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白い恋人

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 バレンタインデーの一ヶ月後、3月14日。俗に言う“ホワイトデー”という日だ。
 ……まあ、一部の野郎達にとっては非常にどうでもいい日なのだが。
 さて、その一部の野郎達についてはお察し下さいという事で、今回はとある二人組にスポットを当ててみる事としよう――――


 ロボスレ学園:白い恋人


 3月14日、日曜日。あのバレンタインデーの惨劇から一ヶ月が過ぎた日の事だった。
 やおよろず荘は珍しく殆どの面々が出払っていた。お祭り事が大好きな住人達なので、ホワイトデーのパーティーの準備のための買い物に行ったのだ。
 そんな人気のない木造平屋建ての炊事場で、何かを掻き混ぜる男がひとり。
 リヒト・エンフィールドだ。
 ボールの中に入っているメレンゲを角が立つまで泡立ててから、そこにあらかじめ作っておいたゼラチン液を少しずつ加えながら混ぜる、混ぜる、混ぜる。
 再び角が立つくらいになったら、容器に入れて、冷蔵庫へ。
「あー、確か30分は冷やすんだっけか?」
 レシピを確認……よし、どうやらそれで正解のようだ。
「よし」
 それならば居間へ行ってテレビでも見るか、と回廊に出ると、
「なんだお前、皆と一緒に行ったんじゃなかったのか」
 全く同じタイミングでトイレから出てきた、しろことヴァイス・ヘーシェンとばったり出くわした。だぼだぼのパジャマに寝ぼけ眼をごしごしと擦りながら、欠伸をひとつ。
「ふぁ……おはようございます」
「おそよう、だな。もう昼間だぞ」
 ぽん、としろの頭に手を置く。彼女が一瞬だけ頬を朱に染めたのを、リヒトは見逃さなかった。
「昼、食うか?」
 リヒトが尋ねると、しろはしばらく黙考してから、こくりと短く頷いた。
「何がいい?」
「何がありますか」
 淡白な声で即答……いや、即問か。
「質問に質問で返すなあーっ!! 疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか? 俺は“何がいい”と聞いているんだッ!」
 予断だが、叫んでいる本人は教師である。
 しかししろは眉ひとつ動かさずにあくびをして、こう言った。
「では、甘い物で」
「よし、ちょっと待ってろ」


 ♪  ♪  ♪


「……とは言ったものの」
 しろを居間に置いて炊事場に戻ったものの、マシュマロが出来るまでまだ時間がある上に、ボリュームがあるとは言えない。他に何か作るにしても時間がかかるし、何か買ってきたほうがいいだろうか。
 しばらく部屋をうろうろしてから、まあトーストでいいか、という結論に到達し、いちごジャム片手にいつもパンが入っている発泡スチロールを開ける。
 が、
「ない……だと……!?」
 なんと中はからっぽで、パンの耳すら落ちていない。どうしたものかと頭を抱える。そうしている内に時間も過ぎる。
 ひとしきり冷蔵庫を漁ってから時計を見ると、気付いたら既に30分なんてとっくに過ぎていた。
「まあ、とりあえずマシュマロだけでも持ってくか。どうせ今夜はパーティーだし、あんまり食べないほうがいいだろ」
 マシュマロの入った容器を取り出し、コーンスターチをかけて型を抜けば、あっという間に白うさぎのマシュマロの完成だ。
 それを皿に乗せて、いざ居間へ。
 居間の引き戸をがらりと開けると、そこにはこたつの中ですやすやと眠るしろの姿があった。
「まったく……いつまで起きてたんだよ、こいつ」
 マシュマロを乗せた皿をこたつの上に置き、少女の寝顔を覗き見る。
 普段は見せない幸せそうな糸目。マシュマロのように白い髪とマシュマロのように柔らかい頬っぺたは、まるでよくできた人形のようだ。
 サラサラの髪を優しく撫でながら呟く。
「まったく、寝顔は天使だな、本当に」
「んふ……泣いたり笑ったりできなくしてあげます……」
 寝言は悪魔だが。
 いつまでも天使の笑顔を眺めていたいが、そうはいかない。ふにふにの頬に指を当てて、
「おーい、起きろ白雪姫ー。起きないと王子様がキッスしちまうぞー」
 途端しろの目がぱちりと開いた。
「おいおい、そんなに接吻は嫌か?」
 苦笑しながら聞いてみると、しろは頬を赤くして、そっぽを向きながら、いつも通りの抑揚を抑えた声で言う。
「セクハラです」
 まったく、かわいらしいうさぎさんだ。
「冗談だ、冗談だよ。ほら起きろ、甘いモン用意したから」
 しろがもぞもぞと身を起こし、机の上にある物を見る。
「あら、うさぎさんのマシュマロですか」
「おう、今日ホワイトデーだからな。お返しだ」
 少女の顔が僅かに綻ぶ。
「安心しろ、今は誰もいねぇよ」
 少女の顔が、見る間にぱっと明るくなった。二人だけの間しか絶対に見せない表情だ。
 ニヤニヤしながら見つめてやると、視線に気付いたのか首をぶんぶんと振っていつもの顔に戻ると、リヒトの膝にちょこんと座る。
「食べていいですか」
「ああ、いいともさ」
 しかししろは手を出さず、代わりにリヒトとマシュマロを交互に見比べる。やって欲しいならそう言えばいいのに、なんて思いながら、リヒトはマシュマロを手に取って、
「ほれ、あーん」
「あーん」
 ぱくり。小さな口に、マシュマロうさぎが納まった。もちゅもちゅとマシュマロを味わうその顔が、どんどん色を失っていく。
「おい、どうしたヘーシェン」
「……足りません」
「愛か!? 愛が足りないのか!?」
 しろがぷるぷると首を振る。
「バニラエッセンスが」
 なんてこった! こめかみに手を当てる。
 マシュマロはメレンゲとゼラチン、砂糖で作れるが、それだけでは臭いがあまり良くないのだ。だから香料を入れるのだが、それをまるっと忘れていた。
「……でも、愛は足りてました」
 ふっと笑う。その笑顔は、さながら雪の中に咲く一輪の花のように美しい。
 そんな事を考えていた時だった。一瞬だけ、頬に柔らかい何かが触れる。間違いない、これは――――
「……んふ。キスじゃなくて接吻だと、なんだかえっちですよね」
「おいおい、やってくれるじゃねーのようさぎさん」
 お互い悪戯っぽく笑う。
「私を捕まえられますか? 狩人さん」
 しろが素早い動作で立ち上がって、回廊へと走りだす。
「捕まえたら、今夜は好きにしてもらって構いませんよ」
 そう言って、少女はリヒトの視界から消えた。
「……上等だ! 明日も寝不足にしてやるぞ!」
 リヒトもまた、白い恋人を追って居間を出た。そして――――


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