創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

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                             後編(後/後)




―――――――――――――――――――――2312年。


「あぁ……ねみぃ……」


強烈な眠気。出血多量による貧血を起こしている。ここが倒壊するか、それとも俺が敗血症で死ぬか。
……どう考えても後者の方が早いな。にしてもこれから死ぬってのに何だってこう安堵してんだろうか、俺は。
前々から死にたがってたし、丁度良いのかもな。……フォレイリ、お前もホントに……。

「そう……か」

「……それしか……無かったもんな……俺、達には……」
「もう良い……もう喋るな、セレウェイ」

そう言ってフォレイリは俺の腕に鎮痛剤を打つ。せめて死ぬのを遅くしてやろうって訳か。
どこまで良い奴なんだ、お前は。お前はホントに昔の昔から……腹立つくらい、優秀だったよな。
……もう、良いか。俺は拓馬に言う。

「教えてくれ……拓馬」

「お前……知ってたのか? ……ヴェントが」

言いかけた瞬間、盛大に吐血する。ダークな色調でもはっきり分かるくらい、鮮明な血がパイロットスーツを汚す。
拓馬が俺の手を握った。どうせもう全て無駄なのにな。全て……無駄なのに。

「……俺も知らなかったんだ。あの人が通じてたなんて」

「……てっきり……通じてると……思ってたよ。あの……」

「……俺には、ああする事しか出来なかったんだ」



――――――――――――――――――――2307年。

翌日。僕も拓馬も、学校で顔を合わせても一言も喋らない、傍から見れば下らない意地の張り合いかもしれない。
けれど僕は拓馬と話す気にはならない、話せばインの事で酷い喧嘩をする事は想像するまでもないから。
拓馬も同じ事を思っているのか、僕に話しかけてこない。僕と拓馬の仲には、険悪ってレベルじゃないほど拗れていた。
周囲も空気を察してるのか、それとも顔中を覆っている絆創膏に引いているのか、僕にも拓馬にも話しかけてこない。まぁ話す事なんて何もないから良いけど。

にしても最悪だ。もうティエレンが軍に行く1週間まで後1日しかない。
結局僕は何も思いついちゃいない。インを救いたい救いたいなんて壊れたテープレコーダーみたいに連呼してたわりに、このざまだ。
1日経って冷静になると拓馬の言う事は何も間違っていない事を尚更実感する。所詮僕は一時的にインに惚れ込んでただけだ。将来の事なんて何も考えちゃいない。
だけど……また、だけど、か。つくづく僕は駄目な奴だな。全然決意が決まっちゃいないじゃないか。

今日も町工場に行く……行きにくいな。というか拓馬は行くんだろうか。僕はどちらにしろ、インに会いに行くけど。
ようやく退屈でしか無い授業が終わり、僕は拓馬の動向を見計らった。拓馬より先に、町工場へと向かう。
後ろから付いてくるのを見るに、やっぱり行くのか。とは言え全く近づいてこない。構いやしない。

町工場に着くと、珍しく工員さん達が誰もいなかった。休みか? 正月でもヴェントさんが怪我とか病気をした訳でも無いのに。そう思って正面に目を向けると。

……ヴェントさんと、イン? その二人の前に、微妙にセンスの悪い紫色のスーツを着て、同じ色の帽子を被った知らない男と、黒いスーツを着た二人の男が立っている。
追いついた拓馬と目が合う。言葉は交わさないけど考えている事は多分同じ。僕も拓馬も町工場へと近づく。
鼓動が速くなる。まさかという気持ちと、ありえないという気持ちがぐちゃぐちゃと掻き混ざって来て、何だか泣きたくなる。
僕達が近づくと、気づいたヴェントさんが向いた。そして――――――――――哀しみを帯びた目で、僕達に顔を向ける、イン。

「おうお前ら! ちょっと」

呼ばれて一緒に走りだす。紫色のスーツの人……帽子男が振り向くと、僕達に平坦な口調で言った。

「この方達は?」
「俺の元で働いてるアルバイトだ。それでそっちの眼鏡掛けてない方」

と言いながら指を指すヴェントさん。僕の事だろう。良く分からないけど、小さく頭を下げてして一歩前に出る。

「コイツが件の奴で、アンちゃんを保護した子だよ。すぐに運んでくれたから助かったよ」

ヴェント……さん? 何でそんな事を言ってるんです? ていうかアンじゃなくてイン……。
……嘘だ。あと1日って所で……違う、その前にヴェントさん……何で……。守ってくれるって、言ったのに……!
取りとめの無い色んな言葉が頭の中で錯乱しては、バラバラと落ちていく。ヴェントさん、嘘でしょ? ねぇ、ヴェントさん!

