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Diver's shell another 『primal Diver's』 第一話

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 人類共通の夢の一つに「もっと遠く」という物がある――

 これは地球を脱出し、新たな星を手に入れようとしていた人達と、歴史の闇に封印されてしまったネオアース史上、最悪の敵の物語。
 目撃せねばなるまい。誰にも知られる事無く、人類を救った者達を。
 そして、ネオアースに眠る悪魔の存在を――





 第一回【我が家よ】




 第二地球歴五十五年、八月十日。
 ネオアース衛星軌道上。巡洋艦アルバトロスにて――


「右舷に敵接近。二機。エンジンが狙われてる……!」

 誰かが叫ぶ。直後、船の内部は激しい振動に襲われる。

「第四エンジン被弾! 停止……!」
「敵は何処だ!」
「旋回して来ます! 機銃掃射されるわ……!」
「レーダー照射は出来るか?」
「ダメです……。AAシステムがダウンして……」
「潮時だな」

 船のブリッジが大騒ぎしている。
 乗組員の大半は既に脱出し、現在アルバトロスは最低限の人員で飛んでいる。今の任務は、囮になってスターシップと護衛艦隊から敵を引き離す事。
 海賊共が駆る戦闘機は、持ち前の運動性能とステルス性能を持って奇襲攻撃を仕掛けて来た。搭載された機銃のレーザーは威力こそミサイルや砲弾に劣るが、宇宙空間では無反動でかつ残弾を気にせず発射出来る。
 機銃で嘗めるように掃射されたアルバトロスは、敵に気付く前に大打撃を受けてしまった。
 艦隊の任務はスターシップの護衛であり、敵の殲滅では無い。
 数機の味方戦闘機が出てスターシップへの接近を牽制しつつ、艦隊はその場を脱出する。
 手負いのアルバトロスをそこに残して。

「十分離れたな。よし、総員退避。船を捨てる」
「海賊は……! まだそこに!」
「放っておけ。どうせ奇襲以外の戦術は取れない。警戒した艦隊に突撃する程馬鹿な連中ではないさ」
「……でも!」
「気にするな。敵を倒せなかった事は恥じゃない。艦隊は生き延びた。これで十分勝利だ。……味方戦闘機が来たな。全員脱出ボートへ乗れ。アルバトロスとはお別れだ」

 そこの指揮官と思われる男が叫ぶ。
 それを聞いた僅かな船員達は即座に行動を開始し、無駄の無い行動で脱出の準備を始める。

「やれやれ、徴兵したルーキー共を先に出しておいて正解だったな。やはり職業軍人だと緊急時の対応が違う」

 指揮官は愚痴を漏らす。定期的に補充される新米共の半数は望んで軍役についた訳ではない連中だ。やがて辞めていくからと思っているのか、どれだけ訓練をしても思い通りに動いてはくれない。
 かといって無駄に命を散らせる訳にも行かない。故に、囮の役目を引き受けたと同時に数名のエリートを残してさっさと船から追っ払ってしまった。
 乗組員フランも、船に残ったエリートの一人だった。

「……」
「ぼけっとするなフラン。さっさと脱出だ」
「……はい」
「さっき気にするなと言ったろう? お前の悪い所だな。さぁ、行くぞ」

 フランは言われた通り、脱出用ボートに乗る。狭いボートだが、今の人数ならば全員が乗れる程度の広さだった。
 激しい振動がボートを襲う。丸い窓からアルバトロスの外部ハッチが開く様子が見え、その先には真っ暗な宇宙空間と、その中に浮かぶ真っ青なネオアースが見えた。
 そして、ボートはゆっくりとアルバトロスから吐き出されて行く。

 脱出した後に見えたアルバトロスの全容は酷い物だった。
 船体の所々に巨大な獣に引っ掻かれたような傷があり、吹き飛んだ砲塔やレーダーは無残に宇宙ゴミと化してその場へ浮いている。エンジンは時折、小さな爆発を見せながら、痛々しい姿をさらしていた。

