記憶の奥底に永久封印したくなる程の醜態を晒した休暇を終えて数ヵ月後。
魔獣の駆除に野盗の討伐、避難民の護送の日々を送っている最中、ついに移動式結界塔の完成の報が俺の元に届けられた。
魔獣の駆除に野盗の討伐、避難民の護送の日々を送っている最中、ついに移動式結界塔の完成の報が俺の元に届けられた。
大陸中央部の西端から東端までを幅広く覆う、横長の結界を構築する全長300m、直径80m、最大浮遊高度5m
魔力建築技術によって建造された移動式結界塔は数十名の結界魔術師によって運用される防衛装置。
魔力建築技術によって建造された移動式結界塔は数十名の結界魔術師によって運用される防衛装置。
魔獣の襲撃を凌ぎつつ、用意出来た結界塔の数は9棟。
大陸を封鎖するために必要最低限の数と魔術師を、どうにか揃える事が出来た形だ。
大陸を封鎖するために必要最低限の数と魔術師を、どうにか揃える事が出来た形だ。
ロワール王国の魔力運用は霊薬を始めとする薬物開発と、それに付随する知識ばかりに特化している。
大国としての水準で評価すると兵器開発能力や築城能力は呆れるほどに低い。
元々、魔力によって生み出された兵器や建築物は、刻印装甲を持たない国によって体系化された技術であり、古来より多数の刻印装甲を保有してきたロワール王国にとって重要視するに値しない技術だった。
大国としての水準で評価すると兵器開発能力や築城能力は呆れるほどに低い。
元々、魔力によって生み出された兵器や建築物は、刻印装甲を持たない国によって体系化された技術であり、古来より多数の刻印装甲を保有してきたロワール王国にとって重要視するに値しない技術だった。
刻印装甲保有国としての立場を磐石にする上で重要な事は霊薬を始めとする、刻印装甲の戦線維持能力を倍増させるような薬品開発こそが何よりも最優先になっており、それ以外の魔力運用は国外交易に依存する形になっていた。
依存と言っても、ロワール王国にとっては無くても難儀を背負込む程でも無い。
必要ならば戦争でも起こして技術を奪い取れば良いだけの事で、外交を行う取っ掛かりとしての側面の方が強い。
依存と言っても、ロワール王国にとっては無くても難儀を背負込む程でも無い。
必要ならば戦争でも起こして技術を奪い取れば良いだけの事で、外交を行う取っ掛かりとしての側面の方が強い。
だから、俺は大陸を封鎖可能な数と質を用意出来た事に、少なからず人々の大陸奪還に向ける執念と気迫を感じていた。
だが、野放しに喜んでもいられない。揃った数は最低限で、これ以上の質を高めようにも技術が足りず、これ以上の数を求めようにも物が不足している。
何より刻印装甲を保有せずに、保有国家と対等に渡り合ってきた技術国家が常備している結界塔ですら、魔獣の侵攻を食い止めきれず滅んでいる事を考えれば、ロワール王国が作った結界など藁葺き小屋と大差無い。
あくまで結界塔は、大きく間延びした戦場への進撃中、その隙を突いて狙ってくるであろう人界への襲撃を一時的に阻む、最後の境界線でしか無い。
だが、野放しに喜んでもいられない。揃った数は最低限で、これ以上の質を高めようにも技術が足りず、これ以上の数を求めようにも物が不足している。
何より刻印装甲を保有せずに、保有国家と対等に渡り合ってきた技術国家が常備している結界塔ですら、魔獣の侵攻を食い止めきれず滅んでいる事を考えれば、ロワール王国が作った結界など藁葺き小屋と大差無い。
あくまで結界塔は、大きく間延びした戦場への進撃中、その隙を突いて狙ってくるであろう人界への襲撃を一時的に阻む、最後の境界線でしか無い。
その上、9棟の結界塔は其々が形成する結界同士が結び付き、共鳴し合う事によって、効果範囲と強度を大幅に増幅させている。
そこまでやって、どうにか南方大陸を封鎖することが出来る程度の効果範囲しか無く、裏を返せば、1棟でも破壊されてしまった場合、大陸を封鎖出来る程の結界を維持する事は出来なくなる。
結界塔同士による共鳴現象を引き起こして強化しても、中級の魔獣の侵攻を食い止めるのが精一杯で、上級や、異常固体が相手ならば持って数十秒。最悪、一撃で破壊される程度の強度しかない。
