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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

GEARS外伝 Berserker 後

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ParaBellum

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それから半年の時が流れ―

俺が神隠しに遭って半年が経過して幾つか分かった事がある。荒唐無稽だが、此処が地球どころか太陽系ですら無いという事だ。
そう考えるに至った根拠として、太陽系は地球、月、水星、金星の4つの星に人類は居を構え、一つの星に対し支配する国は一つ限りだ。
つまり、星その物が一つの国であり、一つの惑星に複数の国が存在するという事は絶対に有り得ない事だ。
だと言うのにも関わらず、この惑星では複数の国で戦争、休戦、復興処理のサイクルが続いている。

地球の戦争に休戦という言葉は無い。何故なら後の世に禍根を残さないよう非戦闘員の一人も残さず徹底的に排除して始めて終戦を迎えるからだ。
一つの国、一つの文化、一つの文明、一つの価値観。確かに問題があるかも知れないが、地球のやり方が太陽系に伝播し磐石且つ、恒久的な平和を維持出来ているのもまた事実だ。
何はともあれ、一つの惑星に国が複数ありながら、休戦などという死語が堂々と罷り通る世界が太陽系にあるなど絶対に有り得ない。

太陽系とは別の星系、または別の時代、はたまた異世界か。

一先ず、この世界は異世界なのだと俺の中で結論付けた。
別の時代だと元の時間に戻れる気がしない。別の星系に人間が居るなどと考えたくも無い。

異世界―余計に戻れる気がしない。異世界が存在するなんて宇宙人が居る事以上に有り得ない。
だが、荒唐無稽過ぎて却って、如何にか出来そうな気がしたのも事実だ。

そうして自分の中で、折り合いを付けてから半年、妙な世界とは言え、半年もあれば慣れるのが道理だ。
第一、異邦人である俺が変だ、妙だと叫んでも世界は何も変わりはしないし、異邦人であるが故にこの世界が何だろうと知った事では無い。
俺にとって重要な事は如何にして元の世界に戻るか―その一点に尽きる。その為にも、この世界でのたれ死ぬわけにはいかない。

そう言えば、もう一つだけ分かった事がある。俺がこの世界に現れた理由だ。
何の前触れも無く、突拍子も無く自らの意思に反して異世界を訪れる事になった事には必ず、何かの理由がある。
だが、この半年の間、俺に助けを求める者も、俺を亡き者にしようとする者も、俺の力を利用しようと企てる者も、誰一人として現れなかった。

―結論、原因不明の不可解な事故

非現実的な出来事だというのにも関わらず、俺への扱いは非常に現実的で面白くない。
そして、日々を過ごす為の糧を得る為に職場の扉を開いた。働かざる者食うべからず―それは異世界であっても変わらない。

「良い朝だな。バーサーカー!」

「誰が引き際の分からない周辺巻込み型オーバードーザーの気狂い冒険者だ。」

「それは突っ込み待ちか?」

この世界における俺の立場は冒険者。バーサーカー、狂戦士といった極めて不本意な二つ名まで付けられている。
そんな野蛮な二つ名は俺には相応しくない。この物語を語る上でそれを証明する事が出来れば幸いだ。

そして、開口一番で失礼極まりない物言いをした男が冒険者ギルドのマスターで、冒険者への依頼斡旋等の管理業務を取り仕切っている。

此処で冒険者について説明しておこう。
本来、冒険者とは国からの依頼を受け、新大陸の発見や未開発地域の調査等を生業とする者の事を指していた。
だが、この未熟で未発達な世界は成長期の真っ只中にあり、慢性的な人手不足を起因とする行政麻痺が度々発生していた。

それを解消する為、この国が打ち出した方策は戦争、新大陸調査、治安維持、人事管理、経済管理、都市開発、市民サービスetc
これらの行政業務を冒険者ギルド…民間組織に委託するというものだった。
今となっては、ただの何でも屋だがそういった経緯もあってか、冒険者=何でも屋という意味合いを持たされている。

そんな回りくどい事をせずとも、行政に従事する労働者―俺達の世界で言う所の公務員の雇用を増やせば話は簡単なのだが
この世界で公務員になろうと思ったら諸侯を始めとする貴族の血縁、または養子になる。
誰の目にも止まる程の武勲を立てて騎士になるか、世界を揺るがす程の発明をして宮廷魔術師になるか。

