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未来系!魔法少女 ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 結 第二部前

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irisjoker

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                          未来形!
                          魔法少女

                      ヴィヴィっと! メルちゃん 結



                         第 二 部 



鳴り止む事の無い激しい雨の中を、ルナと町子は必死に走る。雨に濡れたせいで水の中の様に重くなった脚を走らせて、白い影と黒い影が落ちていったと思われる場所へと。
二つの影の落下地点は学校からかなり遠いと判断したルナは、自費を使ってその場所へと向かう事にした。無論町子もだ。
落下地点に向かう過程でバスに乗った際、ずぶ濡れの自分達を見る目が少々痛く、また生徒会長という肩書を持つルナには……この行動……。
率直に言えば学校をサボる事が実に胸が痛い。

しかし、だ。親友が残酷な目に会った上に、無事かどうかも分からないのを知らんふりする訳にはいかない。もしかしたら、メルフィーは私達に助けを求めているのかもしれない。
そう思うと自分も、そして町子も何もせずに居られなかったのだ。学校から数10キロメートルほど離れた先に、ルナが計算した落下地点が、見えた。

「……ここ?」
「私の計算が間違ってなきゃ……多分、ここ」

そこには暗い空と振り続ける雨のせいか、どんよりとした陰気な雰囲気が不気味である、巨大な廃墟がそびえ立っていた。
何の建物なのかは分からないが、剥き出しのままなコンクリートの壁面や所々割られている窓ガラスや伸び放題の蔦から察するに、廃墟となったまま、何年も放置されている様だ。
正面の玄関に目を向けると、真っ暗闇で何も見えず、侵入を拒む様に気持ちの悪くジメジメとしたオーラに満ちている。

ルナの喉が自然に唾を飲む。正直言えば怖い。こんな建物に入ろうだなんて、自分自身まともな神経だとは思えない。
だが、歩みを止める訳にはいかない。メルフィーが待っている。町子と頷きあい、ルナは一歩、一歩と開放されている、玄関へと歩き出す。

「はい、ライト」
「……ホント、無駄に準備良いわね、あんた」

町子にライトを渡されて、前を照らしながらメルフィーを探す。まだ昼間の時間帯の筈だが、廃墟の中は異常なほどに暗い。
ライトを照らす度に映る、ガラスの破片、コンクリートの塊、気味の悪い人形やらノートやら。一体この建物は何なのだろうか……と身も心も肌寒さを感じながら、ルナは思う。
次第に目が慣れてきて、薄暗いながらもライトを使わずに前が見れるようになる。歩けど歩けど、鉄が露わになっている、無機質な灰色の壁の部屋が続くばかりだ。
……マンションか何かだったんだろうか。奥まで歩いていきライトを当てると、非常口であるドアが見えた。

「……町子、先行ってくれる?」
「怖いの、ルナ?」
「ち、ちが、怖くはないわよ! ただ、その……あぁもう! 分かったわよ!」

町子が後ろでニヤニヤしているのを感じると無性に腹が立ち、ルナはドアノブを回して外に出る。
狭い踊り場に一瞬ドキッとしながらも立ち止まって見上げると、交互に作られた、上へと伸びる階段が見えた。
あんなのを昇っていくのか……とげんなりながらも、ギシギシと心もとない音を出しながらルナと町子は階段を昇っていく。

2階、3階、4階、5階。昇っては階を周り、昇っては階を周るが、メルフィーの姿は見えない。
ルナの中で焦燥感が湧きあがり始める。もしかしたら自分はとんだ思い違いをしているのではないだろうか。
学校をさぼった上に住居不法侵入までやらかして、しかも本来は関係の無い町子さえも巻き込んで。私は……。
いけない。両頬を叩いて気を引き締める。私の計算が間違っている訳はないんだ。きっとメルフィーは……メルフィーは、ここに居る。

……そうだ。別に二人一緒に探さねばならない理由はないんだ。ルナは忍ばせていた携帯を取りだした。
二手に分かれてメルフィーを探そう。それで見つかったら連絡を入れて貰えば良い。そう考えて町子に知らせようと思った矢先、町子の姿がいない。

