砕牙州立砕牙高等学校。
スポーツギア部がある高校で尚且つ、家から一番近い高校だったので何も考えずに入学したのだが、これがまさかの大失敗。
敗因は両親の「高校なんてボロアパートを借りるのと大して変わらないだろ?」などという呑気な言葉を真に受けた事に尽きる。
何が大失敗かと言われると、砕牙高校のギア部が弱小であるが故に廃部寸前であるという事だ。
敗因は両親の「高校なんてボロアパートを借りるのと大して変わらないだろ?」などという呑気な言葉を真に受けた事に尽きる。
何が大失敗かと言われると、砕牙高校のギア部が弱小であるが故に廃部寸前であるという事だ。
保有するシミュレーターは旧型が二基。実機はMCI搭載型スポーツギア、ヘノレシアが一機のみ。
それも砕牙高校の予算から割り当てられて購入したのでは無く、教育会主催のくじ引きで当選したものらしい。
そこで入学希望者を増やす為の餌として急遽スポーツギア部を設立し、私のような間抜けが大漁。
それも砕牙高校の予算から割り当てられて購入したのでは無く、教育会主催のくじ引きで当選したものらしい。
そこで入学希望者を増やす為の餌として急遽スポーツギア部を設立し、私のような間抜けが大漁。
蓋を開けてみれば大した設備も整っておらず、そもそも学校サイドがギア部を運営する上で何が必要なのかを理解していないと来た。
それでも、私は類稀なる優れた身体能力を武器に僅か7ヶ月で地区大会、超重兵器部門個人戦において堂々の一位入賞という快挙を成し遂げた。
そして、この功績を持って私と砕牙高校はヘノレシアの製造及び、販売メーカーであるケイアオー工業とスポンサー契約を結び
これを足がかりに規模を拡大していくという完璧な筋書きだったのだが……ケイアオー工業の事実上の経営破綻により、計画は脆くも崩れ去った。
それでも、私は類稀なる優れた身体能力を武器に僅か7ヶ月で地区大会、超重兵器部門個人戦において堂々の一位入賞という快挙を成し遂げた。
そして、この功績を持って私と砕牙高校はヘノレシアの製造及び、販売メーカーであるケイアオー工業とスポンサー契約を結び
これを足がかりに規模を拡大していくという完璧な筋書きだったのだが……ケイアオー工業の事実上の経営破綻により、計画は脆くも崩れ去った。
スポンサー契約どころか、ギアの保守管理すら難しくなり、泣く泣くヘノレシアは廃棄。州立高校には金が無いのだから仕方が無い。
シミュレーターによる練習は出来るものの、大会に出られないのでは意味が無い。これも泣く泣く業者に引き取ってもらった。それも二束三文で。
シミュレーターによる練習は出来るものの、大会に出られないのでは意味が無い。これも泣く泣く業者に引き取ってもらった。それも二束三文で。
「これでは、何の為に砕牙高校に来たのか分からないではないか…」
「いやいや、識ちん。ギア部で活躍したいんだったら私立高校に行くのが常識だしょ?
州立高校で大規模なギア部ったら、八坂州の宋銭高校くらいなんですよだよ?
後は~…岸田学園にぃ、冷泉高校~、そんでもって私立の方の八坂高校辺りがグッドだよん?」
州立高校で大規模なギア部ったら、八坂州の宋銭高校くらいなんですよだよ?
後は~…岸田学園にぃ、冷泉高校~、そんでもって私立の方の八坂高校辺りがグッドだよん?」
珍妙な喋り方をする友人が偉そうに講釈を垂れてくれるが、私の家は気安く私立に行ける程、裕福では無い。
かと言って、宋銭高校は…最低でも偏差値を10上げてから出直して来いと言わざるを得ない。
かと言って、宋銭高校は…最低でも偏差値を10上げてから出直して来いと言わざるを得ない。
「今更、そんな事を言われても手遅れだ。と言うか、全部八坂なんだな?」
「だって、砕牙って全国大会とか大きな大会の開催地になる事が多いってだけで州その物が弱小だもん。
初出場の識っちがブッチギリで優勝出来るくらいなんだから、その弱さ…恐るべし…」
初出場の識っちがブッチギリで優勝出来るくらいなんだから、その弱さ…恐るべし…」
神妙そうに珍妙な喋り方をされても、その何だ。気持ちが悪い。
「そう言えば、一年生の守屋一刀君だっけ?八坂高校に転校したらしいけどギア部で大活躍だってねん。…色んな意味で。」
友人の何気ない一言で、ふと思い出した。あの守屋家の次期当主が砕牙高校に入学するとかでクラスメイト達が盛り上がっていたなと。
ただ先祖や親が有名人というだけで子供にまで影響が行くのだから大変だ。恐らく、八坂でも苦労しているのでは無いだろうか。
ただ先祖や親が有名人というだけで子供にまで影響が行くのだから大変だ。恐らく、八坂でも苦労しているのでは無いだろうか。
ま、どちらにせよ―
「私には関係の無い事だ。」
2年の春にギア部は廃部になり私は退屈な日々を過ごしていた。
だが、夏休みも目前…今までは授業で暇を潰せていたから良かったものの、やる事も無いのに長期休暇で何をしろと?
いっその事、彼氏でも作って一夏の思い出でも作ってみるか?
だが、夏休みも目前…今までは授業で暇を潰せていたから良かったものの、やる事も無いのに長期休暇で何をしろと?
いっその事、彼氏でも作って一夏の思い出でも作ってみるか?
「私の柄じゃないな。」
「何が?」
「私が彼氏を作ったら、どう思う?」
「かなりの高確率で識たんの彼氏をロリコン扱いすると思う。いや、するね!!間違いなく、ソイツはロリコンだ!」
全く持って失礼な友人である。軽く拳骨でも落としておくべきかも知れない。
確かに私の身長は140半ば程度だし、女性の象徴も控え目だが、今年で17歳。児童性愛者の対象からは大きく外れる。
そんなこんなで迎えた夏休み。やる事も無いので男漁りに精を出す……なんて柄にも無い事をやる気にもなれず
若い力を持て余して悶々とする日々を過ごしていると、八坂州野宮地区スポーツギア高校大会の中継が始まった。
強い奴も居れば弱い奴も居る。だが、全体的な選手の層は砕牙よりもずっと厚い。
夏休み前に友人が言っていた「州その物が弱小」という言葉を思い出した。
確かに私の身長は140半ば程度だし、女性の象徴も控え目だが、今年で17歳。児童性愛者の対象からは大きく外れる。
そんなこんなで迎えた夏休み。やる事も無いので男漁りに精を出す……なんて柄にも無い事をやる気にもなれず
若い力を持て余して悶々とする日々を過ごしていると、八坂州野宮地区スポーツギア高校大会の中継が始まった。
強い奴も居れば弱い奴も居る。だが、全体的な選手の層は砕牙よりもずっと厚い。
夏休み前に友人が言っていた「州その物が弱小」という言葉を思い出した。
その中でも一際目立つのが、宋銭高校の矢神玲選手だった。迫り来る対戦相手を拳一つで、それも僅か一撃で頭部を破壊していく様は圧巻。
そして、矢神玲選手には遠く及ばないものの、八坂高校の守屋選手も一年生としては素晴らしい活躍を見せてくれた。
そして、矢神玲選手には遠く及ばないものの、八坂高校の守屋選手も一年生としては素晴らしい活躍を見せてくれた。
「まあ、私が一年の時程では無いがな…それにしても、この感情は…羨望か?」
決勝戦が始まり、矢神選手は初めて剣を抜き、守屋選手も初めて、構えを取る。
彼等が羨ましくて最後まで見ている気分になれず、モニタのスイッチを切り、畳の上に寝転がった。
彼等は自らの力をスポーツギアで表現し、ぶつかり合いながら青春を謳歌しているというのに、私は一体何をしているのだろうか?
