一人が嫌だ。
シンヤが自分のそんな感情に気づくまでそんなに時間はいらなかった。
アヤカも既に部屋から去り、窓の外も暗くなって、怒りと混乱が満載された頭
に寂しさが這い寄ってきたのだ。
一人になってからシンヤはずっと考えていた。
何故自分がこんな目に合わなければならないのか。
家に帰る方法は無いのか。
今思えば、あのコンドウを殴り倒しておけばよかった。そうすれば帰してくれ
たかもしれない。
何を馬鹿な。そんな度胸も無いくせに。
背後で自分が笑う。
振り向くが、当然誰も居ない。
落ち着かない。
誰でもいい。話相手が欲しい。
そう思って部屋を出たのだった。
部屋の外は長い廊下だった。片側の壁に扉が並んでいる。
同じようなデザインから察すると、他の人間の部屋だろう。扉には名札がかか
っていた。
隣の扉を眺める。
『オカモト』の扉の向こうは暗いようだ。留守なのか。
反対側の扉を見る。名札は無かった。
廊下は嫌に静かだ。その雰囲気はどことなく大きな病院を連想させる。
とりあえず、シンヤは辺りをまわってみることにした。
廊下を歩く。少し寒い。
突き当たりまで来た。
曲がり角の向こうを見る。
遠くに人影があった。こちらに向かって歩いてきているらしい。
声をかけようと近づいたが、シンヤは気づいた。
その人間は白い杖をついていたのだ。杖で自身の前の床を確かめながらゆっく
りと歩いている。
遠慮したほうが良いのか迷っていると、彼女はすぐそばまで来ていた。
背の低い女の子だった。歳は自分と同じくらいだろうか。髪は短く切り揃え、
おかっぱのようになっている。
彼女は脇にどいたシンヤの目の前を横切ろうとする。
話しかけようとして、やっぱりやめた。
息苦しくなるような彼女の雰囲気に負けたのだ。
シンヤは今まで、あのような雰囲気の人間には会ったことがなかった。
軽々しく話しかけるべきではない――そう直感したのだった。
彼女は通りすぎていく。その背中には服越しにも分かるほどはっきりと骨の形
が浮き出ていた。
壁を背にして、彼女が来た方に視線を飛ばす。
新たな人影があった。今度は遠目に見てもはっきりと男と分かる体型をしてい
る。何か小さなキャリーバッグのようなものを引きずっているのも見える。
じっと見ていると、どうやら彼もこっちに気づいたようだった。
シンヤが自分のそんな感情に気づくまでそんなに時間はいらなかった。
アヤカも既に部屋から去り、窓の外も暗くなって、怒りと混乱が満載された頭
に寂しさが這い寄ってきたのだ。
一人になってからシンヤはずっと考えていた。
何故自分がこんな目に合わなければならないのか。
家に帰る方法は無いのか。
今思えば、あのコンドウを殴り倒しておけばよかった。そうすれば帰してくれ
たかもしれない。
何を馬鹿な。そんな度胸も無いくせに。
背後で自分が笑う。
振り向くが、当然誰も居ない。
落ち着かない。
誰でもいい。話相手が欲しい。
そう思って部屋を出たのだった。
部屋の外は長い廊下だった。片側の壁に扉が並んでいる。
同じようなデザインから察すると、他の人間の部屋だろう。扉には名札がかか
っていた。
隣の扉を眺める。
『オカモト』の扉の向こうは暗いようだ。留守なのか。
反対側の扉を見る。名札は無かった。
廊下は嫌に静かだ。その雰囲気はどことなく大きな病院を連想させる。
とりあえず、シンヤは辺りをまわってみることにした。
廊下を歩く。少し寒い。
突き当たりまで来た。
曲がり角の向こうを見る。
遠くに人影があった。こちらに向かって歩いてきているらしい。
声をかけようと近づいたが、シンヤは気づいた。
その人間は白い杖をついていたのだ。杖で自身の前の床を確かめながらゆっく