攻め手にせよ、守り手にせよ、誰かが残れば良いというわけでは無く、人類の未来は戦場に立つ全ての戦士の双肩にかかっていると言っても良い。
そこまでやって、どうにか南方大陸を封鎖することが出来る程度の効果範囲しか無く、裏を返せば、1棟でも破壊されてしまった場合、大陸を封鎖出来る程の結界を維持する事は出来なくなる。
結界塔同士による共鳴現象を引き起こして強化しても、中級の魔獣の侵攻を食い止めるのが精一杯で、上級や、異常固体が相手ならば持って数十秒。最悪、一撃で破壊される程度の強度しかない。
攻め手にせよ、守り手にせよ、誰かが残れば良いというわけでは無く、人類の未来は戦場に立つ全ての戦士の双肩にかかっていると言っても良い。
それでも、状況は良い方向へ傾いていると言って良い。
結界塔完成までの間、異常個体の度重なる襲撃を退けてきた俺たちは多くの刻印装甲の入手に成功しており、結界塔建造計画開始当初と比較して、その数は倍以上に膨れ上がっている。
結界塔完成までの間、異常個体の度重なる襲撃を退けてきた俺たちは多くの刻印装甲の入手に成功しており、結界塔建造計画開始当初と比較して、その数は倍以上に膨れ上がっている。
結界塔一棟に対し、防衛戦力として下級と中級が一体ずつ専属的に配備され、結界塔全体の防衛にラウバルト将軍のゴルトゲイザー、イリアのレイスヴォルグにガイウス、レヴィアザンが任される事になった。
そして、大陸最南端を一直線に目指す攻撃役は、当初の予定通りに俺のシルヴァールと、アディンのシェイサイド。
ケルベロスの異常個体から奪取した炎の上級刻印装甲、ゲルヴィナードの適合者となった嘉穂が新たな戦力として加わる事になった。
そして、大陸最南端を一直線に目指す攻撃役は、当初の予定通りに俺のシルヴァールと、アディンのシェイサイド。
ケルベロスの異常個体から奪取した炎の上級刻印装甲、ゲルヴィナードの適合者となった嘉穂が新たな戦力として加わる事になった。
一撃必殺に特化したゲルヴィナードには、広く間延びした結界塔全体の防衛に回れる程の機動力は無く、結界塔一箇所の防衛だけに使うのはあまりにも惜しい。
何よりも、光の上級刻印装甲、オルベリオンは敵の手に渡っており、異常固体化の媒介にされている。奪回にゲルヴィナードの火力は大きな力になる。
そして、奪回後に嘉穂の自由契約能力でオルベリオンをロワール王国では無く、俺たち地球人の管理下に置き、機を見計らって地球へと帰還するという筋書きだ。
何よりも、光の上級刻印装甲、オルベリオンは敵の手に渡っており、異常固体化の媒介にされている。奪回にゲルヴィナードの火力は大きな力になる。
そして、奪回後に嘉穂の自由契約能力でオルベリオンをロワール王国では無く、俺たち地球人の管理下に置き、機を見計らって地球へと帰還するという筋書きだ。
進軍当日。大陸東端から西端にかけて、横一列にならんだ9棟の移動式結界塔は護衛の刻印装甲を従え、鈍重な足取りで進軍を開始する。
結界の内側にはロワールの騎士と、大陸奪還に意欲的な義勇兵が焔砲を携え、長い横陣を構築し、護衛の刻印装甲と共に堂々とした足取りで交戦の時を待ち構えている。
結界の内側にはロワールの騎士と、大陸奪還に意欲的な義勇兵が焔砲を携え、長い横陣を構築し、護衛の刻印装甲と共に堂々とした足取りで交戦の時を待ち構えている。
焔砲とは、使用者の魔力を炎の弾丸に変換して撃ち出す、人間が携行出来る小型の魔術兵装だ。
バズーカのような円筒状の長い砲身。砲口には龍の意匠が施され、目の部分には炎の術式を刻まれた宝石が埋め込まれ、魔力増幅器の役割を果たしている。
これも出自はロワール王国では無く、刻印装甲を持たない技術国家から逃げ延びてきた戦士たちによって持ち込まれた物を解析し、量産化したものだ。
バズーカのような円筒状の長い砲身。砲口には龍の意匠が施され、目の部分には炎の術式を刻まれた宝石が埋め込まれ、魔力増幅器の役割を果たしている。
これも出自はロワール王国では無く、刻印装甲を持たない技術国家から逃げ延びてきた戦士たちによって持ち込まれた物を解析し、量産化したものだ。
