「―――リ、ユーリ、着きましたよ」
「…………んぁ」
車が止まった際のガクンという揺れに意識が覚醒する。
どうやら自分はぐっすり眠り込んでいたらしい、さすが荒野で運転することに特化した車なだけはある。
……それとも自分の神経が太いだけだろうか。
目を擦りながらバギーを降りると、そこには見慣れた建物……小さな廃墟ビルがあった。
今ではここが、自分達のアジトである。
周りを見渡してみると、似たような建物がいくつかある。中には半壊した建物もあり、地面にはコンクリートの粉末や割れたガラス片が散らばっている。
「…………んぁ」
車が止まった際のガクンという揺れに意識が覚醒する。
どうやら自分はぐっすり眠り込んでいたらしい、さすが荒野で運転することに特化した車なだけはある。
……それとも自分の神経が太いだけだろうか。
目を擦りながらバギーを降りると、そこには見慣れた建物……小さな廃墟ビルがあった。
今ではここが、自分達のアジトである。
周りを見渡してみると、似たような建物がいくつかある。中には半壊した建物もあり、地面にはコンクリートの粉末や割れたガラス片が散らばっている。
錆びたドラム缶が倒れて中から得体の知れない液体を垂れ流していたり、鉄筋のはみ出したコンクリートの塊が落ちていたりと、この町の荒廃しきった様子が窺えた。
かつてはここも地脈の流れる『圏内』だったのだ、しかし――――数十年前だろうか、この辺り一帯を大きな地殻運動……地震が襲った。
その際、この地域のマナを統括する管理者に部分的ながらも不調が生じてしまったらしい。
文明の崩壊以前に造られた管理者にはオートマタ同様、ナノマシン制御による自動修復機能が備わっていると聞く、そのままにしておけば問題は無かったはずだ――――しかし。
当時の人々は管理者への理解が薄かった、管理者を『神』として崇めた当時の人々は、あろうことに不調をきたした部分を取り払って、あまつさえ災いが来ると恐れてその部品を処分してしまったらしい。
その際、幾つか大切な機能も失われてしまい、それは自己修復不可能なレベルにまで及んだ。
不完全となってしまった管理者は一部地域へのマナ供給が危ういことに気付く、その役割を全うするため他の管理者に助力を求めようとするが、その連絡機能さえ失われてしまっていた。
かつてはここも地脈の流れる『圏内』だったのだ、しかし――――数十年前だろうか、この辺り一帯を大きな地殻運動……地震が襲った。
その際、この地域のマナを統括する管理者に部分的ながらも不調が生じてしまったらしい。
文明の崩壊以前に造られた管理者にはオートマタ同様、ナノマシン制御による自動修復機能が備わっていると聞く、そのままにしておけば問題は無かったはずだ――――しかし。
当時の人々は管理者への理解が薄かった、管理者を『神』として崇めた当時の人々は、あろうことに不調をきたした部分を取り払って、あまつさえ災いが来ると恐れてその部品を処分してしまったらしい。
その際、幾つか大切な機能も失われてしまい、それは自己修復不可能なレベルにまで及んだ。
不完全となってしまった管理者は一部地域へのマナ供給が危ういことに気付く、その役割を全うするため他の管理者に助力を求めようとするが、その連絡機能さえ失われてしまっていた。
苦肉の策でその地域を切り捨てた結果、地脈が断線し、ライフラインの確保が出来なくなる。やがては人が寄り付かなくなり……後は分かりやすい、住む人が居なくなった街に残された物品目当ての夜盗などが出入りするだけの、無法地帯と成り果ててしまった。
この街『だった場所』にはそんな歴史背景がある。
――――が、それは何十年も前の話であって、今の自分達にとって大切なのは、自分達がこのように雨露をしのげる場所を勝手に占拠して、更には生活しやすいように改造していても誰にも何も咎められない事である。
ライフラインの確保だけが当面の課題だ。
廃墟の中に入ると天井からぶら下げられたランプがゆらゆらと揺れている。そしてその真下に仁王立ちして腕を組み、険しい表情で自分達を出迎えてくれたのは……
「……やあ、遅かったじゃないか、あんた達」
女性にしては背が高い、170センチほどでウェーブのかかった赤い髪の毛を後ろに流している。服装はというと下は裾を数回折り曲げたジーパンに、上はタンクトップ一枚という傍目からすれば女性とは思えない出で立ち。