りと歩いている。
遠慮したほうが良いのか迷っていると、彼女はすぐそばまで来ていた。
背の低い女の子だった。歳は自分と同じくらいだろうか。髪は短く切り揃え、
おかっぱのようになっている。
彼女は脇にどいたシンヤの目の前を横切ろうとする。
話しかけようとして、やっぱりやめた。
息苦しくなるような彼女の雰囲気に負けたのだ。
シンヤは今まで、あのような雰囲気の人間には会ったことがなかった。
軽々しく話しかけるべきではない――そう直感したのだった。
彼女は通りすぎていく。その背中には服越しにも分かるほどはっきりと骨の形
が浮き出ていた。
壁を背にして、彼女が来た方に視線を飛ばす。
新たな人影があった。今度は遠目に見てもはっきりと男と分かる体型をしてい
る。何か小さなキャリーバッグのようなものを引きずっているのも見える。
じっと見ていると、どうやら彼もこっちに気づいたようだった。
「新しい人か?」
彼は近づきながらそう言った。
頷いて返事をする。
「へぇ、災難だな。」
彼も事情が分かっているようだった。
シンヤの目の前に彼は立つ。
「俺はタクヤ・タカハシ。そっちは?」
名乗る。
「クロミネ、な。」
握手を交わす。
タクヤはシンヤより歳上のように見えた。
身長も高く、話しかけやすい雰囲気をしている。長めの髪をブラウンに染めて
、ピアスも耳にいくつかつけていた。
着ている服は作業着のようで、多くの油臭い染みがついている。
それと変わっていたのは――
「これか?」
視線を感じたのか、タクヤは自分の鼻を指す。
その両の鼻腔からは透明なチューブが延びていて、その先は彼が引きずってい
る小型のキャリーバッグにつながっていた。
シンヤは軽く罪悪感を感じながらも、一体どうしたのか事情を訊いた。
「呼吸器系の障害でさ、ボンベが無いと息できねーんだよ。」
笑顔を浮かべるタクヤ。
シンヤは果たしてタクヤも自分と同じなのか訊いた。
「まぁな。」
それ以上は彼は語らない。
シンヤは出口について質問した。
「一応この先にエレベーターがあるけど、カードが無いと使えないぜ。」
やっぱり、そういう感じか。
落胆するシンヤをタクヤは見る。
「気持ちはわかるけどさ、元気出せよ。ウジウジしてても始まんねーぜ。」
無言。
タクヤは何か思い付いたようだった。
「そうだクロミネ、建物ん中案内してやろっか。」
シンヤはタクヤの顔を見た。
まだ会って数分も立っていないのに……
……いい人、なのだろうか。
「いいだろ?さっき仕事終わってさー、暇なんだよ。」
「仕事、ですか?」
「お前だって明日からパイロットだろ?」
タクヤは言う。
やはりそういうことになるのだろうか。
シンヤは憂鬱な気分になった。
「俺も前はパイロットだったんだよ。今は整備やってるけどな。」
「整備って……AACVのですか?」
「ああ。」
やはり本当にあるのか。
「まだイマイチ信じられないか?」
見透かされた。
タクヤは腕を組んで目を細めている。
「わかるぜーその気持ち。俺も最初は信じられなかったもん。」
そう言って彼は指を鳴らす。
「ドック行くか?本物見せてやるよ。」
気づいたら頷いていた。
彼は近づきながらそう言った。
頷いて返事をする。
「へぇ、災難だな。」
彼も事情が分かっているようだった。
シンヤの目の前に彼は立つ。
「俺はタクヤ・タカハシ。そっちは?」
名乗る。
「クロミネ、な。」
握手を交わす。
タクヤはシンヤより歳上のように見えた。
身長も高く、話しかけやすい雰囲気をしている。長めの髪をブラウンに染めて
、ピアスも耳にいくつかつけていた。