その完成度はオリジナルには遠く及ばないが、剣や槍などで戦うよりは遥かに効果的だ。これも結界塔同様、開戦までに戦士全員分の数を揃える事に成功しており、戦士たちの士気も高い。
中でも、南方大陸を追われた戦士たちは、故郷を取り戻すための戦いに気炎を燃え滾らせており、ロワール王国の騎士たちも、その熱気に煽られたかのように気勢を上げており、俺たちにとって嬉しい誤算となった。
中でも、南方大陸を追われた戦士たちは、故郷を取り戻すための戦いに気炎を燃え滾らせており、ロワール王国の騎士たちも、その熱気に煽られたかのように気勢を上げており、俺たちにとって嬉しい誤算となった。
この世界における騎士とは強き者の事を示し、力と心の証とされている。
だが、刻印装甲の依存度が高いロワール王国における騎士とは、ただの称号や位に過ぎず、名門や元騎士の子が多く、装甲騎士団以外の騎士の過半数以上は実戦経験が無く、錬度も低い。
俺が一介の冒険者だった頃に嘉穂達の救援に向かった時も、現地に到着した時には随伴していた騎士達は二体の刻印装甲を置き去りにして、既に撤退を終えているという有様だった。
だが、刻印装甲の依存度が高いロワール王国における騎士とは、ただの称号や位に過ぎず、名門や元騎士の子が多く、装甲騎士団以外の騎士の過半数以上は実戦経験が無く、錬度も低い。
俺が一介の冒険者だった頃に嘉穂達の救援に向かった時も、現地に到着した時には随伴していた騎士達は二体の刻印装甲を置き去りにして、既に撤退を終えているという有様だった。
確固たる意思も無ければ主体性も無いが、それ故に場の雰囲気に流され易い。
今回に限れば士気の高い南方の戦士たちがいるお陰で、早々に士気が落ちるという事は無さそうだ。
それに気性の荒い南方の戦士たちの事だ。ロワールの騎士が弱音を吐こうものなら力ずくでどうにかしてくれる事だろう。
今回に限れば士気の高い南方の戦士たちがいるお陰で、早々に士気が落ちるという事は無さそうだ。
それに気性の荒い南方の戦士たちの事だ。ロワールの騎士が弱音を吐こうものなら力ずくでどうにかしてくれる事だろう。
「進軍開始……先陣は我々だ。呆けているなよ」
「行きますよ、涼夜さん」
結界塔の前で雄たけびを上げる戦士たちを眺めていると、アディンと嘉穂が其々に声をかけながら南方大陸へと進軍を開始する。
大陸最南端を目指して、シルヴァール、シェイサイド、ゲルヴィナードの三体で先行し、敵の目を引き付け、奪われた大陸南方を結界塔で境界線を強制的に南へ南へと下げていく。
大陸は南下するほど、陸地が先細りしていため、侵攻が進めば進むほど、横一列に間延びした陣は密度を増していき、最南端到達時には総力戦を仕掛ける事が出来るという算段になっている。
大陸最南端を目指して、シルヴァール、シェイサイド、ゲルヴィナードの三体で先行し、敵の目を引き付け、奪われた大陸南方を結界塔で境界線を強制的に南へ南へと下げていく。
大陸は南下するほど、陸地が先細りしていため、侵攻が進めば進むほど、横一列に間延びした陣は密度を増していき、最南端到達時には総力戦を仕掛ける事が出来るという算段になっている。
半年以上もの間、魔獣から一方的な蹂躙を受けていた南方は北方以上に荒れ果て、割れた大地や薙ぎ倒された木々が放置され、瓦礫の山の上には白骨化した人間や動物が折り重なっていた。
空は太陽が燦々と輝いているにも関わらず、辺りは瘴気に満ちており、暗い雰囲気が漂っている。
空は太陽が燦々と輝いているにも関わらず、辺りは瘴気に満ちており、暗い雰囲気が漂っている。
瘴気は魔獣が呼吸する時や、死亡した際に発生するもので、その濃度が増すほど、人間の五感は狂い、魔力の伝達が阻害される。
その上、刻印装甲越しでも適合者に悪影響を及ぼす程の深い瘴気に否が応でも、大多数の魔獣が南方にひしめき合っている事を予測させられた。
その上、刻印装甲越しでも適合者に悪影響を及ぼす程の深い瘴気に否が応でも、大多数の魔獣が南方にひしめき合っている事を予測させられた。
瘴気は人間にとって害悪以外の何物でも無いが、防いだり、その効果を軽減する手段は多く、瘴気の存在を事前に感知出来ていれば、それ程の脅威になる事は無い。
