月面都市連合、それは月に存在する都市の集まりである。
元来、月面という場所は南極と同じように、様々な国家が共同で調査、開発などを行う共同開発地域であった。
しかしその裏では多くの国家が覇権を求め争ってきた場所でもある。
アメリカ、EU、中国、ロシアなど大国の思惑が激しく絡み合い、水面下での政治的取引は日常茶飯事。
そして時代は流れ、ステイツ、アジア統連、ユニオンの三強になってもこの争いは続くかに見えた。
だが、その争いは月に住む人々の一斉蜂起によった終局を迎えることになる。
結局の所、その土地のルールを決めるのはそこに住む人々なのだ。
そして月日は流れ、2507年現在。月は地獄と化していた。
元来、月面という場所は南極と同じように、様々な国家が共同で調査、開発などを行う共同開発地域であった。
しかしその裏では多くの国家が覇権を求め争ってきた場所でもある。
アメリカ、EU、中国、ロシアなど大国の思惑が激しく絡み合い、水面下での政治的取引は日常茶飯事。
そして時代は流れ、ステイツ、アジア統連、ユニオンの三強になってもこの争いは続くかに見えた。
だが、その争いは月に住む人々の一斉蜂起によった終局を迎えることになる。
結局の所、その土地のルールを決めるのはそこに住む人々なのだ。
そして月日は流れ、2507年現在。月は地獄と化していた。
バイラムが核を使用して早一ヶ月、ステイツのとある基地ではケントが一心不乱にバイラムの解析を行っていた。
寝る間も惜しみ、資料を引っ張り出し、金属という金属、たまに非金属にも手を出しながらバイラムの装甲
を調べ上げる。キーボードを叩き、様々な実験を行うがどれも手ごたえがない。
「ふぅ」
ケントは椅子に座りながらため息を付く。
薄暗い部屋の中にディスプレイの光が眩く光っている。壁には無数のメモ用紙が貼っており、細かい文字がび
っしりと書き連なっていた。机の上には数本の栄養ドリンクのビンと空のコーヒーカップが何日も時間を費やし
た事を示している。
甲高い電子音と共にディスプレイにエラーの文字が表示された。どうやらこれもだめだったらしい。
やっぱり駄目か、これはいよいよあの人の力を借りきゃいけないみたいだな。
ケントは背もたれに体重をかけて伸びをすると部屋に備え付けられている時計に目をやる。
時計の短針はすでに一の数字を示していた。
「もうこんな時間か」
ケントは立ち上がると壁にかけられているバックを手に取り部屋を出て行った。
寝る間も惜しみ、資料を引っ張り出し、金属という金属、たまに非金属にも手を出しながらバイラムの装甲
を調べ上げる。キーボードを叩き、様々な実験を行うがどれも手ごたえがない。
「ふぅ」
ケントは椅子に座りながらため息を付く。
薄暗い部屋の中にディスプレイの光が眩く光っている。壁には無数のメモ用紙が貼っており、細かい文字がび
っしりと書き連なっていた。机の上には数本の栄養ドリンクのビンと空のコーヒーカップが何日も時間を費やし
た事を示している。
甲高い電子音と共にディスプレイにエラーの文字が表示された。どうやらこれもだめだったらしい。
やっぱり駄目か、これはいよいよあの人の力を借りきゃいけないみたいだな。
ケントは背もたれに体重をかけて伸びをすると部屋に備え付けられている時計に目をやる。
時計の短針はすでに一の数字を示していた。
「もうこんな時間か」
ケントは立ち上がると壁にかけられているバックを手に取り部屋を出て行った。
「お疲れ様です」
運転席から守衛に挨拶をすると重たい鉄の門は金属音を響かせて横へと動いていく。
門が完全に開くとケントの車は基地の外へと飛び出していった。
車を走らせながらこれまでの事を考える。
そう、今から一週間ほど前のこと――。