着ている服は作業着のようで、多くの油臭い染みがついている。
それと変わっていたのは――
「これか?」
視線を感じたのか、タクヤは自分の鼻を指す。
その両の鼻腔からは透明なチューブが延びていて、その先は彼が引きずってい
る小型のキャリーバッグにつながっていた。
シンヤは軽く罪悪感を感じながらも、一体どうしたのか事情を訊いた。
「呼吸器系の障害でさ、ボンベが無いと息できねーんだよ。」
笑顔を浮かべるタクヤ。
シンヤは果たしてタクヤも自分と同じなのか訊いた。
「まぁな。」
それ以上は彼は語らない。
シンヤは出口について質問した。
「一応この先にエレベーターがあるけど、カードが無いと使えないぜ。」
やっぱり、そういう感じか。
落胆するシンヤをタクヤは見る。
「気持ちはわかるけどさ、元気出せよ。ウジウジしてても始まんねーぜ。」
無言。
タクヤは何か思い付いたようだった。
「そうだクロミネ、建物ん中案内してやろっか。」
シンヤはタクヤの顔を見た。
まだ会って数分も立っていないのに……
……いい人、なのだろうか。
「いいだろ?さっき仕事終わってさー、暇なんだよ。」
「仕事、ですか?」
「お前だって明日からパイロットだろ?」
タクヤは言う。
やはりそういうことになるのだろうか。
シンヤは憂鬱な気分になった。
「俺も前はパイロットだったんだよ。今は整備やってるけどな。」
「整備って……AACVのですか?」
「ああ。」
やはり本当にあるのか。
「まだイマイチ信じられないか?」
見透かされた。
タクヤは腕を組んで目を細めている。
「わかるぜーその気持ち。俺も最初は信じられなかったもん。」
そう言って彼は指を鳴らす。
「ドック行くか?本物見せてやるよ。」
気づいたら頷いていた。
何も考えずにタクヤについて歩いていくと、カードリーダーのついた扉にたど
り着いた。
タクヤは首から下げたスタッフカードをリーダーに通す。
「ビックリするぜぇー」
その様子はおもちゃ箱を開ける子供のようだ。
扉が開く。
息をのんだ。
シンヤの通っていた学校が丸ごと入りそうな広いドックにそれは並んでいた。
二本の足で歩き、高速で空を飛び、圧倒的火力で相手を撃破する鋼鉄の巨人。
Advanced Armored Combat Vehicle.次世代装甲戦闘車両、略称AACVが
ズラリとそこに並んでいた。
強い照明に照らされたその姿はラオコーンの彫刻のように力強い。
憂鬱な気持ちは吹き飛んでいた。
自然に足が動き出す。本当は駆け出して、飛び付きたい!
「もっと近くで見ていいぜ。」
タクヤの声。
返事もせずに一番近い機体に向かって駆け出した。
そこにあったのはいつもCGで見ていた、中量型の機体だった。
AACVの機動性を損なわない程度に厚みを持たせた装甲はあらゆる任務に対
応できる。
直方体の箱を組み合わせたような無骨なフォルムは整備もしやすく、兵器とし
てかなり優秀な部類に入る。
と、確かグラウンド・ゼロの説明書に書いてあった。
けれど、まさか本物があるなんて。
全高七メートル強の機体は拘束具のようなハンガーに収まっている。
四肢は意外に細く見えた。しかし完成されたパズルのような美しさを持つ内部
メカがその中にぎっしり詰まっているのは感じられる。
しかしこれに人間が乗るとしたなら、かなり窮屈な感じになるだろうか。
コクピットがある胸部はどうなっているのだろう。
整備用の足場を上りたい。ああ、でも怒られそう。
武器は別の場所に保管してあるのか、腕のウェポンジョイントが剥き出しにな
っている。あそこに武器ががっちりと嵌まって、ライフルの衝撃吸収機構を支え
るんだ。
ああ、もう想像しただけで興奮する!