彼等が羨ましくて最後まで見ている気分になれず、モニタのスイッチを切り、畳の上に寝転がった。
彼等は自らの力をスポーツギアで表現し、ぶつかり合いながら青春を謳歌しているというのに、私は一体何をしているのだろうか?
良いも悪いも無く、何もせずにただ徒に時間を浪費し続けるばかりで情けない事、この上ない。
最早、学校のレベルがどうのこうのと言っていられない。宋銭高校に転校する為に両親に相談すべきだろうか?
最早、学校のレベルがどうのこうのと言っていられない。宋銭高校に転校する為に両親に相談すべきだろうか?
だが、そんな悶々とした日々に終止符を打つべき出来事が私の元に転がり込んで来た。
故人曰く、捨てる神あれば拾う神ありだったか?まあ、神なんて物は過去の英霊達が全て葬り去っているので、この表現は適切では無い。
故人曰く、運も実力の内。ああ、これだ。スポーツギアを辞めたく無かった。もっと続けてたかったという事に自覚した矢先の出来事だった。
故人曰く、捨てる神あれば拾う神ありだったか?まあ、神なんて物は過去の英霊達が全て葬り去っているので、この表現は適切では無い。
故人曰く、運も実力の内。ああ、これだ。スポーツギアを辞めたく無かった。もっと続けてたかったという事に自覚した矢先の出来事だった。
夏休みも残す所、後僅か。何か問題を起こしたわけでも無いのに何故か、学校に呼び出しを受けたのだ。
職員室には担任と校長。そして、見慣れない男性の3人が私の到着を待っていた。
年の頃は30代半ばだろうか?柔和な表情で人の良さそうな微笑みを私に向けて丁寧にお辞儀をしてくれた。
職員室には担任と校長。そして、見慣れない男性の3人が私の到着を待っていた。
年の頃は30代半ばだろうか?柔和な表情で人の良さそうな微笑みを私に向けて丁寧にお辞儀をしてくれた。
「初めまして。八坂州私立八坂高校の理事長兼、スポーツギア部顧問の弥栄栄治です。」
正直、口から心臓が飛び出るかと思った。八坂高校と言えば、名門高校。その上、スポーツギア部の強豪高校でもある。
そして、個人戦の決勝戦に出場した守屋一刀選手の在籍校だ。
だが、驚きも一瞬。何故、強豪校の顧問がギア部すら無い元弱小校に一体、何の用なのだろうか?
そして、個人戦の決勝戦に出場した守屋一刀選手の在籍校だ。
だが、驚きも一瞬。何故、強豪校の顧問がギア部すら無い元弱小校に一体、何の用なのだろうか?
「初めまして。砕牙高校二年の小野寺織です。」
何はともあれ、話を進めなくては仕方が無いので無難に挨拶を済ませると弥栄理事長が話を始めてくれた。
「夏休みの最中に突然、呼びつけてしまって申し訳無いね。ただ僕としては、どうしても早めに君と会って話をしてみかったかんだよ。」
「私と…話ですか?」
「単刀直入に言わせてもらうと、八坂高校に転入してスポーツギア部に入部してもらえないかなという、スカウトの話だね。」
正に青天の霹靂!なんたる好都合!そう言いたいのは山々なのだが、八坂に行けるものなら既に行っている。
何度も言うが私の家は気軽に私立高校に行ける程、裕福では無い。それが州外であれば尚更だ。
飛び付きたいのに飛び付けないジレンマに陥っていると弥栄理事長は私に助け舟を出してくれた。
何度も言うが私の家は気軽に私立高校に行ける程、裕福では無い。それが州外であれば尚更だ。
飛び付きたいのに飛び付けないジレンマに陥っていると弥栄理事長は私に助け舟を出してくれた。
「これから僕が出す条件に承諾して貰えれば授業料全額免除、八坂州での生活の補助。
それから、新型MCI搭載ギアヴァイゼストの専属選手として迎え入れる準備が出来ているんだけど、どうだろう?」
それから、新型MCI搭載ギアヴァイゼストの専属選手として迎え入れる準備が出来ているんだけど、どうだろう?」
流石は名門私立高校。正に至れり尽くせりでは無いか。だが、美味い話には必ず裏がある。
それに弥栄理事長が出す無茶な条件を確認するまでは首肯する事は出来ない。
それに弥栄理事長が出す無茶な条件を確認するまでは首肯する事は出来ない。
「その条件なんだけどね。今年から八坂高校もMCI搭載ギアの個人戦を視野に入れる予定だったんだけどね
何分、八坂にはMCIに関するノウハウが全く無いと来ているんだよ。そこで見つけたのが君だ。」
何分、八坂にはMCIに関するノウハウが全く無いと来ているんだよ。そこで見つけたのが君だ。」
成る程。確かに私は適性が高かったのか、それとも実力か、運か、相手が弱かっただけなのかは分からないが
僅かな練習期間で砕牙州地区大会で優勝という輝かしい結果を得る事が出来たのだから、目を付ける学校が出て来ても不思議では無い。
僅かな練習期間で砕牙州地区大会で優勝という輝かしい結果を得る事が出来たのだから、目を付ける学校が出て来ても不思議では無い。
「あれだけの実力を埋もれさせるのは勿体無い!君はもっと大きな舞台に立ち活躍すべきだ!
