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ParaBellum

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統合歴325年7月20日

世間一般の学生は夏休みを明日に控え、どのような休暇の過ごし方をするのかという話題で持ち切りである。
何歳になっても夏休みが何事にも変え難い物である事は全学生共通らしく弾む心を抑えきれないようだ。

「なあ、涼ちゃん。夏休みはどーすんのよ?」

同じ学科の友人の言葉に一瞬考える素振をしてしまったが、俺の余暇の過ごし方など考えるまでも無い。

「海、山、湖、祭、花火、水族館、天体観測、肝試し、キャンプ、映画、ギア観戦、その他は状況に応じて随時追加…だな。」

考えずとも簡単に出て来るような定番のプラン。我ながら面白味の無いラインナップだ。

「で、今年も妹ちゃんとかい?涼ちゃん、人間いつまでもモテ期が続くってわけじゃないんだし、そろそろ彼女の2~3人くらい作った方が良いんでねぃの~?」

余計なお世話以外の何物でも無い。言われずとも恋人の一人でも居ればとは思っているが、引っ込み思案の妹を放っておく事の方が心配で、そんな気になれないだけだ。
だからと言って、コイツに恋人が欲しいなどと口が裂けても言えないが……そんな情けない事を堂々と口走って女を紹介してもらっている輩を羨ましく思う。

「アイツに彼氏でも出来れば、俺も一安心なんだがな。」

「そいじゃー、オレが妹ちゃんゲット!!」

「そうしてくれるのならば、俺も助かる。」

「ちょっと待ってー!止めてー!涼ちゃん、そこはお前に俺の妹はやらん的な突っ込み入れるところじゃぜ?
もしくは兄妹の禁断の愛に目覚めるフラグが立ったりとかさ!突っ込み待ちしとる俺がアホみたいやんか!」

妹に彼氏の一人でも出来れば安心だと言った矢先に何故、そんな拒絶をしなければならないのだろうか?
それに何処ぞの誰とも知れん輩より、目の前の阿呆な友人の方が幾分か信用は出来るので、任せられると思ったのだが。

取り合えず―

「お前は阿呆みたいでは無く、正真正銘の阿呆だ。」

―と言っておく。

「酷いわぁ!!涼ちゃんなぁ…妹思いなんは良いけど、余計に涼ちゃんへの依存度がアップしとるような気ぃするんやけど、大丈夫なんかい?」

俺にとって一番の懸念事項がそれだ。ゼミで数日、家に帰らない事も多々あるのだが両親曰く、部屋に篭りっきりで一言も喋らない事も珍しく無いらしい。
一体、何処で何を間違えたのだろうか…思い返すまでも無く原因は俺だな。歳の離れた妹に構うのが楽しくて、妹が喋れるようになった頃の俺と妹の関係は―

さながら、お姫様と奴隷といった所だろうか。そして、妹は我儘放題に育つかと思いきや、俺に依存気味の内向的な性格になってしまったと…あの頃の俺死ね。

「涼ちゃんがあれやこれやと世話焼くよりも妹ちゃんに友達出来るようにしてやるとかの方が良いんじゃねーんかいなねぇ?」

成る程、それは良い案だ。もっと早い段階で言ってくれればな。
そして、そんな当たり前の事に何故、気付かなかった俺。もっと早く気付け俺。

ガキにガキを作る事は出来ても、ガキにガキを育てる事は出来ない。コイツは誰の言葉だったか…

「まあ、偶には俺と遊んでくれよなー?涼ちゃんがおるのとおらんのじゃ、ナンパの成功率が全然、違うからな!」

知った事か。友人の愚にも付かない雑談を打ち切り、俺は一人帰路へと着いた。
明日から妹が歳相応の子供のように友人と無邪気に遊べるように、外へ連れ出し外向きの性格へ矯正する日々が始まる。

一先ず、人の多い海、山、祭から攻め、夏休み明けの話題に困らないようにギア、映画を途中で織り交ぜ
大声で喋る事が出来るように肝試しで絶叫させ…余計、静かになった事があったから、これは止めておこう。

自宅に戻り玄関に揃えられた靴を見ると、妹の靴が隅に揃えられている。

「これは……どうなんだろうな。」

何とも言えない気分で妹の靴を玄関の真ん中に置き直し、靴を脱ぎ捨て階段を登り、妹の部屋の扉を2度ノックして扉を開けた。

「涼夜兄さん……お帰りなさい。」

妹の部屋の扉を開くと中の様子が全く分からない。部屋の出窓は全て遮光カーテンに阻まれ光量ゼロ。
昼寝でもしているのかと思ったが、妹は暗い部屋の真ん中で何をするわけでも無く、ただ座っているだけだった。

