Diver's shell another 『Primal Diver's』
第四回:【仮説】
第四回:【仮説】
第二地球歴五十五年。八月二十二日
ネオアース。海底。マーレの船近辺――
ネオアース。海底。マーレの船近辺――
「なんだ上手じゃない。つまんないの」
「何よ……。これでも現職のパイロットなんだから……」
「クビになったクセにぃ~?」
「うるさい! 事情は説明したろ!」
「何よ……。これでも現職のパイロットなんだから……」
「クビになったクセにぃ~?」
「うるさい! 事情は説明したろ!」
彼女達は海底に居た。
潜水機、オステウスの調整ついでにフランの操縦訓練を行う為。結局の所、フランはマーレ達の手を借りる事にしたのだ。
さしものマーレもいきなりフランを乗せて目的地まで行こうとはしなかった。という訳でフランに搭乗訓練をさせる事となったが、それはマーレの期待をある意味に於いてがっつり裏切っていく。
潜水機、オステウスの調整ついでにフランの操縦訓練を行う為。結局の所、フランはマーレ達の手を借りる事にしたのだ。
さしものマーレもいきなりフランを乗せて目的地まで行こうとはしなかった。という訳でフランに搭乗訓練をさせる事となったが、それはマーレの期待をある意味に於いてがっつり裏切っていく。
「……なんだよ~。ホントに上手じゃん。ああつまんない。マジつまんない」
「何がよ……」
「あーあ、せっかく『このヘタクソがぁ!』とか『猿が操縦してんのかぁ?!』とかやりたかったのになぁ。
で、夜に『この出来損ないめ。特別に私がマンツーマンで指導してやろう~。ふぁっふぁっふぁ……』とかやりたかった」
「最後のはなんだ……」
「何がよ……」
「あーあ、せっかく『このヘタクソがぁ!』とか『猿が操縦してんのかぁ?!』とかやりたかったのになぁ。
で、夜に『この出来損ないめ。特別に私がマンツーマンで指導してやろう~。ふぁっふぁっふぁ……』とかやりたかった」
「最後のはなんだ……」
潜水機、オステウスは深度約五百メートルを進んでいた。
スポットライトが照らす地面はゴツゴツした荒野そのものであり、モニター越しにそれを見ているフランには当然ながら初めて見る光景だった。
まれに小魚の群が視界に現れ、オステウスのモノアイにこつんとぶつかり方向を変えて行く。吹き出す泡に驚いて散らすように逃げていく。
資料でも見た事が無い魚だった。土着の物だろうか。アジに似た目の大きな青魚だった。
もっとも、フランは泳いでいる魚を見るのは初めてである。おかげで何も無い海底でも、退屈せずに済んでいた。問題はマーレの方である。
スポットライトが照らす地面はゴツゴツした荒野そのものであり、モニター越しにそれを見ているフランには当然ながら初めて見る光景だった。
まれに小魚の群が視界に現れ、オステウスのモノアイにこつんとぶつかり方向を変えて行く。吹き出す泡に驚いて散らすように逃げていく。
資料でも見た事が無い魚だった。土着の物だろうか。アジに似た目の大きな青魚だった。
もっとも、フランは泳いでいる魚を見るのは初めてである。おかげで何も無い海底でも、退屈せずに済んでいた。問題はマーレの方である。
「……もうよくね?」
「何が?」
「だってもう十分練習したっしょ。はいはい。うまいのは解りました。天才ですよアンタは。だからもう十分でしょ」
「まだ足りないわ」
「いやいや十分だってば。天才フランは貪欲ねぇ」
「普通に飽きたって言えばいいじゃない」
「飽きたっす! もうこの風景ウンザリっす! だからさっさと揚がろうよ~」
「何が?」
「だってもう十分練習したっしょ。はいはい。うまいのは解りました。天才ですよアンタは。だからもう十分でしょ」
「まだ足りないわ」
「いやいや十分だってば。天才フランは貪欲ねぇ」
「普通に飽きたって言えばいいじゃない」
「飽きたっす! もうこの風景ウンザリっす! だからさっさと揚がろうよ~」
言葉通りだった。
実はこの時、既に予定の訓練時間を大きく超えていたのだ。
最初こそフランに操縦法の指導を行っていた。が、フランの飲み込みが異様に早く、次々と機動を修めて行った為、後半はそれこそただ乗っているだけ。
暇潰しに魚群探知器を眺めていたが、それもすぐに飽きる。おまけにフランがクソ真面目な性格故か練習を止める気配がない。
おかげで自我を保つのも精一杯なほど飽き果てていた。
実はこの時、既に予定の訓練時間を大きく超えていたのだ。