自分はこれに乗るのだろうか。
ふと、自分が今置かれている状況を思い出す。
沸き上がった心は一瞬で鎮んだ。
後ろから足音。
「ロボット、大好きか。」
タクヤが居た。楽しそうな表情でこちらを見ている。
「ちったぁ元気出たか?」
無理矢理に笑顔を浮かべ、「はい」。
「良かった」と言うタクヤ。
申し訳ない気分になる。
シンヤは改めてAACVを見上げた。
影になっている頭部のせいか、ひどく不吉なものに見える。
どうしてさっきはあんなに興奮したのか、わからなくなっていた。
り着いた。
タクヤは首から下げたスタッフカードをリーダーに通す。
「ビックリするぜぇー」
その様子はおもちゃ箱を開ける子供のようだ。
扉が開く。
息をのんだ。
シンヤの通っていた学校が丸ごと入りそうな広いドックにそれは並んでいた。
二本の足で歩き、高速で空を飛び、圧倒的火力で相手を撃破する鋼鉄の巨人。
Advanced Armored Combat Vehicle.次世代装甲戦闘車両、略称AACVが
ズラリとそこに並んでいた。
強い照明に照らされたその姿はラオコーンの彫刻のように力強い。
憂鬱な気持ちは吹き飛んでいた。
自然に足が動き出す。本当は駆け出して、飛び付きたい!
「もっと近くで見ていいぜ。」
タクヤの声。
返事もせずに一番近い機体に向かって駆け出した。
そこにあったのはいつもCGで見ていた、中量型の機体だった。
AACVの機動性を損なわない程度に厚みを持たせた装甲はあらゆる任務に対
応できる。
直方体の箱を組み合わせたような無骨なフォルムは整備もしやすく、兵器とし
てかなり優秀な部類に入る。
と、確かグラウンド・ゼロの説明書に書いてあった。
けれど、まさか本物があるなんて。
全高七メートル強の機体は拘束具のようなハンガーに収まっている。
四肢は意外に細く見えた。しかし完成されたパズルのような美しさを持つ内部
メカがその中にぎっしり詰まっているのは感じられる。
しかしこれに人間が乗るとしたなら、かなり窮屈な感じになるだろうか。
コクピットがある胸部はどうなっているのだろう。
整備用の足場を上りたい。ああ、でも怒られそう。
武器は別の場所に保管してあるのか、腕のウェポンジョイントが剥き出しにな
っている。あそこに武器ががっちりと嵌まって、ライフルの衝撃吸収機構を支え
るんだ。
ああ、もう想像しただけで興奮する!
自分はこれに乗るのだろうか。
ふと、自分が今置かれている状況を思い出す。
沸き上がった心は一瞬で鎮んだ。
後ろから足音。
「ロボット、大好きか。」
タクヤが居た。楽しそうな表情でこちらを見ている。
「ちったぁ元気出たか?」
無理矢理に笑顔を浮かべ、「はい」。
「良かった」と言うタクヤ。
申し訳ない気分になる。
シンヤは改めてAACVを見上げた。
影になっている頭部のせいか、ひどく不吉なものに見える。
どうしてさっきはあんなに興奮したのか、わからなくなっていた。
手を伸ばし、足の装甲の表面を指で撫でる。
堅く、冷たい。
これに人間の血は通っていないのだ。
無慈悲に、敵を殺すためだけに作られた機械。
……これに、乗るのか。
「……どうした?」
タクヤの心配そうな声。
シンヤは問う。
「……戦争、やってるんですか?」
そう吐いた。
大量の兵器に、自衛隊には任せられない仕事。
もしかしたら、自衛ではない、“攻め”の戦争を、この国は秘密にやっている
のか。
シンヤはそう考えていた。
タクヤの答えを待つ。
数秒の間。
息を吸う音。
「半分は、そうだな。」
微妙な言い方に疑問を持つ。
しかしタクヤは続きを語ることを放棄した。
「詳しいことはコンドウさんから聞いてくれよ。俺、説明下手なんだ。」
「……わかりました。」
あんまり食い下がって困らせるのも良くないだろう。
タクヤに礼を言う。
「おう、なんか困った事があったら言いな。」
その笑顔に何故か違和感。
一度疑い始めると、何もかも信用ならなくなってくる。
駄目だな、こんなんじゃ。