頭の中が混沌となって混乱していると、帽子男が帽子を取って小さく頭を下げた。

そして帽子男が次に発した台詞が、僕の中で決定打となった。

「娘が……お世話になりました。貴方のお陰でこうして無事に戻ってきて心から安心しています。
 一週間前程に旅行中にはぐれてしまいましてね。本当に無事で良かった」

娘だって? ふ……ふざけんな! そんな事、インから聞いた事が無い!
僕はインの方を見た。インは僕から目を逸らしていた。その目は潤んでいて、僕にはそれが……。
帽子男が何かもごもごと言っているが聞こえない。僕の目は只、インを見つめている。

「それじゃあ行こうか、アン」

帽子男が親子だと言う事を強調する様に、インと手を繋ぐ。インが帽子男に引かれて歩きだす。後ろから続く、黒い服の人達。
僕はその場に立ち尽くしていた。あまりにもあっさりと、僕の夢が奪われようとしている。どうしようもなくどす黒い、大人の事情で。
ヴェントさんを見ると、僕が言わんとしてる事が分かるのか、静かに首を振った。……アンタを信じてた俺は、どうしようもなく馬鹿だったみたいだ。

信じてたのに。心から信頼してたのに! ……思い返してみれば、何時も誰かに電話してたのは、そういう事だったのか。
僕は……僕は裏切られたのか? 信頼していた大人に。どうしてこんな事になったんだ。
インの姿が小さくなっていく。小さくなっていく……。あの車に乗せられたら、インはもう二度と、ここには帰ってこれない。

するとインが振り向いた。

インは、必死に出ない声を振り絞って、僕に何かを伝えようとしている。僕には、その言葉がこう聞こえた。




                               た  す   け   て



何回も、インは必死に出ない声を出して、僕に叫ぶ。。
溜めている涙が決壊した様に、インは泣き叫ぶ。だが、いくら叫んでも、インの喉から声は出ない。
帽子男がインを押えようと無理やり車に連れ込もうとする。僕は……僕は、僕は。


何故か、拓馬がいった言葉が、僕の頭を反芻した。


創作物の主人公にでもなるつもりかよ!


なってやる。その主人公に。
考える様も早く、僕の足は走り始めた。僕に気付いた黒スーツの二人が、僕を阻む為に両腕を広げる。
僕はインに、叫ぶ。喉が枯れて声が出なくなっても良い。大声で、叫ぶ。

「イン! 僕と、一緒に来るんだ! イン!」

阻まれながらも腕を差し伸ばす。きっと只じゃ済まない。それでも、僕はこうするしか無かった。
君を救えるなら、何をされようと死んだって構わない。だからイン、僕の手を掴んでくれ。

インは帽子男に幾ら急かされようが動かずに振り返った。涙を枯らして鼻を赤くした顔で。そして帽子男の制止を、振り切る。
僕はしゃがみながら阻む両腕をすり抜け、近づいてきたインの手を強く、握った。

そして僕とインは走った。ひたすら追ってくる黒服の人達、大声を張り上げて止める様に叫ぶ、帽子男から。

何処に行くかなんて何も考えてないけど、インをこの場から連れ出せた、それだけで十分。
町の合間を縫い、人の波を掻きわけ、ぶつかって怒鳴られても、僕達は走った。走って、走って、走って。息が切れようと、死に物狂い
インの手が、僕の手を強く繋いでいた。もう、前みたいに冷たくさびしく感じない。
手を繋いでいる間、僕は感じている。インの命を、鼓動を。この子は生きている。兵器でもなんでもない。

ただの、女の子だ。

息を荒げながら、僕達は気づけばインと出会った翌日に来た、あの秘密の隠れ家に辿りついていた。
ここなら追手も追跡できないだろうと僕の中で思ったから。ここを知ってる人と言えば――――――――――――。
……止めた。多分あいつは……大丈夫だ。ヴェントさ……ヴェントに裏切られたのは凄く傷ついたが、僕はまだ、あいつを信じてる。

