原作:機動戦士ガンダム00/セカンドシーズン
―――――――2312年。アヘッドを急上昇させながら、俺は今日が、決して忘れる事が出来ない、あの日の始まりであった事を思いかえす。
他の部隊がクーデターに乗じて戦線を混乱させているカタロンや、恐らく既に介入しているであろうソレスタルビーイングと交戦している間、俺は俺に課せられた任務を遂行する。
先程思い出していた任務はあくまで、今回出撃する兵士全てに与えられた物だ。しかし俺にはその任務以外に、特殊任務として行わねばならない事がある。
その任務は二つ。エレベーター内に潜入し、クーデターを起こしている実行犯の中でも、幹部級である、ある人物の拘束、及び連行。
そしてもう一つは、その人物が所有しているであろう―――――今回のクーデターにおける情報を詰め込んでいるであろう、情報端末の奪取だ。
先程思い出していた任務はあくまで、今回出撃する兵士全てに与えられた物だ。しかし俺にはその任務以外に、特殊任務として行わねばならない事がある。
その任務は二つ。エレベーター内に潜入し、クーデターを起こしている実行犯の中でも、幹部級である、ある人物の拘束、及び連行。
そしてもう一つは、その人物が所有しているであろう―――――今回のクーデターにおける情報を詰め込んでいるであろう、情報端末の奪取だ。
視界には、白き雲が覆う青空の海原を超え、染まりきった藍色の美しさに感嘆する成層圏と、手を伸ばせば届きそうなくらい宇宙を近く感じる漆黒の大気圏が広がっていた。
これが任務でなければ、これほど幻想的で、美しい光景も無かろう。しかし今は任務だ。俺は頭を切り替えて、アヘッドを反転させる。
侵入者を何層もの厳重なブロックで阻む、軌道エレベーターの外層が俺を拒む様にそびえていた。無論、こんな外装を壊せる武器など持ち合わせちゃいない。
これが任務でなければ、これほど幻想的で、美しい光景も無かろう。しかし今は任務だ。俺は頭を切り替えて、アヘッドを反転させる。
侵入者を何層もの厳重なブロックで阻む、軌道エレベーターの外層が俺を拒む様にそびえていた。無論、こんな外装を壊せる武器など持ち合わせちゃいない。
既に俺と同じ様に、潜入任務の命を受けた部隊が、MSの搬入用である格納庫の搬入口にハッキングを仕掛けて解放させている筈だ。
俺はその搬入口を探す為にエレベーターを時計回りに巡回しながら……見つける。舌を伸ばす様に大きく開かれた搬入口が見えた。
スラスターを吹かしてアヘッドを急接近させ、慎重な操作を行いながら、潜入する。
俺はその搬入口を探す為にエレベーターを時計回りに巡回しながら……見つける。舌を伸ばす様に大きく開かれた搬入口が見えた。
スラスターを吹かしてアヘッドを急接近させ、慎重な操作を行いながら、潜入する。
数メートル前に、先客であろう、数機のアヘッドが片膝を付いて鎮座しているのと、クーデターを起こした奴らが乗るMSが格納されている。
適当な場所にアヘッドを移動させ、片膝を付かせる。全てのモニターと機能を停止させ、パイロットシートの傍らに仕舞い込んだ、拳銃とホルダーを取り出す。
適当な場所にアヘッドを移動させ、片膝を付かせる。全てのモニターと機能を停止させ、パイロットシートの傍らに仕舞い込んだ、拳銃とホルダーを取り出す。
コックピットを開いて地上に降りる為のスロープを下ろし、下へと降りる。不気味なほどの静寂感が、この場を支配していた。
少し歩くと、反抗した末に始末されたのでろう連邦軍の服装を着た者達の死体が度々見かける。こいつらも同じ様な手口でココに侵入したんだろうな。
少し歩くと、反抗した末に始末されたのでろう連邦軍の服装を着た者達の死体が度々見かける。こいつらも同じ様な手口でココに侵入したんだろうな。
っと、いけない。ヘルメットに触れ、アロウズである事を証明する信号を点滅させる。投下されたであろう対人兵器、オートマトンに出くわした時の為だ。
ちゃんと自分はアロウズで、お前達の味方だという信号を出していなければ、奴らは目の入った者を容赦無く射殺していく。
自軍の兵器に射殺されるとか笑い話だなと嘲笑しつつ、長く続く廊下を歩いていくとふっと、通信を傍受する。恐らく――――――。
ちゃんと自分はアロウズで、お前達の味方だという信号を出していなければ、奴らは目の入った者を容赦無く射殺していく。
自軍の兵器に射殺されるとか笑い話だなと嘲笑しつつ、長く続く廊下を歩いていくとふっと、通信を傍受する。恐らく――――――。
『こちらβ部隊隊長、ウォレフだ。信号をキャッチした。貴官の所属は?』
『こちらはγ部隊、セレウェイ・ブルースだ。所定の位置に着いた。これより任務を行う』
『こちらはγ部隊、セレウェイ・ブルースだ。所定の位置に着いた。これより任務を行う』
『了解した。互いの健闘を祈る』
やれやれ……一々通信を取らねばならないものかねとめんどうに思いながらも、俺は気を引き締めて、奴を捕えるべく通路を駆ける。
前もって奇襲を予想していたのだろう、何度かクーデターに加担する連邦軍兵士が出てきたが頭部を撃って始末する。奴と出会う前だ、それほど弾を無駄にしたくない。
隠れていそうな救護室等の部屋を廻るが、奴の姿は無い。まさか……いやまさか、既に脱出しているのか? 鼓動が早まる。
奴を殺すつもりは無いが、もしそうであれば、俺は今までアロウズに入隊していた意味が無くなる。奴と再会する為に、俺はアロウズに入隊したも同然だからだ。
ハッキリと焦りを感じながらも、次の部屋に行こうとした――――――――その時、物音が聞こえた。
隠れていそうな救護室等の部屋を廻るが、奴の姿は無い。まさか……いやまさか、既に脱出しているのか? 鼓動が早まる。
奴を殺すつもりは無いが、もしそうであれば、俺は今までアロウズに入隊していた意味が無くなる。奴と再会する為に、俺はアロウズに入隊したも同然だからだ。
ハッキリと焦りを感じながらも、次の部屋に行こうとした――――――――その時、物音が聞こえた。
続いて慌てているのかバタバタと走り出す音。俺は何の確証も無いものの、奇妙な確信を抱きながらその物音の正体を追う事にした。
正体は通路の方へと駆けていく。逃す訳にはいかない。全速力で、正体を追いかける。気づいたのか、早くなっていく正体。
そんな俺と正体の追いかけっこは、数分ほど続いた。だが、正体の走る音が小さくなっていく。疲労が溜まったのだろう。俺は早足で、その物音の背後まで迫る。
正体は通路の方へと駆けていく。逃す訳にはいかない。全速力で、正体を追いかける。気づいたのか、早くなっていく正体。
そんな俺と正体の追いかけっこは、数分ほど続いた。だが、正体の走る音が小さくなっていく。疲労が溜まったのだろう。俺は早足で、その物音の背後まで迫る。
「動くな! 動けば撃つ!」
俺がそう叫ぶと、数メートル先で、情報端末であるパソコンを右腕に挟んだ正体―――――否、奴が立ち止まる。