民間人に対しては非常に狭き門となっているが、醜い権力争いが跋扈している宮廷勤めなど
死んでもご免だと考えている者も多く、冒険者ギルドの設立は成功だったと言える。

「……仕事は?」

「アラン王子からの直接依頼だ。ロワール城へ行ってくれ。」

冒険者ギルドのシステムは単純だ。国や個人がギルドに業務を依頼。ギルドは違法性の有無と、依頼料を審査し依頼主と交渉。
契約締結後、冒険者の能力や適性に応じて依頼を割振り、冒険者は自分に割り当てられた依頼を選び、達成後報酬を受け取るというものだ。
因みに依頼人が冒険者を指名するのは良いが、依頼人が冒険者に直接依頼を行う事はご法度とされている。
だが、未発達な文明のせいか法よりも権力の方が遥かに力を持っており、ギルドの審査抜きで依頼が入る事も珍しくは無い。

「学習能力の無い莫迦王子が…」

依頼料が提示されない依頼の依頼主は決まって王族、貴族だ。俺の固定客で規則を無視する奴はただ一人。
ロワール王国第一王子アラン・フォン・ロワール。良く言えば無邪気。身も蓋も無い言い方をすれば無知無能世間知らず。

「滅多な事は無いとは思うが王子が機嫌損ねちまったら、俺等もおまんま食い上げだ。無礼だきゃ勘弁しろよ?」

権力者に睨まれて潰されたギルドは数知れず…俺はギルドマスターでは無いし、他の国のギルドに行けば良いだけだ。
とは言え、マスターが居なければ俺自身のたれ死んでいた恐れがある。拾ってもらった恩がある以上、無碍にも出来ん。

「分かっている。マスターの顔を潰す様な真似はしない。」

ギルドを後にして、ロワール城へと向かい、適当な衛兵を呼び付け莫迦王子との面会手続きを行い、面会希望の諸侯達を差し置き客室に通される。
権力者を蔑ろにして、流れの冒険者を優先。貴族達の憤りの矛先は当然の事ながら俺だ。尤も、権力者の威光など異邦人である俺には無意味だ。

「よく来てくれたな、涼夜!」

「騎士になれという話ならば却下だ。この世界に俺が守るべき者は居ないし、この世界に長居するつもりは無い。」

事ある毎に俺を呼び付けては近衛兵になれだの、親衛隊に入れだの、騎士になれだのと莫迦王子付きの兵に仕立て上げようとする。

莫迦王子にも言ったが、この世界に俺が守るべき者―茜華は居ない。この世界の有象無象の為に賭ける命など持ち合わせてはいない。
召集されれば、参じ馳せてはやるが忠誠心は愚か、敬意の欠片すら無い。
王族に対してあるまじき態度なのだが、それが逆に莫迦王子の琴線に触れたらしく何故か、気に入られてしまったというわけだ。

「今日は城に勤めよという話では無いのだ。一つ、仕事を頼みたいのだ。それも可及的、速やかに。」

珍しく莫迦王子が厳しい表情で言を発する。コイツはろくでも無い事が起きてしまったようだな…

「俺は戦争に加担するつもりも無ければ、人を殺めるつもりも無いと以前にも言った筈だが?」

俺にとって、この世界の有象無象が何人死のうが知った事では無い。
この世界には俺の家族も友人も―背負わなければならない者が一人としていない。
偽善者じゃあるまい……見ず知らずの他人が何人死のうと何の痛痒を感じる筈が無い。

俺に必要な事は元の世界に戻る手段を得るまで、何があろうと死んではならないという事、ただ一つだけだ。
だからと言って、俺が生きる糧を得る為に誰かを犠牲にして自らの手を血で染め上げる気にはなれん。

無論、俺の命を狙う輩が居るのであれば、一人残らず肉塊へ変えてやるが。

「余は涼夜の友だからな。涼夜が人を殺める事に心を痛めるのであれば、余は涼夜に人を殺めろなどとは言わぬ。余の騎士を救って欲しいのだ。」

「ロワールの騎士を救う?随分と穏やかでは無いな…だが、俺で無くともそこいらの木偶共にやらせれば良い事だろう?」

その辺を巡回中の暇そうな兵士を顎で指すと、莫迦王子は首を振る。
如何やら、そこいらの木偶では解決出来ない……余程の大事―報酬は期待出来そうだ。

一応、言っておくが金の亡者というわけでは無いからな?
異世界で億万長者になったところで、元の世界に戻る時には無用の長物にしかならない。
ただ大金を稼いでおけば、暫くの間、働かずに元の世界に戻る手掛かりを探す事に集中出来るから報酬を気にしているだけだ。