バネッサ・ガーランドであった。
「……ただいま」
「ただいま帰りましたよ。……というか寝ていなかったんですね」
「ああ、売りに出すパーツ類の整備をしててね。それよりちゃんと仕留めてきたんだろうね?」
「それはもう」
ちょっと手違いがあったとはいえ、概ね『狩り』は成功したと言える。ちなみに……
「ユーリはオルトロスの方を見に行って下さい、裏のガレージに居ると思うので、私もすぐ行きますよ」
「分かった」
オルトロスが装甲を削ぎ落として機動力を高めたタイプの機体とはいえ、流石に二体も運んでいては車より速くは走れない。いつも通り自分達だけ先に着いたのだが、そんなに差が出たわけでもないだろうし、そろそろ到着している頃だろう。
バネッサとリシュウはお互いに話があるようで、自分は自分のすべき事をしようと、ユーリはその場を後にした。
この街『だった場所』にはそんな歴史背景がある。
――――が、それは何十年も前の話であって、今の自分達にとって大切なのは、自分達がこのように雨露をしのげる場所を勝手に占拠して、更には生活しやすいように改造していても誰にも何も咎められない事である。
ライフラインの確保だけが当面の課題だ。
廃墟の中に入ると天井からぶら下げられたランプがゆらゆらと揺れている。そしてその真下に仁王立ちして腕を組み、険しい表情で自分達を出迎えてくれたのは……
「……やあ、遅かったじゃないか、あんた達」
女性にしては背が高い、170センチほどでウェーブのかかった赤い髪の毛を後ろに流している。服装はというと下は裾を数回折り曲げたジーパンに、上はタンクトップ一枚という傍目からすれば女性とは思えない出で立ち。
バネッサ・ガーランドであった。
「……ただいま」
「ただいま帰りましたよ。……というか寝ていなかったんですね」
「ああ、売りに出すパーツ類の整備をしててね。それよりちゃんと仕留めてきたんだろうね?」
「それはもう」
ちょっと手違いがあったとはいえ、概ね『狩り』は成功したと言える。ちなみに……
「ユーリはオルトロスの方を見に行って下さい、裏のガレージに居ると思うので、私もすぐ行きますよ」
「分かった」
オルトロスが装甲を削ぎ落として機動力を高めたタイプの機体とはいえ、流石に二体も運んでいては車より速くは走れない。いつも通り自分達だけ先に着いたのだが、そんなに差が出たわけでもないだろうし、そろそろ到着している頃だろう。
バネッサとリシュウはお互いに話があるようで、自分は自分のすべき事をしようと、ユーリはその場を後にした。
ユーリがその場から居なくなってから、バネッサはじとりとした目付きでリシュウに手を差し出す。
「……さ、腕輪を出しな」
「その、明日じゃ駄目でしょうか、ユーリの後を追わなきゃいけないことですし……」
「駄目だ、アーベルの整備が不完全だったろ、あたしゃそういうの我慢出来ないんだ」
ふーむ、とリシュウは顎に手をやって、やっぱりここは逆らうべきではないと判断。
左手の腕輪を外して手渡すと、即座に身を翻してユーリの後を追おうとした。
「待ちなって」
見た目以上にガッシリとしたバネッサの右手に左手首を掴まれてつんのめってしまう。
「……な、なんでしょうか」
「これはどういうことかな? リシュウ、アーベルの中のマナが半分以下まで減ってるんだが」
宝玉状態の機械人形を一目見ただけでそれが分かるあなたがよく分かりません。
「気のせいですよ、多分」
手首の拘束から逃れようと腕に力を込めるリシュウ、だがびくともしない。バネッサはそんな彼を無視して手元の緑色の宝玉が嵌められた腕輪に話し掛ける。
「アーベル」
<……バネッサ殿、何用であろうか>
「リシュウは、あんたをコンデンサの中身を使って『顕現』させたのかい?」
<しましたがそれが何か>
「そこで正直に答えちゃいますか……」
ガクリと肩を落とすリシュウ、アーベルにはもっとこう……人間の感情の機微というものを理解しようとする姿勢があっても良さそうなものだが。
「さってと、言い残すことはあるかい?」
額に青スジを立てたバネッサが拳を握りしめて、息を吹き掛けるお馴染みの動作、それだけにかなり怖かったりする。
「言い訳させてください」
「問答無用!」
リシュウの頭にげんこつが炸裂!