最初こそフランに操縦法の指導を行っていた。が、フランの飲み込みが異様に早く、次々と機動を修めて行った為、後半はそれこそただ乗っているだけ。
暇潰しに魚群探知器を眺めていたが、それもすぐに飽きる。おまけにフランがクソ真面目な性格故か練習を止める気配がない。
おかげで自我を保つのも精一杯なほど飽き果てていた。
「どこまで進む気よ~。この先は海溝しかないけど?」
「海溝?」
「ソナーに映ってるのよ。どでかい海溝が横たわってるわ」
「……見たい」
「え?」
「海溝見たい」
「えぇ~」
「海溝?」
「ソナーに映ってるのよ。どでかい海溝が横たわってるわ」
「……見たい」
「え?」
「海溝見たい」
「えぇ~」
フランは楽しくてしょうがなかったのだ。
何しろ目にするもの全て、フランには初めての物ばかり。ましてや海溝など滅多にお目にかかれる物ではない。
マーレには駄々っ子にしか見えていなかったが、練習熱心なのはいい事である。実際にそのセンスには脱帽していた。
何しろ目にするもの全て、フランには初めての物ばかり。ましてや海溝など滅多にお目にかかれる物ではない。
マーレには駄々っ子にしか見えていなかったが、練習熱心なのはいい事である。実際にそのセンスには脱帽していた。
「あんな割れ目見てどうすんのよ?」
「どうって……。見たいだけよ」
「何にも無いわよ。ただ海の底が一直線にズラーっと深い割れ目になってるだけで。
とんでもなく深いから底が真っ暗で見えないし、向こう岸まで何キロもあるし……」
「……なにそれ凄い。見る」
「言わなきゃ良かった」
「どうって……。見たいだけよ」
「何にも無いわよ。ただ海の底が一直線にズラーっと深い割れ目になってるだけで。
とんでもなく深いから底が真っ暗で見えないし、向こう岸まで何キロもあるし……」
「……なにそれ凄い。見る」
「言わなきゃ良かった」
予定は過ぎたとは言え、酸素の残量はたっぷりある。マーレはまだまだ引きずり回される事になる。
途中に見えた海面は真っ青に光っていた。工芸品のブルーガラスを思わせる光沢は潮の流れによって摩訶不思議に揺らめいた。あまりに美しい光景である。
一方、今居る海底は荒れ果てた荒野が延々続く闇の世界。遥か先をスポットライトで照らしても、それが反射し戻ってくる事は無かった。途方もない闇である。
その二面性はフランには信じられない。
自然とはこういう物だと、今、自らの目と感覚で体験し学んでいる真っ最中なのだ。とにかく楽しかった。これほどの物が、人の手に因らず作り出されている事が信じられなかった。
途中に見えた海面は真っ青に光っていた。工芸品のブルーガラスを思わせる光沢は潮の流れによって摩訶不思議に揺らめいた。あまりに美しい光景である。
一方、今居る海底は荒れ果てた荒野が延々続く闇の世界。遥か先をスポットライトで照らしても、それが反射し戻ってくる事は無かった。途方もない闇である。
その二面性はフランには信じられない。
自然とはこういう物だと、今、自らの目と感覚で体験し学んでいる真っ最中なのだ。とにかく楽しかった。これほどの物が、人の手に因らず作り出されている事が信じられなかった。
「やっぱり綺麗」
「あーはいはい」
「何よその生返事は……」
「そりゃ認めるよ。海は綺麗だよ。でも飽きたモンはしょうがないのよ。ごめんなさいね我が儘で」
「あーはいはい」
「何よその生返事は……」
「そりゃ認めるよ。海は綺麗だよ。でも飽きたモンはしょうがないのよ。ごめんなさいね我が儘で」
途中、大きな回遊魚と出くわした。
それはオステウスの航行速度を裕に超え、すれ違って行く。大きな魚だった。マグロやカツオのような、高速で回遊する魚だ。
先ほどの小魚を追ってきたのだろうか。フラン達闖入者を気にも止める事なく過ぎ去って行った。
それはオステウスの航行速度を裕に超え、すれ違って行く。大きな魚だった。マグロやカツオのような、高速で回遊する魚だ。
先ほどの小魚を追ってきたのだろうか。フラン達闖入者を気にも止める事なく過ぎ去って行った。
かつての地球でも見られた光景かもしれない。
それは、この星が地球と似た進化をしてきた証であり、人類がこの星を選んだ理由でもある。
人類によって放たれた地球の魚達もいずれ、彼らの仲間となり生態系の一部へと組み込まれるのだろうか。そして、人間たちも。
それは、この星が地球と似た進化をしてきた証であり、人類がこの星を選んだ理由でもある。