例えば、闇の属性が持つ性質は魔獣や魔族に近く、ただ存在するだけで瘴気を中和する事が出来る。
シェイサイドが先頭に立ち、進行方向に充満する瘴気を中和させ、その悪影響からシルヴァールとゲルヴィナードを守っている。
例えば、闇の属性が持つ性質は魔獣や魔族に近く、ただ存在するだけで瘴気を中和する事が出来る。
シェイサイドが先頭に立ち、進行方向に充満する瘴気を中和させ、その悪影響からシルヴァールとゲルヴィナードを守っている。
「止まれ。正面にミノタウロスが六……瘴気に紛れ、左右に迂回しながら機を伺っているオークが十ずつ。遠方より此方を狙うリザードが四……異常個体はいないようだな」
先行していたシェイサイドが足を止め、敵との接触が近い事を警告する。シェイサイドが瘴気を中和しながら進んでいるとは言え、瘴気の中に潜む敵の気配や魔力を感知できる程でも無い。
「数が多いな……異常固体の餌になっていれば楽なものを」
以前、カンザス湿地帯に生息するリザードの群れが、異常個体に食われていた事を思い出した。
今回のこの騒動は世界各地で異常個体が一斉蜂起した事に起因する。
そして、現在、南方大陸には多種多様の異常個体が生息しており、存在を維持するために人魔問わず、無差別に攻撃を仕掛けていると考えるのが妥当なのだが……
今回のこの騒動は世界各地で異常個体が一斉蜂起した事に起因する。
そして、現在、南方大陸には多種多様の異常個体が生息しており、存在を維持するために人魔問わず、無差別に攻撃を仕掛けていると考えるのが妥当なのだが……
「忘れたか? 魔獣とは自然発生した生命では無く、魔族の魔力によって生み出された魔法生命だ。
そして、異常個体は刻印装甲との融合。自らの手駒であり、餌でもあり、力でもある。全ては奴等の都合が最優先……何にせよ、我々は包囲されつつある。攻撃開始を提案する」
そして、異常個体は刻印装甲との融合。自らの手駒であり、餌でもあり、力でもある。全ては奴等の都合が最優先……何にせよ、我々は包囲されつつある。攻撃開始を提案する」
「言われるまでも無い……一撃で殲滅する。お前たちは手を出すな」
敵の陣容にぼやいていると、それに対しアディンが異を唱えるが、今更、通常個体が何体現れようと物の数では無い。
魔力を紡ぎ、握り締めた拳から雷光を放ち、不浄を穿つ五条の閃光を想起する。
魔力を紡ぎ、握り締めた拳から雷光を放ち、不浄を穿つ五条の閃光を想起する。
≪我が手に集いし閃光よ! 愚者を穿つ刃となりて、その名を示せ!≫
詠唱と共に実体化した紫紺の槍を旋回させ、五条の雷撃を天に放ち、霧がかったように辺りを覆う瘴気を弾き飛ばす。
するとフィルターがかった五感が鮮明になり、此方に刺すような殺気を放つ魔獣達の姿や、数、正確な位置が徐々に感じ取られるようになった。
するとフィルターがかった五感が鮮明になり、此方に刺すような殺気を放つ魔獣達の姿や、数、正確な位置が徐々に感じ取られるようになった。
雷撃の軌跡をイメージ――天を穿つ五つの雷撃の軌道を地上へ傾け、迂回しながら俺達を包囲しようとするオークの群れを背後から刺し貫く。
オークを貫くたびに、雷鳴のような轟音を周囲にかき鳴らしながら左右の群れを屠る。響く雷鳴に俺達に仕掛ける機会を窺っていた魔獣の群れが喧しく、がなり声を立てた。
正面から俺達を引き付けようとしていたミノタウロスよりも更に奥。遠距離からの水鉄砲を狙っていたリザード達が、慌てたように魔力の集束を開始するが既に手遅れだ。
オークを貫くたびに、雷鳴のような轟音を周囲にかき鳴らしながら左右の群れを屠る。響く雷鳴に俺達に仕掛ける機会を窺っていた魔獣の群れが喧しく、がなり声を立てた。
正面から俺達を引き付けようとしていたミノタウロスよりも更に奥。遠距離からの水鉄砲を狙っていたリザード達が、慌てたように魔力の集束を開始するが既に手遅れだ。
≪我は閃光の射手! ライオットスクリーマー!≫
五条の雷撃を紫紺の槍に集束させ、一陣の巨大な雷槍を再構築し、槍投げの要領で敵陣目掛けて投擲する。