手を離して、インを見る。インは疲れたのか、両ひざに手を当てて激しく息を荒げている。ごめんよ、突然走らせて。
大分落ち着いたのか、一息吐くとインは、僕の方を向いた。その表情は安心した様に見えて……違う。何故か……悲しんでいる? 
僕は何も言わずに、インの事を見つめ返す。何か言おうとするけど、息を飲む様なインの美しさに、言葉が煙みたいに消えていく。
インは僕からゆっくりと目を逸らしながら何時ものノートとペンを取りだすと、文を書きはじめた。

そして文を書いたページを千切って、僕に手渡した。

<ごめんなさい。私のせいで、貴方を酷い目に逢わせて……>

何でそんな事を言うんだ。僕はインの言葉が分からず、インの顔を見た。
インはまたページにペンを走らせて文を書き、千切って渡す。

<数日だけだったけど、夢のような日々でした。貴方と拓馬さんのお陰で……短かったけど、最高の、日々でした>

そうしてインはまた泣き出しそうな顔になると、泣き顔を見せない様にか僕に背を向けると、文を書き始める。
声は出せないけど、インは泣いていた。胸の奥から苦しそうに、嗚咽する様に。震える手でペンを走らせている。
僕は何もせず、彼女が書き終わるのを待つ。永遠に続くくらい、待っている時間は長く、感じた。

震えない様に、片方の手を押えながら、インが僕に文を書き終え、ノート自体を渡した。受け取って、開く。



               研究所にいた頃は、毎日の様に薬を投与され、ひたすら銃を撃ち続ける、地獄……にも感じる日々でした。
               私は……人間としての生き方を忘れてロボットみたいに同じ事を繰り返し、繰り返し強制されました。
                 教官、教える人からは、いつも……敵を、殺せと言われ続けました。

                        何度も、何度も、何度も何度も何度何度も何度も

                        何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

                    でも、私は気付きました。敵ってどこにいるのか、私は敵と呼ばれる人を探しました。
                   けど、敵はいなかった。毎日敵を探しても敵は何処にも
                   敵って、どこにいるんですか? 教えてください、敵ってどこにいるんですか? 私の頭は、おかしくなってしまいました。

                    次第に私の知らない私が顔を出して、その敵を……探す為に、人を殺しました。
                     教官は、私が人を殺す度に、褒めてくれます。だけど……その……敵は……

                わたしと おなじ こどもたちでした わたしは、わたしの知らない私の手で、皆を、ころしたんです


                          セレウェイ さん                     


                 私を置いて ここから逃げて下さい。沢山人を殺した私は、幸せになる資格は無いんです


                        今まで 私に幸せな夢を見せてくれて 有難うございました

                         私の分まで、生きて下さい。それが、私の願いです







僕は顔を上げた。その時の表情はさぞ滑稽な間抜け面だったんだろうなと思う。
インは指で涙を拭いながら、僕を見つめた。その目は弱弱しいけど、強い意志を感じる。覚悟が、決まってるみたいだ。
イン自身分かってはいたんだろうは最初から逃げる事なんて無理な事くらい。だからそう書いた。
インは何も言えない代わりに、僕から一歩ずつ引いていく。自分から帽子男の元に出ていくつもりだろう。

……駄目だ。上手く言えないけど、君は絶対、行っちゃ駄目だ。

僕はインの腕を掴んで、止めた。インは動かないけど、反応もしない。
だけど僅かに、腕が震えている。僕の方を振り向かずに、インは前を向いたままだ。

「イン、僕と一緒に逃げよう。それで……僕は君を幸せにする。僕がどうなろうと、君を」

イン、答えてくれ。何でもいいから、反応を見せてくれ。イン……。

インは振り返ると、掴んでいる僕の手を指で優しく、離した。

そしてインは、僕に、言った。



ごめん、なさい


何度も、言う。僕に頭を下げて、何度も何度も、インは言う。ごめんと。
何も悪くないのにどうして謝るんだ。むしろ君は被害者なんだぞ。生き方を自分の意思と関係無しに弄られて玩ばれて。
どうして謝るんだ。どうして……、如何して君が……!