AACVに背を向けて、タクヤと共にドックを出る。
「タカハシさんは、家に帰りたくないんですか。」
廊下を歩きながらそんなことを訊いた。
「そりゃ、な。」
適当な答え。
「逃げようとか、思ったことは無いんですか。」
「あるぜ。だけど……」
「だけど?」
「ここに半年も居たら、そんな気もしなくなるさ。」
「何故ですか」
「その頃にゃー終わりが見え始めるからな。」
どういうことだろうか。
「でもま、正直な話、俺はここに来て良かったと思うぜ。」
彼を見る。
「俺さ、前はバイトばっかしてて、暇な日は丸一日ゲーセンに居るようなやつだ
ったんだよ。」
目を伏せていた。
「だけどこの『幽霊屋敷』に来て、世界が変わったんだ。」
彼の声には力があった。
「大袈裟な表現かも知れないけどよ、なんか“悟った”っつーか、人生の一番深
いところに触れられたっつーか……」
何を言っているのか。
「一言で言えば、毎日が充実してるっていうのかな。」
「そう、なんですか。」
「……ヒクなよ。」
言われて彼から距離をとっていることに気づいた。
慌てて謝罪する。
「いやまぁ気にしてないけどさ。実際体験しないとわかんねーよ、この感覚は。
」
「へぇ……」
「興味無さそうだな」
「はい。」
堅く、冷たい。
これに人間の血は通っていないのだ。
無慈悲に、敵を殺すためだけに作られた機械。
……これに、乗るのか。
「……どうした?」
タクヤの心配そうな声。
シンヤは問う。
「……戦争、やってるんですか?」
そう吐いた。
大量の兵器に、自衛隊には任せられない仕事。
もしかしたら、自衛ではない、“攻め”の戦争を、この国は秘密にやっている
のか。
シンヤはそう考えていた。
タクヤの答えを待つ。
数秒の間。
息を吸う音。
「半分は、そうだな。」
微妙な言い方に疑問を持つ。
しかしタクヤは続きを語ることを放棄した。
「詳しいことはコンドウさんから聞いてくれよ。俺、説明下手なんだ。」
「……わかりました。」
あんまり食い下がって困らせるのも良くないだろう。
タクヤに礼を言う。
「おう、なんか困った事があったら言いな。」
その笑顔に何故か違和感。
一度疑い始めると、何もかも信用ならなくなってくる。
駄目だな、こんなんじゃ。
AACVに背を向けて、タクヤと共にドックを出る。
「タカハシさんは、家に帰りたくないんですか。」
廊下を歩きながらそんなことを訊いた。
「そりゃ、な。」
適当な答え。
「逃げようとか、思ったことは無いんですか。」
「あるぜ。だけど……」
「だけど?」
「ここに半年も居たら、そんな気もしなくなるさ。」
「何故ですか」
「その頃にゃー終わりが見え始めるからな。」
どういうことだろうか。
「でもま、正直な話、俺はここに来て良かったと思うぜ。」
彼を見る。
「俺さ、前はバイトばっかしてて、暇な日は丸一日ゲーセンに居るようなやつだ
ったんだよ。」
目を伏せていた。
「だけどこの『幽霊屋敷』に来て、世界が変わったんだ。」
彼の声には力があった。
「大袈裟な表現かも知れないけどよ、なんか“悟った”っつーか、人生の一番深
いところに触れられたっつーか……」
何を言っているのか。
「一言で言えば、毎日が充実してるっていうのかな。」
「そう、なんですか。」
「……ヒクなよ。」
言われて彼から距離をとっていることに気づいた。
慌てて謝罪する。
「いやまぁ気にしてないけどさ。実際体験しないとわかんねーよ、この感覚は。
」
「へぇ……」
「興味無さそうだな」
「はい。」
「ああっと!予想以上にストレートゥ!」
タクヤはおどけて胸を押さえる。
シンヤは笑う。タクヤも笑う。
不安だったのだ。
もしかしたらこの施設内に居るのはアヤカ・コンドウやさっきすれ違った女の
子のように、冷徹で、軽い会話もできないような、人間らしくない人ばかりかと
思っていたのだ。
だけどここにはタクヤ・タカハシのような、普通の人間も居る。
その事実だけでシンヤの緊張は和らぎはじめていた。
単純なやつめ。危機感が足りねーぞ。