ぼさぼさの髪に、よれた白衣。そして耳に掛かった、メガネのフレーム。
俺の中で揺らいでいた確信が、確固たる物へと変化する。奴が左手で白衣を弄り、何かを握りしめた。そしてその何かを、振り向きながら俺へと向けてきた。
ぼさぼさの髪に、よれた白衣。そして耳に掛かった、メガネのフレーム。
俺の中で揺らいでいた確信が、確固たる物へと変化する。奴が左手で白衣を弄り、何かを握りしめた。そしてその何かを、振り向きながら俺へと向けてきた。
――――――――――――ようやく、会えたな。
奴の顔は数年前よりずっと成長していた。目は理知的な光を秘めていて、元々美形だったのにさらに磨きが掛かっている。
相変わらず掛けて続けている、銀色フレームの眼鏡。俺は無性に笑えてきて、ヘルメットのバイザーを収納させ、拳銃をホルダーにしまいヘルメットを取る。
そして俺は、奴に向き合う。奴は俺が誰なのかが分からないのか、険しい表情を浮かべたまま、握っている拳銃を俺へと向け続けている。
相変わらず掛けて続けている、銀色フレームの眼鏡。俺は無性に笑えてきて、ヘルメットのバイザーを収納させ、拳銃をホルダーにしまいヘルメットを取る。
そして俺は、奴に向き合う。奴は俺が誰なのかが分からないのか、険しい表情を浮かべたまま、握っている拳銃を俺へと向け続けている。
「そいつで親友を殺す気か?」
俺が嘲笑交じりにそう言うと、奴の顔が次第に変化していく。その目は大きく見開き、驚愕している様な表情となる。
俺はヘルメットを左手に持ち、ホルダーに締まった拳銃を再び取り出して、奴に向ける。これで条件は同じだ。
俺はヘルメットを左手に持ち、ホルダーに締まった拳銃を再び取り出して、奴に向ける。これで条件は同じだ。
奴が驚いた表情を浮かべながら、唖然と言った口調で、俺に話しかけた。
「セレウェイ……なのか? どうして……どうしてお前が、こんな所に!」
「あの日以来だな、拓馬。いや……あえてこう言わせて貰う」
「カタロン最高幹部の一人、拓馬・フォレイリ。貴様を国家反逆罪として、この場で拘束する」
影を、掴んで 中編
―――――――――2307年。
「君……君!」
突然道路に倒れ込んだその子は、長い黒髪にダブダブな服を着た不思議な女の子だった。顔は暗くて、良く分からない。けど女の子だって事は何となく分かる。
何か携帯なり身分証明書なりが無いかと探ってみるけど、何も持ってないみたいだ。一体この子は……?
そう思っていると、女の子がゆっくりとズボンに手を伸ばして、何かを引き抜いて、僕の頬に力無く当てた。
何か携帯なり身分証明書なりが無いかと探ってみるけど、何も持ってないみたいだ。一体この子は……?
そう思っていると、女の子がゆっくりとズボンに手を伸ばして、何かを引き抜いて、僕の頬に力無く当てた。
僕は女の子の手からそれを受け取った。薄くてペラペラな……ノート? 小さくて文庫本サイズのノートだ。
携帯を取り出してライト代わりにして、そのノートを見る。表紙に小さな字で何かが書かれていて―――――僕はその字を見て、息を、呑んだ。
携帯を取り出してライト代わりにして、そのノートを見る。表紙に小さな字で何かが書かれていて―――――僕はその字を見て、息を、呑んだ。
日本語でか細く書かれた文字は、こう、書いてあった。
<たす け て>
僕は携帯をしまってノートを口に咥えて、女の子を拓馬とおやっさんが待っている工場へと急いで運ぶ事にした。これでも少しは力に自信がある。
にしても女の子をお姫様だっこするなんて初めてだ。少しばかり照れ……ってそんな事考えるな! 今は一刻を争う事態だ、多分。
……ふと気付いたけど、凄く軽いな、この子。それに服もだぼだぼだし……もしかしてここに来るまで、何も食べてなかったのかな。
にしても女の子をお姫様だっこするなんて初めてだ。少しばかり照れ……ってそんな事考えるな! 今は一刻を争う事態だ、多分。
……ふと気付いたけど、凄く軽いな、この子。それに服もだぼだぼだし……もしかしてここに来るまで、何も食べてなかったのかな。
工場の明かりが見えた。作業服から学生服に着替えて終わってる拓馬が、僕を見つけて大きく手を振った。
「おーい! もう俺先に着替え……」
拓馬が僕を見て、何とも言えない怪訝な表情を浮かべた。理由は勿論分かっている。分かっているとはいえ、今は口にノートを挟んでいるから何も言えない。
一方、拓馬もどう事情を聞いていいのかが分からないみたいで、僕と女の子を交互にじろじろ見ながら、慎重な物腰で聞いてきた。
「えー……と、セレウェイ、その子は?」
一方、拓馬もどう事情を聞いていいのかが分からないみたいで、僕と女の子を交互にじろじろ見ながら、慎重な物腰で聞いてきた。
「えー……と、セレウェイ、その子は?」
僕は分からないという返事の代わりに首を横に振る。僕の反応に拓馬は困惑した表情を浮かべたが、僕の方がずっと困っている。
一先ずおやっさんを呼んでほしい……と思った矢先、おやっさんが工場から出てきてくれた。そして僕を見るに、駆けてきてノートを口から離してくれた。
一先ずおやっさんを呼んでほしい……と思った矢先、おやっさんが工場から出てきてくれた。そして僕を見るに、駆けてきてノートを口から離してくれた。
「おやっさん、あの……」
「事情は後で聞くから一先ず中に入れ。やけに遅いから何があったのかと心配したぞ」
「すみません……」
「事情は後で聞くから一先ず中に入れ。やけに遅いから何があったのかと心配したぞ」
「すみません……」
こういう時のおやっさんは本当に頼りになる。僕と拓馬は言われるまま、工場内へと戻る。
女の子は目を閉じたまま、何の反応も無い。けど体温は感じるから……大丈夫、だとは思う。
女の子は目を閉じたまま、何の反応も無い。けど体温は感じるから……大丈夫、だとは思う。
僕達はそのまま、工場内にある休憩室へと入っていった。二つのソファーとテーブル、それにテレビがあるだけの至極シンプルな部屋だ。
僕は優しく、女の子を近くのソファーに寝かした。おやっさんが女の子の額に掌を当てた。熱があるかどうかを確かめてるみたいだ。
数秒ほどおやっさんはそうしていると、一息吐いて僕達に顔を向けて、言った。
僕は優しく、女の子を近くのソファーに寝かした。おやっさんが女の子の額に掌を当てた。熱があるかどうかを確かめてるみたいだ。
数秒ほどおやっさんはそうしていると、一息吐いて僕達に顔を向けて、言った。
「良かった……熱は無いみたいだな。でだセレウェイ、この子……どうした?」
「ええっと……トイレから帰って来る時に、フラフラ歩いてて、大丈夫かな? と思ってたら道路に……」
「倒れた、って訳か」
「ええっと……トイレから帰って来る時に、フラフラ歩いてて、大丈夫かな? と思ってたら道路に……」
「倒れた、って訳か」