人類によって放たれた地球の魚達もいずれ、彼らの仲間となり生態系の一部へと組み込まれるのだろうか。そして、人間たちも。
この星の生命体にしたらいい迷惑だろう。
いきなり現れた全く知らぬ存在に過ぎないのだから。彼らはどう解釈するのか。果たして、ネオアースはそれを受け入れてくれるのか。
無論、そうして貰わなければネオアースまで到達した人類の一団は絶滅する事になるのだが。
そして、かつてこの星に存在したと思われる「知的生命体」は、人類の要求をどう捉えるのか。
いきなり現れた全く知らぬ存在に過ぎないのだから。彼らはどう解釈するのか。果たして、ネオアースはそれを受け入れてくれるのか。
無論、そうして貰わなければネオアースまで到達した人類の一団は絶滅する事になるのだが。
そして、かつてこの星に存在したと思われる「知的生命体」は、人類の要求をどう捉えるのか。
「どうもしないでしょうね」
マーレは言った。
「考えてご覧なさいよ。ポツポツ発見された遺跡。それを守るガードロボ。あんなの、人類に造れる?」
「それは……。頑張れば……」
「半分正解ってところね。これは私の仮説なんだけど……。
遺跡のガードロボなら、確かに今の人類の科学水準なら同水準の物が造れるかもしれない。でも、造れない」
「どういう意味よ?」
「意味が無いのよ。海底に何かしらの施設を建設したとしよう。そしてそれを護衛しなきゃならない。
でも、わざわざあんな複雑な機構でありながら、それでいて圧倒的に強力でもないガードロボを使用するなんて選択肢、人類の感覚ならまず有り得ない。軍隊居たならそこら辺は解るでしょ?」
「確かに……。もっと効率のいい方法はあると思う」
「問題は彼らがそれを造れる技術を有してた事じゃなく、『なぜそれをわざわざ造ったか』よ。
どう考えても非効率。なんで魚雷や戦闘艇じゃなく、モチーフを持った『ガードロボ』なのか」
「それが彼らにとっては効率的に感じたんじゃないの?」
「それは……。頑張れば……」
「半分正解ってところね。これは私の仮説なんだけど……。
遺跡のガードロボなら、確かに今の人類の科学水準なら同水準の物が造れるかもしれない。でも、造れない」
「どういう意味よ?」
「意味が無いのよ。海底に何かしらの施設を建設したとしよう。そしてそれを護衛しなきゃならない。
でも、わざわざあんな複雑な機構でありながら、それでいて圧倒的に強力でもないガードロボを使用するなんて選択肢、人類の感覚ならまず有り得ない。軍隊居たならそこら辺は解るでしょ?」
「確かに……。もっと効率のいい方法はあると思う」
「問題は彼らがそれを造れる技術を有してた事じゃなく、『なぜそれをわざわざ造ったか』よ。
どう考えても非効率。なんで魚雷や戦闘艇じゃなく、モチーフを持った『ガードロボ』なのか」
「それが彼らにとっては効率的に感じたんじゃないの?」
「それは絶対無いわ。あれを造る科学水準に発達した存在が、そこまでバカとは思えない。
意味があるのよ。なぜガードロボなのか。もちろん、中にはとっても攻撃的なスタイルのも居るけど……。でも、護衛の為ならもっと優れた手段はあるはずよ」
「何が言いたいのよ?」
「だから仮説だって。
多分……。彼らは人類と比べて、文化様式はかなり古かった。科学技術は高くても。地球も精霊信仰が盛んな時代があったけど……」
「なにそれ?」
「知らないの? 母星の歴史でしょ?」
「宇宙生まれだもの。知らなくて当然よ」
「まぁいいわ。聞いて。
きっと彼らは、この星全体で精霊信仰に似た概念を持っていた。多分、僅かな面積しかない土地しか無かったから一つの信仰しか無かった。そして海に進出して海底に遺跡を造る程に栄えても、それは消えなかった。
その段階でもまだ、精霊信仰は生き続けていたのよ。精霊信仰ってのはあらゆる物に精霊が宿るって事を説いてる。それのモチーフを造る事は、地球でも世界中で見られた。
それがこの惑星でも行われたのよ。地球のように複雑でやたらと雑多な信仰があった星でも世界中で行われたのよ? この狭い面積の土地しかないネオアースなら、全ての遺跡で統一性があっても不思議じゃないと思うわ」
「ちょっと待ってよ。それじゃ最初に言ってた意味が無くなっちゃうんじゃ……」
「そこなのよ」
「は?」
「それこそ遺跡の最大の謎なのよ。なんでガードするのに、わざわざ精霊のモチーフを用いたのか。それこそ、遺跡の存在と彼らの謎を解く鍵になるかもしれない」
「何なのそれ?」
「これはあくまで仮説よ?
