統合歴330年某日――
守屋一刀が、その想い人である霧坂茜華を救出するために新たな力を伴い、ホルン山脈で激闘を繰り広げている頃、砕牙州庁舎で別の物語が繰り広げられていた。
庁舎の中は明かりが消え、ひっそりと静まり返っている。そんな暗がりの中を赤い髪の青年が、ゆっくりとした足取りで、水音を含んだ足音を響かせていた。
青年が通り過ぎた後には人の形をした、ナニカが其処彼処に転がっており、一見して凄惨な殺戮の舞台になっている。
庁舎の中は明かりが消え、ひっそりと静まり返っている。そんな暗がりの中を赤い髪の青年が、ゆっくりとした足取りで、水音を含んだ足音を響かせていた。
青年が通り過ぎた後には人の形をした、ナニカが其処彼処に転がっており、一見して凄惨な殺戮の舞台になっている。
だが、青年は自らの手でもたらした惨劇に対し何の感情も持たず、歩を進めた。
道しるべの様に折り重なる肉塊に彼は、何らかの人間的な反応を示すそぶり一つ見せずに。
何故なら、肉の残骸から溢れ出る鮮血が、絵の具のパレットをブチ撒けたような明らかにヒトのソレで無い色をしているからだ。
道しるべの様に折り重なる肉塊に彼は、何らかの人間的な反応を示すそぶり一つ見せずに。
何故なら、肉の残骸から溢れ出る鮮血が、絵の具のパレットをブチ撒けたような明らかにヒトのソレで無い色をしているからだ。
そして、時間の経過と共に肉の残骸と鮮血は土塊に変わり、廊下のいたる所に砂山が盛られた体裁になっている。
砂山が崩れ落ちる音に青年は、進んでいた廊下をふと振り返った。
砂山が崩れ落ちる音に青年は、進んでいた廊下をふと振り返った。
2~3秒ほど眺めて――
「明日、掃除する人は大変だなぁ……」
――と呟く様に一人ごちた。
そして、その内心には多くの職員を驚かせてしまうであろう事と、清掃に多大な労力を強いるであろう事に対する申し訳無さが渦巻き、表情にもそれが表れていた。
目の前の残骸が土塊に成り果てる様を確認した青年は進行方向へと振り返りながら、右腕を撓らせ、音も無く忍び寄ってきた人形の首を刎ね飛ばした。
目の前の残骸が土塊に成り果てる様を確認した青年は進行方向へと振り返りながら、右腕を撓らせ、音も無く忍び寄ってきた人形の首を刎ね飛ばした。
「紛らわしい格好をするなよ……一瞬、躊躇ったじゃないか」
青年は憮然とした表情で州庁職員の格好をした残骸を押し退け、刎ね飛ばした首を踏み潰した。
水風船の様に割れた頭部から鮮血と脳漿が床に広がり、青年の靴を汚した。
水風船の様に割れた頭部から鮮血と脳漿が床に広がり、青年の靴を汚した。
「平和な時代にそぐわないんだよね……汚い、臭い、気持ち悪い上に空気が読めていない。そこの所、どう考えているのかな?」
青年は州長室の扉を開き、ありったけの侮蔑を込めた声色で中に居る人物に問いかけた。
「時代にそぐわない。その一点に限れば、貴方様もご同類でしょう……君嶋悠」
部屋の真ん中に鎮座する黒檀のデスクの上に腰掛けた、ワインレッドのスーツに身を包んだ男が、軽薄そうな笑みを浮かべながら返答した。
「だったら、僕が死ぬのを邪魔しないでもらいたいところなんだけどね」
「貴方様に死なれては我々の主の復活は遠退く一方。今しばらく、生き永らえて頂きませんと」
男は大仰に両手を広げ、君嶋悠は忌々しげな表情で眉間に皺を寄せた。
「暫く見ない内に人間の真似事が上手い奴が増えたものだね」
「ええ、困ったものです。世界はより高度に。そして、複雑に……以前の様に気軽に獲って食うという事も出来なくなりました。
その上、エーテルエネルギーは全て貴方様に掌握され、この有様です。まあ、能力が使えないお陰で50年は貴方様の目を欺く事が出来ました」
その上、エーテルエネルギーは全て貴方様に掌握され、この有様です。まあ、能力が使えないお陰で50年は貴方様の目を欺く事が出来ました」
男は君嶋から放たれる怒気を気にした風も無く、ネクタイを摘みながら上機嫌な様子で饒舌に語る。
「50年ね……肝心な所で失態を犯したのでは話にならないよ」
「果たしてそうでしょうか? 貴方様が此処に来た時点で我々の目論見は成功したも同然ですよ! この時代の英雄が新たな力の器を手にしたとしても、それは英雄たらしめる器にはなりません!
何より、この時代の英雄、守屋一刀! そして、その覚醒を促す鍵となる存在、霧坂茜華は我々の手の内にあります! 英雄と、その鍵とは言え、未覚醒状態ならばただの人間ですからね!
始末しようと思えば、いつでも始末する事が出来る! それが暫定的な死であっても、貴方様の生を引き伸ばすには充分過ぎるのですよ!」
何より、この時代の英雄、守屋一刀! そして、その覚醒を促す鍵となる存在、霧坂茜華は我々の手の内にあります! 英雄と、その鍵とは言え、未覚醒状態ならばただの人間ですからね!