そして、その実力を広く、大きく広めるべきだと思わないかい?」
そして、その実力を広く、大きく広めるべきだと思わないかい?」
「え、えーと…?」
「つまる所、八坂のギア部でMCI個人戦の選手兼、MCI選手のトレーナーをやって下さいというお話だよ。」
そして、八坂高校理事長、弥栄栄治氏は言いたい事だけ言って、さっさと帰路に着かれてしまった。
担任は「よく考えて結論を出して欲しい」と、校長は「どうか八坂に行って欲しい」と言っていた。
何と無く、偉い人同士で汚い密約があったんじゃないかと疑いたくなるが、あれこれ言われるまでも無い。
担任は「よく考えて結論を出して欲しい」と、校長は「どうか八坂に行って欲しい」と言っていた。
何と無く、偉い人同士で汚い密約があったんじゃないかと疑いたくなるが、あれこれ言われるまでも無い。
特に両親を説得するまでも無く、やりたいようにやりなさいと快く送り出してくれた。
気紛れな子供の我侭に嫌な顔一つせずに快諾してくれた事、感謝しても感謝しきれないというものだ。
気紛れな子供の我侭に嫌な顔一つせずに快諾してくれた事、感謝しても感謝しきれないというものだ。
私は八坂高校への入学手続きを終え、弥栄理事長と再会し、自分の役目を再確認した。
私の役目。それは、私自身が勝つ事と、守屋一刀を勝たせる事の二つである。
そして、守屋一刀にとっての最大の目標にして、最強の壁。それが、宋銭高校の矢神玲。
私の役目。それは、私自身が勝つ事と、守屋一刀を勝たせる事の二つである。
そして、守屋一刀にとっての最大の目標にして、最強の壁。それが、宋銭高校の矢神玲。
矢神玲は前年度の州大会で個人戦の装備自由型で準優勝という快挙を成し遂げ、全国大会の八坂州代表メンバーの一人に選ばれている。
戦闘スタイルは刃渡りが通常のギアの全長程もある巨大な斬馬刀による一撃必殺に拘った、馬鹿正直な戦い方を好む一方で
取るに足らない相手に対しては抜刀する事無く、拳一つで戦うという勿体付けるのが好きな一面もある。
戦闘スタイルは刃渡りが通常のギアの全長程もある巨大な斬馬刀による一撃必殺に拘った、馬鹿正直な戦い方を好む一方で
取るに足らない相手に対しては抜刀する事無く、拳一つで戦うという勿体付けるのが好きな一面もある。
「一応、守屋一刀は矢神玲に認められているのか…」
以前、地区大会の決勝戦で矢神玲が搭乗しているギアが斬馬刀を抜刀している姿を思い出した。
あの後、どうなったかは知らないが守屋一刀のギアが一刀両断されてしまっているのが妥当な所だろう。
あの後、どうなったかは知らないが守屋一刀のギアが一刀両断されてしまっているのが妥当な所だろう。
「どちらにせよ、データだけじゃ対策の取りようも無いな。」
それに私は部屋に篭ったり、人に聞くような調べ方はあまり好きじゃない。そう、私は実践派の人間だ。
思い立ったが吉日、私は矢神玲に出会う為に単身八坂州へ向かった。
どうせ理事長のお墨付きなのだ。多少、入寮日が早くなったとしても咎められる事はあるまい。
思い立ったが吉日、私は矢神玲に出会う為に単身八坂州へ向かった。
どうせ理事長のお墨付きなのだ。多少、入寮日が早くなったとしても咎められる事はあるまい。
「これは調査不足だったな…」
地球統合共和国は52の州によって成り立っており、全ての州で同じ価値観、同じ文化が形成されている。
だが、52の州の内の二つ。砕牙州と八坂州のみ僅かながら、倭国独自の文化が残っており他の州と比べて独特な雰囲気がある。
だから、私は八坂州も砕牙州同じような所なのだろうと。生まれて初めて砕牙から出るが違和感無く溶け込めるだろうと。
だが、52の州の内の二つ。砕牙州と八坂州のみ僅かながら、倭国独自の文化が残っており他の州と比べて独特な雰囲気がある。
だから、私は八坂州も砕牙州同じような所なのだろうと。生まれて初めて砕牙から出るが違和感無く溶け込めるだろうと。
「あれ…今日。この辺で夏祭りなんてあったかなぁ…?」
先程からすれ違う人々が私の格好を見るなり、同じような独り言を繰り返している。
つまる所、私は八坂州の人々にとって、まるで違和感しか感じない格好をしているのだ。
つまる所、私は八坂州の人々にとって、まるで違和感しか感じない格好をしているのだ。
「八坂には…倭服を常用する慣習は無いのか…」
先程から目立って仕方が無い。私にとってはラフな格好でしか無いが、こうも奇異の視線を向けられては堪らない。
その上、私は他の州の人々が指すような普通の服なんてものは一着たりとも持ち合わせていない。
こんな事ならば、八坂の制服を着ていくべきだったと少しばかり後悔するが、気にしていても仕方が無い。
私は嘆く為に八坂に来たのでは無く、矢神玲に出会う為に来たのだから。
その上、私は他の州の人々が指すような普通の服なんてものは一着たりとも持ち合わせていない。
こんな事ならば、八坂の制服を着ていくべきだったと少しばかり後悔するが、気にしていても仕方が無い。
私は嘆く為に八坂に来たのでは無く、矢神玲に出会う為に来たのだから。
弥栄理事長の話では、この時間は成績不良の為、補修を受けているそうだ。
ならば宋銭高校へ向かえば間違い無く彼と出会う事が出来る筈だ。
ならば宋銭高校へ向かえば間違い無く彼と出会う事が出来る筈だ。
「しかし、宋銭高校で成績不良とは…これは筋金入りだな。」
私は一人ごちながら宋銭高校の校門をくぐった。さて、どうやって矢神玲を探せば良いものやら。
生憎の夏休みのせいで、ざっと見回した所で生徒や職員の姿は見えない。
生憎の夏休みのせいで、ざっと見回した所で生徒や職員の姿は見えない。
校庭では夏空の下で額に汗して部活動に励む生徒達の姿を見かけるが流石に個人的な用件で中断させるのは気が引ける。
全く気に病む必要の無い暇そうな奴が理想的なのだが…夏休みだしな。暇でも態々、学校になんか来る筈が無い。
しかし、手ぶらで帰るのは癪だ。諦めて部活中の生徒を呼び止めようとすると突如、ひらめいた。
全く気に病む必要の無い暇そうな奴が理想的なのだが…夏休みだしな。暇でも態々、学校になんか来る筈が無い。
しかし、手ぶらで帰るのは癪だ。諦めて部活中の生徒を呼び止めようとすると突如、ひらめいた。
「あそこになら居るかも知れんな。」
そこで私が向かった先は宋銭高校の体育館裏だ。体育館裏と言えば暇なチンピラどもが屯している筈だ。
「期待を裏切らないな。」
体育館の裏に回ると思った通り、ボロボロになった制服を着流しているヒャッハー!なんて叫び声をして襲い掛かってきそうな連中が6人。
ダメージ加工だとか、クラッシュだとかファッションなんて人の好き好きなので、私が口出しをする事では無いのだが…
ダメージ加工だとか、クラッシュだとかファッションなんて人の好き好きなので、私が口出しをする事では無いのだが…
「何故、君等は被災者の様な格好をするのが好きなのだ?」
「んだぁ!?テメェは!!」
「っかすぞ、のアマァ!!」
誰か今すぐこの場に来て私を助けてくれ。八坂訛か?何を喋っているか全然、私には理解が出来ない。
「メーラ、女の子怯えさせんなヨ?お嬢チャン、綺麗なおべべ着てんねー?こんなトコに何の用?」
怯えるも何も、何を言われているか分からないので怯えようが無い。話の流れを察するに私は恫喝されていたのだろうか?