おやっさんは何か考えているのか、難しい顔で女の子を見つめている。僕達も何も言わず、女の子に目を向けた。
相当疲れていたのか、女の子は寝息を立ててそのまま眠りについている。その寝顔は何だろう……心から、安心している様に見える。
するとおやっさんは立ちあがって僕達に向き直ると、言った。
相当疲れていたのか、女の子は寝息を立ててそのまま眠りについている。その寝顔は何だろう……心から、安心している様に見える。
するとおやっさんは立ちあがって僕達に向き直ると、言った。
「取りあえず今日一日、俺がこの子の様子を見てみる。お前ら今日は帰れ」
「でも……」
「でも……」
僕が言いかけると、おやっさんは屈託の無い笑顔で心配ねぇよと、僕の肩を叩いた。
「心配すんな。この子に何かあっても、俺が付いてるからよ。だから今日は帰れ。な」
僕達は顔を見合わせ、頷き合い、おやっさんに返した。
「宜しく、お願いします。おやっさん」
「おう、また明日な」
「でだ……あの女の子、一体何者なんだ? セレウェイ」
興味深々といった口調で、拓馬がそう聞いてきた。むしろ僕が聞きたいくらいだよ、その疑問。謎が多すぎるんだ、あの子。
明らかにサイズに合っていない服装に、顔を隠すほど大きな帽子、それに肩より長く伸びた黒い髪……。それに、あの日記の表紙に書かれた文字。
……僕はあの女の子の事が頭から離れない。彼女が何者で、何でこの町に居るのか、気になって仕方がない。けれど一つだけ、僕は確証は無いけど確信を持っている事がある。
明らかにサイズに合っていない服装に、顔を隠すほど大きな帽子、それに肩より長く伸びた黒い髪……。それに、あの日記の表紙に書かれた文字。
……僕はあの女の子の事が頭から離れない。彼女が何者で、何でこの町に居るのか、気になって仕方がない。けれど一つだけ、僕は確証は無いけど確信を持っている事がある。
彼女は、追われている。あの不自然すぎる格好は、追ってから逃げる為のカモフラージュで、彼女は……。
「セレウェイ?」
「あぁ、ごめん、拓馬。悪いけど、僕にも分からないんだ」
「あぁ、ごめん、拓馬。悪いけど、僕にも分からないんだ」
「……本当にか?」
口元をニヤつかせながら、拓馬が探ってくる。ホントに知らないモノは知らないんだから、答え様が無い。
僕は呆れて何も言わず歩き続ける。何も言わない僕に拓馬は軽くため息を吐くと、ボソッと、言った。
口元をニヤつかせながら、拓馬が探ってくる。ホントに知らないモノは知らないんだから、答え様が無い。
僕は呆れて何も言わず歩き続ける。何も言わない僕に拓馬は軽くため息を吐くと、ボソッと、言った。
「厄介な事にならなきゃいいけどな」
一瞬、僕は拓馬の言った言葉の意味が良く分からず、聞き返した。
「厄介……? 厄介ってどういう意味だよ、拓馬」
「言葉どおりの意味だよ。あの子のせいでもしも変な事に巻き込まれたら堪ったもんじゃないだろ」
何故だろう。この時の僕は、拓馬のこの発言が激しく気に障った。拓馬はそのまま、言葉を続ける。
「早い所警察なりに引き渡した方が良いよ。面倒な事にならない内に」
「彼女は」
「彼女は、そんな子じゃないよ。上手く言えないけど……彼女はそういう子じゃない。厄介だとか、そういう事は言うな」
ハッとする。無意識に僕は拓馬に対して強い口調で反論していた。拓馬がポカンと口を開けて、僕を見ている。
けれどさっき言った事は全て本音だ。僕には、どうしても彼女が厄介事を持ちこんでくる様な面倒な子だとは思えなかった。
彼女は……彼女は本当に困っていたんだ。それでどうしようも無くなって、助けを求めた。多分、そうだと思う。
けれどさっき言った事は全て本音だ。僕には、どうしても彼女が厄介事を持ちこんでくる様な面倒な子だとは思えなかった。
彼女は……彼女は本当に困っていたんだ。それでどうしようも無くなって、助けを求めた。多分、そうだと思う。
拓馬はポカンとしていた口を閉じると、くくっと笑って、口元をニヤニヤさせながら言った。
「……セレウェイ、お前もしかして……惚れたな?」
「惚れ……ち、違うよ! 僕は只、彼女が……」
「分かってる分かってる。お前も男だからな、少しくらいはそういう感情が芽生えてくる頃だろう」
「だから違うって!」
「分かってる分かってる。お前も男だからな、少しくらいはそういう感情が芽生えてくる頃だろう」
「だから違うって!」
拓馬は僕があの子に恋をしたと思ってるみたいだけど、それは違うと思う。何と言えば良いのか……気になるのだ、とても。
初めて僕は心の底から、他人の事を知りたいと思っている。彼女と話したい。それで知りたい。例えどんな結果が待ち受けていようと―――――彼女の、事を。
気づけば自宅に着いていた。どうせまた明日、工場で会うけど、拓馬とはここでお別れだ。
初めて僕は心の底から、他人の事を知りたいと思っている。彼女と話したい。それで知りたい。例えどんな結果が待ち受けていようと―――――彼女の、事を。
気づけば自宅に着いていた。どうせまた明日、工場で会うけど、拓馬とはここでお別れだ。
「それじゃあまたな。工場で会おうぜ」
「うん、また明日」
「うん、また明日」
僕達はそう言葉を交わして、互いの家に帰った。
家は真っ暗で、父さんも母さんも妹もとっくに就寝している。電気を付けて、テーブルの上に置いてある夕食を温め直し、食って風呂を沸かして入り、寝る。
ベッドに潜り込み目を閉じると、彼女の事がすぐに浮かんできた。僕の腕で横たわる、彼女の事が。
家は真っ暗で、父さんも母さんも妹もとっくに就寝している。電気を付けて、テーブルの上に置いてある夕食を温め直し、食って風呂を沸かして入り、寝る。
ベッドに潜り込み目を閉じると、彼女の事がすぐに浮かんできた。僕の腕で横たわる、彼女の事が。
僕は妙に恥ずかしくなって、その事を直ぐに忘れようとするが、僕の意識と反して浮かんできてしまう。
ダブダブの服の上から分かるくらい、華奢な体。小さくて整った顔。黒い髪の毛、ノート。考えれば考える程、僕は彼女に会いたくて、仕方がなかった。
……惚れているのか? 違う、気になっているだけだ。忘れろ……僕は僕にそう念じるが、忘れようとする程、彼女の姿が鮮明に浮かんできてしまう。
猛烈に恥ずかしくなり、僕は馬鹿みたいに丸まって悶絶した。こんな感情は初めてだ……。頼むから彼女の事を忘れてくれ、僕の頭……。
ダブダブの服の上から分かるくらい、華奢な体。小さくて整った顔。黒い髪の毛、ノート。考えれば考える程、僕は彼女に会いたくて、仕方がなかった。
……惚れているのか? 違う、気になっているだけだ。忘れろ……僕は僕にそう念じるが、忘れようとする程、彼女の姿が鮮明に浮かんできてしまう。
猛烈に恥ずかしくなり、僕は馬鹿みたいに丸まって悶絶した。こんな感情は初めてだ……。頼むから彼女の事を忘れてくれ、僕の頭……。