運転席から守衛に挨拶をすると重たい鉄の門は金属音を響かせて横へと動いていく。
門が完全に開くとケントの車は基地の外へと飛び出していった。
車を走らせながらこれまでの事を考える。
そう、今から一週間ほど前のこと――。
「全く! これはどういうことだ!?」
ケントたち、軍部技術顧問全員の前に小冊子ほどの厚みの資料が机に叩きつけられる。
資料の中身は全てバイラムに関するものだ。
目の前にいる初老の男、ステイツ総司令官はこめかみに血管を浮き上がらせて怒鳴っている。
「材質、動力、組織。全て不明だと! ふざけているのか?」
「いいえ、ふざけていません。 これがバイラムの資料です」
ケントの言葉に総司令官の顔がどんどん赤くなっていく。
「なら、なんなんだ! あのバイラムとかいうPMは! 目的は!」
「分かりません」
「誰が作った?」
「不明です」
「居場所の特定は?」
「現在調査中です」
総司令官の質問に一定のテンポで答えるケントたち。
「何もわかってないではないか!」
これ以上無いくらい顔を真っ赤にする司令官に対しみんな気まずい顔になる。
「仰るとおりです」
リーダー格である壮年の男性が頭を下げると総司令官はますます声を荒げ、机を力任せに叩いた。
「何故分からんのだ! ステイツ最高とも言える軍事衛星も! シークレットサービスも! そして発信機の
類も全く役に立っておらん!」
そう、バイラムを追跡しようとありとあらゆる手を打ったが全て無駄になってしまったのだ。
「しかも、核だと! あんな物がわが国に落とされたら、私は……破滅だ」
そう言って頭を抱え、力なくうな垂れる司令を見ながらケントは少し眉をひそめた。
民間人より自身の保身か、意外と小さい男だね。
「いいか、バイラムの調査を最優先とする! 他の研究や開発は全て後回しにしろ! いいな!」
「了解」
司令官の言葉に全員が敬礼をする。そして司令官が部屋を出て行くと全員ため息を付いた。
若い技術主任が不満の声をあげる。
「仕方ないさ、今回の件で軍部はグダグダだ」
中年の技術者が肩をすくめた。
バイラムが使った核、あのことで世間は大きく揺れた。
軍部の杜撰な管理体制、核技術者の流出、そして自分達にも使われるのではないか、という恐怖。
一つの悪点を叩くことで事態を混乱していき、その混乱によってもたらされた物がさらに混乱を呼んでいる。
まさに底無し沼に落ちた状態である。
そんな最中に軍部が取った行動とは責任の擦り付け合いであった。
廊下に出ると再び彼らは口を開く。
「ステイツだけじゃなくてユニオンもAUAも似たようなモンみたいだぜ」
「ユニオンにいたっては総議長が退陣したって聞きましたよ」
「スラム街の連中がこの混乱に乗じて暴動を引き起こしてるみたいだな、まったく困った物だ」
ニュースでやっていることや巷の噂で会話に花が咲いている。
技術者の一人がケントの方に向く。
「おい、ケント。お前が最初にバイラムを見たんだよな?」
「そうだけど?」
「どうだった?」
少しいやらしい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「バイラムの事かい? あれは化け物だよ。あんなのと戦えって言う兵士に同情するね。おまけに自慢のアナ
ライズが一向に作動しなくて。調べようがないよ」
ケントはメガネを直す。
「マジかよ、ナイツのアナライズが古いとかは?」
「仮にもうちは資金が潤沢でしてね。新型パーツぐらいどんどん入ってきますよ」
嫌味っぽく言うと彼は思わず噴出してしまう
「そうか、じゃあ何でバイラムには通じないんだろうな?」
それは僕だって知りたい。知りたくて知りたくて仕方が無い。
「まあ、ぐだぐだやってても仕方ないか。じゃあな」
「ああ」