「どうして……君が謝るんだ! 君は……何も悪くないじゃないか!」

僕はみっともないし情けないと思いながらも、そう叫ばずにいられなかった。
だけどインは何も言わずに、ただ僕に対して涙を溜めて何度も、ごめんと言っているだけだ。何で……。
君は何も悪くないじゃないか! 君はむしろ……言葉が出てこない。
くそっ、僕は……僕は君を……。

「そこまでだ、セレウェイ」

ある意味、今一番聞きたくなかった声が聞こえた。反射的に僕は見上げる。
無造作に雑木林を掻き分けながら、ティエレンが……。何で……こんな所に……ティエレンが? 
というかあの刻まれてるマーク、僕と……拓馬が相談して付けたマークじゃないか。
それに拓馬が乗ってる……頭の中がミキサーみたいに滅茶苦茶になってきた僕は、髪をくしゃくしゃにして頭を抱えた。

ティエレンが広げている掌に乗った拓馬が、メガホン片手に僕に、言った。

「簡潔に説明するぞ。インを引き渡すんだ、セレウェイ。さもないと、お前に処罰を加えなきゃならなくなる」

意味が、分からない。茫然と見上げていると、拓馬が再び言葉を発した。

「なんで俺が乗ってるのかって言いたそうだな。……悪いな、セレウェイ」

「ヴェントさんが提案してな。お前を追い詰める為にこいつに乗って、尚且つお前を説得する為に俺が駆り出されたって訳だ」

「……拓馬! お前、お前は、僕を……!」


「……許してくれ、セレウェイ。俺には……こうする事しか、出来ないんだ」


……お前なら理解してくれると思った。一握の希望を掛けていた。本当はインを助ける事に、手を貸してくれるんだろうって。
違うんだな。お前も結局、悪い奴らの仲間なんだ。あんなに世界を変えたいだの大層な事言ってたくせに結局……! 見損なった、お前の事を心底見損なった!
ティエレンが片膝を下ろして、インを迎える為に、もう片方の掌を広げて地面に着く。

イン……行くな、行っちゃ駄目だ、行っちゃ駄目だ!

「イン!」

掌に乗ったインが、僕の方を振り向いた。そしてインは、僕に伝えた。


あ り が と う


「……何が有難うなんだ。イン、何が有難うなんだ」

「イン! 有難うって何だ! 君が本当にしたかった事って何なんだ!」

「イン! 待ってくれ! イン!」



「僕は何の為に……」



「何の為に……君を……」



「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

それからの事は思いだすに価しない。いや、今の俺を成型するに絶対に欠かす事が出来ない事柄が一つ。

あの日以降、最悪殺される事を覚悟していた俺だが、意外な事に特に何をされる訳でも無かった。ただし1年間、監視を付けられたが。
家族には政府の奴らが適当な理由をでっち上げて、尚且つ目ん玉が飛び出るほどの額を書かれた小切手を手渡された。
考えるまでも無く、真実を隠す為に、

俺はその1年で軍人となるべく猛勉強した。確率は低いんだろうが、もしかしたらインが超兵となっている場合、また会う事が出来ると信じて。
今までの人生で一番必死な時期だったと思う。何時頃だっただろう。俺は自分の事を僕では無く、俺と呼ぶようになっていた。
俺は地元を、というかコロニーから離れて単身地球に降り、一人で暮らす様になった。とはいえ鬱陶しい監視は付いてたけど。

そんな日、俺はインターネットで数週間前のあるニュースに目を付けた。
世間ではとっくに風化しているニュースだったが、勉学にのめり込んでいた俺には初めて聞くニュースだった。
CBのガンダムの一機が、人革のコロニ―へと侵入し、政府の研究所やらという建物を木っ端みじんに破壊したらしい。
ミサイルによる攻撃で跡形も無いほどに。

TV等の一般メディアには政府の研究所として説明されていたがネットを探っていると……。
その研究所は―――――――超兵と呼ばれる兵士を創り出す、超人機関と呼ばれる場所である事が実しやかに囁かれていた。
俺は一時的に勉学を止め、その記事に関する情報を必死になって収集した。どんな情報でも構わない。何でも知りえる事を。
どれだけ経っただろう。俺は政府関係者と名乗る男から、隠蔽の為に破棄されていた、その場所に携わっていた関係者の情報が収録されたメモリを入手した。馬鹿みたいに高値だったな。