結局、僕は朝まで、自分自身の感情に折り合いが付けられず、一睡も出来なかった。馬鹿だ、僕は。
とはいえ早くは起きられたので、そのまま朝食を取る。フラつている僕に母さんが心配そうな表情を浮かべたけど、大丈夫だから。
眠気覚ましにTVに目を移す。何かのニュースが流れている。
とはいえ早くは起きられたので、そのまま朝食を取る。フラつている僕に母さんが心配そうな表情を浮かべたけど、大丈夫だから。
眠気覚ましにTVに目を移す。何かのニュースが流れている。
『続いて、昨日の午後3時ごろ、反政府運動を掲げた武力集団が突如として、政府の研究所を襲撃。機動隊まで出動する事態になりました。
幸い死者は出ませんでしたが、機動隊と武力集団の双方で多くの死傷者が発生。武力集団は首謀者含め全員逮捕され、連行されました。
現在、武力集団によって破壊された研究所の復興を急いでいます。では、スポーツ……』
幸い死者は出ませんでしたが、機動隊と武力集団の双方で多くの死傷者が発生。武力集団は首謀者含め全員逮捕され、連行されました。
現在、武力集団によって破壊された研究所の復興を急いでいます。では、スポーツ……』
物騒な事件だなぁ……と思いながら朝食を食べ終え、僕はバイトの為、工場へと急いだ。
「おはよう、拓馬……」
「おう、セレ……お前どうした? やけに眠そうだけど」
「おう、セレ……お前どうした? やけに眠そうだけど」
僕よりずっと早く来ていて、作業服に着替えた拓馬が、僕の事を不思議そうに見ている。それもそうだ。一睡も出来なかったんだから。
「あ、そうだそうだ。お前が気になってたあの子、元気みたいだぞ」
拓馬のその言葉に、寝ぼけていた頭がすぐさま目覚める。
きょろきょろと彼女を探していると、拓馬が何処かの方向を指差した。僕の目はつられる様に、その方向を向く。
きょろきょろと彼女を探していると、拓馬が何処かの方向を指差した。僕の目はつられる様に、その方向を向く。
――――――息が、詰まる。拓馬が指を差した方には、あの子が、いた。
昨日と同じダブダブの服を着て、彼女は壁に寄り掛かって、MSの修理を眺めていた。
背中まで伸びている黒髪に、作業を眺めているその目は、大きくて、灰色だった。語彙が少ないから良い表現は出来ないけど……まるで宝石みたいに、綺麗な目だ。
整っている目鼻に、薄くて紅い唇。その外見全部が、僕には美しく見えた。綺麗だ。ただひたすら、彼女は綺麗だ。
それに……彼女からはその外見に合わせて、とても大人びてみえる。僕達とそう年は変わらない筈なのに僕達よりずっと、物事を知っている様な、そんな雰囲気を感じる。
背中まで伸びている黒髪に、作業を眺めているその目は、大きくて、灰色だった。語彙が少ないから良い表現は出来ないけど……まるで宝石みたいに、綺麗な目だ。
整っている目鼻に、薄くて紅い唇。その外見全部が、僕には美しく見えた。綺麗だ。ただひたすら、彼女は綺麗だ。
それに……彼女からはその外見に合わせて、とても大人びてみえる。僕達とそう年は変わらない筈なのに僕達よりずっと、物事を知っている様な、そんな雰囲気を感じる。
「こらぁセレウェイ! まだ着替えてねーのかお前は! さっさと着替えて作業に取り掛かれ!」
「あ、す、すみませーん!」
「あ、す、すみませーん!」
鼓膜が破れるかと思ったくらいの大声で、上からおやっさんが僕を怒鳴り付けた。作業をしている工員の人達や、拓馬が声を潜めて笑っている。
僕は急いで更衣室へと向かう。その途中で、彼女を、横切る。その時の彼女は僕に笑いかけている……様に見えた。
僕は急いで更衣室へと向かう。その途中で、彼女を、横切る。その時の彼女は僕に笑いかけている……様に見えた。
作業服に着替えて、早速取り掛かる。取りかかる……んだけど。
駄目だ。彼女の事が気になって作業に身が入らない。少しでも視界に彼女が入ると、彼女の事を見てしまう。
拓馬が何か話しかけてくるけど、正直上の空で何を話してるかが頭に入って来ない。それくらい、彼女の事が気になり過ぎる。
あの子は何も言わず、作業を眺め続けている。僕の事は見てない。見てないけど……僕は、気になる。彼女の、事が。
拓馬が何か話しかけてくるけど、正直上の空で何を話してるかが頭に入って来ない。それくらい、彼女の事が気になり過ぎる。
あの子は何も言わず、作業を眺め続けている。僕の事は見てない。見てないけど……僕は、気になる。彼女の、事が。
そう言えば彼女、何て名前なんだろう……。
「セレウェイ、あのさ」
それにどんな事を考えているんだろう。あぁ……話しかけたい。凄く、話しかけたい。
「おーい、セレウェイ」
けど黒い髪に灰色の目って……何処の生まれの人なんだろう。ロシア系でも無きゃ、中国系でも無いよな……。
「セレウェイ!」
「うああ! ご、ごめん!」
「うああ! ご、ごめん!」
思わず持っていた工具を派手に落として足にぶつける。言葉に出来ない痛みが頭をもたげて、僕はしばし、痛みが和らぐまでじっとする。
もしおやっさんにバレてたらそれこそ大激怒されてたけど、おやっさんは別の作業をしていて気付いてないみたいだ。凄くほっとする。
彼女を助けてから僕は何かがおかしくなってしまった様だ。自分自身、どうしてここまで彼女が気になるのかが理解できない。
もしおやっさんにバレてたらそれこそ大激怒されてたけど、おやっさんは別の作業をしていて気付いてないみたいだ。凄くほっとする。
彼女を助けてから僕は何かがおかしくなってしまった様だ。自分自身、どうしてここまで彼女が気になるのかが理解できない。
拓馬は僕の醜態に、オーバーリアクション気味に大きなため息をつくと、呆れ混じりに言った。
「俺達が修復したたティエレンの試用、1週間後に決まったってさ。それでおやっさんが、色々準備しとけって」
「準備? 準備……って何を?」
「軍人さんにどうやってティエレンを修復したかとを書いたレポートだよ。それでもしも評価されたら、技術屋とかで就職できるかもしれないぜ」
「準備? 準備……って何を?」
「軍人さんにどうやってティエレンを修復したかとを書いたレポートだよ。それでもしも評価されたら、技術屋とかで就職できるかもしれないぜ」
「就職……なぁ……」
何故だか一気に気分が沈下していくのをひしひしと感じる。そんな先の見えない話、どうだっていいんだ。
それより僕には今、彼女の事が気になって仕方がない。と、拓馬は彼女に顔を向けると、静かな口調で話し始めた。
何故だか一気に気分が沈下していくのをひしひしと感じる。そんな先の見えない話、どうだっていいんだ。
それより僕には今、彼女の事が気になって仕方がない。と、拓馬は彼女に顔を向けると、静かな口調で話し始めた。
「そういやお前、来るのが遅かったからおやっさんから聞いてないんだろうけど、あの子、喋らないんだって」
拓馬の言った言葉の意味が分からず、僕は聞き返した。喋らない……って、どういう意味だ?