「陽が高い内からカーテンを閉め切るんじゃない。」

何か言いたげな妹を無視してカーテンを開き、日光を部屋に取り入れると、妹が部屋に差し込んだ光に眼を眩ませる。

「ああ…すまん。茜華、大丈夫か?」

「うん…大丈夫。」

妹の前に腰を下ろし目線を合わせる。俺が妹…茜華と話をする時は極力、顔と目線を合わせて会話をするようにしている。
ただの素人判断だが、もしかしたら他の子供と話が出来るようになるんじゃないかと思ってな……効果は全く無いようだが。

「茜華、明日から夏休みだが…予定は?」

茜華は眼を伏せ無言で首を振る。友達と遊ぶ約束があるから兄さんとは出掛けられないという言葉を期待していたのだが流石にハードルが高すぎたかも知れない。

「折角の長期休暇だ。何処か遊びに行きたい所はあるか?」

「ギアが見たい……」

こういう時の茜華の答えは決まって、スポーツギアだ。些か、少年の様な趣味だが何か琴線に触れるものがあったのだろう。
俺はモバイルシステムを起動し周辺地区でのイベント一覧を表示、八坂州野宮地区の高校大会が8月13日、プロモーター主催の大会が8月20日に実施予定。
7月には特に目ぼしいイベントは無いようだ。その旨を茜華に伝えると微妙に残念そうな表情をした。確かに24日後と31日後と、茜華の希望する日までかなりの間が空いてしまう。

「涼夜兄さん……待ち遠しい日って、どうすれば早く来るの?」

「楽しい時間は早く過ぎるだろう?ならば、何事も心の底から楽しむんだ。
そうで無ければ、何事にも一生懸命に取り組み、時間を無為に過ごさない事だ。」

折角の長期休暇だ。やれる事など数え切れない程ある。俺は茜華の兄として塞ぎ込む暇を与えず只管、笑わせ続けてやろうと決意した。

「食事…そう言えば、母さんは?」

再び、無言で首を振る。生憎だが俺にまともな料理は出来ない。12歳の妹に包丁や火を使わせるわけにもいかない。

「今日は外で済ませるか…」

俺の壊滅的なまでに下手糞で料理を冒涜したような手料理を茜華に食わせるのは忍びないと二人で繁華街へと向かった。

―何か妙だ。

人通りの多い繁華街のド真ん中だと言うのにも関わらず、人波の騒々しさが全く感じられない。
町並みや人がモノクロに見え、左隣で歩いている茜華の手を繋いでいる筈なのに手の柔らかさも温もりも感じられない。
そもそも、俺は歩いているのか?それとも、立ち止まっているのか?それすらも分からない。

驚き戸惑っていると、やがて耳の奥で―ブツリ―と何かが千切れる音が鳴り響き、完全に五感が麻痺。
どの程度、その場に立ち竦んでいたのだろうか…再び、音が光が外気が土の香りが戻って来る。

「これは一体…何がどうなっている?」

戻った五感で得た周囲の情報…

嗅覚―非常に土臭い

触覚―俺の左手は何も掴んでいない

聴覚―街中の喧騒が聞こえない

味覚―空気が美味い

視覚―…………

「此処は…何処だ?」

何故、俺は一人で草原で佇んでいるのだろうか―俺は繁華街に居た筈だぞ?

「茜華……茜華!?何処だ!?返事しろ!!」

そうだ。此処が何処で俺がどうなかったなど如何でも良い。茜華はどうなった!?
俺は慌てて、茜華に呼びかけ、周囲を見回すが人影以前に人工物の一つさえ見当たらない。
そもそも、辺り一面に広がる草原など八坂州には無い。そして、実在する都市伝説と言われている事件が俺の頭を過ぎった。

「これが……例の神隠しだとでも言うのか!?」

目の前で話していた人間が瞬きをした瞬間に忽然と消え、その痕跡が完全に途絶えてしまい、未だに戻って来た者は一人も居ないと言われている。
そして、それは八坂州だけでは無く、地球全土に広がっており事件の始まりは200年も前から起こっているというのにも関わらず、未だ原因は不明。

兎に角、茜華を一人で放っておくわけにはいかない。さっさと戻らねばと、助けを呼ぶ為にモバイルシステムを起動。
これで解決出来るほど単純な問題なら、200年程続く怪事件になる筈も無い。

「データベースの応答無し…当然か。」

地球全土をカバー出来る筈の情報管理システムから俺は完全に分離してしまっている。
そんな莫迦な事があってたまるかと言いたいところなのだが…モバイルシステムがデーターベースに繋がらない。
それは俺が地球以外の何処かに何者かの手によって連れ去られた―

「…………?」

そろそろ、俺を此処に連れ去った張本人から何かしらのコンタクトがあっても良い頃だと思うのだが…流れ的に。

何かが起きるのを待つ事、1時間―

非常に困った事態だが、棒立ちしていても埒が明かないので、何処か人里にでも辿り着けばと思いながら適当に歩を進める事にした。
何せ何処を目指して歩くべきか指針の付けようが無い。最低限、まともな睡眠と水分補給さえ出来れば一週間程度なら如何にかなるのだが……


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