剛槍が青白い閃光を放ちながら地を駆け抜け、正面から迫り来る魔獣の群れを粉砕し、放たれた水鉄砲を飲み込みながら、全ての群れを塵芥と化した。
剛槍が青白い閃光を放ちながら地を駆け抜け、正面から迫り来る魔獣の群れを粉砕し、放たれた水鉄砲を飲み込みながら、全ての群れを塵芥と化した。
「異なる種の割に統率の取れた動きをしていたな……矢張り、完全に魔族の制御下におかれたか」
≪こちら西端。これより魔獣との交戦に入る≫
≪東端も戦闘開始だ! 結界塔の進軍速度そのまま! 正面から粉砕するぜ!≫
≪此方、ゴルトゲイザー。これより東端の支援行動に入る≫
≪イリア・フォン・ロワール。西端は私が行きますわ!≫
敵の第一陣を退け、進軍を再開すると同時に結界塔の方でも交戦が始まり、頭の中に適合者たちの念話が飛び交う。
魔族が人間同様に知性を持っているのであれば、確実に何かしらの小細工をしてくる事は最初から読めていた。
だからこそ、真っ先に攻撃を受けそうな地点には天、光、闇の刻印装甲を配備し、随伴する戦士は焔砲の扱いに長けた技術大国の戦士を中心に配備し、焔砲もロワール製の粗悪品では無く、高性能なオリジナルを持たせている。
防衛線全体のフォローを受け持つラウバルトと、イリアが到着するまでの時間を稼ぐには十分な戦力と言える。
魔族が人間同様に知性を持っているのであれば、確実に何かしらの小細工をしてくる事は最初から読めていた。
だからこそ、真っ先に攻撃を受けそうな地点には天、光、闇の刻印装甲を配備し、随伴する戦士は焔砲の扱いに長けた技術大国の戦士を中心に配備し、焔砲もロワール製の粗悪品では無く、高性能なオリジナルを持たせている。
防衛線全体のフォローを受け持つラウバルトと、イリアが到着するまでの時間を稼ぐには十分な戦力と言える。
「結界塔の中央ががら空きになったか……次に予測される手は……」
「中央突破を仕掛ける俺達を避け、防衛力の薄い中央の結界塔を落とす……狙うなら空か」
「どうかご武運を……」
「あまり、大袈裟にしないでくれ。すぐに合流する」
嘉穂の仰々しい口調に苦笑しながら、翼を羽ばたかせ瘴気の薄い地点を縫う様に空へと駆け上がる。空を覆う瘴気は日光に切り裂かれる程度の濃度で五感が狂う程のものでは無い。
鮮明になった五感、体内で急速に湧き上がる魔力。そして、怖気が走る程の濃密な殺意と敵意に胸を衝かれ、一瞬ばかり肝をつぶす。
今までの経験で言えば、単独飛行が可能な魔獣に上級はいない。差し向けるとすれば中級の魔獣ワイバーンか、ガルーダ。そして、これほどの殺気を放てるのは……
鮮明になった五感、体内で急速に湧き上がる魔力。そして、怖気が走る程の濃密な殺意と敵意に胸を衝かれ、一瞬ばかり肝をつぶす。
今までの経験で言えば、単独飛行が可能な魔獣に上級はいない。差し向けるとすれば中級の魔獣ワイバーンか、ガルーダ。そして、これほどの殺気を放てるのは……
「……当然か」
正面にはワイバーンの大群。その先頭には何倍もの巨躯を持つ、異常個体が群れを率いるかのように悠々と空を滑空していた。
「結界塔に構わず中央突破を仕掛け、奪われたオルベリオンを奪回。この世界を見捨てて地球へ帰還。何度も同じ事を考えていたのだがな……」
俺が初めて人を殺す切欠となった、陵辱の果てに殺された少女の亡骸が脳裏に浮かんだ。この世界を見捨てようと思うたび、見計らったかのようにあの子の亡骸が何度も脳裏に浮かび上がった。
異常個体率いるワイバーンの大群に正面から飛び込み、異常個体を正面に捉え、更にスピードを上げる。
そして、胴を跨ぎ、互いに背中を合わせたまま速度と進行方向を変えず、背後に抜き去る。
ワイバーンの群れはシルヴァールに対し、何の反応も示さず、わき目も振らずに結界塔を目指す。
そして、胴を跨ぎ、互いに背中を合わせたまま速度と進行方向を変えず、背後に抜き去る。
ワイバーンの群れはシルヴァールに対し、何の反応も示さず、わき目も振らずに結界塔を目指す。
「また繰り返されると思うと……安閑と帰路に着くことも出来んのでな!」
≪斬空の刃よ、断罪の楔となりて咎人の魂を穿て! スラッシュゲイザー!>
シルヴァールの巨大怪鳥の様な翼が大きく広がり、有機的な白い羽が、切れ目の入った刃に生え変わる。