 その姿をしばらく眺めていたフラン。刹那、見たことが無い機影が現れる。海賊がどこからか手に入れた戦闘機だ。
 それはボートへ接近してくる。こちらから見えたならば、向こうもこちらを目視出来ているはずだ。
 万事休す、といった所だったが、それは杞憂に終わる。
 海賊の背後からは味方戦闘機が彼らを追っている。ボートの護衛に駆け付けた戦闘機によって、海賊は逃げ回っていただけだった。
 彼らはボートの横を素通りしていき、ステルスモードで逃亡していく。
 そしてフランの乗るボートは味方のエスコートでそこから放れ、旗艦ブラックホークへ。

 艦隊は太陽から放たれた光を反射し輝くネオアースの光をさらに反射している。暗闇に浮かぶ複数の艦隊は遠くからでもよく見えた。
 真ん中の巨大なスターシップ「ドーヴ3」と、横に並ぶ旗艦「ブラックホーク」。それを取り囲む幾つかの船。
 ネオアース上空に浮かぶいくつかの艦隊の内の一つであり、宇宙で生まれ育ったフランには「世界」そのものだった。

「見ろ……!」

 一人が言った。それを聞いた皆は窓から外を覗く。
 見えたのは、炎に包まれるアルバトロス。引力に引き寄せられ、大気圏に突入していく。全長千四百メートルに及ぶアルバトロスは、その巨体を紅蓮の炎で纏い、最後の姿を乗組員へと見せている。

「さよなら……。アルバトロス……」

 フランの言葉と同時に、アルバトロスは真っ青なネオアースへと飲み込まれて行った。





※ ※ ※





 第二地球歴五十五年。八月十三日。
 スターシップ・ドーヴ3にて――


「君はクビだ」
「はい?」

 いきなりの解雇通告。フランは意味がわからず素っ頓狂な返答しか出来なかった。
 あれから三日経ち、乗るべき船を失ったフランはスターシップに一次的に滞在している。
 軍内の暗黙のルールで、民間人が住むスターシップ内では軍服の類は着用しない事になっている。今のフランは真っ白なブラウスにチノパンという当たり障りのない服でここに居る。
 スタイルのいい細身の身体はそれなりに男性の目を引き、控えめな膨らみがまたいいと誰かが言ったとか言わないとか。
 青い毛が混じった独特な色合いの鈍く輝く銀髪は耳辺りの長さで切り揃えられている。「オカッパ」とか言う髪型らしい。友人に勝手に切られてこの髪型となったが、結構似合っているので本人も気に入っていたりする。

 そんなプライベートな服装で呼び出され、いきなりの解雇だ。
 しかもフランを呼び出したのは、旗艦ブラックホークの艦長にして艦隊全ての指揮官。ミヤタ提督。一介の兵士に過ぎないフランには、はるか遠くの存在だ。それからの呼び出し。しかもブラックホークにでは無くドーヴ3のこじんまりした一室にだ。
 フランはてっきり先日の労いでもしてくれるのかと思っていたのだが……。

「冗談……ですか……?」
「いや、君は解雇だ。というより、既に名簿からは抹消したよ」

 まだ状況をうまく理解出来ないフラン。スーツ姿のミヤタは特に表情も変えずに堂々としている。大柄では無いが、渋い面構えと長年鍛えられた肉体にはスーツがとてもよく映える。
 服装は別として、艦隊の最高指揮官がここに居る事自体がまずおかしい話なのだが。フランは当然のように疑問を口にだす。相手が誰でも臆する事はない。

「説明を求めます」
「説明だと?」
「当然です。解雇にあたる理由に心当たりがありません」

 その発言は、アルバトロス豪沈には自分は一切の責任が無いと確信しているからこそだ。実際、彼女に責任はなく、艦の消失は不可抗力なのだが。

「報告の通りだな。気が強く、そして整然とした性格だ」
「説明になっていません。はぐらかすつもりですか?」
「やれやれ。これで気が短く無ければ最適なのだがな……。まぁいい。解雇理由はこれだ」