「ルナ―! こっちこっち!」


反響する様に名前を叫ぶ町子の声が聞こえる。ライトを翳しながらルナはその声の方へと走り出した。
気のせいだろうか、雨の勢いが弱まってきて少しづつ、外に光が差し始めている。少なくとも、もうライトはいらない位には明るい。
乱舞するように激しくなる鼓動。息を上げながら、ルナは町子の元へ駆け付いた。

「町子!」
「……メルフィー、見つかったよ」

その少女は奇妙な姿で、眠っているのか気絶しているのか、しゃがんでいる町子の膝上で静かに目を閉じている。
アレだけの高さから落ちてきたせいか、町子と少女の周辺には激しく散らばって錯乱しているコンクリートやらの破片に、緩やかに歪曲している床面。
上を見上げると、階を突きぬけてきたのか空は見えないものの、幾層にも渡る大きな穴から、水滴がぽたぽたと垂れては落ちていく。
何があったかは分からないし、理解しえないが―――――――――――。

その少女が、メルフィー・ストレインである事だけは揺るぎない事実だ。

「メル……メルフィー……だよね」

恐る恐る、ルナは歩みながら、メルフィーに近づく。一体何でそんな服装をしているのか、本当にオルトロックと戦っていたのか、その他諸々、気になる事は腐るほどある。
腐るほどあるが、今は、只……。ルナはしゃがんで町子からメルフィーを受け取り、胸元で強く抱きしめた。確かにメルフィーだ。体は冷たいけど、ちゃんと、生きてる。

「……心配、したんだからね。馬鹿」

目尻が熱くなってぽとり、ぽとりとメルフィーの頬に、温かなルナの涙が落ちる。目を閉じ、一層強く、抱きしめる。ルナの頭に去来する、思い。
ドジっ子で機転が利かなくて弱気で―――――――――――でも、本当に心優しくて、芯が強くて、笑顔が素敵な、どこにでもいて、どこにもいない、それがメルフィーという子だ。
きっと死ぬほど怖くて、心細くて、泣きたかったんだろうな。でもこの子はきっと、皆を……私達を守る為に必死になって戦ってくれた。
何か言おうとしても、上手く言葉が出てこない。只、ルナは泣きたかった。メルフィーが無事だった事に。また、こうして会えた事に。

「……ホントに……生きてて、良かった……貴方が……生きてて……」

「ルナ……」

町子に声を掛けられ、ルナは頭を振ると腕で涙を拭った。何時まで泣いてても仕方が無い。両頬をパチンと叩いて、ルナは何時もの明るく勝気な調子で、町子に言った。

「メルフィーも見つかったし、もうココに用は無いわ。私はメルフィーをおんぶするから、貴方は救急車を呼んでくれる? 住所は……」
「大丈夫。移動してる時に調べといたから。出来る女ですから、あたしゃあ」

と得意げに言う町子に、ルナははいはいと呆れ気味ながらも、嬉しそうな声で返す。と、その時。

「んん……」

メルフィーが閉じている目を強く瞑ると、ちょっとづつ、目を開け始めた。ハッとしてルナと町子は顔を見合すと、メルフィーに目を向ける。
寝ぼけ眼で目を開けたメルフィーは、状況を把握しているのか、ルナと町子をゆっくりと交互に見ながら、不思議そうに言った。

「二人とも……そんなに濡れてると……風邪、引いちゃうよ?」

メルフィーの突拍子も無いその台詞に、ルナと町子は最初ポカンとしていたが、次第に笑い始めた。そんな二人を尚更不思議そうに見つめるメルフィー。
そう……そうなのだ。この子は阿呆な位お人よしで素直で……優しくて強い子、なのだ。だからオルトロックにも打ち勝てた。
そんなメルフィーが好きだから、私達は、この子と一緒に居たい。何時も目立とうとはしないけど、本当は一番強くて、頼れる子だから。