そう言って手を上げて挨拶をした後、研究員達は散り散りになった。
ケントたち、軍部技術顧問全員の前に小冊子ほどの厚みの資料が机に叩きつけられる。
資料の中身は全てバイラムに関するものだ。
目の前にいる初老の男、ステイツ総司令官はこめかみに血管を浮き上がらせて怒鳴っている。
「材質、動力、組織。全て不明だと! ふざけているのか?」
「いいえ、ふざけていません。 これがバイラムの資料です」
ケントの言葉に総司令官の顔がどんどん赤くなっていく。
「なら、なんなんだ! あのバイラムとかいうPMは! 目的は!」
「分かりません」
「誰が作った?」
「不明です」
「居場所の特定は?」
「現在調査中です」
総司令官の質問に一定のテンポで答えるケントたち。
「何もわかってないではないか!」
これ以上無いくらい顔を真っ赤にする司令官に対しみんな気まずい顔になる。
「仰るとおりです」
リーダー格である壮年の男性が頭を下げると総司令官はますます声を荒げ、机を力任せに叩いた。
「何故分からんのだ! ステイツ最高とも言える軍事衛星も! シークレットサービスも! そして発信機の
類も全く役に立っておらん!」
そう、バイラムを追跡しようとありとあらゆる手を打ったが全て無駄になってしまったのだ。
「しかも、核だと! あんな物がわが国に落とされたら、私は……破滅だ」
そう言って頭を抱え、力なくうな垂れる司令を見ながらケントは少し眉をひそめた。
民間人より自身の保身か、意外と小さい男だね。
「いいか、バイラムの調査を最優先とする! 他の研究や開発は全て後回しにしろ! いいな!」
「了解」
司令官の言葉に全員が敬礼をする。そして司令官が部屋を出て行くと全員ため息を付いた。
若い技術主任が不満の声をあげる。
「仕方ないさ、今回の件で軍部はグダグダだ」
中年の技術者が肩をすくめた。
バイラムが使った核、あのことで世間は大きく揺れた。
軍部の杜撰な管理体制、核技術者の流出、そして自分達にも使われるのではないか、という恐怖。
一つの悪点を叩くことで事態を混乱していき、その混乱によってもたらされた物がさらに混乱を呼んでいる。
まさに底無し沼に落ちた状態である。
そんな最中に軍部が取った行動とは責任の擦り付け合いであった。
廊下に出ると再び彼らは口を開く。
「ステイツだけじゃなくてユニオンもAUAも似たようなモンみたいだぜ」
「ユニオンにいたっては総議長が退陣したって聞きましたよ」
「スラム街の連中がこの混乱に乗じて暴動を引き起こしてるみたいだな、まったく困った物だ」
ニュースでやっていることや巷の噂で会話に花が咲いている。
技術者の一人がケントの方に向く。
「おい、ケント。お前が最初にバイラムを見たんだよな?」
「そうだけど?」
「どうだった?」
少しいやらしい笑みを浮かべながら聞いてくる。
「バイラムの事かい? あれは化け物だよ。あんなのと戦えって言う兵士に同情するね。おまけに自慢のアナ
ライズが一向に作動しなくて。調べようがないよ」
ケントはメガネを直す。
「マジかよ、ナイツのアナライズが古いとかは?」
「仮にもうちは資金が潤沢でしてね。新型パーツぐらいどんどん入ってきますよ」
嫌味っぽく言うと彼は思わず噴出してしまう
「そうか、じゃあ何でバイラムには通じないんだろうな?」
それは僕だって知りたい。知りたくて知りたくて仕方が無い。
「まあ、ぐだぐだやってても仕方ないか。じゃあな」
「ああ」
そう言って手を上げて挨拶をした後、研究員達は散り散りになった。
「ふぅ、本当にどうするか」
危機感のない技術者たち、保身しか考えない司令官、そして恐怖のあまり暴動を起こす人々。
神がいるなら教えて欲しいね、この状況に打開策があるのか。
ケントは近くにあるバーに入る。
「いらっしゃいませ」