 ミヤタはいくつかの書類を鞄から取り出してフランの前に出す。その中には情報集積艦が撮影した、アルバトロスが炎に包まれる姿の写真も何枚かある。

「……船が大気圏に突っ込んだのは私のせいだと……?」
「そうじゃない。別の写真も見ろ。例えば、アルバトロスが地表へ到達した時……」

 その写真は衝撃的と言える。衛星軌道上から撮影されたにも関わらず、真っ青なネオアースの中に光を放つ一点。墜落したアルバトロスが内包したエネルギーを熱と光に変え撒き散らす姿だ。

「……ッ」
「……。地表へ到達したアルバトロスは約十五メガトン級の核爆弾に匹敵するエネルギーを放出した。これでも規模は小さく済んだんだ。それに、問題はそこじゃない」

 ミヤタは別の写真を見るよう促す。アルバトロス爆発の写真の下には、高解像度カメラで撮影されたネオアースの海の表面。それが三枚。

「これが……何か?」
「遺跡の事を知っているかね?」
「はい。講義で聞いた事がある程度ですが……。
「アルバトロスの墜落現場の下にも一つあった。まだナンバーもふられていない、発見したばかりの遺跡だ」

「それが何か?」
「つまりは、アルバトロス墜落によって偶然に発見された遺跡という事だ。陸地の近辺では潜水艇等が幾つか発見しているが、陸地とほぼ反対側に位置するこの海域での発見例はこれが初めてなのだ。そして、その写真をよく見て欲しい」

 フランは言われた通りに写真を注視する。たしかに、海面の奥に僅かな黒い影が見える。
 一枚は全体像。二枚目はさらにズームした画像。そして三枚目は。

「……? 何も写ってはいませんが?」
「たしかにわかりにくい画像だ。我々も同じ感想だった。サーマル解析する迄は」

 ミヤタはさらにもう一枚の写真をとりだす。真っ黒な全体像に浮かぶ、オレンジ色の点が映し出された写真。最後の一枚を赤外線で撮影した、サーモグラフィ。

「君はガードロボというのを聞いた事は?」
「……え? ああ、はい。遺跡に侵入した者を廃除する、謎のロボット……」
「そうだ。遺跡近辺ではたびたび目撃され、被害も出ている。だが、居るとわかっていれば対応は可能だ。
 それほど強力な個体は確認されていない。その写真のように、超大型の個体など今まで確認されていない」
「これが……? この写真がガードロボ!?」
「まだ解らない。解析した結果、全長は約三百メートル。現在は遺跡近辺をうろついているらしい」
「それを何故私に教えるんですか……?」

 ミヤタは眼鏡を取り目頭を押さえる。そして苦悩に満ちた声でようやくフランを呼び出した理由を説明を始めた。

「結論から言えば、君に遺跡近辺の調査をしてもらいたい。ネオアースに降り、遺跡とその謎の物体の正体を調べて報告して欲しい」
「私に……ですか?」
「議会に提出したが陸地から遥かに遠いという事でそっぽを向かれた。それよりその遺跡を発見する原因となった海賊共の方が現実問題として厄介だしな。
 他では確認されていないが、宇宙軍化した連中は直接的な脅威だ。私もそれに駆り出されてる」

 ミヤタはボトルに入った水を一口飲む。
 海賊の恐ろしさはフランもよく知っている。先日、「我が家」を叩き落とされたばかりなのだから。

「私が解雇の理由は……それですか」
「察しがいい。今、軍は海賊以外に力を裂けない。近付かなければ脅威となりえない遺跡がいまさら一つ見つかった所で、この方針は変わらない。
 だから、君をクビにした。自由に動けるように」
「地表へ行かせる為に……」
「そうだ。ちょうど船を失いやる事も無い。軍で訓練を受けているので能力も十分だ。」