始末しようと思えば、いつでも始末する事が出来る! それが暫定的な死であっても、貴方様の生を引き伸ばすには充分過ぎるのですよ!」
男は満悦の体で鼻息荒く、声高に多弁を振るい、勝ち誇ったかのように君嶋をまくし立てた。
「本当に……人間の真似事が上手くなったのは見た目だけで思考力は奈落の底から這い出たばかりの頃と変わらずか。滑稽を通り越して殺意を覚えるよ」
「フフ……私の能力では貴方様に抗う事など出来ませんが、あの君嶋悠を出し抜く事が出来たというだけで満足ですよ。
それに我々が何をしようと貴方様が我々に差し向ける殺意は些かも衰えず、増大する事も無いではありませんか」
それに我々が何をしようと貴方様が我々に差し向ける殺意は些かも衰えず、増大する事も無いではありませんか」
「ああ。全くだね……君等のお陰で、いつまで経っても死ねやしない。だけど、今回の一件で多少なりとも寿命を減らす事が出来たし、それを素直に喜ぶ事にするよ」
「寿命を……減らす事が……出来た?」
――寿命が減った。君嶋の一言に男は全身が凍結したかのように動きを止め、狼狽の表情を浮かべた。
「馬鹿な事を……この世界。この時代の英雄は守屋一刀のはず……! でなければ、人間の範疇を遥かに越えた戦闘能力、成長速度の説明が付かないッ!
そして、霧坂茜華の異常な生命力! 英雄を覚醒させるためだけに存在し、英雄にその生を縛られた鍵のはずなのだッ!」
そして、霧坂茜華の異常な生命力! 英雄を覚醒させるためだけに存在し、英雄にその生を縛られた鍵のはずなのだッ!」
男は黒檀のデスクから飛び降り、拳を振り上げ、悲鳴混じりの怒鳴り声を上げた。君嶋はその様を見下げ果てたかのような表情を浮かべた。
「莫迦だと分かっていたつもりだけど、此処までとはね……残っているのは怨念と空腹だけかい? 僕が言っているのは、そういう事じゃない。
君等が守屋一刀に目を付け始めたのが去年の5月から。そして、去年の12月、あからさまな干渉を仕掛けたよね?」
君等が守屋一刀に目を付け始めたのが去年の5月から。そして、去年の12月、あからさまな干渉を仕掛けたよね?」
男は、はっとしたような表情になり君嶋を見上げた。
「奈落の獣を彼にけしかけておいて、気付かないとでも思ったのかい?」
「な、何故だ!? 偽装は完璧だったはずだぞ!?」
「あの事件で霧坂茜華が重傷を負うだけで死ななかった事や、ただの人間のはずの守屋一刀が、ただの競技用マシンで奈落の獣を倒したと聞いて、彼等が英雄と鍵だという事を確信した。
それで調べてみれば色々と出て来るじゃないか……君等が僕の動きを警戒しながら、彼等に干渉する様は滑稽を極めていて、それなりに笑わせてもらったよ」
それで調べてみれば色々と出て来るじゃないか……君等が僕の動きを警戒しながら、彼等に干渉する様は滑稽を極めていて、それなりに笑わせてもらったよ」
男は君嶋悠の動きを警戒しているつもりで、その動きを全て看破されていた事に慄き、顔面を蒼白に染め上げた。
君嶋は化物でもそんな顔が出来るのかと面白くなさげに鼻を鳴らし、男に刺すような視線を放ち、言葉を続けた。
君嶋は化物でもそんな顔が出来るのかと面白くなさげに鼻を鳴らし、男に刺すような視線を放ち、言葉を続けた。
「と言うわけで、此処に来るついでに守屋一刀と、霧坂茜華を狙っていた奈落の獣には全員、輪廻から外れてもらった……残った獣は君一人。
そして、戦いの舞台に立っているのは人間だけ。彼が望んだ通り、自らの意思で自らの命を賭け、守りたいと思った者を守って、物語はハッピーエンドってわけさ」
そして、戦いの舞台に立っているのは人間だけ。彼が望んだ通り、自らの意思で自らの命を賭け、守りたいと思った者を守って、物語はハッピーエンドってわけさ」
男の目論見は全て打ち砕かれ、誘き寄せたつもりの君嶋悠は全ての策を打ち砕いた上で、最後の異端を狩りに来ていた。
男は慌てふためき、一目散に窓際目指して駆け出し、凄まじい脚力で窓を突き破ろうと跳躍するが、男が窓に触れた瞬間、全身に電撃が走ったように痙攣させて床に倒れ込んだ。
男は慌てふためき、一目散に窓際目指して駆け出し、凄まじい脚力で窓を突き破ろうと跳躍するが、男が窓に触れた瞬間、全身に電撃が走ったように痙攣させて床に倒れ込んだ。
「莫迦だなぁ……逃げられるとでも思ったのかい? 230年前、『この』君嶋悠が持っていた能力が何だったか忘れたのかな?」
「シ……シングルナンバーの覚醒者……結界の奇術師……!」
男は怯えた表情で床にへたり込む。そして、剣呑な笑みを浮かべら、ゆっくりとした足取りで近付く君嶋を見上げ、呻く様に声を絞り出した。
「正解―― そうそう。彼等の顔って、君等に殺された僕の親友夫婦に瓜二つなんだよね。
まだ直接、顔を合わせた事は無いんだけど、写真を見た時は思わず、泣き出しそうになったよ。
そして、君等がまた彼等の命を狙っているって聞いた時は……」
まだ直接、顔を合わせた事は無いんだけど、写真を見た時は思わず、泣き出しそうになったよ。
そして、君等がまた彼等の命を狙っているって聞いた時は……」
君嶋は足と口を止めて天井を見上げ、右手で自分自身の顔を覆った。