きっと、遺跡というのは侵入される事を前提に造られたのよ!」
「侵入される事を前提? 意味が解らない……」
「いい? そもそも遺跡とはなんの為に造られたのか……。
それは多分、彼らがいずれこの星に何者かがやってくると予測した上で造られたのよ。いいえ、もしかしたら彼らも外からやって来たかも知れない……。
とにかく、この星に外から来るような存在なら、きっと遺跡の存在にも気づくはず。
そして、彼らは精霊信仰を持っていた。おそらくそれが文化的に重要な位置にあったはずよ」
意味があるのよ。なぜガードロボなのか。もちろん、中にはとっても攻撃的なスタイルのも居るけど……。でも、護衛の為ならもっと優れた手段はあるはずよ」
「何が言いたいのよ?」
「だから仮説だって。
多分……。彼らは人類と比べて、文化様式はかなり古かった。科学技術は高くても。地球も精霊信仰が盛んな時代があったけど……」
「なにそれ?」
「知らないの? 母星の歴史でしょ?」
「宇宙生まれだもの。知らなくて当然よ」
「まぁいいわ。聞いて。
きっと彼らは、この星全体で精霊信仰に似た概念を持っていた。多分、僅かな面積しかない土地しか無かったから一つの信仰しか無かった。そして海に進出して海底に遺跡を造る程に栄えても、それは消えなかった。
その段階でもまだ、精霊信仰は生き続けていたのよ。精霊信仰ってのはあらゆる物に精霊が宿るって事を説いてる。それのモチーフを造る事は、地球でも世界中で見られた。
それがこの惑星でも行われたのよ。地球のように複雑でやたらと雑多な信仰があった星でも世界中で行われたのよ? この狭い面積の土地しかないネオアースなら、全ての遺跡で統一性があっても不思議じゃないと思うわ」
「ちょっと待ってよ。それじゃ最初に言ってた意味が無くなっちゃうんじゃ……」
「そこなのよ」
「は?」
「それこそ遺跡の最大の謎なのよ。なんでガードするのに、わざわざ精霊のモチーフを用いたのか。それこそ、遺跡の存在と彼らの謎を解く鍵になるかもしれない」
「何なのそれ?」
「これはあくまで仮説よ?
きっと、遺跡というのは侵入される事を前提に造られたのよ!」
「侵入される事を前提? 意味が解らない……」
「いい? そもそも遺跡とはなんの為に造られたのか……。
それは多分、彼らがいずれこの星に何者かがやってくると予測した上で造られたのよ。いいえ、もしかしたら彼らも外からやって来たかも知れない……。
とにかく、この星に外から来るような存在なら、きっと遺跡の存在にも気づくはず。
そして、彼らは精霊信仰を持っていた。おそらくそれが文化的に重要な位置にあったはずよ」
「そこは解ったわよ。なんで侵入させる為にわざわざ……」
「メッセージなのよ。自分達はこういう存在だった。この遺跡に潜ればそれを教えてあげますよ……って言ってるのよ。
きっと深くまで侵入すれば、きっと彼らが遺した様々な物があるはずよ。
遺跡のガードロボはあくまで表面的な、一つの一族としての文化を発信するメッセージ。同時に、この程度を防げぬようでは私たちの遺産に触れる資格は無いというフィルターの役割。きっとまだまだ私達の知らないタイプのガードロボだって沢山居るはず。彼らは目覚めるのを待っている。
遺跡に深く潜る事が、異星同士の異文化交流になると思う。だって彼らは、その為に遺跡を残したのだから……」
「じゃ、彼らはなんで居なくなった訳?」
「さぁ?」
「さぁ? って」
「そこは本当に解らない。消えた理由ってのは何なのか……。それも多分、遺跡の奥にあると思う。
私の仮説じゃ、彼らは非常に高度な科学技術と宗教文化を合わせ持っていた。これは本当に仮説なんだけど……」
「……何?」
「きっと彼らは、科学的に未知の存在とアクセスした」
「はぁ?」
「本当にこれは難しい問題よね。少なくとも、人類じゃ受け入れられない。
脳の内部のとある分子は、それぞれが超光速通信している事は人類でも突き止めてる。でもそれが何の意味があるかは未だ解明されてない。
それは超光速で『どこか』と情報通信をしていると思われるわ。じゃあそれがどこなのか? 答は一つ。神よ」
「……頭大丈夫?」
「アンタは頭が固いのよ。いい?