言葉には出さないが、ルナも町子もそう、メルフィーを評価し、心から信頼している。無論、メルフィー自身は知る由も無いが。

「私達の事は良いから、あんたはあんた自身の事を心配しなさい。大丈夫……じゃないわね。歩ける?」
「多分……大丈夫だよ。よっと……」

心配させまいとしているのか、若干ぎこちない笑みを浮かべながらメルフィーはその場から立ち上がろうとする。が、右足がぐらりとふらついて倒れそうになる。
ルナが慌てて、メルフィーの肩を支える。ダメージによる痛みからか、胸がズキズキと痛む。その痛みに逆らえず、歯を食いしばりながら顔を歪める。
しばらくして、明らかに無理をしていると分かる作り笑顔で、メルフィーは胸を押えながら、ルナに言った。


「ごめん……ちょっとだけ、痛いかも。でも、大丈夫だから」
「明らかに痛がってるじゃない、アンタ! 全くホントに馬鹿なんだから……」

そう言ってルナはメルフィーの前に立つと、しゃがんで若干顔を向けながら、メルフィーに言う。

「おんぶしてあげるから、私の背中に乗りなさい。これでも力には自信があるのよ。ほら、早く」
「でも……」

「……こういう時くらい甘えなさいよ。その……今の貴方を見てると、心配でしょうがないから」
「……じゃあ、お願い」

「ありがとう……ルナ」

メルフィーに感謝されて、ルナは何故だか気恥ずかしくなって頬を染めた。表情が見えない様にワザと大きく顔を横に向けて、ルナは急かす。

「ほら、早くしなさいよ! 会長命令よ!」
「う……うん」

ルナに言われ、メルフィーはルナの背中に乗ろうとした、その、瞬間。メルフィーの足が、止まる。

気づく。否、気付かされてしまう。「それ」の気配に。確かにトドメを刺した筈の「それ」が、近くで自分達を見ている―――――――――――。

何時まで経っても乗らないメルフィーに、ルナが顔を後ろに向けた。

「ちょっとー何して……」

「嘘……そんな事……倒した、筈なのに……」

怯えきった様子でぶつぶつと何か言いながら、メルフィーがビクつく様に周囲をキョロキョロとしている。
メルフィーの様子に、ルナと町子の目が合う。思っている事は同じ。メルフィーと会った事に感激して忘れていたが、奴の姿が見えない。
そう……メルフィーと一緒に落ちて来た筈の、奴の姿が。先程からひしひしと感じていた、恐怖という予感が頭をもたげる。

「……げて」

握っている拳を微妙に震わしながら、メルフィーが顔を上げて、言葉に迷っているのか複雑な面持ちを浮かべながらも、二人に言う

「……逃げて」

「私の事は構わないから、早くここから……逃げて。じゃないと……二人とも……殺される、から」

やはり、か。しかしここまで来てメルフィーを助けずに帰るだなんて馬鹿にも程がある。メルフィーの意思に反する様で少々気分は悪い。
気分は悪い。が……。ルナはあえて、メルフィーに強い口調で言い放った。

「馬鹿言ってんじゃないの! アンタ一人置いて逃げれる訳無いでしょ!」
「け、けど……」
「でももけども無い! 早く早く!」

ルナの言葉に惑うメルフィー。「それ」の存在は段々近づいてきている。にも関わらず、姿が見えないのが余計にメルフィーを恐怖させる。
すると町子が、メルフィーの空いている右手を優しく握りしめた。柔和な笑みで、町子が話しかける。

「あのね、メルフィー。メルフィーが私達を大事にしてくれてるのは分かるよ。だけどね」
「お願い……聞いて……」

「私達も同じくらい、メルフィーの事が大事なの。貴方を死なせたくない。メルフィーが私達を助けてくれたなら、次は私達がメルフィーを助ける番」

「……町子」

「……少しは頼ってくれても良いんじゃない? 親友でしょ、私達」

そう言いながら町子はメルフィーの両手を握って、朗らかな笑顔を見せる。
メルフィーはしばし、町子の目を見つめていたが――――――やがて優しく、町子の両手を握り返す。