凄まじく不明瞭で明らかに違法な物だが、その時の俺はひたすら、真実を知る事に固執していた。早速メモリを閲覧してみる。
読んでいく内に、俺の鼓動は早くなっていく。俺の手は下へ下へスクロールして……。

一瞬通り過ぎて、上にスクロールする。自分自身の目を疑いたくなる。だが。
俺の目はしっかりと、その画像を焼け付けていた。嫌でも目に入る。心では拒否しても、脳味噌は認識してしまう。
吐きそうになるが堪える。今まで求めてたんだろ? 真実を。

1-B-AAというコードが打たれた、そのデータの中の顔写真に写る少女の姿は間違いなく、インに他ならなかった。

その情報が確証が取れるかどうかは半信半疑ではある。だけど。
CBによって超人機関その物が壊滅されたのは揺るぎの無い、紛れもない事実だ。実際、隠蔽されていた超兵機関は、既に存在しない。

イン、君はいま何処に居るんだ。目標が無くなってしまったよ。俺はこれから何のために、生きていけばいい。
君と会いたくて、君を助け出したくて、俺はここまで自分を投げ捨てて、軍人として生きていこうとしていたのに。
君は何で俺に助けを求めたんだ。どうして俺に感謝したんだ。謝ったんだ。どうして君は……。君は、俺にどうして欲しかったんだ。



敵って、どこにいるんですか?



インはノートにそう綴っていた。

敵、そうか、インはどこぞの敵を殺す為だけに生かされ、人生を弄くられてきたんだ。
それがインが抱える存在意義だった、彼女はそうする事でしか、生きていけなかったんだ。なら、ならば。

イン、俺は君を苦しめようとする、その敵を一人残らず滅ぼすよ。そうすれば君と同じ様に、戦う事を強制され、挙句人生を潰される子供がいなくなる。
例え一兵士に過ぎなくとも、一人でも、二人でも救えりゃそれで構わない。インと同じ存在を一人でも生み出しちゃいけない。
そう思うと俺の中で新たな目標が確立されていった。イン、分かったよ。俺は、君の分まで生きぬく。

君という存在を生み出した敵、その物を根絶やしにするまで。

1年後。俺はある高層ホテルの事務所で、似合いもしないホテルマンのスーツに着替えていた。無論俺はホテルマンになった訳ではない。
これは目的を隠す為のカモフラージュ、言わば変装だ。傍らのアタッシュケースには今回の任務を遂行する為に仕事道具が入っている。
柔らかなクッションに収められているそれを取り出す。

取りだしてグリップを握る。ひやりとした冷たい感触に、不思議と俺の気持ちは穏やかな気分になっていく。その道具の先端に、ある道具を取り付ける。
さらに道具自体を隠す為に、右腕に白い布を被せ、左手にアタッシュケースを持ち、エレベーターに乗り込む。3……8……10……15。到着。

エレベーターのドアが開いて、俺は目的の部屋へと早歩きで急ぐ。考える事は一つだ。ドアを開けたら、撃つ。
心臓に恐怖は感じない。むしろ吐き気を催す程の高揚感をひしひしと感じる。俺はこれから初めて、自分自身の手で人を殺す。
302号室303号室30430530630730830931

310号室。目的地に着いた。息を潜めて、胸元からハッキングによって作られた偽造のカードをキ―に通す。

水面の様に張り詰めた緊張感の下、俺は、310号室のドアを一気に開くと同時に、右腕の布を取った。

部屋の奥では、ホテルマンを変装した俺の姿に驚いた標的が、驚嘆で瞳孔を大きく見開き、口を開けた。
アタッシュケースを落として左手でドアを閉め、俺は標的の右足を狙いに定めて、握っている拳銃を発砲する。音はしない。サプレッサーを着用しているから。
標的は予想だにしない痛みに、ふんぞり返っていたイスから転げ落ちた。俺は音も無く近づき、撃ち抜いた右足を思いっきり踏みつける。
耐えがたい苦痛と屈辱に、標的が呻き声を上げて顔を歪めた。良いぞ、その顔。最高に爽快な気分だ。