バーデンはケントを見ると社交辞令よろしく、挨拶をする。
ケントは店を見渡しながらそのままカウンター席に座った。
薄暗い店内の中は客が少なく、ゆるやかなジャズミュージックが流れていた。木で出来た椅子やテーブル、
カウンターからはどことなく温かみを感じた。どうやら雰囲気を大事にする店らしい。
「ご注文は」
「バーボン、ストレートで」
目の前にいるバーデンにいつものと言った雰囲気で注文をする。
ケントの注文を受け、後ろの棚からバーボンのビンを出してきた。
心地良い水音とともに茶色の液体がグラスへ注がれる。その時、ケントはバーボンのラベルを見て少し驚いた。
「めずらしいな。ターキーじゃないか」
「良くご存知で」
ケントの言葉に機嫌を良くするバーデン。どうやらこのバーデン、かなりの凝り性のようだ。
「ご注文のバーボンです、どうぞ」
目の前にバーボンが置かれた。芳醇な香りが彼の鼻腔をくすぐり、普段飲んでいる物とは違いかなり度数が
高いせいかツンとしたアルコールの刺激がやってくる。
「ありがとう、頂くよ」
ケントはためらうことなくバーボンを口に含む。
突き抜ける辛さが口全体に広がると一陣の風が体全体を駆け抜けた。風が治まると静かな甘さが口の中にゆっ
たりと残っている。
これがターキーか。この味からして、かなり年季モノだね。
不思議なターキーの味を名残惜しそうに舌を動かす。
もう一杯貰おうかな、そう思い空のグラスをバーデンに向けようとした時、店の戸が開いた。
「ひさしぶりぃぃ、いつものちょうだい」
ケントが振り向くとそこには一人の女性が入ってきた。ふら付く足取りでカウンターの椅子に座ると捲くし
立てるかのように注文を叫ぶ。女性はなんと――。
「セル!? 何で君がここに?」
「あら、ケントじゃない。ひさしぶりぃぃ」
セルは顔を真っ赤にしてケントに挨拶をした。
「うわ、もしかして酔ってるのか?」
「そんな事無いわよぉ、この顔見れば分かるでしょう?」
そう言って顔を近づけてくる。酒の臭いが身体中から臭って来る様だ。
「酒臭い……全く、何杯飲んだんだ?」
「失礼ねぇ、ウォッカを四杯飲んできただけよぉ」
十分じゃないか。
と言おうとするが、言ったらさらに何か言われそうなので言葉を飲み込む。
「何、その顔は?」
セルは眉間に皺を寄せているケントの顔を両手で掴むと左右に振る。
「こ、こら、やめてくれ。まだ飲んでいる最中なんだ!」
非難の声をあげるがセルはそれを全く無視して振り続けた。
このままじゃまずい。
そう思ったケントはポケットから一枚のお札をバーデンに渡した。
受け取ったバーデンは無言でジョッキを取り出しビールを注ぐとセルの目の前に置いた。
「お嬢さん、これでも飲んで落ち着いてください」
バーデンがにこやかに言うとセルはジョッキを手に取ると煽るように飲み干し始めた。
地響きのような濁音を響かせながらビールはどんどん減っていく。
「プハー、ビールを奢ってくれてありがとうねぇ」
セルは自分の顔ほどあるジョッキをカウンターに置くと一息ついた。
全く、前来た時はそんなでもなかったのに今回はかなり酷いな。
ケントは軽くため息を付く。別にセルの酒乱は今に始まったことではない。しかし、こんな状態になるのは
恐らく研究が詰まった時か、何か嫌なことがあったときだ。今回の飲みっぷりから恐らく後者だろう。
ケントはグラスを軽く回すと物思いに耽り始めた。
あの人のところへ行くにしても、何か手土産が欲しいところだな。何が良いか……。
「ケントォ、お酒が進んでないわよぉ?」
突然自分の目の前に大きなジョッキが現れた。
「うわ、何をするんだ!?」
ケントは思わずたじろいでしまった。目の前に置かれたジョッキの中には大量のビールが入っている。
僕にはバーボンがあるんだぞ!