「喋らない……って? 耳が悪い……とか?」
「いや、それは分からない。けど、お前が咥えてたあの小さいノート、あるだろ? あれに言いたい事を書いて見せるらしいんだ」
「……やっぱり耳が悪いのかな。それか、日本語か英語が喋れないとか?」
「いや、それは無い。ノートを見せて貰ったけど、綺麗な日本語だったからな。けど、何で喋らないのかは全く分からん。やっぱ……かもな」
「いや、それは分からない。けど、お前が咥えてたあの小さいノート、あるだろ? あれに言いたい事を書いて見せるらしいんだ」
「……やっぱり耳が悪いのかな。それか、日本語か英語が喋れないとか?」
「いや、それは無い。ノートを見せて貰ったけど、綺麗な日本語だったからな。けど、何で喋らないのかは全く分からん。やっぱ……かもな」
僕は彼女に対して、言い知れない気持ちになった。只でさえ素性が分からないのに、言葉を喋らないなんて……。けど、筆談はしてくれる。
ますます奇妙だ。それに日本語を書けるって事は……。本当に何者なんだ、彼女は。謎が謎を呼んで、また謎を呼ぶ。
だけど一つだけ、僕は彼女を信じている事がある。例え彼女の正体が分からなくても、これだけは言える。
ますます奇妙だ。それに日本語を書けるって事は……。本当に何者なんだ、彼女は。謎が謎を呼んで、また謎を呼ぶ。
だけど一つだけ、僕は彼女を信じている事がある。例え彼女の正体が分からなくても、これだけは言える。
彼女が厄介事を持ちこんでくる様な、そんな人じゃないって事だけは。
「……セレウェイ、ちょっと良いか?」
「え?」
「え?」
拓馬に顔を向けると、拓馬はじっと、僕の目を見据えていた。僕は何も言わず、目を逸らさずに拓馬の目を見つめ返す。
こういう真剣な目つきになった時の拓馬は、必ず心にズドン、とくる話をしてくる。覚悟を、決める。
こういう真剣な目つきになった時の拓馬は、必ず心にズドン、とくる話をしてくる。覚悟を、決める。
「やっぱり彼女に惚れたんだな、お前。隠そうとする以前に行動に出まくってる。たくっ、見てて飽きないよ、お前は」
そう言って苦笑し、拓馬の目が鋭くなる。来る。僕は腹を据え、拓馬の言葉を、受け止める。
「だけどな、セレウェイ。これだけは言っておく」
「彼女に深入りするな。こういう事は言いたくないが、もしも彼女に必要以上に深入りすれば、お前は必ず傷つく。俺は、そんなお前を見たくない」
「――――――――――大丈夫だよ」
ほぼ反射的に、僕の口からそんな言葉が出てきた。僕の口は滑る様に、言葉を続ける。
「大丈夫だよ、拓馬。彼女はそんな……悪い人じゃないから」
「根拠は?」
「無い。けど、僕は信じてるから」
「根拠は?」
「無い。けど、僕は信じてるから」
根拠も無く、確証も無く、何の保証もない。けれど自信たっぷりに、僕は拓馬にそう答えていた。
僕は信じている。彼女の過去が何であろうと、彼女の素性が何であろうと―――――――彼女が、悪い人じゃ、無いって。
僕は信じている。彼女の過去が何であろうと、彼女の素性が何であろうと―――――――彼女が、悪い人じゃ、無いって。
「……お人よしって言うか馬鹿って言うか……恋は人を盲目にするって言うのか?」
「だ……だから恋じゃないって!」
「だ……だから恋じゃないって!」
「おらぁ! お前ら真面目に仕事しろぉ!」
今にして見れば、僕は本当にバカだったと思う。必死に否定はしたが、僕は初めて、恋に落ちていた。見ず知らずの、彼女に。
そして愚直なまでに、彼女を信用していた。それほどまでに、彼女との出会いは僕にとって、大きな事態だった。
そして―――――――僕の人生を、大きく変えるきっかけとなった。
そして愚直なまでに、彼女を信用していた。それほどまでに、彼女との出会いは僕にとって、大きな事態だった。
そして―――――――僕の人生を、大きく変えるきっかけとなった。
―――――――何も知らない甘ったれの子供が、何も知らないまま、暗い影を背負った少女に恋をした。それがどんな結末を迎えるのか、知る由も無く。
―――――――2312年。
かつて、親友と呼び合った男―――――――拓馬・フォレイリが俺に銃を向けている。予想だもしない事態に驚きながらも、決して銃を下ろさない。
大した奴だ。決して油断しないその姿勢、相当な修羅場を潜ったみたいだな。経験の浅い素人は、何かあるとすぐに油断して銃を下ろす。
俺は拳銃の矛先を拓……否、フォレイリの頭部に向けた。俺がこのまま引き金を引けば、簡単に殺す事が出来る。
大した奴だ。決して油断しないその姿勢、相当な修羅場を潜ったみたいだな。経験の浅い素人は、何かあるとすぐに油断して銃を下ろす。
俺は拳銃の矛先を拓……否、フォレイリの頭部に向けた。俺がこのまま引き金を引けば、簡単に殺す事が出来る。
だが、しない。フォレイリには何があっても俺に着いてきて貰う。それが、俺の任務だからだ。
「……聞こえなかったのか? 貴様を拘束すると言ったんだ。その銃を捨ててこちらに来い。そうすれば、危害は加えない」
俺はフォレイリにそう呼びかける。耳元を撃って威嚇射撃をしても構わないが、なるたけ避けたい。
曲がりなりにも……親友、だったからな。俺達は。しかし、俺の言葉に対して、フォレイリは言った。
曲がりなりにも……親友、だったからな。俺達は。しかし、俺の言葉に対して、フォレイリは言った。
「セレウェイ……何故だ? 何故……アロウズに入った?」
「貴様に答える理由は無い。黙ってこちらに来い、拓馬・フォレイリ」
フォレイリは俺の事をしばし見つめると、深く俯いた。数秒程経つと、やがてゆっくりと顔を上げ―――――俺に、言った。
「……そうか。ソレスタル・ビーイングを倒す為に、お前は……」
「……なぁ、セレウェイ。お前……本当にそれでいいのか? それで本当に彼女が……報われると思うのか?」
込み上げる、憎悪。俺の指がトリガーに掛かり、拳銃から銃弾が放たれ、フォレイリの頬を掠める。
フォレイリが反射的に瞑った目を開けると、頬からたらりと、掠った為に出来た切り傷から血が流れる。
フォレイリが反射的に瞑った目を開けると、頬からたらりと、掠った為に出来た切り傷から血が流れる。
「次に余計な事を言えば足を撃つ。何度も言わせるな。黙って銃を捨て、こちらに来い」
これが最終警告だ。フォレイリ、早く銃を捨てろ。次は本気で、俺は……お前の足を撃つ。何の躊躇もせず、だ。
フォレイリは無言のまま、またも俯いた。……くそっ、どこまで俺の手を煩わしてくれる。しかし……理解が出来ない訳ではない。
……仕方あるまい。俺は拳銃を下げて、フォレイリに話しかける。どうせだ、思い出させてやろう。
フォレイリは無言のまま、またも俯いた。……くそっ、どこまで俺の手を煩わしてくれる。しかし……理解が出来ない訳ではない。
……仕方あるまい。俺は拳銃を下げて、フォレイリに話しかける。どうせだ、思い出させてやろう。
「拓馬」
俺が名前を呼ぶと、フォレイリは顔を上げた。動揺しているのが手に取る様に分かる。そうだ……その顔だ、フォレイリ。
「今日が何の日か、覚えてるか?」
「今日……?」
「今日……?」
「忘れたのか? インと俺達が仲良くなったあの一週間の―――――最初の日だよ、拓馬」
―――――――2307年。
「やっと……終わった……」
「あぁ……終わったな……」
「あぁ……終わったな……」
ふざけあっている事がバレて、何時も以上に怒られながらも、僕達はバイトを終える事が出来た。