「……分かった」

また、空に暗雲が経ち込みはじめる。小雨になっていた雨が強くなりはじめ、またも豪雨へと戻る。
ぼんやりと明るかった廃墟内が侵食されるかの如く、再び暗闇に覆われていく。そして、稲妻。

「きゃあっ!」

部屋全体を照らすほどの大きな雷が、暗く黒い空から落ちてくる。思わず両耳を防ぐルナ。

「……怖いの、ルナ?」
「こ、こわ、怖くなんか無いわよ! 雷なんて怖く、怖くないから!」
「まだ何も言ってないよ」

町子にそう答えるルナの声は、どう聞いても涙声だった。そんなルナをニヤつきながら弄る町子。
何時もの日常で見る光景に、メルフィーの沈みきっていた気分が少しづつ晴れていく。……戻ろう。いや、戻らなきゃ。
この二人と一緒に、元に居た日常を。震えている両手にぐっと力を込めて、震えを止める。前を見――――――――――――――。

見え、た。メルフィーの瞳孔が大きく見開いて、驚愕のあまりに閉じていた口が無意識に開く。町子の背後に、「それ」は仁王立ちしている。
稲妻に照らされながら、「それ」の特徴的な輪郭が暗闇の中で消えては現れる。「それ」は自らの存在を誇示する様に、無表情な赤い両目を光らせる。
叫ぼうとしても、疲労が溜まったせいか声が全く出ない。早く叫ばないと……町子が!

「……メルフィー?」

町子は背後に立つ「それ」に気付いていないのか、メルフィーの様子に小さく首を捻った。
「それ」は巨大な右腕を振り上げて、左手の指を揃えて手刀にすると、一気に町子に向かって、右腕を斜め方向に振り下ろす。

「町子! どきなさい!」

「それ」に気づいたルナが駈け出して、思いっきり町子を突き飛ばした。驚いた町子が尻餅を付いた。

「何するのよ、ル……」

驚愕。目の前の「それ」の存在に、町子の体が畏縮のあまりに動けなくなる。畏縮しているのはメルフィーもだ。意思に反して、体が動けない。

ルナと、メルフィーの目が合う。ルナはメルフィーに向かって何か言葉を、伝える。稲妻の音に遮られながらも、メルフィーの耳はしっかりと、ルナの言葉を聞いた。



生、き、て。



「それ」の手刀が、ルナの左胸に深く突き刺さる。「それ」の指先をルナの血が赤黒く染め上げる。痰を吐く様に、口からとめどなく血を吐くルナ。
「それ」が突き刺した手を抜いた途端、ルナの左胸から壊れた水道管の様に激しく噴出する、血。その血が、メルフィーの顔に降りかかってペンキの様に顔を赤くする。
ぐらりと、ルナは力無くその場に横たわった。やっと声が出た瞬間、メルフィーは、心の底から、叫んでいた。

「ル……ルナ、ルナァァァァァ!」

『殺せなかったか。まぁ、先に殺すも後も殺すも同じ……か』

「それ」がルナを見下しながら無感情かつ平淡な口調でそう言った。ルナの頭に、右足を軽く乗せて、メルフィーに顔を向ける。

「ルナから足を……離せ!」
「町子、駄目!」

激情しながら近くのコンクリートの塊を握って駈け出し、「それ」を何度も、何度も殴り付ける町子。
だが町子が幾ら塊を打ちつけようと、「それ」には傷一つ付かない。「それ」は左手を握り拳にして軽く腕を曲げると、勢いを付けて町子へと左手の甲を叩き付けた。
糸も軽く吹っ飛ばされた町子が、成す術なく近くの壁に激突する。衝突によりコンクリートから巻き上がる灰色の煙が消えていくと、ぐったりと倒れる、町子の姿が見えた。