「黙れよ……魔術師、魔王。彼に一番近かったのは僕だ。彼を狙った奴を殺すのは僕の役だ……!」
そして、君嶋は見上げていた天井から視線を落とし、再び、男を見下ろし、口の端を吊り上げた。
「守屋刀十狼を殺し、彼の転生体、守屋一刀を殺そうとしたお前達を許さない。それが君嶋悠の総意でね……まあ、お前は僕が殺すよ。こればっかりは自分自身が相手でも誰にも譲れないんだ」
「は……ははは……成る程、守屋の影に常に君嶋の姿あったのはそういう事でしたか……策など意味を成す筈も無い……」
男は君嶋の手首から伸びる四本の黄剣が自らの腹を貫いている様を見て自嘲気味に笑って、苦悶の表情を浮かべた。
「そうだね。最初から彼しか見ていなかった。勝手に君等が殺されるために視界の中に入ってきた。ただそれだけの事さ」
君嶋は面白くなさそうな表情で四本の黄剣を引き抜いて、手首を翻し、黄剣の数を十本に増やし、再び、男の腹を貫いた。
苦しげに呻く男の声を無視して、君嶋は黄剣の柄尻に拳を振り落とし、黄剣の刀身を樹木の様に枝分かれさせ、男の体内を黄剣で埋め尽くす。
苦しげに呻く男の声を無視して、君嶋は黄剣の柄尻に拳を振り落とし、黄剣の刀身を樹木の様に枝分かれさせ、男の体内を黄剣で埋め尽くす。
「苦しみ抜いて死なせてやりたいんだけどね……どうせ、君等には大切な人を奪われる苦しみや、悲しみなんて分からないよね?」
英雄――
人の身でありながら、人智を遥かに超えた能力や才能などを持つ、その時代や社会を象徴する善性存在。
人の身でありながら、人智を遥かに超えた能力や才能などを持つ、その時代や社会を象徴する善性存在。
鍵――
英雄が英雄的行動をする際の切欠。人間が英雄へと覚醒する転機となる存在。
英雄が英雄的行動をする際の切欠。人間が英雄へと覚醒する転機となる存在。
例えば、守屋一刀が社会秩序を乱す違法ギア、テロリスト。八坂高校の地下にいた奈落の獣と戦う時、其処には必ず一つの共通点があった。
守屋一刀がスポーツギア部に入部した直後、違法ギアによって八坂高校が占拠されたとき、彼は彼女の口車に乗せられる形でこれらを撃退している。
図書館が占拠された時も彼女を含む大勢を守るため、なし崩し的に火器で武装したテロリストを相手に素手で立ち向かった。
地区大会決勝戦、違法ギア50機による襲撃事件、守屋一刀は彼女を守るためにフルドライブを起動させ、ビーム兵器に対する恐怖心を一時的に克服した。
体育祭では囚われた彼女を救出するためにアームドギアを前に生身を晒した。聖誕祭で地下に飲み込まれた彼女を救い出すために未知の脅威、奈落の獣とも戦った。
図書館が占拠された時も彼女を含む大勢を守るため、なし崩し的に火器で武装したテロリストを相手に素手で立ち向かった。
地区大会決勝戦、違法ギア50機による襲撃事件、守屋一刀は彼女を守るためにフルドライブを起動させ、ビーム兵器に対する恐怖心を一時的に克服した。
体育祭では囚われた彼女を救出するためにアームドギアを前に生身を晒した。聖誕祭で地下に飲み込まれた彼女を救い出すために未知の脅威、奈落の獣とも戦った。
彼が望まない戦いに身を投じる時、それは全て彼女――霧坂茜華の存在が切欠となっていた。
彼女が原因で繰り広げた戦いは衆目に晒され、その功績はニュースとなって地球全土を駆け巡り、結果として守屋一刀は大衆や社会にとって善性的な存在であると認知された。
彼女が原因で繰り広げた戦いは衆目に晒され、その功績はニュースとなって地球全土を駆け巡り、結果として守屋一刀は大衆や社会にとって善性的な存在であると認知された。
事実、これが彼女で無ければ守屋一刀が戦う事など無かったのだ。
八坂高校が占拠された時も、ほとぼりが冷めるまで身を隠すつもりでいた。霧坂茜華がいなければ、そもそも図書館になど行っていない。
ビームコートダガーの脅威に晒されている人間が霧坂で無ければ、愛機と我が身を犠牲にしてまで庇おうとする事は無かった。
アームドギアの前に生身を晒すなど、もっての他だ。聖誕祭の大規模な地盤沈下に飲み込まれたのが霧坂茜華で無ければ、地下へ突入する前に諦めている。
ビームコートダガーの脅威に晒されている人間が霧坂で無ければ、愛機と我が身を犠牲にしてまで庇おうとする事は無かった。
アームドギアの前に生身を晒すなど、もっての他だ。聖誕祭の大規模な地盤沈下に飲み込まれたのが霧坂茜華で無ければ、地下へ突入する前に諦めている。
では、何故、霧坂茜華のためなら戦う事が出来るのか?
あらゆる意味で霧坂茜華は守屋一刀にとって、何者にも変え難い唯一無二の存在だったからだ。
――否。霧坂茜華は守屋一刀にとって唯一無二の戦う理由で無ければならなかった。それが人間を英雄へと促す鍵と呼ばれる存在の役割だからだ。
他にも、この二人の生い立ちにも何かと不審な点は多い。
まずは守屋一刀。紅眼種にも匹敵する人並み外れた身体能力と、戦闘能力。それは幼少期からの訓練によって培われたものとされている。
だが、士官学校の厳しい訓練を乗り越えてきたスペシャリストの候補生ですら、毎年、二割以上の脱落者を出す程の守屋剣の訓練を何故、児童が乗り越えられたのか?