セルに向かって言おうとするがそれは言葉にならなかった。なぜならすでにケントはセルのペースに乗せら
れていたからだ。
「さぁ、ぐぐっと!」
セルはケントの顔をじっと見つめている。
ケントは軽くため息を付くと目の前にあるジョッキを掴む。そしてそのまま喉を鳴らしながら巨大なビール
を難なく飲み干した。
「これでいいかい?」
泡のついた口元を拭うとそのまま乱暴に座った。
「お見事!」
セルはのんきに拍手をしてくれるがケントはちっとも嬉しくないようだった。
「まったく、店の事も考えてくれよ」
ケントは愚痴をこぼしながら頭を抱えた。
「いいじゃない、今日は酔いたい気分なんだからぁ……」
そう言うと突然カウンターに突っ伏して寝息を立て始めた。
「ふぅ……一体何があったんだ?」
ケントはセルを見つめながら空になったグラスをバーデンの前においた。
危機感のない技術者たち、保身しか考えない司令官、そして恐怖のあまり暴動を起こす人々。
神がいるなら教えて欲しいね、この状況に打開策があるのか。
ケントは近くにあるバーに入る。
「いらっしゃいませ」
バーデンはケントを見ると社交辞令よろしく、挨拶をする。
ケントは店を見渡しながらそのままカウンター席に座った。
薄暗い店内の中は客が少なく、ゆるやかなジャズミュージックが流れていた。木で出来た椅子やテーブル、
カウンターからはどことなく温かみを感じた。どうやら雰囲気を大事にする店らしい。
「ご注文は」
「バーボン、ストレートで」
目の前にいるバーデンにいつものと言った雰囲気で注文をする。
ケントの注文を受け、後ろの棚からバーボンのビンを出してきた。
心地良い水音とともに茶色の液体がグラスへ注がれる。その時、ケントはバーボンのラベルを見て少し驚いた。
「めずらしいな。ターキーじゃないか」
「良くご存知で」
ケントの言葉に機嫌を良くするバーデン。どうやらこのバーデン、かなりの凝り性のようだ。
「ご注文のバーボンです、どうぞ」
目の前にバーボンが置かれた。芳醇な香りが彼の鼻腔をくすぐり、普段飲んでいる物とは違いかなり度数が
高いせいかツンとしたアルコールの刺激がやってくる。
「ありがとう、頂くよ」
ケントはためらうことなくバーボンを口に含む。
突き抜ける辛さが口全体に広がると一陣の風が体全体を駆け抜けた。風が治まると静かな甘さが口の中にゆっ
たりと残っている。
これがターキーか。この味からして、かなり年季モノだね。
不思議なターキーの味を名残惜しそうに舌を動かす。
もう一杯貰おうかな、そう思い空のグラスをバーデンに向けようとした時、店の戸が開いた。
「ひさしぶりぃぃ、いつものちょうだい」
ケントが振り向くとそこには一人の女性が入ってきた。ふら付く足取りでカウンターの椅子に座ると捲くし
立てるかのように注文を叫ぶ。女性はなんと――。
「セル!? 何で君がここに?」
「あら、ケントじゃない。ひさしぶりぃぃ」
セルは顔を真っ赤にしてケントに挨拶をした。
「うわ、もしかして酔ってるのか?」
「そんな事無いわよぉ、この顔見れば分かるでしょう?」
そう言って顔を近づけてくる。酒の臭いが身体中から臭って来る様だ。
「酒臭い……全く、何杯飲んだんだ?」
「失礼ねぇ、ウォッカを四杯飲んできただけよぉ」
十分じゃないか。
と言おうとするが、言ったらさらに何か言われそうなので言葉を飲み込む。
「何、その顔は?」
セルは眉間に皺を寄せているケントの顔を両手で掴むと左右に振る。
「こ、こら、やめてくれ。まだ飲んでいる最中なんだ!」
非難の声をあげるがセルはそれを全く無視して振り続けた。
このままじゃまずい。
そう思ったケントはポケットから一枚のお札をバーデンに渡した。
受け取ったバーデンは無言でジョッキを取り出しビールを注ぐとセルの目の前に置いた。
「お嬢さん、これでも飲んで落ち着いてください」
バーデンがにこやかに言うとセルはジョッキを手に取ると煽るように飲み干し始めた。
地響きのような濁音を響かせながらビールはどんどん減っていく。
「プハー、ビールを奢ってくれてありがとうねぇ」
セルは自分の顔ほどあるジョッキをカウンターに置くと一息ついた。
全く、前来た時はそんなでもなかったのに今回はかなり酷いな。
ケントは軽くため息を付く。別にセルの酒乱は今に始まったことではない。しかし、こんな状態になるのは
恐らく研究が詰まった時か、何か嫌なことがあったときだ。今回の飲みっぷりから恐らく後者だろう。
ケントはグラスを軽く回すと物思いに耽り始めた。
あの人のところへ行くにしても、何か手土産が欲しいところだな。何が良いか……。
「ケントォ、お酒が進んでないわよぉ?」
突然自分の目の前に大きなジョッキが現れた。
「うわ、何をするんだ!?」
ケントは思わずたじろいでしまった。目の前に置かれたジョッキの中には大量のビールが入っている。
僕にはバーボンがあるんだぞ!