「貴……様……何者だ!」
「メイラン・カッポ。貴様を静粛する。公正なる権限の名の元に」

間髪入れずに、左足を撃ち抜く。床のシックで麗しい模様のカーペットが、コイツの汚らわしい血に侵されるのは見ていて実に不愉快この上ない。
次に右腕、そして左腕を打ち、身動きが取れない様にする。弾は余裕で残っている。良い顔だな、メイラン。素晴らしいぞ、その絶望に満ちた表情。

メイラン・カッポ。忘れもしない、インを連れていこうとした、紫色のスーツと帽子の男。
その実体は超人機関の運用に深く携わっていた人間の一人であり、「かつて」の人革連での役職は准将。
表向きはさぞ立派な軍人面だったんだろうが、裏じゃビジネスとしてインを含めた子供達を、超兵として育て……否、開発していった。
しかし正直に言えば憎くて仕方がないが、あのCB共が起こした破壊行為によって、コイツの私腹を肥やしていた超人機関の存在が露わになった。

だが、コイツは巧妙にかつ老獪に、かつて自らが超人機関に関わっていたという事実を隠した。金と権力を使って。
あまつさえ、その役職を使いCB壊滅後、世界が統合され連邦軍として形を変えた時、ゴキブリみたいにしぶとく居座り営利を貪り続けた。
しかしコイツの存在は、連邦内で新たに発足された組織にとっては役職に居座るコイツ含めた老人達……いや、老害達は目の上のたんこぶとなった。
コイツ自身は、その組織にも媚びれると思ってた様だが――――――――生憎、お前の存在はこちらにとって不必要だった。

「権……限……? 私を、誰だと思って……!」
「貴様が私腹を満たせたのは、連邦軍に所属していたからに他ならない。だが、貴様が知っているは連邦軍は死んだ」
「貴様、何を、言って……!」

メイランの額にサプレッサーを突き付ける。心が満たされていく。強者と言うなのを愚者を、いたぶる事によって。

「我々の名は独立治安維持部隊、アロウズ。連邦に代わる、新たなる正義の執行者」

握っている拳銃を放り、ズボンからナックル代わりの指輪を嵌める。この指輪は、コイツの自宅から押収した物だ。
変装の為に借りたスーツを汚す訳にはいかない。俺はスーツを脱いで下着姿になり。メイランの上に馬乗りになる。そして。

「メイラン・カッポ。貴様の存在は―――――――――」

「アロウズには、不要だ」

殴る。殴る。鼻も頬も耳も目もメイランの顔のパーツと言うパーツを変形するまで殴り続ける。ここまで人間の顔って滅茶苦茶になるのかと感心する。
だがメイラン、貴様の受けている苦しみは、インを含めた、お前の欲望の為に人生を弄られ続けた子供達の痛みに比べれば何でも無い。
時間の感覚が無くなっていく。俺の下着はすっかりコイツの汚い血で真っ赤に変色している。くそ、存在自体が迷惑だってのに本当に屑だな、コイツは。
手が痺れてきた。肉は削げるが骨はやはり固い。ていうか誰だコイツ。殴られ過ぎて顔が分かんなくなっちゃったな。まぁ、良いか。

全ての指輪を取り外して叩き付ける。拳銃を拾い上げて、額に当てる。もう意識と言うか何も聞こえないし何も見えないだろうが、一応言っておこう。

「それとお前の家族も処分しておいた。悪しき芽は全て刈り取らないとな」

一瞬俺の言葉を聞いてメイランの眼球が動いた気がするが、俺の銃撃の方が早かった。
メイランの頭部から吐き出された血が、歪な模様をカーペットに描く。これからこれを掃除しないといけない人達の事を思うと、心から気の毒になる。