一応バイトは半日くらいで終わるけど、今日は何時もよりノルマが増えたせいで2時ごろまでバイトさせられる事になった。
工場内を駆けずり回って修理したり資材を運んだりしたせいで体中の筋肉が痛い。若い僕達がヒ―ヒ―言ってるのにおやっさんはまだまだ元気。あの人には一生敵わない。
作業服から私服に着替えてどっかで飯でも食おうかと拓馬と話していると、おやっさんから呼びかけられた。
一応バイトは半日くらいで終わるけど、今日は何時もよりノルマが増えたせいで2時ごろまでバイトさせられる事になった。
工場内を駆けずり回って修理したり資材を運んだりしたせいで体中の筋肉が痛い。若い僕達がヒ―ヒ―言ってるのにおやっさんはまだまだ元気。あの人には一生敵わない。
作業服から私服に着替えてどっかで飯でも食おうかと拓馬と話していると、おやっさんから呼びかけられた。
「お前ら、午後暇か? 暇ならちょっと頼みたいんだけどよ」
そう言っておやっさんは……彼女を、僕達の前に連れてきた。ドンドコ跳ねる、僕の心拍数と鼓動。
でもこれは恋じゃない。あくまで緊張してるだけだ。きっとそうだ。そういう事にしとく。となりで冷たい視線を感じるが、スル―しておこう。
おやっさんは何故か財布を持っていて、財布から数枚の紙幣を取り出すと、申し訳なさそうに僕達に言った。
でもこれは恋じゃない。あくまで緊張してるだけだ。きっとそうだ。そういう事にしとく。となりで冷たい視線を感じるが、スル―しておこう。
おやっさんは何故か財布を持っていて、財布から数枚の紙幣を取り出すと、申し訳なさそうに僕達に言った。
「インとちょっと夕方くらいまで遊んで欲しいんだよ。それで帰る時に、町の服屋か何かで、インの買い物に付き合ってほしいんだ。ほら、今の服じゃ色々アレだろ?」
イン……? インって何の事だ? 僕が頭を捻っていると、拓馬がおやっさんに聞いた。
「……1日位静かにしていた方が良いんじゃないですか?」
するとおやっさんが答えるより早く、彼女がノートを取り出してページを開き……鉛筆? で何かを書きはじめた。
そして書いたページを広げたまま、僕達に手渡してきた。拓馬がそれを受け取り、僕にも見える様にちょっぴり、ノートを広げる。
そこには、拓馬が言っていた通り、形が整った綺麗な日本語の文字で、こう書いてあった。
そして書いたページを広げたまま、僕達に手渡してきた。拓馬がそれを受け取り、僕にも見える様にちょっぴり、ノートを広げる。
そこには、拓馬が言っていた通り、形が整った綺麗な日本語の文字で、こう書いてあった。
<外の空気を浴びたいんです。少しだけで……良いですから>
僕達は顔を見合わせた。ふと、僕は彼女に目を向ける。その目は僕に取って、懇願している様に見えた。
断わる理由は無い筈だ。僕は拓馬に目力を込めて無言のメッセージを送る。拓馬はそれを、若干引き気味な感じで受ける、
拓馬は根負けしたのか、呆れた様に一息吐くと、彼女にノートを返して、おやっさんに言った。
断わる理由は無い筈だ。僕は拓馬に目力を込めて無言のメッセージを送る。拓馬はそれを、若干引き気味な感じで受ける、
拓馬は根負けしたのか、呆れた様に一息吐くと、彼女にノートを返して、おやっさんに言った。
「分かりました。けど、大した所へはいけませんよ」
「わりぃな、頼んだよ」
「わりぃな、頼んだよ」
僕の手は無意識に、嬉しさのあまり強く拳を握り、ガッツポーズをしていた。彼女を見ると、目が笑っているみたいで二重で嬉しい。
「で……何処に行く? セレウェイ」
「え? いや、その……」
「え? いや、その……」
……ごめん、全く考えてない。彼女と出かけられると分かったら嬉しくて……。
酷く情けない気分になる。これじゃあただ単に僕は彼女と居たいってだけで、彼女の事は何も考えていないじゃないか。
無い頭を捻りながら考えていると、彼女がサラサラとメッセージを書きはじめる。そして、僕達に手渡す。
酷く情けない気分になる。これじゃあただ単に僕は彼女と居たいってだけで、彼女の事は何も考えていないじゃないか。
無い頭を捻りながら考えていると、彼女がサラサラとメッセージを書きはじめる。そして、僕達に手渡す。
<我儘を言って悪いけど、公園とか森とか、人目の付かない場所が良いです。なるべく、静かな場所が>
人目の付かない……それに静かな場所……あ、そうか!
「あそこに行こう!」
僕と、拓馬の声がピッタリと重なった。全く同じ事を、考えていたみたいだ。
そうと決まれば早速……と行きたい所だけど、僕にはどうしても、彼女に聞きたい事がある。
恐る恐る、僕は彼女にノートを返しながら、聞いた。
そうと決まれば早速……と行きたい所だけど、僕にはどうしても、彼女に聞きたい事がある。
恐る恐る、僕は彼女にノートを返しながら、聞いた。
「あのさ……もし良かったら名前、教えてくれない……かな?」
僕がそう聞くと、彼女はスラスラと書きはじめる。良く見ると雪みたいに手が白い。……良いなぁ。何か、凄く、良い。
ノートを受け取ってページを読む。ふむ……。
ノートを受け取ってページを読む。ふむ……。
<私の事はイン、と呼んでください。それしか……私には、分からない>
分から……ない? 自分の名前しか分からないってどういう事なんだろう……。
もしかして記憶喪失なのだろうか。だとしたら、僕達は如何、彼女と接するべきなのだろうか。
もしも突然、記憶が蘇ってでもしてもパニックとかになったら……駄目だ、悪い事ばかりが浮かんでくる。
しかしどうしても……だって考えてもみてくれ。助けた女の子にもしも悲痛な過去があったりでもしたら……。
もしかして記憶喪失なのだろうか。だとしたら、僕達は如何、彼女と接するべきなのだろうか。
もしも突然、記憶が蘇ってでもしてもパニックとかになったら……駄目だ、悪い事ばかりが浮かんでくる。
しかしどうしても……だって考えてもみてくれ。助けた女の子にもしも悲痛な過去があったりでもしたら……。
「セレウェイ! たくっ、惚けるのもいい加減にしろよな!」
「いてて! ごめんよ拓馬! 歩く、歩くから!」
「いてて! ごめんよ拓馬! 歩く、歩くから!」
拓馬に強く耳を引っ張られながら、僕は歩き出す。その横で、彼女……いや、インが歩く。その表情は柔和で、可愛らしい、
今の僕の目には、インの動作一つ一つが魅力的で……言葉にならない、出来ない感情を抱いていた。
今の僕の目には、インの動作一つ一つが魅力的で……言葉にならない、出来ない感情を抱いていた。
その感情が恋だと気づく頃には―――――――――――――全てが、遅かった。
町工場からかなり遠く離れた場所に、その場所はある。僕と拓馬が小学校の頃から秘密の場所として認識しているその場所は、荒れた雑木林を抜けた先にある。
雑木林を抜けた場所には、木々に囲まれた、湖と呼ぶには小さく、池というには大きい、そんな微妙な……まぁ池がある。
その池は不思議なくらい澄んでいて、何処から来たのか、魚とかが泳いでいる。小学校の頃、僕と拓馬、それに当時の友達で秘密の隠れ家として遊んでいた事がある。
だけど今はそういう友達とは離ればなれになってしまい、時折、思い出の場所として、僕と拓馬はここで語り合ったりする。
雑木林を抜けた場所には、木々に囲まれた、湖と呼ぶには小さく、池というには大きい、そんな微妙な……まぁ池がある。
その池は不思議なくらい澄んでいて、何処から来たのか、魚とかが泳いでいる。小学校の頃、僕と拓馬、それに当時の友達で秘密の隠れ家として遊んでいた事がある。