まあ、この軽薄そうな男の言葉なら如何にか理解出来、意思の疎通には問題が無さそうなので、彼に道案内を頼む事にしよう。
しかし、この男は息が臭いな。
まあ、この軽薄そうな男の言葉なら如何にか理解出来、意思の疎通には問題が無さそうなので、彼に道案内を頼む事にしよう。
しかし、この男は息が臭いな。
「矢神玲という生徒に会いに来た。この時間帯は補修を受けていると聞いたのだが、何処に居るか知らないか?」
「あー?矢神ィ?ああ、2年の矢神玲ネ。今頃、クソ真面目に自習室で勉強してんじゃネーノ?道案内してあげヨーカ?」
話が分かる上に親切な男だ。被災者みたいな格好と、そのキツイ口臭を直せば更に好感度が上がるのにな。
「それは助かる。では、お言葉に甘えさせて頂く事にしよう。」
「ノヤローのロリコンはビョーキだな!」
病気?ロリコンとは児童性愛者の事では無いのか?それとも、そういう名称の病気があるのか?
それにしても彼等の言葉は珍妙不可思議としか言い様が無い。だが、私も八坂高校で生活していく内に言葉が理解出来るようになるだろう。
先の事をあれこれと不安がっていても仕方が無いので、息が臭い少年(以下、臭男)に案内に従い、彼に着いていく事にした。
それにしても彼等の言葉は珍妙不可思議としか言い様が無い。だが、私も八坂高校で生活していく内に言葉が理解出来るようになるだろう。
先の事をあれこれと不安がっていても仕方が無いので、息が臭い少年(以下、臭男)に案内に従い、彼に着いていく事にした。
「っぱあ、オレもイくわー!」
「ああ?別にいーけどヨ。オレが先だかんナ?」
「わーってるヨ!」
奇抜な服装で息が臭い割に仲が良くて微笑ましい限りだ。で、先が如何こうとか言っているが何の話だろうか?
まあ、親切な少年が一人から二人に増えただけだし気にする事も無い。矢神玲と仲の良い友人という可能性もあるしな。
しかし、彼の友人にしては些か…いや、かなり系統が違う。全く、別の人種だと言っても良い。
まあ、親切な少年が一人から二人に増えただけだし気にする事も無い。矢神玲と仲の良い友人という可能性もあるしな。
しかし、彼の友人にしては些か…いや、かなり系統が違う。全く、別の人種だと言っても良い。
彼の写真を見た感じ、そう…矢神玲。彼は侍、武士という呼び方が似合う。
逆に彼等の外見は…落ち武者。または世紀末だ。外見が全てというわけでは無いが。
逆に彼等の外見は…落ち武者。または世紀末だ。外見が全てというわけでは無いが。
ああ、そうだ。ところで彼等のような人種の事をチンピラと呼ぶらしいが、チンピラって結局、何なんだ?
これまでの私の人生の中でチンピラと付き合いを持つような事が一度たりとも無かったので、よく分からんが
話をすれば分かるし、存外に親切でもある。何故、忌み嫌われているのかがよく分からない。
少なくとも私は服装が奇抜だとか息が臭いというだけの理由で忌み嫌う程、狭量では無い。
何よりも見ず知らずの私に親切に道案内をしてくれたのだ。感謝こそするものの嫌う道理は無い。
これまでの私の人生の中でチンピラと付き合いを持つような事が一度たりとも無かったので、よく分からんが
話をすれば分かるし、存外に親切でもある。何故、忌み嫌われているのかがよく分からない。
少なくとも私は服装が奇抜だとか息が臭いというだけの理由で忌み嫌う程、狭量では無い。
何よりも見ず知らずの私に親切に道案内をしてくれたのだ。感謝こそするものの嫌う道理は無い。
「この辺りでイーカナ?コッチコッチ。」
私は臭男に促され、古びた教室に入った。宋銭高校の自習室は畳で敷き詰められており、倭の心を大切に…埃がつもりに積もっており、その上、カビ臭い。
全然、掃除が行き届いていない部屋では生徒も勉学に励める筈が無いだろうに…いや、そもそも、明らかに使われていないようにも見える。
何か見解の相違でもあったのだろうか?それとも、この辺りで良いと言うのは、まさか…
全然、掃除が行き届いていない部屋では生徒も勉学に励める筈が無いだろうに…いや、そもそも、明らかに使われていないようにも見える。
何か見解の相違でもあったのだろうか?それとも、この辺りで良いと言うのは、まさか…
「まさか、迷子にでもなったのか?」
いくら学力が低いとは言え、これはあんまりだ。在校生が迷子になるとは…
素直に迷子になった事を認める素直さは買うが、宋銭高校の教育は一体どうなっているのだ!?
素直に迷子になった事を認める素直さは買うが、宋銭高校の教育は一体どうなっているのだ!?
「オイオイオイ、お嬢チャン。今の状況に気付いてないのかヨ?コリャー傑作だナ?」
「んなトコに矢神が居るわけねーべ?おー、キレーな足ィ!」
私の背後に居た男が私の足を触ろうと迫って来たので、左足の踵で臭男弐の爪先を踏み付け転倒させる。
「知り合って間もない相手に、それも白昼堂々…と言うのは些か、問題があると思うのだが如何だろうか?