セルに向かって言おうとするがそれは言葉にならなかった。なぜならすでにケントはセルのペースに乗せら
れていたからだ。
「さぁ、ぐぐっと!」
セルはケントの顔をじっと見つめている。
ケントは軽くため息を付くと目の前にあるジョッキを掴む。そしてそのまま喉を鳴らしながら巨大なビール
を難なく飲み干した。
「これでいいかい?」
泡のついた口元を拭うとそのまま乱暴に座った。
「お見事!」
セルはのんきに拍手をしてくれるがケントはちっとも嬉しくないようだった。
「まったく、店の事も考えてくれよ」
ケントは愚痴をこぼしながら頭を抱えた。
「いいじゃない、今日は酔いたい気分なんだからぁ……」
そう言うと突然カウンターに突っ伏して寝息を立て始めた。
「ふぅ……一体何があったんだ?」
ケントはセルを見つめながら空になったグラスをバーデンの前においた。
「ううん……」
セルが寝返りと真っ白なシーツに皺が幾つも出来た。
「セル、もう朝だよ」
「んん…」
まだ起きたくない。
そう思ったらしくシーツに包まり外の音を遮断しようとする。
「おい、いい加減に起きてくれ」
誰かの声が耳元で囁かれる。が、セルは起きるのを拒否する。
ゆっくり寝かせてよ、昨日ようやく仕事が終わったんだから。
しかし声の主はセルの思いを無視して、目覚めを強要させてくる。
「もう八時過ぎだぞ!」
「ええ!?」
この声を聞いたとたん、勢い良く飛び起きる。
「ようやく起きたか」
目の前には呆れ顔を浮かべているケントがいた。
「ケントじゃない、あれ? 何で私、ここにいるの?」
間の抜けた声にケントはとても苦い顔をする。
どうやら彼女は昨晩の記憶が全て抜けているようだ。
セルは落ち着いて辺りを見渡した。白を基調とした部屋に木で出来た棚や机が置いてある。窓からは暖かな
朝日が照りつけており、今日も快晴である事を示してくれる。自身が包まっていたシーツは皺だらけであった。
が匂いが洗ったばかりである事を教えてくれた。
「もしかして、覚えてないのかい?」
「ええ」
「はぁ、全く……」
あっけらかんと答えるセルに対しケントはぶつくさ言いながら部屋の奥へと行く。
「どこへ行くの?」
「キッチンに決まってるだろ、朝食を取らないで追い出すのは僕の流儀に反するからね」
セルが寝返りと真っ白なシーツに皺が幾つも出来た。
「セル、もう朝だよ」
「んん…」
まだ起きたくない。
そう思ったらしくシーツに包まり外の音を遮断しようとする。
「おい、いい加減に起きてくれ」
誰かの声が耳元で囁かれる。が、セルは起きるのを拒否する。
ゆっくり寝かせてよ、昨日ようやく仕事が終わったんだから。
しかし声の主はセルの思いを無視して、目覚めを強要させてくる。
「もう八時過ぎだぞ!」
「ええ!?」
この声を聞いたとたん、勢い良く飛び起きる。
「ようやく起きたか」
目の前には呆れ顔を浮かべているケントがいた。
「ケントじゃない、あれ? 何で私、ここにいるの?」
間の抜けた声にケントはとても苦い顔をする。
どうやら彼女は昨晩の記憶が全て抜けているようだ。
セルは落ち着いて辺りを見渡した。白を基調とした部屋に木で出来た棚や机が置いてある。窓からは暖かな
朝日が照りつけており、今日も快晴である事を示してくれる。自身が包まっていたシーツは皺だらけであった。
が匂いが洗ったばかりである事を教えてくれた。
「もしかして、覚えてないのかい?」
「ええ」
「はぁ、全く……」
あっけらかんと答えるセルに対しケントはぶつくさ言いながら部屋の奥へと行く。
「どこへ行くの?」
「キッチンに決まってるだろ、朝食を取らないで追い出すのは僕の流儀に反するからね」
「美味しい!」
セルは歓喜の声をあげる。