だけど今はそういう友達とは離ればなれになってしまい、時折、思い出の場所として、僕と拓馬はここで語り合ったりする。
鬱陶しい雑木林を掻き分けながら、僕と拓馬、それにインはその池に辿りついた。
池を見るインの表情は、まるで凄く感動している様に見えた。こんな光景、初めて見る……そんな感じで。
池を見るインの表情は、まるで凄く感動している様に見えた。こんな光景、初めて見る……そんな感じで。
「良い所だろ。水が綺麗でさ、空気が澄んでて」
拓馬が僕が言うよりも早く、インにそう言った。インは拓馬の言葉に深く頷く。何だか妙に気にくわない。
インがノートを広げて、何か書きはじめ、僕達に手渡す。僕達はすぐにそれを読む。
インがノートを広げて、何か書きはじめ、僕達に手渡す。僕達はすぐにそれを読む。
<こんな綺麗な場所、初めて見ました。凄く、感動してます>
イン……僕は内心、複雑な心境になった。正直言ってこんな所よりずっと、綺麗な場所は沢山あるよ。でも君は、この光景に偉く感動しているみたいだ。
……イン、君は……君は一体……駄目だ、僕には言えない。君が何者で、どんな過去があるかなんて。もし聞いて、君が傷ついたりでもしたらと思うと……。
……イン、君は……君は一体……駄目だ、僕には言えない。君が何者で、どんな過去があるかなんて。もし聞いて、君が傷ついたりでもしたらと思うと……。
「……さっきから、いや、本当なら先に聞いておくべきだったと思う」
拓馬がインにノートを返して、低いトーンでそう話しかけた。頭の中で大きく過る、不安。まさか……拓馬……。
インはというと、しゃがんで池を眺めたまま、こっちを振り向かない。僕は拓馬に声を掛ける。……止めなきゃ。
インはというと、しゃがんで池を眺めたまま、こっちを振り向かない。僕は拓馬に声を掛ける。……止めなきゃ。
「拓馬」
だけど拓馬は敢えて、僕の呼びかけを無視すると、インを問い詰めた。
「おやっさんは……君に対して素性を聞かなかったと思う。あぁ見えて優しいから、あの人」
「けれど俺達は、いや、俺は君の事が気になる。君の素性を知りたい。出来れば包み隠さず、全てを。そうでないと、俺は君の事が信用できないんだ」
「もし君が……もし君が厄介な立場の人間だったら、俺は君を信用する事は出来ない。おやっさんに迷惑が掛かるし、何より俺達にも」
「拓馬!」
「お前は黙ってろ!」
「お前は黙ってろ!」
凄まじい剣幕で、拓馬が僕にそう言った。僕はそれ以上何も言えず、黙る事しか出来ない。こうなった時の拓馬は……本気だからだ。
それに僕も正直……インの事を知りたかった。直接言いだせない僕は、飛んだ臆病者で、卑怯者だ。
それに僕も正直……インの事を知りたかった。直接言いだせない僕は、飛んだ臆病者で、卑怯者だ。
インは立ちあがると、ノートを広げて言葉を書きはじめる。時折、書いている手が止まり、また動き出す。その手が少し、震えている様に見えた。
数分経った後、インが振りむいて、僕達のノートを手渡してきた。僕は受け取って、拓馬とノートを読む。
数分経った後、インが振りむいて、僕達のノートを手渡してきた。僕は受け取って、拓馬とノートを読む。
ページには、手が震えていたからか、よれていたり、何度も書き直したりした部分がある。それでも僕は、インが書いた言葉を、一字一字しっかりと目を通す。
<いきなり、貴方達の生活に押しかけてきて本当にごめんなさい。昨日、行き倒れていた私を助けてくれて、有難うございました。
貴方達が助けてくれなかったら、私は今頃……感謝し切れないほど、感謝しています
貴方達が助けてくれなかったら、私は今頃……感謝し切れないほど、感謝しています
私は……超兵機関と呼ばれる所から逃げだしてきました。施設では毎日実験……されて、いました。
そんな日、突然、奇妙な武装に身を包んだ人達が入ってきて……。私は、その時の混乱に乗じて、施設を抜け出しました>
そんな日、突然、奇妙な武装に身を包んだ人達が入ってきて……。私は、その時の混乱に乗じて、施設を抜け出しました>
「超兵……機関? 超兵機関って何だ、拓馬?」
「分からん……聞いた事が無い」
「分からん……聞いた事が無い」
ネットでは相当エグい所まで調べてると思う僕達でも、インが書いたこの言葉は全く知らない。
だけど言葉の響きから、何となくヤバい所からだという事は分かる。拓馬が僕に昨日言っていた事は、こういう事だったのか……。
と、その下にもまた文字が続いている事に気付いて、視線を移す。……何だろう。妙に思い出せそうで、思い出せない事がある。
だけど言葉の響きから、何となくヤバい所からだという事は分かる。拓馬が僕に昨日言っていた事は、こういう事だったのか……。
と、その下にもまた文字が続いている事に気付いて、視線を移す。……何だろう。妙に思い出せそうで、思い出せない事がある。
<分かりやすく言えば……私は小さい頃から、実験体として育てられてきました。与えられたのは、インと呼ばれる名前だけ。
だけどそれは本当の名前ではありません。それだけじゃなく、私は私自身の名前も、私自身何処で生まれ、何処で育ったかの記憶も……何も、分かりません。
私は、自分自身の事が知りたい。だから……施設から、逃げ出しました。
だけどそれは本当の名前ではありません。それだけじゃなく、私は私自身の名前も、私自身何処で生まれ、何処で育ったかの記憶も……何も、分かりません。
私は、自分自身の事が知りたい。だから……施設から、逃げ出しました。
追手から逃げる為に色々してきましたが、限界が来て……気づけば、貴方達に助けられていました>
何時の間にか、僕達の所まで来ていたインが、ノートを優しく引き抜くと、一文加えた。もう一度受け取り、目を、通す。
<明日頃にでも、私はこの町から出ていきます。貴方達と……ヴェントさんに、迷惑を掛けられませんから>
僕と、拓馬の顔が一緒に上がってインを見る。インは、目を逸らさず僕達の顔をじっと見ている。もう、決意が固まっているみたいだ。
拓馬がノートをインに手渡し、大げさな動作で僕の肩を組むと、無理やり回転させて、インから遠ざかる。
分かってる。拓馬が僕に、何を言いたいかなんて。
拓馬がノートをインに手渡し、大げさな動作で僕の肩を組むと、無理やり回転させて、インから遠ざかる。
分かってる。拓馬が僕に、何を言いたいかなんて。
肩を組んだまま、僕と拓馬は歩き出してインが見えなくなるくらいにまで離れると、拓馬が僕の肩から離れた。
腕を組み、近くの木に寄りかかりながら、拓馬は言った。
腕を組み、近くの木に寄りかかりながら、拓馬は言った。
「分かっただろ。やっぱり彼女は厄介だって」
予想してたけど、その拓馬の言葉は僕の胸を深く貫く。心の奥底では、どこかで気づいていたとは思う。
気づいていたけど、彼女が……インが、そういう人じゃないと、信じていたかった。例えそれが、浅はかな希望だとしても、僕は。
気づいていたけど、彼女が……インが、そういう人じゃないと、信じていたかった。例えそれが、浅はかな希望だとしても、僕は。
「さて……どうする、セレウェイ? こうなったらもう、俺達だけで解決できる問題じゃないぜ。多分というか、確実に政府が絡んでるからな。下手すりゃ……」
拓馬の言っている意味は痛いくらい分かる。拓馬の言った通り、インは……厄介な、人だった。それも、とんでもないレベルの。
けれど……けれど、だからってインをそのまま放っておいて良いのか? インは……助けを求めてたんじゃないのか?