それに…何だ。普通、こういった事は夜に二人だけでやる事では無いのか?」
それに…何だ。普通、こういった事は夜に二人だけでやる事では無いのか?」
場所も人目も気にせずとは、これではまるで獣で無いか。彼が私に欲情するのは無理無からぬ事なのだが
逢引の経験も無ければ、男女の機微に疎い私ではどう説明すれば彼に納得して貰えるのかが分からない。
逢引の経験も無ければ、男女の機微に疎い私ではどう説明すれば彼に納得して貰えるのかが分からない。
「全く…どうしたら良いものやら。」
「犬みてぇーにケツ向けて腰振りゃー良いんだヨ!」
真昼間からとんでも無い事を叫ぶとは信じられない奴だ。モラルの崩壊なんてレベルを遙に超越しているではないか。
だが、臭男Aのいかがわしい発言で、漸く合点がいった。つまる所、この二人は親切な生徒を装い、人気の無い場所に
私を誘導し無理矢理、手篭めにしようと考えていたのか。神聖なる学び舎で恐ろしい事を企む連中である。
だが、臭男Aのいかがわしい発言で、漸く合点がいった。つまる所、この二人は親切な生徒を装い、人気の無い場所に
私を誘導し無理矢理、手篭めにしようと考えていたのか。神聖なる学び舎で恐ろしい事を企む連中である。
それなら、少しばかり彼らに灸を据えてやらねばならんのだが、幾つか問題がある。
問題その1.彼らが驚く程、弱過ぎるので手加減をしなければならないのだが、どの程度手加減をすれば【殺さず】に済むのかが分からない。
問題その2.殴ったり蹴ったりすると自らの攻撃の反動で怪我を負う危険性がある。私とて女だ。傷など作りたくない。
問題その3.以上の点を踏まえると投技が適切。だが、彼等の口臭は恐ろしく臭い。故に密着したくない。
それとも、手足の粉砕骨折くらいなら大した問題にならずに済むだろうか?
問題その1.彼らが驚く程、弱過ぎるので手加減をしなければならないのだが、どの程度手加減をすれば【殺さず】に済むのかが分からない。
問題その2.殴ったり蹴ったりすると自らの攻撃の反動で怪我を負う危険性がある。私とて女だ。傷など作りたくない。
問題その3.以上の点を踏まえると投技が適切。だが、彼等の口臭は恐ろしく臭い。故に密着したくない。
それとも、手足の粉砕骨折くらいなら大した問題にならずに済むだろうか?
「んだぁ!?全ッ然、たんねぇーぞ!」
「げんな!!っかすぞ!!」
嗚呼、もうお前等は喋るな。何を喋っているか全然分からないし、頭が痛くなる。
それにしても、突きも蹴りもお粗末な連中だ。これ以上、付き合っていられないし手早く片付ける事にしよう。
それにしても、突きも蹴りもお粗末な連中だ。これ以上、付き合っていられないし手早く片付ける事にしよう。
「下がってろ。」
臭男達から間合いを取る為、一旦後方に跳躍すると息が臭くない生徒に背中からぶつかってしまった。
私が気配を感じ取れないとは妙な事もあるものだと首を捻ると、息の臭くない生徒は私を廊下に出し教室の中に踏み込んだ。
彼等に灸を据えるのは息が臭くない彼に任せて、私は矢神玲を探しに行く事にしようか…いや、私が困っている所を助けてくれたのだ。
片が付いたら感謝の言葉の一つくらい述べてもバチはあたるまい。ついでに道案内も頼みたいしな。
私が気配を感じ取れないとは妙な事もあるものだと首を捻ると、息の臭くない生徒は私を廊下に出し教室の中に踏み込んだ。
彼等に灸を据えるのは息が臭くない彼に任せて、私は矢神玲を探しに行く事にしようか…いや、私が困っている所を助けてくれたのだ。
片が付いたら感謝の言葉の一つくらい述べてもバチはあたるまい。ついでに道案内も頼みたいしな。
「や、矢神……クン…」
「倭服を着た女の子がチンピラに連れ回されているって聞いてな。まさかと思って来てみりゃ案の定だ。」
何という好都合。まさか目の前の息が臭くない少年が私の探していた矢神玲だったとは。
それにしても、そんな不確かな情報で態々、探しに来るとはこの少年……中々の心配性だな。
それにしても、そんな不確かな情報で態々、探しに来るとはこの少年……中々の心配性だな。
「い、いや、別に好みの顔だからちょっとオレのマグナムに火を噴かせてみたいなーとかじゃねぇんだ!」
「そうそう!あ!そう言えば、その子!矢神クンに用があるんだってー!」
チンピラ二人組の言葉に矢神玲は怪訝そうな表情で首を動かし目線を私に合わせた。
「ああ。君に用があって宋銭高校まで来たのだが、その二人に誑かされ手篭めにされかけて現在に…後ろ、危ないぞ。」
「みたいだな。それにしても災難だったな?」
臭男Aが矢神玲の後頭部目掛けて拳を振りかぶっていたので指を刺して教えてやったのだがいらぬ忠告だったようだ。
彼は臭男の方を見向きもせず、左腕で拳を受け止め躊躇い無く握り潰し、私を慮った。
成る程、相手の様子を伺いつつ加減しながら握り潰せば、やり過ぎる事無く相手を無力化出来るのか。流石は男児だな。
彼は臭男の方を見向きもせず、左腕で拳を受け止め躊躇い無く握り潰し、私を慮った。
成る程、相手の様子を伺いつつ加減しながら握り潰せば、やり過ぎる事無く相手を無力化出来るのか。流石は男児だな。
「ッ…ア・・・・・・ガッ!?」
ふむ。あまりの痛みに声も出ないようだ。可哀想に…骨が皮膚を突き破っているでは無いか。
まあ、自業自得だ。これに懲りたら心を入れ替えて、清い交際を始めるべきだな。
しかし、握り潰すのはあまり有効では無いな。矢神玲、彼の顔と制服に臭男の返り血が付いてしまった。
女である以上、自分の血で汚れるのは仕方が無いが、自分の服や顔が他人の血で汚れるのは気分の良い物では無い。
まあ、自業自得だ。これに懲りたら心を入れ替えて、清い交際を始めるべきだな。
しかし、握り潰すのはあまり有効では無いな。矢神玲、彼の顔と制服に臭男の返り血が付いてしまった。
女である以上、自分の血で汚れるのは仕方が無いが、自分の服や顔が他人の血で汚れるのは気分の良い物では無い。
「コイツ連れて失せろ。それとも、お前も泣くか?」
「女の前だからってカッコ付けてんじゃ…ぶぇっ!?」
臭男Bは彼の言葉に対して小振りな白刃を煌かせ返答するが、煌かせるだけで終わってしまった。
顔面に彼の靴底の跡がハッキリと残ってしまい中々、愛嬌のある顔に変貌してしまい少しばかり気の毒になる。
だが、これも自業自得だ。これからは心を入れ替えて、仲間共々キツイ口臭を治す事に尽力すべきだ。
顔面に彼の靴底の跡がハッキリと残ってしまい中々、愛嬌のある顔に変貌してしまい少しばかり気の毒になる。
だが、これも自業自得だ。これからは心を入れ替えて、仲間共々キツイ口臭を治す事に尽力すべきだ。
「女の前ですらカッコ付けられなくなったら、終わりって事くらい気付けよ。」
そう言って、矢神玲は片足で飛び跳ねながら、気絶した臭男の元へ向かい、蹴り飛ばした靴を回収した。
物を蹴り飛ばすと言うか、物を投げつけて対抗するという手段も悪く無いな。手加減用にボールベアリングでも買うべきだろうか?