決して、元の世界で売りさばけば良い小遣いになるんじゃないかなんて事は微塵にも考えていない。

「コルセルスカ共和国の国境沿いに部隊が展開している。これ以上、人員を割く事は出来ん。それに刻印装甲を持たない騎士を派遣しても事態は好転出来ぬ。」

刻印装甲―この世界における巨大な人型マシンの総称で人の手では無く、精霊の手によって生み出された至宝とも、失われた文明によって生み出されたと兵器とも言われている。

通常時は指輪の中に封印されており、俺が持つ刻印装甲も未開発地区の半ば朽ちた遺跡で指輪に封印されている状態で発見したものだ。
この莫迦王子に売りつけてしまっても良いのだが、刻印装甲は誰にでも使えるような代物では無く、何かしらの判断基準に基づき適合者を選ぶ。
そして、俺が拾った刻印装甲は俺を適合者として選び、俺も仕事の幅が広がるという事で、それ以来、装甲持ちの冒険者として名を馳せる事になった。

「騎士団の増援で対人戦で無く、刻印装甲が必要な状況……魔獣か。」

魔獣―主に未開発地区に生息する大型生物で魔族の眷属と呼ばれている。魔族と人間の領土争い。
まるで御伽噺の中の出来事のようだが、魔族との戦いの最中に人間同士の戦いとは滑稽極まる。
太陽系最狂最悪の戦闘民族と呼ばれていた地球人ですら、此処まで酷くは無い。

「エーデルバイス、ローザンシュレイク。二体の刻印装甲から連絡が途絶えて半日。非常に危険な状態だ。」

地球とは異なり、お粗末な伝達手段しかないこの世界で半日の音信不通―死んで居なければ良いのだが……
まあ、現地で確認すれば良い事だ。死んでいるのなら死んでいるで刻印装甲のみ引き上げれば金にはなる。
刻印装甲の適合者の代用は探せば見つかるが、刻印装甲の代えは効かないからだ。

「分かった。何処のエリアだ?」

「カルスト山脈中央、エルギード山の中腹―通称、牛の巣。敵の規模はリザード八体に、ミノタウロス三体。
ただでさえ厄介なミノタウロスが三体だ。騎士団の救出後即時撤退、瀕死寸前まで戦ったりしてくれるなよ?」

「度量の小さな奴め。高々、23回死に掛けたくらいで大袈裟過ぎる。」

「それは…突っ込み待ちか?持って行け。刻印装甲の使用許可証だ。」

失礼極まりない莫迦王子から刻印装甲の使用許可証を受け取り、馬一頭を拝借してカルスト山脈付近のロワール王国の要塞まで走らせる。
ただでさえ緊張状態にある以上、不用意に刻印装甲を人目に晒すのはタブー視されている。
一応、ロワール王国にとっては一大事なのだから大目に見てもらいたい所なのだが……

≪シルヴァール装甲展開≫

起動命令の言霊を発すると、指輪に埋め込まれた水晶に刻印が刻み込まれ、光と風を放ち俺の体を包み込む。
光が人型の形状に変化し巨大化、風が砂塵を巻き上げ腕、脚、胴に絡み付き、エメラルドグリーンに輝く甲冑に変形し白銀の巨体に装着される。
バイザーが額の部分まで押し上がり、碧の眼が光を放ち、半ば有機的な白銀の翼が生え、鉛色の尾が伸びる。

数多の死地を駆け抜け、幾多の異形と対峙して尚無敗。俺の―霧坂涼夜の最強の切り札、上級刻印装甲シルヴァール。
封印形態から戦闘形態へと変形したシルヴァールの翼をはためかせ、瞬時にして空高く舞い上がる。

≪サーチ開始―対象エーデルバイス、ローザンシュレイク≫

全ての刻印装甲は互いを認識し合う事が出来、大凡の捜索領域と対象となる刻印装甲さえ把握出来ていれば捜索は容易い。
瞬時に二体の刻印装甲の居場所が思考の中に割り込んで来る。牛の巣の東部で待機中のエーデルバイス。西部で移動中のローザンシュレイク。
何故、二体の刻印装甲が離れた地点で活動しているのかは知らんが、せめて言の葉が交わせる程度に接近しなくては話にならんか。

巨大な翼で重量の頚木を砕き、風を切裂き、一瞬で景色を遥か後方へと消し去りエーデルバイスの元へと急行する。

≪エーデルバイス、聞こえるか?≫

エーデルバイスからの返答は無し―刻印装甲にはレーダー、センサー、通信機の類は無い。
全ての行動を思考と魔力によって実行し、通信一つを取っても思念を魔力に乗せて対象に向けて飛ばすというやり方になる。

互いに刻印装甲展開時にしか使えないが、電話すら存在しない世界で不満を口にしても仕方が無い。
それにしても、エーデルバイスの適合者から応答が無いな…随分と接近したと思うのだが、まだ距離が遠いのか?
それとも会話すら侭なら無い状態に陥っているのだろうか?