頭の中で昨日の夜の事がグルグルと廻り出す。僕は……。
けれど……けれど、だからってインをそのまま放っておいて良いのか? インは……助けを求めてたんじゃないのか?
頭の中で昨日の夜の事がグルグルと廻り出す。僕は……。
「……セレウェイ、お前、もしかして変な事、考えてないよな?」
「え? いや、全然」
「え? いや、全然」
拓馬が疑い深い目で僕をそう見る。……分かってるよ、拓馬。変な事は考えてない。
あぁ、考えないさ。僕達は、ただの一般人だ。余計な事に首を突っ込んじゃいけないんだ。あぁ……分かってる。
僕は目を瞑って、余計な事を考えない様にする。忘れろ、全部……忘れるんだ。
あぁ、考えないさ。僕達は、ただの一般人だ。余計な事に首を突っ込んじゃいけないんだ。あぁ……分かってる。
僕は目を瞑って、余計な事を考えない様にする。忘れろ、全部……忘れるんだ。
蘇る、昨日の夜。服の上から感じる。彼女の華奢な体。
顔を隠す様な、大きな帽子、黒い長髪。
白く、細い手が差し出した、小さなノート。
表紙。
<たす け て>
「……なぁ、拓馬」
僕の口が、勝手に動く。頭で考えるより、先に。
「もし……もし、インがその……超兵機関に戻ったら、どうなるかな」
僕の質問に、拓馬は苦笑いを浮かべながら答える。
「俺にそれを聞くか。……言わん。お前、やっぱ変な事考えてるだろ? 止めとけ止めとけ。碌な目に会わんぞ」
案の定、というか予測された答えを、拓馬は返す。だよな。僕が拓馬と同じ立場なら、全く同じ事を言うと思う。
だけど―――――――拓馬の言葉を、僕は否定したい。何と言えば良いんだろう……。上手く言葉には出来ないけど、それは違う、と思う。。
僕は拓馬に向き直り、すぅーと深呼吸をして心を落ち着かせながら、拓馬に伝える。
だけど―――――――拓馬の言葉を、僕は否定したい。何と言えば良いんだろう……。上手く言葉には出来ないけど、それは違う、と思う。。
僕は拓馬に向き直り、すぅーと深呼吸をして心を落ち着かせながら、拓馬に伝える。
「拓馬……僕は……」
「僕は、インを守りたい。それで……出来れば、出来ればインを、この町……いや、このコロニーから、脱出させてあげたい」
拓馬はしばらく僕の顔を一瞥すると、至極冷静な口調で、言った。
「……冗談じゃない事を前置きしておくと、俺はお前を本当に馬鹿だと思うぞ。いや、大馬鹿だ」
「考えてみろよ。政府の奴らがインを易々と逃がしておくと思うか? もう既に手は回ってると思うぞ。明日か明後日にはもう」
「それでも」
僕は拓馬から目を逸らさず、言いたい事を伝える。伝えないと、一生後悔しそうな気がした。
「それでも僕は、インを脱出させたいんだ。頼む、拓馬。僕に、協力してくれ」
僕はそう言って、拓馬に深く頭を下げた。自分でも馬鹿な事を言ってると思う。思いっきりぶん殴られて止められても、可笑しくない位。
けれど不思議なくらい、僕はインに対してそこまでしてあげたい、と思った。インを助けてあげたい。例え、何が待ち受けていようと。
けれど不思議なくらい、僕はインに対してそこまでしてあげたい、と思った。インを助けてあげたい。例え、何が待ち受けていようと。
拓馬から返事がない。もしかしたら凄く怒っているのかもしれない。それか呆れて、勝手にしろと放置されるかもしれない。
けど、拓馬がそう返答しても仕方ないと諦めが付く。それくらい、危険な事を僕は持ちかけているのだ。
けど、拓馬がそう返答しても仕方ないと諦めが付く。それくらい、危険な事を僕は持ちかけているのだ。
「……一週間だ」
拓馬の声がして、僕は顔を上げた。拓馬が呆れている様な、笑っている様な複雑な表情を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
「一週間以内に、インをコロニーから脱出させる方法をお前が考えるんだ。多分良くても、一週間が限度だと思う。インを、この町に隠すのは」
「それで良いなら、俺も協力する。良いか?」
「……ありがとう、拓馬」
それ以上の言葉は、いらなかった。
僕と拓馬は、互いに拳を握って、軽く、ぶつけた。
――――――――――――――――――――――――――――あの頃は、どんな無茶な事でも、心の奥底では出来ると思っていた。思っていたんだ。
何も、知らなかったから。
――――――――2312年。
「……あの、日か」
「そう、あの日だ。あの頃はバカだったよな、俺達は。何も出来ないくせに、どっかで何でも成功出来ると思ってた」
俺はケラケラと、敢えて下衆に笑ってみせる。少しでもフォレイリの神経を逆撫でしてやりたくてな。
だがフォレイリは無言のまま――――――否、まっすぐに俺を見据え、一言、呟いた。
だがフォレイリは無言のまま――――――否、まっすぐに俺を見据え、一言、呟いた。
「……悪かったな」
「あ?」
「俺が……俺がお前を歪めたのなら、俺は、お前に謝るよ」
「俺が……俺がお前を歪めたのなら、俺は、お前に謝るよ」
「だがな、セレウェイ。それでも……今のお前は最低だ。目を覚ませ、セレウェイ」
「目を覚ますのはお前だ、拓馬。お前が行っているのは、只のテロリズムに過ぎない。お前の行為じゃ、世界は変えられはしない」
「違う!」
拓馬が俺に向かい、強く拳銃を構える。俺を見据えるその目は――――――――憎たらしい位にまっすぐだ。
自分のやっている事に何ら疑問を持たない、心の底から憎たらしい位に、静謐な目。
自分のやっている事に何ら疑問を持たない、心の底から憎たらしい位に、静謐な目。
「彼らは……彼らは敢えて、痛みを与える事で世界に変革を起こすつもりだ。彼女を……インの様な存在を生まない、そんな世界にする為に!」
「ふざけるな!」
構える、拳銃。俺の腕に自然に力が入る。頭の中では冷静を気取ってはいるが、正直に言えば、今の俺の頭は怒りで満ちていた。
「変革? 変革だって? どこまでお前の頭はお花畑なんだ! 奴らは只のテロリストだ! 世界を歪ませる原因そのものなんだよ!」
「違う! 歪ませてる原因はお前が所属しているアロウズそのモノだ! お前自身が、世界を歪ませてる一片なんだよ! 気づけよ! セレウェイ!」
目の前が、真っ赤に染まる。俺の指先がトリガーに絡みつき、そして―――――――――――――――。
「拓馬!」
「セレウェイ!!」
通路に響く、二発の、銃声。
後編ー前 に続く
↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ | ... |