物を蹴り飛ばすと言うか、物を投げつけて対抗するという手段も悪く無いな。手加減用にボールベアリングでも買うべきだろうか?
「あ~あ…鼻血付いてやがる。きったねぇなぁ…げ…歯が刺さってんじゃねーかよ…いっそ買い換えるかぁ?」
相手が気絶する程の力で靴を顔面目掛けて蹴り飛ばしたのだから、鼻血も出るし前歯も…まあ、悲惨な事になって当然だ。
「大丈夫だったか?」
「何かされる前に君が来てくれたお陰で、私は無事その物だよ。そして、君に話があるのだが…」
「ここは空気が悪い、中庭にカフェテリアがあるんだ。先生達も居るし、其処でゆっくり話をしよう。」
確かに此処はカビ臭いし埃も積もっている。おまけに彼がこしらえた、骸が二つ。落ち着いて話が出来る環境では無いな。
そうして、私は彼の提案に従い宋銭高校の野外カフェで遅めの昼食を摂りながら話をする事になったのだが…
そうして、私は彼の提案に従い宋銭高校の野外カフェで遅めの昼食を摂りながら話をする事になったのだが…
「八坂では倭服を常用する習慣は無いんだな?」
私の格好が珍しいせいかカフェを利用している生徒や教員達が私達を注目していた。
「まあな。倭服を着た美少女に俺の組み合わせじゃ仕方無いわな。野次馬に聞かれたら困るような話なら追っ払って来ようか?」
「少なくとも私は聞かれても全く困らないが…君が如何思うかは別問題だな。」
「ま、俺もお天道様に顔を背けなきゃならんような事はしてないからな。じゃあ、早速聞こうか。」
「まずは自己紹介しておこうか。私は砕牙州立砕牙高校の二年生、小野寺識。」
「同級生!?てっきり、学校見学に来た中学生かと思っていたぞ!?」
この男…中々に失礼な奴だ。だが、今は苦言を申し立てる時では無い。私は咳払いを一つ、話を進める事にした。
「来月から条件付で八坂高校に転入する事になってね。その条件が守屋一刀を君、矢神玲と対等に戦えるだけの選手に育て上げる事。」
「ほー…守屋のねぇ…それで?敵情視察か何かか?」
「そうだが?」
「そうだがって…そう言うこと正直に言っちゃうかねぇ…普通。」
「腹の探り合いは好かん。単刀直入に言う。私とシミュレーターで対戦してもらいたい。勿論、全力で。」
見えない目標を倒す為に我武者羅に鍛錬を重ねるよりも、相手の力を測った上で育成プランを練った方が効率的だ。
そして、経営破綻という実力だけでは如何ともし難い不運に見舞われたせいで、第一線を退く羽目になった。
結果、私は半年近くギアに触れていない。自らの勘を取り戻す為にも矢神玲との対決は避けて通れないと考えていた。
そして、経営破綻という実力だけでは如何ともし難い不運に見舞われたせいで、第一線を退く羽目になった。
結果、私は半年近くギアに触れていない。自らの勘を取り戻す為にも矢神玲との対決は避けて通れないと考えていた。
「あー…何処から突っ込めば良いのか……て言うか、今はギアよりも課題を片付ける事が最優先でね。
まだ今週のノルマも終わっていないし、付き合ってあげる事は出来ない…んだが、何をやっているんだ?」
まだ今週のノルマも終わっていないし、付き合ってあげる事は出来ない…んだが、何をやっているんだ?」
「矢神君。君の事は大体調査済みだ。守屋の練習相手として度々、八坂高校を訪れていたようだが学業が不十分過ぎて
夏休みだというのに一般の生徒とは別に追加で課題が出されており、八坂に出向く余裕も無い…ふむ。この程度か。」
夏休みだというのに一般の生徒とは別に追加で課題が出されており、八坂に出向く余裕も無い…ふむ。この程度か。」
私は矢上君が持ち歩いていたテキストを大雑把に眺め、彼の元に戻す。はっきり言って簡単過ぎる。悩み考える事すら論外だ。
「君が私と安心して対戦出来るように、課題を手伝ってやろう。」
「へ?お前…救世主?それとも英雄?」
「ただのスポーツギア選手だ。さあ、早速始めるぞ。」
悪ふざけとしか思えないレベルの…課題として出す意味があるとは思えない程、簡単な問題を二人で解く事数時間。
「今週のノルマ…全部終わっちまった…」
「さて、これで君は私に借りが一つ出来たと言うわけだ。早速、私の用事に付き合ってもらうとしようか。」
課題が全て片付き、彼は呆気に取られているが日も傾き始めている。さっさと当初の目的を片付けてしまわねば。
「借りって言われてもなぁ…あんまり恩着せがましい事を言いたか無いんだが、さっきチンピラから貞操を守ったって事で勘弁してくれねーかな?」
ああ。そう言えば、彼は私の事を何も知らないんだったな。そもそも、助けなど必要が無いという事を。
私は彼に視線を合わせ、ほんの少しばかり力を解放する。私の瞳孔は獣の様に縦に裂け、紅に染まる。
私は彼に視線を合わせ、ほんの少しばかり力を解放する。私の瞳孔は獣の様に縦に裂け、紅に染まる。
「残念だが、君が居ても居なくても自分の身を守るには充分過ぎる力を持ち合わせていてね。アレでは借りにすらならないよ。」
「よりによって同類かよ…」
「そういう事だ。その上、君は同級生である私を寄りにもよって、中学生扱いまでしてくれたのだぞ?」
そして、私は周りの野次馬にも聞こえるように大きな声で…
「女である私に恥をかかせたというのにも関わらず、些細な願い一つ聞いてくれないのかな?」
これではまるで逢引している男女の痴話喧嘩だな。周囲の人間はより一層、身を乗り出し此方の話に聞き耳を立てている。
彼は顔を真っ青にして周囲を見回している。意外に可愛らしいところもあるじゃないか。微笑ましくて結構な事だ。
彼は顔を真っ青にして周囲を見回している。意外に可愛らしいところもあるじゃないか。微笑ましくて結構な事だ。
「降参だ、降参!やるから、そういった周囲に誤解を招く言動は止めてくれ!」
「漸く、素直になってくれたか。私は嬉しいぞ。今この場で愛の言葉を恋愛小説から引用して大声で囁きたい程に。」