「空気を読めない莫迦共が…」

眼下の密林から八条の水柱がシルヴァールに襲い掛かる。翼を翻して、水柱をやり過ごす。

「リザード八体の稼動が確認されている……そう言っていたな。」

魔獣リザード―
水辺を中心に群れを成して活動し、魔力による水流操作の能力を持つ魔獣だ。
そして、俺を襲った水柱が魔獣リザードの能力の一、水鉄砲。体内に貯蔵された大量の水を圧縮し魔力で撃ち出す能力だ。

「気紛れで避けたのは正解だったな…」

間抜けな名前とは裏腹に刻印装甲の甲冑を貫く程の貫通力と、四肢を引き裂く程の切味を持つ厄介な能力だ。以前、身を持って経験した。
有効射程距離、発射間隔、射速は個体差、環境によって異なる為、勘と経験を総動員して断続的に放たれる水鉄砲の弾幕を潜り抜け、リザードの群れの中心に降り立つ。

獲物が飛び込んで来た事にリザード達は嬉々としながら大きな口を開き、全周囲から一斉に水鉄砲を撃ち放つ。
阿呆にも程がある―再び、宙に舞い四方八方から殺到する水鉄砲を避け、俺に被弾する予定だった水鉄砲がリザードに襲い掛かる。
これが魔族や人間ならば、仲間に当たる前に術を解除し無力化するか、弾道を変更し追撃してくるところなのだが…

「獣は知能が低くてやり易い。」

心からの侮蔑の言葉を吐き捨てた所で愚鈍な獣に理解出来る筈も無い。自らの水鉄砲の暴威に晒されたリザード達は怒りを猛らせ同士討ちを始める。
間抜けな魔法生物とは言え、勝手に繁殖されてもらっても面倒臭い。幸いにも八体のリザードは仲間割れに夢中で俺への興味を完全に失っている。

「其の侭、一匹残らず死滅してくれれば助かるのだがな。」

地に降り立ち仲間割れを始めたリザードの背中に掌を当て、風を収束―

≪ソニックインパクト≫

掌に収束された風を一気に開放。収束された風は衝撃波となり、リザードを撃ち飛ばす。
無防備な背中からの風の猛威に為す術無く、リザードは仲間を二体巻き込み、山肌へと叩き付けられ贓物を吐き出し死滅した。

有効射程距離ゼロ。敵との密着状態での近接格闘戦用魔術兵装だが、敵を弾丸に見立てて撃ち出すという使い方も可能となっている。
シルヴァールの魔術兵装で最も威力が低い代わりに消耗する魔力は極僅かで連発も可能となっている為、敵の数が多い時や長丁場の時に重宝する兵装だ。

仲間の無残な死に様にリザード達の雰囲気が一転。仲間割れが止み、此方へと殺意を差し向けた。

「同族に殺されるか人間に殺されるかの違いだろうが……いきり立つな。鬱陶しい。」

ソニックインパクトで押し潰されたリザードが一体。そのリザードに巻き込まれた奴が二体。仲間割れで死んだリザードが更に二体。
一対三、気が付けば優勢。とは言え、ミノタウロスに出張られると些か、面倒な状況に陥ってしまう為、一分一秒たりとも生かしておくわけにもいかない。

≪ランス展開≫

俺の言霊に反応してシルヴァールの右腕に風が纏わりつきシルヴァールの装甲と同じエメラルドグリーンのランスが生み出される。
ランスを右腕で握り締め風を振り払い、口を大きく開けながら迫り来るリザードの群れに突きつける。

≪ライボルトスクリーマー≫

空を切裂き、放たれた稲妻が構えたランスの元へ集まり、ランスが穂先が五つに分かれ雷光を纏い、迫り来る三体のリザードに向けて雷の閃光を撃ち放つ。
幾多の魔獣を塵芥に変えてきた回避不能の超広域殲滅攻撃。特にリザードにとっては天敵以外の何物でも無い雷撃の渦に為す術無く、その身を文字通りに粉々に砕かれ地へ還る。
この世界に来て半年、妙な世界には慣れて来たが、この魔力を消耗する感覚、魔力が枯渇していく不快感には未だ慣れる事が出来ない。