どんなに人並み外れた才気に満ち溢れているとしても、訓練開始の時点で、それもただの児童が戦士として高い完成度を持っているはずが無い。
だが、士官学校の厳しい訓練を乗り越えてきたスペシャリストの候補生ですら、毎年、二割以上の脱落者を出す程の守屋剣の訓練を何故、児童が乗り越えられたのか?
どんなに人並み外れた才気に満ち溢れているとしても、訓練開始の時点で、それもただの児童が戦士として高い完成度を持っているはずが無い。
そして、何故、守屋剣は幼い我が子の為していることに何の疑問も持たなかったのか?
いや。そもそも、何故、物心付いたばかりの子供にそんな危険な真似をさせようと思ったのか?
いや。そもそも、何故、物心付いたばかりの子供にそんな危険な真似をさせようと思ったのか?
霧坂茜華にしてもそうだ。守屋一刀はクラスメイト達から彼女の兄、霧坂涼夜が神隠しにあって以来、ふさぎがちな性格になったと聞いている。
だが、ふさぎがちだったのは霧坂涼夜の失踪が原因ではない。元から霧坂涼夜が将来を案じるほど、兄への依存心が強く、引っ込み思案でふさぎがちな少女だった。
それが高校入学を切欠に、何の前触れも無く、唐突に人当たりと面倒見の良い少女へと変わった。そして、その事に何故、誰も疑問を持たなかったのか?
だが、ふさぎがちだったのは霧坂涼夜の失踪が原因ではない。元から霧坂涼夜が将来を案じるほど、兄への依存心が強く、引っ込み思案でふさぎがちな少女だった。
それが高校入学を切欠に、何の前触れも無く、唐突に人当たりと面倒見の良い少女へと変わった。そして、その事に何故、誰も疑問を持たなかったのか?
それだけでは無い。100メートルにも渡る大規模な地盤沈下に飲み込まれていながらも、命に別状は無く、一見して大惨事に巻き込まれた被害者には見えない程だった。
驚異的な生命力と言えば、守屋一刀もそうだ。右手が弾け飛ぶ程の大口径を全身に撃ち込まれているにも関わらず、脅威を完全に排除するまで倒れ伏す事は無かった。
驚異的な生命力と言えば、守屋一刀もそうだ。右手が弾け飛ぶ程の大口径を全身に撃ち込まれているにも関わらず、脅威を完全に排除するまで倒れ伏す事は無かった。
強制力――
運や偶然、切欠、記憶の改竄、思考の改変という形で、不可解な事象を社会に適合させ、英雄や鍵に対する矯正機能。
守屋一刀なら、その身に宿る力は幼少期からの訓練の賜物、全身に銃弾を浴びても無事だったのは怒りと気力。
霧坂茜華なら、人が変わったのは兄との別離から立ち直ったから、地盤沈下に飲み込まれても無事だったのは運が良かったから。
運や偶然、切欠、記憶の改竄、思考の改変という形で、不可解な事象を社会に適合させ、英雄や鍵に対する矯正機能。
守屋一刀なら、その身に宿る力は幼少期からの訓練の賜物、全身に銃弾を浴びても無事だったのは怒りと気力。
霧坂茜華なら、人が変わったのは兄との別離から立ち直ったから、地盤沈下に飲み込まれても無事だったのは運が良かったから。
そこに説得力は必要無い。理由に不審な点や矛盾点があったとしても、強制力によって世界規模の改竄を受ければ、それに気付く者が現れる事は無い。
現に守屋一刀が訓練を幼少期から正規兵同様にこなしてきた事に対し、守屋親子は何も疑問に感じていない。
霧坂茜華が幼少期からふさぎがちな性格だったという事実は本人、家族含めて人々の記憶から消え去っている。
霧坂茜華が幼少期からふさぎがちな性格だったという事実は本人、家族含めて人々の記憶から消え去っている。
何故、この世界にそんな機能が存在しているか、多くの事を知る君嶋悠ですら分かっていない。
今更調べようにも、それを作った者はその痕跡を含めて君嶋悠の手によって抹殺されているからだ。
だが、その張本人、君嶋悠でも英雄と、ただの人間とでは決定的な違いがある事を知っている。
今更調べようにも、それを作った者はその痕跡を含めて君嶋悠の手によって抹殺されているからだ。
だが、その張本人、君嶋悠でも英雄と、ただの人間とでは決定的な違いがある事を知っている。
――守屋一刀が八坂高校の地下で戦った異形の存在
――君嶋悠が砕牙州庁舎で一方的に虐殺した強制力によって砕牙州を乗っ取っていた男
――霧坂涼夜が異世界で戦った異常固体や魔族に紛れていた第三の勢力
人類だけで無く、世界その物に対し、悪意と殺意を振りまく存在、奈落の獣――それを完全に殺し切る能力を持っている事である。
悪性存在の命が断たれた時、その魂は終焉の地、奈落へと封じられ、永い時を経て、善悪の無い白紙の魂に浄化され、転生という形で現世へと送り出される。
だが、奈落には時間や次元の概念が無く、過去現在未来、あらゆる世界と繋がっており、魂の受け皿としての許容限界を超え、その機能を果たす事が出来ないようになっていた。
それでも、悪性存在の魂はあらゆる世界、全ての時代から絶え間無く、無尽蔵に送り続けられ、その結果として浄化の済んでいない悪意を持った魂が現世へと弾き出されるようになった。
だが、英雄に限れば、奈落送りのプロセスが適応される事は無い。英雄の手による悪性存在の殺傷は完全なる魂の消滅、輪廻転生の輪から除外される事を意味している。
