週間となったのだ。
そして、守屋にとっては矢神と決着を付ける事の出来る今年最後のチャンスでもあり、嫌でも気が昂ぶるというものだ。
「うん。夏合宿でお世話になった学校と当たる事になると思う。」
そう言えば、夏合宿で一人だけやたら強い、砲撃戦仕様のMCIギアを使う一年の女子が居た事を思い出しまた戦える機会があるかも知れないと期待も高める。
「で、それが終わったら期末試験…なので、試験勉強お願いね?」
「それは構わんが、変なのに巻き込まれたくないからな…ウチでやるぞ。」
自ら期末試験を話題に出しておきながら霧坂は些か、げんなりとした表情になり、守屋もまた試験勉強と聞いて憂鬱そうな表情に変わる。
「そして、今度は家を違法ギアに占拠…」
「そんな事があってたまるか…と言いたいが、霧坂がそう言うと本当に占拠されそうだな?」
そう。霧坂は勉強が嫌で表情を曇らせたが、守屋が表情を曇らせた理由はまた違法ギアに絡まれるのでは無いかという懸念があるからだ。
八坂州に移住して、早半年。違法ギアに絡まれる事4度。最早、何かに憑かれているか呪われているとしか思えない。
八坂州に移住して、早半年。違法ギアに絡まれる事4度。最早、何かに憑かれているか呪われているとしか思えない。
「なわきゃ無いでしょうが!!早く冬休みにならないかな…それに聖夜祭も!」
「年が明けたら、全国大会だな。」
MCI部門・SCI部門の選手から合計10名が州代表選手として選出され、各州の代表と競い合う事になる。
そして、州大会の戦績と操縦技術の二つから総合的に評価した上で全国大会の選手として選出され、それが一回戦敗退であっても
選ばれるに足る実力を見せ付ける事が出来れば結果として返って来る為、どの選手も州大会にかける意気込みは生半可では無い。
そして、州大会の戦績と操縦技術の二つから総合的に評価した上で全国大会の選手として選出され、それが一回戦敗退であっても
選ばれるに足る実力を見せ付ける事が出来れば結果として返って来る為、どの選手も州大会にかける意気込みは生半可では無い。
「で締め括りにヴァレンタインとホワイトデーだね!」
守屋は楽しそうな表情の霧坂を見て、コイツでも人並みに恋愛に興味があるんだなと意外に思うと同時に表情を翳らせた。
「ヴァレンタインって嫌いなんだよな。」
「えぇ~!?なんでまた、ヴァレンタインに無縁なモテない独り身の男みたいな事言ってんのよ?」
「ヴァレンタインに告白して、一ヵ月後のホワイトデーに返事…原点は何処だか知らないけど面倒臭い事この上無い風習だ。」
旧暦の時代から統合歴へと引き継がれた文化や風習の悉くが酷く歪んで伝わっており
ヴァレンタインも例によって由来は分からないが、そういう名称の風習があったという事だけが伝わっている。
守屋の言葉を補足すると2月14日のヴァレンタインデーに意中の異性に想いを伝え3月14日のホワイトデーに想いに応え
結ばれた男女は末永く仲睦まじく生を共にする事が出来るという独り身の男女向けの風習なのだ。
因みに断られた場合、永遠に縁が無いというジンクスまで付加されてしまい、告白する側は割と必死だったりする。
ヴァレンタインも例によって由来は分からないが、そういう名称の風習があったという事だけが伝わっている。
守屋の言葉を補足すると2月14日のヴァレンタインデーに意中の異性に想いを伝え3月14日のホワイトデーに想いに応え
結ばれた男女は末永く仲睦まじく生を共にする事が出来るという独り身の男女向けの風習なのだ。
因みに断られた場合、永遠に縁が無いというジンクスまで付加されてしまい、告白する側は割と必死だったりする。
「男の癖に浪漫の無い男だねぇ…それとも、過去にヴァレンタインで失敗した過去でもあんのかしらねぇ~?」
からかい混じりに軽口を叩いて、霧坂は乾いた笑いを漏らした。
(これじゃ、まるで元カノ探りしているヘタレだわ…)
たった今、自分の放った言動に軽い自己嫌悪に陥るが、特に守屋は気にした風でも無く過去の記憶を掘り返していた。
「失敗…ねぇ。」
守屋が、あからさまに苦い表情に変わる。間違いなくロクな目に遭っていないと霧坂は確信した。
「何々?こっ酷く振られちゃったり!?」
霧坂は嬉々とした表情で守屋の顔を覗きこむが、その胸中は興味本位、不安、自己嫌悪の3つがぐるぐると回っている。
「ヴァレンタインとか関係無く、告白なんてやった事は無い。ついでに告白に応じた事も無い。」
それを聞いて、霧坂は安堵し守屋に笑顔を向ける。
「ただ断り方は悪くて揉めた事があっただけだ。ただの風習だってのにヴァレンタインを重く受け止めて…面倒臭いんだよ。」
守屋はやや挙動不審気味の霧坂に気付く事無く、普段の調子で苦言を漏らす。
「全く…守屋君は浪漫欠乏症だね。男として終わってるよ?」
そして、霧坂もまた普段の調子で守屋に軽口を叩き、ある事を決意するのだった。
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