「町……子……」

凄まじい絶望からか全身の力が抜けていき、メルフィーはその場に両膝を付いた。両膝を濡らす、広がっていっては水溜まりの様になる、ルナの血。
一方町子も、ぐったりとしたまま倒れていて、動きは無い。傍らには「それ」の攻撃の熾烈さを表す様に、フレームごと潰れている町子の眼鏡が転がっている。
「それ」はメルフィーを紅く光る両目で見下ろしながら、口火を切った。感情を感じさせない、冷徹な声で。

『エグザスのカードを使うとは思わなかったが……しかしこれも必然、か』

激しい閃光を放ちながら降ってきた稲妻が、「それ」が明確な姿を、メルフィーの前に現す。

「それ」―――――――――――否、正式名称はディス、ディス・エグザリオス。装着者は言うまでも無く、オルトロック・ベイスンその男である。
一切の露出も無い全身を覆う、屈強な武者の鎧と強固な騎士の鎧が併さったデザインでかつ、異様な威圧感を醸しだつ漆黒のバトルスーツ。
頭部を包み隠す、赤い両目をギラつかせながら黒光りする鎧兜の様なヘルメット。そこには最早、先程までメルフィーと戦っていたオルトロックの姿は無い。
その証拠に、オルトロックの声は鼻に抜けた甘ったるく粘着質な声では無く、芯の通った低い男の声へと変化している。

一見オルトロックが新たなる変化を遂げた様に見えるが、それは違う。これが本来の、オルトロックの姿である。

『様子が違う、と思っているだろう? それか別の人間なんじゃないか、と』

両手を指揮者の様な緩慢な動作をしながら、オルトロックは言葉を続ける。

『これが、本来の私の姿だ。ダーリンだのとほざいていたあの姿は、目的を隠蔽する為に作りだしたダミーの人格に過ぎない』

そう言いながらオルトロックは首筋を触る。するとヘルメットの前面が開いて、あの幼い顔立ちのオルトロックが顔を出した。
恐怖と不安と驚きと絶望と―――――――――――。メルフィーは自分が何と戦って、今自分が何をやっているかが、訳が分からなくなっている。

「どういう……事?」
「未来の世界じゃ私の本当の目的がばれたらいろいろとウザったい奴らが邪魔しに来るからね~。だから私、あっち系の振りをしながら鈴木隆昭に近づいたの」
「だけどあの野郎、私の本当の目的に気付いてオリジナルの私を殺しやがったから、ちょちょーいと人格を機械に移してね。それで過去に来てあんたを殺そうとした訳さ」

再び全面が締まり、鎧兜に戻るオルトロック。メルフィーはただ、オルトロックの話を聞く事しか出来ない。

『私が抱く本当の目的は只一つ。メルフィー・ストレイン。お前を含む時間軸に干渉しうる全ての人間を殺し、タイムパラドックスを起こす事でこの世界を含めた並行世界を掌握する事だ』