「……さ、腕輪を出しな」
「その、明日じゃ駄目でしょうか、ユーリの後を追わなきゃいけないことですし……」
「駄目だ、アーベルの整備が不完全だったろ、あたしゃそういうの我慢出来ないんだ」
ふーむ、とリシュウは顎に手をやって、やっぱりここは逆らうべきではないと判断。
左手の腕輪を外して手渡すと、即座に身を翻してユーリの後を追おうとした。
「待ちなって」
見た目以上にガッシリとしたバネッサの右手に左手首を掴まれてつんのめってしまう。
「……な、なんでしょうか」
「これはどういうことかな? リシュウ、アーベルの中のマナが半分以下まで減ってるんだが」
宝玉状態の機械人形を一目見ただけでそれが分かるあなたがよく分かりません。
「気のせいですよ、多分」
手首の拘束から逃れようと腕に力を込めるリシュウ、だがびくともしない。バネッサはそんな彼を無視して手元の緑色の宝玉が嵌められた腕輪に話し掛ける。
「アーベル」
<……バネッサ殿、何用であろうか>
「リシュウは、あんたをコンデンサの中身を使って『顕現』させたのかい?」
<しましたがそれが何か>
「そこで正直に答えちゃいますか……」
ガクリと肩を落とすリシュウ、アーベルにはもっとこう……人間の感情の機微というものを理解しようとする姿勢があっても良さそうなものだが。
「さってと、言い残すことはあるかい?」
額に青スジを立てたバネッサが拳を握りしめて、息を吹き掛けるお馴染みの動作、それだけにかなり怖かったりする。
「言い訳させてください」
「問答無用!」
リシュウの頭にげんこつが炸裂!
「…………?」
その頃のガレージに向かう途中のユーリは、一瞬の建物全体が揺れたような感覚に辺りを見回していた。
その頃のガレージに向かう途中のユーリは、一瞬の建物全体が揺れたような感覚に辺りを見回していた。
一拍置いて。
発砲後の銃口から立ち上る煙を吹き散らすあの動作を、自分の拳でするバネッサ。実際リシュウの頭からは煙が上がっていた。
「どうだ、私の拳を喰らってみて、こいつをどう思う」
「すごく……痛いです……」
彼女のげんこつを食らっても尚ニコニコしている(ように見える)リシュウ、しかしよく見てみると、目の端に涙が浮かんでいた。
というか、言い残すことはあるかと聞いておいて『問答無用』とは、あんまりですよね。
それを口にしたらもう一発拳が飛んでくる事は目に見えていたので言わなかったが。
しかし意外なのは、これだけ痛いにも関わらず瘤が出来上がったりしないことである。
殴り方に少々コツがあるらしい、これでも一応気を使ってくれているのだろう。
バネッサは諦めたように一つ溜め息をつくと、リシュウに質問する。
「……で、戦闘に支障はなかったのかい」
「はい、見てて特には感じられなかったですね、アーベルもでしょう?」
<少々お待ち下され、ログの再生を開始――――正確には、防御壁の発生に若干の遅延が見られました、内装関連の不調によるもので、自然治癒できる範囲。パーツの交換は不要であるが……>
「そういうのを、問題は無かったって言うんですよ、アーベル」
苦笑混じりにリシュウが一言、アーベルはいつもこうだ。オルトロスとは良い意味で正反対の性格をしていると思う。
「まあ、どんな事情があったかは知らないけれど……メンテナンスは必要だね。っと、そうそう」
腕輪を手首に嵌めて手をポンと叩くバネッサ。
「明日はマナの補充に出かけるから、そのつもりできちんと休んどくんだよ」
今回の戦闘で大分アーベルとオルトロスのマナを消費してしまった。圏外でジャンク屋稼業を続けるにあたり、マナの供給源の存在はそれこそ生命線に等しいのである。
この近辺で『圏内』と言えば野良が多く、神子(特に契約済みの)が安心して住めるような場所ではない。大昔に起こった文明の崩壊以来、現時点で再び発展を遂げた地域といまだ発展途上の地域がある、この場合は後者だ。
人が住んでいないわけではない、こと産業に於いては発展著しく、『普通の人』しかいられない事を除けばちゃんと街もある。
圏外には神子が住み、圏内には普通の人間が多く住むという構図がこの国では出来上がってしまっているのである。
バネッサもまた、神子なので例外ではない。
「はい、それじゃあバネッサ、お休みなさい」