≪エーデルバイス、応答しろ≫

八体のリザードを屠り、再度、エーデルバイスの適合者に呼びかけるが矢張り、応答が無い。
シルヴァールが二体の刻印装甲を展開状態で感知している以上、適合者が死んでいる事は無さそうだ。

「……急ぐか。」

別に死んでいようが、死んでいまいが俺には関係の無い事だ。だが、生かして帰した方が金になる。
エーデルバイスに合流する為、シルヴァールを反応がある地点へと風を切裂き、飛翔する。

「酷い有様だな。」

リザードの水鉄砲にやられたのだろう。エーデルバイスは全身を穴だらけにされ機能停止寸前に陥っていた。
穿たれた大穴を防がないという事は自己修復出来るだけの魔力すら残っておらず、刻印装甲を展開するだけで精一杯といったところか。
言霊の受信も発信も少なからず魔力を消費する以上、呼びかけても返答が無いのも道理だ。

しかし、見た目とは裏腹に四肢の欠落や主要部分の損傷は見当たらず、簡単なヒーリングで復元出来そうだ。
俺は玉座―所謂、コクピットから外に降り立ち、エーデルバイスの玉座を開き、適合者の状況を確認する事にした。

「刻印装甲程の傷は負っていないようだな。」

「お前は……」

「救援だ…ローザンシュレイクからの応答も無いのだが、どうなっている?」

「ミノタウロスに遭遇してな…ローザンシュレイクが血路を開いてくれたのだが、リザードに襲われこの様だ……他の騎士達はどうなった……?」

「臆病者どもの心配なら必要無い。お前は其の侭、此処で休んでいろ。」

所詮は血族の権力だけで騎士になったような連中だ。周辺に死臭も無いのであれば上手く逃げ果せたのだろう。
俺にとって二体の刻印装甲と二人の適合者さえ無事なら、それで良い。雑兵まで助けろと言われた覚えは無いのだから。

「臆病者だと…ど、何処へ行く!?」

「ローザンシュレイクを拾いにな。リザードなら全て屠った…安心して休め。」

シルヴァールの玉座に戻り、ローザンシュレイクの元へと飛翔。先程、感知した時は移動していたのでは無く交戦中だったか。
まあ、要塞に運び込んだ時点で虫の息でも良いので、死んでさえいなければ問題は無い。

ローザンシュレイクを目視。稼動状況は良好―とは言い難いが、三体のミノタウロスと交戦状態にあった。

とは言え、長距離砲撃型の刻印装甲でありながら、ミノタウロスに包囲されており本来の間合いで戦う事も出来ず防戦一方。
不得意な肉弾戦の間合いから脱する事も出来ず、巨斧で蹂躙され破壊されるのも時間の問題といった所か。

急降下しながら魔力の伴わない、ただの蹴りをミノタウロスの顔面に叩き込み
此方に注意を逸らし、着地と同時にソニックインパクトを撃ち放つが軽く仰け反る程度でリザード程の効果は見込めない。

「ローザンシュレイク、まだ動けるか?」

「シルヴァール……まさか……」

先程とは異なり、俺の呼びかけに女の声が―シルヴァールを見るなり、微妙に恐怖交じりの言葉が返ってきた。
それにしても、女の騎士とは珍しい事もあるものだ。この世界では男尊女卑といった封建的な発想が公然と罷り通っている。
それ故に、花形中の花形と呼ばれている装甲持ちの騎士とは珍しい人事もあったものだと少しばかり驚いた。

騎士なんてものは諸侯の血縁者か、余程の功績を持つ者で無ければ早々になれるものでは無い。
どちらにせよ、男に限られるのだが……この女は貴族の血縁で尚且つ、相当な武勲を立てたという事になる。
まあ、ミノタウロス相手に手間取っている奴の功績など程度が知れているが…

「バーサーカーでも何でも良いから手を貸せ。無理ならエーデルバイスと合流しろ。」

「わ、分かりました!後方支援に回ります!」

バーサーカー、この不名誉な異名の由来―それはシルヴァールと適合したばかりの頃まで遡る。
ただ戦いに不慣れなせいで引き際が分からず、つい魔獣の群れを皆殺しにしてしまった。
意外に思われるかも知れ無いが、実は大騒ぎされる程、大層な事をやったわけでは無く、噂が伝播していく内に話が大きくなっただけに過ぎない。
今となっては無茶をする事も比較的、減っており怯えられる言われは無い。