ついでにシャワーを浴びて、汚れを流し落とす。アタッシュケースには着替えが入っているから、別に心配無い。

と、ケース内の携帯電話が鳴った。シャワーを止めて体を拭きながらケースを開け、取り出す。

「私だ。メイランの始末は付いたのか?」

「只今遂行いたしました。この折は是非とも。グッドマン准将」

「ふん。まぁなるたけCBと前線で戦える部隊に配属させてやる。せいぜい役に立て。セレウェイ・ブルース」


「有難う、ございます」


それから先は覚えてない。正式にアロウズ――――――――言うなれば連邦軍以上の権限を持ちうる軍隊に配備された俺は、敵を倒す為に課された任務をひたすらこなした。
アロウズに対し反旗を企てる反政府組織、カタロンと言ったか。それに対して一切の容赦はせず、巣という巣に火を点ける。慌てて出てきた所を銃で撃つ。
組織の中には10代にも満たない子供もいたが、後に反抗分子になる危険性を考慮して非常に胸が痛いものの纏めて殺した。
それもこれも、この世界を混乱させ、歪みを生じさせたCBの存在が悪いのだ。奴らの存在は悪、その物だ。

しかし幾らそいつらを焙りだしても、肝心のCBについては出てきやしなかった。たまにスクラップ寸前の奇妙な機体に乗り、アヘッドを討伐している変人の話を聞く位だ。
それから何の変化も無いカタロン討伐に精を出し続けて2年。丁度、CBが来襲してきてから4年後の―――――――――。



―――――――――――――――――――――2312年。

ようやく、CBが本格的に始動し始めた。俺の心は些か時めいたさ。
何故なら機体が捕獲されて幽閉されていた、インを殺したガンダム、キュリオスガンダムのパイロット、アレルヤ・ハプティズムをこの手で殺せるんだからな。
だがグッドマンはあろう事かライセンス持ちと名乗る訳の分からない連中を戦線に参入させやがった。
結果、俺は奴らの尻拭いとして雑魚を狩る役割ばかりを与えられている。ガンダムと戦えるのは奴らか、実力はあるんだろうが生意気なエリートパイロットばかり。

次第に俺のストレスは貯まりに貯まってきた。目の前に殺したくて堪らない相手が居るのに、他の奴らに堂々と横取りされる歯痒さ。
これではインに対して申し訳が経たない。俺は死にたくなってきた。だが、カタロンを潰す事で少しでも敵を減らせるなら、構いやしないさ。
そんな日、アロウズにたてつく連邦の雑種共があろう事か軌道エレベーターの占拠によるクーデターを企てた。

カタロンとCBが加担している事が判明し、配備されたものの、どうせガンダムを倒す事などできない。
そう考えるとやる気など毛頭出なかったが、何故だか俺はMSではなく、軌道エレベーター内に潜入しての首謀者、ないし幹部の確保の名を受けた。
不思議に思っていると、グッドマンは俺を呼び寄せ、ある名簿を見せた。

「このリスト内の名をよく見てみろ。貴様の旧友が居る筈だ」

旧友? そう思いながら見――――――――――――――。



最初に、戻る。もう、視界は真っ暗だ。

俺は、聞きたかった。あの日以来、俺と拓馬は完全に袂を分かった。いや、拓馬も拓馬の家族も何も言わずに、俺の隣から姿を消した。
俺はどうしても、聞いてみたかった。どうしてあの時、インを連れ戻したのか。どうして、俺に味方してくれなかったのか。
分かってはいる。分かってはいるが、理解できない、理解しえない事がある。俺は……。

俺は……お前に着いてきて……欲しかったんだ、拓馬。

親友として、俺の馬鹿で無鉄砲で、どうしようもない、そんな俺に呆れながらも、同調して欲しかった。俺は……。

「勇気が……無かったんだ」

「今更詫びてもどうしようもない事は分かってる。けど……あの時の俺は、インよりも……俺自身の夢が、大事だったんだ」

分かってる。……分かってるよ。

「ホントの事を言えば……ヴェントさんがインの事を内通してた事も薄々感じてた」

あぁ……そうだろうな……。俺が……馬鹿みたいにお人よし……だっただけだ。

「……あの後、俺、いや、俺の家族は軍の手引で、高級な避暑地に引っ越したんだ。正確には引っ越しさせられたかな。
 多分お前と同じく、奴らにとっては小金程度の小切手と、適当な理由を付けて。
 だけど俺は、どうしても奴らが許せなかった。インの事をあからさまに隠そうとする奴らの事が」