「ああ、おやすみ」
そう最後に挨拶を交わして二人は別れた。バネッサは建物の奥へ消えていき、リシュウはユーリの後を追う。
発砲後の銃口から立ち上る煙を吹き散らすあの動作を、自分の拳でするバネッサ。実際リシュウの頭からは煙が上がっていた。
「どうだ、私の拳を喰らってみて、こいつをどう思う」
「すごく……痛いです……」
彼女のげんこつを食らっても尚ニコニコしている(ように見える)リシュウ、しかしよく見てみると、目の端に涙が浮かんでいた。
というか、言い残すことはあるかと聞いておいて『問答無用』とは、あんまりですよね。
それを口にしたらもう一発拳が飛んでくる事は目に見えていたので言わなかったが。
しかし意外なのは、これだけ痛いにも関わらず瘤が出来上がったりしないことである。
殴り方に少々コツがあるらしい、これでも一応気を使ってくれているのだろう。
バネッサは諦めたように一つ溜め息をつくと、リシュウに質問する。
「……で、戦闘に支障はなかったのかい」
「はい、見てて特には感じられなかったですね、アーベルもでしょう?」
<少々お待ち下され、ログの再生を開始――――正確には、防御壁の発生に若干の遅延が見られました、内装関連の不調によるもので、自然治癒できる範囲。パーツの交換は不要であるが……>
「そういうのを、問題は無かったって言うんですよ、アーベル」
苦笑混じりにリシュウが一言、アーベルはいつもこうだ。オルトロスとは良い意味で正反対の性格をしていると思う。
「まあ、どんな事情があったかは知らないけれど……メンテナンスは必要だね。っと、そうそう」
腕輪を手首に嵌めて手をポンと叩くバネッサ。
「明日はマナの補充に出かけるから、そのつもりできちんと休んどくんだよ」
今回の戦闘で大分アーベルとオルトロスのマナを消費してしまった。圏外でジャンク屋稼業を続けるにあたり、マナの供給源の存在はそれこそ生命線に等しいのである。
この近辺で『圏内』と言えば野良が多く、神子(特に契約済みの)が安心して住めるような場所ではない。大昔に起こった文明の崩壊以来、現時点で再び発展を遂げた地域といまだ発展途上の地域がある、この場合は後者だ。
人が住んでいないわけではない、こと産業に於いては発展著しく、『普通の人』しかいられない事を除けばちゃんと街もある。
圏外には神子が住み、圏内には普通の人間が多く住むという構図がこの国では出来上がってしまっているのである。
バネッサもまた、神子なので例外ではない。
「はい、それじゃあバネッサ、お休みなさい」
「ああ、おやすみ」
そう最後に挨拶を交わして二人は別れた。バネッサは建物の奥へ消えていき、リシュウはユーリの後を追う。
「いよっ……と」
ユーリは建物の外周をぐるりと回って裏の一階にある、大きなシャッターの前まで来ると、ポケットから鍵を取り出して開錠し、両手で上に持ち上げた。ガラガラと建て付けの悪い音がする。
中に入ると真っ暗で、手探りで上から垂れ下がっている紐を探り当てるとそれを引き、昼光色の電球を点した。
シャッターの大きさは高さ3メートル、幅5メートル程とかなり大きく、ガレージ内の天井は更に高い。コンクリート製の床にはスパナなどの工具がいくつか散らばったままになっていた。
ユーリはそこから外に向かって両手を口元に宛ててメガホンを作ると、
「おーい!こっちだぞー!」
夜の闇の向こうに見える緑色の光の点に叫びかける。
それは紛れも無い、オルトロスの右側の頭のモノアイの光であって、
<分ぁかってらー!>
すぐに返事が返ってくる。暫くしてガレージの入口近くまで来ると、オルトロスは背中の荷を崩さないようにゆっくりと方向転換し、後ろ向きにガレージの中に入って来た。
そのまま後ろ脚から曲げていき、ユーリにも届くくらいの高さまで背中の位置を下げる。ちょうど、犬が『伏せ』をしている状態だと言えば分かりやすいだろうか。
ユーリはそんなオルトロスの右の方の頭に手を置いて軽く撫でると、
「――――うん、お疲れ。後は自分とリシュウでやっておくから、省エネモードに切り替えてくれていいよ」
<ふいぃ……なんだかんだでマナがもう切れそうだ、悪いな、相棒、そうさせてもらうぜ>