胸の奥からそんな声が聞こえた気がする。
もう動じない。
少しだけ、前向きな気持ちになれた。
タクヤはおどけて胸を押さえる。
シンヤは笑う。タクヤも笑う。
不安だったのだ。
もしかしたらこの施設内に居るのはアヤカ・コンドウやさっきすれ違った女の
子のように、冷徹で、軽い会話もできないような、人間らしくない人ばかりかと
思っていたのだ。
だけどここにはタクヤ・タカハシのような、普通の人間も居る。
その事実だけでシンヤの緊張は和らぎはじめていた。
単純なやつめ。危機感が足りねーぞ。
胸の奥からそんな声が聞こえた気がする。
もう動じない。
少しだけ、前向きな気持ちになれた。
「――そのため、先程申し上げたようなミスが起こってしまいました。多大な損
失を出してしまい、本当に、申し訳ありませんでした。」
深く頭を下げるアヤカ・コンドウ。
彼女の前のデスクには一人の老人が座っていた。
老人は革張りの椅子に腰掛け、あご髭を撫でている。
アヤカは彼の言葉を待っていた。
もし彼がこのミスを許さなければ、自分に明日はやってこないかもしれない。
手のわずかな震えを押さえるのに必死だった。
老人は彼女が提出した書類を手にとる。
「……かまわん。」
低く重い声が老人の口から出た。
「人間が関わる以上、ミスは必ず起こる。ただ、今回は偶々厄介なところで起こ
っただけだ。顔を上げなさい。」
アヤカはゆっくりと姿勢を直立不動に戻す。
「そのシンヤ・クロミネはどうするつもりだ?」
老人の質問に素早く答える。
「ゲーム内でのデータからAACVパイロットとしての適性は低いと判断し処分も検討しましたが、
やはり有効利用すべきだと判断し、輸送機の操縦を担当させようと考えております。」
「妥当なところか。」
老人はそう言いながらも、目は書類に向けたままだった。
アヤカは不安になる。
「何か、書類に不備でもありましたでしょうか?」
「いいや。ただ……」
老人はそれをデスクに放る。
「テスター戦での動きが面白いと思ったのでな。」
彼は眉間に皺を寄せていた。
少しの間。
「シンヤ・クロミネはAACVに乗せてみよう。もしかしたら、もしかす
るかも知れん。」
「……了解しました。しかし、よろしいのですか?」
「データだけでは分からないことも多い。特に、この手のものはな。」
アヤカには彼が何を言いたいのかわからなかった。
夜は更けていく。
失を出してしまい、本当に、申し訳ありませんでした。」
深く頭を下げるアヤカ・コンドウ。
彼女の前のデスクには一人の老人が座っていた。
老人は革張りの椅子に腰掛け、あご髭を撫でている。
アヤカは彼の言葉を待っていた。
もし彼がこのミスを許さなければ、自分に明日はやってこないかもしれない。
手のわずかな震えを押さえるのに必死だった。
老人は彼女が提出した書類を手にとる。
「……かまわん。」
低く重い声が老人の口から出た。
「人間が関わる以上、ミスは必ず起こる。ただ、今回は偶々厄介なところで起こ
っただけだ。顔を上げなさい。」
アヤカはゆっくりと姿勢を直立不動に戻す。
「そのシンヤ・クロミネはどうするつもりだ?」
老人の質問に素早く答える。
「ゲーム内でのデータからAACVパイロットとしての適性は低いと判断し処分も検討しましたが、
やはり有効利用すべきだと判断し、輸送機の操縦を担当させようと考えております。」
「妥当なところか。」
老人はそう言いながらも、目は書類に向けたままだった。
アヤカは不安になる。
「何か、書類に不備でもありましたでしょうか?」
「いいや。ただ……」
老人はそれをデスクに放る。
「テスター戦での動きが面白いと思ったのでな。」
彼は眉間に皺を寄せていた。
少しの間。
「シンヤ・クロミネはAACVに乗せてみよう。もしかしたら、もしかす
るかも知れん。」
「……了解しました。しかし、よろしいのですか?」
「データだけでは分からないことも多い。特に、この手のものはな。」
アヤカには彼が何を言いたいのかわからなかった。
夜は更けていく。