そうか……それで……カタロンに……入ったのか……。

「知れば知るほど、超人機関から続く人革連……いや、腐敗した上層部の内情が分かってきてな。俺は憤りを感じたよ。この世界は歪んでる。どうしようもなくな」

「だけどその歪みを破壊し、正す存在が現われた。それが、ソレスタル・ビーイングだった。
 俺は彼らの事を調査する内に、彼らが世界を変え得るために必要な存在だと確信したんだ。
 裏で糸を引く連中に仇名し、大義の名の元に弱気を助け強きを挫く。……彼らがいなければ、世界は今以上に混沌と化していたと思う」

「セレウェイ、知っているかは知らないけど、お前が恨んでいるであろう、アレルヤ・ハプティズム」

「彼はかつて、超人機関の実験体だったんだ。インと同じ様にね」

……何、だって? そんな事……知らなっ……かった……。

「彼は自分の中の呵責に苛まれながらも、自分と同じ末路を送ると考えた子供達を建物ごと、この世から消し去った。傍から見れば大量殺人に他ならないだろう。」

「けどな、かつての同胞を自分の手で皆殺しにする。そう考えながらも、彼は彼彼女を救う為に、そうするしかないと考えた。きっとそうだと思う」

それじゃあ……俺が……やってきた事は……全部……。

「……セレウェイ、インが……インが、お前に望んでたのは……」


「……お前に、戦場で人を殺して仇を討つ事じゃない」

「自分の分まで普通に生きて、普通に生活して、普通に……幸せになって欲しかったんだよ。彼女は、お前が幸せになる事を、望んでたんだ」


……拓馬……俺、何やってきたんだろうな。この手で俺……沢山、沢山殺しちゃったよ。
男も女も、子供も老人も、敵だと思ったら皆皆、分け隔てなく殺しちまった。なぁ、拓馬。
敵って、どこにいんだろうな。俺の敵って誰だ? 拓馬、拓馬!

何も見えない、拓馬、お前の姿がどこにも見えない。俺を一人にしないでくれ。
頼む、拓馬。俺は何の為に人を殺したんだ? 教えてくれよ、拓馬……。

「かく……」

消えてしまいそうな意識の中、俺は喉から直接声を出す。これが恐らく、俺の、最後の――――――――――――――。

「かくのうこ……おれの……アヘッド……」

「おそらく……のれ……る……のって……にげ……ろ」


音も途絶えた。何も見えず、何も聞こえず、感覚は死に、真っ暗闇の、無。
俺の体はその空間で何をする訳でも無く、漂っていた。いや……朧げながら小さな光が見える。
俺はその光に向かって歩き出した。地面に足が付く。段々、光に包まれて―――――――――――――。

『こちらβ部隊、セレウェイ・ブルース、応答せよ。セレウェイ・ブルース』

『先程代表幹部の一人、拓馬・フォレイリを拘束したが抵抗した為発砲。
 やむを得ず射殺した。そちらに負傷は無いかを確認したい。応答せよ、セレウェイ・ブルース』






「なぁ、拓馬」
「何だよ、セレウェイ」

「お前の将来の夢って何?」
「何だよ藪から棒に。俺は技術者だな。世界中のMSを修理して回収して、俺特製のMSを作るんだ!」
「へーすげえな。つっても僕達みたいな小学生じゃ、せいぜいプラモくらいだけど」
「お前馬鹿にすんなよ! これでも親父の手伝いして、マジでMSとか作るんだかんな、俺。じゃあセレウェイ、お前の夢はなんだよ」

「僕の夢? 僕の夢は……」

「正義の味方かな。困ってる人達を助けたい。翼とかマントとか生やして、こう、ビューンと」
「じゃあMSで飛べばよくね?」
「それじゃあ正義の味方っぽくないじゃん! やっぱスーパーマンみたいに」
「分かった分かった。何か腹減ったな。俺んち来るか?」

「うん。あ、待って。何か泣いてる女の子が居る」
「そんなのほっとけよー……っていお―い、置いてくなって!」

「君、大丈夫? 名前は言える?」
「私……私は……」


「アン・レインズ」
「アンか、僕の名前はセレウェイ」



「セレウェイ・ブルース。どこかで、会った事無い?」

                         原作 機動戦士ガンダム00/セカンドシーズン




                               影を、掴んで


                                 了











                           貴方 の 夢 は 何 ですか?

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