女騎士の怯え様に些かの憤りを感じたが、この場はミノタウロスを滅する事に注力せねば―気に食わんが。
ローザンシュレイクは自らが最も得意とする間合いへと後退を開始するが、一体のミノタウロスがそれを阻もうと追い縋る。

「漸く、救出する事が出来たのだ。此処から先は俺が相手だ。」

翼から羽を一枚引き抜き、一振りの長剣に変形させる。

≪ウイングスライサー≫

刀身に切れ込みが走り、十二に分かれた刀身を魔力で生成された力場で連結、刀身が蛇のようにのた打ち回りミノタウロスに襲い掛かる。
一見すると何の変哲も無い蛇腹剣だが、シルヴァールも魔術兵装も全て俺の魔力を視覚化させたものであり厳密には物質では無い。
それ故に、ウイングスライサーはあらゆる物理法則から完全に除外され、俺の意のままに操る事が出来る。
ローゼンシュラークを追うミノタウロスの右足、左腿、左肘、腹、右肩、首の順に刺し貫き、頂頭部から再び体内に刀身を潜り込ませる。
だが、残りの二体がこれを好機と見て豪腕を振るいながら、此方へと向かって来る。

「……容易いな。」

ウイングスライサーで滅多刺しにされたミノタウロスを手元に手繰り寄せ、モーニングスターさながらに振り回す。
魔力も霊力も通わない、ただの物理的な攻撃だが同等の質量に押し潰されては思うように攻撃出来まい。

≪シルヴァール、攻撃位置に到着しました≫

≪了解…コイツの始末は任せる≫

ローザンシュレイクからの報告を受け、ウインドスライサーを引き抜き高速で長剣状態に戻す。
内部を抉り裂かれたミノタウロスは全身から黒い瘴気を吐き出しながら宙に投げ出される。
見た目の損傷は激しいが、奴の生命力としぶとさを鑑みるとまだまだ死滅には程遠い。

とは言え、ローザンシュレイクの前では奴の生命力など何の問題にもなりはしない。
薄い装甲、鈍重な反応速度、劣悪な機動力、長距離支援型でありながら命中精度は最悪。
何一つとして長所は無いようにも見えるが、ただ一つだけ刻印装甲たらしめる最強のカードを持っている。

≪ディメンション・バースト!≫

空間破壊攻撃。しかし、消滅可能な範囲は非常に小さく、直撃させたところで魔獣に対するダメージは無いも同然。
だが、破壊された空間を修復する為に発生する修正力の余波は所謂、エネルギーの台風の様なもので防御も回避も無意味だ。
僅か数センチの空間破壊と修正の余波だけでも充分過ぎる程の攻撃範囲と破壊力を誇り、ミノタウロスを塵と化し大地へと還した。

≪敵が怯んだ。殿は俺がやる。エーデルバイスと合流し撤退しろ。≫

≪わ、分かりました…どうか、ご武運を!≫

ディメンション・バーストはローザンシュレイクの最強のカードであると同時に適合者に多大な負担を強いる。
これで暫くはローザンシュレイクを展開する事も出来まい。まあ、撃たせたのが俺である以上、莫迦王子に口添えくらいはしてやるか。

「疲労困憊のローザンシュレイクに満身創痍のエーデルバイス……包囲を抜けたとは言え、無理をせねば逃げ切れんか。」

残った二体のミノタウロスに剣を突きつけ睨み合う。
仲間がやられた事で多少なりとも、此方に警戒心を持ったようだ。考え無しで攻撃を仕掛けて来る方が対処は楽なのだが…

ああ…いかんいかん。俺の役目は殿であって、敵の殲滅では無い。適当なところで切り上げて、撤退せねば。

睨み合いに終止符を打ったのは二体のミノタウロスによる同時攻撃。一瞬、気を逸らした事に感付かれたようだ。
その豪腕で巨斧を投擲。独楽の様に高速回転しながら迫り来る巨斧をソードとランスで打ち返すがブーメランの様に旋回しながら再び、シルヴァールへと襲いかかる。

「魔力操作……脳筋の分際で手間を取らせる……」

魔獣ミノタウロスの能力の一、魔力操作。
直前に触れていた物質を魔力を用いて自在に操る能力で、物質を魔力によって操る事によって対魔力用の結界を無力化する事が出来る。
姑息に使えば強敵極まりないが、ミノタウロス自身の知能が低く精々、巨斧を投げ飛ばすのが関の山だ。それでも充分に厄介と言えば厄介なのだが。