『しかし驚いたぞ。エグザス・フュージョンする前とはいえ、私を完膚なきまでに負かした事は。だが、所詮その程度。お前は只の人間の域を出ない』

「……何が言いたいか全然分からないけど……やめて」

砂上みたいに崩れていきそうな意識の中、メルフィーは枯れそうな喉を振り干って、オルトロックに、言う。

「私が目的なら、ルナと……ルナと町子に酷い事しないで! 二人は……二人は関係無い!!」

『私の話を聞いていなかったのか? 言った筈だ。貴様を含む時間軸に干渉しうる全てを人間を殺す事が、私の成すべき事だと』

『そしてその対象には氷室ルナ、町子スネイルが該当している。納得したか?』

ルナの頭部に乗せている足に力を込めていく。聞きたくない、何かが潰れる音が聞こえ、メルフィーは必死で這い蹲ってオルトロックの右足に抱き付いて、叫ぶ。

「お願い! 二人を殺さないで! 何だって……私、何だってするから!」

オルトロックはメルフィーの言葉に一切耳を貸さず、左手でメルフィーの首根っこを掴むとそのまま持ちあげた。

『力を失った貴様に、もはや用は無い。自らの非力さを恨みながら死ぬが良い』

『そ……んな……』

ルナの頭や顔から止まる事無く流れる血が、ルナの髪の毛を真っ赤にしていく。オルトロックの手が、メルフィーの喉を絞め上げていく。

「や……めて……」

『多少遊びとはいえ、お前には相当の煮え湯を飲まされた。愉しませて貰うぞ。お前に関わる人間を殺すのをな』

「…………」

締め上げられていく。呼吸が出来なくなってきて、段々メルフィーの頭の中が、靄が掛かった様に白くなっていく。
目から涙が止まらず、口からどろりと涎が零れる。既に体の力は抜けきっていて、抵抗なんて出来る筈も無い。

無力、なのか。どれだけ頑張っても、自分は誰も……何も、救えないのか。

脳裏に今まで関わってきて、失いたくない大事な人達の顔が浮かんでは、消えていく。頭の中と同じく、視界も白くなっていく。

お母さん、お父さん、ルナ、町子、草川君、学校の皆、そして――――――――――。

『さらばだ、メルフィー・ストレイン』


―――――――――――――――消えていく、視界。

――――――――――――――何も、見えない。

―――――――――――――私は……。

―――――――――――何も……。





                               皆、ごめん、なさい。



暗闇を切り裂く、一筋の白き流星。電光石火の飛び蹴りが、オルトロックを直撃して背部の壁面ごと破壊し、オルトロックを廃墟から叩き落とした。

部屋中に響き渡る、激しい雨の音。降りしきる雨の先には、朧げに町が見える。
パラパラと落ちてくる石膏の粒子と共に、その男はメルフィーをお姫様だっこして、静かに着地する。
白を基調に鮮やかな複数の蒼いラインが入っている、細身ながらも強靭なバトルスーツと、厳かな闘志を燃やすツインアイが印象的なヘルメットに身を包んだその男が、呟く。

『相変わらずの屑っぷり、変わらないな、オルトロック』

その者の名は――――――――――――鈴木隆昭。メルフィーと、親友であるルナと町子を救うべく推参した一筋の流星。
後ろからここまで走ってきたのか、額に汗を掻いて息を荒げながら駆けつけた草川大輔が、隆昭に声を掛ける。

「隆昭!」
『来たか、大輔』

草川は息を整えながら周囲に目を向ける。そこにはオルトロックによって変わり果てたルナと町子が居た。
凄惨な光景に、草川はオルトロックに対する怒りの為か歯軋りして強く拳を握った。

「くそっ……あの野郎、どこまで腐ってやがんだ」
『大輔』

メルフィーを丁寧にその場に寝かせ、草川の方に少しだけ顔を向け、隆昭は言う。

『二人を、頼む』
「あぁ、分かってるさ。今すぐ二人を未来に転送する。隆昭、お前は……どうする?」

草川の問いに答えるまでもなく、隆昭は額に触って変身を解除する。「何か」――――――――――否。

新型ドライブユニット、EX=RXF-1 ホワイトイーグル、またの名をハクタカを指に挟んでしゃがむ。
天高く飛び上がる鷹の紋章が描かれている、三角形の5㎝程度の小さなそれを、隆昭はメルフィーの額へと当てた。

「護ってやれよ、嫁を」
「分かってるよ」

そう答えながら隆昭は黒スーツの右袖から、鞘に収納された小刀を引き出す。まだ、オルトロックの姿は見えない。
鞘を落として蒼白き発光を見せる刃を露にすると、メルフィーの頬に手を当て、穏やかな口調で囁く。

「メルフィー、目覚めるんだ。君にはまだ、やるべき事がある」


沈んで、いく。
光も何も見えない、深い海の中を、私は沈んでいく。目は、開かない。私の体は、飲み込まれるように沈んでいく。

何も、救えなかった。何も、出来なかった。何も……。
私は……どうして生きているんだろう。大事な人が殺されそうになっているのに、何も、出来ない癖に。
このまま沈んで消えちゃえば……良いのかな。皆、ごめん……ごめん……なさい……。




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