ここまでオートマタ二体を運んでくれたことを素直に感謝する。
次の瞬間、ヴ……ンと小さな音と共にモノアイの光がゆっくり消えていって、見た目上オルトロスは沈黙した。
コア以外へのマナの供給を断ち、この間はマナの消費を抑えることの出来る、人間で言う睡眠のようなものである。
正確に言うと、マナさえ足りていればオートマタは不眠無休で動き続けられるため、語弊がなくもないのだが。
だが、この『睡眠』こと省エネモードはオートマタにとっても人間と同じように心地の良いものらしい。
ユーリは建物の外周をぐるりと回って裏の一階にある、大きなシャッターの前まで来ると、ポケットから鍵を取り出して開錠し、両手で上に持ち上げた。ガラガラと建て付けの悪い音がする。
中に入ると真っ暗で、手探りで上から垂れ下がっている紐を探り当てるとそれを引き、昼光色の電球を点した。
シャッターの大きさは高さ3メートル、幅5メートル程とかなり大きく、ガレージ内の天井は更に高い。コンクリート製の床にはスパナなどの工具がいくつか散らばったままになっていた。
ユーリはそこから外に向かって両手を口元に宛ててメガホンを作ると、
「おーい!こっちだぞー!」
夜の闇の向こうに見える緑色の光の点に叫びかける。
それは紛れも無い、オルトロスの右側の頭のモノアイの光であって、
<分ぁかってらー!>
すぐに返事が返ってくる。暫くしてガレージの入口近くまで来ると、オルトロスは背中の荷を崩さないようにゆっくりと方向転換し、後ろ向きにガレージの中に入って来た。
そのまま後ろ脚から曲げていき、ユーリにも届くくらいの高さまで背中の位置を下げる。ちょうど、犬が『伏せ』をしている状態だと言えば分かりやすいだろうか。
ユーリはそんなオルトロスの右の方の頭に手を置いて軽く撫でると、
「――――うん、お疲れ。後は自分とリシュウでやっておくから、省エネモードに切り替えてくれていいよ」
<ふいぃ……なんだかんだでマナがもう切れそうだ、悪いな、相棒、そうさせてもらうぜ>
ここまでオートマタ二体を運んでくれたことを素直に感謝する。
次の瞬間、ヴ……ンと小さな音と共にモノアイの光がゆっくり消えていって、見た目上オルトロスは沈黙した。
コア以外へのマナの供給を断ち、この間はマナの消費を抑えることの出来る、人間で言う睡眠のようなものである。
正確に言うと、マナさえ足りていればオートマタは不眠無休で動き続けられるため、語弊がなくもないのだが。
だが、この『睡眠』こと省エネモードはオートマタにとっても人間と同じように心地の良いものらしい。
そんな事を考えていると、後方の扉が開いてリシュウがひょっこり顔を出した。
「お待たせしました、オルトロスはお休みですか?」
「ん、ああ。 マナがもう残り少ないって言ってたけど」
リシュウはユーリの近くまで歩み寄ってくると、眉尻を下げて少し困ったような顔をする。
「ありゃ、オルトロスもでしたか……これは明日は重労働になりますね」
「え、何が」
――――大変なんだ? そう言いかけてすぐに気付く。
「明日は圏内へのお出かけです、今夜はきちんと装備を整えておいてくださいね」
左手の肘を右手で支え、左手を顎にやったリシュウがこちらを向いて語る、それの意味する所は明白だ。
神子である彼は契約している二体のオートマタにマナを供給しなければならない、それがいつでも出来るならまだしも、長居するわけにはいかない危険な圏内では大量のチャージを短時間で終わらせる必要がある。
マナの供給行為は精神力と体力の両方を消費する。ことアーベルに関してはコンデンサが一般的なオートマタとは一線を画す大容量の物が採用されているため、負担も倍増というわけだ。
とはいえ、一度に沢山のマナを溜めおけることは圏外での活動をするにおいて大きなアドバンテージとなる。アーベルの存在は自分達にとってかなり貴重だった。
「そうか……分かった、その間のボディーガードは引き受ける」
前述したように、圏内に於けるマナ操作は野良に感知される恐れがあり、かつその間の神子はどうしても無防備にならざるを得ない。
リシュウがアーベルとオルトロスにマナを供給し終えるまで、野良の手から彼を守り通さなければならないのだ。