目の前に出されたベーコンエッグを切り分け再び口の中にほおり込む
ベーコンの塩味と卵の濃厚さが絡み合い口の中でいい塩梅になる。どうやら普通のベーコンではないらしく、
噛む度に鼻の方へ芳醇な香りを送り込んでくる。この感じからしてスモークベーコンだろう。
「だろ?」
彼女の表情にケントは不敵な笑みを浮かべる。
「こんな朝食を食べたの本当、久しぶりだわ」
感激しながらケントの作った朝食をガツガツと胃袋の中へ放り込んでいく。
彼女の様子から昨日の酒はもう消えてしまったようだ。
「何だ、いつもは作ってるんじゃないのかい?」
「ここ最近の朝食は全部カロリーブロックだもの」
セルの返答に頭を抱えるケント。
一体どんな食生活をして居たんだ? 嫌、単なる無精か。
「全く、せめてベーカリーぐらい寄ってくれば良いのに」
「そんな時間ないもの……」
ケントの言葉に少し疲れた声を出す。ナイフを振ってだるそうな顔をしている。
「え、そんなに忙しいのかい?」
「忙しいなんてもんじゃないわ。ムカつく上司がいるし、部下には舐められるし、全くたまったもんじゃないわ」
そう言ってトーストに手を伸ばす。これで三枚目であるが彼女は全く気にしない。
「そうか……」
意外だ、いつもはこっちのペースに引き込んでくるのに……やっぱり社会って上手く出来てるんだな。
「ところでケントのほうはどうなのよ。前に会ったときはなんか研究が詰まってたみたいだけど」
「うん、流石に詰まりっぱなしだからね。思い切って教授に会って来ようと思うんだ」
あまりの事に思わずナイフを落としてしまう。
「本気なの!?」
「ああ」
教授に会う。これがどういう意味なのか、セルは理解をしていた。
ケントの言う教授とは、かつて二人が大学に居た頃に物理工学を担当としていた教授であり、ケントとセル
の師匠でもあった。
他の研究者に会うというのは、自分の研究を見せるのは手柄を横取りされるも同意である。
それだけではない、彼に会うということはとても辛いことである。それは――。
「本気、見たいね……」
セルは呟く。あのケントが教授に会うなんてよっぽどの事だわ。他人の事なのに掌に汗をかいてしまう。
教授がここまで嫌われるのは気難しさと感情の激しさが原因であった。
前に一度レポートを提出したことがあるのだが赤い二重線を引かれたあと、キツいダメ出しを何回も喰らった。
しかも評価はC評価。学生のレポートにここまでケチをつける人間は他にいないだろう。
「ああ、それで何かいいお土産でもないかなと思ってね。何が良いかな?」
セルは腕を組んで少し唸る。ふとテーブルを見る。一番真っ先に目に付いたのはコーヒーカップだった。
「そうだ、コーヒーなんてどう? ああ見えて、結構豆には五月蝿いから」
「そうだな、そうするよ」
セルは壁にかけてある時計を見ると時計の針はもうすぐ九時を示していた。
「あっ、もうこんな時間! それじゃあね、朝食ありがとう」
「おい、セル!」
セルは立ち上がると引き止める間もなくケントの部屋から出て行った。
「全く、慌しいな……っとそれ所じゃないな」
ケントは自分の仕事部屋に向かう。
基地にいるときとは全く違い、綺麗に生理整頓がされている。棚には時点を思わせる大量のファイルがきち
んと並んでおり、机には筆記用具とパソコン以外では特にめぼしい物は何一つなかった。
部屋に入るとパソコンに入っていたデータディスクを取り出し、引き出しに入っている分厚い書類を取り出した。
「よし、後は上官の許可とボルスのサインがあれば……」
ケントは書類とデータディスクを鞄に詰める。
「さて、行くとしますか」
鞄を手に取ると玄関の扉をゆっくりと開けた。