「いや、勘弁して下さい。本当に。マジで。しかも、大声で囁くってどうやってやるんだ?」
「私にも羞恥心というものがある。冗談でもそんな真似は出来んよ。」
飄々としているようで苛烈、隙が無さそうでからかい甲斐もある。中々に面白い男だ。
宋銭高校のシミュレータールームへ足を運ぶと、彼は後手でシミュレータールームの鍵を閉め、淡々と試合の準備を始めた。
私が「これから手篭めにされそうな勢いだな。」と軽口を叩くと彼は少しムッとした表情で「見縊るな。」と一言だけ返してくれた。
今一つ、性格が掴めない。ま、些か愚鈍ではあるが実直な少年だというのが私の印象ではある。
私が「これから手篭めにされそうな勢いだな。」と軽口を叩くと彼は少しムッとした表情で「見縊るな。」と一言だけ返してくれた。
今一つ、性格が掴めない。ま、些か愚鈍ではあるが実直な少年だというのが私の印象ではある。
そして、彼は何も無いだだっ広い荒野のステージを構築。
八坂高校で私が担当予定となっている黒いスポーツギア、ヴァイゼストが産み落とされる。
重装甲、大出力、巨大な大鎌。正面から敵を叩き潰せと言わんばかりの機体コンセプトで実に分かり易い。
八坂高校で私が担当予定となっている黒いスポーツギア、ヴァイゼストが産み落とされる。
重装甲、大出力、巨大な大鎌。正面から敵を叩き潰せと言わんばかりの機体コンセプトで実に分かり易い。
対する彼の愛機、リヴァーツは華奢で何処と無く頼りない風貌をしている。
とは言え、見た目に反して単純な出力だけならヴァイゼストに勝るとも劣らない程で油断は出来ない。
リヴァーツのコンセプトは高機動、高火力の両立にある。特に刃渡り8mの斬馬刀の攻撃力は驚異的だ。
とは言え、見た目に反して単純な出力だけならヴァイゼストに勝るとも劣らない程で油断は出来ない。
リヴァーツのコンセプトは高機動、高火力の両立にある。特に刃渡り8mの斬馬刀の攻撃力は驚異的だ。
試合開始のサイレンがコクピットに鳴り響いた。長期に渡る空白期間のある私では、現役の強豪選手をまともに相手出来る程の余裕は無い。
先手必勝でいかせてもらう事にしよう。跳躍し、鎌の石突に備えられた三つのブースターを最大出力で点火。巨大な鎌に爆発的な剣速を与える。
後は弧を描くように袈裟懸に振り落とすだけ…リヴァーツの華奢な体型では受け止めるなど論外。彼に与えられた選択肢は回避のみだ。
先手必勝でいかせてもらう事にしよう。跳躍し、鎌の石突に備えられた三つのブースターを最大出力で点火。巨大な鎌に爆発的な剣速を与える。
後は弧を描くように袈裟懸に振り落とすだけ…リヴァーツの華奢な体型では受け止めるなど論外。彼に与えられた選択肢は回避のみだ。
だが、信じられない事に彼は回避行動は取らず下段に斬馬刀を構え、私の斬撃に対して、斬撃で迎える。
当然だが、跳躍からの落下と、ブースターによる運動エネルギーが加算されたに耐え切れる筈が無い。
案の定、リヴァーツは地を抉りながら、後方に弾き飛ばされる。
当然だが、跳躍からの落下と、ブースターによる運動エネルギーが加算されたに耐え切れる筈が無い。
案の定、リヴァーツは地を抉りながら、後方に弾き飛ばされる。
「どうした!お前の実力はこんな物か!?」
彼はリヴァーツの体勢を立て直し、再び斬馬刀を下段に構えた。まるで打って来いと言わんばかりに。
ならば、次は地から攻めさせて貰おう。間合いを詰めリヴァーツの胴を引き裂く為、勢いを殺す事無く駆け抜ける。
だが、まただ。すれ違い様に放った横一文字の斬撃にリヴァーツは先程と同様に斬撃で迎え撃ち、弾き飛ばされる。
斬撃以前に機体の重量とて此方の方が圧倒的に上なのだ。加速に乗ったヴァイゼストの突撃を正面から迎え撃つ事が出来るわけが無い。
ならば、次は地から攻めさせて貰おう。間合いを詰めリヴァーツの胴を引き裂く為、勢いを殺す事無く駆け抜ける。
だが、まただ。すれ違い様に放った横一文字の斬撃にリヴァーツは先程と同様に斬撃で迎え撃ち、弾き飛ばされる。
斬撃以前に機体の重量とて此方の方が圧倒的に上なのだ。加速に乗ったヴァイゼストの突撃を正面から迎え撃つ事が出来るわけが無い。
「やる気が無いのか…ッ!?」
彼の戦いぶりに私は苛立ちを隠す事無く吼えながら、大鎌をリヴァーツの首目掛けて振り落とす。
「三合目…次は外さん。」
次は外さん?彼は一体、何を言っているのだ?外さない?何かを狙っていた?何か目論みがあったのか?
落ち着け。彼は私を惑わせる為に負け惜しみのような言動をしたのでは無い。確実に彼は何かを仕掛けて来る。
いや、既に仕掛けていたが、それに失敗していただけに過ぎない。あの言動…十中八九、宣言だ。
落ち着け。彼は私を惑わせる為に負け惜しみのような言動をしたのでは無い。確実に彼は何かを仕掛けて来る。
いや、既に仕掛けていたが、それに失敗していただけに過ぎない。あの言動…十中八九、宣言だ。
思い出せ。彼の戦闘スタイルを。彼は真正面から敵を一撃で粉砕するという戦い方を好む。
つまり、彼は一撃私を仕留める為の攻撃を既に繰り出していたが不発に終わっていた。
しかし、次は外さないという宣言。私を仕留める算段が整ったという事か?
つまり、彼は一撃私を仕留める為の攻撃を既に繰り出していたが不発に終わっていた。
しかし、次は外さないという宣言。私を仕留める算段が整ったという事か?
だが、真正面から敵を一撃で捻じ伏せるのに何の算段が必要だと言うのだ?
何かの策略を用いたようには見えないが…まさか、僅か二合打ち合っただけで見極めたとでも言うのか?
可能なのだろうか?僅か二合打ち合っただけで相手の攻撃を見極める事など到底不可能だ。
何かの策略を用いたようには見えないが…まさか、僅か二合打ち合っただけで見極めたとでも言うのか?