だが、奈落には時間や次元の概念が無く、過去現在未来、あらゆる世界と繋がっており、魂の受け皿としての許容限界を超え、その機能を果たす事が出来ないようになっていた。
それでも、悪性存在の魂はあらゆる世界、全ての時代から絶え間無く、無尽蔵に送り続けられ、その結果として浄化の済んでいない悪意を持った魂が現世へと弾き出されるようになった。
だが、英雄に限れば、奈落送りのプロセスが適応される事は無い。英雄の手による悪性存在の殺傷は完全なる魂の消滅、輪廻転生の輪から除外される事を意味している。
運命が君嶋悠に下した命令の一つ。それは彼自身もまた英雄の一人として、世界を渡り歩き、英雄として選ばれた候補者達を完全なる英雄としての覚醒を促す事。
だから、君嶋悠は守屋一刀が表舞台で戦っている最中、舞台裏で蠢く奈落の獣達を抹殺し、人間対人間の図式を作り上げ、真なる覚醒へと導いたのであった。
だから、君嶋悠は守屋一刀が表舞台で戦っている最中、舞台裏で蠢く奈落の獣達を抹殺し、人間対人間の図式を作り上げ、真なる覚醒へと導いたのであった。
そして、次なる一手として守屋一刀を招き、自らが知る世界の知識を与えていた。
「英雄候補が覚醒する度に、こんな面倒な座学みたいな事をやっているのか?」
守屋一刀の疑問に君嶋悠は暫く、考え込んだ末に適切な答えを見つける事が出来たらしく、大きく相槌を打った。
「本来なら一人の英雄に対して、此処まで肩入れする事は無いさ。僕は傍観者に過ぎないんだけど、孫ってのは無条件に可愛いものだからね。必要以上に肩入れもしたくもなるさ」
守屋一刀が幼少期から見ている悪夢。それは夢では無く、統合暦100年に君嶋悠と、無二の親友、守屋刀十狼を襲った悲劇の記憶だった。
あの日、守屋刀十狼は守屋の長として、領地を授かると同時に13歳になる彼の妻が新たな命を、この世に産み落としたのであった。
度重なる吉事を祝うために君嶋悠は親友の元へと訪れたが、そこで彼を待ち受けていたのは廃墟と化した守屋の村、変わり果てた刀十狼の遺体だった。
あの日、守屋刀十狼は守屋の長として、領地を授かると同時に13歳になる彼の妻が新たな命を、この世に産み落としたのであった。
度重なる吉事を祝うために君嶋悠は親友の元へと訪れたが、そこで彼を待ち受けていたのは廃墟と化した守屋の村、変わり果てた刀十狼の遺体だった。
1人残らず、虐殺されたかのように見えたが、ただ1人。たった1人だけだが、生存者がいた。
守屋刀十狼の妻が、その身を犠牲にして守り抜いた唯一の生存者。それが刀十狼の実子であった。
守屋刀十狼の妻が、その身を犠牲にして守り抜いた唯一の生存者。それが刀十狼の実子であった。
君嶋悠は刀十狼が残した守屋家最後の血筋を絶やしてはなるまいと保護し、君嶋の食客。事実上の養子として扱った。
刀十狼の子を保護して数年後、強制力の影響で死の概念を奪われた君嶋悠は、実に200年以上もの間、守屋の生と死を見守り続けてきた。
そんな彼にとって、守屋の新たな命に対し、孫でも見るかのような感情に陥るのは無理なからぬ事だった。
刀十狼の子を保護して数年後、強制力の影響で死の概念を奪われた君嶋悠は、実に200年以上もの間、守屋の生と死を見守り続けてきた。
そんな彼にとって、守屋の新たな命に対し、孫でも見るかのような感情に陥るのは無理なからぬ事だった。
その中でも守屋一刀、守屋剣は今は亡き親友、守屋刀十狼と瓜二つという事もあって、君嶋悠にとってこの二人は特に可愛い孫だった。
その上、英雄モリヤの鍵、霧坂茜華もまた、刀十狼の妻と瓜二つという事もあり、まるで親友夫婦が230年の時を経て、再び結ばれたようにも見え、その喜びは格別のものだった。
その上、英雄モリヤの鍵、霧坂茜華もまた、刀十狼の妻と瓜二つという事もあり、まるで親友夫婦が230年の時を経て、再び結ばれたようにも見え、その喜びは格別のものだった。
(存外、ロマンチストな男だったからなぁ。一刀が刀十狼の記憶と力を持っているのは、案外そういう理由だったりして……覚醒条件も230年前のやり直しみたいなものだしね)
覚醒条件――
英雄として選ばれた段階では、強制力によって様々な影響を大きく受けるようになるだけで、奈落の獣の魂を消滅させるといった英雄の力を扱う事が出来るわけでは無い。
英雄としての真なる覚醒に至るためには、各英雄に与えられた異なる条件を満たさなければならない。
英雄として選ばれた段階では、強制力によって様々な影響を大きく受けるようになるだけで、奈落の獣の魂を消滅させるといった英雄の力を扱う事が出来るわけでは無い。
英雄としての真なる覚醒に至るためには、各英雄に与えられた異なる条件を満たさなければならない。
守屋一刀の覚醒条件。それは――
(刀十狼……君が230年前に叶えたかったであろう望みは、新たな世代が叶えてくれたよ)
「しっかし……父さんと言い、君嶋さんと言い、機密情報をポンポンと俺に喋り過ぎなんじゃないのか?」
「確かに僕にとって守屋家の血統は特別な存在さ。だけど、肩入れしている理由はそれだけじゃないよ?」
一言に英雄と言っても、役割は様々。その中でも君嶋悠という英雄は他の英雄とは、かなり毛色の異なる存在だった。