神とは多分、宇宙全体の一種の情報集積システムなのよ。それに技術的なアプローチに成功したのよ。
そこで何を得たかは知らないけど、宗教文化で栄えた彼らにとって、『大いなる存在』との通信はきっと大事件だったはずよ。
多分、それこそ遺跡を遺した最大の理由だったのかも。残念ながら、私もこれ以上の仮説は立てられない。材料が不足し過ぎてるわ」
「……頭痛くなってきた……」
「この超光速通信は人類全てが持ってる。ではなぜ通信するのか? それの意味は?
彼らもきっと同じ機構を備え、同じ疑問に当たったのよ。そして、それの意味を知ってしまった」
「メッセージなのよ。自分達はこういう存在だった。この遺跡に潜ればそれを教えてあげますよ……って言ってるのよ。
きっと深くまで侵入すれば、きっと彼らが遺した様々な物があるはずよ。
遺跡のガードロボはあくまで表面的な、一つの一族としての文化を発信するメッセージ。同時に、この程度を防げぬようでは私たちの遺産に触れる資格は無いというフィルターの役割。きっとまだまだ私達の知らないタイプのガードロボだって沢山居るはず。彼らは目覚めるのを待っている。
遺跡に深く潜る事が、異星同士の異文化交流になると思う。だって彼らは、その為に遺跡を残したのだから……」
「じゃ、彼らはなんで居なくなった訳?」
「さぁ?」
「さぁ? って」
「そこは本当に解らない。消えた理由ってのは何なのか……。それも多分、遺跡の奥にあると思う。
私の仮説じゃ、彼らは非常に高度な科学技術と宗教文化を合わせ持っていた。これは本当に仮説なんだけど……」
「……何?」
「きっと彼らは、科学的に未知の存在とアクセスした」
「はぁ?」
「本当にこれは難しい問題よね。少なくとも、人類じゃ受け入れられない。
脳の内部のとある分子は、それぞれが超光速通信している事は人類でも突き止めてる。でもそれが何の意味があるかは未だ解明されてない。
それは超光速で『どこか』と情報通信をしていると思われるわ。じゃあそれがどこなのか? 答は一つ。神よ」
「……頭大丈夫?」
「アンタは頭が固いのよ。いい?
神とは多分、宇宙全体の一種の情報集積システムなのよ。それに技術的なアプローチに成功したのよ。
そこで何を得たかは知らないけど、宗教文化で栄えた彼らにとって、『大いなる存在』との通信はきっと大事件だったはずよ。
多分、それこそ遺跡を遺した最大の理由だったのかも。残念ながら、私もこれ以上の仮説は立てられない。材料が不足し過ぎてるわ」
「……頭痛くなってきた……」
「この超光速通信は人類全てが持ってる。ではなぜ通信するのか? それの意味は?