具体的には閃光手榴弾、手榴弾、煙幕、アンチマテリアルライフル等、実際使ったことは数えるほどしかないがそのように物騒な代物を使ってである。
それでも駄目な場合、オートマタに対抗しうるのはオートマタということでオルトロスにユーリが『ダイブ』し、戦うのだった。
本当に大切なのはマナの供給行為を行う場所選びなので(野良に見つかりにくい場所、戦闘になっても逃げ出しやすい場所等)、本格的に戦うことはないにしても、
「はい、期待していますよ」
いつもの事ながら、非常にリスクの高いことである。今までにも何度か危険な目には遭ってきた。
だが、ユーリには自分の命を賭してでもリシュウを守る決心が既に出来上がっていた。
それは殆ど自分の存在意義に近いものがある。リシュウの存在がなければジャンク屋は壊滅で、自分一人で生きていけるような場所はここには残されていない。
経済的にも余裕はなく、オートマタの整備ができるバネッサの存在も不可欠だ。
三人はもちつもたれつの関係にあり、誰か一人が欠けたらおしまいだと考えていい。
そういう意味で、ユーリは心置きなくリシュウの為に命を投げうつ事が出来るのである。
「ああ、それじゃまず、この荷物を下ろさなくちゃな……と」
二人とも口を動かすのはこれくらいにして、オルトロスの背中の二体のマウルヴルフを下ろすために働きだすのだった――――
「お待たせしました、オルトロスはお休みですか?」
「ん、ああ。 マナがもう残り少ないって言ってたけど」
リシュウはユーリの近くまで歩み寄ってくると、眉尻を下げて少し困ったような顔をする。
「ありゃ、オルトロスもでしたか……これは明日は重労働になりますね」
「え、何が」
――――大変なんだ? そう言いかけてすぐに気付く。
「明日は圏内へのお出かけです、今夜はきちんと装備を整えておいてくださいね」
左手の肘を右手で支え、左手を顎にやったリシュウがこちらを向いて語る、それの意味する所は明白だ。
神子である彼は契約している二体のオートマタにマナを供給しなければならない、それがいつでも出来るならまだしも、長居するわけにはいかない危険な圏内では大量のチャージを短時間で終わらせる必要がある。
マナの供給行為は精神力と体力の両方を消費する。ことアーベルに関してはコンデンサが一般的なオートマタとは一線を画す大容量の物が採用されているため、負担も倍増というわけだ。
とはいえ、一度に沢山のマナを溜めおけることは圏外での活動をするにおいて大きなアドバンテージとなる。アーベルの存在は自分達にとってかなり貴重だった。
「そうか……分かった、その間のボディーガードは引き受ける」
前述したように、圏内に於けるマナ操作は野良に感知される恐れがあり、かつその間の神子はどうしても無防備にならざるを得ない。
リシュウがアーベルとオルトロスにマナを供給し終えるまで、野良の手から彼を守り通さなければならないのだ。
具体的には閃光手榴弾、手榴弾、煙幕、アンチマテリアルライフル等、実際使ったことは数えるほどしかないがそのように物騒な代物を使ってである。
それでも駄目な場合、オートマタに対抗しうるのはオートマタということでオルトロスにユーリが『ダイブ』し、戦うのだった。
本当に大切なのはマナの供給行為を行う場所選びなので(野良に見つかりにくい場所、戦闘になっても逃げ出しやすい場所等)、本格的に戦うことはないにしても、
「はい、期待していますよ」
いつもの事ながら、非常にリスクの高いことである。今までにも何度か危険な目には遭ってきた。
だが、ユーリには自分の命を賭してでもリシュウを守る決心が既に出来上がっていた。
それは殆ど自分の存在意義に近いものがある。リシュウの存在がなければジャンク屋は壊滅で、自分一人で生きていけるような場所はここには残されていない。
経済的にも余裕はなく、オートマタの整備ができるバネッサの存在も不可欠だ。
三人はもちつもたれつの関係にあり、誰か一人が欠けたらおしまいだと考えていい。
そういう意味で、ユーリは心置きなくリシュウの為に命を投げうつ事が出来るのである。
「ああ、それじゃまず、この荷物を下ろさなくちゃな……と」
二人とも口を動かすのはこれくらいにして、オルトロスの背中の二体のマウルヴルフを下ろすために働きだすのだった――――