後方へと跳躍しながら巨斧を避けていると真横からミノタウロスが巨腕を振るいながら体当たりを仕掛けて来る。
生命力、防御力、攻撃力と高いレベルで纏まっている代償として極めて低い知能と、鈍重な動きと欠点も持ち合わせている。
だが、その鈍重な動きを補う厄介な能力がもう一つ。

魔獣ミノタウロスの能力の二、チャージ。
ただ真っ直ぐに体当たりをするだけの能力で、一度発動してしまえば真っ直ぐに進む事以外の事は出来なくなるが、その最高速度はシルヴァールにも匹敵する。
並みの刻印装甲よりも二周り程も大きな体躯から繰り出される超神速の体当たり。その上、物理、魔力の二つの性質を持ち
物理防御では魔力によって焼かれ、魔法防御では質量差で押し潰されるという、これまた厄介な能力だ。

有象無象の分際で、たったの一体で並の刻印装甲と遜色無しとは面倒極まる。俺はミノタウロスを充分に引き付けながら、空へと駆ける。

「空中の直接戦闘は…」

訂正、チャージの能力について加筆せねばなるまい。ただ真っ直ぐに進むだけならば、地上だろうが空中だろうが関係無い。
但し、空中で能力が途切れた場合の対処方法は無いらしく、微動だにせず無防備な姿を晒したまま悠然と重力に従い、木々を薙ぎ倒しながら地表へと落下。

「漢らしいのやら、間抜けなのやら…」

シルヴァールの翼をはためかせ落下中のミノタウロスへと肉迫するが残り一匹のミノタウロスのチャージと、二振りの巨斧によって阻まれる。

≪此方、ローザンシュレイク。エーデルバイスと合流、撤退を開始しました。シルヴァール、貴方も撤退して下さい。≫

≪了解した。キリの良い所で此方も撤退を開始する。≫

口ではそう言った物の、此処で引き下がっては半日後ベッドの上で身悶えする事になりかねない。
幾度も空中に上昇しては間抜け面を晒して、地上への落下を繰り返すような間抜けで低脳な魔獣を相手に引き下がって良いのか?
さっさと殲滅すれば良いのだが、無防備な姿を晒している間は魔力操作された巨斧が襲い掛かって来る為、攻めに転じるのも難しい。
矢張り、痒い所に手が届かないようなむず痒さから開放される為には殲滅以外の選択肢は有り得ない。

殲滅する手段は何通りもある。但し、どの殲滅方法にも大きなリスクが付き纏う。
残った魔力で何が出来るのか?最も、リスクの低い殲滅方法を頭の中でシミュレートしながら、左の翼から更に一振り剣を引き抜く。

そして、ウイングスライサーを起動し投擲。攻撃対象はミノタウロスでは無く、しつこく迫り来る巨斧だ。
腕力から繰り出される質量による攻撃では無く魔力操作による攻撃ならば魔力操作によるウイングスライサーで無力化出来ない道理は無い。
そもそも、内包する魔力はシルヴァールと俺の方が遥かに上だ。思った通り、ウイングスライサーによって雁字搦めにされた巨斧は木っ端微塵に砕け散る。

「此処から先は一方的だ……覚悟しろ。」

≪ソニックインパクト!≫

阻む物が無くなり悠然と飛翔しミノタウロスの真下に潜り込み、連続でソニックインパクトを叩き込む。
真下から永続的に叩き込まれる衝撃の奔流にミノタウロスの巨体が徐々に削り取られていくが、決定打にはなり得ない。

―尤も、俺が手を下すまでも無い

放置していたミノタウロスが俺の真下に回り、馬鹿正直なまでの真っ直ぐな突進を繰り出して来るのを横目で確認して回避。
初速から最高速に到達するまで、ほぼ一瞬。だが、剛力駿足とは言え真っ直ぐにしか進む事が出来ず、
発動条件が足場になる物を自らの脚で蹴る事だと分かっていれば初期挙動さえ見逃さなければ避けるのは容易だ。

そして、知能が低いが故に避けられた時の事を全く考えていない。

俺はミノタウロスの真下から攻撃を仕掛けている。その俺の真下から攻撃を仕掛け、避けられたらどうなるか?