セルは歓喜の声をあげる。
目の前に出されたベーコンエッグを切り分け再び口の中にほおり込む
ベーコンの塩味と卵の濃厚さが絡み合い口の中でいい塩梅になる。どうやら普通のベーコンではないらしく、
噛む度に鼻の方へ芳醇な香りを送り込んでくる。この感じからしてスモークベーコンだろう。
「だろ?」
彼女の表情にケントは不敵な笑みを浮かべる。
「こんな朝食を食べたの本当、久しぶりだわ」
感激しながらケントの作った朝食をガツガツと胃袋の中へ放り込んでいく。
彼女の様子から昨日の酒はもう消えてしまったようだ。
「何だ、いつもは作ってるんじゃないのかい?」
「ここ最近の朝食は全部カロリーブロックだもの」
セルの返答に頭を抱えるケント。
一体どんな食生活をして居たんだ? 嫌、単なる無精か。
「全く、せめてベーカリーぐらい寄ってくれば良いのに」
「そんな時間ないもの……」
ケントの言葉に少し疲れた声を出す。ナイフを振ってだるそうな顔をしている。
「え、そんなに忙しいのかい?」
「忙しいなんてもんじゃないわ。ムカつく上司がいるし、部下には舐められるし、全くたまったもんじゃないわ」
そう言ってトーストに手を伸ばす。これで三枚目であるが彼女は全く気にしない。
「そうか……」
意外だ、いつもはこっちのペースに引き込んでくるのに……やっぱり社会って上手く出来てるんだな。
「ところでケントのほうはどうなのよ。前に会ったときはなんか研究が詰まってたみたいだけど」
「うん、流石に詰まりっぱなしだからね。思い切って教授に会って来ようと思うんだ」
あまりの事に思わずナイフを落としてしまう。
「本気なの!?」
「ああ」
教授に会う。これがどういう意味なのか、セルは理解をしていた。
ケントの言う教授とは、かつて二人が大学に居た頃に物理工学を担当としていた教授であり、ケントとセル
の師匠でもあった。
他の研究者に会うというのは、自分の研究を見せるのは手柄を横取りされるも同意である。
それだけではない、彼に会うということはとても辛いことである。それは――。
「本気、見たいね……」
セルは呟く。あのケントが教授に会うなんてよっぽどの事だわ。他人の事なのに掌に汗をかいてしまう。
教授がここまで嫌われるのは気難しさと感情の激しさが原因であった。
前に一度レポートを提出したことがあるのだが赤い二重線を引かれたあと、キツいダメ出しを何回も喰らった。
しかも評価はC評価。学生のレポートにここまでケチをつける人間は他にいないだろう。
「ああ、それで何かいいお土産でもないかなと思ってね。何が良いかな?」
セルは腕を組んで少し唸る。ふとテーブルを見る。一番真っ先に目に付いたのはコーヒーカップだった。
「そうだ、コーヒーなんてどう? ああ見えて、結構豆には五月蝿いから」
「そうだな、そうするよ」
セルは壁にかけてある時計を見ると時計の針はもうすぐ九時を示していた。
「あっ、もうこんな時間! それじゃあね、朝食ありがとう」
「おい、セル!」
セルは立ち上がると引き止める間もなくケントの部屋から出て行った。
「全く、慌しいな……っとそれ所じゃないな」
ケントは自分の仕事部屋に向かう。
基地にいるときとは全く違い、綺麗に生理整頓がされている。棚には時点を思わせる大量のファイルがきち
んと並んでおり、机には筆記用具とパソコン以外では特にめぼしい物は何一つなかった。
部屋に入るとパソコンに入っていたデータディスクを取り出し、引き出しに入っている分厚い書類を取り出した。
「よし、後は上官の許可とボルスのサインがあれば……」
ケントは書類とデータディスクを鞄に詰める。
「さて、行くとしますか」
鞄を手に取ると玄関の扉をゆっくりと開けた。