彼らもきっと同じ機構を備え、同じ疑問に当たったのよ。そして、それの意味を知ってしまった」
「なんか雰囲気がいつもと違う……」
「……その情報集積システムを言い表すなら、神様としか呼べないわね。
じゃあ更なる疑問。なぜ彼らが人類と同じ希ガスのキセノン粒子による超光速通信システムを有していたかにぶち当たるワケ。
私の専門じゃないけれど、これについては昔から面白い意見があって、知的生命体というのはどれも似たような進化を……」
「よく喋るな……」
「この宇宙全体を通じて、生命が誕生する条件が揃った時に、人類含めあらゆる生命が同時多発したという意見が……」
「内容が理解出来ない……」
「きっと、それをコントロールしているのは例の情報集積システムなんじゃないかという仮説が立てられる。両者の意見は未だ別物として扱われているけど、不思議な符合が多数見られて……」
「もう訳わからん……」
「その意見こそまさに、あのパラドックスを説明する物なのよ。つまり。同時多発した生命は似たような速度で進化し、文化を得た。
つまり、『なぜ他の知的生命体が地球へ到達しなかったか』という疑問が吹き飛ぶ。それもそのはず。だって、彼らもまだそこまで進化して居なかったからよ! その理論で行けば……」
「あ……あの~?」
「なに?」
「もういいです……」
「何よ。もっとロマンを感じなさいよ」
「いや、お腹一杯なんで……」
「コッチは暇なのよ。大演説でもブッこかなきゃやってられないの」
「だいたい、どこでそんな事調べたんだ……」
「アンタは知識に対する渇望が無いの? かつてナポレオン・ボナパルトは……」
「誰だよそのスパゲッティみたいな名前の奴」
「知らないの!? 母星の歴史でしょ?」
「宇宙生まれの宇宙育ちで悪かったわね」
「悪いとは言ってないけど……。もっと勉強なさいよ」
「もう地球無いんだしそんな事……」
「何よ。ロマンが無い人ねぇ~」
「うっさいわね。だいたいね……
「そこがまた……」
「んなモン興味が……」
「……!」
「……」
「……その情報集積システムを言い表すなら、神様としか呼べないわね。
じゃあ更なる疑問。なぜ彼らが人類と同じ希ガスのキセノン粒子による超光速通信システムを有していたかにぶち当たるワケ。
私の専門じゃないけれど、これについては昔から面白い意見があって、知的生命体というのはどれも似たような進化を……」
「よく喋るな……」
「この宇宙全体を通じて、生命が誕生する条件が揃った時に、人類含めあらゆる生命が同時多発したという意見が……」
「内容が理解出来ない……」
「きっと、それをコントロールしているのは例の情報集積システムなんじゃないかという仮説が立てられる。両者の意見は未だ別物として扱われているけど、不思議な符合が多数見られて……」
「もう訳わからん……」
「その意見こそまさに、あのパラドックスを説明する物なのよ。つまり。同時多発した生命は似たような速度で進化し、文化を得た。
つまり、『なぜ他の知的生命体が地球へ到達しなかったか』という疑問が吹き飛ぶ。それもそのはず。だって、彼らもまだそこまで進化して居なかったからよ! その理論で行けば……」
「あ……あの~?」
「なに?」
「もういいです……」
「何よ。もっとロマンを感じなさいよ」
「いや、お腹一杯なんで……」
「コッチは暇なのよ。大演説でもブッこかなきゃやってられないの」
「だいたい、どこでそんな事調べたんだ……」
「アンタは知識に対する渇望が無いの? かつてナポレオン・ボナパルトは……」
「誰だよそのスパゲッティみたいな名前の奴」
「知らないの!? 母星の歴史でしょ?」
「宇宙生まれの宇宙育ちで悪かったわね」
「悪いとは言ってないけど……。もっと勉強なさいよ」
「もう地球無いんだしそんな事……」
「何よ。ロマンが無い人ねぇ~」
「うっさいわね。だいたいね……
「そこがまた……」
「んなモン興味が……」
「……!」
「……」
……。
……――
……――
海底五百メートル。
仲がいいのか悪いのか。オステウスの腹の中で言い合う二人はやがて、海溝付近までたどり着いた。
仲がいいのか悪いのか。オステウスの腹の中で言い合う二人はやがて、海溝付近までたどり着いた。
「着地して」
マーレの指示。
オステウスはその巨体をゆっくり接地させる。砂埃が発生し、潮の流れにさらわれて行った。一歩毎にそれらが発生し、それらはまた流されて行く。
そして見えてきたのは、海の底の断崖絶壁。
遥か数百キロにも及ぶ、星の切れ目である。それは地殻変動の証でもあり、もしかしたらではあるが、古代では陸地はもっと多数存在した可能性を指し示す物だった。もちろん、逆の可能性もある。