英雄候補第一号でありながら、未だ真なる覚醒を迎えていない。それにも関わらず、奈落の獣の魂を消滅させる能力を持ち、英雄としての自覚を持ち、本来ならば知り得るはずの無い自分自身の覚醒条件を把握している唯一の英雄。
その覚醒条件と、役割は全ての英雄の覚醒を促し、真なる覚醒を見届け、世界を次のステージへと進ませることにある。
英雄候補第一号でありながら、未だ真なる覚醒を迎えていない。それにも関わらず、奈落の獣の魂を消滅させる能力を持ち、英雄としての自覚を持ち、本来ならば知り得るはずの無い自分自身の覚醒条件を把握している唯一の英雄。
その覚醒条件と、役割は全ての英雄の覚醒を促し、真なる覚醒を見届け、世界を次のステージへと進ませることにある。
そういった特殊な役割を持っているのは守屋一刀も同じだった。英雄の中でも特殊な存在であるからこそ、守屋一刀は世界や運命について、より多くの事を知る権利と義務があった。
「うまい話には裏があるってね。これがうまい話がどうかはさて置き……僕にも目論みはあるんだよ」
「例えば?」
「英雄モリヤの世界に強引な干渉を何度も仕掛けたせいで、強制力の指向性が奈落の獣寄りになってきている。そろそろ、自重しないと他の英雄達の世界に悪影響が出かねないんだ」
「何を悠長な事を仰っていますか? もうとっくに悪影響が出ていますよ?」
突如として少女の無邪気な声が響き渡り、君嶋悠の影から物語の新たな導き手が飛び出した。
身の丈130センチメートル程、真っ白なフリルやリボンをあしらった、真っ黒なドレスと帽子をかぶった色白の少女。
身の丈130センチメートル程、真っ白なフリルやリボンをあしらった、真っ黒なドレスと帽子をかぶった色白の少女。
「な……君嶋さん、この子は……?」
「ああ。人間じゃないけど、あんまり害は無いから心配しなくて良いよ。彼女の名は来須。別の世界の英雄の鍵さ」
「魔王様、こんにちは! そして、初めまして統合世界最後の英雄さん!」
君嶋悠の影の中から現れた少女、来須はスカートの裾を摘み上げながら、お辞儀をしながら挨拶の言葉を述べた。
「来須……室内では帽子を取るように。それと今の僕は魔王じゃないよ」
君嶋悠の中には四つの人格と肉体が存在している。主人格にして、複数の人格を生み出した翁。
砕牙州庁舎で戦いを繰り広げ、守屋一刀をこの地に呼び出し、現在、表に出ている第二の人格、奇術師。
八坂高校の地下で異常発生した奈落の獣の大群を一方的に虐殺した第四の人格、魔王。
そして、第三の人格、魔術師。
砕牙州庁舎で戦いを繰り広げ、守屋一刀をこの地に呼び出し、現在、表に出ている第二の人格、奇術師。
八坂高校の地下で異常発生した奈落の獣の大群を一方的に虐殺した第四の人格、魔王。
そして、第三の人格、魔術師。
これらは全て、別人格というよりも過去の肉体、精神、能力を翁自身の記憶から再現した存在で、別個の存在であると同時に同一の存在でもある。
しかし、来栖と呼ばれた少女にその事を何度言っても、面倒臭いからという理由で、君嶋悠の事を魔王に統一している。
しかし、来栖と呼ばれた少女にその事を何度言っても、面倒臭いからという理由で、君嶋悠の事を魔王に統一している。
「君嶋とか、悠とか他にも呼び方があるだろうに……」
悠が苦笑混じりに呟くと、来栖は脱いだ帽子を胸元に抱き寄せ、上目遣いで一言呟いた。
「地味なので何と無く、呼びたくないです! それよりも魔王様? 英雄キリサカの世界に影響が出てますよ? 彼自体が格の高い英雄ですから、今は何とかなってますけど」
「英雄キリサカ……って、まさか!?」
「君の恋人……になる予定の霧坂茜華の実兄。神隠し事件の被害者の1人、霧坂涼夜のことだよ」
1つの世界に対し、存在出来る英雄は1人だけだが、そう珍しくない頻度で同じ世界に複数人数の英雄が並び立つ場合がある。
そうなった場合、英雄が1人だけになるように強制力によって調整が行われる。その中でも、尤も多い調整手段が英雄に適した環境を持つ世界への転移である。
それが統合暦100年代から続く、神隠し事件の真相であった。
そうなった場合、英雄が1人だけになるように強制力によって調整が行われる。その中でも、尤も多い調整手段が英雄に適した環境を持つ世界への転移である。
それが統合暦100年代から続く、神隠し事件の真相であった。
「覚醒済みの英雄なら、他の英雄と並び立っても強制力が働く事は無いんだよな? 英雄キリサカの世界へ行く方法は無いのか?」
「勿論、ありますよ!」
そう言って、来須は悠の膝の上に飛び乗って、言葉を続けた。
「私は英雄ツキシロの鍵であると同時に英雄サイドの管理者でもありますから! 異世界の往来なんて楽勝ですよ!」
「但し……何かあるんだろ?」
来須は悠の胸に背もたれ、小さな拳で小さな胸を叩いて自信満々に答えるが、悠は来須の顔を覗き込んだ。表情は笑顔のままだが、その瞳には疑いの二文字が浮かんでいる。
来須は人間では無い。英雄寄りの人外だが必要とあらば、人を獲って食う事もある。そして、行動の端々に落とし穴を仕掛け、意味の無い嘘を吐く。
英雄として覚醒したのだからという理由で、とんでも無い事をやらかすのでは無いのかと、その行動に疑いを持ったのだった。