可能なのだろうか?僅か二合打ち合っただけで相手の攻撃を見極める事など到底不可能だ。
今更、思い悩んでも仕方が無い。既に私の鎌は振り落とされているのだ。
既にやり直しは効かない状況。ならば、私がこの一撃でその首を奪い取るまでだ。
既にやり直しは効かない状況。ならば、私がこの一撃でその首を奪い取るまでだ。
思考も躊躇いもかなぐり捨て、全身全霊を込めて大鎌を振り落とす。
しかし、此処に来てリヴァーツの動きが変わった。左足を後方に引き摺り、上体を軽く捻り大鎌の斬撃を避ける腹積もりかと思いきや、僅か一瞬。
弓の弦の様に引き絞られたリヴァーツは放たれた矢の如く、一瞬で機体同士を密着させ大鎌の斬撃を潜り抜け、下段に構えられた斬馬刀を
掬い上げるように打ち上げ、ヴァイゼストの両腕を切断し返す刀で頭部を破壊。
しかし、此処に来てリヴァーツの動きが変わった。左足を後方に引き摺り、上体を軽く捻り大鎌の斬撃を避ける腹積もりかと思いきや、僅か一瞬。
弓の弦の様に引き絞られたリヴァーツは放たれた矢の如く、一瞬で機体同士を密着させ大鎌の斬撃を潜り抜け、下段に構えられた斬馬刀を
掬い上げるように打ち上げ、ヴァイゼストの両腕を切断し返す刀で頭部を破壊。
「僅か二合で私の攻撃を見極め、僅か二振りで私を打ち負かすとはな……完敗だよ。」
「見極めに二合、打ち負かすのに二振り……此処まで苦戦したのは州大会以来だ。」
これで苦戦?成る程、これが全国クラスの実力か、今の私では到底敵わない相手だな。
だが、彼の実力の本質や、彼を打破する為の手段も十分に理解出来た事は大きな収穫だったと言える。
問題はそれを守屋一刀に教えた所で、それを実践出来るのだろうかという疑問。
少なくとも私には出来そうにも無い。よって、守屋一刀であれば可能という道理は無い。
まあ、私の役割は守屋一刀を鍛える事であって、矢神玲を踏破させる事では無いので私が気に止める問題でもあるまい。
だが、彼の実力の本質や、彼を打破する為の手段も十分に理解出来た事は大きな収穫だったと言える。
問題はそれを守屋一刀に教えた所で、それを実践出来るのだろうかという疑問。
少なくとも私には出来そうにも無い。よって、守屋一刀であれば可能という道理は無い。
まあ、私の役割は守屋一刀を鍛える事であって、矢神玲を踏破させる事では無いので私が気に止める問題でもあるまい。
寧ろ、私が矢神玲。彼に教えを請いたいくらいだ。
「ふと思ったのだが、偶にで構わないので私に稽古を付けてもらえないだろうか?」
うむ。教えを請いたいのならば請えば良い。簡単な事じゃないか。
彼程の実力者ならば眠りこけてしまった私の実力を叩き起こすには打って付けだからな。
彼程の実力者ならば眠りこけてしまった私の実力を叩き起こすには打って付けだからな。
「オイオイ…なんで、そんな話になるんだ?」
「色々あるが負けっ放しでは私の気が納まらない。心配しなくても学業の面倒は私が責任を持って面倒を見てやろう。」
私が彼の文の面倒を見て、彼が私の武の面倒を見る。完璧な等価交換ではないか。
寧ろ、効率的に課題を終わらせる事が出来、ギアに専念が出来るようになり彼にとっての利は遙に多きい筈だ。
それが分からない程、愚鈍な男ならば仕方があるまい。シミュレータールームに閉じ込められ、手篭めにされたと
宋銭高校中に言って回ると説得すれば良いだけの事だ。
寧ろ、効率的に課題を終わらせる事が出来、ギアに専念が出来るようになり彼にとっての利は遙に多きい筈だ。
それが分からない程、愚鈍な男ならば仕方があるまい。シミュレータールームに閉じ込められ、手篭めにされたと
宋銭高校中に言って回ると説得すれば良いだけの事だ。
「学業の面倒……うー…む…俺から一つだけ条件を出させてくれ。俺からの条件が飲めなければ、この話は無しだ。」
「物にも寄るが何だ?」
「一応、個人戦の世界では有名人でな。余所の州から野試合を依頼される事があるんだが、はっきり言って一人一人相手をしていられる程、暇じゃない。
だから、俺がリヴァーツで、それも斬馬刀を持つのは公式戦の時だけって事になっている。だから、今日の事もそうだけどよ、俺と戦ったって事は誰にも言わないで欲しい。
特に守屋の耳には絶対に入れないでくれ。色々あって、未だにアイツと本気の勝負が一度も出来てないから…」
だから、俺がリヴァーツで、それも斬馬刀を持つのは公式戦の時だけって事になっている。だから、今日の事もそうだけどよ、俺と戦ったって事は誰にも言わないで欲しい。
特に守屋の耳には絶対に入れないでくれ。色々あって、未だにアイツと本気の勝負が一度も出来てないから…」
成る程、あの時にシミュレータールームに鍵を掛けたのはそういう意味があったと言うわけか。
全くもって、有名人という奴は難儀なものだ。そして、当人の気も知らずに群がる連中の無神経さには
ただただ呆れ返るばかり…って、私も同類か。この恩と迷惑は学業や日常生活の中で報いる事にしよう。
全くもって、有名人という奴は難儀なものだ。そして、当人の気も知らずに群がる連中の無神経さには
ただただ呆れ返るばかり…って、私も同類か。この恩と迷惑は学業や日常生活の中で報いる事にしよう。
「その条件、確かに承った。絶対に違えん。」
「ああ。それから、俺のテル番とメアドだ。見ての通り、あまり治安の良い学校じゃない。
間違えても次からは体育館裏になんて行ってくれるなよ?紅眼って言ってもお前は女の子なんだからよ。」
間違えても次からは体育館裏になんて行ってくれるなよ?紅眼って言ってもお前は女の子なんだからよ。」
本当にこの男は……心配性にも程がある。だが、その厚意が酷く心地が良い。
そう言えば、異性に対し、こんな感情を持つのは初めてな気がする。こういった感情は何と言ったか…
そう言えば、異性に対し、こんな感情を持つのは初めてな気がする。こういった感情は何と言ったか…
「随分と遅くなっちまったな…今日は泊まる場所あるのか?それとも、砕牙に帰るのか?」
「入寮予定日は来週だが…今日から行っても何の問題もあるまい。」
「八坂の寮…?今、改装工事中で来週までは入れないって聞いたんだが…」
成る程。これは盲点。多少、融通を利かせてくれなどと頼み込む以前の問題では無いか。今から砕牙に戻るの正直面倒なのだが…
「あー…行き場が無いんだったら、ウチに泊まっていくか?」
これは正に渡りに船では無いか……と言うとでも思ったか?
「矢神玲、確かに君は好意に値する男だ。しかし、私とてうら若き乙女だ。最低限度の段階を踏んで貰わなくては、そんな気にはなれんぞ?」
「何を勘違いしているのか知らんが、流石の俺でも中学生には…」
「一度ならず、二度までも私を侮辱するとは良い度胸だ。守屋一刀が戦うまでも無い。今、この場で処刑してくれるわ。」
成る程。この心が温かくなるような、胸がムカつくようなこの感じの正体…敵意だな。
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