当然の事ながら俺の真上に居るミノタウロスに襲い掛かる事になる。
無防備なミノタウロスの胴を何か前世の恨みでもあるんじゃないかと疑いたくなる程の勢いで打ち砕く。
これが人間なら達成感に満ち溢れた笑顔を浮かべているのでは思えるほど、無防備な姿を晒したまま落下……分かってはいるが滑稽だな。滑稽過ぎて笑えない。

何にせよ、これで一対一になり、隙の大きな大技で仕留める事も可能になった。

シガレットケースを取り出し、中から碧の宝玉―霊薬を口に含み嚥下する。

霊薬―

65536種の薬草を64人の宮廷魔術師が256日かけて精製し結晶化させた薬だ。

刻印装甲とは適合者の魔力を視覚化させた姿で、補給や修理の手段が通常の兵器とは全く異なる。
適合者自身の魔力を刻印装甲へと流し込み、補給と修理を同時に行う形になる。
魔力を補充する方法として食事や睡眠などによる休息という手段がある。
だが、戦闘中にそんな事をしている暇などある筈も無い。

ならば、どうするか?

それを一挙に解決する手段が霊薬だ。
薬と名を打ってはいるが、厳密には純粋な魔力の結晶体で、体内に取り込む事で効力を発揮する事が出来る。
その爆発的な回復力は俺の枯渇しかけた魔力を完全に回復し刻印装甲にその恩恵を授けて、尚有り余る程の効力を持っている。

それだけの力を持つ霊薬があるからこそ、一切合財を無に還す程のシルヴァールが持つ最強の魔術兵装を躊躇い無く使う事が出来るわけだ。

魔力を翼に収束し、剣の形状に変化させ射出。48振りの剣がミノタウロスを刺し貫き、全身から黒い瘴気を吐き出させる。
ミノタウロスに突き刺さった剣で魔力による網を構築し、空中に繋ぎ止め、黒い瘴気を掌握し、シルヴァールの能力を顕現化させる為の陣を描く。

「生きて地表に戻れると思うな……」

≪グラビトンランサー≫

俺の言霊に反応してミノタウロスに突き刺さった48振りの剣がシルヴァールの手元に集まり、黒い巨槍へとその姿を変える。
両の腕で握り締め、ミノタウロスを真上から陣ごと刺し貫き、グラビトンランサーを起動。
天から降り注ぐ重力の結界の押し潰されながら地表へと急降下。だが、それで済む程、生易しい兵装では無い。
ミノタウロスが急降下すると同時に地表からも重力の結界が迫上がり、ミノタウロスの巨体を押し上げようと牙を剥く。

二つの結界に押し潰され、轟音を伴い巨躯を破裂させ、重力の摩擦熱でその身を焦がし、火の粉となりシルヴァールを照らし、やがて風に運ばれ消えて行った。

後は撤退するだけなのだが、この地は牛の巣という通称がある。さて、巣と呼ばれているこの地にミノタウロスがたったの三体だけで終わりと思うか?

「ははっ……たった一体の刻印装甲相手に随分な大盤振る舞いだな。」

グラビトンランサーによって生じた轟音が牛の巣で眠るミノタウロスの群れを叩き起こしてしまったらしく、猛スピードで此方へと殺到。その数二十三体。
奴等のテリトリーから抜け出せば、追ってくる事は無いかも知れないが、奴等のテリトリーの境界線上に位置するのがローザンシュレイクが撤退した要塞だ。

「残った霊薬は六……」

俺が撤退する事により要塞に被害が及び、報酬が支払われなくなるのは出来るだけは避けたい。

「仕方が無い。皆殺しだ。」

シガレットケースから霊薬を取り出し、グラビトンランサーを構えて迫り来る群れを迎え撃つ。

其処から先は何が起こったはよく覚えていないが、これだけは言える。

「今日も生き残る事が出来た。」

夕暮れ時―二十三体のミノタウロスを塵芥と化し、灰燼の中心で背中から倒れ込んだ。残った霊薬は……ゼロ。

「経費で落ちる……と良いんだがな……」

さっきも言ったが、霊薬は65536種の薬草を64人の魔術師が256日かけて精製する事により完成する。要は果てしなく高価だという事だ。。
せめて経費で落ちないまでも、牛の巣に生息するミノタウロスを皆殺しにした事を理由に賃上げ交渉をしなければならない。

今回の依頼を相場通りに見積もり、その報酬で霊薬を補充した場合、俺の手元に残る金は……

「大炎上……か……」

今回の仕事も散々だ。果たして元の世界に戻る事が出来るのは何時になる事やら…
夕暮れ時、沈み行く夕陽を眺めながら、明日は不貞寝する事を決め込んだ。


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