刀身に刻まれた無数の切れ目に沿って刃を分離させ、魔力で紡ぎ上げた新緑に輝く鋼線で繋ぎ合わせる。背中から生えた無数の蛇腹剣は其々が意思を持っているかのように、空をのた打ち回りながら背後からワイバーンの群れを急襲。
そして、高速で飛来する刃に翼を破られ谷底に落ち、無数に襲い掛かる刃に穿孔を穿たれ穴という穴から鮮血を撒き散らしながら死に絶え、四方八方から襲い掛かる魔力の鋼線に全身を引き千切られ、肉片の雨となって大地を濡らした。
刀身に刻まれた無数の切れ目に沿って刃を分離させ、魔力で紡ぎ上げた新緑に輝く鋼線で繋ぎ合わせる。背中から生えた無数の蛇腹剣は其々が意思を持っているかのように、空をのた打ち回りながら背後からワイバーンの群れを急襲。
そして、高速で飛来する刃に翼を破られ谷底に落ち、無数に襲い掛かる刃に穿孔を穿たれ穴という穴から鮮血を撒き散らしながら死に絶え、四方八方から襲い掛かる魔力の鋼線に全身を引き千切られ、肉片の雨となって大地を濡らした。
一方的な虐殺に業を煮やし、漸く戦う気になったのか、ワイバーンの群れが進路を反転しながら、此方に殺意を差し向けるが、動きが鈍重過ぎる。
深緑に輝く巨大な翼を振り回し、ワイバーンに叩き付ける。深緑の光線に触れたワイバーンは細切れになり、血煙となって空の彼方へと消滅した。
深緑に輝く巨大な翼を振り回し、ワイバーンに叩き付ける。深緑の光線に触れたワイバーンは細切れになり、血煙となって空の彼方へと消滅した。
≪あのまま、大人しく地球へ帰還するのであれば見過ごしてやったものを……!≫
ほの暗い怒気が篭った静謐な声が脳裏に響き渡ると同時に、ムカデが這い登るようなむず痒さと嫌悪感が背筋から湧き上がり、絡み付いていた殺気が強くなる。
スラッシュゲイザーを消失させ、その場から飛び退こうとするが、地表を覆い隠す瘴気の中から岩山のような、巨大な腕が突き上がり、シルヴァールの胴を鷲掴みにする。
振り解こうと身をよじるが、シルヴァールを握り締める指は微動だにしないどころか圧迫する力が増し、甲冑が軋む鈍い音と亀裂が走る破砕音が響いた。
スラッシュゲイザーを消失させ、その場から飛び退こうとするが、地表を覆い隠す瘴気の中から岩山のような、巨大な腕が突き上がり、シルヴァールの胴を鷲掴みにする。
振り解こうと身をよじるが、シルヴァールを握り締める指は微動だにしないどころか圧迫する力が増し、甲冑が軋む鈍い音と亀裂が走る破砕音が響いた。
「殺気の正体は貴様か……!」
瘴気の中から身を乗り出す一体の魔獣。黒く硬い体毛に覆われた下半身。二本足の爪先の部分は鋼も砕く強固な蹄。赤銅色に染まった筋骨隆々の屈強な上半身を持つ牛頭の大巨人、ミノタウロス。
≪成り損ないの英雄、霧坂涼夜……! 貴様は地球へと帰還する最後の機会を失った……! 己の軽率さを恨み、死に果てるが良い……!≫
「地球だと……!? 何故、魔族が地球の存在を知っている!?」
≪これから死に逝く者が知る事では無い……!≫
異常固体化したミノタウロスは握り締める掌に力を込め、シルヴァールを握り潰す。上半身と下半身が分断され、地表へと落下を始める。奴の戒めから逃れる事が出来た事を考えれば、却って好都合だ。
何故、魔族が地球の存在を知っているのか? それとも、地球人なのか? 何にせよ知っている事の全てを吐かせねばならん。
何故、魔族が地球の存在を知っているのか? それとも、地球人なのか? 何にせよ知っている事の全てを吐かせねばならん。
≪甘いんだよ、成り損ない! 再構築なんてさせないよ!≫
シルヴァールを再構築するため魔力の収束を開始すると、ワイバーンがそれを阻止せんと甲高い咆哮と共に毒性のブレスを吐き出す。再構築の速度と、毒の回る速度はほぼ同じ。
毒が回りを抑え込むのが精一杯で、再構築に魔力を回していては何も出来ない。この損傷のまま戦うしかないか!
両の掌に収束し、球体化した竜巻を生み出し、ワイバーンと、その背に着地したミノタウロスを睥睨し、攻撃の機を見定める。
毒が回りを抑え込むのが精一杯で、再構築に魔力を回していては何も出来ない。この損傷のまま戦うしかないか!