 フランはまた写真を見る。アルバトロスが燃えていく写真を。ネオアースの海で眠ってる我が家の写真を。

「なぜ調査しようと?」
「明らかに危険だからだ。正体不明とはいえ、そんな巨大な奴がうろついていて安全な訳がない。もしガードロボだとしたらケタ違いに危険と言える」

 ミヤタの手はまた水を取る。宇宙では水も貴重品だ。
 一口含んで、喉の奥から痰を切るような声を出す。遠心力で作られた偽物の重力によってテーブルに張り付いた資料と水のボトルを見て、小さくため息を漏らした。
 その姿は、数多くの重圧に苛まれている様子が滲み出ている。

「もしやりたくないのなら――」
「やります」

 ミヤタが口を開き、その一言にフランは食い気味で答える。

「危険だぞ。覚悟は出来ているのか?」
「はい。それよりも……見たいんです」
「見たい? 何をだ?」
「……。アルバトロスを……。残骸でもいいから」
「そうか……。では早速準備をしろ。分かっているとは思うが非合法な作戦だ。帰りはシャトルを用意するが、行きはそうは行かない」
「具体的には?」

 ミヤタは立ち上がり、ニヤリと笑みを浮かべる。お世辞にもいい笑顔とは言えないが、ここで初めて見せた笑顔だ。

「簡単だ。大気圏にダイブしてもらう」

 ミヤタは、その表情でそう言った。





※ ※ ※





 第二地球歴五十五年。八月十九日。
 ネオアース。海上。


「……~♪」

 鼻歌。そして船体に波がぶつかる心地良い音。

「……ッあぁ~。いい天気だねぇ~!」

 豪快に言い放つ声。声の主は思い切り伸びをして、天に両手を突き上げる。
 それにつられて、やたらと素晴らしく成長した胸部が上下する。

 黒い布を巻いただけなんじゃないかというけしからん服装で胸を隠し、膝上くらいで切られたダメージジーンズを履いている。
 彼女は、波に揺られる船上でのんびりとしている。
 その様子を操舵しながらため息混じりに見ている大男が、見た目に反して情けない声で彼女に声をかける。

「……マーレさん~。少しはシャキっとして下さいよぉ。あと上にもう一枚着て下さいよぉ」
「うっさいわね。見なさいよこのお天道様を。この穏やかな波を。これで眠気を抱かないなんて人じゃねーぜ?」
「そこを我慢すんのが大人でしょぉ~? みんな働いてんですから、船長からしてダラダラしてたら示しが付かないっすよぉ」
「こんな仲良しグループ数人で船長もクソも無いわよ」
「そこ自分で言いますかぁ?」

 船長と呼ばれた女性――マーレは、赤茶けた髪に手ぐしを通して立ち上がる。背中まで伸びた髪は太陽の光を反射し、赤く輝く。胸以外は腰のくびれから何からさらけ出した上半身。タイツのようにピッチピチのジーンズはヒップラインがまるわかり。
 操舵をしていたスキンヘッドの大男はしばらく仕事を止めてそれを眺めていたい衝動に駆られたものの、大人の自制心を持ってそれに耐える。

「ホントにスクラップなんてあるんすかぁ? あの爆発見たでしょ。何も残ってないっすよ」
「わかんないじゃない。何があるか。単純に見てみたいし」
「無駄足っすよ絶対。もし船を落とした連中と出くわしたらどうするんすかぁ? アイツら節操ないからヤバいっすよ」
「節操ないのはコッチも同じよ」
「それはアンタだけでしょ」

 船は遥か地平線の先を目指す。アルバトロスが墜落した現場を目指して。

「たまには海賊らしい事もしないとねぇ!」
「それがスクラップ回収っすか」
「なんでアンタはそうなのよ。頑張ってお金貯めていつか戦闘機買ってやるわ! そうなりゃもうやりたい放題よ」

 波は今だ穏やかなまま。眠気をさそうリズムで船を揺らし、船首に移動したマーレの髪とけしからん胸を揺らしている。

「待ってろよお宝ぁ!」

 勇ましい言葉。そのマーレの上空に現れた、一筋の光に気付かずに。




――続く。


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