来須は人間では無い。英雄寄りの人外だが必要とあらば、人を獲って食う事もある。そして、行動の端々に落とし穴を仕掛け、意味の無い嘘を吐く。
英雄として覚醒したのだからという理由で、とんでも無い事をやらかすのでは無いのかと、その行動に疑いを持ったのだった。
「いやいや、ばっちり更正させられたのでー、変な事はしませんよ? ただ世界の枠組みの構造上、時間の流れ方と体感する時間が異なるからー
境界線を渡るのに往復で八ヶ月とー、こちら側と向こう側とでは時間の流れに三倍以上の開きがあるから、向こう側での最大活動時間は三日しか無いとかー」
境界線を渡るのに往復で八ヶ月とー、こちら側と向こう側とでは時間の流れに三倍以上の開きがあるから、向こう側での最大活動時間は三日しか無いとかー」
「何が楽勝なんだか……」
そう言って、悠は笑顔を崩さずに来須の頭を鷲掴みにして、首の骨を折りかねない程の勢いで激しく揺さぶった。
「良いじゃないですかー! 英雄キリサカの物語はエンディング目前なんですよ? 余程、何か変な事が起きない限り、その三日で決着が付くはずですってー!」
「ふーん」
悠は聞いているのか、聞いていないのか面白く無さそうな表情で来須の頭を揺する。
「ちょっとー! セットがー! 体感時間が三倍以上違うって言っても今行って連れて帰ってくれば、まだまだお兄ちゃんだから堪忍してぇ~!!」
「どちらにせよ、最低でも八ヶ月はかかるか……一刀、やってくれるかい?」
「本来の人類と魔族による対立の図式を維持し、奈落の獣とみたいな存在しないはずの化物共を排除すれば良いんだろ?
で、涼夜さんのやるべき事全てが終わったら、地球へ連れ帰って、霧坂と再会させてハッピーエンド。楽勝楽勝! やってやるさ!」
で、涼夜さんのやるべき事全てが終わったら、地球へ連れ帰って、霧坂と再会させてハッピーエンド。楽勝楽勝! やってやるさ!」
高校二年生の学生生活が殆ど遅れないのは残念だが、この手で神隠し事件を解決し、霧坂兄妹を再会させたいと思っていたところでもある。
一刀は怯むそぶりを見せる事無く、寧ろ、向こう側の世界での戦いに赴く事に意欲的な態度を見せた。
一刀は怯むそぶりを見せる事無く、寧ろ、向こう側の世界での戦いに赴く事に意欲的な態度を見せた。
「そう言ってくれると助かるよ……」
一刀は安綱に乗り込み、治療中に完成していた新兵器、要塞剣草薙を右腕で担ぎ上げ、閑散とした格納庫の真ん中に歩み出る。
そして、来須が向かい合うように立ち、印を描くと天井が裂け、真っ暗闇の何も無い空間からけたたましい音を立てながら、石や岩、木材などが来須と安綱の間に降り注いだ。
巻き上がる土煙が晴れると、そこには安綱でも悠々と通り抜ける事が出来るほどの巨大な扉がそびえ立っていた。
そして、来須が向かい合うように立ち、印を描くと天井が裂け、真っ暗闇の何も無い空間からけたたましい音を立てながら、石や岩、木材などが来須と安綱の間に降り注いだ。
巻き上がる土煙が晴れると、そこには安綱でも悠々と通り抜ける事が出来るほどの巨大な扉がそびえ立っていた。
「これが英雄キリサカの世界行きの次元の扉でーす! 片道四ヶ月かかりますが、体感時間は一瞬。決戦の地に直接送り込みますので、到着早々にやられないように備えておいて下さいねー!」
「分かった。安綱、光学迷彩、勾玉、鏡を起動。草薙はいつでも使える状態にしておけ」
<イエッサー>
姿を消した安綱が次元の扉をくぐると、派手な音を立てて、扉が閉まった。来須は満足毛な表情で頷き、指を弾くと地面が裂け、次元の扉と来須を飲み込んだ。
真っ暗な異空間の中を沈みながら、踵を鳴らして、異空間の中に小さな切れ目を入れて、その中に飛び込む。
飛び込んだ先は君嶋悠が居を構える、円卓の間。悠の膝の上に飛び乗るように落下した。
真っ暗な異空間の中を沈みながら、踵を鳴らして、異空間の中に小さな切れ目を入れて、その中に飛び込む。
飛び込んだ先は君嶋悠が居を構える、円卓の間。悠の膝の上に飛び乗るように落下した。
「英雄モリヤの異界送りは無事完了。今回は中々に新しい試みですね? 前例が無いだけに何とも言えませんけども、どうなんでしょう?」
「蓋を開けているまで何とも言えないね」
奈落の獣の介入を受けている霧坂涼夜の救援。これは守屋一刀を動かすための口実に過ぎない。
確かに窮地に陥っているかも知れないが、霧坂涼夜と、その器、シルヴァールが持つ力自体が強大なのだ。未覚醒状態でも十分に事足りる。
放って置いても自力で窮地を脱し、英雄として覚醒した後に地球へと帰還するであろう事など最初から分かり切っている。
確かに窮地に陥っているかも知れないが、霧坂涼夜と、その器、シルヴァールが持つ力自体が強大なのだ。未覚醒状態でも十分に事足りる。
放って置いても自力で窮地を脱し、英雄として覚醒した後に地球へと帰還するであろう事など最初から分かり切っている。
では、何故、守屋一刀……いや、英雄モリヤを異世界へと介入させたのか? それは英雄モリヤの覚醒不備の修正。それが、この二人の真意だった。
英雄には其々、象徴たる力の器がある。本来、英雄モリヤが持つ力の器は安綱である事を期待されていた。