両の掌に収束し、球体化した竜巻を生み出し、ワイバーンと、その背に着地したミノタウロスを睥睨し、攻撃の機を見定める。
≪今更、ソニックインパクト? 私らがどれだけの刻印装甲を取り込んでいると思っているんだい? 私らとしてはアンタが死ぬとヒジョーに都合が良い。だけど、成り損ないのアンタを殺しても意味は無いんだよねぇ≫
≪余計な事を……!!≫
≪おいおいおーい! 余計じゃないだろ? 攻撃喰らったから、つい反撃しちゃったけどさ、覚醒前なら下手に手出しをせずに地球にお帰り頂くって話だったじゃん? 無理に倒さなくても、英雄キリサカはこの世界じゃなければ覚醒出来ないんだし?≫
≪チッ……! 勝手にしろ……!≫
≪で、どーよ? 確かに私らはアンタの敵さね。だけど、アンタと戦わずに、この世界を消滅させる方がよっぽど安全だ。そうなれば、私らもアンタと敵対する理由が無くなる。何だったら地球に戻る手伝いをしてやったって良い≫
「貴様たちは何者だ? 一体、何を企んでいる?」
≪お互いに干渉はしない。それがルールさ≫
「そうか……ならば、無駄話は此処までだ」
奴等の口ぶりでは俺という存在が厄介らしいが、英雄だの、成り損ないだの、覚醒だの意味が分からん。魔族なのか、人間なのか、地球人なのか、それも不明だ。
目的も正体も言っている事の全てが不明だが、一つだけ明確になったことがある。
目的も正体も言っている事の全てが不明だが、一つだけ明確になったことがある。
≪はっ! やろうってのかい!? これだけの慈悲を与えられておきながら、よくほざいた!!≫
「この世界に全くの愛着が無いわけでは無い。それなりに大切に想っている人間もいる。繰り返させたくない不幸もある。帰宅の片手間ではあるが、この世界の人間のために戦っているのでな……この世界を消滅させるというのならば、敵対するには十分だ」
そもそも、我が身の保身だけで地球へ帰還するのなら、最初からこんな命がけの戦いで一番、身の危険に晒される場所で戦ってなどいない。
≪ク……クカカ……クカカカカカカカ……!! よくぞほざいた……! 腐っても英雄か……! さあ……我らと死合え……!≫
「フン……ただの迷い人を相手に随分と大袈裟なものだな」
≪そんな様で大口叩いたって滑稽だけって分からないのかい! ≫
翼を広げ、滞空しているシルヴァールにワイバーンが肉薄し、ミノタウロスは戦斧を持つ右腕を上半身ごとねじり上げ、振り落とす一瞬のタイミングを計っている。
「術式構造解析完了……結合因子破壊」
特に何の実りも無い会話中にシルヴァールの身に浸透する毒の種別、術式、解呪法は既に解明済みだ。
シルヴァールと結合していた毒を分解し、欠落した下半身の再構築を再開する。
シルヴァールと結合していた毒を分解し、欠落した下半身の再構築を再開する。
≪小賢しいね! もっかい喰らいな!≫
「不要だ」
ワイバーンの嘴が大きく開き、毒のブレスが吐き出されるが、二度も同じ手は通用せん。構成情報を把握しているなら尚の事だ。
毒のブレスはそれ自体が毒性持っているのでは無く、ブレスに触れたものが術者の意思に関係無く、猛毒の呪いにかかるというものだ。
そして、ワイバーンから吐き出されるブレスは唾液などの分泌液を霧状にして噴出しており、それは魔術的な物、精神的な物ではなく、れっきとした物質だ。
回避は容易いが、それだけでは面白くない。左掌の上に乗せた球状の竜巻を掴み、毒のブレスに突きつける。
毒のブレスはそれ自体が毒性持っているのでは無く、ブレスに触れたものが術者の意思に関係無く、猛毒の呪いにかかるというものだ。
そして、ワイバーンから吐き出されるブレスは唾液などの分泌液を霧状にして噴出しており、それは魔術的な物、精神的な物ではなく、れっきとした物質だ。
回避は容易いが、それだけでは面白くない。左掌の上に乗せた球状の竜巻を掴み、毒のブレスに突きつける。
「術式結合解除」
シルヴァールの左手に握り締められた球状の竜巻を魔力による固着から解き放ち、ミノタウロスに強い突風を吹き付ける。
≪お……の……れ……≫
「安易に呪いなど使うから、返される羽目になる」