オステウスはその巨体をゆっくり接地させる。砂埃が発生し、潮の流れにさらわれて行った。一歩毎にそれらが発生し、それらはまた流されて行く。
そして見えてきたのは、海の底の断崖絶壁。
遥か数百キロにも及ぶ、星の切れ目である。それは地殻変動の証でもあり、もしかしたらではあるが、古代では陸地はもっと多数存在した可能性を指し示す物だった。もちろん、逆の可能性もある。
「……うわぁ」
「はぁ……。ご覧の通り何にもない割れ目っすよ」
「凄い……」
「は?」
「凄い……。凄い凄い! 海の底にこんなのあるなんて! 凄い!」
「テンション高ぇな~」
「はぁ……。ご覧の通り何にもない割れ目っすよ」
「凄い……」
「は?」
「凄い……。凄い凄い! 海の底にこんなのあるなんて! 凄い!」
「テンション高ぇな~」
フランは山すら見た事がない。なれば、よりダイナミックな海の断崖絶壁はさぞかし凄まじい光景に見えた事だろう。
マーレはオステウスの中そのものに飽きてしまっていたのですっかり見ていないが、フランの心は外に飛び出していた。
マーレはオステウスの中そのものに飽きてしまっていたのですっかり見ていないが、フランの心は外に飛び出していた。
「どうすればこんなの出来るんだろう……」
「長い年月かけてちょっとずつ割れてきてんのよ。もちろん、逆にどっかに食い込んでる場所もあるはずよ。……で、満足した?」
「した」
「はぁ……。これでお天道様が拝めるわ……」
「長い年月かけてちょっとずつ割れてきてんのよ。もちろん、逆にどっかに食い込んでる場所もあるはずよ。……で、満足した?」
「した」
「はぁ……。これでお天道様が拝めるわ……」
スラスターが泡を吹いた。スクリューの回転によって生じる泡だ。
推力が下向きに向けられ、オステウスは上昇していく。上昇しながらも、フランは海溝を覗く。上からもじっくり見たかったのだ。
推力が下向きに向けられ、オステウスは上昇していく。上昇しながらも、フランは海溝を覗く。上からもじっくり見たかったのだ。
「大昔の人間は、こんな風景を見て大いなる存在を感じたはずよ。そして、そそれに意味を見出だす為に、数多くの神々を考えた。それこそ精霊信仰の始まりだった……」
「まだその話?」
「何よ。付き合ってやったんだから聞きなさいよ。で、さっきアンタがテンション上がりまくったのと同じ事が、きっと彼らにも起こったのよ。
恐らく、海や太陽からイメージされた精霊は、彼らの信仰の中心となった可能性がある。太陽神って考えも地球では有り触れた物だったし。あれだけ巨大で目立つなら、中心となってもおかしくはない」
「精霊ねぇ……」
「まだその話?」
「何よ。付き合ってやったんだから聞きなさいよ。で、さっきアンタがテンション上がりまくったのと同じ事が、きっと彼らにも起こったのよ。
恐らく、海や太陽からイメージされた精霊は、彼らの信仰の中心となった可能性がある。太陽神って考えも地球では有り触れた物だったし。あれだけ巨大で目立つなら、中心となってもおかしくはない」
「精霊ねぇ……」
「そ。精霊。彼等がガードロボのモチーフにしたのは海洋生物が多いけど、人型もある。きっとそれは先祖をモチーフにしたのよ。
死人は自然に帰る。そして、自然ってのは精霊そのものでもあるの。だから、死人ってのは立派な精霊の一種と考えた可能性もある」
「……精霊がガードロボ」
「うんうん。といっても、誰が証明してくれるって訳でもない個人的な仮説なんだけどね」
「じゃあ……。あれは何がモチーフなんだろう?」
「なにが?」
「だからあれよ。説明したじゃない。私が調べに来た、あのガードロボは一体何がモチーフ? あの巨大なガードロボは?」
「ふふ~ん。考えてはみたんだけど」
「何よ?」
「ま、ハンパじゃないでしょうね」
死人は自然に帰る。そして、自然ってのは精霊そのものでもあるの。だから、死人ってのは立派な精霊の一種と考えた可能性もある」
「……精霊がガードロボ」
「うんうん。といっても、誰が証明してくれるって訳でもない個人的な仮説なんだけどね」
「じゃあ……。あれは何がモチーフなんだろう?」
「なにが?」
「だからあれよ。説明したじゃない。私が調べに来た、あのガードロボは一体何がモチーフ? あの巨大なガードロボは?」
「ふふ~ん。考えてはみたんだけど」
「何よ?」
「ま、ハンパじゃないでしょうね」
続く――
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