だが、守屋一刀が衆目の前で正義を為したのは自らの肉体と、アイリス・ジョーカーのみ。
英雄には其々、象徴たる力の器がある。本来、英雄モリヤが持つ力の器は安綱である事を期待されていた。
だが、守屋一刀が衆目の前で正義を為したのは自らの肉体と、アイリス・ジョーカーのみ。
例の事件は無かった事にされ、霧坂を始めとする人質達も安綱の存在自体を知らず、守屋一刀が安綱を使って為した事は誰も知らない。
結果として現在の英雄モリヤの英雄たる所以、力の器は安綱では無く、アイリス・ジョーカーとなっている。
だが、アイリス・ジョーカーでは英雄モリヤの力を完全に引き出すだけの器にはなれず、安綱では守屋一刀として戦う事が出来ても、英雄モリヤとして戦う事は出来ない。
英雄として中途半端な存在。そこで君嶋悠は衆目の前で、存分に力を振るい正義を示す事の出来る環境へ、守屋一刀と安綱を投入し、力の器を安綱へと上書きを考えた。
だが、アイリス・ジョーカーでは英雄モリヤの力を完全に引き出すだけの器にはなれず、安綱では守屋一刀として戦う事が出来ても、英雄モリヤとして戦う事は出来ない。
英雄として中途半端な存在。そこで君嶋悠は衆目の前で、存分に力を振るい正義を示す事の出来る環境へ、守屋一刀と安綱を投入し、力の器を安綱へと上書きを考えた。
未覚醒状態の英雄ならいざ知らず、守屋一刀は既に英雄として覚醒している。器の上書きが出来るかどうかは、悠の発言通り、やってみなければ分からない。
未だかつて無い試みに来栖は不安なような、別になんでも無いような表情を浮かべている。
未だかつて無い試みに来栖は不安なような、別になんでも無いような表情を浮かべている。
だが、英雄モリヤが持つ役割は君嶋悠同様に他の英雄とは大きく異なる性質と役割を持っている。
それなのにも関わらず、エーテル能力、覚醒能力、魔力、霊力、ルーン、チャクラ、龍の因子といった異能の力を持たず、英雄としての格は低い。
ただの人間の英雄というだけでも先行きが不安だというのに、その上、覚醒不備という大きなハンデを抱えている。
それなのにも関わらず、エーテル能力、覚醒能力、魔力、霊力、ルーン、チャクラ、龍の因子といった異能の力を持たず、英雄としての格は低い。
ただの人間の英雄というだけでも先行きが不安だというのに、その上、覚醒不備という大きなハンデを抱えている。
全ての英雄が出揃い、その先のステージに辿り着いた時、、真っ先に危機が及ぶとすれば、それは英雄モリヤである事は間違いない。
そして、今の英雄モリヤでは脅威に太刀打ちする事は出来ない。それは彼の個人的な感情を抜きしても、避けねばならない事態だった。
そして、今の英雄モリヤでは脅威に太刀打ちする事は出来ない。それは彼の個人的な感情を抜きしても、避けねばならない事態だった。
「全ての英雄が出揃った先の未来。僕の望みを叶えるためにもね。
さて……行こうか。来栖。次は君の世界に迷い込んだ英雄の面倒を見てやらないとね」
さて……行こうか。来栖。次は君の世界に迷い込んだ英雄の面倒を見てやらないとね」
悠は膝の上に座った来須を抱きかかえ、立ち上がろうとすると来須がそれを制した。
「お気遣いには及びませんよー。あのヒトモドキなら放って置いても、本人と他の鍵達がどうにかしますから!」
来栖は君嶋悠の胸に背中を預け、足をばたつかせた。英雄候補とあまり上手くいっていないような口ぶりに君嶋悠は眉をひそめると、来栖は構わずに言葉を続けた。
「もう暫く、こちら側にいようかと思います。あの霧坂涼夜っていう英雄候補にちょっと興味が沸いてきたので」
「本当に若い男が好きだねぇ……」
「ちーがーいーまーすー! いや、二重三重の意味で大好きですけど!」
悠が呆れた様子で苦笑いをしながら乱暴に頭を撫でると、来須は顔色を羞恥に染めて、頭を振った。
「管理者として彼に興味があると言っているんですー!」
「管理者として……? 平和な世界から排出された英雄にしては異様に格が高いとは思うけど……何か変なところでもあるのかい?」
「どうも覚醒条件と結末が定まっていないんですよ。そして、英雄が紡ぐ結末はハッピーエンドが常のはずなのに……」
――ヒーローの前には必ず困難が立ちはだかるように出来ているんだよ
でね。それを痛快に打ち砕いてハッピーエンドで終わらせるからヒーローなんだよ――
以前に霧坂茜華が守屋一刀に伝えた言葉。彼女自身は何気なく口にした言葉だが、これこそが強制力によって捕らわれた英雄達の運命の行く末。その全てだ。
「英雄キリサカの運命にバッドエンドが存在すると?」
「覚醒条件の分岐点の中に……善を為して正義を示すハッピーエンド。悪を為して正義を示すバッドエンド。彼がどちらを選ぶかは分かりませんが、本当に今回は前例の無いことだらけで分からない事だらけですよ」
「さて、どうなる事やら……僕等は傍観者でしか無いから、下手に介入するわけにもいかないからね」
君嶋悠はもたれ掛かる来栖を抱き寄せると――
「世界は繋がっている。故に混沌。泡沫の夢は忘れ得ぬ明日になる」
――来須は歌うような口調で呟き、瞳を閉じた。
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