ミノタウロスを吹き付けた突風にはワイバーンのブレスが含まれており、奴等の意思に関係無く、ミノタウロスの身に猛毒の呪いが降りかかり、巨躯の崩壊が始まる。
≪こ、このヤロウ!!≫
≪手出し無用……! 我が身と引き換えに……! その首……! もらい受ける……!≫
≪貴様自身の首で満足しておけ! ハイソニックインパクト!≫
ミノタウロスは足場になっているワイバーンを制止を命じ、石突が背中に付くまで大きく振りかぶった戦斧をシルヴァールの頭上目掛けて振り落とす。
竜巻を纏ったシルヴァールの右腕で強烈な斬撃を受け止めるが、圧倒的な体格差の前では拮抗状態も一瞬、ジリジリと戦斧が眼前に迫る。
竜巻を纏ったシルヴァールの右腕で強烈な斬撃を受け止めるが、圧倒的な体格差の前では拮抗状態も一瞬、ジリジリと戦斧が眼前に迫る。
「チッ……組織崩壊が始まった肉体でよくやる……!」
≪言ったはずだ……! 貴様の首はァ……!≫
ミノタウロスは戦斧で両手で握り、強引に振り抜いて、シルヴァールの右腕を弾き、竜巻を霧散させた。
≪もらい受けるとォォォォォ……!≫
咆哮と共に両腕で振り上げられた戦斧が再び、シルヴァールの頭上へと振り落とされる。
奴等が何者かは知らんが、こんな所で敗北してやる理由も無ければ、そんな暇も無い。
奴等が何者かは知らんが、こんな所で敗北してやる理由も無ければ、そんな暇も無い。
「貴様自身の首で満足しておけ……俺はそう言ったはずだ」
圧倒的な体格差があるにも関わらず、機動力で翻弄せず至近距離から撃ち合ったのには意味がある。
奴等は多くの刻印装甲を取り込んでいる上に、魔族とも人間とも異なる存在で、俺やシルヴァールの魔術兵装を知り尽くしている様子だった。
奴等は多くの刻印装甲を取り込んでいる上に、魔族とも人間とも異なる存在で、俺やシルヴァールの魔術兵装を知り尽くしている様子だった。
確実に仕留めるには一撃で敵を粉砕するだけの威力がある魔術兵装を具現化しなければならない。
だが、大技の術式を構築する場合、圧倒的な破壊力を誇るが故に膨大な魔力の収束を感知されてしまう。
魔力の放出量で使用する魔術兵装すら悟られる可能性がある。
だが、大技の術式を構築する場合、圧倒的な破壊力を誇るが故に膨大な魔力の収束を感知されてしまう。
魔力の放出量で使用する魔術兵装すら悟られる可能性がある。
そこで俺は自分自身が置かれている状況を利用し、賭けに近い一計を講じた。
刻印装甲は適合者の魔力を増幅し、顕界にその存在を視覚化しており、それ自体が膨大な魔力の塊になっている。
そして、おあつらえ向きにシルヴァールの下半身は欠落している。
刻印装甲は適合者の魔力を増幅し、顕界にその存在を視覚化しており、それ自体が膨大な魔力の塊になっている。
そして、おあつらえ向きにシルヴァールの下半身は欠落している。
再構築を中断し、同等量の魔力で魔術兵装の構築。更にハイソニックインパクトで魔術兵装を構築している右腕を隠し、機会を虎視眈々と狙う。
その機会はすぐに訪れた。戦斧による直接近接攻撃。あえて相手の戦い方に合わせ、回避不可能な零距離で一気に魔術兵装の構築を完成させる。
その機会はすぐに訪れた。戦斧による直接近接攻撃。あえて相手の戦い方に合わせ、回避不可能な零距離で一気に魔術兵装の構築を完成させる。
右腕が弾かれ、竜巻が霧散すると同時に返す刀で収束していた魔力を視覚化し、シルヴァールの身の丈程もある巨大な黒槍を顕現。
ミノタウロスが振り落とした戦斧を受け流し、その穂先を奴の眼前に突き付ける。
ミノタウロスが振り落とした戦斧を受け流し、その穂先を奴の眼前に突き付ける。
≪グラビトン……ランサー……!? ク……クカカカカカ!! 見事……!!≫
≪汝、呪われた顕界に踊りし者。その無慈悲な暴を以って、堕落せし愚物に絶望を刻め! グラビトンランサー!!≫
詠唱終了と共に至近距離から放たれる漆黒の波動を前に、己の敗北を悟ったミノタウロスは斧を構える右腕を下ろし、重力の結界に押し潰され、塵となって空の彼方へと消え去った。
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